【現地ルポ/4月25日】下北の原子燃料サイクル施設〈後編〉六ヶ所再処理工場の最新事情


エネルギーフォーラム取材班がRFS施設取材(記者通信/4月23日)前日の4月17日に訪れたのが、青森県六ヶ所村にある日本原燃(増田尚宏社長)の原子燃料サイクル施設だ。下北半島の南東部に位置する広大な敷地には、使用済み燃料の再処理工場をはじめ、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターやウラン濃縮工場、MOX燃料工場など原子燃料サイクルに関係する重要施設が集積する。中核となる再処理工場は2026年度中のしゅん工を目指しており、翌27年度中にはMOX燃料工場がしゅん工する計画だ。厳重なセキュリティチェックを経て、サイクル施設の現況を取材することができた。

再処理工場等の全景。工事の進捗によって状況は日々変わる(原燃提供)
日本原燃本社の外観
六ヶ所原燃PRセンターから望む再処理工場

【現地ルポ/4月24日】居住人口わずか180人…… 双葉町の苦闘と再生の道


東京駅から特急列車に揺られること約3時間20分。福島県の双葉駅に降り立つと、静かにたたずむ旧駅舎と新しく建てられた町役場が、この地の複雑な過去と未来を物語る。福島第一原発事故で全町避難を余儀なくされた双葉町での居住が可能になってから2年半──。復興には課題が山積している。

茶色のレンガが特徴的な旧駅舎

2011年の東日本大震災後、東京と仙台を結ぶ常磐線が全線開通したのは20年3月のこと。避難指示の一部解除を受け、運転を見合わせていた富岡~浪江間での運転をようやく再開したのだ。双葉駅は茶色いレンガが特徴的な旧駅舎を休憩スペースとして併設している。その向かいに、22年に完成した双葉町役場がある。

真新しい双葉町役場

福島第一原発5、6号機が立地する双葉町は、原発事故の影響で「全町避難」を余儀なくされた。14年までは埼玉県、22年までは福島県いわき市に役場機能を移転。22年8月に国が除染やインフラ整備などを集中的に行う区域特定復興再生拠点区域内の避難指示が解除され、住民が居住できるようになった。

住む場所がない 多くの町民は戻らず

駅から太平洋に向かう県道254号線は「復興シンボル軸」となっている。道の周囲を見渡すと、当時のままの建物が点在している。時計が14時46分で止まっていたり、部屋の中が散乱していたり……。この区域に限らず、双葉町の建物は長期間にわたって人が立ち入らなかったため、野生動物の侵入などで損壊した。

「復興シンボル軸」となっている県道254号線
消防団の施設は「あの日」のまま……

津波被災地に整備された復興産業拠点には24社が進出した。そこで働く人々は双葉町に住むのが便利だが、場所がないために町外に住まざるを得ない。新たに家を建てたいという希望者は多いが、建築資材の高騰などにより、民間での住宅建設は進んでいない。町営住宅の跡地に建設された約40戸のアパートも満室で、空室待ちの状態が続いている。

双葉町の伊澤史朗町長は「住みたいという人がいるのに場所がないことは、町にとって大きな損失だ」と危機感を募らせる。

一方、全国の避難先に散らばった双葉町民の多くは戻ってきていない。現在の居住人口は約180人で、震災前の約7100人と比べるとごくわずかだ。それもそのはず、震災後の14年にわたり、多くの町民は避難先でそれぞれの生活を送っている。仕事や子育ての環境を考えると、故郷に戻るという決断は容易ではない。震災当時、双葉町に住民票があった人が新たに自宅を再建する場合、800万円ほどの補助を受けられるが、制度を利用する人はまだ少ないという。

「それでも、戻ってきてもらうための取り組みは続けていかなくちゃいけない」(伊澤氏)

東電と共存の歴史

254号線をさらに進むと、左手に真新しい建物が見えてくる。20年に開館した東日本大震災・原子力災害伝承館だ。館内の史料を見ると、東京電力が夏祭りへの参加や「書道コンクール」といった地域事業の主催など、双葉町や大熊町といかに共存してきたかがよく分かる。原発事故という負の側面だけでなく、フラットな視点で立地自治体の歩みを振り返っていた。

地域共生の歴史や復興の道のりを伝える東日本大震災・原子力災害伝承館

近年、国内原発の再稼働が進んでいるが、双葉町の復興は始まったばかりだ。将来の電力供給に目が向けられる今こそ、被災地の歩みに真摯な眼差しを注ぐべきではないか。

【記者通信/4月23日】検証なきエネ代補助継続の異常事態 省エネ支援強化へ切り替えを!


石破茂首相は4月22日、物価高対策としてガソリン価格の10円値下げと7~9月の電気・ガス料金の補助を表明した。実質賃金上昇までの「暮らしの下支え」というが、何度も繰り返される補助金の延長・復活で、国民は補助金の支給が当たり前のような感覚に陥っている。エネルギー販売が全面自由化された現状において、その価格は本来、事業者が市場動向やコスト水準などを総合的に判断しながら決めるべきものだ。巨額の補助金支給による経済効果の検証もせず、政治的事情などで国が関与し続けるのは異常事態と言っていい。省エネ支援策の強化・拡充など、国民への恩恵と共に経済波及効果が見込める予算の使い道に切り替えるべきだ。

政府はこれまでレギュラーガソリンの全国平均価格が185円程度になるように抑制してきたが、この基準値を撤廃。1ℓ当たりの下げ幅を10円に固定する。仮に170円なら160円に抑制されることになり、5月22日に開始予定だ。4月上旬に自民、公明、国民民主の幹事長が、6月から来年3月末までのガソリン価格を引き下げるため、対応策を実施することで合意していた。

だが、足元のガソリン価格は落ち着いている。4月17~23日には翌週の価格が185円を下回ると予想されたことで、補助金の投入を初めて見送った。石破首相は「現在の185円程度の水準であれば、175円程度になる。ロシアがウクライナへの侵略を開始した直後のガソリン価格の水準まで引き下げられる」と胸を張るが、原油安などで値下がり局面にあるうえ、原油輸入価格であるCIF価格が現在と同様の水準だった2014年には、補助金を支給せずとも160円台で推移していた。こうした事情から、国費の投入継続を巡っては疑問視する向きが少なくない。

