【記者通信/11月6日】トランプ大統領がテコ入れ 米産バイオ燃料は日本で売れるか?


米国は穀物由来のバイオエタノールの世界最大の生産国だ。トランプ米大統領は、それを世界各国に自ら売り込んでいる。そして大規模な購入の意向を日本政府が示し、米国の関係者はそろって期待する。様子見姿勢の日本の関係者と対照的だ。どのように新しいビジネスを設計するべきか。

米空母ジョージ・ワシントン上で日米の協力を強調するトランプ米大統領と高市首相(内閣府提供、今年10月)

日米関税合意で重要論点に バイオ燃料など80億ドルを購入

9月にまとまった日米関税合意では、米国の発表によると日本は米国の農作物、バイオエタノール、SAF(航空燃料)などの製品を80億ドル(約1兆2000億円)購入するとしている。ただし、この具体的な内容と期限期日はまだ決まらず、あいまいなままだ。10月にトランプ大統領が来日し、日米投資のファクトシートが示されたが、そこでも具体策は出てこなかった。この金額の大きさは、バイオエタノールの活用が日米の外交上の重要問題になっていることを示す。

日本以外にもトランプ政権はバイオエタノールの輸入拡大を各国に求めている。その中で、国の規模の大きさ、この交渉の妥結が一番早かったこと、さらにバイオエタノールが普及していないことから、日本での販売拡大を米国側は期待している。

エネルギーフォーラムでは、この事情を説明する現地取材記事を掲載している。 

米国側の提供する情報によれば、バイオエタノールは輸送手段の脱炭素に効果があり、燃焼で有害物質も少なく、安いメリットもあるという。

◆「信頼できる国とつながりたい」米国の期待高まる

米国関係者による日本への期待は続いている。9月8日、東京で「米国バイオエタノール供給カンファレンス」が開催された。日本に拠点を置くバイオアメリカ穀物バイオプロダクツ協会の主催によるものだ。会は盛況でビジネスに関係する日米の300人程度の人が出席した。

そこで来日中だったネブラスカ州知事のジム・ピレン氏(共和党)が講演した。家業は農家で、生産したトウモロコシなどを日本に輸出していたという。「日本とのビジネスで裏切られたことはない。私たちは信用できる人とつながりたい。日本とは、国でも国民同士でも良い関係がある。ネブラスカの農作物とバイオエタノールを日本で使ってもらいたいし、それで両国の関係は一層深まる」と、期待を述べた。

日本のバイオエタノール輸入に期待を述べる、ピレン・ネブラスカ州知事(筆者撮影)

このようにバイオエタノールを巡る問題は、米国の農家の関心が高いために米国の政治家が注目している。米国内の政治問題に、日本の消費者、石油業界は巻き込まれ、日米の外交で重要な責任を負うことになってしまった格好だ。

バイオエタノールは、ガソリンの代替として輸送の脱炭素化に役立つエネルギー源だ。そして安ければ、エネルギー価格の上昇に苦しむ日本の消費者にメリットになる。また日本は石油を中東に依存するために、同盟国の米国からの輸入は、安全保障の上でも好ましい。しかし、本当に売れるのだろうか。

【目安箱/11月4日】エネ産業に政治の追い風 期待材料並ぶ新政権


日米首脳会談が10月28日に行われ、両国政府の後押しによる日本企業の対米投資案件の一部が示された。エネルギー分野への投資が中心で、しかも日本企業と米国の利益になりそうなものが多かった。発足した高市新政権でも、原子力活用やメガソーラー規制などエネルギーを巡る政策の方針が示された。この10年、日本のエネルギー産業は政治に振り回されることが多かったが、ようやく政治側がエネルギーで前向きの提案を行ってきた格好だ。その好機を活用したい。

日米首脳会談で握手する高市首相とトランプ大統領(10月28日、内閣府提供)

◆米国への投資、強制的なものでなし

米国は主要国に対して輸入関税をかける一方で、貿易赤字の改善、対米投資の増額を求めていた。日本はいち早く今年7月に米国と合意をした。(日米関税合意と対米投資に関する共同声明)。トランプ米大統領は10月27日から29日まで訪日し、就任したばかり高市早苗首相と会談。日米政府の間でこの投資の内容を詰める作業が行われ、「日米間の投資に関する共同ファクトシート」 
が示された。

このファクトシートによると、日本企業の参加する米国での新型原子炉の開発、AI対応、米国の電力網整備などへのビジネスや投資について、参加企業名と予定投資額が書いてある。筆者は日米政府が共同で投資を行うなら、エネルギー分野で効果的なプロジェクトがあると期待していた一方で、日本のエネルギー産業が投資を強要されるのではないかとの懸念もあった。

