米大手金融機関が注目するGX情勢 水素や原子力への投資・政策に勢い


【シティグループ】

 世界的に脱炭素の投資競争が加速し、日本でもGX(グリーントランスフォーメーション)が進む中、金融機関は具体的にどんな分野に興味を示しているのか―。

米金融大手シティグループのシティ・グローバル・パースペクティブ&ソリューション(シティGPS)はこのほど、水素と原子力に関するレポートを公開した。両分野に注目した理由として同社は、「水素と原子力エネルギー開発のための投資と政策の勢いは強く、この傾向が短期的に変わることはないだろう」と強調する。

日本でも水素利用の取り組みが各地で進む

ブルームバーグNEFによると、水素関連の資金調達額は2022年、1・1兆ドルに到達。23年初頭にサウジアラビアで85億ドルのプロジェクトが始まったほか、米国では21~22年にかけてインフレ抑制法などにより1・7兆ドルもの投資優遇措置が講じられ、中でも水素関連が目立つ。税制優遇調整後のグリーン水素の純生産コストは、10年後にはマイナスになる可能性もあるという。このほか多くの国でも政府の優遇措置が拡大する。

シティグループのコモディティ・ストラテジストのマギー・リン氏は、日本が注力する合成メタンについても「世界的に勢いを増しているトレンド。大気中から回収したCO2と、再生可能な電力で取り出した水素から製造する合成ガソリンも注目されている」と強調。他方、日本の水素プロジェクトではグリーン水素に限らず、化石燃料由来の内容がある。「豪州から水素を輸入するHESCプロジェクトに16億ドルを出資した動きなどには賛否両論がある」と指摘した。

原子力を巡っては近年、既存原発や新設、さらに先進的取り組みにも投資を支援する方向に転換する。原子力でも、米国のインフレ抑制法や超党派インフラ法が後押し。また欧州のグリーン・ディール産業計画のほか、英国や中国、日本、カナダなどでも規制イニシアチブの制定が進み、公的投資と民間出資の双方を促している。


革新炉や核融合も投資活況 中露はさらなるスピード感

各国で小型モジュール炉や先進型原子炉などの商業化が進むが、ロシアと中国は一歩先を行く。一方核融合は、今後10年間で商業化される可能性が高いという。

日本の原子力政策についてコモディティ・ストラテジストのアルカディ・ゲボルクヤン氏は「休止中原発の再稼働に一定の進展が見られる。また官民レベルでの追加的な資金調達は、次世代原子力エネルギー開発をさらに刺激する可能性がある」と分析。他方、核燃料サイクルについては「特に地政学的リスクの高まりが非常に懸念される。リスク軽減に向けG7(先進7カ国)諸国は追加的な能力を開発すべきだ」ともくぎを刺す。

玉城デニー知事にブーメラン 朝日も皮肉る沖縄のPFAS対応


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

玉城デニー氏らしい。朝日9月27日「PFOS、沖縄県庁から川へ流出、泡消火剤、県は公表せず」である。「発がん性が指摘される有機フッ素化合物PFOS(ピーフォス)を含む泡消火剤が、県庁地下駐車場から近くの川に流出していたことがわかった。県内では米軍基地周辺でPFOSが相次ぎ検出され、県は米側に基地内立ち入り調査などを要請する立場だが、公表していなかった」とある。

前日のNHK電子版によると漏れたのは6月。NHK10月4日電子版「那覇市議会、PFOSなどの流出問題で玉城知事に抗議決議」は、「決議では、(漏れた)久茂地川で検出された数値は国の暫定基準値以下だったものの、流出から3か月たって検査が行われたため、直後はもっと数値が高かった可能性が否定できないとしています」と伝えた。たるんでいる。

PFOSは、メディアが最近盛んに報じるPFAS(ピーファス)という一群の化学物質の仲間だ。基本構造は炭素が連なった鎖で、それをフッ素が覆う。このフッ素のコーティングが水や油を弾き、熱や化学反応に安定な構造を保つ。食材が付かないフライパンの「テフロン」もPFASの一種だ。

用途により、鎖の長さ、つまり連なる炭素数や鎖の末端の化合物を変える。20世紀の前半に初合成され、環境省の「PFOS、PFOAに関するQ&A集」によると、今や1万種以上ある。用途は、エネルギー関連だと太陽光発電パネルの表面保護材やリチウムイオン電池の保護材。さらに基板、配管や冷媒。医療では人工血管やカテーテル。身近では食品包装。PFASに無縁の産業はない。

問題は強みの「安定性」だ。高温焼却など適切に処分しないと環境に残留し、体内に入ると悪さをする恐れがある。特に炭素8個のPFOS、PFOAはやっかい。略称中の「O(オー)」は8を表すoctaからだが、分子サイズのせいか排出されにくく血液中を何年も循環する。Q&A集によれば動物実験で肝機能や仔動物の体重への影響が報告されている。人のコレステロール上昇や発がんとの関連も指摘される。国内の健康被害は確認されていないが、どの程度の量なら危険か安全か分からない。

PFAS発祥の米国では、製造企業がずさんで深刻な飲料水汚染が起き、健康被害も報告されて業界がPFOS、PFOAの製造を自主停止。対応が始まった2000年以降、米国民の血中汚染量は急速に低下した。国際条約(ストックホルム条約)でも廃絶対象とされ、日本も製造・輸入を原則禁止したが、世界に残留品がある。対応しない国の製品も流通し根絶は遠い。欧米はプラスチックに続きPFAS全般を規制強化する方針だ。

日本のメディアや一部政党がこの動きに乗った。特に火器が多く消火訓練などでPFOSが多用されてきた軍施設、それも在日米軍に関連付ければ関心は高まる。例えば読売7月15日は、「米軍基地、PFAS相次ぐ、高濃度検出、政府、立ち入り要請も」と、この観点からPFASを扱う。

冒頭の玉城氏もPFAS対策を公約に掲げる。公式サイトには、基地問題の実績として、「PFAS等の調査と国への要請、安全・安心な水の確保」を挙げる。

基地外は大丈夫か。PFASは半世紀以上、世界各地で利用され、すでに極地でも見つかる。社会や産業を維持しつつ、リスク評価や低減策を進めるには、複眼的な視点が欠かせない。足元さえ怪しい玉城氏は他山の石になる。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【コラム/11月15日】複雑怪奇な制度設計の状況を振り返る


