【コラム/1月23日】選挙前に大盤振る舞い予算を考える~強い経済への難問解決となるか

2026年1月23日

5、経済成長との関係

強い経済の中身には、より高い経済成長実現の願いもあるようである。危機管理投資・成長投資の取組の進展で設備投資の伸び率を高め、実質成長率1.3%程度を見込んでいる。宇宙・海洋関連危機管理、GX、AI、半導体への予算措置のほか、特筆すべきは大胆な設備投資の促進に向けた税制措置(即時償却と税額控除:取得価額の7~4%)を創設することであろう。利潤投資反応の状況を見れば、高水準の利益ながら投資増に結び付いていない状況がある。かつ法人税水準(23.2%)を見ても現在の企業収益状況をみても、敢えて屋上屋を重ねる投資減税は必要に思えない。

何故利益を上げながら設備投資を増額させないか。その企業行動について理性的な調査が必要である。また戦略的成長期待分野でも、これまでの投資誘導は効果的だったろうか。過去の経験を踏まえた冷静な分析が必要である。

戦後80年の歴史を顧みれば、財政出動は確かに不況期に景気の下支え(呼び水・乗数効果)をしたことはあった。しかし成長との関係は皆無か希薄といえよう。むしろ抑制的な財政運営が、強い経済を築いてきた。評価が定まらない98年の橋本緊縮予算を除けば、1949年ドッジ予算、1954年吉田デフレ予算、1958年岸なべ底予算、1974年オイルショック後の総需要抑制予算、1981年鈴木善幸内閣の増税なき財政再建による歳出抑制を参照すべきである。緊縮的な予算の過程で、企業合理化が進み経済成長の基盤づくりになったといえる。

成長は、あくまで企業活動が基本である。設備投資優遇税制は、企業の投資計画に影響するであろうか。誘導的な意味を期待するにとどまるのではないか。資源配分でどのように成長を実現可能かもう一つ定かでない。ただ様々な研究や開発に資源投入することは救いとなる可能性がある。


6、財政再建の芽はあるのか

経済のフロー(生産、所得、支出)の面から国の予算を考えれば、国民が手にした所得を税金として供出し、いかに国民の生活の質向上のためどこに支出するかということである。その支出先は国防、司法(治安)、公共事業、医療・福祉、教育、科学技術等多岐に及び、国民ニーズを踏まえ対象の拡大が継続している。それと同時に活動を支える歳出も膨張している。ただ財源(国民負担)の限界もある。経済の流れから、歳入と歳出の在り方を考えた場合、年々の経費的支出は、借金でなく税で賄うことが基本である。

この考えが1980年代までは、一般的だった。経済運営を誤り、バブル崩壊以降は、歳出膨張に走り、それをプライマリーバランス論(PB)やMMT(現代貨幣理論)が支えた。そして財政赤字と国債増発の管理を野放図にしている。今回予算は、PB黒字化でも、財政健全化の展望を描くことが困難なことを示している。歳出の抑制と歳入増(税負担)の組み合わせが財政再建に必要なことは誰でも理解できることではないか。

中島敦「山月記」(昭和17年2月)の話を思い出す。主人公の李徴は、博学才頴、官吏登用試験に及第したものの、狷介で高い自負心が自らの位置に満足せず、辞めて詩作にふけるうちに発狂する。そして人・虎の姿となる。あるとき旧友袁傪(えんてん)が野道を通った時、猛虎に変身した李徴が草むらから躍り出て喰らいつく寸前、旧友と認知し、人に戻る。そして述懐する。「今までは、どうして虎などになったかと怪しんでいたのに、この間ひょいと気がついてみたら、己はどうして以前人間だったかと考えていた」「初めから今の形のものだったと思い込んでいるのではないか。いやそんなことどうでもいい。己の中の人間の心がすっかり消えてしまえば、恐らくその方が己は幸せになれるだろう」と。

今の財政均衡に対する態度も同様ではないか。過去は健全財政だった、いつの間にか財政破綻状態に陥り、気がつけば健全財政などどうでもいいとなっている。国民・政治家は、いつの間にか人(財政)を喰らう虎になっている。財政学は、経済学でなく政治学であることを踏まえれば、財政再建の第一歩は正気に戻ることである。


【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

1 2