ところが、そのようなことはなく、すでに決まった日本企業の投資案件、これから行う予定のビジネスを列挙し、それに日米の政府が支援するという形だった。新型原子炉開発に協力する三菱重工や東芝、また電力網整備をする村田製作所、パナソニックなどは10月末、連日株価が上昇した。

また7月の合意では、アラスカの天然ガスパイプラインの開発、また米中西部のバイオエタノールなど農業関連製品の購入を日本は約束していた。これもエネルギー分野の投資、ビジネス案件だ。

◆日米相互利益のビジネスの可能性

トランプ政権が関税を材料に各国に投資増を求める提案をしたときに、筆者はおかしなことを持ちかけるものだと困惑した。しかしトランプ大統領は不動産ビジネスやエンターテイメントで成功したビジネスパーソンだ。相手も利益を得なければ、ビジネスをしないということがわかっているようだ。日本企業にも、応分のリターンを当然認めている。

筆者は、エネルギー産業の片隅にいる。そのために身びいきもあるだろうが、日本のエネルギー業界、つまり電力、ガス、石油のどの業界でも、またそれに機材を提供するメーカー勢も、素晴らしい力を持っていると考えている。実際に運用の効率性、また機器の優秀さは、あらゆる数値を見ても、世界のエネルギー界でトップクラスだ。この産業の持つ力がなかなか発揮できないもどかしさを常に感じていた。それどころか、福島原発事故の後で、政治と行政が押し付けた制度改正にエネルギー業界も、消費者も振り回された面があったと思う。

今回は政治の提案によって、日本のエネルギー産業、関係産業の持つ力を発揮し、大型プラントや電力網の建設や運営能力を米国に輸出できる機会が訪れている。これは米国の利益だけではなく、日本の企業も利益を得る双方向にプラスの取り組みになり得る。

【時流潮流/11月4日】米が露石油大手2社を制裁 ウクライナ戦費調達に影響か


トランプ米政権は10月22日、ロシアの石油大手2社と探鉱や海外事業などを担当する子会社にも制裁を科した。各国の輸入業者が取引した場合は、二次制裁を科す。これによりロシア産原油の輸出量削減が必至の情勢となった。ロシアのウクライナ戦争の戦費調達に影響が出る可能性が強まっている。

ルクオイルがブルガリア東岸ブルガスで操業する石油精製施設。ルクオイルはロシア国外でも手広く事業を展開している=筆者撮影

トランプ政権がロシアに制裁を科すのは第二期政権発足以来、これが初めて。トランプ氏は2期目の大統領に就任して以来、ロシアのプーチン大統領と「友好的」とは言えないまでも「少なくとも敵対的ではない」関係を築き、制裁を控えてきた。

だが、プーチン氏がトランプ氏の求めるウクライナでの戦争終結や、交渉に興味を示さない対応を続けたことに反発した。制裁をきっかけに、対露政策を従来より厳しい方向へと変える可能性がある。

制裁対象は国営石油企業ロスネフチと、ロシア国外でも積極的に事業を展開する民間石油会社最大手のルクオイルの2社。両社の子会社28社も対象となった。

ロシアの原油生産は、ロスネフチが全体の4割、ルクオイルが15%のシェアを持つ。両社合計で日量310万バレルを主に中国、インド、トルコなどに輸出する。

これまで、バイデン前政権も含め、米政権はロシアの原油輸出の制限に慎重な姿勢をとり続けてきた。制裁によりロシア産原油が市場から消え、需給逼迫で原油価格が上昇すれれば、米国の有権者が嫌うガソリン価格の上昇を招くためだ。

だが、OPECプラスが増産に傾いたことで、今年に入って原油市場は年初から価格が18%も下落するなど軟調な展開が続く。制裁により多少のリバウンドがあっても対応可能な水準に入ってきた。トランプ氏は対露制裁発動について「ようやく時が来た。長い間待っていた」と語り、「確実に成果が上がる」と自信を見せている。

中国やインドもロシア産原油購入に慎重姿勢

これまでロシア産原油を積極的に輸入してきた中国やインドだが、国際的な活動を展開する企業を中心にロシアとの取引を手控えようとする動きが出始めた。ロイター通信によると、中国のペトロチャイナ、シノペック、CNOOCなどが原油購入に慎重な姿勢を示す。インドでも同様の動きがある。米国政府による二次制裁を恐れた措置とみられる。

ロシアの歳入は、石油・天然ガスなどの化石燃料の販売収入が約4分の1を占めている。欧米諸国による制裁で輸出量が減少、そこに価格低迷も加わり打撃を受けている。25年度は法人税と所得税、26年度は日本の消費税に当たる付加価値税(VAT)を2ポイント引き上げて22%にすることで歳入確保を狙う。

