【記者通信/12月24日】メガソーラー規制を強化 閣僚会議が対策パッケージ決定


政府がメガソーラーに関する関係閣僚会議(議長:木原稔・内閣官房長官)の初会合を12月23日に開き、対策パッケージを決定した。「地域との共生が図られた望ましい事業は促進する一方で、不適切な事業に対しては厳格に対応する必要がある」とし、関連法の規制強化や、2027年度以降の事業用太陽光でFIT(固定価格買い取り)・FIP(市場連動買い取り)制度による支援廃止の検討など、さまざまな対策を提示。関係省庁が連携し、速やかに実行していく方針だ。

これに先駆け、18日には自民党の経済産業部会や環境部会などの合同会議が政府に提言を提出。その方向性を共有し、①不適切事案に関する法的規制の強化、②地域の取り組みとの連携強化、③地域共生型への支援の重点化――の3本柱でまとめた。

事業用へのFIT・FIPの支援停止へ アセスや電事法も見直し・強化

具体的には、例えば、自然環境保護に関して環境影響評価(アセス)法の対象の見直しや電気事業法での実行性強化を図る。その他、種の保存法や文化財保護法、自然公園法、森林法、景観法などでも規制・運用強化を図る。

そして、地域共生型を重点的に支援する方針を一層強化するため、事業用太陽光(地上設置)へのFIT・FIPによる支援の在り方を見直す。27年度以降の事業用太陽光について廃止を含めて検討し、25年度中に方針を決める予定だ。他方、次世代型電池の開発・導入や屋根置きへの導入支援の重点化などで、望ましい再エネの普及拡大を図る。

地域との連携強化に向けては、地方三団体(全国知事会、全国市長会、全国町村会)を交えた「再エネ地域共生連絡会議」を新設。また、法令違反通報システムによる通報や、「再エネGメン」による調査の対象に、非FIT・非FIPも追加する。

政府はこれまでも再エネ特措法の改正などで段階的に規制を強化してきたが、十分な効果を発揮できなかった。号令をかけるだけでなく、パッケージで示した方針を各地できちんと実施できるような体制の構築が欠かせない。

【記者通信/12月23日】柏崎刈羽再稼動の地元同意完了 「分断」と批判した朝日の見識を問う


新潟県の花角英世知事は12月23日、赤沢亮正経済産業相と面会し、柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働に同意する考えを伝えた。東京電力は24日にも原子力規制委員会に使用前検査を申請する。来年1月20日ごろには6号機が再稼働する見込み。ようやく地元同意が完了したが、一連のプロセスを巡っては朝日新聞など左派系メディアの的外れな批判が目に余った。

赤沢経産相(右)と面会した花角知事

メディアが頻繁に使う言葉に「分断」がある。特に原子力や沖縄県の米軍基地に関する記事など、イデオロギーが対立しやすい分野で多用される傾向にある。普天間基地の辺野古移設を巡って島が分断している──こんな使われ方を目にしたことがある人も多いだろう。

知事の判断が分断を招く?

新潟県の地元合意に際しても、やはり「分断」が使われた。朝日新聞は11月18日(花角氏の容認判断の前日)、「東電の再稼働 分断を招く判断 避けよ」と題した社説でこう主張した。〈地域住民の分断を招くおそれのある判断は避けるべきだ〉

やや話はそれるが、この社説を呼んで米大統領選を思い出した。2018年に第1次トランプ政権が誕生した時、メディアは盛んに「トランプが米国社会を分断させている」と報じた。トランプ氏が分断を作り出している「原因」だという主張だった。

確かに、トランプ氏の発言が米社会の分断を「加速」させている側面はあるだろう。しかし、「原因」と言われると疑問符がつく。トランプ氏の登場以前から、グローバリズムへの疲弊感や格差の拡大、移民の流入による白人アイデンティティの喪失などで、すでに米社会は分断していた。その「結果」がトランプ氏の当選だったというのが現実だ。

話を再稼働問題に戻すと、朝日の社説は「分断を招く恐れがある判断は避けるべきだ」と、花角氏の判断が分断の「原因」であるかのような書きぶりだ。だが、意見が対立している状況を「分断」と呼ぶのなら、花角氏が再稼働を容認しようが、判断を先送りしようが、新潟県はとうに分断されている。反対派からすれば、知事が容認すればいい気はしないし、また判断を先送りしても、早期再稼働を求める立地地域を中心に不満が噴出する。意見が拮抗している以上、分断を招かない判断などないのだ。

再稼働問題と同じように、意見が拮抗しているテーマに選択的夫婦別姓がある。各種世論調査では、現制度の維持・通称使用の拡大・選択的夫婦別姓の導入の三つで世論は割れている。最近まで政府は「分断を招く判断を避けて」きたが、再稼働問題と異なり、朝日は「早期実施を」と主張してきた。結局は「原発を動かしたくない」「選択的夫婦別姓を導入したい」といったイデオロギーが先行した二重基準(ダブルスタンダード)でしかないのだ。

丁寧なプロセスだった

そもそも、「分断」という言葉自体に違和感がある。米社会のように低中所得者層とエリート層、人種間の対立が激化し、時にそれを原因とする暴動などが起きる状況は「分断」と言えるだろう。

一方、柏崎刈羽の再稼働を巡って、そこまでの混乱は生じていない。ただ単に県民の間で意見が割れているだけで、むしろ民主主義社会としては健全な状態だ。そして、県民は首長や議員を通じて自分たちの意見を反映させようしている。事実、花角氏は公聴会や首長との意見交換、県議会は再稼働問題に焦点を絞った委員会の開催などで、そうした機会を設けてきた。その上で、知事が政治家として最終判断を下す──。民主主義が機能した丁寧なプロセスだった。

こうしたプロセスを踏んだ上でも、朝日は「判断を避けるべき」と書いた。朝日の主張に従えば、住民の意見が拮抗している物事に対しては、政治家が判断を下せなくなってしまう。政治家の存在意義の否定と言われても仕方がない。

規制委の判断こそ重要

新潟県の混乱を反面教師として、再稼働を巡る「事前了解権」のあり方は再考すべきだ。福島第一原発事故後は、立地基礎自治体と都道府県の同意が、再稼働に向けた事実上の必須条件となった。泊や東海第二では基礎自治体以外にも事前了解権が拡大し、柏崎刈羽でも拡大を目指す動きがある。

原発の運転は「地元」の理解があってこそ成り立つものだ。ただ、その「地元」とは、原発が所在する自治体なのか、重大事故時に避難や屋内退避が求められるPAZ(原発から30キロ以内)圏内の自治体なのか、都道府県も含まれるのか──。今後、なし崩し的に事前了解権が拡大すれば、いくら国民が原子力の活用に賛成しようとも、1人の慎重派の首長が反対姿勢を貫けば運転できなくなってしまう。

原発の新規制基準は司法の場でも合理性が認められている。法治国家の日本でこれ以上の安全・安心の材料は存在しない。安易な事前了解権の拡大は、電力大量消費時代のエネルギー政策に暗い影を落とすかもしれない。

【ニュースの周辺/12月19日】新潟県知事の柏崎刈羽再稼働容認を巡るメディアの論調


11月21日、新潟県の花角英世知事が臨時記者会見において 東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働を容認すると表明した。本稿ではこの容認表明に至るまでの「最近の経緯など」、次に11月21日の臨時記者会見での知事の説明を見た上で、メディアの論調を紹介していきたい。

◆最近の経緯など

1.最近の動き

2023年12月 原子力規制委がテロ対策の不備による運転禁止命令を解除

24年3月 齋藤健経済産業相(当時)が新潟県知事、柏崎市長、刈羽村村長に再稼働の理解を要請

24年9月 原子力関係閣僚会議で、県の要望に応じ、避難対策の具体的対応として、避難路の整備、除排雪体制強化、屋内退避施設(シェルター) 整備強化などの方針を確認

25年2月 「新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会」が報告書「柏崎刈羽原子力発電所の安全対策の確認」をまとめる

→確認すべき22項目のうち18項目は「特に問題となる点はない」、残り4項目も「原子力規制委員会の判断を否定するものではない」とした

25年4月 新潟県議会が、再稼働の是非を問う県民投票を実施するための「再稼働に関する新潟県民投票条例案」を否決

25年8月 原子力関係閣僚会議で、「原子力発電施設等立地地域の振興に関する特措法」の指定対象地域を概ね半径10kmから30km圏に拡大することを決定

25年10月 東電ホールディングスの小早川智明社長が新潟県議会で、①同県の産業・地域活性化、防災支援に向けて総額1千億円規模の資金拠出を表明、柏崎刈羽原発1号機、2号機に関して廃炉の方向で具体的に検討を進める旨を表明――

25年10月 新潟県議会が、知事が県民の意思を確認する方法として県議会を選択した場合、同じく県民を代表する立場にある議会として、再稼働の是非に関する意思を示すことを決議

25年11月 新潟県が県民意識調査公表(→結果の一部につき後述)

25年11月 花角知事が臨時記者会見で再稼働を容認すると表明

2.花角英世知事のキャリア

新潟県佐渡島出身。新潟高校・東大法学部卒、運輸省入省

1999年10~2000年7月 二階俊博運輸大臣秘書官

10年8月 大阪航空局次長、局長。関西国際空港と大阪国際(伊丹)空港を一体運営する新関西国際空港の設立に携わる

12年9月 大臣官房審議官(海事局、港湾局併任)

13年4月 新潟県副知事

15年9月 海上保安庁次長

18年6月 新潟県知事

22年6月 新潟県知事(2期目)

