【コラム/12月11日】ETS導入は延期すべき GXはDXに転進を

2025年12月11日

 

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

経済産業省は排出量取引制度(ETS)の設計を進めている。来年度4月の施行に向けてということだが、ドタバタで排出量の割当などの制度の細則を定めようとしている。だが、性急なことは止め、ETSの導入は1年、延期すべきである。その間に、根本的な問題を抱えるGX(グリーントランスフォーメーション)について抜本的な再検討をすべきだ。

経産省はこの制度の害毒をよく理解しないまま導入を決定した。だが細則を企業と議論しているうちに、この制度の害がいかに大きいか、政府の担当官は思い知らされることになった。

石炭火力発電や、エネルギー集約産業である製鉄、セメント、石油化学などは、この制度が導入されれば、もはや新規の設備投資は行わないであろう。既存の設備についても、維持費すら支払わず、生産が縮小していくことは必定である。排出枠を買ってしまえば利益など吹き飛んでしまうから、生産を止めてしまう方が合理的になる。

政府の担当官の説明はまるで高利貸しようだ。少なくとも最初の年はほぼグラウンドファザリングになる、つまり排出量に応じて排出枠が与えられることになり、経済的な負荷は生じないという説明である。その一方で、排出枠は年々削られていく。そしてその先には、2030年46%、40年73%、50年100%という国のCO2削減目標が控えている。本当に実施するかは別として、ひとたび制度が導入されれば、何時排出枠を絞られ、経済的なペナルティが致命的になるか分からない。このように制度的不確実性が高い中では、当然日本国内に設備投資を行う企業など無くなる。もしもそのような資金があれば、インドなり米国なり、どこかに設備投資をした方がよほど合理的である。

これらの重厚長大産業は、日本の地域経済を支えており、また多くの雇用を生んでいる。一つ大きな工場が止まるということは、その周りにある多数の中小企業が潰れることを意味し、街全体の経済が沈むことを意味する。かかる経済的な自滅を、なぜ経産省が推進するのであろうか。

政府はグリーン経済で成長する、などということを言っている。だがそんなことは起きない。太陽光発電や風力発電を導入しても、電気料金は高騰するばかりである。三菱商事グループが洋上風力から撤退して再入札が行われるようだが、価格は極めて高くなる見通しだ。また火力発電についてはCCS(CO2回収・貯留)、水素、アンモニアなどを導入すればよいというが、これで発電をすれば既存の石炭火力やLNG火力発電に比べてコストが2~3倍、あるいはそれ以上するものばかりだ。海外の水素プロジェクトは今まさに次々に頓挫している。こんなことは初めから専門家には分かっていたことだが、ようやく、経産省の担当官も思い知るようになった。

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