【業界紙の目】津田建二/セミコンダクタポータル 編集長
変動性再生可能エネルギーを電力網に組み込むためには、実は半導体が欠かせない。
半導体で変動をリルタイムで検知、ストレージし、自動で平準化するシステムの構築が必須だ。
再生可能エネルギーではソーラーや風力、水力発電などが使われているが、火力や原子力と比べるとその割合は18%とまだ少ない。環境先進国のドイツは35.3%、英国は33.5%であり、中国でさえ25.5%もある(資源エネルギー庁の「日本のエネルギー2021年度版『エネルギーの今を知る10の質門』」より)。ソーラーや風力は変動が大きいという欠点があるが、燃料コストは無料であり、資源豊富な国の政策に左右される心配はない。
変動の大きさが欠点だとは広く理解されているが、それを精密に制御できるのは半導体であることはあまり知られていない。パワー半導体を使えば、正確な50Hzあるいは60Hzの電力を作り出せるし、損失の少ない直流送電も容易に実現できる。特に高電圧に強いSiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒素ガリウム)は、再エネの精密制御にぴったりのパワー半導体であり、送電の損失減に資する。
既存の日本の送電網では、再エネから50Hzあるいは60Hzにピタリと合う交流を作り出す必要がある。そうしなければ電力網の6600Ⅴなどの交流架線に戻せないからだ。戻す時にはもちろん、交流と同じタイミングの位相で載せる必要がある。周波数がずれてしまえば大電力の振幅が拡大されてしまい、逆潮流を起こし停電に至る恐れが出てくる。だから50Hz/60Hzといえども位相のズレを誤差範囲以内まで精密に制御しなければならない。
電圧の精緻な制御の肝 パルス幅を変える技術
電力関係者には釈迦に説法であるが、簡単にパワーエレクトロニクスを使って交流電力を作り出すPWM(パルス幅変調)を紹介しよう。PWMとはパルスの幅を変えることで平均交流電圧を変化させる技術で、パルスの幅が広い時は高い電圧、幅が狭い時は低い電圧を作り出す。より厳密に言うと、パルスのデューティ比(1周期におけるオン/オフの比)を大きくすると高い電圧、小さくすると低い電圧を作り出すことができ、連続的にデューティ比を変えれば、低い電圧と高い電圧を繰り返す正弦波を作ることができる。
パルス幅あるいはデューティ比を変えるのはマイコン(マイクロコントローラ)からの命令である。マイコンはデジタル信号しか出さないが、PWM制御された電力波形を出力するのはパワー半導体である。
では、デジタルのマイコンからの1あるいは0だけのパルス出力でどうやってパルスの幅を変えるのか。そのためにはより細かいパルス幅が必要だ。
例えば1µs(100万分の1秒)の単位パルスを1000個出力すると1ms(1000分の1秒)のパルス幅になり、10個では10µsの幅になる。つまりデジタルで細かいパルスを作り出せる回路があれば、マイコンからの命令で出力パルスの幅を変え、精密に制御することができる。
パワー半導体はマイコンからの指令にもついていけるような高速動作が求められる。ここでパワー半導体としてIGBT(絶縁ゲート型バイポーラー半導体)ではなく、SiCやGaNなどを使ったMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果半導体)を使えば、より高速のスイッチングパワーデバイスができる。
蓄電や長距離送電でも 活用場面広がる
再エネから生まれた電力を50Hzないし60Hzの高電圧交流に変換することで、電力網の架線に電力を送ることができる。電圧が高いところから低いところに電流は流れるため、必ず高電圧に上げる必要がある。これも半導体を使って昇圧する。
電力網の架線に送った電力を平準化するためには、再エネだけでなく、蓄電池からの電力を夜間などに供給し補うことが必要になる。この蓄電池からのグリッドインテグレーションにもパワー半導体やマイコンが必要になる。直流の蓄電池を交流、それも正確な50Hzないし60Hzの交流に変えなければならないからだ。
半導体は再エネ大量導入時代に欠かせない
今後再エネの柱として洋上風力が期待されているが、送電距離100km以上の長距離電力輸送には直流送電が欠かせない。交流は正負の電力を繰り返すロスが大きいが、直流は一方向に進むだけなので少ない。
例えば国土が広いブラジルでは、北部の水力発電所から南部のサンパウロやリオデジャネイロなどの都会まで数千kmに渡る直流送電が使われている。直流送電は発電された交流電力を直流に変換して電力網へ供給するが、その変換にも半導体が使われる。
大電力の分野では少しのロスも許されず、交流から直流の変換にも半導体を使って効率を高める工夫が求められる。また、送電の終点では再び50Hz/60Hzの交流に戻さなければならない。交流から直流、直流から交流へのいずれの場合も、パワー半導体を使って変換する必要がある。
ではどのような半導体があるのか。簡単におさらいすると、パワー半導体では小電力用途ならパワーMOSFETで、電動工具や掃除機、冷蔵庫などの白物家電の効率を上げる。中電力となるとIGBTを使い、大電力だとサイリスタが使われている。なお、サイリスタはオン・オフ動作の回路がやや複雑になるが、ここにSiCやGaNなどの化合物半導体を使えば、回路を簡単にできる上に効率をさらに上げることができるようになる。
もちろんパワー半導体だけではなく、マイコンでデジタル制御も可能になってきたため、遠隔地や本社からの制御もリアルタイムで出来るようになる。
再エネの変動性という欠点を半導体が救うことになれば、カーボンニュートラルに向け化石燃料の削減に大きく寄与する。もっと多くの種類、多くの量の半導体の活用で効率を上げ、再エネ主力電源化へとシフトすることは、ハイテクニッポン再生への道にもつながる。脱炭素の原動力はハイテクであり、その中核となる半導体のさらなる活用が今後期待される。
〈セミコンポータル〉〇2001年2月開始〇半導体および関連産業向けの半導体情報に関する会員制ポータルサイト。技術や製品、市場動向などを発信。