欧州連合(EU)も10月半ばの首脳会合で、ロシア産液化天然ガス(LNG)の輸入を26年末に打ち切る追加制裁措置を決めた。EUはさらに、ロシアが制裁回避のために使う「影の船団」所属のタンカーへの制裁を118隻増やして合計533隻とした。制裁をすり抜けることを塞ぐのが目的だ。一方、米国は、バイデン前政権時代に指定した211隻にとどまっている。ロシアをさらに窮地に追い込む制裁拡大にトランプ政権が動くかどうか。政権の本気度に注目だ。

【時流潮流/10月31日】ウラン濃縮ブームに沸く米国 新世代施設の誕生も視野


米国がウラン濃縮ブームに沸いている。原子力分野で脱ロシアを図ろうと、国産比率を高める政策が追い風となっている。米国ウレンコが施設増強を進めるほか、一度は米国進出を見送ったフランスのオラノも取り組みを再開した。さらには、レーザー技術を導入した新世代の濃縮施設の誕生も視野に入るなど百花繚乱だ。

英ロンドン郊外にあるウレンコ本社ビル=筆者撮影

米国は2022年2月にロシアがウクライナに全面侵攻して以後、ロシアの戦費を支える原油や天然ガスの禁輸措置を各国に求めた。だが、ロシア製の濃縮ウランについては、米国自身も依存度が23年には27%に達するなど高く、なかなか制裁に踏み込めなかった。

バイデン前政権は24年8月になってようやく禁輸措置を講じた。ただ、激変緩和措置として27年末までは輸入を認めている。

ウレンコ社が火付け役 濃縮施設能力を15%増強へ

米国でのウラン濃縮ブームの火付け役はウレンコだ。英国、西ドイツ、オランダの3カ国が1970年に合弁で設立したウラン濃縮企業で、米国には2010年に進出した。南部ニューメキシコ州に濃縮施設を置き、米国市場で約3割のシェアを握る。

脱ロシア機運の高まりを背景にウレンコは23年7月、濃縮施設の能力を15%増強する計画を発表した。工事は順調に進み、今年5月から順次、稼働を始めた。また、同社は26年からは、濃縮度を従来の5%から約10%に引き上げた「LEU+」と呼ばれる低濃縮ウランの供給も始める。軽水炉向けで、燃料交換サイクルの延長が可能となるため運用・保守コストの削減につながると電力会社に売り込んでいる

第三世代の濃縮技術であるレーザー濃縮も開発段階を終えて、実用化にメドがつきはじめた。技術開発を担当した豪州のサイレックス社と、カナダのウラン鉱山会社カメコ社が合同で設立したGLE社は9月、米南部ノースカロライナ州のパイロットプラントで今年5月から続けてきた試験が成功を収めたと発表した。

GLEが導入するレーザー濃縮技術は、天然ウランに0.7%しか含まれていないウラン235を高い精度で分離する。ガス拡散法が第一世代、現在の主力である遠心分離法の第二世代に次ぐ新たな世代の濃縮技術だ。消費電力量が少なく、敷地面積も小規模で済むのが売りだ。

GLEは実験成功を受け、かつてガス拡散法の濃縮施設があったケンタッキー州パデューカに本格的な濃縮施設を設置する計画を申請している。面白いのは、世界的な原発導入機運の高まりでウラン資源の確保が課題となる中、米エネルギー省が保有する20万㌧もの劣化ウランを活用して濃縮する。劣化ウラン濃縮はこれまでロシアが手がけてきたが、欧米ではこれが初の取り組みとなる。

パデューカでは、新興濃縮企業であるゼネラル・マター社が、小型モジュール炉(SMR)の核燃料に使うHALEUの製造を目指している。26年に着工し、34年に操業開始予定だ。

このほか、フランスの原子力産業大手のオラノも、米南部テネシー州オークリッジで濃縮工場設置を目指す。今年6月に現地事務所を開設、30年代初めの稼働を計画する。同社は18年に一度は米国進出を断念した経緯があるが、脱ロシア政策の後押しを受けて、再挑戦する。

【現地ルポ/10月30日】「JMS2025」が開幕 良くも悪くも時代の変化を実感


「ジャパンモビリティショー(JMS)2025」(日本自動車工業会主催)が10月30日~11月9日、東京ビッグサイトで開催されている。自動車メーカーのほか、IT、通信、エレクトロニクスなどモビリティ分野に携わる多くの産業が参加し、過去最多となる計500社以上の企業・団体が出展。米トランプ政権の影響などから、世界的なEV市場の成長に陰りも見られる中、これからの自動車産業はどのような方向に進んでいくのか。そして世界における日本市場の存在感はどうなっていくのか。開幕初日の会場を訪れた。

