組織改変し総合エネルギー企業へ本腰 産業向け最適ソリューションを強化
【ニチガス】
LPガス大手のニチガスが販売力の強化や顧客との接点拡充に注力している。
家庭用に強みを持つ同社はソリューションを切り口にした産業用や業務用営業を強化している。
昨今、需要家からの脱炭素やBCP(事業継続計画)など多様なニーズの高まりを背景に、エネルギー業界のとりわけ法人向けの営業部門では、ソリューション営業に力を入れるケースが増えている。
ガスや電気を右から左へ安価で安定的に供給するこれまでのビジネスモデルとは異なり、「CO2オフセットのガス」「再生可能エネルギー電気」「デマンドレスポンスに対応した供給スキーム」「コージェネやGHPを組み合わせたBCP」「電気、ガスのセット販売」やこれらを組み合わせたプランなど、ユーザーが求める多様なエネルギーのニーズに応えていく必要が生まれている。
そうした中、ニチガスはLPガス、都市ガス、電気を扱う総合エネルギー企業としての強みを生かし、エネルギー利用の最適化を進めている。

需要家からの多様なニーズ 組織力高めて本格対応
これまでは多様なニーズに対して、各支店や北日本ガス(栃木)、東彩ガス(埼玉)、東日本ガス(千葉、茨城)のグループ都市ガス会社が各エリアで応じていたが、今後は戦略的に進めようと、昨年1月に組織を再編。都市ガス会社の導管事業をエナジー宇宙社へと集約し、同社内に営業部ソリューション課を新設した。その翌年には、ニチガス社内に、従来からある電気料金メニューの企画立案や小売販売用の電力の調達を担う電力事業部に加え、大口ユーザー向けの産業用営業部を設置した。
つまりニチガス本体とエナジー宇宙で、LPガス、都市ガス、電気それぞれの専門知識を持つ人材が連携し、ガスと電気を組み合わせた最適なソリューション提案を進めていく体制を構築したわけだ。
「これまでは担当地域のお客さまに対し各拠点単位で対応してきたが、今後は、まずは産業用営業部で全社的に対応することで、知見やノウハウを集約して積み上げ、より高度なソリューション提案と人材のさらなる育成につなげていきたい」と、電力事業部長の清水靖博執行役員は説明する。
具体的に、ニチガスとエナジー宇宙はどのようなソリューションを展開するのか。
まずニチガス産業用営業部では、ガス(都市ガス・LPガス)を軸にしたエネルギー利用の最適化や低炭素化に資する提案を進める。エリア内の病院や食品工場、製造工場などを対象に、ガスへの燃料転換やそれに付随したBCP強化のためのコージェネやGHP導入、クレジットを活用したカーボンオフセットガスの販売、さらには電気とのセット販売などを進めていく。
小倉悟産業用営業部長は、「燃料転換は相当に進んでいるが、まだ将来的に需要増加が見込めるエリアがある」とした上で、「お客さまの設備更新のタイミングやガスへの要望を見極めながら導管延伸を視野に入れてガスへの転換を図っていく。とりわけ脱炭素に資するオフセットガスについては内需向け工場か外需向けか、あるいは自治体ごとにお客さまが求める中身が若干異なる。いずれにしても脱炭素へのニーズが高まっているので吟味して対応していきたい」と戦略を語る。
ニチガスのソリューションでは、東京電力エナジーパートナー(EP)とも連携していることがポイントの一つ。オフセットガスは東電EPが調達したJクレジットを活用するなど、都市ガス供給面でも協調する。
「エネルギーサービスも含めたさまざまなソリューションのノウハウを持つ東電グループの知見を得ながら、お客さまとの関係を築いていきたい」(清水執行役員)
蓄電池を戦略的商材に 販売から施工の一貫体制
ガス以外の商材にも力を入れるのがエナジー宇宙だ。戦略的に扱う商材の一つが蓄電池。再エネとの親和性が高く、今後のZEHやZEB時代には欠かせなくなるアイテムである。将来の脱炭素社会を見据え、ニチガスは蓄電池の国産メーカー、パワーエックス社に出資しており、蓄電池販売を進めている。このパワーエックス社には東北電力、四国電力、電源開発、東邦ガス、石油資源開発など大手エネルギー事業者が将来性を期待して出資しており、コスト競争力のある蓄電池メーカーとして認知されつつある。
エナジー宇宙は、そんなパワーエックス社製蓄電池の認定販売施工会社であり、全国で50社近くあるうちの一社である。販売だけでなく、自社グループで施工も手掛けるなど蓄電池ソリューションに力を入れる。
「一般的には蓄電池と太陽光を併設するだけのソリューションで終わらせるケースが多い。当社ではお客さまの年間の電力量(デマンド値)やガス、油など他のエネルギー全般の利用状況を確認しながらベストミックスを訴求している。その中で最適に充放電するような設備容量を見極めて蓄電池ソリューションを模索している。再エネや省エネ設備の販売から施工までを一貫体制で任せていただきたい」とエナジー宇宙営業部の前山栄太エネルギーソリューション課上席課長は力を込める。
さらに同社が思い描く将来のソリューションが、蓄電池を活用するマイクログリッドだ。同社は今、簡易ガスエリアでのスマートシティの構築を目指している。学識者と協力して、需要規模や蓄電池の容量を確認しながらブラックアウトスタート時の蓄電池の技術的な挙動を検証している。
これまでに進められてきたエネルギー自由化政策巡っては、需要家の多様なニーズを生み出し、それに応えるために多様なソリューションを提案しているエネルギー事業者の奔走がある。大手電力や大手都市ガスだけでなく、LPガス販売を生業としてきたニチガスも、電気やガスを扱う総合エネルギー企業としてその「奔走集団」に本格的に加わってきている。特定の供給源に縛られない、ガスと電気を組み合わせた最適ソリューションを提供できる強みを生かし、ニチガスは加速する。