夏→冬→夏と復活

一方、電気・ガス料金の補助は今年3月分で終了していたが、昨年の「酷暑乗り切り緊急支援」と同様に復活することになった。

昨年は通常国会の閉会間際に行われた党首討論で、立憲民主党の泉健太代表(当時)が「エネルギー補助金は続けるべきだった。復活すべきでは」と発言。その直後に岸田文雄首相(同)が復活を命じ、経済産業省の幹部が「急な話で、びっくりしている」と驚いたという報道が話題となった。

今年も与党が支援策を打ち出さなければ、野党の攻撃対象になりかねない。7月の参院選を前に、政治的事情で復活せざるを得なかったのが実態だろう。ただ、標準家庭の電気・ガス料金は約2000円程度の値引き額にすぎない。

カーボンプライシングに逆行

一連の補助金は「一度打ったらやめられない麻薬」として、延長や復活を繰り返している。これまでに投じられた国費は10数兆円にも上り、国家予算の10分の1に匹敵する。業界関係者からは「もはや大型減税」「税金の還付」など呆れた声が漏れる。そもそも、3年間にわたる巨額補助金の効果を巡る第三者検証が全く行われないまま、だらだらと続いている状況は異常としか言いようがない。

ここまで常態化するのなら、経済効果が不明で恩恵を感じにくい補助金方式より、実質的な「減税」として再エネ賦課金徴収の抑制・一次停止などを打ち出した方がインパクトは大きかったはずだ。また、EV・プラグインハイブリッド車などへの買い替え支援や高効率エアコンなど省エネ家電への買い替え支援の拡充のほか、建物の断熱改修支援の強化といった、省エネ推進・強化によってエネルギー代を抑制する政策の方が経済への波及効果が期待できよう。

「国民生活支援のため、単純にエネルギー価格を抑制する政策を取り続けていることで、脱炭素化に向けて化石エネルギー価格を上昇させるカーボンプライシング政策にブレーキが掛かっているのは間違いない。反温暖化派はさぞかし喜んでいることだろう」。経産省OBはこう皮肉る。

真の困窮者を救うには

予算を抑えるため、低所得者世帯に絞った支援を求める意見もある。ただ所得区分や住民税非課税世帯で支援対象を決めると、その多くを高齢者が占める。すると、多額の資産を持つ高齢者が恩恵を受けられる一方で、現役世代が支援の網からこぼれかねない。

「真に困窮している人」へのきめ細やかな支援を実現するためには、資産調査の導入・強化など、総合的な経済状況を把握できる仕組みの導入が求められる。今回の物価高を契機に、今後起こり得る有事に備えて、こうしたシステムの検討も考えられよう。

いずれにしても、政府・与党は第三者機関によるエネルギー料金補助の検証作業を通じて、国民経済的に効果をもたらす新たな支援策の検討が求められている。

【現地ルポ/4月23日】下北の原子燃料サイクル施設〈前編〉 使用済み燃料を中間貯蔵するRFSを特別取材


東京電力ホールディングスが80%、日本原子力発電が20%出資する国内初の使用済み燃料の貯蔵施設「リサイクル燃料貯蔵(RFS)」(青森県むつ市、高橋泰成社長)が昨年11月に1棟目の貯蔵建屋で事業を開始した。現在は、昨年9月26日に東京電力HD柏崎刈羽原子力発電所(KK)から搬入された金属キャスク1基(沸騰水型原子炉=BWR=燃料69体分)が保管されており、今後順次受け入れを増やしていく計画だ。2011年3月の東日本大震災以降、停滞が続く原子燃料サイクル政策にとって、久々の明るい話題である。ただRFSは地元との協定で「事業開始から最長50年で金属キャスクを全て搬出」することが決まっており、1棟目については施設閉鎖へのカウントダウンがすでに始まった格好だ。KKや日本原電の原子力発電所が再稼働しないことにはRFS本来の目的が達成されないわけで、「宝の持ち腐れ」(電力関係者)とならないよう原子力事業の正常化に期待がかかる。なお、RFSでは使用済み燃料を扱うことによる安全上の理由から厳しいセキュリティ体制が敷かれており、一般の視察・見学などは広く受け入れていない中、エネルギーフォーラム取材班は4月18日に特別の許可を得て、施設内部を取材することができた。

RFS施設内にある貯蔵建屋の外観(RFS社提供)

施設完成で原子力発電の持続可能性が高まる

RFSは「中間貯蔵施設」とも呼ばれ、原子力施設が集まる青森県下北半島の北部、津軽海峡に面する海沿いに位置する。出資企業である東電HD、日本原電の両社の使用済み燃料の保管が目的だ。昨年11月に、KKから受け入れた1基目の金属キャスクについて原子力規制委員会から使用前確認証の交付を受け、事業がスタートした。

原子力関係では、2011年の福島第一原発事故の後、新しい重要施設の新規稼働はなかった。このリサイクル燃料貯蔵施設は、新規制基準の施行後に初めて運用が開始される新施設だ。しかも核燃料サイクル政策の一翼を担うものであり、事業者にとっても原子力発電の運用をより柔軟にし、持続可能性を高める重要な意味を持つ。

原子力発電で使われた使用済み燃料はこれまで、原子力発電所内の貯蔵プールや敷地内の施設の金属キャスク(容器)で乾式保管されてきた。各発電所の規模や設備、運転状況などで違いはあるものの、その保管可能な量には限界がある。RFSは、発電所の外でそうした燃料を大規模に保管する初の施設となる。東電HDと原電は、原子力発電を今後運営する際に、使用済み燃料の保管場所に余裕ができたわけで、貯蔵場所の問題に悩むことなく原子力発電所の運営が行えるようになる。さらにRFSでの安全な運営の実績、また技術や経験の蓄積は、各電力会社がこうした中間貯蔵施設を建設・運営する場合にも役立つものだ。

【記者通信/4月21日】KK県民投票条例が否決 花角知事はどう動くか!?


新潟県議会は4月18日、柏崎刈羽原発(KK)の再稼働を巡って市民団体が提出した県民投票条例案を否決した。花角英世知事は自身が再稼働の是非を判断した上で、「県民の信を問う」としている。出直し知事選や県議会での意見集約など、信を問う方法はいくつか存在するが、今回の否決で県民投票の可能性は消滅した。今後の焦点は、花角知事が判断を下す時期へと移る。

再稼働に向けた議論は最終局面に入った

県議会では過半数を握る自民党や公明党などが反対。36対16の反対多数で否決となった。反対した議員からは「二者択一では『条件付き賛成』など多様な意見を拾い切れない」「一般県民が十分な知識を持って判断するのは難しく、県民投票はなじまない」といった意見が挙がった。ある中堅県議は「反対派は『危険だ!』の一言であおれるが、安全性の証明は専門性が高く説明が難しい」と、県民投票になった場合は反対派に有利になるとの見方を示した。

県民の信を問う手法については、出直し知事選か県議会での意見集約に絞られた格好だ。前出の県議は「選挙区の住民の声を聞いた上で、県議が判断すればいい」と県議会での意見集約を訴える。ただ今後、再稼働慎重派は出直し知事選を求める可能性が高い。

「経済的メリット」をもたらす秘策?

