今夏もまた、東京エリアのみで企業や家庭に無理のない範囲での節電が求められることになった。
だが、電力業界関係者は「冬こそ本当の危機」と口をそろえる。そこにある構造的問題とは。
「東京エリアでは7、8月に限り、無理のない範囲での節電をお願いしたい」
東京電力管内における今夏の厳しい電力需給見通しを受け、西村康稔経済産業相は6月2日の記者会見で、昨年に続き、家庭や企業に対し、生活や経済活動に支障のないレベルでの節電への協力を呼び掛けた。7年ぶりの節電要請となった昨夏は全国を対象にしていたが、今夏は同エリアのみだ。
電力広域的運営推進機関が5月29日に取りまとめた7~9月の電力需給見通しによると、10年に1度の猛暑を想定した場合の予備率が、7月は北海道・東北5・2%、東京3・1%、中部・北陸・関西・中国・九州9・8%、四国11・2%。8月は北海道・東北7・6%、東京4・8%、中部11・7%、北陸・関西・中国11・9%、四国14・4%。9月は北海道・東北15・8%、東京5・3%、中部7・8%、北陸・関西・四国11・3%、九州18・5%―となる見込み。
いずれの月も、各エリアで安定供給に最低限必要とされる3%以上を確保できるものの、原子力が再稼働し10%程度を確保できる西日本に対し、東日本は7、8月が軒並み低水準。特に東京エリアは、厳気象対応の「電源′Ⅰ」や火力の増出力運転、エリア間融通に加え、「kW公募」による追加供給力(57・6万kW)の確保といった対策を講じてもなおギリギリで、ひときわ厳しいと言わざるを得ない様相だ。
供給力不足による需給危機 夏よりも冬に顕在化
こうした東京エリアの厳しい需給状況について、電力業界関係者は、「JERAの発電所の休止中火力が、中部エリアではなく東京エリアに集中している。他エリアよりも、早急に休廃止を進めてきただけに、その影響が需給のタイトさに表れている」と指摘する。
原子力発電所が停止して以降、同エリアでは追加的な供給力として期待されるLNGや石炭火力の新規投資計画が相次いで立ち上がったものの、さまざまな要因でことごとく頓挫してしまった。一方既存火力は、再生可能エネルギーの導入量拡大による稼働率低下や、卸電力価格の下落で不採算化。不良資産の廃止に迫られた結果、供給力の減少に歯止めがかけられない事態に陥っているというわけだ。
とはいえ、電力業界関係者の多くは、東京エリアも含めた今夏の需給については比較的楽観的に見ている。厳暑に対する予備率は確保できている上、夏は電力需要のピークと太陽光の発電ピークのタイミングが重なるため、地震などの不測の事態で火力が大規模脱落するような事態にでも陥らない限り、電気が不足することは想定しづらい。
むしろ、本格的な危機が到来するのはこの夏を乗り切った後だとの懸念が強く、大手電力関係者の一人は、「冬は絶望的かもしれない」と危機感を露わにする。夏とは逆に、冬は悪天候で太陽光の出力がゼロになる時間帯に需要が増大しかねず、どうしてもLNG火力頼みとなる。

また、住宅の屋根上への太陽光設備の導入が進んだことで、太陽光の出力が減少する点灯時間帯にどれだけ需要が増えるのかを精緻に予測することが年々難しくなっている。再エネの出力抑制回避のために火力の出力を可能な限り下げていることもあり、供給力が需要に追い付かず需給バランスが崩れてしまうリスクも高まっている
冬の需給に向け、もう一つの懸念材料が燃料問題だ。昨年、世界を襲ったエネルギー高騰から一転、天然ガスや石炭などの化石燃料や電力の市場の価格はすっかり落ち着きを見せているが、6月に入って欧州のガス・電力価格が上昇に転じたのだ。
「今のトレンドは、燃料制約で需給ひっ迫が生じ、電力価格が高騰した21年の状況に似ている」と語るのは、別の大手電力関係者。21年よりも燃料の貯蔵水準は高いとはいえ、当時と比べロシアから欧州へのガス供給が大きく絞られているだけに、供給側のトラブルや中国の経済回復による買い占めなどが起きれば、一気に需給がひっ迫し、今は安定しているJKM(北東アジアのスポット価格指標)や日本の電力市場価格も、再び高騰する可能性が十分にある。