3.「県民の信を問う」

花角知事は知事就任時より「県民の信を問う」としていたが、知事選、県民投票、議会で承認、これらのうち、どのタイミングでいずれを選択するかはなかなか明確にならなかった。毎日新聞は、「議会で信を問う」判断に至る経緯を次のように解説する。

◎毎日新聞12月3日付〈政府、再稼働問う知事選封じ〉〈花角知事の師、二階氏動く〉〈柏崎刈羽容認表明〉〈……花角氏が官僚時代に秘書官として仕え、師弟関係にある自民党の二階俊博元幹事長は、経済産業省が長らく花角氏とのパイプ役として頼ってきた人物だ。24年に政界を引退した後も地方の議員らへの影響力を保っており、国は二階氏を通じて、県民投票や知事選で再稼働の是非を問う必要を主張している自民の有力県議に翻意を促すなど動きを進めた。政界の動きと連動するように、資源エネルギー庁の幹部らの動きは強まり、自民県議団に「県議会こそ民意の代表だ」という説得を続けた。花角氏は18年の知事選の際、再稼働に関して……「県民の信を問う」と明言した。その手法についてこれまで明らかにしたことはなかったが、有力な選択肢とみられていたのが県民投票や選挙だった。……一方、国は県議会から“信”を得させる形で、花角氏が再稼働の容認表明をしやすくする環境作りに躍起になって(いた)。……野党が強い地盤を持つ新潟県。昨年10月の衆院選では5つの小選挙区全てで自民が敗北した。今年7月の参院選でも立憲民主党の現職が再選し、自民党は敗れた。(近年の国政選挙の状況は文末添付資料参照)……仮に(知事)選挙で花角氏が野党系候補に敗れて再稼働が遠のくのは“悪夢のシナリオ”(経産省幹部)として、国は知事選は避けたいのが本音だった。〉

この毎日新聞記事に関連して言えば、筆者は、新潟県知事就任以前において、花角氏と二階事務所の“つながり”については一端を垣間見たことはある。なお、ちなみに多田明弘元経済産業省事務次官は二階俊博経済産業大臣時代の秘書官である。

4.新潟県議会 柏崎刈羽原発の再稼働に関する新潟県民投票条例案を否決

3月27日再稼働に関する県民投票を実施する条例案が14万人超の署名で新潟県議会に請求された。これに対し、否定的な知事意見も出され、否決された。

◎県民投票条例案に対する知事意見(4月8日、抜粋)

〈……柏崎刈羽原子力発電所の再稼働の是非については、国のエネルギー政策上の必要性をはじめ、原子力規制委員会の審査や県技術委員会によって確認されてきた施設の安全性、原子力災害発生時における避難計画の実効性、そして東京電力に対する信頼性といった課題があり、すでに多岐にわたる観点から議論されているところである。……条例案第10条は、県民は、投票用紙の賛成欄または反対欄に〇の記号を記載して二者択一で自らの意思を表明することと……している。しかしながら再稼働の是非については、上記のとおり多岐にわたる観点から議論されてきて……いる。……条例案第10条に規定する「賛成」または「反対」の二者択一の選択肢では、県民の多様な意見を把握できないと思われる。……〉

〇4月18日の議会での採決結果

◎朝日新聞4月19日付(抜粋)〈柏崎刈羽原発再稼働を問う県民投票条例案が否決〉〈傍聴席から怒号も〉〈……最大会派の自民(議長を除き31人)と公明(2人)、真政にいがた(3人)の計36人が反対、議長を除いた県議52人の半数を上回った。野党系の第2会派“未来にいがた”(9人)とリベラル新潟(6人)、無所属1人の計16人が賛成した。……〉

5.柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関する 県民の意識調査の一部

〇県全体 11月6日公表 母数3360

「q:どのような対策を行ったとしても再稼働すべきではない」

再稼働否定 そう思う28.4% どちらかといえばそう思う18.7% 計47.1%

再稼働肯定 そうは思わない23.3% どちらかといえばそう思わない27.3% 計50.6%

paz(原子力施設から概ね半径5km圏内 予防的防護措置準備区域)、upz(pazの外側の概ね半径30km圏内 緊急時防護措置準備区域)地域を対象 11月11日公表 母数1573

「q:どのような対策を行ったとしても再稼働すべきではない」

再稼働否定 そう思う21.4% どちらかといえばそう思う21.6% 計43.0%

再稼働肯定 そうは思わない24.1% どちらかといえばそう思わない32.9% 計57.0%

q:東京電力が柏崎刈羽原発を運転することは心配だ

心配だ そう思う29.9% どちらかといえばそう思う32.4% 計62.3%

心配でない そうは思わない12.0% どちらかといえばそう思わない25.7% 計37.7%

【時流潮流/12月19日】韓国の原潜導入を巡る紆余曲折 米国と激しい駆け引き


韓国が原子力潜水艦の保有国になる可能性が出てきた。今まで難色を示してきた米国が、ゴーサインを出した。ただ、原潜の建造場所や核燃料などを巡り米韓両国の思惑には違いが目立つ。実現までに紆余曲折が予想される。

首脳会談に臨む米韓両国の首脳=ホワイトハウス提供

韓国は約30年前から原潜計画に着手した。以後、計画は浮かんでは消えを繰り返してきた。原潜保有が実現すれば、世界で8カ国目、核兵器を保有しない国としては豪州、ブラジルに次ぐ国となる。

造船大国の韓国は、今年10月にも新型の潜水艦を進水させるなど、建造実績がある。原子炉も輸出するなど主力ビジネスに育っている。原潜保有の残る課題は核燃料だけで、濃縮度19.75%の低濃縮ウランの供給を米国に要請してきた。

だが米国は、原潜導入は核兵器開発の「入り口」になる可能性があると警戒。核燃料提供だけでなく、原潜導入に難色を示してきた。

転機が訪れたのは10月末だ。韓国の李在明大統領は、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合出席のため訪韓したトランプ米大統領との会談で勝負をかけた。

北朝鮮や中国の潜水艦を追跡するには、韓国が保有するディーゼル潜水艦では「限界がある」と訴え、原潜を導入できれば「米国の負担も減る」とたたみかけた。

実は、これまで韓国は米国や日本などが実施する中国原潜の監視・追跡活動に参加した実績はない。李氏はトランプ氏の関心を買おうと、発言を「盛った」ようだ。

造船や核燃料ですれ違う米韓の思惑

トランプ氏は韓国の原潜保有を認めた。ただ、建造は韓国企業が昨年買収した米東部ペンシルベニア州ピッツバーグにある造船所が担当するとSNSに投稿した。米国は造船業を立て直し中だ。少なくとも4隻と見込まれる韓国の原潜を建造すれば、雇用確保にもつながる。トランプ氏にとってこれは譲れない一線と言える。

自国での建造を計画していた韓国はこの投稿内容に慌てた。ピッツバーグ造船所は原潜建造の実績がなく、技術者や熟練工の確保や施設整備が必要となる。さらに、輸出許可や米議会の承認など手続きが増え、30年代半ばに予定する就役が危うくなる。

原潜に使う核燃料を巡っても米韓両国の思惑はすれ違う。合意文書には、原潜計画と関連づけられていないものの、韓国企業2社が米中部オハイオ州にある米企業のウラン濃縮施設に出資すると記されている。

米国は、ロシア製濃縮ウランをこれまで大量に購入してきたが、ウクライナ戦争を受けて脱ロシアに路線を転換、自国でのウラン濃縮拡大に取り組んでいる。韓国の原潜計画を「渡りに船」と活用し、濃縮事業拡充と雇用増を同時に達成しようという思惑が透ける。造船と同じ構図と言え、トランプ氏のしたたかさを感じる。

一方、韓国にはこれまで米国に禁じられてきたウラン濃縮を、自国で始めたいとの思いが強い。今後、普及が見込まれる小型原子炉(SMR)の開発も手がけており、この炉で使うHALEWを自国で製造できればビジネスチャンスもさらに広がるからだ。

トランプ氏の圧力をはね返し、思惑通りに夢を韓国は実現できるのか。今後も激しい駆け引きが続きそうだ。

【記者通信/11月27日】豪州で電気代高騰の実情 脱炭素政策が国民生活に大打撃


2035年までの温室効果ガス排出量を大幅に引き上げたオーストラリアが電気料金の高止まりに悩まされている。豪政府統計局(ABS)が先ごろ発表した25年第3四半期(7~9月)までの1年間の統計によると、前年同期比で23.6%上昇した。これは住宅や食料品など消費者物価指数の対象項目の中で最も上昇率が高かった。再生可能エネルギーの導入拡大に伴う送電網整備にかかるコストが増加したことが主要因だ。

「電気料金補助」政策は取らないのが日本政府との大きな違いだ(写真は連邦議会)

再エネの拡大を進めるアルバニージー政権は電気料金の軽減策として、太陽光発電がピークを迎える日中の時間帯に、最大3時間電気料金を無料にする政策を打ち出した。

一方、野心的な脱炭素政策が電気料金の高止まりにつながっていると主張する野党保守連合(自由党・国民党)は、50年ネットゼロ目標を破棄し、足元の経済重視の政策に方針に転換した。脱炭素政策を推し進めることによる経済的な「痛み」が現実となり、世界的な脱炭素の退潮傾向に拍車をかけているが、豪州でも国民生活への影響が顕著になってきた。