花角知事の判断はいつになるのか──。

17日の県議会では「私自身が判断する時期については、ほぼ材料がそろってきたと思うが、議論を進める中で県民の受け止めなり、意見は固まっていくと思う。まさに今、見極めていく段階で、その先に判断を出す時期が来る」との認識を示した。7月の参院選や来年6月の県知事選が予定される中、難しい判断を迫られている。

花角知事が言う「議論の材料」を巡っては、今年2月に県の技術委員会が安全性を巡る報告書を公表。夏前には万が一の事故を想定した「被ばく線量シミュレーション」が作成される見込みだ。判断を下す前には、公聴会や首長との意見交換、県民への意識調査を検討しているという。

県内では「経済的メリット」を求める声が根強い。例えば、原子力立地対策交付金の対象拡充がある。現在は対象が立地自治体の「隣接」までだが、隣々接自治体も避難計画の策定などで負担を負っているからだ。

水面下ではKKでつくられた電気を地元の地域新電力に販売し、県内に安く提供する構想が練られている。需要家にとって脱炭素電源を安く購入できれば御の字だが、独占禁止法上との兼ね合いや東北電力との調整などの課題があり、制度設計は一筋縄ではいかない。また、現在は消費地でカウントする環境価値について、一部を発電地で算定するよう訴える関係者もいる。

地元同意の在り方を再考を

県内には、避難道路の整備などが未定で「再稼働を議論する段階にない」との考えを持つ首長すら存在する。県庁所在地の新潟市に次ぐ人口を抱える長岡市の磯田達伸市長も、慎重な立場だ。

しかし、ここで重要なのは最もリスクを負う立地自治体が再稼働に同意している事実だ。直近では宮城県の村井嘉浩知事が女川原発の再稼働同意を巡って首長と意見交換したが、賛成の意思を示したのは立地市長を含む4人だけだった。100万人超の人口を擁する仙台市の郡和子市長も「再生可能エネルギーに移行すべきだと思うが」との意見を述べた上で、賛否を明確にしなかった。それでも、村井知事は再稼働に同意した。

国策である原発再稼働が、知事の進退を賭けるほどの政治決断でいいのか。前衆議院議員(新潟県選出)の細田健一氏は、県民投票条例の否決後、自身のSNSにこう投稿した。「国が再稼働について判断し、知事の同意を求め、一定の間に拒否がなければ国と事業者の責任で発電するという仕組みの導入が必要ではないか」

新潟県の迷走を他山の石として、地元同意のあり方を再考する時期に来ている。

【時流潮流/4月18日】原子力協定を巡る米国・サウジアラビアの確執


バイデン前政権時代は停滞が続いた米国とサウジアラビアの関係が急速に改善する兆しが出ている。トランプ米大統領は就任後初の外遊先にサウジを選んだ。5月中旬に訪問し、通商問題や原子力協力などの二国間問題に加え、国際情勢を協議する見通しだ。

トランプ氏のサウジ訪問は2017年5月以来、今回が2度目。前回の大統領時代も、初の外遊先はサウジだった。

サウジのムハンマド皇太子は、トランプ氏が米大統領に返り咲いた直後、各国の首脳を差し置いて一番乗りで電話協議に臨んだ。トランプ政権が続く今後4年間に総額6000億ドル(約85兆円)規模の投資や貿易を行う意向を伝えた。両者の親密ぶりが伝わる。

訪問で焦点となるのは、原子力分野の協力だ。サウジは世界有数の産油国でありながら、急速な人口増に伴う電力消費増や、気候変動問題への対応が迫られている。40年までに1200万~1800万㎾の原発建設を目指している。

手はじめにサウジ東部に出力120万~160万㎾の大型原発2基を建設し、その後、小型モジュール炉(SMR)の導入も視野に置く。大型商談を受注しようと、米国のウエスチングハウス社をはじめ、仏中露韓各国のメーカーが競い合っている。

ただ、米国製原発や、米国の技術を使う韓国製の原発を導入する場合は、サウジは米国と原子力協定を結ぶ必要がある。米国は核兵器の拡散を防ぐため、韓国製の原発を導入したUAEと同様、ウラン濃縮や使用済み核燃料の再処理を禁じる条項が入る協定をサウジと結ぼうとしている。

ムハンマド皇太子は18年に「イランが核兵器を持つなら、サウジもただちに取り組む」と発言した経緯もあり、核武装に関心を示している。協定成立には米議会の承認も必要となる。この条項を盛り込んでいない協定が、米議会を通る可能性は低い。

サウジから見れば、ライバルのイランはウラン濃縮活動を続けるのに、なぜ、サウジは濃縮ができないかという不満がある。文句ばかりを言う米国に見切りをつけ、面倒な条件をつけないロシアや中国から原発を導入する手もある。そんな揺さぶりもかける。

トランプ氏の訪問を前に今月13日、露払い役としてクリス・ライト米エネルギー省長官がサウジを訪問した。ライト氏は、サウジにウラン濃縮を認める「道筋」が見えてきたと語り、年内合意を目指す考えを示した。

米国は難しい立場にある。イランが核兵器を取得するのを阻止するため、米国は今月12日からイラン核協議を始めた。ここでも焦点はウラン濃縮の扱いになる。米国は、できればイラン、サウジ双方に濃縮「ゼロ」を強いたい。だが、濃縮「ゼロ」を求めれば、交渉が決裂する可能性が高い。

トランプ政権には、サウジとイスラエルの和平(アブラハム)合意実現で、中東の安定化を図ろうという野望もある。原子力協定はその一里塚となる。米国は野望の実現に近づくことができるのか。今後の駆け引きに注目だ。

