脱炭素化に欠かせない原子力 福島事故の「呪縛」を解くときに

2021年4月7日

【カーボンニュートラルと原子力発電】文/石川和男

菅義偉首相が宣言したカーボンニュートラルの実現に、原子力発電は大きく貢献する。

電力安定供給の電源としても欠かせず、その果たす役割を冷静に見直すべきときが来ている。

菅義偉首相が昨年、2050年カーボンニュートラルを宣言した。いま国はエネルギー基本計画の改定作業を行っている。その中で50年に向けて再生可能エネルギー電源の主力化や、化石燃料の高効率利用などの政策がこれから、示されるようになるだろう。

しかし、カーボンニュートラルに圧倒的な貢献をするのが原子力発電であることは論をまたない。エネルギーに関わる政界・官界人や業界関係者は皆、それを分かっている。ただ、福島第一原子力発電所事故から10年が経つにもかかわらず、そのことを言い出しにくい空気がある。

この閉塞感を打破するためには、やはりまず政権与党が原子力についてきちんと発言するべきだ。エネルギー政策は経済産業省の主管だが、政治が発言しないと経産官僚も行動を起こす勇気は出ない。電力会社やメーカーなど民間も同じだ。

政治が官と民を奮い立たせて、まずは、電力の大量安価安定供給が期待できる既設の原発をフル活用するようにしなければいけない。原子力規制委員会の審査と並行させつつ、国が前面に出て再稼働を進めていくべきだ。

運転開始から40年を超えた発電所の稼働も非常に重要になる。規制委の新規制基準を理由にして、数多くの発電所が廃炉になった。それらのリプレースをするには、かなりの時間がかかる。すると、残った発電所を60年間運転させて、その間にリプレースのための財源を稼がなければならない。

40年超えの原子力発電所について、現場を知らないマスコミは「老朽原発」と書くが、「老朽化」というのは揶揄でしかない。アメリカでは60年を超えて80年認可を経て、100年運転への動きもある。海外でも運転延長は増えつつあり、新規制基準の下で日本でもようやく光が見えてきた。

40年超え運転では、関西電力が尽力して、高浜1・2号機、美浜3号機が稼働を始めようとしている。日本原電の東海第二も40年超え運転の認可を受け、安全性向上対策工事を進めており、再稼働に向けてぜひとも頑張ってもらいたい。

前提となる自治体の了解 国が地元に感謝の意を

再稼働は立地する県や市町村の理解を得ることが条件になる。福井県は知事、県議会、多くの県民、地元自治体も理解のある態度を示している。そういった地元に対して、国がきちんと感謝の意を表すことが大切だ。経済産業大臣だけでなく、首相も謝意を示して、「国が最後まで面倒を見ます」と述べるべきだろう。

しかし、廃炉が決まったものを除いて、建設中を含めて36基の発電所が60年運転するとしても、自然体では40年以降、設備容量は大きく減少する。新しいエネルギー基本計画では、新規の建設について前向きな言及をすることが必要になる。

36基(建設中を含む)が60年運転するとしても、2040年代以降、設備容量は大幅に減少する
※資源エネルギー庁資料より

50年に向けて、これから再エネの普及拡大を進めていくことになるが、高いコストが大きな課題になる。多額の費用がかかる再エネの開発をしていくために、原子力発電とパッケージにして進めていくことを提唱する。

原子力発電所を建設し、運営するのは大手の電力会社だ。その大手電力会社には、新しい発電所を建設した場合、発電量に合わせて再エネの開発をしてもらう。例えば、100万kW級の発電所をつくったならば、10万kWくらいの再エネ設備を保有してもらう、あるいは再エネの電力を調達してもらう―という仕組みだ。

再エネの固定価格買い取り制度(FIT)が始まって、太陽光発電やバイオマス発電の設備が国中で増えるようになった。12〜14年までのFIT価格はバブルをあおるような価格で、売り抜いてもうけようとする投機筋が多く参入してきた。

それで、山の斜面を切り崩すなどをして太陽光パネルを設置するようになり、地元の人たちの反発を買っている。バイオマス発電も同じように〝迷惑施設扱い〟だ。輸入液体燃料を中心として、FITの認定を取っても、地元との調整がうまくいかず、なかなか竣工できない施設が多い。

再エネの開発で、地元ときちんとした関係を築ける事業者は少ない。しかし、大手電力会社ならばうまくやっていける。もし再エネを本格的に普及拡大させていくならば、原子力発電とのパッケージは欠かせないと思っている。

大手電力会社は、別に再エネで収益を得なくてもよい。減価償却費程度を稼げば十分。その代わり、原子力発電の方で利潤を得る。それによって、新規の原子力発電所や再エネ、送電線への投資を行っていく。

電力小売りの全面自由化で総括原価方式はなくなり、電力会社は原子力発電所に投資した費用を確実に回収できる手段をなくした。これでは、誰も新しい原子力発電所をつくろうとは思わない。発電部門と送配電部門については政策的、法的に投資回収を担保する仕組みをつくらなければいけない。「容量市場」では投資はそれほど進まないのではないかと非常に心配だ。

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