【コラム/1月7日】「働いて働いて」を考える~借金漬け経済の打開となるか

2026年1月7日

飯倉 穣/エコノミスト

1、経済に処方箋は

2025年日本経済は、輸出横ばい、設備投資微増、生産一進一退で、実質GDP伸び率0~1%程度である。2026年も外的ショック等の影響がなければ、大凡現水準維持であろう。沈滞の平成・令和の延長線の状況に、停滞経済を嘆く向きも多い。そして政権交代の度に、その打開を図るべく政治の掛け声が響き経済対策が打ち出されて来た。

高市政権発足後、早速物価高対策・成長期待で経済対策策定があった(25年11月21日)。「強い経済」を実現する総合経済対策(事業規模42.8兆円、国費等21.3兆円)」は、日本と日本人の底力で不安を希望に変えるという。そして25年度一般会計補正予算第1号(11月28日)は、歳出18.3兆円(歳入の公債金11.6兆円)を決めた。補正後歳出規模は、当初予算の16%増に達する。 

報道もあった。「18兆円補正案閣議決定新規国債11兆円物価対策・成長投資」(朝日11月29日)、「大型補正、市場の信認問う 総額18.3兆円を閣議決定 遠のく基礎収支黒字化」(日経同)。

この経済対策の意味を問う声もあった。これまでの経済対策は、過去日本経済の健全化に寄与せず、財政赤字継続と公的債務残高の累増をもたらし、且つ経済格差(21年相対的貧困率15.4%)を助長した。1億総中流の時代は遠い過去となり、社会的に1億総不満の時代を招来している。

マンネリ化する経済対策を変え、将来の日本経済に健全化をもたらす政策形成を何故出来ないのか。高市総理の言葉をヒントに考える。


2、政治の言葉は力強いが、中身がなければ馬脚を露す

日本経済は、どんな不安を抱えているのか。自然災害を別扱いとすれば、一昨年来の賃上げ・円安・便乗値上げによる物価上昇継続(企業は儲けているが)、トランプ相互関税による輸出の揺らぎ、存立危機事態発言を契機とした中国の対日経済制裁の影響、財政破綻状況で国債増発の金融市場動向、ビットコイン・株式等金融資産に内在する投機マネー膨張のリスク、そして実物経済面では再エネ手詰まり・エネルギー供給の不透明さなどである。

このうち外的ショック要因(輸出減等)は国内経済に様々な調整を迫るが、金融問題を除き発生時に縮小均衡調整を含めた経済政策で対処せざるをえない。つまり外的環境への適応に伴う痛みはやむを得ないと諦めざるを得ない。

外的要因と違い、国内問題は、人々に将来の期待と確信をもたらす筋道を示すことが重要である。例えば財政赤字問題なら、出来ぬ成長期待で先延ばしでなく、歳出減・歳入増の方針と適正な負担のあり方を示し、少しでも改善に努力することである。またエネルギー供給確保なら国民受容で原子力発電開発等の推進となる。大切なことは経済の担い手は、国民であることの自覚である。その際、政治の言葉が重みを持つことが多い。

先行き不透明の中、時代が求めたのか、久しく耳にしない言葉を聞いた。発表があった。「流行語大賞 働いて働いて働いて働いて働いてまいります/女性首相」(朝日12月2日)。「流行語大賞に「働いて×5」高市氏、「女性首相」とダブルで」(日経同)、政府が、中身を伴う的確な政策を、心に響く言葉で訴えることが出来たら、人々は前向きに取り組める。内容がなければ騙しとなる。このような見方で過去を振り返れば、「政治主導」、「改革なくして成長なし」、「脱デフレ・経済再生」、「日本再興戦略~Japan is Back」、「アベノミクス」、「新しい資本主義」等々の言葉を思い出す。それらの言葉から飛び出した各政権の政策は、現実直視なくかつ熟慮に欠け、いずれも金のばらまきか空ろに終わった。

今回はどうだろうか。発した人の意図は理解していないが、その言葉の響きは、必死であり、何か危機を乗り越えたい強い意志を感じさせた。経済再生を目指す暗中模索の下で、この言葉から次の25年間(21世紀第2四半期)の経済を支える知恵と妙案は生まれるだろうか。もし生まれないとしたら、抑もこの国の知的基盤が欠損している可能性が高い。


3、 思い出す言葉~米国の経済停滞時期に

米国は、1980年代に経済運営の問題があり、レーガノミクスの破綻と日本の追い上げ等で90年代初め経済停滞を招来した(91年実質GDP△0.2%減)。ビッグスリー等産業の衰退が目立った。建国以降初めて次世代が現世代より貧しくなる危機感が喧伝された。米国をどう復活するか。先行き不透明な下、当時ある言葉が、知識人に米国経済再建の可能性を想起させた。 

ヘンリー・ロゾフスキー・ハーバード大学教授の発言である。製造業等の産業がダメになっても大丈夫。米国は復活可能である。「アメリカの大学は、アメリカの中で最も競争力のある産業」(青木昌彦「スタンフォードと京都のあいだで」91年6月)であると、大学が米国復活の鍵と指摘した。後日ドルー・ギルピン・ファウスト・ハーバード大学学長も米国大学の競争力で、同趣旨の質問を肯定していた(日本記者クラブ会見10年3月15日)。

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