【緊急特集 イランショック】アジア太平洋諸国で供給逼迫 石油緊急事態体制への移行が急務 ※期間限定無料公開
ホルムズ海峡の実質封鎖を受け、世界は異次元の石油危機の真っただ中にいる(3月25日現在)。イラン戦争が泥沼化すれば、油価に無制限の上昇圧力がかかる可能性もある。
【レポート:小山正篤/国際石油アナリスト】

2月28日のイラン戦争開始以降ホルムズ海峡が事実上封鎖され、世界需要の2割に相当する石油輸出が滞っている。封鎖状態が続けば、世界はこのまま未曾有の石油供給ひっ迫に陥る。この危機はアジア太平洋、特に日本をはじめとする域内の自由主義諸国を集中的に襲い、経済のみならず、その安全保障に深刻な打撃を与える。ホルムズ海峡封鎖は、巨大な数量の石油輸出を停止させるだけでなく、同時に世界の原油生産余力の大半を無力化する。この重大さを、まず理解せねばならない。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、輸出途絶量は原油・日量1500万バレル、石油製品・日量500万バレルに上る(いずれもイラン産含む)。これに対しペルシャ湾を迂回する追加的な原油輸出は、サウジアラビアが紅海側から最大で日量500万バレル、UAEがフジャイラ港から日量70万バレルとされる。しかし紅海側からの追加量は、3月前半時点で日量約100万バレルにとどまる。フジャイラ港も、3月半ばにイランによる数次の空爆を受けた後、むしろ輸出量は開戦前水準を下回っている。仮に迂回ルートの追加的輸出量を計・日量300万バレルとしても、なお途絶量は世界需要の2割弱に匹敵する。
一方、昨年末時点、世界の原油生産余力の9割がサウジ、UAE、イラク、クウェートの4カ国に集中しており、その全量がホルムズ海峡封鎖によって稼働不能となった。すなわち封鎖が解除されない限り、石油供給は激減した水準で硬直する。

アジア親米諸国を直撃 ホルムズ封鎖影響の実態
桁違いの途絶量と供給の硬直化――。それが過去の石油危機との根本的な違いだ。例えば1979年のイラン革命の際に起きた第二次石油危機では、同年のイランの年間原油生産は日量約200万バレル減少したが、サウジなどの増産によって、中東全体の年間生産量は前年を上回った。今回、そのような機動的生産余力は存在しない。供給途絶に見合うだけの未曾有の消費抑制が一気に必要となる。

*欧州、北米、中南米及びアフリカ
**追加的迂回供給は原油日量300万バレルを想定
しかもこの供給ひっ迫は世界均等に起こるのではない。危機が襲うのは、まずアジア太平洋地域だ。ペルシャ湾からの石油輸出の約9割はアジア太平洋市場に向かい、域内石油需要の約45%に相当する(図1)。迂回ルートでの振替量を加味しても、なお域内需要の35%以上を占める。対照的に、大西洋市場向け輸出量は域内需要のわずか5%相当に過ぎない。
大西洋地域で最大の輸入者は欧州で、22年以降にロシア産の輸入を大幅に減らし、これを主に米国メキシコ湾、中南米、アフリカからの輸入増で代替してきた。紅海岸からも南部海域がフーシ派の攻撃で航行困難でも、スエズ運河経由で地中海に北上するルートは機能する。

*日韓台は原油輸入の中東(オマーン除く)比率
アジア太平洋地域の中でホルムズ海峡封鎖の影響が特に厳しいのは、ロシア石油供給網の外にある、日本を含めた自由主義・親米諸国だ。中東(オマーン除く)産が輸入原油に占める昨年の割合は、日本が9割強、韓国は7割、台湾で約6割だった。国内原油生産を欠くため、この比率がそのまま原油精製に反映される(図2)。
ニュージーランドは国内製油所がなく、豪州も国内需要の4分の3を製品輸入に頼り、その大半が韓国、シンガポール、台湾などを供給源とする。フィリピン、インドネシア、ベトナムも輸入依存度が高い。中東原油のひっ迫は、これら諸国の石油供給に連鎖的な打撃を与える。
他方、アジア最大の産油国である中国では、中東原油の国内精製に占める比率は約35%だ。イランからの輸入が継続し、また1・5億バレル前後と推定されるイラン原油洋上在庫から手当てすれば、影響を一層緩和できる。ロシアも大手供給元だ。需要側でも20年以降に国内EV販売を急伸させ、燃料油消費は既に下方屈曲を示している。
すなわち、中国はアジア太平洋地域の中でホルムズ海峡封鎖に対し最も耐性が強い。ロシア原油輸入に傾斜してきたインドも、比較的優位にある。直撃を受けるのは、東・南シナ海と西太平洋で中国の軍事・外交的威圧に抗する、日本をはじめとする自由主義・親米諸国だ。
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