【特集2 ガス転換の潜在力】工業団地にLNG拠点を新設 熱とガスの供給体制を構築したさくらんぼSE
2050年までにCO2排出実質ゼロを目指し、アクションプラン「カーボンニュートラルやまがた」を掲げる山形県。その実現に少しでも近づけようと、エネルギーの供給側と需要側が連携したプロジェクトが今夏から始まっている。
場所は、さくらんぼの生産で有名な東根市にある東根大森工業団地。山形新幹線の停車駅「さくらんぼ東根駅」や東北中央自動車道の東根ICから車で10分前後とアクセスしやすい。同団地は、電子部品、電気機器、半導体、アスファルト合材などを手掛ける企業が集積する。その一角を占める一部の工場群が、これまで使っていた灯油や重油、LPガスから天然ガスへの燃料転換を実現した。
エネルギー供給では、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)、石油資源開発(JAPEX)、山形ガスの3社が連携。この燃転を契機に、さくらんぼスマートエナジー合同会社(さくらんぼSE)を設立した。供給スキームとしては、さくらんぼSEが工業団地内にLNGのサテライトタンクや付帯設備を整備し、ボイラーESP(エネルギーサービスプロバイダー)として、需要側の一つであるレゾナック・ハードディスク社に蒸気を供給。同時に、このタンクを核に山形ガスに天然ガスの卸売りも行う。
一方、山形ガスは新たに整備した導管を通じて、アスファルト合材を製造する日本道路をはじめ7社で構成する山形協同アスコン、医薬品を手掛けるエースジャパン、農機メーカーの山本製作所の3社に小売り事業として天然ガスを供給する。

設備更新の好機を捉える 3社連携で強みを結集
「それぞれのお客さま側の機器更新のタイミングが幸運にも合致した。これにより熱の供給とガスの小売り供給の時期をそろえることができ、燃転の事業採算性が一気に向上した。さくらんぼSEが扱うLNG量の具体的な数値は公表できないが、山形ガスにとっても大きな供給先になった」。山形ガス小売事業部第二事業センターの佐藤彰一センター長はこう話す。
当初は、同社の供給エリアから導管を延伸し、需要家に直接供給する方法も検討した。だが、距離が遠かったため、LNGサテライト方式で進めたという。設備更新のタイミングが合致したことに加え、供給する3社それぞれの思いが結集し、プロジェクトの実現につながった。
山形ガスにとって、今回のような大口需要家への供給は初めてではない。JAPEXとの合弁会社を通じ、工業団地の近隣でLNGサテライトから外資系製薬会社へエネルギーを供給している。一方で、供給エリア内で需要の増える見通しが立たない中、企業の成長戦略の観点から新たな供給先を模索中だった。
JAPEXは、福島県相馬市でローリーの出荷レーンを併設したLNG基地を運用し、陸上輸送による供給にも注力している。営業本部営業開発部の能町聖彦ソリューション第二グループ長は、「山形ガスとは日頃から関連会社による導管を通じた卸供給をしている。今回の事例を契機に、さらに関係を深めたい」と話す。
TGESは、エネルギーサービスや燃料転換、コージェネ導入、省エネ診断など、北海道から沖縄まで、地方の都市ガス会社と連携し、実績を積み重ねてきた。さらなる実績の蓄積にまい進する中、今回、新たに山形ガスとの連携が加わった。
「単に設備を更新するのではなく、蒸気使用量や用途を分析し、最適なシステム構成を提案した。結果、省エネと省CO2に寄与する高効率ボイラーの採用につながった」と、TGES産業エネルギー営業本部法人ソリューション部の武田英里課長代理は自信を見せる。その他、ガス転換に伴う燃焼バーナーの燃焼調整や空燃比の最適化、燃焼試験などを実施。設備性能を維持しながら安定的な設備の運用を支えるなど、TGESは技術屋としての真骨頂を発揮している。

供給網多重化で安定性確保 周辺需要家への拡大に期待
今回の事例では、燃転によって年間1600tのCO2削減を見込む。加えて、供給の安定性が大きく向上する点も見逃せない。JAPEXの相馬LNG基地に加え、東京ガスの日立LNG基地(茨城県)との二大供給拠点により、供給網の多重化を図る。需要家にとっては心強い供給インフラだ。
こうした状況を受け、今後も周辺で燃転は進むのだろうか。佐藤氏と能町氏は「特定の新規供給先に向け、新たに延長する導管敷設などの工事費用に対して補助金などの制度があるとありがたい」と口をそろえる。武田氏は「今回も含め、補助金の多くは補助対象範囲内に使途が限定されている。今後、さらなる燃料転換を促進できるよう、拡張性を持たせた制度設計を期待したい」と話す。
今回の工業団地を含め、周辺エリアには油を燃料として使っている需要家が数多く存在しているそうだ。今後、どのような展開に発展するのか、さくらんぼSEの取り組みが注目される。