加藤 真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

前回のコラムから、早4カ月が過ぎ、年末に差し迫っているが、今年も電気事業を始め、エネルギーや環境に関わる政策や制度の議論は慌ただしく進み、その様相は、まさにカオスと言える状況にある。

今回は、2023年度の第二四半期を中心に、足元、11月初旬の制度設計について振り返ることとする。

審議会の開催は依然多し

筆者にて主にチェックしている経産省、環境省の審議会などの開催件数は、この7月から10月にかけて105件となっている。昨年の同時期に開催された件数が134件で件数自体は減っているものの、依然として多いことが分かる。

議論の内容も幅広に扱われているが、全体的に、カーボンニュートラル(CN)というゴールを意識した制度設計が増えつつあるのが特徴となっている。

一方で、カルテル事案や情報漏洩問題への対処や内外無差別な卸売など、旧一般電気事業者に係る議題が多く見られ、その分、議論に時間を費やす傾向にもある。

GXは救世主となる政策となるか

この1年ほどのキーワードと言えば、やはりGX(グリーン・トランスフォーメーション)になるだろう。50年CN実現、そして、その前の30年の削減目標を踏まえ、エネルギーの安定供給や安全保障を前提に、脱炭素と経済成長を両立させるという荒技で、まさに産業の構造転換が必要な政策となる。

政府のGX実行会議で基本方針を策定・公表し、5月にはGX推進法とGX脱炭素電源法を成立させ、それを踏まえたGX推進戦略策定まで一気に走っている。

10月に入ってからは、重要施策の方向性や必要な投資額を纏めた先行5カ年アクションプランの検討に入っており、11月8日時点で12件の案が提示されている。

さらに、その先行投資を支える仕組みとして発行が予定されているGX経済移行債については、名称を「クライメート・トランジション・ボンド」としてフレームワークが公表された。くらしと産業のGXを軸に活用することを想定している。既に第三者評価が終わり、年度内には発行予定となっている。

GX戦略では、エネルギーの供給と需要、双方の施策を織り込んでいるが、その中でも一丁目一番地に挙げられているのが省エネである。従来のようにエネルギー利用効率の改善や高効率機器の導入だけでなく、電力需給に応じた最適な使い方や非化石エネルギーへの転換も問われることとなり、需要側の積極性な取り組みが求められるところとなる。来年度の概算要求や総合経済対策を踏まえた今年度の補正予算(11月10日閣議決定)でも、この分野への支援は手厚くなっており、重要性が見て取れる。

水素やアンモニア、合成メタンなど、利用時にCO2を排出しない燃料への転換も重要だが、国内で必要量すべてを製造することは難しく、かつ無尽蔵にあるわけでもないことから、最適な使い方も考えなければならない。

今は土台(基盤)づくりの段階にあるが、これからは実行フェーズに入ることとなる。多くの施策が同時並行的に走ることになると思うが、どれか一つに偏ることなく、産業や生活全般を考えた実施が望まれるところである。

2050年CNというゴール(山の頂)は不変であるが、そこを目指す戦略や戦術(山の登り方)は様々である。リスクとチャンスが混交する中で紆余曲折はあると思うが、企業、個人それぞれが考えて対応することが求められる。

その他の制度設計も盛りだくさん

GX戦略の具体化は国としての大きな政策となるが、足元のエネルギーに関する制度設計についても、多くのことが議論、審議されている。

全てを書くとかなりの分量になるのでいくつかに絞って振り返ることとする。

資源燃料分野

足元の燃料確保では、この冬も電力需給対策としてkW時モニタリング、発電用LNG在庫管理を継続することとしている。もちろんこの裏では、資源外交や不測の事態に備えた事業者間連携など、対応を図っている。

脱炭素化に向けては、水素・アンモニア燃料のサプライチェーン構築や拠点整備に関する支援や保安制度・クリーン基準の策定検討、グリーンイノベーション基金を使った技術開発・実証を着々と進めている。

バイオマス燃料については、持続可能性やライフサイクルGHGの認証に係る議論を続けている。特にパーム油とPKSについては、24年3月31日までに持続可能性の認証取得ができないとFIT/FIPの要件を満たさなくなるが、取得状況は芳しくない状況となっている。

発電分野

ここ数年の課題となっている供給力確保の面では、来年度から契約が発効する容量市場の実務面の準備が進められ、また今年度のメインオークションは現在、入札受付を進めているところである。なお、細かいルール変更については毎年、行われている。

今年度から新たに脱炭素電源の新設・リプレイスを促すために長期の容量収入が得られるよう制度化された長期脱炭素電源オークションは、現在、入札の登録中であり、来年1月に初回オークションが開かれる予定である。業界関係者からは系統蓄電池の申請が多いとの話も聞く。

また、需給ひっ迫対策として必要な供給力を確保するための予備電源制度を設けるため詳細設計を進めている。こちらは一般送配電事業者が確保するため、調達が始まれば託送料金負担が増えることとなる。

各電源種については、火力はゼロエミ化に向けた制度設計を、原子力はGX脱炭素電源法の施行に向けた準備を進めている。

ここ数カ月で動きが多いのが再エネ関連で、GX脱炭素電源法成立を踏まえたFIT/FIPに関する事業規律の強化を進めている。法施行は来年4月となり、具体的な設計ができ上がりつつある。

再エネ関連の事業規律強化はFIT/FIPが軸となっているが、非FIT/FIPも例外でなく、小規模太陽光・風力発電の使用前確認や基礎情報届出の義務化、低圧太陽光発電の柵塀設置義務が施行された。FIT/FIPで適用された新たな規律についても、例えば、補助金を使って行う非FIT/FIPのオフサイトPPA導入にも適用されることが予想されるため、事業者の負荷は更にかかることになるだろう。

再エネ主力電源化の切り札と言われる洋上風力発電については、案件形成促進に向けて、環境アセス制度の見直し、セントラル方式導入に向けた調査、浮体式の実証に向けた海域選定や導入目標などの戦略策定が進められている。

送配電分野

再エネの最大限導入や広域的な電力安定供給を支えるための地域間連系線と基幹系統の増強については、3月に出されたマスタープランも踏まえ、複数の計画が進められている。このうち目玉となっているのが、北海道から東北・東京エリアを繋ぐ海底直流送電の計画である。2030年代前半には日本海側200万kWの敷設を目指し、現在、広域機関で作業会メンバーを増やして検討を加速化している。今年度中に基本要件の設計、来年度には整備計画策定を予定している。