開幕初日もかかわらず、閑散としていた東京ビッグサイトの中央ゲート

海外メーカーはわずか4社 日本市場凋落の懸念

今回のJMSでまず気になったのは、海外の主要自動車メーカーの出展が4社しかないことだ。新型コロナ禍の影響で2019年の開催が最後となった東京モーターショーからJMSに衣替えし、2023年秋に開かれた前回は海外勢の参加がメルセデス・ベンツ(独)、BMW/MINI(独)、BYD(中国)のわずか3社。今回は、そこにヒョンデ(韓国)が加わった程度である。

東京モーターショーの頃は、フォルクスワーゲン(VW、独)、アウディ(独)、ポルシェ(独)、フェラーリ(伊)、ランボルギーニ(伊)、フィアット(伊)、アルファロメオ(伊)、マセラティ(伊)、アバルト(伊)、ルノー(仏)、プジョー(仏)、シトロエン(仏)、ボルボ(スウェーデン)、ジャガー(英)、ランドローバー(英)、アストンマーチン(英)、ゼネラル・モーターズ(GM、米)、フォード(米)、クライスラー(米)といった世界を代表する自動車メーカーが勢ぞろいし、各社を代表する最新車やコンセプトカーを見て回れるのが大きな楽しみの一つだった。それも今は昔。世界の自動車産業における日本市場の凋落ぶりを目の当たりにしているようで、危機感を覚えずにはいられない。何しろ、日本のEV市場でシャアを拡大しているテスラ(米)さえ出展していないのだ。

昨年の世界販売ランキングトップ10を見ると、1位トヨタグループ(トヨタ、レクサス、ダイハツなど)、2位VWグループ(VW、アウディ、ポルシェ、ランボルギーニなど)、3位ヒョンデグループ、4位GMグループ(GM、キャデラックなど)、5位スランティスグループ(フィアット、アルファロメオ、マセラティ、プジョー、シトロエンなど)、6位フォードグループ、7位BYDグループ、8位ホンダ、9位日産自動車、10位ジーリーグループ(ジーリー、ボルボ、ロータスなど)という順だ。モーターレース界を見ても、フェラーリやポルシェ、アウディ、ランボルギーニ、キャデラック、フォードなどが、さまざまなカテゴリーで大活躍している。JMSの会場からは、そんな自動車業界の現況が全く伝わってこない。

そして開幕が木曜日だったこともあってか、初日にもかかわらず来場者がまばらだったのには驚いた。目立つのはメディア関係者の姿。どこのブースも人が少なかったため、出展された車をじっくり観察でき、試乗もすんなりと出来たのは実に良かったが、内心は「JMS、本当に大丈夫?」。週末には、会場を埋め尽くすほど大勢の人が訪れることを願うばかりだ。

会場内ではメディア関係者ばかりが目立ち、一般来場者はあまりいない印象だった

【記者通信/10月29日】84兆円「対米投資」の全容 エネルギー関連企業がズラリ


10月28日に都内で行われた日米首脳会談では、7月の日米関税合意の確実な履行で合意した。日米両政府は関税合意の5500億ドル(約84兆円)の対米投資について、候補となる企業や事業内容をまとめた「共同ファクトシート」を発表。小型モジュール炉(SMR)や直流高圧送電(HVDC)、変電設備など、エネルギー分野の投資が多く網羅された。

日米関税交渉で日本は、関税引き下げとの「ディール」で米国に約80兆円の投資を約束した。しかしスピード感などを優先し、正式な合意文書は結ばれておらず、具体的な中身は不明確だった。日本国内からは「文書がないことで、日米間の解釈の違いが将来的な摩擦の火種になる」(立憲民主党の野田佳彦代表)といった懸念の声が挙がっていた。ちなみに「80兆円」と言っても、日本側の説明では、企業が米国に投資する額ではなく、JBIC(国際協力銀行)やNEXI(日本貿易保険)を通じた日本企業への対米投資支援の「枠」を指す。

日米両政府は最終的に今回のファクトシート発表に至ったが、その名の通り正式な合意文書ではなく、確定していない内容も多い。野村総研エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏はコラムで「投資計画が日本にとって不平等なものであり、それが日本の国益を損ねていないかについては、今後もしっかりと検証を続けていく必要がある」との見方を示した。一方で、原子力分野など日本で投資が遅れている分野は、米国案件がサプライチェーンの維持・強化につながる可能性がある。

