【視察①】原子力と分散型先進国を行く 仏独のエネ事情の実態調査

2025年12月6日

【エネルギーフォーラム主催/海外視察】

日本で第7次エネルギー基本計画に基づき各政策の見直しが進む中、原子力大国・フランスと、エネルギーヴェンデや地域分散型の取り組みが進むドイツの実情とは―。本誌は今秋、山内弘隆・武蔵野大学特任教授を団長に、仏独のエネ事情を調査する視察団を主催。本誌記者のレポートと団長記でその模様をお届けする。

 10月27日~11月2日、フランスは原子力、ドイツは地域分散型やエネルギー転換をテーマに関連組織・企業8カ所を訪問した。電力・ガス・交通・通信などのインフラ系、メーカー、コンサルなど幅広い業種の19人が参加した。山内弘隆団長は視察先で、日本では第7次エネルギー基本計画でカーボンニュートラル(CN)を前提に現実路線の政策転換を打ち出したことや、電力・ガスシステム改革の検証が進んでいることを紹介。参加者からは多彩な質問が飛び交い、活発に意見交換を行った。


IEAが「原子力復活」強調 原発の出力調整が当たり前

最初に入国したフランスの視察先は、国際エネルギー機関(IEA)、グラヴリーヌ原子力発電所、オラノ社、エンジー社、ジミー・エナジー社だ。皮切りとなったIEAではまず、日本の原子力小委員会でも取り上げられたレポート「原子力の新時代への道筋」の要点を担当者が解説した。強調したのは、近年原子力が力強く復活しているということ。建設中の原発は7000万kW超であることや、データセンター(DC)建設ラッシュを受け小型モジュール炉(SMR)も建設計画が最大2500万kW(検討中含む)と勢いがある。

原子力のレポートを解説するIEAの担当者

ただ、世界的に過小投資が懸念される中、民間がプロジェクトを計画通り実施できるよう、政府による道筋の明示と支援が不可欠だと指摘した。

後半は電化と電力セキュリティについて。プレゼンターのPortugal Isaac氏が注目するのがアイルランドで、執筆中(当時)の報告書の触りを披露した。独立系統下で再生可能エネルギー比率が高く、DC負荷の増大が課題だが、規制を設け新設を再開する方向で「日本にとっても知見となる」とアピールした。

国際動向をインプット後、パリから車で4時間かけ最北部のノール県にあるグラヴリーヌ原発に向かった。運営者のフランス電力(EDF)は2年前に完全国有化された。加圧水型炉(PWR)で6基合計540万kW、同国の電力生産量の約14 %(2024年)を賄う。6基とも運転期間40年超で、新たに2基建設する計画もある。

グラヴリーヌについて説明する発電所長

日本との大きな違いは出力調整を行う点だ。20~100%の間で調整し、同発電所では平均1日2回実施。これは後のエンジーでの話にもつながってくる(団長記参照)。また、設備は何度もアップデートし、福島の教訓も踏まえ、安全性向上に向け14~28年に40億ユーロもの投資を実施中だ。

実際建屋に入ると、日本のサイトより圧迫感がなく、停止した別のサイトのタービンを予備で置けるほどゆとりがあった。


核燃サイクルがビジネスに 総合エネ企業の経営戦略は

翌朝訪れたオラノ社は、核燃料サイクルに関するあらゆる工程を担うグローバル企業で、政府が主要株主だ。日本向けのプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を含め年間6000件の核物質輸送を行う。

再処理施設のラ・アーグではこれまでに4・1万tの使用済み燃料を再処理し、メロックス工場では3200tのMOX燃料を製造。両施設は45~50年まで稼働させ、同時に次世代工場の40年代稼働開始を掲げる。国の支援をバックに、サイクルがビジネスとして成立している点は意味深い。対応者からは、青森県・六ヶ所工場の竣工を願うとのエールも送られた。

続いて世界的総合エネルギー企業のエンジー社で、前身のガス事業中心から、再エネや電力を軸とした「トランジション・ユーティリティ」への転換に向けた経営戦略を聞いた。ただし、特に産業・暖房分野を念頭に「ガスは当面残る」(Dario Acquaruolo・ENGIE SEM GBU幹部)とし、将来的な「脱炭素ガス」への移行の必要性も語った。

世界30カ国で展開するエンジー

後半は欧州の電力・ガス市場に関する意見交換を行った。

その後は原子力スタートアップのジミー・エナジー社へ。高温ガス炉による産業用熱供給という斬新なビジョンを掲げる。Antoine Guyot・共同創設者兼CEOは「フランスでは電気は十分」「ガスより安く熱供給できる原子炉を作るというチャレンジだ」と力説する。日本ではまず出てこない発想であり、その行方が注目される。

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