系統運用については、日本版コネクト&マネージとしてノンファーム型接続とN-1電制の受付・契約が進んでいる。次の課題は、これら電源が増えてきた際に発生する系統制約の混雑処理で、今年12月28日からは再給電方式の内容が変更される。今後も、引き続き、最適な処理対策は検討されることとなっている。

系統運用におけるもう一つの課題である需給バランス維持のための再エネ出力制御対策については、現在、短期・中長期に渡る包括パッケージ対策を検討しているところで、10月には骨子案が出された。着目される取り組みは、需要側の対策で、蓄電池や給湯器導入促進、余剰再エネ発生時に電力使用を促す電力料金メニュー提供、上げDRや需要シフトの促進などの取り組みが期待されるところである。

これらを支える託送料金については4月からレベニューキャップ制度が適用されているが、一部、制御不能費用や事後調整費用を反映させるため、10月に各一送から収入の見通しの変更申請が出され、電取委での審査が完了したところである。これを踏まえ、来年度から始まる発電側課金を含む託送供給等約款の変更認可申請が今後、提出される。

発電側課金については、現時点での試算による料金単価と割引単価、割引エリアが提示されているので、事業者の方は早めにチェックしておくと良いだろう。なお、具体的な割引エリアについては、約款認可後に各一送から個別通知される予定である。

電力小売り分野と需要側の取り組み

電力小売については、旧一般電気事業者を取り巻く課題を軸に議論や制度設計が進んでいるのが、最近の特徴である。

カルテル事案や規制料金値上げを踏まえた対象事業者への規律強化・モニタリング、電源及び非FIT非化石証書の相対卸売における内外無差別対応、グロス・ビディング休止などが挙げられる。また、ここ数年で悪化した事業環境改善のためのリスク管理や需要家保護の取り組みも強化される。

新電力にとって、事業収支を左右する要素である電源調達については、上記の内外無差別やベースロード市場の見直しなどもあり、その効果が明確に見えてくるのはこれからになるだろう。

需要家にとっても制度設計は少なからず影響しており、4月に改正された省エネ法や、来年度以降も制度見直しが反映されてくる温対法の算定・報告書・公表制度の対応に加え、CNの取り組みを加速化するために、各種補助政策を使った省エネ機器の導入や再エネ調達、将来的には水素やアンモニア、合成メタンと言った新たな燃料への転換を行われて必要があり、それぞれが利用しやすいものとなっているか、制度設計にも関心を持つことが求められる。

まだ、他にも多くの制度設計があり、ここでは書き切れないが、事業者にとっては全体を俯瞰し、それぞれの制度の関係を見て、自社の事業への影響を見極める必要があり、一方で、需要側の企業にとっては、非常に難しい内容ではあるが、自社経営、特に脱炭素化に向けてハードルとなること、利点となることがないか、チェックすることが必要になるだろう。

【プロフィール】1999年東京電力入社。オンサイト発電サービス会社に出向、事業立ち上げ期から撤退まで経験。出向後は同社事業開発部にて新事業会社や投資先管理、新規事業開発支援等に従事。その後、丸紅でメガソーラーの開発・運営、風力発電のための送配電網整備実証を、ソフトバンクで電力小売事業における電源調達・卸売や制度調査等を行い、2019年1月より現職。現在は、企業の脱炭素化・エネルギー利用に関するコンサルティングや新電力向けの制度情報配信サービス(制度Tracker)、動画配信(エネinチャンネル)を手掛けている。

原子力新時代での役割 イノベーションの母体として


【オピニオン】小口正範/日本原子力研究開発機構 理事長

日本原子力研究開発機構は2050年までに脱炭素社会(サステナブル社会)を実現するという政府の方針を受けて、4月に新しいヴィジョン「『ニュークリア×リニューアブル』で拓く新しい未来」を組織内で共有した。それは改めて機構として進むべき方向性、挑戦すべき対象を明らかにしたもので、大きく3分野から成り立っている。

第一の分野は再エネと原子力エネルギーのシナジーの追求である「Synergy」。これは原子力か再エネかという二元論を排して、両者の長所を伸ばし、短所を打ち消すという方向性で研究開発を進めるというものである。第二の分野は原子力自体をサステナブルにするものである「Sustainable」。それは原子燃料資源の寿命の延長、原子力施設の安全な廃止措置、高レベル放射性廃棄物の再資源化、減容などさまざまな分野で新しいイノベーションを起こす取り組みである。

第三の分野は原子力技術をエネルギーのみならず幅広い分野で社会実装していくものである「Ubiquitous」。私たちはいまだ原子力が持つポテンシャルを全て引き出していない。原子力を医療のみならず材料・素材、あるいは農業や輸送といった幅広い産業分野で活用し、当たり前のように原子力を利用する社会の実現に向けて研究開発を進めていきたい。

機構はこれまで幅広い分野において原子力の研究開発を進めてきたが、それらを再整理して3分野に集約・集中することで、限られたリソースを最大限活用する一方、サステナブル社会の実現という大きな夢の実現を目指す若い研究者たちの受け皿としての機能も果たしたい。

原子力活用における大きなイノベーションは近い将来、諸外国、とくに膨大なリソースをもつ米国において爆発的な進展を見せると予想している。原子力の研究開発、産業化は巨額のリソース投入と長大な時間を要するものであり、もはや一国で全てを賄うのは現実的ではない。これが国際協力を積極的に推進する根源的な理由であるが、これは言い方を変えれば国際競争でもある。これからの国際社会の中でわが国が確固たる存在感を示すためには、原子力技術分野においても自らが国際協力の対象たり得ることを証明し続けなければならない。そのためにもどの分野でフロントランナーとして世界をリードしていくかを見極め、深堀していく必要があると考えている。

「Synergy」「Sustainable」「Ubiquitous」の3分野は相互に重なっている部分がある一方で、研究開発(目標到達)に要する時間軸はそれぞれ異なってもいる。プランニング、リソース配分など主に経営面できめ細かい対応が求められる所以である。しかし、脱炭素社会の実現という壮大な夢を現実化することは、わが国のみならず世界の潮流である。この戻ることのない大きな潮流に遅れをとることなく、世界に発信・提案できるイノベーションの母体として、機構が果たすべき役割はこれまで以上に大きいと考えている。

こぐち・まさのり 1978年北海道大学法学部卒、三菱重工業入社。資金部長、常務執行役員 最高財務責任者兼グループ戦略推進室長、取締役 副社長執行役員 最高財務責任者などを経て2022年から現職。

