【オピニオン】伊藤 菜々/電気予報士電力系ユーチューバー
2050年脱炭素を目指して、再エネという言葉をよく耳にする。脱炭素は必ずしも再エネとイコールではなく、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること。再エネはCO2が出ない発電として世間から応援されがちだが、あまり応援されない原子力発電もCO2は排出せず、燃料も一度輸入してから約10年使える純国産のベース電源として活用できるエネルギーだ。3.11以前は日本のエネルギー自給率を上げるために原子力の比率を高めていたが、その後ベース電源としての役割は火力発電に置き換わった。過去に経験したオイルショックやロシアウクライナ問題での化石燃料価格高騰により、日本の電気代は値上げせざるを得なくなった。輸入燃料に頼らないことで経済性も保つという観点で、原子力の活用は真剣に取り組むべきだろう。
また再エネには課題があり、太陽光や風力は自然の気候に、バイオマスは木材や廃棄物の取集状況に左右されるため、発電が歪であり出力を需要に合わせることができないことがある。そこで重宝されているのが、出力調整が細かにできる火力発電。電気は需要と供給を瞬間で一致させる必要があるため、揚水発電や系統用蓄電池などで対応している部分もあるものの、まだまだ調整できる容量が足りず火力発電のような調整力が必要になる。つまり、同時同量を叶える調整力を確保すること、エネルギー自給率を保てること、温室効果ガスの排出を減らすことという幅広い観点から、エネルギーバランスが重要なことが分かる。
脱炭素といえども、必要な時に電気を使えるという安定供給なくしての達成は元も子もあり得ない。そのためには発電、送電、需要側が協力して安定供給や再エネを最大限活用するための行動が必須だ。再エネ導入をしてもそのエリアで活用しきれず出力抑制が起こる。送電線の増強も必要だが、まず再エネの発電に合わせて需要をタイムシフトしたり、需要を作ることが第一。送電線の増強やインフラの保守面では、電力系の専門職や工事作業の方の人口減少が深刻で、待遇の改善や電力の素晴らしさを広く伝えていくことも必要だろう。
また日本の電気は三相交流といい、これは火力や水力、原子力などが持つ回転系の発電機からつくられるリズムの良い波形で、回転系が多い時代は慣性力に支えられていた。しかし変動性再エネや需要側にもインバーターが増えたことで慣性力が低下し安定供給を脅かしてるため、再エネのインバーターに疑似慣性力を持たせたり、需要側にも高調波対策として直列リアクトルを設置するといった対策が必要になる。電気は目に見えないと言われるが、物理的に電子が波形をつくり時間のタイミングである位相を持って移動する。それをいかに効率良くかつ一般的に使いやすい形にするかが大事であり、多方面から考える必要がある。 脱炭素と安定供給を達成するにはこの広い範囲を協調して乗り越える覚悟が必要だろう。
