【特集2】FIT制度で事業環境が急変 燃料の国内供給を裏で支える

2021年7月3日

【岩谷産業】

エネルギー業界では、LPガス事業や水素事業で認知されている岩谷産業。実は再生可能エネルギーとも密接に関わっている。国内のバイオマス発電事業者向けに、商社の機能を発揮して燃料調達・供給をしているのだ。

岩谷にはマテリアル本部という組織があり、商品ごとに四つの部門を設けている。機能性フィルムやPET樹脂を扱う機能樹脂部、ステンレス鋼などの金属部、電子セラミックス材料の電子マテリアル部、そしてバイオマス燃料の資源・新素材部だ。

もともと、資源・新素材部では、「バイオマス以前」から、ミネラルサンドやレアアースといった鉱産物資源を数十年にわたって扱ってきた。そうした中、2011年にシンガポールのバイオマス発電事業者との縁がきっかけとなり、バイオマス燃料の取り扱いが始まる。

「当社のシンガポールの現地法人を経由して、珪砂と呼ぶ鉱産物の引き合いをいただきました。交渉を重ねる中で、バイオマス燃料となるヤシ殻を使ったPKSが話題となり、当社でも扱えるのではないかと思ったわけです」。バイオマス課の担当者は経緯を説明する。

その後、事業環境は大きく変わる。もともとシンガポール向けにPKS供給の準備を進めていた中、FIT制度を受けて日本国内で再エネ事業が急増。バイオマス発電の計画も各地で立ち上がった。そこで岩谷では、国内向けの燃料供給を主軸にした取り組みを開始。徐々に取り扱い量が増え、バイオマス課が立ち上がったのが16年のことだ。19年には、「長期契約」も履行し、現在では国内10社以上に供給。日本市場における販売シェアは10%程度だという。

木質ペレット供給を開始 海外供給も視野に

いま、岩谷ではPKS以外に、新たに木質ペレットの取り扱いを始めている。国内事業者がPKSと木質ペレットを混焼するケースが多いためだ。岩谷によると、両燃料の取り扱いは今後も増えていく見通しだという。

調達先は、東南アジアを中心に、それ以外の国にも広げ偏らないように計画している。そして調達の際、最もケアするのがサプライヤーの選定だという。「燃料を安定供給することがわれわれの最大の使命。サプライヤーは厳しく選定しています」

同時に、岩谷ではPKSや木質ペレットの品質管理にも余念がない。兵庫県尼崎市の中央研究所で独自に品質を分析し、成分やカロリー、比重などをチェックしている。これはサプライヤー側と発電事業者であるユーザー側との間で品質管理に齟齬が生じていないか、岩谷が独自に検査しているためだ。バイオマス燃料は国際的な品質規格がない中、「安定品質」に気を配る同社ならではの取り組みである。

現状は国内中心の供給体制だが、今後は「海外供給」も考えていく必要があるそうだ。特に世界の潮流となっている脱炭素が、バイオマスをさらに後押しする可能性がある。「例えば日系企業の現地法人が脱炭素を進める際、バイオマスを使ったコージェネなどのニーズが生まれる可能性があります。そうした際にも、燃料供給をサポートできたらと考えています」

燃料の品質を分析する中央研究所