「住宅の次は電気か」の懸念

ニューサウスウェールズ州南部のオニール・ケリーさん(仮名)の家庭では今年7~9月までの電気ガス料金の請求を見て「目を疑った」という。昨年の同じ時期の請求に比べて「2倍強」に料金が膨れ上がったからだ。オニールさんは借家住まいで月40万以上の住宅費も負担している。オニールさんは「住宅の次は電気の値上がりが家計を圧迫するのか」と憤る。

アルバニージー政権は今年春に実施された総選挙で、再エネの拡大は将来的な国民生活の軽減につながるとさかんに強調していた。

しかしABSの統計は将来的なことはともかく、再エネ導入の拡大期には電気料金の価格抑制の効果がなく、インフラ整備にかかるコスト負担が家計を圧迫している現実を浮き彫りにした。

日本より平均年収が高い豪州とはいえ、衣食住の生活必需品が日本の2倍以上する状況でこれ以上の家計負担が増えることには国民は納得していない。

電力市場を運営する豪州エネルギー市場オペレーター(AEMO)によると、全国平均の卸電力価格は下落している。だが発電の約8割を再エネが占める南オーストラリア州の電力単価はほかの州と比べ約2割高いのが現実で、小売価格に反映されていないのが現状だ。

メルボルンにあるAEMOの本部

豪州エネルギー規制機関(AER)は、標準電力料金のうち送電事業者から小売業者に課される固定費が、最大で約5割を送電網の拡張や再エネ整備による再エネ導入に伴うコストが占めるとの見通しを示している。

さらに連邦政府や一部州政府が出していた補助金も打ち切りになり、豪州の電力コンサルタントは「卸電力料金が下がっても小売料金が上がり続ける環境が出そろっている」と指摘する。

【ニュースの周辺/11月26日】高市首相・小林自民党政調会長のエネルギー政策観<資料編>


参考1自民党「立地に寄り添うエネルギー政策推進議員連盟」 総裁選候補者にエネルギー政策を調査 高市候補・小林候補の回答

参考2自民党・日本維新の会 連立政権合意書 6.エネルギー政策

参考3高市首相の閣僚への指示書 ~エネルギー・環境に関する部分~ 

参考4高市首相 所信表明演説 ~「エネルギー安全保障」に関する部分~

【参考1】

自民党「立地に寄り添うエネルギー政策推進議員連盟」  総裁選候補者にエネルギー政策を調査  高市候補・小林候補の回答

滝波宏文議連事務局長 フェイスブックより (抜粋)

1.わが国におけるエネルギーの現状を踏まえた、原子力を含む現実的かつ責任あるエネルギー政策の推進

●高市候補

日本企業の国内回帰を促し国内のものづくり基盤を守るためにも、特別高圧・高圧の電力を安価に安定的に供給できる対策を講じていく必要がある。特に、AIの社会実装、それに伴うデータセンターの拡大などDXの進展により、電力需要が拡大すると指摘される中、それに応えられる脱炭素エネルギーを安定的に供給できるかが国力を左右するといっても過言ではない。一方で、わが国は国産エネルギー源に乏しく化石燃料の太宗を海外に依存している中で、ロシアのウクライナ侵略や中東地域の不安定化など、資源・エネルギーをめぐる情勢は、複雑かつ不透明な状況。エネルギー自給率を向上させ、強靭なエネルギー需給構造への転換を進めることが必要。供給サイドにおいては、将来にわたってわが国のエネルギー安定供給を確実なものにするため、あらゆる選択肢を確保しておくことが重要であり、自給率向上に貢献し脱炭素効果の大きい原子力を最大限活用する。まずは、安全性の確保を大前提に、原子力規制委員会による審査・検査を踏まえ、地元の理解を得た原子炉の再稼働を進める。さらに、地域の理解確保を大前提に、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設の具体化を推進する。さらには、ウランもプルトニウムも使わず、高レベル放射性廃棄物も発生しない核融合(フュージョンエネルギー)について、世界に先駆けた2030年代の発電実証を目指す。一方、需要サイドにおいては、徹底した省エネルギーに取り組む。冷媒適用技術や光電融合技術など、わが国の優れた省エ技術の研究開発・実用化を進め、国内の省エネ、更には、わが国の省エネ製品・技術の輸出拡大にも取り組む。

●小林候補

第7次エネルギー基本計画にある通り、すぐに使える資源に乏しく、国土を山と深い海に囲まれるなどの地理的制約を抱えている我が国の固有事情を踏まえれば、エネルギー安定供給と脱炭素を両立する観点から、特定の電源や燃料源に過度に依存しないようバランスのとれた電源構成を目指していく必要がある。特に、DXやGXの進展による電力需要増加が見込まれる中、再エネか原子力かといった二項対立的な議論ではなく、原子力をはじめエネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用していかなければならない。その中で、原子力は、エネルギー安全保障の確保、将来増加する電力需要や経済成長・産業競争力の強化に必要な脱炭素電源の拡大、電力料金抑制や燃料価格の影響を受けにくい経済構造への中長期的な転換、50年カーボンニュートラル実現のためにも、最大限活用すべきと考える。

2.リスクを負って安定安価な電力を供給してきた、「原子力立地地域に寄り添う」諸政策の強力な推進(原子力避難道の整備、最終処分地の確保、立地地域の振興など)

●高市候補

わが国の原子力利用は、原子力立地地域の関係者の安定供給に対する理解と協力に支えられてきた。今後も原子力利用を進めていく上で、立地地域との共生に向けた取り組みが必要不可欠である。立地地域の実情やニーズに即した地域振興支援や、新産業・雇用創出を含む将来像を自治体・国・事業者が共に描く取組など、対象地域から高い評価を得たグッドプラクティスの他地域への横展開などを進める。また、災害に対する地域住民の不安の声や自治体の業務負担の増大なども踏まえ、人材育成を含めた自治体の取組への支援、避難道の整備など防災対策の見直しと不断の改善に向けた官民連携などを進め、防災対策の一層の充実・強化を図る。最終処分の実現に向けた取組に関しては、最終処分事業に貢献する地域への敬意や感謝の念が社会的に広く共有されるよう、国主導での国民理解の促進や自治体などへの主体的な働きかけを抜本強化するため、政府一丸となって、かつ、政府の責任で、最終処分に向けて取り組んでいく

小林候補

わが国の原子力利用は、原子力立地地域の関係者のご理解とご協力に支えられてきた。立地地域に感謝の念を持って、課題に真摯に向き合い、産業振興や住民福祉の向上、防災対策のための予算措置、避難道路の多重化・強靭化など、立地地域に寄り添って、ともに歩む

3.脱炭素社会実現と国力維持・向上のために必要な、我が国の原子力技術・人材・立地を保つ、最新型原子炉によるリプレース実現。そのための長期投資を可能とする事業環境の整備

●高市候補

将来にわたってわが国のエネルギー安定供給を確実なものとするため、あらゆる選択肢を確保していくことが重要。原子力に関しても、今後とも、革新技術による安全性向上、エネルギー供給における「自己決定力」の確保、GXにおける「牽引役」としての貢献といった原子力の価値を実現していくため、そして足下から安全向上に取り組んでいく技術・人材を維持・強化していくためにも、地域の理解確保を大前提に、六ケ所再処理工場の竣工などのバックエンド問題の進展も踏まえつつ、安全性の確保を大前提として、新たな安全メカニズムを組み込んだ「次世代革新炉」の開発・建設の具体化に取り組む。特に、大型電源については投資額が大きく、総事業期間も長期間となるため、事業期間中の市場環境の変化などに対応できるような事業環境の整備を推進する。同時に、研究開発や人材育成、サプライチェーン維持・強化に対する支援を拡充する。同志国との国際連携を通じた研究開発推進、強靭なサプライチェーン構築、原子力安全・核セキュリティ確保にも取り組む。次世代革新炉としては、革新軽水炉、小型軽水炉、高速炉、高温ガス炉、フュージョンエネルギーといった研究開発が進んでいる。特にフュージョンエネルギーはウランもプルトニウムも使わず、高レベル放射性廃棄物も発生しないことから、わが国のエネルギー問題を解決する切り札として期待される。わが国は、フュージョンエネルギーに関して技術的優位性を持っており、その実現は、産業振興を通じた産業競争力の強化およびエネルギーを含むわが国の自律性の確保を通じた経済安全保障の強化に資することから、戦略、法制度、予算、人材面での強化が必要である。 野心的な目標ではあるが、世界に先駆けた30年代の発電実証を目指していく

小林候補

原子力は、エネルギー安全保障の確保や脱炭素電源の拡大、電力料金抑制などの観点からも、最大限活用すべき。 安全性の確保を大前提に再稼働を進め、廃炉を決定した原子発電所を有する事業者の原子力発電所のサイト内での次世代革新炉への建て替えなどについても進めていく。それを支える我が国の優れた原子力産業基盤や人材の維持・強化に取り組むとともに、電力システム改革によって競争が進展した環境下においても、予見性を持って投資が可能となるような事業環境整備を進める

4.核燃料サイクルを堅持し、民主党政権の二の舞を避ける

高市候補

わが国は、資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減などの観点から、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウムなどを有効利用する核燃料サイクルの推進を基本的方針としており、これを堅持する。具体的には、使用済燃料の再処理について、日本原燃は六ケ所再処理工場の新たな竣工目標実現に向けて、規制当局との緊密なコミュニケーションなどにより、安全審査などへの対応を確実かつ効率的に進める。また、プルサーマルの推進や使用済燃料の貯蔵能力の拡大などに向けて、電力事業者が連携し、地元理解に向けた取組を強化するとともに、国もこうした取組をサポートし、主体的に対応する

