【特集2】都市ガスの新たなインフラ創り 全域への設置完了へ着実に前進

2025年12月3日

【東京ガスネットワーク】

都市ガス業界でスマートメーターの導入が着々と進んでいる。
供給エリア全域設置にいち早く着手した東京ガスネットワークを取材した。

首都圏を中心とした約1200万件への都市ガス供給を担う東京ガスネットワークは、2024年1月から供給エリア全域を対象にスマートメーターの導入を開始した。


現在、既存ガスメーターの検定有効期間満了(検満)による交換、あるいは新設などの時期にスマートメーターへの入れ替えを進めている。今年10月末時点の設置件数は約350万件。全需要家の3割ほどへの導入が完了したことになる。30年代前半には供給エリア全域への設置を終える計画だ。


既存のガスメーターは「マイコンメーター」と呼ばれ、家庭用を中心に供給エリア全域に設置されている。ガス使用量の計量機能に加え、高い保安機能を持っているのが特徴だ。ガス漏れや震度5強相当以上の地震の揺れを検知すると、自動でガスを即座に遮断する。東日本大震災などの災害時には、その威力を発揮してきた。

       無線機能付きマイコンメーター

複数タイプに先行導入 多種多様な通信環境を確認

この既存ガスメーターに通信端末を取り付けたのが、導入を進めているスマートメーターだ。一般的に、メーターは電池で駆動する。そのため、検満までの10年間、電池交換しなくて済むよう、省電力になる通信方式が採用されている。


まず、メーターで計測したガス使用量などの情報は、各需要家のメーター間を転送するマルチホップ通信によって中継器に送られる。続いて、中継器が集約したメーター数十台分の情報をLTE(携帯電話回線)通信網を介し、同社のセンターシステムに送信する仕組みだ。


同社は今回の全域導入を始めるにあたり、19年から一部エリアへの先行導入を実施してきた。最初に設置したのは商業ビルや工場、戸建て住宅、集合住宅など、さまざまなタイプの需要家が混在するエリア。スマートメーター推進部スマートメーター企画グループの滝沢孝一マネージャーは、「業務用、一般住宅用といったさまざまな環境下でのメーターの設置性や通信状況などを確認するためだった」とその意図を説明する。


例えば、メーター同士の距離が離れていた場合、マルチホップ通信ができるかどうかの確認が必要だ。マンションに設置したケースでは、ガスメーターが鉄製のボックスに設置されていたり、構造上の壁が隔たりとなる場合、通信環境が不安定になることも判明した。

課題に直面するたび、仮説を立てて検証を行い、改善策を講じていく―。この積み重ねによって築かれたノウハウが、全域導入に向けた大きな足掛かりへとつながった。

大手3社でシステム開発 維持管理費などを低減へ

将来的なスマートメーターの普及を見据え、20年からは大阪ガスネットワーク、東邦ガスネットワークとともに、システムの共同開発も行ってきた。それがスマートメーターと3社の業務システム間での情報の送受信を担うセンターシステム「SMANEO(スマネオ)」だ。

スマートメーターによる遠隔検針の仕組み


その特徴は大きく三つ挙げられる。一つが通信方式の柔軟性だ。通信業界は技術の進歩が早く、通信方式が刻々と変化する。そこで、通信制御を行う「通信モジュール」と業務に関する情報の保持や処理を担う「業務モジュール」を分離したシステムを構築した。これにより、将来、通信方式が変わっても、通信モジュールだけを修正すれば対応が可能になっている。二つ目が、サーバーの拡張性だ。検満の時期に応じて、接続するスマートメーターが段階的に増えていく状況に対応できるよう、クラウド上でシステムを構築した。


最も苦労したのが、三つ目となる3社共通のインターフェース(API)を作ること。当然ながら、3社が保有する検針・メーター管理や緊急保安といった業務システムが必要とするインターフェースやシステム機能はそれぞれ異なる。そのため、1年近くかけて要件定義に取り組み、3社の業務に必要な機能やインターフェースの共通化を実現した。一方で、共同開発ならではのメリットもあった。同部スマートメーター事業グループの木津吉永マネージャーは、「3社の考えを持ち寄ってインターフェースを構築したことで、自社の業務にも生かせるノウハウや知見が得られた」という。システムの共通化、共同利用で、開発・維持管理コストの低減にもつながった。


こうして、約2年の月日をかけ、SMANEOは無事に完成。22年12月からの東京ガスネットワークを皮切りに、大阪ガスネットワーク、東邦ガスネットワークでも順次、運用が始まっている。最終的に、3社合計で2200万台超のスマートメーターがSMANEOに接続される予定だ。


全域への導入を開始して、もうすぐ2年が経過する。「全てのメーターをつなぐ通信ネットワークの構築は、都市ガス供給事業における新たなインフラづくり。挑戦を重ねながら着実に前進していく」。同部の若狭匡輔部長は語る。同社は今後も目標とする完了時期に向けた設置を着実に進め、安定した運用に注力しながら、業務の効率化や保安・レジリエンスの高度化を図っていく構えだ。

(左から)木津マネージャー、若狭部長、滝沢マネージャー