【論考】世界を襲う「複合石油危機」の実相 迫られる日本のエネ政策転換〈下〉※期間限定無料公開

2026年10月20日

燃料油スポット価格の高騰、トランプ米政権の迷走

中東に加えてロシアからの輸出が阻害され、第3四半期に軽油の国際スポット価格は原油を大きく上回って上昇した。例えば6月から9月にかけて、米国のメキシコ湾岸積の軽油スポット平均価格はバレル当たり約60ドル上昇し、200ドルを超えた(図1参照)。米国平均の軽油小売価格も概ねこれに従って上昇し、9月平均ではガロン当たり6.3ドル(バレル当たり264ドル)に達した。これは1月対比で約80%の上昇となる。

これに対するトランプ政権の対応は、甚だしく混乱している。11月の中間選挙が迫るにつれ、共和党内で国内価格引き下げを目的として、軽油輸出の一時停止を求める声が高まっていたが、9月22日トランプ大統領も禁輸に賛成の意向を表明した。米国は世界最大の軽油輸出国であり、第3四半期の輸出量は日量約170万バレル。その7割以上が中南米および欧州向けで、8月に米国産はEU全体の軽油輸入の約半分を占めた。IEAによれば9月の軽油の世界海上貿易量は対前年比で10%以上(日量約70万バレル)減少して日量450万バレル強。米国の輸出は中東・ロシアの供給減を一部補いつつ、全体量を支える主柱をなしている。

米国が軽油輸出を禁止すれば、中南米・欧州を超えて国際市場全体の供給ひっ迫を深刻化させるばかりでなく、米国製油所の稼働引き下げを通じて軽油のみならずガソリン・ジェット燃料など、燃料油全体の生産を顕著に減少させる。また製油地帯であるメキシコ湾岸地域で軽油在庫が急増して価格が下がっても、パイプライン輸送網から外れた西海岸などではその効果は直ちに波及しない。ガソリンは輸出との競合が激しくなり、全州で価格に上方圧力が加わるだろう。他方、船腹確保や輸出能力に限界が生じれば、原油処理の減少がそのまま輸出増には繋がらず、原油生産減へとつながる可能性もある。要言すれば、世界的な石油供給危機が進行する中で、供給の主柱である産油国アメリカが自ら生産削減する措置は、国際的にも、国内的にも、機能し得ない。

欧州は危機感を強めた。10月2日のG7首脳オンライン会議で、米政府の要求に応じる形で、欧州主導の軽油備蓄の先行放出を含む、4カ月間・計1億バレルの石油備蓄協調放出を決めた。これを受けてトランプ大統領は軽油禁輸の考えを、少なくとも当面は取り下げた。しかしこの数量は、概ね3月に発表されたIEA加盟諸国による計4億バレルの放出の未履行分だ。また10月15日のIEA理事会声明によれば、このうち軽油は2000万バレル超で、減少した海上貿易量の約1カ月分にしか相当しない。中東湾岸およびロシアの精製・輸出能力の早期回復が見込まれない現在、その効果は限定的だ。今回の放出決定は備蓄放出目的、各国の役割、および石油需給政策との整合性が、3月の決定時と比較して一層曖昧で、その場しのぎの措置になっている。

さらに10月9日、トランプ大統領は突如ロシアとの軽油「取引」を発表。ロシア産軽油の販売・貿易・輸送等を対象とした米国の制裁措置を、来年4月初めまで免除した。これに応えてロシア側は10−11月に日量10万バレル相当を輸出する、とされている。これは少量であるのみならず、現水準からの追加量であるかも判然としない。そもそも米国の経済制裁は現在のロシア軽油輸出の低迷とは無関係であり、ロシアとウクライナ間で戦闘が終結しなければ、輸出量の回復は促されない。ただしこの措置がロシア石油輸出に対する制裁措置全体の見直しを伴うものであれば、別の面で意味はあったろう。元来、非ロシア世界が全体としてロシア産石油の供給を必須とする以上、西側自身の石油確保のためにも、ロシア産石油輸出への制裁措置はあえて取るべきではないからだ。しかし米国は9月中旬に「リンゼー・グラム・ロシア・イラン制裁法」を成立させ、ロシア産原油・天然ガスの主要輸入国に高関税を課す措置を取ったばかりだ。また22年成立の「ロシア産石油輸入停止法」に違反として、超党派で批判の声も上がっている。すなわち効果に乏しく、また政策の一貫性も欠く、これもその場しのぎの策だ。

加えて10月11日トランプ大統領は、ロシア・ウクライナ両国が互いのエネルギー施設への攻撃を止める「エネルギー停戦」に合意、と一方的に発表した。しかし両国はいずれも合意成立とは認めていない。ウクライナ側は10日にロシア南部の石油製品貯蔵・出荷施設を攻撃した後、エネルギー施設は避けながらも、12~14日にモスクワ方面を攻撃するなど、ドローンを用いた対ロシア反撃を続けた。一方ロシアは11~14日にかけて連日ウクライナのエネルギー施設を攻撃し、特に14日キーウおよびハルキウに対する大規模な弾道ミサイル・ドローン攻撃では、熱電併合発電所を含む多数のエネルギー施設も対象となり、約60万の電力需要家の停電が報じられた。翌15日にウクライナはモスクワ南東のロシア最大級製油所をドローンで空爆。米政府に軍事情報の共有を拒む動きがあるにも関わらず、対ロシア製油所攻撃再開の戦意を明瞭にした。

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