国際政治ジャーナリスト 晴山望

【記者通信/4月18日】豪連邦選挙戦は現政権リード 電気料金を巡る応酬続くが…


53日に投開票を迎えるオーストラリアの連邦総選挙は、現首相のアンソニー・アルバニージー氏率いる労働党がリードする展開になっている。食料品や住宅、光熱費の上昇といった生活費の高負担をどう軽減させるかが争点となる中、現政権批判を繰り広げてきた自由党などの野党連合の訴えは有権者にあまり響いていないのが現状だ。自由党のピーター・ダットン党首は、同じ保守系のドナルド・トランプ米大統領に倣った政策を打ち出しているものの、有権者らの反発を招き撤回や謝罪するというドタバタ感が否めない。焦点の一つ、エネルギー政策については電気料金の軽減策をめぐって両党で激しい応酬が続いているが、両者とも歯切れの悪さが目立つ。

首都キャンベラにあるオーストラリア連邦の国会議事堂

「ふさわしい首相」はアルバニージー氏に軍配

豪州の世論調査を担うニュースポールは4月7日~10日にかけて1271人を対象に情勢調査を実施した。議会の二大勢力に絞った支持率は、労働党が52%、自由党を中心とする野党連合は48%となり、現政権が4ポイント差でリードした。この2週間前に実施した調査では勢力の差が2ポイントだったが、1週間前では4ポイントに差が広がり今回でもその差が縮まらなかった。労働党が4ポイント差をつけたのは昨年5月以来となった。

一方、「好ましいリーダー」の項目では、アルバニージー氏は49%と前回調査より1ポイント改善し、逆にダットン氏は2ポイント下げ38%となった。選挙戦が進むにつれ両者の差が開いてきている。

アルバニージー氏は経験値の高さと重要課題に理解があるという点でダットン氏よりも評価を高め、ダットン氏は「決定力と力強さがある」と評価されている。

両者は豪州全土をくまなく遊説しているが、アルバニージー氏はポロシャツ姿で地域のイベントに参加するなど親しみやすさを売りにしている。ダットン氏は常にジャケットに襟付きのシャツを装っているためか、世論調査では「思いやりがある」「感じがいい」「傲慢(ごうまん)さが少ない」など人柄の評価では、アルバニージー氏に軍配が上がっている。

野党のダットン氏はトランプ効果が裏目

政権奪還を目指すダットン氏率いる野党連合は、政治的信条が近いトランプ氏に倣った政策を打ち出している。しかし彼らの思惑通りにいかず、有権者らの反発が強まり支持率低下の原因になっている。

その典型が政府職員のテレワーク廃止公約だ。野党連合は「テレワークが労働の非効率を招いている」とし、政府職員を対象に廃止する方針を打ち出した。トランプ氏が政府の効率化を図る目的で省庁を削減するなどの手に打って出ているが、スケールは小さいものの約37万人いるとされる政府職員を約4万人削減するという公約と併せ、「非効率」を悪とする似た政策だった。

だが国家公務員の職員組合が一斉に反発した。「労働者の実態に合っていない」「デジタル社会に反する」などという声が日増しに強まり、ついには労働党が民間企業への波及に懸念を表明し、有権者の野党連合への不信感が増幅した。

今月7日、ダットン氏は「われわれは過ちを犯した」と謝罪し、テレワーク廃止方針を撤回することになった。職員削減も採用抑制などで対応するといい、一気にトーンダウンする形に追い込まれた。

豪州政治に詳しいある専門家は「トランプ効果を狙ったが、悪評が目立つトランプ大統領になぞらえる有権者が多く存在していることに気づくのが遅かったのが支持低下の一因だといえる。世論の動向を見て謝罪や公約撤回でドタバタするダットン氏を見た有権者は、彼に求めていた強いリーダーシップに疑問を持ち始めている」と評する。

【SNS世論/4月10日】三菱商事の洋上風力損失問題で考える SNS時代の広報戦略


「火のないところに煙は立たぬ」と、ことわざにいう。これは今でも当てはまる。情報の「火元」、つまり発信源の数を減らし、出す情報を少なくし、管理すると、爆発的な拡散力を持つSNSの上でも、ある問題の情報が広がらないことがある。今の時代でも発信源、第一報は、多くの場合にメディアの発信するニュースだ。ところが、そのメディアが、エネルギー問題での報道量を減らしている。メディア業界が新聞などの活字媒体からテレビまで、不況に直面している。そのために記者の担当が多すぎて、深掘りの取材、報道ができない。さらに記者の質も低下している印象がある。エネルギー業界内では注目されている三菱商事の洋上風力発電の巨額損失が、SNSであまり広がらない。そこから考えたことを記してみたい。筆者はエネルギー業界の片隅にいるが、そこから見たSNSとエネルギー問題の関係の考察が、この連載のテーマだ。いろいろ試作の材料を提供してくれる事件だ。

三菱商事の巨額損失、話題にならず

日本初の大規模洋上発電事業を、三菱商事を中心とした企業グループが、国内3箇所で準備している。ところが同社は2024年度連結決算で、この事業で522億円の損失を出してしまった。

これは国の規制緩和による公有海面の開放と入札による大規模洋上風力発電の最初の案件だった。事業者を入札したところ、三菱商事が21年に、安い価格を示して三つの海域での事業を総取りした。ところが損失が出てしまった。国は支援を検討しているが、最近の再エネへの世論の厳しさ、負担を嫌がる民意を反映した国民民主党などの再エネ批判で、事業の先行きは見えないし、その情報もない。

当然、エネルギー関係者はこの問題に関心を向ける。ところがネットでは、Yahooの株掲示板以外、この問題でそれほど盛り上がっていない。

情報を絞り、沈静化に成功?

2月の決算記者会見には中西勝也三菱商事社長が自ら出席した。事業から逃げない姿勢を示したと見られる。しかし、会見では「円安」「建設価格の上昇」「不可抗力」と言う理由の説明を繰り返すだけだった。記者の質問に中西社長はいらだつ姿勢も見せ、あまり適切な説明ではなかった。

この決算発表後に、同社の株は下がり、SNSでも同社の説明姿勢への評判は悪かった。しかし同社は別部門が好調で、株価は持ち直した。そして問題の追加情報を4月になっても三菱商事は発表していない。

エネルギー部門の三菱商事社員と話したが、「この問題では全社に取材に応じるなという箝口令(かんこうれい)が出ている。直接の担当ではないので知らない」と、拒否されてしまった。「人の噂も75日」という。2ヶ月半経過した4月、SNSでこの問題は話題にならなくなった。三菱商事側の情報統制が成功している面がある。