●小林候補

核燃料サイクル政策を堅持する。使用済燃料の再処理をはじめとする核燃料サイクル、円滑かつ着実な廃炉、高レベル放射性廃棄物の最終処分といったバックエンドへの対応はいずれも原子力を長期的に利用していくにあたって重要な課題。原子力に対する様々なご懸念の声があることを真摯に受け止め、それぞれの課題にしっかりと取り組み、丁寧に説明を行いながら、原子力を活用していく。

5.リプレースに向けた最新型原子炉の建設に必要な規制基準の迅速な設定とそのための事前審査など、適正手続(デュープロセス)などを踏まえた原子力規制委員会の規制行政の改善。および、政府のエネルギー政策との整合性確保に向けた原子力規制委員会の改革

●高市候補

原子力規制委員会は、科学的・技術的見地から、公正・中立に、かつ独立して意思決定を行う機関であり、いかなる事情よりも安全性を全てに最優先させるとの前提の下、同委員会が、次世代革新炉の安全確保について、適切な判断を行えるよう、必要な体制の整備に向けた取組を進めていく。また、事業者・ATENA(原子力エネルギー協議会)による、原子力規制委員会との共通理解の醸成・改善への協働を促していく。

小林候補

原子力の最大限活用のためには、安全性の確保を大前提に再稼働や次世代革新炉の開発・設置などを加速化させていく必要がある。そのためには、原子力規制委員会や原子力規制庁による行政の改善・改革(審査の効率化や審査体制充実など)は根幹的に重要。安全の確保を最優先にしつつ、審査プロセスの継続的な改善に取り組む。

6.太陽光・風力など再エネにおける立地共生の推進

●高市候補

あらゆる電源に共通して、地域の理解や地域との共生は大前提。私たちの美しい国土を守るため、法令に違反する太陽光パネルが設置されることのないよう、地域の声を丁寧に聞きながら政府が前面に立って取り組んでいく。これまでの仕組みありきとせず、関連する規制・制度を総点検する。また、間もなく耐用年数を迎える初期に設置された太陽光パネルの安全な廃棄にも取り組む。同時に、特定の国にサプライチェーンを依存することなく、エネルギー自給率を向上させながら、わが国の産業競争力強化と経済安全保障を確保する観点から、ペロブスカイト太陽電池の普及を進める。日本で開発された技術であり、薄くて曲がることから建物への導入が可能で、主要な材料であるヨウ素は国内調達が可能であることから、日本国内はもとより海外にも展開していく。また、エネルギーを地産地消にすることで自然災害などによる広域大規模停電を防止する手段にもなるため、国産バイオマスや中小水力発電の活用、次世代型地熱発電の実用化に向けた取組なども進める

小林候補

再生可能エネルギーの導入に当たっても、立地地域との共生は大前提であり、関係法令の遵守を厳格に求めるとともに、適切な事業規律を一層確保するなど、関係省令や地方公共団体が連携した施策の強化に取り組む。その上で、高くて不安定な再生可能エネルギーは、その政策を見直していく必要がある。特に、太陽光については、地域住民の方々との摩擦やサプライチェーン上のリスクもあり、立ち止まる必要があると考える

7.火力における脱炭素に向けた現実的なトランジションの推進、そして、立地地域の意見を踏まえた跡地活用

●高市候補

現状、火力発電は電源構成の7割を占めており、今後の電力需要の拡大が見込まれる中で安定供給をないがしろにすることのないよう、したたかなエネルギー転換を進める。具体的には、火力発電全体で安定供給に必要な発電容量は維持しつつ、非効率な石炭火力を中心に発電量を減らしていく。また、LNG火力は現実的なトランジションの手段として有効であり、将来的な脱炭素化を前提とした新設・リプレースを促進する火力発電所を休廃止する場合には、地域経済や雇用への影響を最小化すべく、跡地活用のあり方を含め、事前に立地地域と十分にコミュニケーションを行う

小林候補

火力発電は、引き続き、供給力や再エネの変動を担う調整力として重要な役割を担う。石炭火力は、CO2の排出量が多いため、非効率な石炭火力を中心に発電量を減らしていくが、必要な供給力が十分に確保されていない段階で、直ちに急激な抑制策を講じることになれば、電力の安定供給に支障を及ぼしかねない。 従って、非効率な石炭火力のフェードアウトを着実に進めるとともに、水素・アンモニアやCCUSなどを活用した火力の脱炭素化を引き続き進めていく。また、火力発電所のトランジションに際しては、こうした燃料転換による脱炭素化のほか、発電所を廃止して跡地を産業用途などに有効活用する事例も見られる。火力発電が地方税収、雇用、地元企業への外注などを通じて地元経済に貢献している中で、地域経済や雇用への影響などを踏まえながら、地域の実情などに応じたトランジションの検討を推進する

【参考2】

自民党・日本維新の会 連立政権合意書10月20日(抜粋)

6.エネルギー政策

◇電力需要の増大を踏まえ、安全性確保を大前提に原子力発電所の再稼働を進める。また、次世代革新炉および核融合炉の開発を加速化する。地熱などわが国に優位性のある再生可能エネルギーの開発を推進する。

◇国産海洋資源開発(エネルギー資源および鉱物資源)を加速化する。

【参考3】

高市首相の閣僚への指示書 ~エネルギー・環境に関する部分~(抜粋)

●松本文部科学相

◇原子力損害賠償紛争審査会による和解仲介など、東京電力福島原子力発電所事故による損害の迅速な損害が講じられるよう、引き続き関係大臣と協力して対応する。

●赤沢経済産業相

◇関係大臣と協力して、東京電力福島第1原子力発電所の廃炉・汚染水・処理水対策、帰還困難区域の避難指示解除に向けた取組、原子力災害被災者の生活支援や生業再建などに全力で推進する。

◇国民生活や経済活動の基盤となるエネルギーの安定供給に万全を期す。S+3E(安全、安定供給、経済効率性、環境適合)の観点から、資源・エネルギーの多様で多角的な供給構造を確立する。安全を大前提とした原発の利活用、国内資源の探査・実用化、日本が潜在力を持つ再生可能エネルギーの最適なエネルギーミックスを実現し、日本経済をエネルギー制約から守り抜く

◇エネルギー安全保障と脱炭素を一体的に推進する中で、産業競争力の強化、新たな需要・市場創出を通じた成長フロンティアの開拓を図り、強靭な経済構造を構築することを目指す。50年カーボンニューラルおよび30年度の温室効果ガス排出削減の実現に向け、グリーントランスフォーメーション(GX)2040ビジョンなどを踏まえ、官民協調による10年間で150兆円超のGX関連投資を推進する。

●石原環境相

◇放射性物質を含む廃棄物の処理、特定帰還居住区域における除染など、東日本大震災からの復興・再生の取組を着実に実施する。

◇50年カーボンニュートラルおよび30年度の温室効果ガス排出削減目標を実現し、世界の脱炭素を主導するため、GX実行推進担当大臣など関係大臣と協力して、地球温暖化対策を推進する

◇関係大臣と協力して、40年までに追加的なプラスチック汚染ゼロを目指す。

◇原子力規制委員会における原子力安全規制および体制の強化を強力にサポートする。

◇関係大臣および原子力規制委員会と協力しつつ、原子力防災体制の抜本的強化を図る。

◇内閣府の事務のうち、原子力災害対策本部および福島第一原子力発電所事故調査に係るフォローアップに関する事務を担当させる。

◇原子力防災会議に関する事務を担当させる。国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)をはじめとする気候変動問題に係る国際会議などへの対応を円滑に推進するため、行政各部の所管する事務の調整を担当させる。

【参考4】

高市首相所信表明演説~「エネルギー安全保障」に関する部分~10月24日(抜粋)

国民生活および国内産業を持続させ、さらに立地競争力を強化していくために、エネルギーの安定的で安価な供給が不可欠です。特に、原子力やペロブスカイト太陽電池をはじめとする国産エネルギーは重要です。GX(グリーントランスフォーメーション)予算を使いながら、地域の理解や環境への配慮を前提に、脱炭素電源を最大限活用するとともに、光電融合技術などによる徹底した省エネや燃料転換を進めます。また、次世代革新炉やフュージョンエネルギーの早期の社会実装を目指します。こうした施策を直ちに具体化させてまいります。我が国の総力を挙げて、強い経済を実現していこうではありませんか。

【ニュースの周辺/11月26日】高市首相・小林自民党政調会長のエネルギー政策観<本編>


石破茂首相辞任表明を受けて、10月4日に行われた総裁選で高市早苗前経済安全保障相が新総裁に選ばれ、21日には臨時国会で首相に選任された。自民党の役員人事では総裁選に出馬した小林鷹之元経済安全保障相が政調会長に就任した。本稿では、今回の総裁選から組閣に至る中で表明された両氏のエネルギー・環境政策に関する見解(主な内容は【資料編】に掲載)について、前々回(2021年9月29日岸田文雄新総裁誕生)、前回(24年9月27日石破茂新総裁誕生)の総裁選時など、それ以前の発言などからたどって、ここ最近の言動として見ておきたい。そのために、まずは【参考】として、近年のエネルギー・環境政策の流れを菅義偉首相以降の政権の動きと併せて時系列で見ておく。

◆近年のエネルギー・環境政策の流れと政権の動き【参考】

◎菅義偉政権で 

20年10月26日 所信表明演説で「50年温室効果ガス排出実質ゼロ」表明

21年4月22日 気候変動サミット前の地球温暖化対策推進本部での発言「50年目標と整合的で野心的な目標として30年度に温室効果ガスを13年度から46%削減することを目指す。さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける」