民間7者のパビリオンを紹介 2025年開催へ本格始動


【大阪・関西万博】

2025年4月開幕予定の大阪・関西万博に出展する民間パビリオンの具体的なイメージが明らかになった。同万博では、13の民間パビリオンが出展を予定しており、10月4日に7者が現時点での構想を発表した。会場には100人を超えるメディア関係者が詰め掛け、注目度の高さを浮き彫りにした。自見英子万博担当大臣は「本日の発表を契機に、万博への盛り上がりが加速していくと確信している」とあいさつした。

電事連など7者がパビリオン構想を発表

七つの民間パビリオンのうち、NTTは次世代通信「IOWN(アイオン)」を体験できるプレゼンテーションを行った。従来の光通信と比べ、低消費電力、大容量、低遅延を実現。工藤晶子取締役は「離れた場所でもすぐそばに一緒にいるような世界を届けたい」と展望を語った。

エネルギー業界からは電気事業連合会、日本ガス協会が発表。電事連は「電力館」として銀色の卵型パビリオンを公開した。廃棄予定の太陽光パネルのガラスを再利用し建設、エネルギーに関する「可能性のタマゴ」を体験できるコンセプトにするという。また、卵型のデバイスを持ちパビリオン内を巡る構想も立てている。

日本ガス協会は「化けろ、未来!」をコンセプトに、お化けをモチーフにした参加型施設を構想。パビリオンの鏡面膜材には、大阪ガスが開発した放射冷却素材「SPACECOOL」を採用し、9月22日にはパビリオンの起工式も行った。建物部材の削減、再生、再利用にも取り組むという。


落合氏による質疑応答 CN実現へ本気度見せる

構想発表会の後半には、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサーの落合陽一氏が、各出展者とのトークセッションを行った。落合氏が電事連に対し、電力館の特徴を問うと「カーボンニュートラル(CN)実現に揺らぎが見える情勢だが、日本としてCN実現へ全力で取り組む姿を世界に見せたい」と意気込みを示した。

日本ガス協会も「なぜお化けをコンセプトにしたのか」という落合氏の質問に対し、「一人ひとりが未来に向かって意識や行動を大きく変えることを化けるという。CNは化けていった先の姿だ」として、CN実現への本気度をうかがわせた。

海外パビリオンの建設遅れや会場建設費の上振れなどが指摘される大阪・関西万博。11月末には開幕まで500日を迎える。エネルギー関連パビリオンがいかに存在感を示せるか注目だ。

PPA先駆者の手応え 市民・民間巻き込み次の展開へ


【地域エネルギー最前線】 千葉県 千葉市

2019年の大規模台風被害を受け即座にエネルギーレジリエンス強化に動いた。

自治体でのPPA先進事例としての知見を生かし、さらに幅広い脱炭素化対応に乗り出している。

あまり知られていないが、千葉市内では日本最大級の「加曽利貝塚」をはじめ約120カ所で貝塚が見つかっている。これは縄文時代から温暖な気候で自然災害が少なく、住みやすかったことを物語る。それだけに、2019年秋に三度の大規模な気象災害に見舞われたことは市民にとって衝撃だった。特に9月の房総半島台風は電力インフラを直撃し、20日間以上にわたり約9・46万件もの停電が発生。その直後の10月の大雨では、市として初めて自然災害により人命が失われた。

これらの教訓から、市は翌年1月に「災害に強いまちづくり」に向けた政策パッケージを策定。柱の一つに電力の強靭化を掲げた。避難所となる公民館や市立学校にPV(太陽光発電)設備と蓄電池を整備する計画とし、その際に活用したのが当時まだ自治体ではメジャーでなかったPPA(電力販売契約)だ。以前から「グリーンニューディール基金」を活用したPV導入などを講じてはいたが、初期コストなしで導入できるPPAの利点により、整備は一気にスピードアップした。

7月中旬に開いたコンソーシアム設立総会

事業の担い手は、東京電力とNTTが共同出資により設立したTNクロス。千葉市の取り組みが同社の初案件となった。オンサイトPPAでの導入実績は140施設、PVの出力規模は8670kWに上る。市は「PPAで先行してきたという自負がある。ほかの自治体から注目され、課題など多くの問い合わせに対して本市の経験を伝えている」(脱炭素推進課)と説明する。

こうした政策の発展版として、市は環境省が実施する「脱炭素先行地域」に、昨年、第2回の公募で選定された。「行きたい」、「住みたい」「安心できる」まちづくりをビジョンに掲げる。


PPAと自己託送で地産地消 モノレール活用した自営線も

さらなる「安心」につながるレジリエンスの強化は、引き続きPPAがベースとなる。オンサイトでは公共施設約200カ所、コンビニなど民間施設約20カ所にPV(約1・7万kW)と蓄電池を整備。オフサイトでは、フロート型の水上PVや営農型PVを導入し、清掃工場での廃棄物発電の余剰電力の自己託送を活用するといった手法で、市有施設などの脱炭素化を実現するため、電力需給を一元管理するエネルギーマネジメントシステムの構築も始めている。

再生可能エネルギーのポテンシャルが限られる都市部の脱炭素化では、広域連携も含め域外からの調達に頼るケースもある。だが同市の場合は、「これまでの政策の特徴や知見を生かし、発展させていく」(同)との考えから、できる限り域内で完結するよう、地産地消の追求にこだわりを見せる。

【マーケット情報/11月10日】WTI3か月ぶりの低値、需給緩和への警戒感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油市場はすべての指標が前週から下落。米国原油の指標となるWTI先物価格は8日、バレルあたり75.33ドルの終値を付け、7月以来となる低値を更新した。

経済の鈍化を示す経済指標が相次ぎ、需給の緩みに対する警戒感が強まっている。

中国国家統計局が発表した10月の消費者物価指数(CPI)は前年比0.2%下落。中国の経済回復が遅いとの見方が広がり、相場の重荷となった。

また、米エネルギー情報局(EIA)は先週発表した原油生産見通しで、2024年の世界原油生産量予測を日量36万バレル上方修正。世界原油需要を日量20万バレル上回るとして、需給緩和に対する警戒感を強めている。

インドからの需要が祝日を前に強まる兆しがあるものの、相場の支えには至らなかった。


【11月10日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=77.17ドル(前週比3.34ドル安)、ブレント先物(ICE)=81.43ドル(前週比3.46ドル安)、オマーン先物(DME)=81.40ドル(前週比6.82ドル安)、ドバイ現物(Argus)=81.48ドル(前週比6.56ドル安)

