【時流潮流/2月18日】米露対立最前線、アルメニア原発商戦の行方
米国のバンス副大統領は9日、アルメニアを初めて訪問し、原発建設や核燃料供給など総額90億㌦(約1兆4000億円)の契約をまとめた。米国製の小型モジュール炉(SMR)を導入する方向で、来年中に詳細を決める。

アルメニアは地中海とカスピ海に挟まれた南コーカサス地方にある内陸国。西はトルコ、東はアゼルバイジャン、南はイランに接する。「ノアの方舟」が漂着したとされるエルブールズ山脈が連なる人口300万の小国だ。
旧ソ連から1991年に独立したが、その後もロシアとの親密な関係を続けた。原発や天然ガス供給などのエネルギー面や、軍事面で連携を深めた。ロシアが主導する集団安全保障条約機構(CSTO)に加盟、約5000人のロシア兵が駐留している。
米政府高官としては最高位となる今回のバンス氏訪問は、ロシアの「裏庭」に、米国が土足で踏み込んだ形と言え、アルメニアは米露両国が火花を散らす最前線になった。
アルメニアには現在、80年に運転を開始したソ連製原子炉「VVER440(出力41.6万kw)」が1基稼働中だ。旧型で原子炉格納容器がなく、地震多発地帯でもあるため、「世界で最も危険な原発のひとつ」として知られる。
安全性を危惧する欧州連合(EU)は、再三にわたり支援を引き換えに原発閉鎖を働きかけ、一時は2003年に閉鎖することが決まった。だが、諸般の事情があり、その後も寿命延長を続け、現時点では36年まで運転を続ける計画だ。
後継原発を巡っては、ロシアが最有力だった。バンス氏の訪問直前にも、モスクワを訪問したアルメニア国会議長がロシア国営原子力企業ロスアトムのトップと会談し、包括的な提案を受けたばかりだった。
だが、アルメニアとロシアの関係はこの数年、険悪化する。きっかけは、アゼルバイジャン領内にあるアルメニアが実効支配する「飛び地」ナゴルノカラバフの領有権争い。アゼルバイジャンが23年に攻勢をかけ取り戻し、12万人のアルメニア人が家を追われた。
アルメニアはCSTOの規定に沿ってロシアに援軍派遣を要請した。だが、ウクライナ戦争で手いっぱいのロシアにそんな余裕はなかった。
好機とみたトランプ政権 経済・軍事面で関係強化へ
両国の関係悪化を好機とみたのがトランプ米政権だ。昨年8月に、アルメニアとアゼルバイジャンの両首脳をワシントンに招き和平合意をお膳立てした。署名式にはトランプ氏自らも出席した。今回のバンス氏訪問は、その流れに沿うもので、原発に加え、軍事用ドローンの売却にも合意するなど、経済・軍事両面で関係強化を目指そうとしている。
ロシアも傍観しているわけではない。今年6月投票のアルメニア総選挙に向け、昨年春から「ハイブリッド戦争」を仕掛け始める。SNSを使い、汚職やセックススキャンダルなど欧米寄りの政府の不祥事をあげつらう偽情報を流し続けている。
アルメニアは隣国トルコとも難しい関係にある。アルメニア側の主張では、第一次世界大戦中の1915年に「オスマントルコによる殺害・追放で、最大150万人が犠牲になるジェノサイド(集団虐殺)があった」とされる。トルコはこれを否定する状況が続く。
そうした歴史もあり、親露派勢力は「安全保障のためには、ロシア軍の駐留継続や手助けが必要だ」と訴える。
親露派が政権を握り返せば、原発ビジネスも「一波乱」ある。そんな気配が漂う。


