【コラム/3月27日】「トランプ暴走、イラン攻撃中東不安の日本経済を考える ~縮小均衡調整が不可避」

2026年3月27日

飯倉 穣/エコノミスト

1、突きつけられた現実

中東のイスラエル(IL)の存在を巡る紛争は、紆余曲折を経て、アラブ諸国は共存に向かっているが、イラン(IR)の現体制は、共存を容認していない。IL・米国は、イラン脅威を低下させる核施設攻撃(25年6月)に続き、米・IR核協議中に再攻撃を行った(26年2月28日)。イランはホルムズ海峡を封鎖状態とした。石油エネ等の中東依存懸念の顕在化で、世界・日本経済も揺れている。日本国民は改めて中東の不安定を実感し、原油動向に気遣う日が続く。

「NY原油急騰 一時119ドル台 G7備蓄放出含め対応 東証急落終値2892円安」(朝日同3月10日)。「イスラエル ガス田攻撃 イランが報復 原油100ドル超」(日経同19日)。不安を伝える報道は、連日である。そしてドバイ原油先物は、169ドル/bbl(同19日)である。高市・トランプ日米首脳会談(20日)もあった。

紛争の収束は、トランプ発言迷走同様、先行き見えにくい。近日中に停戦期待(松永泰行東京外大教授日本記者クラブ会見18日))、弾薬消耗待ち(齊藤貢元駐イラン大使同13日)或いは紛争長期化(坂梨祥エネ研中東研究センター長同6日)・米国中間選挙待ち等様々である。短期で終了しても、この国は、常に理性的な対処と中長期の方策が必要である。改めて短期、中期、長期のエネ対策と経済運営を考える。


2、今回の政府対応~また補助金なのか

最近の政府施策は、困ったときのバラマキばかりである。油価上昇となると、合理的思考を脇に置き、所得の海外流出による国民負担を、補助金・減税・給付金で補填する発想が罷り通っている。ウクライナ戦争時の原油等価格上昇対応の議論・対策が典型である。結局、給付金2万円、エネルギー価格の負担軽減(電気ガス料金支援)、ガソリン暫定税率廃止、消費税減税等だった(「強い経済」を実現する総合経済対策~日本と日本人の底力で不安を希望に変える~25年11月21日参照)。それは政治・社会対策であって、経済政策でない。

今回も消費者・生産者の影響に配慮してか、ガソリン・電気料金価格対策の発言があった。またまた支援金交付である。「ガソリン・電気代追加対策」首相検討 予算組み替えは否定」(日経26年3月10日)、「高市首相が表明 170円程度に抑制も(補助金を使って全国平均で1リットルあたり170円程度に抑制する方針)」(朝日26年3月11日 21時09分)。野党・マスコミ相乗りの財源不明・補助金ばらまきの態で始末が悪い。マクロ経済の視点から政策を担った経済企画庁の存在が懐かしい。

またホルムズ海峡封鎖は、世界の20%の原油輸送に支障を来たす。各国とも原油価格急騰と問題の深刻さに慌てたのであろう。急遽IEA32カ国会議の合意で、備蓄放出となった(3月11日)。日本は、「首相「石油備蓄放出」16日にも、日本単独 エネ価格抑制 過去最大の45日分」(朝日26年3月12日)となった。今後とるべき対策との兼ね合いで、備蓄の意味、使い方、効果、使用時期に関する考察の中身は、曖昧である。これらの政府施策は適切だろうか。過去は、もう少し多様な視点の検討・模索もあった。


3、過去を振り返れば、やむを得ずだが適切だった

第一次オイルショック時(1973年度一次エネ石油依存77%、現在37%)は、今日よりも冷静さを欠き、当初国内に混乱をもたらした。もの不足不安で換物思想・買い占めが先行した。かつ便乗値上げによる物価上昇が顕著だった。

対策は、まず物価対応とエネ使用抑制だった。便乗値上げ監視、石油節約のためのガソリンスタンド休日閉鎖、エレベーター稼働台数削減、空調温度の規制、深夜テレビ放送自粛、広告ネオン停止、営業時間短縮規制等々があった。その過程で短期、中・長期の視点が登場した。

短期は、マクロで総需要抑制の縮小均衡調整だった。金融引締め、歳出を抑制した(予算執行一部停止)。価格効果活用(価格の受容・消費削減)を図り、エネ対策で省エネ・節電・使用規制を要請し、石油使用量の削減を図った。また生産性上昇がない下での賃上げ抑制で、スタグフレーションを回避した。

中・長期は、エネ対策で実用化段階の技術活用に注力した。公害対策可能石炭火力、LNG火力、原子力発電の拡大、産業面で、企業の省エネ投資奨励、エネ多消費型産業からの脱却(産業構造転換=企業の適応)などがあった。企業は雇用維持を図りながら新規事業も模索した。世界経済停滞・省エネ・代替エネ・石油開発があり、10年経て、原油価格は下落に転じた。日本経済のパフォーマンスも良好だった。


4、紆余曲折ありで油断再来

オイルショックに適応した日本経済は、その後紆余曲折を経た。築いてきた体制は、経済摩擦と経済政策の誤りでやや軟弱化した。経済摩擦、地球環境問題、東日本大震災への対応に問題があった。

現在地は、エネルギー危機対策で、一部有効なもの(石油備蓄、石油代替、再エネ)もあるが、他方中東紛争到来を忘却し、東日本大震災・福島原発事故で原子力発電放棄に走り、また公益事業体制破壊等で対応力を弱くしている。マクロ経済政策も不在となり、価格効果を無視し、エネ高騰対策で、有害無益なポピュリズム的バラマキが横行している。


5、今後の経済の動き~原油価格高騰の影響

ここで今回の事象継続が経済に与える影響を想定してみよう。日本の原油輸入量は、2024年度136百万kl(中東依存95.8%)である。この状況で、ホルムズ海峡封鎖で輸入減少(途絶)となれば、日本経済の活動はどうなるか。国内の生産活動は、入手原油量の水準となり、大幅な生産低下となる。石油・化学産業(産出額60兆円、付加価値額13兆円、従事者56万人)に直撃となる。そしてその製品不足が他の産業に波及する。備蓄放出でどこまで対応できるか。輸入量の減少は、生産・GDP水準低下を深刻にする。一時的に二桁台の落込み懸念もある。暫く耐乏生活である。

輸入量を確保出来ても、石油価格高騰が日本経済に与える影響がある。トランプ発言と投機筋の動きで、原油価格相場が乱高下する状況も困惑もするが。需給・思惑で原油価格が、例えば夫々100~150~180ドルに高騰し高止まりする場合である。輸入価格上昇で、企業物価上昇、消費者物価上昇となる。鉱物性燃料輸入額は、25年22.1兆円、内訳は原油9.6兆円(原油価格ドバイ68.35$/bbl、為替149円/$)、LNG5.7兆円、石炭3.3兆円(内一般炭1.9兆円)等である。目の子算なら、ショック前に比し燃料輸入増加額は、夫々10兆円、26兆円、36兆円増となる。海外への所得流出・国民負担額である。物価は、夫々1%、2%、3%強の上昇となろう。そのエネ価格上昇を吸収すれば、GDPは、夫々△2%、△4%、△6%程度の落込みを余儀なくされる。つまり今後ホルムズ海峡封鎖・油価上昇で、経済は縮小均衡調整となる。受忍は、やむを得ない。

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