【フォーラムアイ】中部電力が姫路市で認知症予防プロジェクト 電力データと音声AI活用

2026年7月6日

【FE中部電力】

中部電力が、姫路市で介護予防の実証を展開中だ。

電力データと認知機能チェック音声AIを活用し、健康リスクやMCIの早期検知に挑んでいる。

中部電力は、日本テクトシステムズとタッグを組み、兵庫県姫路市で高齢者の認知機能の低下や健康リスクの兆候を早期に把握し、介護予防につなげる共同プロジェクトを展開している。超高齢化社会を背景に、自治体と提携しながら適切な支援を提供。従来の健康診断などでは見逃されがちなリスクの把握を目指している。

姫路市で実証が始まった背景には、同市の高齢者福祉計画の中で「高齢者が住み慣れた地域で、生きがいを感じながら、健やかに暮らせる姫路の実現」が掲げられ、とりわけ認知症の早期検知が重点分野になっていたことがある。そのため、本取り組みに対する共感と協力が得られたことが、実証開始につながった。

左から傳田氏、松下氏、中村隆司氏、中村未衣氏

生活リズムをAIで分析 行政との連携で早期支援

同社は2023年頃から、スマートメーターによる電力データを活用した独居高齢者の見守りや、健康リスクの兆候を捉える技術開発を進めてきた。

スマートメーターはほぼ全ての家庭に設置されており、他の見守りサービスで必要となるセンサー設置などの初期コストが不要な点が強みだ。収集した電力データから生活リズムや生活のメリハリ、活動状況の変化をAIで分析し、異変が見られた家庭を行政へ報告。行政による対象家庭への早期支援につなげる取り組みとなっている。ただ、30分に1回の計測で得られる電力データだけでは、把握できる健康状態には限界があった。そこで、検知範囲を広げる目的で、日本テクトシステムズが開発した音声解析AI搭載の認知機能セルフチェックアプリ「ONSEI Pro」を採用した。

実証プロジェクトの概要

マルチユーティリティ本部ヘルスケアユニット疾患検知PJの傳田純也氏は「例えば、タブレットを使って問題に答えるチェックテスト方式や、非接触で視線から検知・判断する技術など色々なテクノロジーを検討した。ただ、自身のスマートフォンで特別な操作をすることなく、声で答えるだけという手軽さを重視した」と、音声を用いた技術を採用した理由を説明した。

さらに「ONSEI Pro」の特徴について、認知症だけでなく、その前段階であるMCI(軽度認知障害)相当の認知機能低下を検知できる点が、他社の音声アプリとの大きな違いだという。

一般的な音声アプリでは「認知症か健常か」の二択しか判定できず、検知された時点では既に認知症を発症しているケースが多いのが現状だという。「ONSEI Pro」の強みは、健常から、MCI・認知症相当までを5段階で評価できる仕組みとなっている点である。

傳田氏は「私たちが目指しているのは健康寿命の延伸であり、健康な人が健康であり続けられる社会の実現だ。認知症になってしまうと元に戻すことは難しい。早期検知という観点で非常に有効な手段だと考えている。より前の段階、改善可能な段階で発見し、早期支援につなげたい」と意欲を語る。

実証の事業化と拡大見据え 体制整備と最適運用を模索

「ONSEI Pro」によるチェックは週1回が推奨されており、①日時の確認、②文章の記憶、③ひらがなの一文字から思いつく単語をできるだけ多く回答する、という三つの課題に取り組む。同ユニットの松下真也氏は「継続的に利用し習慣化することで、自身の健康に関心を持ってもらいたい」と定期的利用を呼びかける。

姫路市での取り組みでは、対象地域を限定した上で、電力データによる検知と「ONSEI Pro」によるチェックの二つのアプローチでの実証が行われ、27年3月末まで続けられる。次年度以降は、姫路市での事業化や市内他地域への展開も見据えている。

認知機能検知のフローチャート

一方で課題もある。一つは、参加者に偏りがあることだ。現在、実証への参加者募集は、対象者への案内送付や現地での説明会を通じて実施しており、参加者は地域社会とのつながりが強い比較的健康な人が多い傾向にある。そのため、社会との接点が少なく、健康面に不安を抱える人への周知方法を検討する必要がある。もう一つは、リスク兆候を把握した後の対応体制だ。支援体制や医療・専門職との連携、本人や家族への情報開示の範囲など、誰がどのように動くかについて、姫路市と協議を重ねながら最適な運用方法を模索している。

同ユニットの中村隆司氏は「いつまでも健やかに、自分の力で生活できるように、高齢者を支えたい」と事業への決意を語る。中部電力は今後もエネルギー事業にとどまらず、自社アセットを有効活用しながら、さまざまな領域へ事業を拡大していく方針だ。