【記者通信/4月3日】「問答無用で再稼働反対」 新潟日報の主張はもう限界か


「日報」──。新潟県民の間でこう呼ばれるのが、県内で絶大なシェアを誇る地元紙・新潟日報だ。柏崎刈羽原発(KK)を巡っては、3月26日に国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長が視察するなど、再稼働を求める声が高まっている。「日報は問答無用で再稼働に反対しているとしか思えない報道がままある」(地元関係者)。国内外の情勢が激変する中で、その主張は限界を迎えつつある。

ビロル事務局長は視察後、「日本が経済力を維持し、安全保障を担保したいならば、原子力発電の割合はかなり大きなものであるべきだ。その点で柏崎刈羽原発は大きく貢献できる」と語った。その後、石破茂首相や武藤容治経済産業相との面会時にも再稼働の重要性を強調した。

経済界の要人の視察も相次いでいる。昨年11月に経団連の十倉雅和会長、3月22日に経済同友会の新浪剛史代表がKKを訪問。4月9日には東京商工会議所の小林健会頭の視察が予定されており、実現すれば経済3団体のトップ全てが視察したことになる。県内には電力の供給先である首都圏からの再稼働要請を求める意見があり、「一番利益を受けるのは私たち首都圏だ。もっと新潟県に感謝の気持ちを持たないといけない」(新浪氏)との発言は、こうした声を意識したものとみられる。

反原発というより反東電

こうした中、依然として再稼働に慎重なのが新潟日報だ。3月にはオンライン版に過去の連載企画を再掲。同紙は「反原発というより反東電」といわれるが、その主張が顕著になったのは2002年に発覚したKKのトラブル記録の改ざん・隠ぺい事件からだ。この頃から、東電の信頼性を問うことが大きなテーゼとなった。07年の中越沖地震での変圧器火災、11年の福島第一原発事故を受け、その流れは加速。その後の欧州の再エネ偏重路線やドイツの脱原発は、新潟日報の主張に説得力を持たせた。だが、ウクライナ侵攻や生成AIの登場で国内外のエネルギー政策が大きく変わったことで、その主張は筋が通りにくくなっている。

「電力は足りている」というが……

エネルギー政策は、安全保障、環境問題、経済への影響、技術革新、事業者への信頼性など、さまざまな論点が複雑に絡み合う。こうした中、新潟日報の主張はその一つをピックアップし、原発が必要ではない理由を、無理やりこねくり回している感が否めない。

例えば、昨年5月28日付の「[誰のための原発か]かすむ常識編<2>―『電気が足りない』は本当か?<下>国が用いる二つの数字、『危機感あおる』と批判も」との記事。ここでは電力広域的運営推進機関の試算から、東京エリアの予備率見通しは今後10年間、十分な余裕があると書かれている。この見通しを根拠に「原発が動いていなくても電力は足りている。再稼働が必要だとする国の主張は正しくない」との論を展開するのだ。一見もっともらしいが、予備率が老朽火力によって支えられていることには触れていない。原発の再稼働なしにどうやって脱炭素に対応するのか……。こんな疑問を抱いた読者は少なくないだろう。

「首都圏の電力供給を支えていることが新潟県の誇りというスタンスで書いてくれるといいのだが……」。県内の自民党関係者は不満を漏らす。7号機の特定重大事故等対処施設の完成時期延期についても、「以前から想定されていた話で、それが公表されただけ。ささいなことを、まるで大問題かのように書く傾向がある」と落胆する。

そもそも、「反東電」と「反原発」は必ずしもイコールではない。再稼働が求められる今こそ、東電には信頼回復に向けたいっそうの努力が求められる──といった論調も成り立つのだが、「日報」で目にする機会はなさそうだ。

【時流潮流/4月2日】原発はアフリカを目指す トランプ米政権と南ア対立の影響は?


新興国・途上国で原発ブームが起きている。中でも注目株はアフリカ諸国だ。昨年9月、ウィーンの国際原子力機関(IAEA)本部であった年次総会で、40近いアフリカ諸国代表が原発の早期導入を相次いで表明、会場にはどよめきの声があがった。

アフリカには現在、世界の4分の1に当たる約15億人が住む。経済成長が続き、アフリカ連合(AU、加盟55カ国・地域)は、電力消費量が2040年には今の3倍に増えると予想する。

急激なエネルギー需要増にどう対応するか。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)とIAEAは、21年からアフリカ向けマスタープランの作成を始めた。

アフリカでは現在、1980年代半にアフリカ初の原発を導入した南アフリカで2基(各94万kW)の原発が稼働しているほか、エジプト北部エルダバアで原発4基(各120万kW)の建設が進む。運開は30年予定で、ロシアのロスアトムが受注し、資金調達も手がけている。総工費は約300億ドル(約4兆5000億円)で、エジプトはその85%をロシアからの融資でまかなう。

多くのアフリカ諸国にとって、最大のネックは資金手当てとなる。エジプト並みの規模の原発導入には、国内総生産(GDP)を上回る額の投資が必要となる。実現は不可能で、小型モジュール炉(SMR)導入を視野に据える国が多い。専門家は「アフリカ諸国の原発導入まであと20年~30年はかかる」と見ている。

アフリカの巨大原発市場は、米仏や韓国企業にとっても魅力の的だ。だが、原発建設から、核燃料提供、使用済み核燃料回収、さらには融資スキームなど「一気通貫体制」とも言える手厚いサービスを築いているロシアが有利な戦いを展開しつつある。

二番手は中国だ。親密なパキスタンでの原発建設を手はじめに、タイ、カンボジアなどの東南アジアで足場を築き、その次にアフリカを見据える。一帯一路などインフラ整備などでも中国はアフリカ諸国との関係を深めており、ビジネスチャンスをうかがう。

一方、西側先進国とアフリカが対立する事件が今年2月、勃発した。トランプ米大統領は2月上旬、南アフリカに対し、事実上の経済制裁である支援大幅削減を決めた。南アで開かれる主要20カ国・地域(G20)の会議を米閣僚が欠席するなど関係悪化が目立つ。

制裁実施は、南アが米国の同盟国であるイスラエルに厳しい姿勢をとり続けていることにある。南アは23年12月、パレスチナ自治区ガザ地区に対するイスラエルの行為は「ジェノサイド(集団虐殺)」にあたると国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)に提訴した。これが尾を引いている。 とばっちりを受けたのが、マイクロソフトのビル・ゲーツ氏が率いる米国のテラパワー社だ。昨年10月、米西部に建設を始めたナトリウム冷却炉用のHALEU核燃料を南アのASP社に発注した。だが、米国と南アの対立により、この実現が危うい情勢となっている。トランプ米政権の誕生が、アフリカとの原発ビジネスにも影響を与え始めている。

国際政治ジャーナリスト 晴山望

【目安箱/3月31日】原子力に冷静な世論 次の一手をどうするか?