菅首相は21年9月3日退陣表明

◎第6次エネルギー基本計画 21年10月22日閣議決定(岸田政権発足直後)

その方向性は、岸田政権発足(10月4日)当初も継承され、10月22日、「第6次エネルギー基本計画」を閣議決定。併せて、「日本のNDC(国別目標)」を決定した(地球温暖化対策推進本部)。菅政権下の21年5月ごろには一時、カーボンニュートラルに貢献するものとして、原発の新増設・リプレースなど、「原子力発電の最大限活用」に向けて、党内の議連などの動き・提言が活発化した。ただ最終的には、「必要な規模を持続的に活用していく」とされたものの、「可能な限り原発依存度を低減する」という第5次エネ基の記載は残った。

◎岸田政権「GX実現に向けた基本方針」22年12月22日

岸田政権はその後、国際的な脱炭素化の進展や、国際情勢の変化などによるエネルギー安全保障の懸念などを受けて、22年12月22日、「GX実現に向けた基本方針」で原発政策について大きな転換を表明した。徹底した省エネの活用、再エネの主力電源化とともに、原子力の活用を謳った。

・廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建て替えを具体化

・40年+20年の運転期間制限を設けた上で、一定の停止期間に限り追加的な延長を認める

◎第7次エネルギー基本計画2月18日閣議決定 参考=石破政権 24年10月1日発足

2月18日、「第7次エネルギー基本計画」、「地球温暖化対策計画改定」、「GX40年ビジョン改訂」が閣議決定され、併せて新たに日本の「NDC(国別目標)」を決定した。

地球温暖化対策計画

50年ネットゼロ実現に向けて温室効果ガスを35年度、40年度において、それぞれ13年度から60%、73%削減することを目指す。

第7次エネルギー基本計画

40年に向けた政策の方向性」として、需要側の省エネルギー・非化石転換脱炭素電源の拡大と系統整備などに分けて論じる。

〇脱炭素電源の拡大と系統整備

再生可能エネルギー、原子力などエネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用する。

●再生可能エネルギー

地域共生・国民負担抑制を図りながら最大限の導入を促す。

・ペロブスカイト太陽電池 

・EEZなどでの浮体式洋上風力 

・地熱発電の導入拡大、次世代型地熱の社会実装加速化

・自治体が主導する中小水力の促進

原子力

・安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用する。

・廃炉を決定した原子力発電所を有する事業者の原子力発電所のサイト内での次世代革新炉への建て替えを、六ケ所再処理工場竣工などバックエンド問題の進展も踏まえつつ、具体化を進める。

●火力

・安定供給に必要な発電容量(kW)を維持・確保しつつ、非効率な石炭火力を中心に発電量(kW時)を減らしていく。

・トランジション手段としてのLNG火力の確保、水素・アンモニア、CCUSを活用した火力の脱炭素化を進める。

次世代電力ネットワークの構築

・地域間連系線、域内基幹系統などの増強

・蓄電池やDRなどによる調整力の確保、系統・需給運用の高度化

〇次世代エネルギーの確保/供給体制

水素など(アンモニア、合成メタン、合成燃料含む)、バイオ燃料

〇化石資源の確保/供給体制 (天然ガス、石油、LPガス、石炭)

特に現実的なトランジション手段としてLNG火力を活用するため、官民一体で必要なLNGの長期契約を確保する必要。

【論考/11月25日】亡国の「暫定税率」廃止 なぜ日本を弱体化させるのか⁉


円安が原油高の主因を成す現実から逃避し、国の将来の為に今あるべき税率を考えようともせず、しかも課題解決に挑む創造力を自ら萎縮させる「日本弱体化」政策――。それが燃料油価格補助金に続く暫定税率廃止である。

11月5日、自民と日本維新の会の与党2党、および立憲民主、国民民主、公明、共産の野党4党により、ガソリン、軽油の特例税率(いわゆる暫定税率)をそれぞれ今年末、来年4月1日に廃止することが正式合意された。基本的に前政権下で定まった既定路線の踏襲だが、軽油の暫定税率廃止が明確となる一方、年間約1兆5000億円とされる減税分の財源確保は「今年末までに結論」と先送りされた。移行を円滑にするべく、目下価格補助金が段階的に引き上げられており、12月中旬にはガソリン・軽油小売価格に暫定税率廃止と同様の値引き効果が現れる。

「挙国一致」で進められるガソリン、軽油の暫定税率廃止だが、これは日本の原油高対策としても、また石油政策、安全保障政策としても根本的に誤っている。この過誤が全政党によって見過ごされ、これをただす冷静な議論が政治の場で提起されない事態は、今日の日本の視野の内向化・狭窄化、国力の衰弱を鮮明に映し出している。

2022年1月末以降の燃料補助金の誤謬と弊害を、筆者は本誌上で指摘してきたが、内容の重複に寛恕を乞いつつ、暫定税率廃止の問題点を以下に論じる。

問題からの逃避:日本の「原油高」は円安が主因

言うまでもなく、原油高とは、日本の原油輸入費用の増大、をいう。したがって、原油高対策の第一義的な目標は、日本の原油輸入代の低減だ。ところが2022年以降、現在までほぼ4年間、補助金によって国内燃料油価格を人為的に抑制し続ける中で、この本来の意味での原油高対策は置き去りにされてきた。問題から顔を背けるその逃避の姿勢は、今回の暫定税率廃止にも引き継がれてみいる。

日本の原油輸入価格は、ドル建ての国際原油価格と円・ドル為替レートの積で決まる。ロシアによるウクライナ侵攻以前の22年1月を基準とし、その後の日本の原油輸入価格の上昇を分析すれば、早くも22年・第4四半期から円安効果が主因となっていたことが分かる(図1参照)。昨年の年間平均では原油輸入価格上昇の9割弱が円安効果による。ドル建て価格は22年1月に1バレル当たり約80ドルだったが、昨年11月にはこれを割り込み、今年1~9月平均値も75ドル強と、むしろ「原油安」に転じている。

言い換えれば、これまで今年の「日本の原油高」は100%円安に帰因している。日本にとって原油高とは、すぐれて円安問題なのだ。原油高対策とは、まず何より現今の行き過ぎた円安を是正し、適度な円高を促すものでなければならない。この簡明な点を全政党が無視している。

ところで22年以降の円安、22年1月の1ドル115円に対し、昨年平均・150円強―の最大の原因は、1000兆円を超える国債発行残高、30年間以上赤字の続く基礎的財政収支と、日本の財政が重度の慢性疾患に陥っていることにある。日銀の国債保有率の突出した高さも相まって、インフレ環境下での金利上昇に対する財政・金融上の脆弱さが、円の反発力を著しく制約している。

よって円安を主因とする日本の原油高を是正するには、国債発行残高と将来の基礎的財政収支の黒字見通しとの整合性を回復すべく、財政規律の強化につながる施策を講じなければならない。また、石油が日本の最大の輸入品目である以上、円安是正のためには、その輸入抑制を促す施策が必要となる。

しかし累積予算額8兆円の燃料油補助金も、今回のガソリン、軽油引取税率をほぼ半減とする大幅減税も、日本の財政規律を犠牲とした国内の「石油大安売り」であり、財政負担を増すと同時に石油輸入を下支えし、円安圧力を生む。即ち、日本の原油輸入費用を増大させる「原油高誘導策」である。

今年6月、日本のドル建て原油輸入単価はバレル当たり70ドル強で、22年1月対比9ドル強下落している。もし為替レートが22年1月時点と変わらず115円を保っていれば、この間の原油代の円建てでの下落幅は1ℓ当たり約7円となる。22年1月の日本のガソリン平均価格は168円だったから、同じ下落幅を当てはめると、今年6月は161円となる。

これは実際の補助金投入後の価格173円より12円安く、21年後半の平均価格とほぼ等しい。このように、円の価値が守られていれば、国際原油価格の動きに合わせ、財政に何ら追加的負荷を掛けずとも、国内燃料油価格は十分に下落していた。円の防衛は、日本の本来の意味での原油高対策の核心にある。ところが、円の価値に打撃を与える大規模補助金・減税措置が、「原油・物価高対策」の名の下に行われている。ここに誤謬の最たるものがある。

【記者通信/11月21日】新潟知事が柏崎刈羽の再稼働容認 「反対」の立憲はどう動く?