対米投資取りまとめのカギを握ったとされるラトニック商務長官

共同ファクトシートは次の通り。

<日米間の投資に関する共同ファクトシート>

今般のトランプ大統領の訪日に際し、日米両政府は、日米両国の企業が、次の分野におけるプロジェクト組成に関心を有していることを歓迎した。

1.エネルギー

・ウェスチングハウス

AP1000 原子炉およびSMR の建設。三菱重工業、東芝や IHI など日本企業の関与を検討。【最大 1000 億ドル】

・GE ベルノバ日立

SMR(BWRX-300)の建設。日立 GE ベルノバなどの日本企業の関与を検討。【最大 1000 億ドル】

・ベクテル

重要な中核施設への信頼性の高いエネルギー供給をサポートする発電所、変電所、送電システムなどの大規模な電力および産業インフラにおいて、プロジェクト管理、エンジニアリング、調達、建設サービスを提供。日本企業の関与を検討。【最大 250 億ドル】

・キーウィット

エンジニアリング、調達、建設サービスを提供。日本企業の関与を検討。【最大 250 億ドル】

・GE ベルノバ

ガスタービン、蒸気タービン、発電機などの大型電力機器を、送電網の電化および安定化システム(重要な中核施設向けのHVDCや変電所ソリューションを含む)に供給。日本企業の関与を検討。【最大 250億ドル】

・ソフトバンクグループ

大規模電力インフラ構築のための仕様、設計、調達、組立、統合、運用、メンテナンスを設計・開発。【最大 250 億ドル】

・キャリア

電力インフラに不可欠な冷却装置、空調システム、冷却液配分ユニットを含む熱冷却システムおよびソリューションの供給。日本企業の関与を検討。【最大 200 億ドル】

・キンダー・モーガン

天然ガス送電およびその他の電力インフラサービスを提供。日本企業の関与を検討。【最大 70 億ドル】

2.AI向け電源開発

・ニュースケール/ENTRA1 エナジー

AI 向けの電源開発(ガス火力、原子力)を検討。

3.AIインフラの強化

・東芝

ビジネス・技術等の諸条件における合意を前提に、電力モジュール、データセンター用変圧器、変圧器などの変電設備機器の供給及び米国におけるサプライチェーンの強化を目指す。

・日立製作所

HVDCの送電設備および変電設備、データセンター向けトランスフォーマーを含む電力インフラの供給およびサプライチェーンの強化。

・三菱電機

データセンター向け発電に関するシステム(例えば発電機、送配電システムなど)、およびデータセンター機器(例えば UPS、チラー〈IT Cooling〉)、受変電システム、非常用発電機など)の供給及び米国におけるサプライチェーンの強化。【最大 300 億ドル】

・フジクラ

光ファイバーケーブルの供給。

・TDK

AI インフラに不可欠な先端電子部品、パワーモジュールの供給及び米国におけるサプライチェーンの強化を目指す。

・村田製作所

高品質な多層セラミックコンデンサ(MLCC)、インダクタ、EMI 抑制フィルタなど、先進的な電子部品を提供し、また、リチウムイオン電池における専門技術を活かし、バックアップ電源およびエネルギー貯蔵システム(以下「ESS」)向けバッテリーモジュールの開発を進めており、バックアップ電源およびESS 向け製品(AC-DC/DC-DC コンバータモジュール、リチウムイオン製品、バッテリーモジュール)、先進電子部品の供給及び米国におけるサプライチェーンの強化を目指す【最大 150 億ドル】

・パナソニック

エネルギー貯蔵システム(ESS)、その他電子機器・電子部品の供給及び米国におけるサプライチェーンの強化。【最大 150 億ドル】

4.重要鉱物など

・ファルコン・カッパー

米国西部に位置する銅製錬・精錬施設の建設。日本のサプライヤーやオフテイカーによる関与を検討。【20 億ドル】

・カーボン・ホールディングス

グリーンフィールドのアンモニア及び尿素肥料施設の建設。日本のサプライヤーやオフテイカーによる関与を検討。【最大 30 億ドル】

・エレメントシックス・ホールディングス

高圧・高温によるダイヤモンド砥粒製造施設の建設。日本のサプライヤーやオフテイカーによる関与を検討。【5 億ドル】

・マックスエナジー

載貨重量 10 万tクラスの原油タンカーに対応するための浚渫・拡幅を含む、米国南部の船舶航路改善プロジェクトの完了。アメリカの原油の輸出を促進。日本のサプライヤーやオフテイカーによる関与を検討。【6 億ドル】

・ミトラケム

リチウム鉄リン酸塩の生産施設を建設。日本のサプライヤーやオフテイカーによる関与を検討。【3.5 億ドル】

日米両政府は、9月4日に日米両国が署名を行った5500億米ドルの戦略的投資に関する了解覚書の対象となる案件も含め、今後、日米両国のサプライチェーン強靱化に資する様々なビジネス上の取組が推進されることについて、強い期待を表明した。

【記者通信/10月28日】赤沢経産相・石原環境相が会見 両大臣のエネルギー観は?