ジャニーズ問題の教訓 経営にタブーをつくるな


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.20】関口博之 /経済ジャーナリスト

ジャニーズ事務所の創業者による性加害問題が世論の注目を集めている。同事務所は、社名を変更、被害者への補償を行いつつ将来的には廃業する、一方では新会社をつくりタレントとのエージェント契約に移行することなどを発表した。しかし会見での「NGリスト」問題も噴出し、議論は収まる気配がない。世の中、総コメンテーター状態で、CMスポンサー、テレビ局含め右往左往が続いている。この混乱から何をくみ取るべきか。

企業経営の視点から捉えれば、この問題の原点における教訓は「社内にタブーをつくるな、経営にタブーをつくるな」ということに尽きるのではないか。創業者の性加害については過去から告発や暴露があり、事務所が起こした名誉毀損の裁判で事務所側の敗訴という結果も出ていた。今回、経営陣に加わり会見にも出たタレントはこの案件について「得体のしれないもの」と表現した。まさにタブー、触れてはいけないものだ。社内では「うわさ」と片付けられ、メディアも芸能スキャンダルの類いとしか見てこなかった。

ジャニーズ事務所本社(2023月4月)

タブーになり得るのは企業にとって「不都合であり、扱いが難しい」問題だ。

「その話は聞いたことがある」など情報には接していても、確認が容易でない、ならば対応は後回しに、こうした行動様式から生まれる。

今日の経営環境において、こうした危機の種はいくらでもある。例えば原料の原産国側で人権侵害があれば、それを調達した企業も批判される。取引先、業務の発注先が不法滞在者などを雇っていた場合もしかり。もっと大きなレベルでは経済安全保障などの観点から、ある国との関係が不可欠な場合、当該国に何かの不都合があっても企業としては目をつぶるのか。

一方、国内でも工場・プラントの進出に当たっては、誘致を受ければ丁寧な地元対策が必要なこともある。そこに不適切な行為やなれ合いのような関係はないか。もちろん政や官との関係もある。エネルギー業界では風力発電を巡る贈収賄容疑事件も生々しい記憶だ。

ここに挙げたのはあくまで一般論だ。ただ、こういうことが起こり得るという想像力は重要だ。それがいざという時の「感度」になる。必要なのは組織として危機の種をタブーにせず、正面から対処する姿勢、そういう「感度」だ。

「うすうす知ってはいるが、それ以上は何とも……」「聞いた限りではまさかとは思っているのだが……」そんなことが周囲にあれば危ない。こうした言い訳の中から、ある種のタブー視が始まっているのかもしれない。だからこそ重要なのは、社内も社外も含めた経営の透明性だ。

今回の問題を受け、日本取締役協会は「未成年者の人権を尊重する責任」に焦点を当てた、新たなガバナンスコード案をいち早く公表した。事の本質をついた問題提起だ。企業が自らの企業統治を自問する機会とすべきだろう。ジャニーズ問題を芸能界の特異な出来事としか捉えられないようでは、あまりに「感度」が低く情けない。

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2023年11月号)


【中部電力パワーグリッド/系統用蓄電池で系統制御の実証開始】

中部電力パワーグリッドは9月、岐阜県本巣市で系統用蓄電池の活用による設備対策費用の低減を目的とした実証試験を始めた。同社配電系統では、2050年カーボンニュートラル実現に向け、太陽光などの再生可能エネルギーの接続が増え続けている。電源から電力系統への電力潮流が増加することで、水力発電所の安定的運転が阻害されたり、配電線の送電容量を超過するなどの影響がある。この実証試験では、実際の配電系統に蓄電池を設置し、上記の影響の対策工事の回避を目的とした電力潮流の変動抑制などを実現するため、系統用蓄電池の最適な充放電制御技術の確立を目指す。同社は今後も、電力系統の高度化を進め、再エネ導入拡大と設備対策費用の削減に努めていく。

【IHI/火力専焼バーナーのアンモニア火炎可視化に成功】

IHIは、東北大学アンモニアバリューチェーン共創研究所との共同開発で、火炉内では目視で確認できないアンモニア火炎を、特殊なカメラとフィルターを用いた撮影で可視化することに成功した。火炎の形状や動作などを正確に把握することは、アンモニア燃焼技術開発の高度化において極めて重要で、これを新たなアンモニア供給設備の導入で試験能力を拡充した大型燃焼試験設備において確認した。同社は燃焼技術の高度化に向け、燃焼試験からより多くの情報を得て、より正確に実機に反映させることを目指し取り組んできた。可視化に成功したことで、詳細な燃焼状態の確認や計測結果の妥当性評価が可能となり、より信頼性の高いバーナーの開発と実用化につなげる考えだ。

【京セラ/長年の知見を生かし再エネ電力ビジネスに参入】

京セラは10月1日、電力調達・需給管理・電力販売を一貫して行う再エネ電力供給ビジネスへ参入した。国内で初めて、全て自社製太陽光発電システムを使用した供給元から電力を調達し、同社工場や事業所で活用するほか、再エネを必要とする企業への販売も行う。また、太陽光発電での部分供給制度の活用も国内初だ。集合住宅の余剰電力、オフサイトPPAによる電力、オンサイトPPAによる電力供給サービスと余剰電力、住宅向けエネルギーシステム定額サービスの四つの供給元から電力を調達する。同社はメーカーとして長年にわたり太陽光発電システムを開発・製造してきた技術や知見を生かし、サービス提案を通じて脱炭素社会へのさらなる貢献を目指す。

【大和ハウス工業ほか/脱炭素賃貸住宅の実用化へ実証開始】

大和ハウス工業と大和リビング、サンワは、ネット・カーボンマイナス賃貸住宅の実用化に向けた実証実験を今年12月から開始する。この実証は、サンワが事業主の新築賃貸住宅「(仮称)エコンフォート前橋駒形」で実施。約10日間の停電に対応可能な「全天候型3電池連携システム」とカーボンニュートラルLPガスを採用した。設備のエネルギー供給状況などのデータを集め、分析・評価する。3社は、この実証で賃貸住宅の脱炭素化に寄与する構えだ。

【三菱重工業/水素ステーション向け 昇圧ポンプ市場投入へ】

三菱重工業は、水素燃料供給で世界的大手の米国ファーストエレメント・フュエル社と共同し、水素ステーション向け90メガパスカル級超高圧液体水素昇圧ポンプの長期耐久試験で累積250時間の運転を達成した。同ポンプの起動・停止運転を約300回にわたって実施し、約30tの液体水素を昇圧。1時間当たり160㎏の大流量運転を継続的かつ安定的に行った。ボイルオフガスによる水素ロスが少なく、水素ステーション運営の経済性を高める。今後、同ポンプを各国の水素ステーション市場へ投入予定だ。