エネルギー問題で、それに関係するエネルギー、電力、関連産業、さらに消費者は、福島事故以来、「民意」という曖昧な存在に振り回された。その民意が、原子力に対して冷静になりつつある。その状況を利用して、どのような広報をすればいいのかを考えたい。

◆原子力のイメージは改善

日本原子力文化財団は3月に、「原子力に対する世論調査」の2024年版を発表した。結果を要約すると、原子力への否定的なイメージを持つ人は相変わらず全体の7割程度いる。一方で利用に肯定的な意見は過半数を超え、この増加傾向は2018年から続いている。また「わからない」とした意見は全世代で増加した。

この調査は07年から行われ、現在で18回目だ。発表された調査は24年の10月に、15歳から79歳までの個人に全国1200人に行った。原子力に関する世論の動向や情報の受け手の意識を正確に把握することを目的として実施している。同財団は、10年度以降の報告書データを全て公開している。

この調査で「原子力に対するイメージ」について複数回答で聞いた。「必要」は26.8%、「役にたつ」は24.8%となった。いずれも24年では対前年比では微減した。18年から肯定的イメージは緩やかに増加してきた。それが少し足踏みしたようだ。一方で「危険」は55.4%、「不安」は47.1%と割合は高いが、18年から緩やかに減少している。(図表1)

(図表1)原子力に対するイメージ。同調査より

また「今後の原子力利用に対する考え」を聞いた。「原子力発電を増やしていくべきだ」または「東日本大震災以前の原子力発電の状況を維持していくべきだ」と回答した割合は合わせて18.3%となった。一方、「しばらく利用するが、徐々に廃止していくべきだ」との回答が39.8%となった。両者を合わせると現時点で原子力の利用に肯定的な意見は過半数(58.1%)になっている。「即時廃止」の意見の減少は続き、同年で4.9%だった。原子力発電を現状利用すべき発電方法と考える人は増えている。

一方で原子力の利用について「わからない」と回答した割合が過去最大の33.1%に達し、14年の調査から12.5ポイントも増加した。そのように回答した理由を複数回答で問うたところ、「どの情報を信じてよいかわからない」が33.5%、「情報が多すぎるので決められない」が27.0%、「情報が足りないので決められない」が25.9%、「考えるのが難しい、面倒くさい、考えたくない」が20.9%となっている。この「わからない」と回答した割合はすべての年代で増加しているが、特に若年世代(24歳以下)の間で増加傾向が高かった。

◆情報源、若年層は学校とSNS

同調査は、「ふだんの原子力やエネルギー、放射線に関する情報源」についても調査をした。複数回答だった。「テレビ(ニュース)」が全世代で75.7%とトップ。「新聞」は44.3%と2位だ。しかし新聞から情報を得る割合は、65歳以上が71.6%である一方で、24歳以下は17.9%に過ぎなかった。

若年世代(24歳以下)は「学校」(27.2%)を主な情報源として挙げており、また、SNSを通じて情報を得る割合が、「X」で24.5%、「TikTok」で16.6%と多かった。

また青年世代(25~44歳)は検索サイトとSNS、壮年世代(44~64歳)は検索サイトとテレビの影響力が大きかった。

◆ホリエモンの提言―若年層に「刺さる」コンテンツを

この調査を受け止める人の捉え方はさまざまであろう。私は原子力を活用し、日本のエネルギーを安く、安定供給をさせたいという立場だ。その視点を入れると、「感情的な原子力への批判は薄らいだ。福島原発事故で壊れた信頼は取り戻せず、壊れたまま、人々の関心が薄れ始めた」とこれらの結果を分析している。

それでは、この状況で、原子力広報をどのようにすれば良いだろうか。ヒントになるかもしれない意見をかつて聞いた。エネルギーフォーラムのコラムでもかつて一部を紹介したが堀江貴文さん、通称ホリエモンと、原子力広報を巡って5年ほど前にあるシンポジウムで質問をしたことがある。次の提言は、今の状況での原子力広報に役立つだろう。彼はこんなことを述べていた。

「原子力のPRでビクビクする必要は全然なくて、『いいことをやっている』『世界のためになる』『Save the world!』と堂々と、事実を伝えればいい。相手の主張に弁解をするのではなく、自分でアジェンダ(論点)を設定するべきだ」

「メディアが原発を敵視し続けるなら、もう説得は諦めた方がいい。また反対派を無理に説得する必要はない。その説得にエネルギーを使うのは時間の無駄」

「過去は変えられないが、情報を上書きしていくことはできる。かっこいい情報を上書きしていく。例えば、原子力の新技術や新型炉だ。これによって社会が進歩して、みんなが幸せになったという成功例だ。反対派以外の、何も決めていない人に訴えていけばいい」

「P Rでは、理屈で攻めるよりも、まず素晴らしい具体的なモノ、それがなければワクワクする未来を見せる方がよい。何が刺さる(注目されるという意味)か、わからない。P Rのための題材は、お金と余裕のある限り、いろいろ試した方がいい。当たったらそれを掘り下げていく。真面目路線で世の中は変わらない」

実際に堀江さんは、自分のブランディングでこのように活動している。それだから、自分が証券取引法で有罪になった後で社会的に復活を遂げたのだろう。

◆「わからない」中立の立場の人に情報を届ける

原子力への不安や反感はなかなか消えない。関係者が真面目に原子力に向き合い、安全性の向上や諸問題を解決することは必要だ。そうした取り組みの上で、広報をする必要がある。

原子力への否定的な感情を社会から完全になくすことは無理のようだ。しかし冷静に受け止めている人、そして次の世代に広報を集中し、理解と味方を増やすのが、今後考えるべき原子力広報の方向だと思う。

原子力の反感が薄れ、「わからない」と考える人が増えた今こそ、面白い、前向きの情報を提供することで局面が変わるかもしれない。福島事故の反省は必要だが、そればかりに広報がとらわれる状況は、変わりつつある。