トランプ米大統領の来日が注目を集めた10月27日、新たに就任した赤沢亮正経産相と石原宏高環境相がそれぞれ専門紙誌記者会と初の会見に応じた。自民党と日本維新の会は連立合意書でメガソーラー規制や次世代革新炉・核融合の推進などを盛り込んだが、政策を実行する両大臣のエネルギー観はいかに……。

赤沢氏は石破政権で日米関税交渉を担当した。日米首脳会談に合わせて来日した米国のラトニック商務長官と浅草散策や歌舞伎座見学に出向くなど、独自の友好関係を築いている。両氏はお互いを「ラトちゃん」「赤ちゃん」と呼び合っているといい、就任会見では「(経産相として商務長官の)カウンターパートになれた」と喜んだ。飾らない性格の持ち主で、28日もインタビューの前には記者に気さくに話しかけるなど、そうした一面をのぞかせた。

石原氏は環境副大臣や衆議院環境委員長などを務めた環境族で、岸田文雄政権では岸田氏のライフワークである核軍縮・不拡散問題担当の首相補佐官を務めるなど政策を磨いてきた。故・石原慎太郎元東京都知事の三男で、自民党幹事長を務めた次男の伸晃氏に比べると「影が薄い」との声もあるが、顔つきや声質は慎太郎氏の弟・石原裕次郎氏に似ており、独特の存在感がある。

アラスカLNGに積極的な意義

メガソーラー規制を巡って政府は9月、地域共生と規律強化に向けて関係省庁連絡会議を設立した。赤沢氏は「社会問題化している不適切なメガソーラーに対し、地域共生を確保するため16本の関係法令を含む規律強化を図る」と語り、石原氏は連立政権合意の趣旨も踏まえ、具体的な対応策について速やかに検討を進める意向を示した。特に地域との共生が上手くいっていない事例の対応について議論を深めるといい、「釧路市のメガソーラーを抱える北海道庁からよく話を聞くように事務方に指示を出した」(石原氏)という。

東京ガスが調達を検討する米アラスカLNGについて赤沢氏は、「競争力の高いLNGが地理的に近接するアラスカから供給されることは、供給源の多角化に貢献し積極的な意義が認められる。今後も官民で米国企業などと協議を継続して適切な方策を講じる」と述べた。

このほか、洋上風力については「三菱商事の撤退要因や影響を分析した上で、後続案件の実現と国内サプライチェーン構築のために公募制度の見直しを含む事業環境整備を急ぐ」、原子力は「安全性の確保と地域の理解を大前提とし、既存発電所の再稼働を進める。廃炉決定済みサイト内での次世代革新炉への建て替えを進める方針だ」と従来の方針を踏襲した。関税交渉のテーマだった自動車分野などは熱っぽく語っていたが、エネルギー政策は手元のペーパーに目を落とす場面が多かった。

脱炭素技術が国家繁栄の鍵

一方の石原氏は環境族らしく、自らの言葉でのやり取りが目立った。トランプ政権のパリ協定離脱については「トランプ氏の任期は憲法上定められており、次の政権が協定に戻ることを信じたい」とした上で、「日本は、米国の動向に関わらず、脱炭素の技術革新に注力することが国益と繁栄に結びつく。それを世界に輸出する戦略を推し進めることが、政治家として目指すところだ」と強調した。

来年度に本格導入されるGX排出量取引制度(GX-ETS)については「環境副大臣の時に中井徳太郎さんが次官会見で炭素税と排出権取引に触れて炎上したが、あまり批判のない中でスタートしようとしているので期待している」と導入の経緯を振り返りながら語った。

高市首相は24日の所信表明演説で、物価高対策として冬の電気ガス料金補助の復活と、ガソリン税の旧暫定税率廃止する考えを示した。またエネルギー安全保障分野などの「危機管理投資」を成長戦略の肝として打ち出したが、具体策は見えていない。巨額の予算が必要となるだけに、歳出改革や赤字国債保発行額など財源確保策に注目が集まる。

【記者通信/10月21日】高市政権のエネ政策は脱公明 原子力推進にメガソーラー規制


10月21日の衆議院本会議で高市早苗氏が内閣総理大臣に指名され、「高市政権」が誕生した。20日には自民党と日本維新の会が、議員定数の1割削減や副首都構想の実現などを盛り込んだ連立政権合意書を締結。エネルギー分野ではメガソーラー規制や原発再稼働の推進、次世代革新炉・核融合開発の加速化などを明記した。また臨時国会でのガソリン税の旧暫定税率廃止や、電気・ガス料金補助を盛り込んだ補正予算成立を打ち出した。

合意書の冒頭には〈「日本再起」を図ることが何よりも重要であるという判断に立ち、「日本の底力」を信じ、全面的に協力し合うことを決断した〉とある。この言葉選びにピンと来た人もいるはずだ。