【神戸製鋼所/水素利活用システム LNGと混焼の実証開始】

神戸製鋼所はこのほど、「ハイブリッド型水素ガス供給システム」の実証試験を今年3月から同社高砂製作所(兵庫県高砂市)内で開始したと発表した。このシステムは、液化水素から冷熱回収ができる液体水素気化器、水電解式水素発生装置(HHOG)、運転マネジメントシステムという三つの製品・技術から構成されている。6月からは試験用ボイラーで天然ガスに水素を供給し、水素混焼の実証試験を始めた。同社はこの実証で、安価で安定した水素供給ができる運転マネジメントシステムの構築を行う構えだ。

【住友商事/EVバッテリー・ステーション千歳の稼働開始】

住友商事は北海道千歳市で「EVバッテリー・ステーション千歳」を完工した。2024年度から需給調整市場・容量市場に順次参入し、北海道を含む広域への再エネ普及拡大に貢献する。電力会社以外の新規民間事業者が広域送電系統(特別高圧帯)へ調整力を提供する、国内初の系統用蓄電システムだ。設備の主要部分にEVバッテリーを用いることで、リユースバッテリーの用途・需要を拡大し、再生コスト低減に寄与する。加えて、蓄電池に含まれる希少金属などの資源を最大限利用し、蓄電池製造時のCO2排出削減にもつなげる。同社は再エネ導入拡大と使用済みEVバッテリーの価値最大化で、脱炭素化を加速させ、持続可能な社会の実現に貢献していく。

【商船三井テクノトレードほか/水素とバイオディーゼルの旅客船が進水】

商船三井テクノトレード出資のモテナシー社が発注し、本瓦造船が建造した、水素とバイオディーゼルを燃料とするハイブリッド旅客船の進水式が行われた。「ハナリア」と命名された。日本で初めて水素燃料電池やリチウムイオンバッテリー、バイオディーゼル燃料から推進エネルギーを選択し航行する旅客船となる。旧来の化石燃料を使用した船と比較して、CO2排出量の53~100%削減を実現する。2024年3月に完成し、福岡県内で営業を開始する予定だ。

【NTTデータ/空調最適化サービス AIを活用した検証】

NTTデータは東京ガス不動産が管理する物件で、HUCAST AIを用いた空調最適化サービスの有償トライアルを行った。室温に最も影響を与える人流と外気温の変化をAIが分析し、室温の変化を未然に防ぐフィードフォワード型の空調コントロールを実現する。8~9月の夏季期間でエネルギー削減効果の検証を行い、9月から商用提供を開始した。

【レモンガス/LPガスや器具販売 22年度優秀者を表彰】

LPガス事業者のレモンガスは、2022年度にLPガス販売やガス器具などの販売で優秀な成績を収めた社員を表彰した。赤津欣弥社長は「(資源価格が高騰するなど)逆風のインフラ業界の中でよく頑張った」と社員たちをねぎらった。最優秀賞は20店以上の販売店向けの卸価格改定を実施し、4600万円上の器具を販売した社員が受賞した。

【日本サーモエナー/排ガスの再循環を制御 CO2濃縮型貫流ボイラ】

日本サーモエナーは、日東電工の協力の下、高分子分離膜によるCO2回収設備向けに、ボイラー排ガスのCO2濃度を従来の約3倍に高めることができる「CO2濃縮型小型貫流ボイラー」を開発した。排ガス中のCO2濃度を高めるには、自己の排ガスを再循環する必要があるが、小規模な民生用ボイラーは蒸気量が急激に変動するため、排ガスCO2濃度を高めつつボイラー運転を追従することは難しかった。同社は蒸気負荷の変動を追従する排ガス再循環制御システムを開発し、この問題を克服。2024年度内に発売する予定だ。

韓国が原子力政策に積極姿勢 日韓・韓日議連総会で浮き彫り


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

日韓・韓日議員連盟合同総会が9月15日、議員会館で開催された。韓国の政権が尹錫悦大統領に代わって急速に日韓関係が改善される中、日本からは約100人、韓国からも約40人の国会議員が参加し、両国の雪解けを象徴するような熱気にあふれていた。

私は、経済・科学技術委員会に参加し、3時間たっぷり休憩も取らずに、万博、経済安全保障、先端科学技術分野での協力、気候変動対策について議論した。韓国側からは、2025年大阪・関西万博に全面的に協力する意思が示され、30年の釜山万博誘致に向けた支持を強く求める声が上がった。日本政府は、韓国支持を明確にしておらず、議連として「釜山がその開催地として決定されるよう日本政府をはじめ関係各方面に強力な働きかけを行う」という特別決議が採択されたのが一つの山となった。

エネルギー政策においては、尹政権は30年に原子力発電の割合を30%以上に拡大する方針を決定している。韓国の国会議員から、小型新型炉の開発などを日本と共同して行う提案が強く出された。もちろん、韓国内でもさまざまな意見があるのだろうが、与党「国民の力」の議員らの原子力への前向きで積極的な姿勢に、日本側の議員はむしろ圧倒されがちだった。

私からはまず福島第一原発の処理水放出について、韓国が科学的アプローチで冷静に対応してくれていることに対し、お礼を申し上げた。その上で、事故を起こした軽水炉以外でも原子力技術は脱炭素にさまざまな貢献ができる。私の地元の茨城県大洗町にある日本原子力研究開発機構の高速炉や高温ガス炉を活用した共同研究を日韓間でより密接に行うべきということを提案した。


博士・修士修了の韓国議員 論理的・建設的な議論

委員会では、大多数の日韓の国会議員は万博やエネルギー政策で建設的な議論を行っていたが、日本の一部の野党議員が脱原発と万博反対を執拗に主張した。そうしたところ、逆に韓国側の議員から「原子力賛成・反対の二項対立ではない。科学的なアプローチによる議論が必要だ」とたしなめられる場面もあった。

委員会に参加した韓国側の議員7人のうち博士号を持っている議員が6人、修士課程修了者が1人。イデオロギーにとらわれない論理的で建設的な議論ができる人たちばかりだった。果たして、日本の国会議員にどれだけこうした議論ができる人材がいることか。