新潟県の花角英世知事が11月21日、東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働容認を表明した。記者会見で同氏は知事職を続けることについて、「県議会から信任または不信任の判断をいただきたい」と述べ、12月2~22日に開かれる新潟県議会で自身の判断について県民の信を問う方針だ。県議会は再稼働に前向きな自民党が過半数を占めており、年内にも正式に国からの再稼働要請に回答し、年度内には営業運転を開始できる見通しだ。

12月議会では再稼働関連の補正予算案の提出が予定されている。その議決をもって知事の判断を信任する案や、県議会が知事判断を信任する付帯決議を提出する可能性もあるという。

花角氏は今夏以降、公聴会や首長との意見交換、県民意識調査などで県民の意思を確認するプロセスを踏んできた。中でも意識調査については「(再稼働に)肯定的な方と否定的な方が大きく分かれている」と認めつつ、「正確な情報を県民に提供し、周知していくことを継続していけば、再稼働に対する理解も広がる」と判断したと結論付けた。

また、事業主体が福島第一原発事故の当事者である東京電力である点や、柏崎刈羽で発電される電力が東電管内に送られること、豪雪地帯で緊急時の避難に対する不安感が他地域よりも大きいといった新潟県特有の課題を挙げた。その上で、国に対しては①県民への丁寧な説明と理解促進、②不断の安全性向上、③緊急時対応と住民理解促進の徹底、④避難体制の迅速かつ集中的な整備、⑤最終処分場問題など長期的な課題への国の責任、⑥東電の信頼性回復と監視の実効性確保、⑦電源三法交付金の対象範囲拡充──という7つの項目について確約を得た上で、県として了承するとした。

今後、県議会の動きのほかに気掛かりなのは、立憲民主党の動きだ。新潟県は「立憲王国」で、昨年10月の衆院選では全選挙区で立憲が勝利。参院と合わせて県内の国会議員は7人に上り、新潟日報が行ったアンケートでは全員が「再稼働すべきではない」と回答している。同党の野田佳彦代表は21日、「現時点では反対」「県連の移行を踏まえ党として判断する」との見解を示した。柏崎刈羽のお膝元である新潟4区選出の米山隆一衆院議員は、来年6月の県知事選に「県民投票の実施」を公約として立候補する可能性を示唆しており、県連がどのような判断を下すか注目だ。

朝日は今日も能天気 驚愕の「天声人語」

柏崎刈羽の再稼働によって、東日本の厳しい電力需給構造が改善に向かうのは間違いない。来年8月に0.9%とされる東京エリアの予備率は3%を確保できる可能性が高い。ところが、11月18日に「東電の再稼働 分断を招く判断 避けよ」と題する社説を掲載した朝日新聞は、こうした現実に目を向けようとしない。21日の天声人語を見て愕然とした。

〈つきつめれば、私たちの暮らしに安定した電力が必要だから、ということなのだろう。でも、本当にそうなのか。人が減り、町が細り、災害が絶えぬ列島で、これからも電気をどんどん使い、依存を深める社会というのは現実的と言えるのか〉

紛れもなく、私たちの暮らしには安定した電力が必要だ。改めて言うまでもなく、電気は国民生活、経済活動の根幹を支える極めて重要なライフラインである。省エネは大事だが、デジタル化の進展で電力需要は急増が予測されている。また、「依存を深める社会」というが、電力依存を深めない社会の方がよほど非現実的ではないのか……。しかしそこまで言うからには、朝日は今後、できるだけ電力に依存しない形で新聞やテレビ番組、ネット情報などを提供し、DX時代に対応していくのだろう。まるで想像がつかないだけに、楽しみではある。

【ニュースの周辺/11月17日】地域インフラ維持・再構築への多様な対応~経営広域化、官民連携など~


◆国土交通省 「上下水道政策の基本的なあり方検討会」

6月25日、国土交通省の「上下水道政策の基本的なあり方検討会」は、「第一次とりまとめ」を公表した昨年4月、水道行政が国交省(整備・管理全般)と環境省(水質基準策定など)に移管され、国交省は上水道・下水道行政を一体として担うこととなった。昨年11月にスタートした「上下水道政策の基本的なあり方検討会」は当初、2050年を見据えた上下水道政策の目指すべき方向性を議論していた。しかし、1月に埼玉県八潮市において下水道管の破裂が起因とみられる大規模な道路陥没事故が発生して、「老朽化対策を進めるために必要な経営基盤の強化について先行的に議論する」とされた。

参考=4月17日「第3回上下水道政策の基本的なあり方検討会」

「上下水道政策の基本的なあり方検討会の進め方の見直しについて」(抜粋)

状況の変化

1月28日に埼玉県八潮市にて下水道管の破損が起因とみられる道路陥没事故が発生。ほかにも、水道管、下水道管の老朽化が起因の道路陥没事故が多数発生し、国民全体が上下水道の老朽化、あるいは持続的な事業運営に不安を覚えている状況。

今後の進め方

このため、本検討会では、老朽化対策などを進めるために必要な経営基盤の強化について先行的に議論いただくこととしたい

①「「第一次とりまとめ」(6月25日)“基本認識”と“取組の方向性”(抜粋)

「第一次とりまとめ」では、下記の「基本認識」と「取組の方向性」が示された。 

●基本認識

・人口減少による料金収入などの減少、維持管理・更新費などの増大に加え、経営基盤が脆弱な小規模事業体が多数を占める現状を踏まえれば、近い将来、上下水道全体の事業運営システムに限界が生じることは必至。規模のメリットを生かし専門人材を確保するなど、持続的な経営体制を構築するため、単一市町村による経営にとらわれず、“経営広域化”を国が主導して実現する必要。

国、事業体などの関係者は、これまで料金などの低廉性・安定性が優先されるあまり、安全・安心に必要な投資が先送りされてこなかったかを真摯に振り返り、更新投資を適切に行うとともに、次世代に負担を先送りしないための経営改善・財源確保や適正な受益者負担を改めて考えることが必要。

●強靭で持続可能な上下水道を実現するための基盤の強化に向けた取組

・単一市町村による経営にとらわれない経営広域化の国主導による加速化

・更新投資を適切に行い次世代に負担を先送りしない経営へのシフト

・官民共創による上下水道の一体的な再構築と公費負担のあり方の検討

 ②老朽化の状況「第一次とりまとめ」より(抜粋)

・漏水事故、道路陥没事故の発生状況

22年度、水道の管路事故は約2万件、下水道管路に起因する道路陥没は約2600件発生している

管路の老朽化の状況

老朽化は今後も進む見込みで、水道の法定耐用年数40年を経過した管路は21年度末で約17万km(約22%)、10年後には約30万km(約41%)となる。下水道においても、標準耐用年数50年を経過した管路は、22年度末で約3万km(約7%)、10年後には約9万km(約19%)となる。

耐震化の遅れ

23年度末時点での上下水道施設の急所施設の耐震化率は、水道の取水施設が約46%、導水管は約34%、浄水施設は約43%、送水管は約47%、配水池は約67%、下水処理場は約49%、ポンプ場は約52%、下水道管路は約70%であった。また、接続する上下水道管路などの両方が耐震化されている重要施設の割合は約9%にとどまる。

◎日本経済新聞2月2日付社説〈インフラ老朽化を直視し総合対策を探れ〉〈……各種インフラの老朽化の状況をみると、水道はまだよいほうだ。インフラは50年が老朽化の目安とされる。40年までに整備から50年が経過するのは、下水道が34%、上水道は41%、ほかは道路橋が75%なのを筆頭に、港湾施設、河川管理施設、トンネルなどが軒並み50%を超えるこれらが一斉に補修や更新の時期を迎えると財政負担が極端に膨らむ。こまめに補修する予防的な保全を進めているがまだ途上で、計画的な管理が欠かせない。……人口減少下でこれらがすべて必要なのか、あるいは追加すべきものがあるのか、優先度を見極める必要があるAIなどの活用で点検や修繕の技術が進み、地域やインフラの種別を超えた包括的な管理が広がれば、維持費を低減できよう。多種多様なインフラをまとめて扱い、効率的な管理の手法を考えたい。インフラのあり方は社会的な影響が大きく、社会保障制度のように長期的、総合的に考えてしかるべきだ。……長期的な維持費用をきちんと見積もり、財源確保の必要性に説得力を持たせて現実的な議論を深めたい

③総括原価の取り扱い

上記のように持続的な経営体制構築が課題とされる中、「第一次とりまとめ」では、更新投資の基礎となる料金算定について次のように指摘する。(抜粋)

〈近年、料金などの水準はわずかに上昇傾向であるが、大きく変化していない。また、長期間料金などが改定されていない事業体も少なくなく、更新投資に備えた資産維持費の算入は十分には進んでいない。これまでの経営は、料金などの低廉性や安定性を過度に重視し、安全・安心のために必要な更新投資を、適切な平準化の範囲を超えて先送りすることによって、収支均衡を図っていた可能性を否定できない〉〈各事業体が“先送りによる収支均衡”の経営から脱却し、“更新投資を適切に行い次世代に負担を先送りしない経営”にシフトする具体的な行動を開始できるよう、国からの積極的な働きかけや技術的支援が必要である〉

電力や都市ガスであれ、鉄道であれ、その事業を長年にわたり運営していくうえで必要となる設備更新・維持に必要な費用は、効率化を図りつつ、事業の収支計画の中で織り込まれた形で価格設定がなされるものである。これに対して上下水道の現在の状況について、「第一次とりまとめ」は、そもそもの制度の在り様にも言及して、次のように説明する。

●料金などにおける資産維持費の算入状況

・上下水道事業において徴収する料金などについては、地方公営企業法(公営企業会計)において、能率的な経営の下における適正な原価を基礎とし、健全な運営を確保できるものでなければならないとされており、老朽化対策や耐震化などを計画的に進めるためには、将来の更新投資などの原資である“資産維持費”を含む総括原価を基礎として料金などを算定することが必要である。

水道については、法令上、資産維持費が総括原価に含まれることが明確化されているが、日本水道協会が実施したアンケート(24年10月公表)によると、資産維持費相当額を水道料金に算入しているのは、回答のあった総括原価方式採用事業体の約52%にとどまっている

下水道については、法令上、使用料の算定方法の詳細は定められておらず、日本下水道協会のアンケート(24年12月)によると、公営企業会計の適用の過渡期であったことから母数が少ないが、資産維持費相当額を下水道使用料に算入しているのは、回答のあった総括原価方式採用事業体(114事業体)で約19%(22事業体)となっている