「日本再起」は自民党の政権奪還前夜、2012年の総裁選で安倍晋三元首相が用いたキャッチコピーだ。一方、「日本の底力」は麻生太郎氏が好んで使うフレーズ。首相として挑んだ07年の衆院選に大敗し、政権を民主党に明け渡した麻生氏だが、所信表明演説や首相退任時の会見で「私は、日本と日本人の底力に、一点の疑問も抱いたことはありません」と語っていた。安倍・麻生両氏は盟友であり、首相・副首相として自民党の黄金時代を築いた。高市首相の両氏に対する思いや配慮が垣間見える。

脱炭素よりも安定供給・経済安保

さてエネルギー政策だが、高市首相と自民党の小林鷹之政調会長のカラーの強調、そして公明カラーの脱色を感じさせる内容となっている。その象徴は原子力政策の前進とメガソーラー規制だ。

まず原子力では、原発再稼働、次世代革新炉・核融合の開発加速化を盛り込んだ。高市・小林両氏は核融合開発に積極的で、維新も7月の参院選の公約に明記していた。一方、連立を離脱した公明党は公約に原子力に関する記述はなく、第7次エネルギー基本計画策定時にも原発新設の要件に縛りを設けるようブレーキをかけた。自民・維新の組み合わせになり、原子力政策に対する熱量は高まりそうだ。

メガソーラーは来年の通常国会での法的規制を明記した。

〈わが国が古来より育んできた美しい国土を保全する重要性を確認し、森林伐採や不適切な開発による環境破壊および災害リスクを抑制し、適切な土地利用および維持管理を行う観点から、26年通常国会において、大規模太陽光発電所(メガソーラー)を法的に規制する施策を実行する〉

高市氏は総裁選の出馬会見で「これ以上、私たちの美しい国土を外国製の太陽光パネルで埋め尽くすことには猛反対」と規制を強く訴えた。小林氏も「太陽光パネルは限界に達している」と述べていた。そのほかでは、地熱など日本が優位性を持つ再生可能エネルギー開発の推進、鉱物資源を含めた国産海洋資源開発を取り入れた。こちらも経済安全保障相を歴任した高市・小林コンビの強い意向が感じられる。

石破政権発足時に自公が結んだ連立合意書では、エネルギー政策の項目で冒頭に出てくるのは「2050年カーボンニュートラル(CN)、30年温室効果ガス削減目標の達成」だった。ところが、今回の合意書では「脱炭素」「CN」「温室効果ガス」というフレーズは一度も出てこない。

電気ガス料金補助は4度目の復活か

物価高対策としては、臨時国会中に①ガソリン税の旧暫定税率廃止、②電気ガス料金補助をはじめとする物価高対策の実現(補正予算成立)──の2点を盛り込んだ。①は1兆円(軽油引取税も対象となれば1.5兆円)の代替財源の確保を巡り、与野党協議が行われている。財源の一部について自民党は「賃上げ促進税制」など効果が疑問視される租税特別措置や高額補助金の見直しなどで対応するとみられる。

補正予算での物価高対策は既定路線だが、わざわざ「電気ガス料金補助」を名指しした。補助は23年1月~24年5月まで実施したが、酷暑と厳冬を理由に24年夏→冬→25年夏と3度復活していた。業界関係者の多くは「政治の道具にされている。きっと今年の冬もやるのだろう」と諦め気味だったが、案の定の結果となりそうだ。高市氏の言う「積極財政」とは本来、成長分野や戦略産業に国が集中投資する賢い支出(ワイズ・スペンディング)を意味するはずだ。しかし、新型コロナウイルス禍以降続く補正予算の肥大化に歯止めがかかる気配はない。

連立合意にあたり、維新の吉村洋文代表は「外交・防衛・安全保障・国家観など基本的な価値観を共有することができた」と語った。合意書に書かれた政策の実行力を疑問視する向きもあるが、吉村氏が言うように多くの価値観の一致が見られる。同時に、公明とは外交安保・憲法・エネルギーなどの考え方を共有できていなかったことが改めて浮き彫りとなった。

【SNS世論/10月17日】高市総裁支持を巡る過度な期待への懸念


高市早苗氏が10月、自民党総裁に選出された。安倍晋三元首相の継承を掲げ、保守派の政治家だ。SNSでは歓迎の声が目立つ。女性総裁ということで「日本のサッチャー」と、保守政治の象徴となっている英国政治家に例える人も多い。いわゆるリベラル色が強い公明党と、高市新総裁になって連立が解消したことも、保守派は好意的に受け止めた。

日本のSNSは右、つまり政治思想では保守系の影響が強いようだ。日本の既存のオールドメディアが左、つまりリベラルに偏った報道をいまだに続けている。その反動で保守派がSNSで不満をぶちまけるからかもしれない。SNSの中で政治主張の多い「X」を観察すると、左の活動家の人が熱心に書き込んで、投稿の量は多い。しかし投稿する人の数は右の人が多いようだ。もちろん、政治思想を右と左に分けるのは単純すぎる分類であり、あくまで筆者の受けた印象と受け止めてほしい。