私たちが議論した韓国側の議員は全員が与党、国民の力所属だ。韓国は政権交代によって政策が180度変わってしまうこともある国であることには注意が必要だが、日本の国会においてもイデオロギーにとらわれない科学的見地からのエネルギー政策を議論しなければ、アジアにおいても置いてけぼりになると強い危機感を持った。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

石油供給の鍵を握るサウジアラビア 国際秩序維持へ政策再構築が急務


【論点】ウクライナ・中東の複合危機/小山正篤 石油アナリスト

ウクライナ戦争の続く中、10月に勃発したハマス・イスラエル戦争は中東に巨大な衝撃を与えている。

この混沌とした世界情勢の中で、石油供給の行方の鍵を握るのは、何よりもサウジアラビアだ。

 本稿では、OPECプラスをけん引するサウジアラビアの動きと影響力強化の背景を冷静に考えてみたい。

OPECプラスはOPEC・非OPEC側からそれぞれ10カ国、計20カ国が参加する。2020年5月、コロナ禍の下での異常な需要収縮に対応し、基準量対比・日量1000万バレルの大減産を行った。この基準量は18年10月の生産実績に相当する。以降、生産目標総量を漸次引き上げ、昨年8月には当水準まで回復させた。

しかし、この過程で過半の参加国が事実上「脱落」した。原油価格低迷、供給網寸断の下で投資不足となり、ナイジェリアやアンゴラなど、目標量にまで回復できない国が相次いだ。加えて昨年3月以降、有事のロシアでも原油生産が停滞。既に昨年8月、これら諸国の実生産量は目標量を大きく下回っていた。

このように「脱落組」で生産目標が形骸化したので、昨年11月に名目的な生産目標総量が日量200万バレル削減されても、実際の減産量は8月対比・日量40万バレル。ほとんど報道されないが、対前年比では日量100万バレルの増産だった。

これを微温的と見て、今年5月以降サウジを筆頭に、「有志」8カ国(サウジ、UAE、クウェート、イラク、オマーン、アルジェリア、ガボン、カザフスタン)が日量・計120万バレルを自主的に追加減産。この8カ国こそが実質的なOPECプラスであり、その中でサウジは4割の生産量を占める。7月以降、サウジはさらに単独で日量100万バレルの追加的な自主減産に入った。

10月時点の国際エネルギー機関(IEA)見通しをもとに、これら自主減産を加味すると、今年の世界石油需給は日量約20万バレルの需要超過と見込まれる。昨年は政府在庫の取り崩し分も含めて、日量100万バレル以上の供給超過。それを若干打ち消す展開となる(表参照)。サウジの狙いは、あくまで市場の均衡回復にあることが、ここに見て取れる。


ウクライナ危機後の変動 強まるサウジの主導権

日量1000万バレルを超える原油生産能力を有するのは、サウジの他には米国とロシアしかない。10年代「シェール革命」によって米国の生産量は倍増以上となり、一躍世界最大となった。しかし現在その増産ペースは鈍化しており、安定・減退期を迎えつつある。ここにロシアが「脱落組」となりサウジの主導権は強まった。

ウクライナ危機が国際石油供給にもたらした最大の変化は、それまで一体的な地域市場を形成していた欧・露の分離だ。21年通年と今年第2四半期を比べると、ロシアのEU向け石油輸出量は日量約300万バレルの激減。その振り替え先はインドと中国に集中し、特にインド向けは同期間に日量わずか10万バレル弱から200万バレル超へと激増した。

今年第2四半期、ロシア産はインド原油輸入の実に4割を占めた。対照的にサウジ産の比率は、昨年4月の19%から今年6月には12%へと低落した。中東勢は自らがアジア成長市場から切り離される現状を、いつまでも座視できない。サウジがロシアに石油輸出抑制を促すのは、むしろロシアをけん制し、アジア市場という「縄張り」へのこれ以上の浸透を許さぬ構え、と見るべきだろう。

激化する重要鉱物の獲得競争 「脱中国依存」への対応加速


【論説室の窓】宮崎 誠/読売新聞 論説委員

リチウム、コバルト、ニッケルなどの重要鉱物を巡り、国内外でさまざまな動きが広がっている。
国際競争力の強化や脱炭素実現のため、切れ目のない対応が求められる。

脱炭素社会の推進に欠かせない重要鉱物の需要が世界的に急増している。日本は、「脱中国依存」を目指し、調達先の多様化を急がねばならない。

国際エネルギー機関(IEA)は9月、パリで「重要鉱物・クリーンエネルギーサミット」の初会合を開いた。参加国・地域は連携してサプライチェーン(供給網)の多様化に取り組むことで一致した。今後、重要鉱物に関する専門組織がIEAに設置される見通しだという。

そもそも、IEAは半世紀前の第一次石油危機を契機に、先進国が集まって創設した組織だ。これまで、石油や天然ガスなどの安定確保に取り組んできたが、そこに重要鉱物が加わった。

重要鉱物もエネルギー安全保障の一環として重視される時代を迎えたことを意味する。

重要鉱物とは、リチウムやコバルト、ニッケルなどを指し、電気自動車(EV)用の蓄電池や、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの設備などに不可欠だ。

重要鉱物を安定的に確保できるか否かが、その国の国際競争力を一定程度、左右しかねない。重要鉱物が不足すれば、脱炭素社会の実現も遠のく。

IEAの報告書によると、世界的に脱炭素の取り組みが加速したことで、2022年の重要鉱物の市場規模は3200億ドルに達し、17年からのわずか5年間で約2倍に拡大した。

ただ、重要鉱物の供給源は中国に集中している。IEAによると、重要鉱物の加工段階における中国のシェア(市場占有率)は、蓄電池の生産に欠かせないグラファイト(黒鉛)でほぼ独占状態にあり、コバルトでも7割超に上る。

EV用モーターや風力発電タービンに使われる永久磁石の製造に必要なレアアース(希土類)でも、中国は世界の生産の約7割、加工の約9割を握っている。


中国は輸出規制を武器に 先進国は対抗策を探る

今回の会合にIEA加盟国など約50カ国が参加する中、中国は出席しなかった。だが、会合は中国を強くけん制する場となった。

その圧倒的な市場支配力を用いて、中国は重要鉱物の輸出規制を経済的な威圧の手段として使う姿勢を明確にしているためだ。

中国は、8月から先端半導体などの材料となる重要鉱物のガリウムとゲルマニウムの輸出規制を開始した。国家の安全と利益を守るためとしており、日米に対抗する意図が見える。