参考=エネルギーフォーラムオンライン4月29日付〈井手秀樹慶應義塾大学名誉教授〉長年にわたり公益事業規制研究に携わり、水道行政にも通暁する井手氏は更新投資の進まない状況を次のように語る。〈……日本の社会インフラの多くは1960年代の高度成長期に整備されたものであり、それらの多くが更新時期を迎えている。だが更新は進んでいない。……社会インフラの更新が進まない原因の一つは、上下水道に関して、維持管理するための人手や技術の不足がある。地面の下に埋まっている上下水道など、損傷具合が見えないものも多いため、正確に把握するためには地上から電磁波を送るなどの最新の損傷検知技術が必要になり、損傷を効率よく直す技術も求められる。また大きな原因は、財政難と人口減少時代の料金収入減少予測から、自治体が更新投資を先送りする傾向が強まっていることにある大阪市の例では、適切に入れ替えるには毎年70~80kmのペースで新しい水道を敷設すべきと推計されるが、「令和5年度大阪市水道事業会計決算書」では総敷設距離は約45km。大阪市でこのような状況であれば地方の市町村ではいうまでもない更新投資のための積み立ても不十分で、料金値上げによる財源確保しかない近年、水道料金は全国各地で20%を超える大幅な値上げの動きがみられるが、議会で可決するのは決して簡単ではない。ある自治体では“値上げを恐れるな”という表現がみられるほどである……〉

【記者通信/11月19日】KK再稼働の知事判断先送りを主張 朝日新聞の見識を問う


東京電力柏崎刈羽原子力発電所(KK)6号機の再稼働の是非について、新潟県の花角英世知事が11月21日にも判断するとみられる中、朝日新聞が18日付朝刊で〈東電の再稼働 分断を招く判断 避けよ〉と題する社説を掲載した。立地地域の柏崎市、刈羽村を中心に、ようやく再稼働への地合いが整いつつある状況下で、むしろ県民の分断を煽るような論調に対し、エネルギー業界からは朝日の見識を問う声が聞こえている。

〈東京電力柏崎刈羽原発の再稼働をめぐり、新潟県が県民の意識調査の結果をすべて発表した。容認する意見と反対意見は拮抗し、県民の意思はほぼ二分されている。調査結果も踏まえて再稼働の是非を判断するとしてきた花角英世知事は「早い段階で結論を出す」構えだが、地域住民の分断を招くおそれのある判断は避けるべきだ〉

社説はこんな書き出しで始まり、〈(再稼働すべきではないと考える人が4割超という)こうした民意を踏まえれば、知事が現段階で是非を判断するのには、無理がある〉〈東電に対する県民の不信感が払拭されていないことは、明らかだ〉〈今なすべきは、経済的利益と引き換えに地元の同意を取り付けることではない〉などと続け、〈国も自ら対処すべき根本的な課題の先送りを続け、県民の不安を置き去りにしたまま新潟県に判断を急がせるべきではない。福島第一原発事故を起こした東電による原発再稼働の判断は、重い意味を持つ。地元の知事に重責を負わせるのは理不尽だ〉と結んでいる。

国民世論を代表する大新聞の社説としては、率直に言って残念な内容だ。

不信感を煽る左派系メディア 安全・不正対策を詳細に報じたか

まず指摘したいのは、県民の意思がほぼ二分されている状況下で再稼働の是非を判断すれば分断を招くため、今は判断するなという主張だ。これはおかしい。KK再稼働は、首都圏で14年以上も続いている原発ゼロ状態に区切りを付け、電力の供給力の向上と供給コストの低廉化に寄与し、さらにはカーボンニュートラル・電力大消費時代に向けて原発再稼働に弾みを付ける重要なイベントになる。県民意識調査の結果を理由に判断はダメというのは、全国紙の社説としては「木を見て森を見ず」だ。

加えて、いつ判断すればいいのか、判断するためにはどんな条件が必要なのかなど、再稼働の実現に向けた提言は一切書かれていない。「脱原発」という同紙の論調に誘導しようとする意図が見え見えだ。東電への不信感が払拭されていないとしているが、14年も前の福島第一原発事故を引き合いに出す限り、安全対策工事の詳細な内容などを知らない多くの県民が、漠然とした不安や不信感を抱くのは当然のことだろう。それをもって民意とし、再稼働の判断は時期尚早と言い切るのは、見識あるメディアの論調としていかがなものか。そもそも、その不信感を煽っているのは、大手紙や地元紙などの左派系メディアといえよう。

確かに、KKではIDカードの不正使用や侵入検知装置の故障などテロ対策の不備が相次いで発覚したが、その都度、東電側は再発防止対策を講じてきた。しかし、左派系メディアでその対策の中身を調査・分析した記事は少ない。問題が起きた時だけ大々的に報道するのではなく、その後フォローが重要であるにもかかわらずだ。「こと原発問題では、左寄りのマスコミこそ、分断を引き起こしている張本人ではないか」(大手新電力幹部)。エネルギー業界のあちらこちらで、そんな声が聞こえてくる。

現地視察に行けば分かるが、地震や津波、その他事故などを想定した原発そのものの安全性については、二重、三重、四重の対策が講じられている。11月14日にKKを訪れた花角知事は視察後に、「非常に意識が高い状況にあると肌で感じた。セキュリティーは格段に厳しくなった」と評価した。われわれ業界専門誌の立場でも、現地取材後に「この点が不十分で改善の余地がある」「この部分の安全対策がまだ十分でないから再稼働は難しい」などと、具体的な問題点を指摘するのは難しいほどである。

理想的には、県民一人ひとりがKKに足を運び、現場の責任者に直接質問し、ていねいな説明を受ければ、大方の不安や不信感は解消されるはずだ。もちろん現実的に、そんなことができるはずもない。だからこそ、大手メディアが代表してKKの対策状況をつぶさに取材し、詳細かつ冷静に伝えていく必要がある。県民に安心感を与えるのも、メディアの重要な役割なのだ。この点を忘れてはならない。

【時流潮流/11月17日】米国で動意づくマイクロ原子炉 2030年代初頭に本格普及か


米国で小型モジュール炉(SMR)より一回り小さいマイクロ原子炉の開発が加速している。陸軍が10月中旬、3年以内に米国内の基地に配備する計画を発表したほか、空軍もアラスカ州の基地への設置を目指す。人工知能(AI)の急速な発展で、グーグルやメタなどの巨大IT企業が原発導入に積極的に乗り出し、軍用に限らず民生用でも将来の需要増が見込めることが開発の流れを後押ししている。

マイクロ炉のイメージ図。トレーラーでも運べるコンパクトな設計が特徴のひとつだ=米エネルギー省提供

新型マイクロ炉はトレーラーや輸送機に収まる可搬式なのが特徴だ。モジュール構造で、工場で組み立てどこにでも輸送できる。発電能力の拡張も可能だ。核燃料にはウラン濃縮度が20%近いHALEUなどを使い、燃料交換期間を5年以上に設定する。

米陸軍が10月に打ち出した「ヤヌス」計画は、国防総省が22年から始めたマイクロ炉開発計画「プロジェクト・ペール」の流れをくむもの。この計画に沿い、2026年から国立アイダホ研究所内の実証サイトでマイクロ炉を実証実験する準備が進む。この実験の成果を取り入れることで3年以内の基地配備を実現する考えだ。

アイダホ国立研究所に設置されたマイクロ炉の実験施設。かつて実験用増殖炉として使用した格納庫を再利用したものだ=米エネルギー省提供

実証実験には、スペースXの元エンジニアが20年に設立したスタートアップ企業ラディアント・インダストリーと、ウエスチングハウスの2社が参加する。ラディアントは、世界初の量産型マイクロ炉と位置づける出力1.2MWの「クレイドス」炉を、ウエスチングハウスは5MWの「eVinchi」炉をテストする。

カリフォルニア州が異常寒波に襲われた今年2月、大規模停電が起きるなど米国は送配電システム老朽化の問題を抱える。また、サイバー攻撃を受けて電力供給に支障が出る事態などにも軍は備えようとしている。

77年にマイクロ炉の開発中止 AI需要の高まりで状況h一変 

米軍は1954年に就役した世界初の原子力潜水艦「ノーチラス号」以後、原子炉とは長い付き合いがある。陸軍は54年から出力1MW~10MWのマイクロ炉5基をグリーンランドや南極、パナマ運河地帯などに配備した。だが、コスト面での問題や、61年にメルトダウン事故で3人が死亡する事故もあり、77年に取りやめた。

流れが変わり始めたのは2001年以後だ。アフガニスタンやイラクの戦争で、基地に燃料を運ぶ車両が敵の攻撃を受けて死傷者が相次いだ。空輸できるマイクロ炉を設置すれば問題解消につながるはずだと、アフガンや中東の基地などに配置する計画が浮上した。

ただ、ミサイル攻撃を受けた場合に原発は脆弱性が高い問題もあり、研究開発予算がついたものの、実現に向けた道のりは意外と険しいものとなった。だが、AI需要の高まりなどを受けて一気に状況が変わる。

海軍向けに約400基の原子炉納入実績があるBWXT社など歴史ある企業だけでなく、前述したラディアントや、オープンAIの創業者であるサム・アルトマン氏が設立に関わったオクロなどのスタートアップ企業が続々と参入、活気づいている。

米国の専門家は、30年代初頭にはこうした企業が開発したマイクロ炉の普及が本格化する可能性があると分析している。

【記者通信/11月6日】トランプ大統領がテコ入れ 米産バイオ燃料は日本で売れるか?


