【電力中央研究所 平岩理事長】課題を科学で捉え技術で解を示し、未来を支えていく
海外事例から学ぶ教訓 実効性ある制度設計を
井関 昨年4月にイベリア半島(スペイン・ポルトガル)で大規模停電が発生しました。わが国にとっても重要な教訓になりそうですが、系統の専門家としての見解を教えてください。
平岩 これまでの停電は、主に送配電網のトラブルや、需要と発電のバランスが崩れることで発生しましたが、この事例は電力系統における「無効電力」のアンバランスによって系統電圧が上昇し、発電機が連鎖的に脱落したことが要因とされています。こうしたリスクは、「調整力」や「慣性力」「同期化力」「電圧調整」などの系統安定化機能を有する火力や水力などの同期電源の系統連系が減少するほど高まります。
わが国は、太陽光発電など非同期電源が多く連系されており、系統の不安定化による停電などの事態が起きないように必要な対策をとっていくことが重要です。電力システムは発電と需要、送配電の各要素が電気物理の法則のもとで一体的に動くものであり、私はこれを「生身の電力システム」と呼んでいますが、その安定性確保には適正な周波数と電圧の維持が不可欠です。将来の系統状況の変化を見通し、系統連系の技術要件を定めるグリッドコードの検討など遅滞なく対策を進めていく必要があります。
井関 電力システム改革の検証など最近の制度設計を巡る動きをどう見ていますか。
平岩 安定供給や安定的な価格に必要な電力インフラの投資を進めるため、新たな制度や市場の検討が進められています。その方向性は望ましいのですが、重要なのは、それにより事業者が投資の予見性や回収の実効性を得られるか、ということです。また、これまで積み上げてきた制度やルール、今後導入しようとする仕組みが全体として社会の利益につながっていくように、原点に立ち返って必要な見直しをしていくことが肝要と考えています。
井関 ここからは具体的な研究事例をうかがいます。まず、原子力分野はいかがですか。
平岩 既存の軽水炉の高経年化対策の研究では、中性子照射による脆化メカニズムの原子レベルでの解明や、脆化を評価する技術の開発などを行っています。放射性廃棄物処分に関する研究では、処分の候補地選定や施設の設計に必要な技術として、不確かさも考慮した地下環境と人工バリア性能の評価技術などを開発しています。原子力利用における社会経済的な課題への対応では、新設炉建設などに対するファイナンス円滑化や規制の見直し動向に関する海外事例を調査し、わが国における望ましい原子力政策のあり方や具体的な制度設計の提案をしています。次世代革新炉については、新たな安全システムを採用する革新軽水炉に対して、規制要求や国際標準などの要件への適合を示す上で必要な解析基盤となる標準モデルや安全評価手法を、当所独自に構築しています。
福島第一原子力発電所事故から15年が経過しましたが、燃料デブリ取り出しに向けて、さまざまな切削工法に伴う放射性ダストの発生・飛散・移行挙動について、実環境を想定した条件で評価を行っています。



