【コラム/1月13日】欧米で高まるデータセンター建設反対の動き

2026年2月6日

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

米国では、大規模データセンター建設の急増に伴い、電力価格の上昇、インフラ整備費用の増大、環境負荷の増加など多方面で影響が生じている(2025年11月14日掲載コラム参照)。これに伴い、住民による建設反対の動きも顕著になっている。同様の傾向は欧州でも確認されており、データセンターに対する社会的受容性が政策上の重要な論点となりつつある。

実際、米国では住民の反対を受けてデータセンターの建設計画が中止・遅延する事例が急増しており、その影響は無視できない規模に達している。反対運動の影響は巨大で、2025年3月までの過去2年間で640臆ドル相当のプロジェクトが、また2025年の第2四半期だけで、980億ドル相当のプロジェクト(20件)が阻止・遅延されたという報告がある(Data Center Watch)。このようなデータセンター建設への反対運動は、すでに組織化された社会運動の段階に入りつつあり、全米24州で142の反対グループが存在している(2025年12月時点)。このような反対運動の広がりは、今年の中間選挙に確実に影響を与える政治的な争点になりつつある。

具体的な動きとして、Reuters(2025年12月1日)は、ペンシルベニア州モンツアー郡ダンビルで、迷彩柄の帽子と赤いシャツを身に着けた住民ら300人以上が計画委員会の会議に詰めかけ、データセンター建設計画に抗議したと報じている。抗議の理由は、農地の喪失、生活環境の悪化、環境負荷、電力コスト上昇の懸念、そして大規模AIデータセンターを開発する企業への不信感が重なったためである。住民の多くはドナルド・トランプ大統領の強固な支持層だが、土地の安い農村部でデータセンター建設を促進してきたAIインフラの早期整備を進めるワシントンの姿勢に反発しているという。

ペンシルベニア州では、民主党のジョシュ・シャピロ知事と共和党のデイブ・マコーミック上院議員が、優遇措置やインフラ整備を通じてデータセンター誘致を進めている。一部の地域では歓迎の声もあるものの、モンツアー郡での反発は党派を超えて広がり、農家、環境団体、住宅所有者らが連携して建設に反対する動きが強まっている。こうしたデータセンタープロジェクトへの住民の反発は、住宅価格の高騰という課題を抱える共和党にとって、今年の中間選挙に向けた新たな負担となる可能性がある。

欧州でも、市民の多くがデータセンター建設に対して大きな懸念を抱いていることが、世論調査から明らかになっている。英国ロンドンの調査会社 Savanta は、環境保護団体のBeyond Fossil Fuels、デジタル監視団体のAlgorithmWatch、そしてその他の国際的な環境系NGOの委託を受けて、ドイツ、アイルランド、スペイン、スイス、イギリスの5か国で、データセンターがエネルギー、水、経済に与える影響について市民の意識を調査した(2025年10月)。

この調査では、回答者の大多数が、新たなデータセンターの建設によってエネルギー転換が遅れ、水資源が浪費され、電力消費者の負担が増すこと、そしてデータセンターによるエネルギー消費の増加を懸念していることが明らかになった。また、大部分の回答者が、新しいデータセンターの建設は、それに必要な電力をまかなう再生可能エネルギー発電所が新たに確保されている場合にのみ、許可すべきだと考えている。

ドイツにおいては、回答者の57%が、データセンターによる水の消費が、自分たちの生活に必要な水の供給に影響を与える可能性を懸念している。さらに、新たなデータセンターが近隣に建設された場合に、生態系が悪化するのではないかと懸念する回答者は63%にのぼる。また、43%の回答者が、将来的にデータセンターがドイツのエネルギー消費量の大きな割合を占めるようになると考えている。加えて、69%の回答者が、新しいデータセンターの建設は、それに必要な電力をまかなう追加的な再生可能エネルギー電源が確保されている場合にのみ、認められるべきだと考えている。

ドイツでも大規模データセンター建設への反対運動が広がり、批判の声は一段と強まっている。ケルンで開催された Microsoft AI ツアーでは、市民運動団体 Campact や環境保護団体 BUND などが抗議活動を主催し、計画に反対する7万9,000筆の署名を提出した。しかし、Microsoft は署名の受け取りを拒否したと報じられた(2025年3月)。これらの団体が指摘する主な問題点は、過度な土地利用、自然環境への悪影響、そして計画プロセスの不透明性である。

こうした動きを受け、データセンターを誘致する自治体側でも対応が進んでいる。具体的には、農地保全を図るための土地利用規制の強化、エネルギー効率向上や廃熱利用の義務化、水使用量の制限、既存工業地の優先活用、さらには住民参加の拡充と透明性の向上などが挙げられる。すなわち、「無制限にデータセンターを受け入れる」段階から、「規制を伴いながら慎重に誘致する」段階へと移行しつつある。

欧米では、AI 推進やデータセンター拡大を成長戦略に位置づける動きが加速するなか、その社会的受容性は、もはや避けて通れない重要な論点となっている。日本でもデータセンター需要が急増するなか、電力インフラの逼迫や環境負荷の増大が指摘されており、今後は同様の議論が避けられない状況にあるといえるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。