【特集2】地域課題解決へ再エネ事業に注力 プロジェクトに参画して知見を得る

2021年7月3日

インタビュー/松本尚武:静岡ガス グローバル・エネルギー本部副本部長兼電力・環境事業部長

松本尚武グローバル・エネルギー本部副本部長兼電力・環境事業部長

―今年4月以降、バイオマス発電事業への参画を2件発表するなど、取り組みが活発です。貴社の再生可能エネルギー事業の取り組み方針をお聞かせください。

松本 当社が再エネ事業に取り組む目的は二つあります。脱炭素社会の実現と、地域課題の解決です。当社は2016年から電力の小売り事業を開始し、地域資源やガスコージェネを利用した地産地消をテーマに進めてきました。

 その中で、再エネ開発を進めていく計画でした。しかし、低炭素から脱炭素にニーズがシフトしてきたことや、地域課題がより深刻さを増す中で、再エネ開発はそれらの解決ツールととらえて取り組んでいます。

―地域課題とは何ですか。

松本 県内の中山間地域では、放置林の問題があり、林業の活性化が求められています。また、静岡県はお茶の産地として有名ですが、近年は需要が停滞しています。そんな状況を打破するため、再エネを地域振興に利用できないかと検討を進めてきました。

県内事情から電源を検討 地域振興に再エネ利用

―今回のバイオマス案件は山形県と埼玉県です。いずれも貴社エリアから離れています。地域への取り組みを重要視する中、なぜ参画したのでしょうか。

松本 将来の当社の小売り事業向け再エネ電源として利用するには、系統でつながっていれば問題ないと考えました。一方、静岡県内は山が近いために平地が少ないことに加え、富士山周辺は景観を損なうため配慮が必要など、太陽光発電所の適地はそれほど多くありません。風力も東北地方の日本海側のように風況が良くありません。そうした中で、バイオマス発電は有力な電源と位置付けています。放置林などの地域課題の解決にも適しています。

 2件の案件は、いずれもマイナー出資者という立場です。事業運営に主体的に関わるのではなく、サポート役として関わっています。県内で電源を手掛けていく際には、事業主体を担っていく考えです。

―山形県の鳥海南バイオマス発電所(5万2900kW)のプロジェクトに関わったきっかけは。

松本 参画した目的の一つとして、将来の大型バイオマス電源を立ち上げるための調達や開発、運用など、ノウハウの蓄積があります。当社のお客さまには、製紙会社など自社電源に石炭火力を利用しているところが多くあります。中には、バイオマス燃料への切り替えに関心のある企業もあります。そのお手伝いができたらと考えています。また、参画に当たり重要視したのが燃料調達の確実性です。バイオマス発電において最もリスクが高い部分です。同案件は、酒田港が発電所の近隣にあるなど、立地にも恵まれており、大きな信頼を寄せています。

鳥海南バイオマス発電所の完成予想図

―埼玉県の東松山バイオガス発電所(1990kW)ではどのような取り組みを行いますか。

松本 同発電所では、街路樹や高速道路などの剪定枝を利用しますが、これを5㎝程度のチップに破砕して水分含有量を調整してボイラー燃料にします。

 当社は発電設備に関するエンジニアリング力はありますが、バイオマスの調達など、上流側のデリバリーや、木質チップの加工や成分調整を行い燃料にするところのノウハウはありません。そうしたものを積み上げたいです。

 国内材を活用したバイオマス発電は小規模にはなりますが、これまでのコージェネで培ったノウハウなどが生きるのではないかと考えています。ゆくゆくは、林業の課題解決のためにも、林地残材や製材端材の活用にも取り組んでいきたいと考えています。

―ほかの再エネで注目しているものはありますか。

松本 静岡県内では、小規模の太陽光が有望と考えています。営農併設型のソーラーシェアリングは地域課題解決に寄与するでしょう。

―政策・制度面で、注視している点はありますか。

松本 電力系統の増強・運用に関する議論に注目しています。再エネ事業を行う上で、出力抑制は長期的なリスクと考えなければなりません。事業者の立場からすると、系統にかかる費用負担の在り方も含め、増強・運用に関する議論が整理されてくると、FITのその先も見据えた上での事業の予見性が高まるものと期待しています。

―今後の展望は。 松本 当社では、再生可能エネルギーの開発を重点戦略として位置付けており、21~23年に再エネと海外事業を合わせて200億円程度を投じる計画です。脱炭素社会の実現と地域課題の解決を推進していくため、新しい取り組みに挑戦し続けたいと思います。