【時流潮流/12月19日】韓国の原潜導入を巡る紆余曲折 米国と激しい駆け引き
韓国が原子力潜水艦の保有国になる可能性が出てきた。今まで難色を示してきた米国が、ゴーサインを出した。ただ、原潜の建造場所や核燃料などを巡り米韓両国の思惑には違いが目立つ。実現までに紆余曲折が予想される。

韓国は約30年前から原潜計画に着手した。以後、計画は浮かんでは消えを繰り返してきた。原潜保有が実現すれば、世界で8カ国目、核兵器を保有しない国としては豪州、ブラジルに次ぐ国となる。
造船大国の韓国は、今年10月にも新型の潜水艦を進水させるなど、建造実績がある。原子炉も輸出するなど主力ビジネスに育っている。原潜保有の残る課題は核燃料だけで、濃縮度19.75%の低濃縮ウランの供給を米国に要請してきた。
だが米国は、原潜導入は核兵器開発の「入り口」になる可能性があると警戒。核燃料提供だけでなく、原潜導入に難色を示してきた。
転機が訪れたのは10月末だ。韓国の李在明大統領は、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合出席のため訪韓したトランプ米大統領との会談で勝負をかけた。
北朝鮮や中国の潜水艦を追跡するには、韓国が保有するディーゼル潜水艦では「限界がある」と訴え、原潜を導入できれば「米国の負担も減る」とたたみかけた。
実は、これまで韓国は米国や日本などが実施する中国原潜の監視・追跡活動に参加した実績はない。李氏はトランプ氏の関心を買おうと、発言を「盛った」ようだ。
造船や核燃料ですれ違う米韓の思惑
トランプ氏は韓国の原潜保有を認めた。ただ、建造は韓国企業が昨年買収した米東部ペンシルベニア州ピッツバーグにある造船所が担当するとSNSに投稿した。米国は造船業を立て直し中だ。少なくとも4隻と見込まれる韓国の原潜を建造すれば、雇用確保にもつながる。トランプ氏にとってこれは譲れない一線と言える。
自国での建造を計画していた韓国はこの投稿内容に慌てた。ピッツバーグ造船所は原潜建造の実績がなく、技術者や熟練工の確保や施設整備が必要となる。さらに、輸出許可や米議会の承認など手続きが増え、30年代半ばに予定する就役が危うくなる。
原潜に使う核燃料を巡っても米韓両国の思惑はすれ違う。合意文書には、原潜計画と関連づけられていないものの、韓国企業2社が米中部オハイオ州にある米企業のウラン濃縮施設に出資すると記されている。
米国は、ロシア製濃縮ウランをこれまで大量に購入してきたが、ウクライナ戦争を受けて脱ロシアに路線を転換、自国でのウラン濃縮拡大に取り組んでいる。韓国の原潜計画を「渡りに船」と活用し、濃縮事業拡充と雇用増を同時に達成しようという思惑が透ける。造船と同じ構図と言え、トランプ氏のしたたかさを感じる。
一方、韓国にはこれまで米国に禁じられてきたウラン濃縮を、自国で始めたいとの思いが強い。今後、普及が見込まれる小型原子炉(SMR)の開発も手がけており、この炉で使うHALEWを自国で製造できればビジネスチャンスもさらに広がるからだ。
トランプ氏の圧力をはね返し、思惑通りに夢を韓国は実現できるのか。今後も激しい駆け引きが続きそうだ。