米国は穀物由来のバイオエタノールの世界最大の生産国だ。トランプ米大統領は、それを世界各国に自ら売り込んでいる。そして大規模な購入の意向を日本政府が示し、米国の関係者はそろって期待する。様子見姿勢の日本の関係者と対照的だ。どのように新しいビジネスを設計するべきか。

米空母ジョージ・ワシントン上で日米の協力を強調するトランプ米大統領と高市首相(内閣府提供、今年10月)

日米関税合意で重要論点に バイオ燃料など80億ドルを購入

9月にまとまった日米関税合意では、米国の発表によると日本は米国の農作物、バイオエタノール、SAF(航空燃料)などの製品を80億ドル(約1兆2000億円)購入するとしている。ただし、この具体的な内容と期限期日はまだ決まらず、あいまいなままだ。10月にトランプ大統領が来日し、日米投資のファクトシートが示されたが、そこでも具体策は出てこなかった。この金額の大きさは、バイオエタノールの活用が日米の外交上の重要問題になっていることを示す。

日本以外にもトランプ政権はバイオエタノールの輸入拡大を各国に求めている。その中で、国の規模の大きさ、この交渉の妥結が一番早かったこと、さらにバイオエタノールが普及していないことから、日本での販売拡大を米国側は期待している。

エネルギーフォーラムでは、この事情を説明する現地取材記事を掲載している。 

米国側の提供する情報によれば、バイオエタノールは輸送手段の脱炭素に効果があり、燃焼で有害物質も少なく、安いメリットもあるという。

◆「信頼できる国とつながりたい」米国の期待高まる

米国関係者による日本への期待は続いている。9月8日、東京で「米国バイオエタノール供給カンファレンス」が開催された。日本に拠点を置くバイオアメリカ穀物バイオプロダクツ協会の主催によるものだ。会は盛況でビジネスに関係する日米の300人程度の人が出席した。

そこで来日中だったネブラスカ州知事のジム・ピレン氏(共和党)が講演した。家業は農家で、生産したトウモロコシなどを日本に輸出していたという。「日本とのビジネスで裏切られたことはない。私たちは信用できる人とつながりたい。日本とは、国でも国民同士でも良い関係がある。ネブラスカの農作物とバイオエタノールを日本で使ってもらいたいし、それで両国の関係は一層深まる」と、期待を述べた。

日本のバイオエタノール輸入に期待を述べる、ピレン・ネブラスカ州知事(筆者撮影)

このようにバイオエタノールを巡る問題は、米国の農家の関心が高いために米国の政治家が注目している。米国内の政治問題に、日本の消費者、石油業界は巻き込まれ、日米の外交で重要な責任を負うことになってしまった格好だ。

バイオエタノールは、ガソリンの代替として輸送の脱炭素化に役立つエネルギー源だ。そして安ければ、エネルギー価格の上昇に苦しむ日本の消費者にメリットになる。また日本は石油を中東に依存するために、同盟国の米国からの輸入は、安全保障の上でも好ましい。しかし、本当に売れるのだろうか。

【目安箱/11月4日】エネ産業に政治の追い風 期待材料並ぶ新政権


日米首脳会談が10月28日に行われ、両国政府の後押しによる日本企業の対米投資案件の一部が示された。エネルギー分野への投資が中心で、しかも日本企業と米国の利益になりそうなものが多かった。発足した高市新政権でも、原子力活用やメガソーラー規制などエネルギーを巡る政策の方針が示された。この10年、日本のエネルギー産業は政治に振り回されることが多かったが、ようやく政治側がエネルギーで前向きの提案を行ってきた格好だ。その好機を活用したい。

日米首脳会談で握手する高市首相とトランプ大統領(10月28日、内閣府提供)

◆米国への投資、強制的なものでなし

米国は主要国に対して輸入関税をかける一方で、貿易赤字の改善、対米投資の増額を求めていた。日本はいち早く今年7月に米国と合意をした。(日米関税合意と対米投資に関する共同声明)。トランプ米大統領は10月27日から29日まで訪日し、就任したばかり高市早苗首相と会談。日米政府の間でこの投資の内容を詰める作業が行われ、「日米間の投資に関する共同ファクトシート」 
が示された。

このファクトシートによると、日本企業の参加する米国での新型原子炉の開発、AI対応、米国の電力網整備などへのビジネスや投資について、参加企業名と予定投資額が書いてある。筆者は日米政府が共同で投資を行うなら、エネルギー分野で効果的なプロジェクトがあると期待していた一方で、日本のエネルギー産業が投資を強要されるのではないかとの懸念もあった。

ところが、そのようなことはなく、すでに決まった日本企業の投資案件、これから行う予定のビジネスを列挙し、それに日米の政府が支援するという形だった。新型原子炉開発に協力する三菱重工や東芝、また電力網整備をする村田製作所、パナソニックなどは10月末、連日株価が上昇した。

また7月の合意では、アラスカの天然ガスパイプラインの開発、また米中西部のバイオエタノールなど農業関連製品の購入を日本は約束していた。これもエネルギー分野の投資、ビジネス案件だ。

◆日米相互利益のビジネスの可能性

トランプ政権が関税を材料に各国に投資増を求める提案をしたときに、筆者はおかしなことを持ちかけるものだと困惑した。しかしトランプ大統領は不動産ビジネスやエンターテイメントで成功したビジネスパーソンだ。相手も利益を得なければ、ビジネスをしないということがわかっているようだ。日本企業にも、応分のリターンを当然認めている。

筆者は、エネルギー産業の片隅にいる。そのために身びいきもあるだろうが、日本のエネルギー業界、つまり電力、ガス、石油のどの業界でも、またそれに機材を提供するメーカー勢も、素晴らしい力を持っていると考えている。実際に運用の効率性、また機器の優秀さは、あらゆる数値を見ても、世界のエネルギー界でトップクラスだ。この産業の持つ力がなかなか発揮できないもどかしさを常に感じていた。それどころか、福島原発事故の後で、政治と行政が押し付けた制度改正にエネルギー業界も、消費者も振り回された面があったと思う。

今回は政治の提案によって、日本のエネルギー産業、関係産業の持つ力を発揮し、大型プラントや電力網の建設や運営能力を米国に輸出できる機会が訪れている。これは米国の利益だけではなく、日本の企業も利益を得る双方向にプラスの取り組みになり得る。

【時流潮流/11月4日】米が露石油大手2社を制裁 ウクライナ戦費調達に影響か


トランプ米政権は10月22日、ロシアの石油大手2社と探鉱や海外事業などを担当する子会社にも制裁を科した。各国の輸入業者が取引した場合は、二次制裁を科す。これによりロシア産原油の輸出量削減が必至の情勢となった。ロシアのウクライナ戦争の戦費調達に影響が出る可能性が強まっている。

ルクオイルがブルガリア東岸ブルガスで操業する石油精製施設。ルクオイルはロシア国外でも手広く事業を展開している=筆者撮影

トランプ政権がロシアに制裁を科すのは第二期政権発足以来、これが初めて。トランプ氏は2期目の大統領に就任して以来、ロシアのプーチン大統領と「友好的」とは言えないまでも「少なくとも敵対的ではない」関係を築き、制裁を控えてきた。

だが、プーチン氏がトランプ氏の求めるウクライナでの戦争終結や、交渉に興味を示さない対応を続けたことに反発した。制裁をきっかけに、対露政策を従来より厳しい方向へと変える可能性がある。

制裁対象は国営石油企業ロスネフチと、ロシア国外でも積極的に事業を展開する民間石油会社最大手のルクオイルの2社。両社の子会社28社も対象となった。

ロシアの原油生産は、ロスネフチが全体の4割、ルクオイルが15%のシェアを持つ。両社合計で日量310万バレルを主に中国、インド、トルコなどに輸出する。

これまで、バイデン前政権も含め、米政権はロシアの原油輸出の制限に慎重な姿勢をとり続けてきた。制裁によりロシア産原油が市場から消え、需給逼迫で原油価格が上昇すれれば、米国の有権者が嫌うガソリン価格の上昇を招くためだ。

だが、OPECプラスが増産に傾いたことで、今年に入って原油市場は年初から価格が18%も下落するなど軟調な展開が続く。制裁により多少のリバウンドがあっても対応可能な水準に入ってきた。トランプ氏は対露制裁発動について「ようやく時が来た。長い間待っていた」と語り、「確実に成果が上がる」と自信を見せている。

中国やインドもロシア産原油購入に慎重姿勢

これまでロシア産原油を積極的に輸入してきた中国やインドだが、国際的な活動を展開する企業を中心にロシアとの取引を手控えようとする動きが出始めた。ロイター通信によると、中国のペトロチャイナ、シノペック、CNOOCなどが原油購入に慎重な姿勢を示す。インドでも同様の動きがある。米国政府による二次制裁を恐れた措置とみられる。

ロシアの歳入は、石油・天然ガスなどの化石燃料の販売収入が約4分の1を占めている。欧米諸国による制裁で輸出量が減少、そこに価格低迷も加わり打撃を受けている。25年度は法人税と所得税、26年度は日本の消費税に当たる付加価値税(VAT)を2ポイント引き上げて22%にすることで歳入確保を狙う。

欧州連合(EU)も10月半ばの首脳会合で、ロシア産液化天然ガス(LNG)の輸入を26年末に打ち切る追加制裁措置を決めた。EUはさらに、ロシアが制裁回避のために使う「影の船団」所属のタンカーへの制裁を118隻増やして合計533隻とした。制裁をすり抜けることを塞ぐのが目的だ。一方、米国は、バイデン前政権時代に指定した211隻にとどまっている。ロシアをさらに窮地に追い込む制裁拡大にトランプ政権が動くかどうか。政権の本気度に注目だ。