【特集2】産業の脱炭素化担う主力機器 需要の高度化・最適化を促進


カーボンニュートラルの実現には、産業部門の脱炭素化が不可欠だ。官民を挙げて高温度帯の研究が進むなど、産業用HPにかかる期待は大きい。

世界各国でカーボンニュートラル(CN)に向けて電源の脱炭素化が進められると同時に、需要側の脱炭素を図るソリューションとして産業用ヒートポンプ(HP)が改めて評価されている。

工場の熱源にはCO2を排出する重油や都市ガスなど化石燃料が利用されており、日本の工場の熱供給のうち直接加熱が63%、ボイラーなどによる蒸気製造が23%を占める。中でもボイラーは170~200℃の帯域で多く利用されていることから、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は同温度帯域の電化を図るべく、200℃加熱に対応した産業用HPの開発を進めている。

この実証には前川製作所と三菱重工サーマルシステムズの2社が参加しており、前川製作所は最高加熱温度200℃・加熱能力3

00kW級のHP、三菱重工サーマルシステムズは200℃の温水出力でエネルギー消費効率(COP)3.5以上、かつ地球温暖化係数(GWP)の低い新冷媒を使ったHPを開発。200℃帯域のHP開発は世界で唯一の試みで、製品化の暁には世界の脱炭素化を後押しする優れた機器になりそうだ。

産業部門の業種別・温度帯別の熱需要のイメージ
出典:平成29年度新エネルギー等の導入促進のための基礎調査

HP普及に向け技術開発 国産技術が海外で活躍

最先端の機器を導入すれば、当然のことながら産業の省エネは進む。

とはいえエアコンやエコキュートなどの民生用HPと異なり、産業用HPの省エネ効果は利用する環境に大きく左右されるため、需要家も導入を検討しようにも実際にどれだけの効果があるのか分かりにくく、普及が進まない課題の一つだった。そこでNEDOは、HPの導入効果を分かりやすい形で表示する「産業用HPシミュレーター」の開発を進めている。

同シミュレーターは想定しているHPの利用方法、冷媒の種類、定格加熱能力や給水温度、流量などを入力することで、HPのCOP、加熱能力、一次エネルギー消費量、CO2の排出量を見える化。主に自社設備の省エネを図る際に使うことを想定したシステムだが、エネルギーサービス会社が需要家向けに提案する際にも活用可能だ。

【特集2】中国工場でEMSの省エネ実証 海外での事業展開にも光明


【NEDO/横河電機/日本総合研究所/東京電力ホールディングス】

国産省エネ技術の海外展開に向け、NEDOは実証事業を行っている。中国の工場で、産業用HPなど高効率機器が大きな成果を上げた。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、横河電機、日本総合研究所、東京電力ホールディングス(HD)の4者は、中国広東省の工場に産業用ヒートポンプ(HP)など、省エネ設備を導入する実証事業を行った。

この実証では、日本が強みを持つエネルギー技術およびシステムを対象に海外の環境下における有効性を実証することで、民間企業のビジネスチャンスにつなげることが目的。アルミ工場を運営する広東華昌鋁廠有限公司と、紡績工場を運営する互太(番禺)紡織印染有限公司の2工場に対して、HPやエネルギーマネジメントシステム(EMS)を導入し、エネルギー需給の高度化と生産効率を高めながら大幅な省エネを図っている。

CO2削減量は1万㎘超 ランニングコストも大幅減

実証は2017年10月から開始。工場に導入する各種設備の基本設計は、東電HDグループ会社の東電エナジーパートナー(EP)が担った。

広東省仏山市にある華昌鋁廠のアルミ工場では、建築用アルミサッシを製造している。製造過程では防錆のために電着塗装による表面処理が行われるが、塗装時に大量の熱が発生するため冷水で塗装槽を冷却しなければならない。

同社はこれまで定速機とインバーター制御のターボ冷凍機複数台を組み合わせて冷水を供給していたが、エネルギー利用の合理化を図るべく高効率のインバーターターボ冷凍機(三菱重工サーマルシステムズ製)2台と、冷温同時HP(神戸製鋼製)を6台導入した。

冷温同時HPで供給可能な温水は、電着塗装の前工程で行われる前処理工程で使用するようシステムを構築。高効率設備による冷水の供給に加え、冷温同時HPでも温水を供給するため蒸気ボイラーの稼働率を減らすことができた効果で、導入前と比較して年間一次エネルギー使用量は年換算で57%(原油換算で847㎘)、ランニングコストは実績値で年間36%(約154万元)削減した。

同工場は14年からエネルギー管理体制を確立して省エネに取り組む企業ではあるものの、この実証での削減量は過去5年間取り組んできた成果に匹敵するそうだ。

華昌鋁廠に導入したインバーターターボ冷凍機
華昌鋁廠に導入した冷温同時HP