【フォーラムアイ】敦賀発電所で広がる現場発のAI活用 所員が自ら開発し業務の効率化・高度化へ
敦賀発電所では、現場の所員が生成AIを駆使したシステムを自ら開発し、業務改善に取り組んでいる。
効率化にとどまらず技術的な検討の支援等、業務の高度化に向けて活用の幅を広げている。
日本原子力発電の敦賀発電所が、生成AIを活用した業務支援システムを開発した。現場の所員が自ら構築することで、現場で生じる課題やニーズを迅速に取り込み、反映できることが大きな強みだ。
開発のきっかけは、システム開発を担当した谷川明広・品質保証室長が、長く発電所外の業務に携わった後、敦賀発電所に戻ったことだった。若手社員が必要な情報を探すために多くの時間を費やす状況を目の当たりにし、自身の若手時代から変わっていないと感じたという。「20年前に私たちが抱えていた課題を、次の世代に繰り返させたくなかった」と、思いを語る。

分散する情報を横断検索 技術的判断を支援
同発電所では、情報の電子化を早くから進めてきたものの、その多くが紙の資料をスキャンしただけのもので、内容を知るには実際にファイルを開いて確認しなければならなかった。また、状況に応じてその都度作られてきた約10のシステムはそれぞれ独立して運用され、「横串が刺さっていない状況だった」(谷川氏)。必要な情報を得るには、複数のシステムを往復して検索し直す手間が生じ、業務効率の低下につながっていた。
こうした課題を生成AIで解決できないかと考えていた谷川氏は、AIスタートアップ企業の経営者と話す機会を得た。ここで生成AIの活用に手応えを得て、2025年5月に本格的な開発に着手。6月ごろには最初のシステムを形にした。

最初に取り組んだのが、エンジニアリング支援エージェント「AI総括クン」。別々のシステムに蓄積されていた過去のトラブル事例や設計図書、図面、工事記録、OE(運転経験)情報などを横断的に検索し、必要な情報にたどり着けるようにした。設備不具合の原因調査や過去事例との照合、保全計画や技術判断の検討にも活用している。
入社6年目だという30代の保全部門の所員は、「情報検索が格段に早くなり画期的だと思った」と笑顔で話す。今ではまず自分で情報を集め、それでも分からないことは先輩に聞く。「自分でできることの範囲が広がった」と、AI活用の成果を実感。
情報を探すだけでなく、その先の判断を支援するために開発したのが「Qちゃん」だ。発生事例を入力すると、QMS(品質マネジメントシステム)規程や過去事例、過去の論点などの関連情報を提示し、担当者による判定や是正処置の検討を支援する。AIが業務上の結論を出すのではなく、担当者が根拠に立ち返って自ら考えることを支援する狙いだ。
さらに現在は、分散する保全情報を一元的に扱う「DocuDas(仮称)」の運用も今年6月に開始。既存のシステムやデータをつなぎ、保全業務に必要な情報をまとめて扱える総合プラットフォームを目指している。対象にはメーカーによる製造中止品の情報も含まれる。谷川氏は「代替品の選定や技術検討にはそれなりの期間が必要となる。同システムを活用することで、より早期に対応できるようになる」と期待を込める。
谷川氏と共に開発に携わる加藤木洋・保守総括マネージャーは、「現在のように手動でアップロードするのではなく、自動で情報が更新される仕組みにできれば、さらに使いやすくなる」と、さらなる改良を見据える。
所員自らが課題解決 若手の意欲向上に寄与
AIの活用は、技術伝承にも広がっている。
ベテラン社員が長年の業務を通じて培ってきた知識やノウハウを次世代に引き継ぐ手段の一つとして、開発を進めているのが「技術伝承AIチャットボット」だ。
経験豊富な社員やOBが若手のニーズに応じて開く勉強会の音声や資料を経験知として蓄積している。同チャットボットの開発は5月、安全性向上に資する取り組みを評価するJANSI(原子力安全推進協会)発電所表彰で特別賞を受賞した。

寺谷康治所長は、「所員自らが課題を見つけて解決していく文化が根付いてきている。そのきっかけが、このAIだったのかもしれない。AIが全て正しいわけではないという共通認識もある。業務の効率化や高度化につなげ、さらに高みを目指したい」とAI活用の推進に意気込む。
現場から生まれたAI活用は、業務の効率化・高度化や技術伝承を支える取り組みとして広がりつつある。


