【コラム/11月14日】米国におけるデータセンター急増が突きつける系統と環境の課題

2025年11月14日

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

前々回のコラム(2025年9月12日)で、最近、米国東部の地域系統運用者であるPJMの管轄地域において、電気料金が大幅に上昇していることを取り上げた。その背景には、AI技術の急速な普及やデータセンターの新増設に伴う電力需要の急増がある。一方で、老朽化した火力発電所の閉鎖や、再生可能エネルギー電源の系統接続の遅れなどにより、供給力が需要の増加に追いついていない。さらに、こうした状況を受けて、PJMの容量市場における約定価格も高騰していることを指摘した。しかし、データセンター急増に伴う問題は、電力価格や電気料金の上昇にとどまらない。本コラムは、この点を掘り下げてみたい。

米国で争点となっているのは、まず、データセンターの増大に伴うインフラコストの増大は誰が負担するのかという問題である。米国の電力系統は老朽化が進んでおり、いずれにせよ一定の増強・更新は避けられない。しかし、AIの急速な普及やデータセンターの急増によって生じる想定を超えた規模とスピードでのインフラ整備が必要となっている現状では、その追加的なコストまで従来通り全需要家が等しく負担すべきかどうかが、改めて問われている。

データセンターの建設は、通常1年半から3年程度と比較的短期間で完了し、その間には一定の雇用を生むものの、長期的な雇用効果は限定的である。さらに、電力系統の増強が行われた場合、その設備が将来的にストランデットコスト(回収不能な投資)となる可能性があっても、住宅需要家を含むすべての需要家がその費用を等しく負担しなければならない。こうした状況の中で、AIバブルがいつ弾けても不思議ではないという懸念も根強い。米国の主要テクノロジー企業は、AI開発競争に今年すでに1,550億ドルを投じており、来年は4,000億ドルを超える設備投資を行う予定とのことである(ガーディアン、2025年8月2日)。しかし、MITの調査報告(2025年7月)によれば、生成AIに投資する企業の95%は、何らのリターンも得ていないという。

また、環境面への影響も争点となっている。データセンターは、比較的土地の取得費用が安い農村地域や低所得者層地域に設置される傾向にあるが、これらの地域における環境汚染が懸念されている。例えば、オンサイトの天然ガス火力発電による大気汚染、建設工事の騒音、貴重な水資源の大量利用、土地利用の変化などにより、地域に負の外部コストが発生する可能性がある。

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