【コラム/11月21日】“食欲の秋”ならぬ“制度設計の旺盛な秋”
また、当面の供給力確保には、LNG火力の維持・活用や、一般送配電事業者が系統運用上必要な電源の確保といった脱炭素電源以外の課題もある。火力発電を保有する発電事業者にとって、休廃止や、排出量取引制度を見越した水素等のゼロエミ火力へのシフトや運用制御の計画に影響が出る。立地地域との調整もあるため、早めの判断が欲しいところだろう。
系統の増強については、地域間連系線と地内基幹系統を軸に検討が進められている。こちらは、電源同様に資金調達における後押しに加えて、託送料金での回収の蓋然性を高める必要がある。そのため全国調整スキームの前倒し運用も検討されているが、託送料金を支払う小売電気事業者、その先の需要家にとってコスト増になる可能性は否定できない。その分、市場分断の解消や再エネ電源の最大限活用、停電量の低減といった効果が上回れば、将来に必要なコストとして受け入れることもできる。そのため、丁寧な説明を行い、理解を得る必要がある。また、2023年3月に出された広域連系系統のマスタープランも、実態と乖離する部分が出てきていることから、最適な系統形成・運用に資する見直しを行うべきだろう。
小売電気事業については、このワーキンググループの議論で最も注目度が高いテーマが含まれている。それは新たに量的(kW時)な供給力確保義務と中長期取引市場の創設である。現行の容量拠出金支払いによるkW確保義務に加えて、kW時の確保まで負うことを求めるものだが、目的として、需要家に対する安定・継続した電力供給と電気料金の急激な変動の抑制、スポットへの過度な依存の低減(スポット市場の存在自体は否定していない)となっている。だが、自由な料金メニュー設定(例:市場連動メニュー)ができなくなる恐れや電源調達ポートフォリオの見直しといった影響が出るとの意見もある。
現時点の議論では、意見を踏まえて目的を改めて確認し、今後、電力先物の評価の在り方や市場連動メニューを対象外とするといった個別テーマの議論を行う予定となっている。中長期取引市場については、「広く参照可能で適正かつ安定的な価格指標」を形成し、広く小売電気事業者が参加可能な市場という基本的な考え方の下、上述したkW時確保義務と整合する形で詳細設計が進められている。既存の相対卸売やベースロード市場、先渡し市場、先物取引、容量市場といった取引がある中で、統廃合も含め、いかに事業者が有用に使える市場となるかが論点となるだろう。この2つの施策については、小売電気事業者も影響が非常に大きいとみて、事業者間での意見交換や議論を活発に進めているとの声も聞こえる。
小売電気事業については、他に経過措置料金の解除に向けた議論もあるが、まだ11月初旬の時点では論点出しの段階であり、具体的な見直しについては着手されていない。論点となるのは、解除基準のうちの「競争圧力」の扱いである。現行では「シェア5%以上を持つ独立した有力な競争者が、区域内に2者以上存在すること」を条件としているが、この内容を見直すかどうかという点が焦点となる。また、一般送配電事業者による最終保障供給の対応や、解除ができない状況下での燃料費調整制度の上限価格撤廃あるいは柔軟な見直しを可能とする環境整備も論点として挙げられる。


