【視察②】実際目にして得られた再発見 随所に潜む日本への示唆

2025年12月6日

【エネルギーフォーラム主催/海外視察・団長記】

山内弘隆/武蔵野大学経営学部特任教授

「百聞は一見に如かず」。使い古された故事だが、今回の視察の成果は、まさにこの言葉が意味する再発見であった。

フランス・パリで最初に訪問した国際エネルギー機関(IEA)は、1973年の第一次オイルショックを受けて翌年に設立された。IEAの使命はエネルギー安全保障の確保だが、付随的に中長期のエネルギー需給見通しやエネルギー技術・開発の促進も担っている。


フロントからバックエンドまで 原子力大国の実力垣間見る

IEAは1月に「原子力の新時代への道筋」を発表した。世界的に脱炭素が求められる一方で、データセンターや半導体工場の急伸にどう対処するか。同レポートは原子力発電の比較優位性の復活を強調し、エネルギー安全保障というIEAの基本理念に立ち返り、その有用性、重要性を説く。筆者も参加した総合エネルギー調査会基本政策部会での第7次エネルギー基本計画の議論などにおいてもプレゼンがなされた。

改めて詳細な説明をいただいたが、例えば廃炉費用や最終処理に要する費用の捉え方については、日本国内の議論とは若干の隔たりを感じざるを得なかった。IEAの分析を日本国内の議論にどう生かすか、ある意味では一つの課題であろう。プレゼンには日本からの出向者も参加していた。日本におけるコミットの在り方と国際標準的な認識を共有することの可能性に期待したいと思う。

オラノ社でのプレゼンの様子

原子力政策を論じた後は原発自体の見学である。訪れたグラヴリーヌ原発は90万kW級の原子炉6基を有し、世界第5位、欧州第2位、そして西欧州最大の原発である。フランス電力(EDF)が所有し、原子力大国の象徴的存在と言えようか。筆者のような技術的門外漢にとっては、加圧水型原子炉故に内部を間近に観察できたことの意味は大きい。

ただ、ここで感じたのは原発を包摂する周辺自治体の「眼」の差異である。福島の影響は計り知れない。自治体との関係性をいかに再構築するかについて何らかのヒントが得られるのではないかと感じた。

2日目は原発を裏側で支えるオラノ社から始まった。世界最大の原子力産業会社で、旧アレバ社の再編によって生まれた。ウラン採掘から転換、濃縮、再処理といった一連の核燃料サイクルを手掛け、仏政府が主要株主となっている。日本向けのプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料製造・輸送や青森県の六ヶ所再処理施設への技術協力など、日本との関係も深い。

世界的にオラノの役割は大きく、政府出資が社の信頼性や社会における受容性に結びついていることは否めない。視察で明確になったのは、核燃料サイクルの担い手自らが地域との関係性の強化に腐心していることで、同社最大の再処理工場ラ・アーグでは地元の情報委員会などを通じて多くの対話を行っているという。日本でも、民間自ら表に出ることの効果が理解されるべきであると感じた。


電力取引のマイナス価格 日本と異なる電源の運用面

2日目メインはエンジー社。仏政府が4分の1程度の株式を保有し、30カ国・約9・8万人の従業員を抱える世界最大規模の総合エネルギー会社である。日本の電力システム改革の初期にしばしば言及された「総合エネルギー企業」に当たる。同社は国営ガス会社・GDFの民営化により生まれた。英国で旧BGから出発したセントリカにも言えるように、電力との比較でガス会社が持つ顧客接点の近さが市場拡大のエンジンだと論じられる。

エンジーの戦略は、ガス事業中心の企業から再生可能エネルギーや電力を軸とした「トランジション・ユーティリティ」への転換で、三つのユニット体制を取る。①Renewables &Flexibility、②Infrastructure、③Supply & Energy Management―である。

議論で興味を引いたのは、マイナス価格問題である。仏の電力市場ではマイナス価格が採用されている。変動電源による供給過剰時に価格をマイナスにする仕組みであり、マーケットメカニズムの観点からは極めて明快な施策である。日本では制度改革の一環として論じられたが、採用するに至っていない。主な理由は、原子力や一部火力などの出力制御が難しく、価格がマイナスになれば発電側に不利な取引に至る可能性があるためであろう。ではなぜ原子力中心の国でそれが受け入れられたか。同社の説明では、EDFは日中の太陽光過多時に原子力の出力を最大2000万kW削減するという。原子力は出力抑制可能な電源という前提での施策なのである。

フランス最後の訪問先はジミー・エナジー社。2020年に設立されたスタートアップで、小型モジュール炉(SMR)を使用して産業用の熱供給事業を行なう。独自の高温マイクロ原子炉を開発し、CO2を排出せずに産業用熱を提供するとして、26年までの商用化を目指している。こうしたイノベーションやスタートアップが、原子力という既存技術の価値を上げることは間違いがない。

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