【エネルギービジネスのリーダー達】髙倉葉太/イノカ代表取締役CEO
人工の生態系を室内に再現する独自技術で自然環境の保全・研究・教育を手掛けている。
経済活動と生物多様性の両立は可能だとの信念のもと、自然界の循環の最適化を目指す。

サンゴ礁をはじめとする海洋生態系を室内空間に再現する「環境移送技術」を活用し、さまざまな企業と連携しながら自然環境の保全・研究・教育を手掛けるイノカ(INNOQUA)。2019年に同社を立ち上げたのが、当時、大学院を卒業したばかりだった髙倉葉太代表取締役CEOだ。
海洋環境を水槽に再現 企業の環境保全活動支援
「環境移送技術」とは、海洋環境を自然に近い形で水槽内に再現する同社の独自技術。水質や水温、水流、照明環境、微生物を含む生物同士の関係性など、多岐に渡るパラメーターをAI/IoTデバイスで制御することで、任意の環境をモデル化し水槽内に再現することができる。
実際の海で行う調査や研究では、天候などのちょっとした変化で有用なデータが取れなくなってしまう。そこでイノカは環境移送技術を活用し、海の環境を再現した槽内でさまざまな実験を行う「海洋治験サービス」を企業に提供している。
例えば大手化粧品メーカーの資生堂とは、日焼け止めクリームがサンゴに与える影響を調査している。生態系に悪影響を与えない製品を開発できれば、生態系を守るだけではなく企業のブランド力向上にもつながる。また、22年2月には、創業当初から取り組んできたサンゴの人工産卵実験に成功した。自然界でのサンゴの産卵時期は5~6月だが、環境移送技術により冬季の産卵に成功したのは世界初だという。
社名のイノカには、「アクアリウムをイノベートする」という意味がある。同社で働く14人は、エンジニアや再生医療の専門家、水族館でイルカショーに出演していたエンターテイナーなど得意分野はばらばらだが、唯一の共通点が大の生き物好きだということ。髙倉氏自身も、父親の影響で中学生のころから自宅の水槽で熱帯魚やエビなどさまざまな生物を飼育することに熱中していた、自他ともに認める生き物好きだ。
大学院時代はAIの研究に携わっていたが、17年に同社の「チーフ・アクアリウム・オフィサー(CAO)」を務める増田直記氏と出会ったことが起業の大きなきっかけに。そのころアメリカでは、サンゴからがんの治療薬を開発する研究が行われており、研究者と増田氏のような海洋環境を再現できるアクアリストをつなぐことで、医薬品開発などを後押しできるのではないかと考えた。
当初は、環境教育プログラムと一体で水槽をショッピングセンターなどに設置することを主な事業としていたが、20年7月にインド洋モーリシャス島沖で発生したばら積み貨物船「WAKASHIO」の座礁事故が転機となる。重油の流出でマングローブ林やサンゴ礁をはじめ、貴重で豊かな海生生物が生息する生態系への影響が懸念された中、サンゴ礁への知見を生かし、同地の自然環境を保護し、回復させるプロジェクトに参画することになったのだ。
その翌年には、国連主導でTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が発足し、これを契機に上場企業が自然に関連する財務リスクや、事業活動が自然に対して与える影響を開示することに力を入れ始めたことが追い風ともなり、生態系保全の領域でパイオニア的な存在として成長し続けてきた。
自然界の循環を最適化 海外での技術応用も視野
既に2期連続で黒字を達成し、経営が軌道に乗り始めたとはいえ、今はまだいろいろな取り組みが実証実験段階である上に、ビジネスを展開するマーケットの規模も長期的な視点で冷静に促える必要があると見ている。
「僕らが携わったからこそ、この海が守られ、地域の自然も人も豊かになったと言われるよう取り組んでいきたい」(髙倉氏)と言い、自然にも地域経済にもきちんとリターンを返すことでサステナブルなビジネスとして確立していくことが、当面の目標だ。現在は、国内のフィールドを対象にした活動がメインだが、将来は東南アジアなど海外でも同社の技術を応用していく方針だ。
今、地球温暖化に伴う海水温の上昇などにより、水生生物の生活を支えるサンゴ礁や藻場、マングローブなどが消失の危機にあり生態系にもたらす影響は計り知れない。これは、人間の経済活動により自然環境のバランスが崩れてしまった結果だ。
「大事なことは、難しく考えて〝ワンイシュー〟にしてしまわないこと。生態系の循環を最適化することができれば、人間の経済活動と脱炭素化・生物多様性を両立させ持続可能な社会を取り戻せる。元々自然とうまく付き合ってきた日本人だからこそ、その活路を開けるはずだ」と、目指すべき未来を見据えている。