重要鉱物は中国が圧倒的シェアを握る

過去には、10年に尖閣諸島付近で発生した日本の巡視船と中国の漁船との衝突事件を受け、日本を狙い撃ちに、レアアース輸出を禁止したこともある。

会合で、米国のグランホルムエネルギー省長官は「政治的利益のため、(重要鉱物での)市場支配力を武器にしようとする有力な供給者がいる」と、名指しこそ避けたものの、暗に中国を批判した。

GX投資を成長戦略に 専門家WGがスタート


脱炭素社会を目指す取り組みを通じて新たな需要・市場を創出し、経済を成長軌道に乗せる―。このグリーントランスフォーメーション(GX)の実現を目指し、政府は投資戦略を具体化するための「GX実現に向けた専門家ワーキンググループ(WG)」を立ち上げた。20兆円規模のGX移行債を原資に、CO2削減に向けた技術開発や、多排出産業の燃料転換といった取り組みを後押しする方針で、同WGでは分野ごとの投資戦略を検討する。

メンバーは、秋元圭吾・地球環境産業技術研究機構システム研究グループリーダー・主席研究員、大橋弘・東京大学大学院経済学研究科教授ら7人。10月5日の第1回会合では、「鉄鋼」と「化学」を対象に議論が交わされた。

課題は、技術革新の不確実性がある中で、経済成長や産業競争力強化につながる分野への重点配分ができるかだ。経済界の関係者は、「将来、どの産業を残すのか。バリューチェーンのどこまでを国内で賄うのかといった視点で、産業政策をバックとした政策・予算にしていかなければならない」と話している。

【覆面ホンネ座談会】洋上風力に立ちはだかる壁 国内産業育成の正念場に


テーマ:洋上風力公募の今後

 洋上風力公募を巡る贈収賄疑惑、さらには進行中案件の運開延期など、さまざまな課題・トラブルが表面化している。国内で洋上風力産業を育成する上で、正念場を迎えつつある。

〈出席者〉 Aマスコミ関係者  Bコンサル  C風力産業関係者  Dメーカー関係者

―洋上風力公募に関する贈収賄疑惑で、日本風力開発の塚脇正幸元社長と、秋本真利・衆議院議員が起訴された。さらに10月17日には、経済産業省が同社と日本風力発電協会に対して指導を行った。

A 塚脇氏と秋本氏の関係は有名な話だ。政府は現在審査中の公募第二ラウンドからルールを見直したが、さらに年末ごろに公募受付開始予定の第三ラウンドを巡り、再度のルール変更があるかがポイント。そしてエネルギー政策そのものへの影響を心配している。洋上風力は再生可能エネルギー主力電源化の切り札で、着実に事業開発が進んできたが、これでブレーキが掛からないか。特に今回の疑惑を受け、立地に前向きだった自治体が方針転換しないかが気がかりだ。

B 確かに、事業者と距離を置く自治体が増えることを懸念している。日本版セントラル方式の行方はどうなるのか。そして政府はこれまでも公募の審査プロセスを慎重に進めてきたが、今回の事態を受けて一層慎重に取り組むことで、事業者が開発に着手できないようになることが、最も憂慮すべきリスクになると思う。

公募を巡る競争が激化する一方、国内での産業育成は課題に直面している


協会は疑惑との無関係を強調 一方で日風開関係の代表理事が退任

C 塚脇氏は風力協会が2000年代前半に発足した当初からの主要メンバーだ。協会は安倍政権時代から、菅義偉官房長官(当時)らに「日本も洋上風力を本気でやらなければ」とたびたび政策提案を行ってきた。超党派議連ができ、さらに国土交通省所管から経産省との共同推進マターとなり、一般海域の利用に向けた公募ルールができた。議連の中心メンバーだった秋本氏も、当初から純粋な気持ちで普及を目指し、北から南まで全国津々浦々に足を運んでいた。

D 商社出身の塚脇氏はリーダーシップがあり、日風開に資源エネルギー庁幹部OBや、(10月18日に協会代表理事を退任した)三菱重工出身の加藤仁氏を呼び寄せるなど人脈も豊富だ。一方、危うい面もあった。協会の活動を加藤氏に任せた後、塚脇氏は自社事業に専念。日風開は案件開発後、事業継続よりも案件の売買で収益を上げるビジネスモデルで、これには大株主のベインキャピタルの意向もあったと思われる。塚脇氏はそうした視点で、自民党内外や金融庁などへの働きかけに奔走していた。

―協会は塚脇氏とは一線を画していた、と。

C 協会は9月に「贈収賄疑惑への関与はない」とHPに見解を載せたが、正直なところだと思う。協会としても第一ラウンドで三菱商事グループが総取りしたことへの懸念を示し、評価では運開時期早期化と地域共生をより重視するよう要望していたが、最終的に価格重視などの方向性は大きく変わらなかった。協会加盟社は本件とは一線を画して、開発環境の一層の整備に取り組まなければならない。

―10月18日、協会は日風開の退会と、同グループ所属の理事・役員の退任を発表した。

D 少し前の段階では、協会主要メンバーの中から、加藤氏の進退などについて何か言う人はいなかったと思う。ただ、経産省の指導は重かった。協会のマンパワーも限られる中、対外的な面から組織をどう変えていくかは大きな課題。特に秋田県知事や北海道の自治体関係者からマイナスな意見が出始めた中、協会の活動への理解をどう広めるかも重要だ。

DERの活用加速へ アグリゲーター団体発足


デマンドレスポンス(DR)リソースや蓄電池の導入拡大を見据え、DER(分散型エネルギーリソース)を活用して卸電力市場や需給調整市場、容量市場といった市場で各種電力価値を取引するアグリゲーター(特定卸供給事業者)が注目されている。

昨年アグリゲーターライセンスが導入されて以降、今年8月7日までに57社がライセンスを取得した。10月6日には、事業者団体として「エネルギーリソースアグリゲーション事業協会」(ERA)が発足、その時点で取得予定も含めた23社が正会員として、またエネルギー事業者やシステムベンダーなど幅広い業種から51社が賛助会員として参加した。

ERAは今後、勉強会などを通じて会員間で国内外の制度動向やセキュリティーの情報を共有するほか、DER活用上の課題や制度面の課題について重点的に議論した上で、制度を所管する経済産業省・資源エネルギー庁などに意見を提起していく。

新団体設立に際し、会長理事に就任した関西電力の子会社E―Flowの川口公一社長は、「系統用蓄電池など、制度面でも定まっていないことが多い。速やかに議論を開始したい」と語った。