【記者通信】電力自由化は成功だったのか? 日本経済再生の視点で徹底検証 ※無料公開
1995年に初めて電気事業制度の改革が行われてから30年余り。2016年4月に始まった家庭向け電力小売り事業の全面自由化からは、今年で10年がたった。果たして電力自由化は、私たちに何をもたらしたのだろうか。旧日本開発銀行(現日本政策投資銀行)出身で経済地域研究所代表を務める飯倉譲氏は、エネルギーフォーラムからこのほど刊行した自身の著作『なぜ日本経済は停滞したのか~下村理論で読み解く再生の道』の第7章で、1990年代から続く電力システム改革の経緯をたどりながら、日本の電力政策と経済の関係について検証している。本稿では、その一部を抜粋・要約して紹介する。

電力自由化――米国要請から市場競争の導入へ
電力自由化は、米国の要請を受けて政官民の思惑が交錯する中で進められた。発端は細川内閣時代の「経済改革研究会中間報告(平岩レポート)」(1993年11月8日)に盛り込まれた「経済的規制は原則自由・例外規制」という方針であった。その後、紆余曲折を経て卸電力市場の自由化(95年)、高圧部門の小売自由化と卸電力取引所の創設(2003年)へとつながった。
東日本大震災当時、民主党政権下で需給不安が強まる中、市場機能を電力分野に導入し、市場がうまく機能しなければ政府が介入するのは当然という考え方の下、電力システム改革が議論された。
電力自由化は、市場競争による効率化と低廉な電力の安定供給を掲げて進められた。規模の経済は軽視され、発送電一貫体制は弊害と見なされた。
競争を優先する論調が強まり、供給の安定は二の次とされた。価格競争を通じて安定供給を確保し、消費者は安い電気を選べると強調された。その論理は一見分かりやすいが、投資に時間を要するという現実を無視していた。供給が不足すれば価格が上がり、自然に投資が起こり供給力を形成し、需給は安定すると説明された。その間の電源投資の不確実性には目をつぶる前提であった。
自由化論の主な柱は、大口需要家への需要価格弾力性の導入(料金を通じて需給バランスを調整)、ピーク抑制と過大設備の抑制(予備率の引き下げ)、新規参入の推進(誰でも電源投資が可能)、送電線の開放、小売自由化などであった。実現すれば需要家の選択肢が広がり、競争によって供給事業者の効率化が進み、コスト削減で料金も下がると喧伝された(八田達夫『電力システム改革をどう進めるか』日本経済新聞出版社、 2012年)。
こうして最終的に、発送電分離と小売市場の全面自由化が実現した。
(中略)
市場化の内在問題の顕在化
電力システム改革は官の関与を複雑化・強化し、電気分野の「民間ビジネス機会」を生み出す一方で、安定供給や価格面での消費者利益を実現したとは言い難い。コスト構造の透明性という点でも、規制料金のほうが信頼性が高く、電気という財の性質に適している。コストプラス方式による料金の安定と、責任所在の明確さは、自由化市場よりも優れている。消費者が行政機関に苦情や要請を行っても、実効的な対応は期待しにくいのが実情である。
結論として、自然発生的に形成された発送配電一貫体制を人為的に分割したことは、制度的にも経済的にも非効率であった。電力システム改革(自由化)は、不要な改革であり、日本経済にとって基盤となるエネルギー供給をむしろ不安定化させたと言わざるを得ない。
公益事業体制への再編案
今後の電力システム改革の見直しにあたって、まず再確認すべきは、電力という財の特質である。電気は「電磁場の提供(=同時同量)」という性格を持ち、現代社会においては生活必需品であり、公共財または準公共財に近い。さらに、 19世紀以降技術革新の乏しい財でもある。したがって、自然体で常識的な発想に立ち返ることが重要である。
電気は生産と供給の両面で特殊な性質を持ち、一般的な市場で売買される商品とは大きく異なる。電磁場の提供には需給の同時同量が不可欠であり、供給不足を許さない。そのため、需要予測に基づいた供給設備の整備には計画性が求められ、一部公的関与は当然である。また、電力事業の遂行には慎重な配慮が欠かせない。
電源開発には長い時間を要し、またエネルギー資源の海外依存が続く中では、十分な購買力を持つ調達主体も必要である。このような条件下では、国内市場の創設によって需給の安定を実現するという発想は、実質的な意味を持たない。国際市場への影響も限定的である。さらに、カーボンニュートラルの実現には、再生可能エネルギーだけでなく、原子力発電の開発も欠かせない。困難な事業を遂行できる事業主体と制度設計が求められる。
量と価格の両面で電力の安定供給は不可欠であり、生活必需財という点からも、価格の安定と透明性が強く求められる。多くの消費者は、合理的なコストプラス方式による料金設定を望んでいる。供給企業の利潤最大化は消費者にとって不要であり、市場の思惑や投機による価格変動も望まない。価格とコストの透明性、そして説明責任の確保が最低条件である。
したがって、今後の方向としては、公益事業体制に近い形への再編が望ましい。具体的には次のとおりである。
• 小売:販売は地域ごとの担当電力会社による独占契約とする。地域ごとに販売エリアを設定し、料金はコストプラス方式とする。料金の妥当性は、消費者代表を含む公的審査機関で査定する。現在の多数の小売事業者は、地域担当電力会社に統合する。
• 送配電:発送配電一貫体制を地域担当電力会社の一部門として維持する。
電磁場の提供という財の性格上、取引費用の低減にもつながり、統合体制が合理的である。
• 発電:地域担当電力会社が系統運営上、自社発電設備を持つことを基本とする。電源構成は、当面は化石燃料を併用しつつ、再エネと原子力を政府計画のもとで推進する。供給予備力に応じた電源開発は地域電力会社が中心となり、再エネは自由参入、原子力は公益事業体制の下で実施する。
• 計画性の確保:安定供給に必要な電源および送配電設備の建設は計画的に行う。地域電力会社別の需給計画を包摂した全国的な電力需給計画を策定する。
• 卸電力市場:廃止する。電源保有者による電力販売は、公的監視・勧告の下で、地域担当電力会社への入札方式とする。
以上を踏まえると、今後の電力体制は、電源開発への参入を可能としつつ、発送配電一貫体制の地域担当電力会社(旧9電力を活用)を中核とする公益事業体制が適当である。この仕組みは、近年の自然災害時にも有効に機能しており、安定供給の確保という観点から見ても、発送電一貫体制こそが最も自然で合理的な姿である。
以下、「電力システム改革の帰結――技術革新なき構造改革の限界」へと続くが、そこについては、ぜひ本書をお読みいただきたい。
なお、前自民党幹事長の森山裕衆議院議員は、本書について「高度経済成長を実現した池田勇人首相のブレーンであった下村治博士の視点から戦後から現在に至るまでの経済を振り返るとともに、今後の発展の方策を示したものです。世界情勢が混迷を極める時代において、こうした経済議論を見つめ直すことは、将来の経済の在り方を考える上で大いに参考になるのではないでしょうか」と述べている。


