【特集2】究極のレジリエンスに挑戦 LPガスマイクログリッドを構築へ
LPガスの最大にして最高の特長は「分散型」だ。レジリエンスの特長を遺憾なく発揮するシステムを紹介する。
災害の度に、その復旧の速さから注目されているLPガス。この分散型エネルギーを活用して、さらにレジリエンシーを高めようとする動きが出ている。
千葉県・いすみ市で準備 有事にも電力供給を継続
2019年9月。台風15号によって千葉県は大停電に見舞われた。外房に位置する人口約3万7
000人の町、いすみ市(太田洋市長)も例外ではなかった。当時の記憶を今でも鮮明に覚えているという、いすみ市の市原正一・危機管理課長は「なぎ倒された木々が、電線や電柱を巻き込み、停電に見舞われました。幸い市庁舎は短時間の停電のみで、ロビーでは住民へスマホの充電などをサポートしました。もう二度とあのような経験はしたくないですね」と振り返る。10日間ほど停電を余儀なくされた地域もあったという。
太平洋に面しているいすみ市は津波被害のリスクがあるほか、山間部も多く、大雨災害時には土砂災害の対応も念頭に置く必要がある。今夏、関東を襲った豪雨では床上浸水の被害にも見舞われた住宅もあり、日々の暮らしの中に災害リスクが潜んでいるエリアだ。
そんないすみ市では、レジリエンス機能を高めようと、現在、東京電力パワーグリッドや関電工の協力を得ながら、新しいエネルギーシステムの構築に取り組む。東京大学の加藤孝明教授を委員長とし、三菱総合研究所の小宮山宏・理事長ら複数の有識者との議論を重ね、その結果生まれたキーワードが「マイクログリッド」だった。
マイクログリッド―。LPガス業界では馴染みのない言葉かもしれないが、端的に説明すると、限られたエリアにおけるエネルギー(電気)の自給自足を担保する仕組みのこと。有事の際には大規模な電力ネットワークから一時的に配電網を切り離し、そのエリア内の自立した発電設備などによってエネルギーを賄う。
11年の3月の東日本大震災では、大規模な電力ネットワークにつながっていたが故に計画停電を余儀なくされた地域もあったが、マイクログリッド下では、無縁だ。そして、今回のシステムの核となるエネルギーの一つが、LPガス発電設備なのだ。
「周辺は都市ガス導管が未整備で、普段からLPガスを使っています。LPガスは災害に強いエネルギーだと認識しています。スペースに余裕のある箇所にLPガスの電源などを設置して、避難所内のみならず周辺に面的に電力供給するマイクログリッドは有用です」(同)と、市原さんは期待する。
関電工がシステム構築 分散型の本領を発揮
エリア内のグリッドは、市庁舎や学校など30件ほどの施設(一部、一般民家も含まれる)で構成される。そして、一連のシステムは関電工が構築する(22年2月運開予定)。LPガス発電に加えて、市庁舎の屋上には太陽光発電を設置。さらに蓄電池も併設するトリプル発電方式だ。
太陽光発電を最大限に生かし、常に変動する再エネの発電量を、LPガスや蓄電によってグリッド内の電力需給を調整する―。まさに分散型としてのLPガスの特長を最大限に発揮する、究極のエネルギーシステムといえる。