【記者通信/3月28日】原発再稼働「先送りは日本の責任果たさず」 IEA事務局長が強調


日本エネルギー経済研究所は3月27日、国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長を招き、シンポジウムを開催した。ビロル氏は世界でのエネルギー需給動向などについて見解を述べる中で、日本の原子力発電所の再稼働に向け、「(原子力利用に関する)全ての懸念を理解する必要はあるが、プロセスを先送りすることは責任を果たしていないともいえる」「日本が原子力を扱わないことが許容されるという選択肢はない」と強調。再稼働の加速への強い期待を示した。

ビロル氏は前日、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所を視察。柏崎刈羽が「無駄になる可能性があるという理由を知りたかった」という同氏の希望で実現し、安全対策などの状況を確認し、運転員らと直接話をしたという。

講演でビロル氏は、世界で原子力の復権がみられる状況について説明。IEAの分析では25年、原子力由来の発電量が過去最大になるとの見通しや、現在、過去30年間で最高水準となる70GW程度の原発が世界で建設されているといった情報を紹介した。

また、原子力復権の流れをけん引するのはAIやデータセンターなどを運営するテクノロジー企業で、特に小型モジュール炉(SMR)への資金投資に積極的だと強調した。

ただ、ここ数年で大型炉の新設が進んだのは中国とロシアくらいであり、先進国では建設計画が大幅に遅延する、予想の半分程度しか出資されていないといった状況がみられる。

原子力を巡るさまざまな課題の中でも特に大きいのはファイナンスの問題だと指摘。「何らかのファイナンススキームがないと、迅速な拡大は難しく、政府の支援が必要だ」(ビロル氏)と、自由化された市場に任せたままでは限界があると警鐘を鳴らした。

第7次エネ基を評価 「バランス取れた計画」

またビロル氏は、2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画の内容について「バランスが取れた計画だ」と評価した。そのポイントとして、再生可能エネルギーの重要性はもとより、原子力が重要な役割を果たすと述べていること、かつ長期的なLNG契約の重要性にも触れた点を挙げた。「多くのLNG契約が終わるが、次の波が来る。皆さんが正しい選択を選ぶ機会になる」と語った。

講演後には、ビロル氏に代わってIEAの貞森恵祐エネルギー市場・安全保障局長、佐藤裕紀・中部電力専務執行役員グローバル事業本部長、竹内純子・国際環境経済研究所理事、飯田香織・NHK解説副委員長が登壇し、エネルギーの不確実性などをテーマにパネルディスカッションを行った。

【記者通信/3月27日】東ガス・大ガス社長が同日会見 洋上風力やアラスカLNGへの見解は?


東京ガスの笹山晋一社長と大阪ガスの藤原正隆社長が3月26日、それぞれ都内で記者会見(大阪は懇談会形式)を行った。笹山氏は「持続的な企業価値向上に向けた取組方針」について説明し、資本効率改善に向けて自己資本利益率(ROE)8%のコミットメントと、2030年頃に10%以上を目指すことを改めて示した。藤原氏は2月に策定した「エネルギートランジョン2050」について動画を交えて紹介。偶然、同日に行われた会見で東西大手の共通課題や個社の課題に言及した。

企業価値向上への取り組みについて話す東京ガスの笹山社長
大阪ガスの藤原社長は記者懇談会でLNG転換の重要性を強調

両者に共通するのは、洋上風力やe-メタンなど再生可能エネルギーや新技術分野で厳しい投資環境に置かれていることだ。米国のe-メタン製造プロジェクトは「30年度1%の導管注入」を目指し、25年度に最終投資決定(FID)が求められる。両社は「単体ではLNGより高くなるのはやむを得ない。米国のインフレ抑制法や日本国内の支援策を見極めた上で投資決定することになる」(笹山氏)、「詳細設計をしっかりと行い、遅れてしまう可能性もあるが、30年に導管注入できるように最大限努力する」(藤原氏)と展望を語った。

大阪ガスは洋上風力の公募ラウンド2で、RWEなどと新潟県村上市、胎内市沖を落札した。ただ藤原氏は「コスト高に悩んでいる。2倍どころではなく、3倍になった見積り項目もある。事業継続のため、国への働きかけや顧客の獲得に向けて最大限の努力を行っている」と現状を説明。経済産業省のワーキンググループでは、三菱商事が総取りしたラウンド1など、すでに落札済みの事業で固定価格買い取り(FIT)制度から市場連動価格買い取り(FIP)制度への移行を認める方針が示された。同氏は「どうなんでしょうね」と疑義を呈した上で、「R2、R3のメンバーにも事業性を保てるような施策を官民で考えていくステージにある」と指摘。一方、東京ガスはラウンド3で英BPなどと山形県遊佐町沖を落札した。笹山社長は「長い目で見れば、日本にとってポテンシャルが高い事業。このマーケットが長期的に成長していくために必要な支援策が何かを議論しているところだ。政府の支援はありがたいが、われわれが努力すべき部分はしっかりとやらなければならない」との見解を示した。

一長一短のアラスカLNG 「物言う株主」にどう対応?

2月の日米首脳会談で言及があった米アラスカLNG事業について、藤原氏は「30年代半ば以降にも長期契約があり、急に『買え』と言われても受け入れるところはないのではないか」と指摘。また自社への影響に関しては「米国産の安いLNGが入ってくるとすれば、国内ビジネス的にはいい話だ。しかし、自社の米シェールガスプロジェクトでは、米国内LNG生産量が増えると価格が下がり、収益性が落ちる」と一長一短とがあるとの認識を示した。一方、笹山氏は「LNGの位置付けを高める意味合いがあると思っているが、今の段階では詳細設計や価格や条件がはっきりしていない」として言及を避けた。

東京ガスは昨年末、米ヘッジファンドのエリオット・インベストメント・マネジメントが株式の5%超を保有し、不動産資産の売却を迫ったことが明らかになった。こうした「物言う株主」について笹山氏は、特定株主への言及は避けながらも「長期の成長は1番重視しているが、短期的な経済性も一定程度追求しなければ、企業としてさまざまなステークホルダーの期待に応えられない」として、これまで以上に資本効率を重視する考えを強調した。

【記者通信/3月26日】一進一退のLPガス商慣行是正 官学民が不正排除へ白熱議論


4月2日に液化石油ガス法改正省令の第二弾として「三部料金の徹底」が施行される。それを前に、学識者や行政、事業者らが一堂に会しLPガス業界の現状と問題解決策について語る「LPガス問題シンポジウム」が3月26日、札幌市内で開催された。主催はLPガス料金の透明化・適正化を求め、北海道消費者協会・北海道生活協同組合連合会などが中心となって結成した「LPガス問題を考える会」。シンポジウムの模様はオンラインで配信され、全国の事業者など158人が視聴した。

