【コラム/11月14日】米国におけるデータセンター急増が突きつける系統と環境の課題

2025年11月14日

このため、米国では、複数の州で大規模データセンターの立地に伴う電力系統の増強コストに関して、新たな配分ルールを制定したり、データセンターの拡張が環境に与える影響を監視する動きが広がっている。テキサス州では、2025年6月に成立した法律(SB6)で、75MW以上の負荷をもつ大規模需要家(データセンター、暗号通貨マイニング事業など)に対して電力系統への接続に伴う費用の合理的な負担が義務づけられ、接続申請時には一定額の調査費用(10万ドル)の支払いが求められるようになった。カリフォルニア州では、2025年9月に成立したSB 57で、公益事業委員会(PUC)に対して、データセンター向けの特別な料金体系を策定し、他の料金支払者へのコスト転嫁を防ぐとともに、データセンターのために行われる電力系統への投資については、その費用が完全に回収されるようにすることが義務づけられた。また同法では、PUCが特別料金制度の対象需要家に対して、ゼロカーボンで発電された敷地内電力を使用することを認める権限が与えられた。

このほか、ジョージア州、オハイオ州、サウスカロライナ州、ニュージャージー州などでも、特別料金の設定などを通じて大規模データセンターの建設に伴うインフラコストが住宅需要家などに転嫁されるのを防ぐ動きが進んでいる。さらに、環境への負の影響を軽減する動きもある。ミネソタ州では、大規模データセンターに対する厳格な水使用許可を導入し、環境監視を強化する法案(HF3007)が提出されている。またオレゴン州では、データセンターに対して、水・電力使用量の報告義務を課す法案(HB 3698)が審議中である。

このように、米国では、大規模なデータセンターの建設が急増する中、電力価格や電気料金の高騰、インフラ整備にかかる費用の分担、さらには環境への影響など、さまざまな分野に波紋が広がっている。仮に今後、 AIバブルが崩壊するようなことがあれば、回収できない投資、高止まりする電気料金、環境への爪痕など社会に大きな負担として残るおそれもある。米国の動向を参考にしつつ、わが国でも長期的な視点に立ち、持続可能で柔軟性のあるインフラ整備を進めていくことが求められるだろう。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

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