【業界スクランブル/火力】
新型コロナウイルスの感染の広がりは、1カ月半にわたる緊急事態宣言を経て小康状態となっている。現段階では、これまでの各施策の評価が定まっているわけではないが、ここまでの日本の対応と結果は、諸外国と比較してかなり高く評価されてもよいのではないかと思う。
さまざまな成功要因がある中で、エネルギー、特に電力の安定供給に懸念が生じなかった点は、もっと注目されるべきだと思っている。ステイホームで自宅での調理を増やすにしても、テレワークによる自宅でのウェブ会議を行うにしても、物流や情報通信と同様に電力が下支えすることが大前提となっており、そこへの懸念がなかったことは大きなプラスとなった。
コロナ禍は、地震や台風などと異なり発電設備がダメージを受けることはなく、電力不足など起こるはずがないと思われがちだ。だが実際には、発電事業を継続する上で以下の二つの視点が大きな課題であり、再流行へ備える上でも十分考慮される必要がある。
一つ目は、発電所を運用・保守する上で必要となる人員の確保であり、もう一つは、燃料輸入の安定的継続である。発電所の人員確保については、以前MERS(中東呼吸器症候群)の感染が話題になった時に策定した対応策が功を奏した形だが、定期点検など大型工事については、3密を避けること、および県をまたぐ人の移動を抑制する観点から繰り延べを余儀なくされるケースもあった。このため、発電所の安定運用の継続のためには、運転員に加え日常点検・保守を念入りに行うための現場力がより重要であり、これらは一朝一夕でテレワークに置き換えられないことを理解しておく必要があろう。
もう一点の燃料調達については、わが国の電力の8割はいまだ火力発電であり、その燃料は100%輸入に頼っている。入国制限で訪日客が99.9%減となる中にあって、燃料のサプライチェーンを途切れさせなかった関係者の努力は、もっともっと評価されるべきであろう。(Z)