LPガス問題シンポジウムで講演するエネ庁の日置室長

基調講演した橘川武郎・国際大学副学長は、「形式的に三部料金制をクリアすることよりも、いかに過大な営業行為を実質的に取り締まることができるかが商慣行是正の焦点となる」と指摘。「資源エネルギー庁が過大な営業行為の基準について、他の事業分野の事例に照らして正常な商慣習に相当するかどうかと踏み込んだ解釈を示したことは、非常に大きな前進だ」と評価した。

4月2日以降結ぶ新たな契約については、ガス料金に設備費用を計上することが禁じられる。一方で既契約については、設備費用を外出し表示することで引き続きガス料金への上乗せが可能な状態が続く。これについて資源エネルギー庁燃料流通政策室の日置純子室長は、「しばらくの間は二つの世界が併存することになるが、投資回収はいずれ終わる以上、事業者にはどのように新しい料金体系に移行していくのか考えていただく」と述べ、集合住宅の入居者が入れ替わらずとも、投資回収後は当然、新たな料金体系に切り替わるはずだとの認識をにじませた。

全国の事業者からは、さまざまな現場のリアルが寄せられた。関東地方の事業者は、「無償貸与が過大な営業行為に代わり、1件5.5万円だった謝礼・紹介料が8万、10万円とエスカレートし無法状態だ」と報告。北海道の事業者は、「本州の大手事業者が進出し、M&Aや廃業が増えている。中小事業者は将来展望が見えない」と訴えた。

相次ぐブローカーによるトラブル 解決の糸口はあるのか

ブローカー関係者が特定商取引法違反で逮捕されるなど、問題を起こすことも多い。商慣行を歪める要因の一つだとして、「事業者に属していないとはいえ、ブローカーが暗躍している実態に目を向け規制の対象にするべく踏み込んだ対応が必要だ」(橘川氏)、「ブローカー自体を規制することは難しいが、特商法、景表法(景品表示法)といった関連法規で規制していくことになる」(松山正一弁護士)などと、その在り方についてもさまざまな意見が交わされた。これに対し、日置氏は「電気事業法やガス事業法に照らし、液石法の説明責任について見なおす必要がある。とはいえ、それだけでブローカーの問題が解決するわけではなく、こうしたビジネスが成立している根本的な理由を知る必要がある」と語った。

【記者通信/3月26日】燃料油補助延長に批判相次ぐ 「完全に止め時見失った」※修正版


開いた口がふさがらない。今度こそ止めると思われていた燃料油補助金が、またもや延長される方向になったことだ。これで一体何度目の延長だろうか。政府は3月24日の経済財政諮問会議で、物価高対策としてガソリンなど燃料油への補助金を4月以降も当面継続する方針を打ち出した。同日の資料には「全国平均で185円/ℓとなるよう支援を継続」「今後の原油価格の状況を丁寧に見定めながら適切に対応」とある。この問題を巡って聞こえてくる関係者の声を紹介する。

「誤解を恐れず言えば、燃料油市場では国家公認のカルテルが行われている。この愚策を、原油価格が安定している現状でも続けていくなど、政治の無能ぶりをさらけ出しているようなものだ。実際には、185円よりも安く販売できるにもかかわらず、ターゲット価格が提示されているため、あえて値下げしないSS(サービスステーション)も少なからずあるようだ。いつ止めるの?今でしょ!というタイミングはこれまでに何度もあったが、専門家による検証作業も行われないまま、ことごとく政治側の勝手な都合で延長に次ぐ延長が行われている。原油価格がどこまで下がれば補助金をやめるのか。何兆円もの税金を投じてきた政策だけに、その指針を示すのが国の責任だが、『状況を丁寧に見定めながら適切に対応』という言葉で逃げ回っている。出口戦略は完全に見失われた」(石油アナリスト)

「国が燃料油の価格指標を示し、そこをターゲットに補助金を投入する。いまや多くのSSが同じような水準の値付けを行っており、SS間の価格競争はほぼ起きていないに等しい。円安傾向は相変わらず続いているが、原油価格はWTIで70ドルを割り込んでおり、とても高騰とは言えない状況。おかげで、石油元売り会社や特約店の収益はかつてに比べ安定している。本来なら、SS間の価格競争によって小売り相場が形成されるところ、市場の価格決定メカニズムはもはや崩壊したと言っていい」(大手石油元売り会社OB)

「そもそもの問題は、燃料油補助の直接的な恩恵が車保有者に限られることだ。そこに何兆円もの補助金を投入したところで、全国民的な物価高騰対策にはならない。まだ、国民の大半が利用している電気・ガス代への補助の方が生活安定面での効果はあると思う」(大手電力会社幹部)

「補助金継続の一方で、ガソリン税の暫定税率廃止問題が議論されている。立憲民主党と国民民主党はすでに4月から暫定税率を廃止する法案を提出したし、同様の法案を独自提出した日本維新の会も自民党や公明党と来年4月の廃止を視野に協議体で議論を深める方向だ。各党は、国民の生活安定のために暫定税率を廃止すべきというが、実質的には『ガソリン車に乗っている一部の国民の生活安定のために』と正確に主張すべきだ。少なくとも大手マスコミは、こうした問題点をもっと掘り下げて報じる必要がある」(エネルギージャーナリスト)

「カーボンニュートラル政策の観点から見て、燃料油代を国の補助金で安くする政策は、化石燃料価格を引き上げることで消費を抑制しCO2削減につなげるカーボンプライシングの政策目的と完全に逆行する。これは暫定税率の廃止も同様。石油特約店の人に話を聞いたら、補助金が燃料油販売を下支えしているのは間違いなく、EVシフトにも歯止めを掛けているのではないかという。国は脱炭素化に向けて、アクセル、ブレーキどちらを踏みたいのか、全く分からない」(環境NPO関係者)

永田町筋によれば、石破首相による商品券配布問題が予想以上に政権に打撃を与えており、今後の都議選や参院選への影響を懸念する声が与党内で高まっている。燃料油補助延長の裏には、支持率対策という隠れた狙いも見え隠れする。いずれにしても、止め時を完全に見失った燃料油補助はいつまで続くのか、また今の国際市況に基づく適正な燃料油価格は一体いくらなのか、もはや誰にも分からない。税金だけがひたすらだらだらと注ぎ込まれ、負担は後世に付け回されることになる。