そしてSNSを観察していると、高市氏の自民党総裁への選出で好意的な意見が目にとまるため、日本が変わると思い込んでしまいそうだ。それは一種の錯覚だと思う。

◆高市氏の勉強好き、エネルギー業界で好印象

SNSでは問題ごとに、また同じ意見を持つ人ごとに、塊(かたまり、クラスター)ができている。「エネルギークラスター」「再エネクラスター」「原子力クラスター」も、緩やかなまとまりができている。こうしたエネルギー関係の人は、揃って高市氏に期待している。

高市氏はかなりエネルギー問題を勉強している。やや細かいことに関心が向きがちであるが、これまで核融合発電や新型原子炉の支援の発言をしている。さらに総裁選の公約では新型太陽光発電技術「ペロブスカイト太陽電池」に言及し、再エネ関係者も驚いていた。現実でも、筆者の属するエネルギー業界の人々も高市さんに期待する声が大きい。「政治主導で電力会社をいじめてきた。それが変わる」との感想を述べる人もいた。

ところが、そうしたクラスターから外れると、評価は手厳しい。あるリベラル系の評論家が「少数与党で公明党が連立離脱すれば、高市さんが首相になれないのに。なんで喜んでいるのか」と皮肉を込めてXで述べていた。また英国のトラス政権は、減税を政策にしたが、その財源の根拠がなく国債の急落など金融市場が混乱し、政権発足からわずか44日で2022年10月に総辞職した。トラス首相は女性だった。辛口批評で知られるある経済学者は現在、金利が上昇(国債が下落)して動揺をする日本の国債市場を見ながら「高市はサッチャーではなく、トラスになりそうだ」と皮肉を述べていた。

10月15日段階では、野党統一候補として、国民民主党の玉木雄一郎代表が、野党統一の首相候補になる可能性も出ている。誰が首相に選ばれるか情勢は流動的だ。高市氏がそもそも首相になれない可能性もあり、エネルギークラスターでの期待の広がりも、無駄になってしまうかもしれない。

◆「床屋政談」が人間の認知に影響を与える

SNSは、今の社会での人々の声がリアルタイムで見えて面白い。また問題の当事者、渦中の政治家が発言する。前述のように既存メディアが、どうも本当のことを言わない状況では、注目され重視されるのは当然だ。

しかし、巨大なおしゃべりの場であり、そこでの政治や政策談義は、一種の「床屋政談」だ。床屋政談とは、床屋に来た客が散髪をして貰いながら、店主と噂話でもするように無責任な話をすること。それは現実に影響をかすかに与えるかもしれないが、現実そのものではない。SNSは物事そのものではなく、情報を媒介するものにすぎない。

また、情報のクラスターができるのは自然なことだが、同質の意見が集まりすぎると、それがあたかも真実のように思えてしまうことがある。10月の自民党総裁戦では、SNSや事前調査で優勢が伝えられた候補の小泉進次郎衆議院議員の取り巻きが、前日に祝勝会をやったと週刊誌に伝えられている。これはそうした見誤りの一例だろう。現実が、人々の噂、SNSの通りに動くとは限らない。

高市氏が首相になったとしても、彼女がこれまで関心を示してきたエネルギー問題に取り組むか、もしくは取り組んで実現できるかはわからないのだ。もしかしたら、今でも反原発を掲げる、立憲民主党やれいわ新選組の参加する連立政権が、国民民主党の玉木代表を首相として成立してしまうかもしれない。

エネルギー産業の人は、高学歴で賢い人が多い。それでも高市氏の総裁への選出後、過度な期待と、エネルギー問題への政治による支援など、楽観的な好影響の予想を唱える人が増えている。筆者は「何度も政治には裏切られたではないですか」と繰り返し、釘を刺している。

◆認知の歪みを警戒して、情報を集める

そうした外的な要因に期待することなく、左右されることなく、目先の自分ができることをやる。SNSの影響力が増している今こそ、こうした当たり前のことに注力するべきだ。SNSは有効な道具になる一方で、時として人の判断を惑わせてしまう危険さもある。私たちの大半の人間は一般人で政治や政策を動かすことはできない。もしかしたら、高市氏も玉木氏も政治を動かすことはできないかもしれない。

SNSには格言を流すアカウントがたくさんある。その中で次のような言葉が流れてきた。

「神よ、変えることのできないものを静穏に受け入れる力を与えてください。変えるべきものを変える勇気を。そして、変えられないものと変えるべきものを区別する賢さを与えてください」

アメリカの神学者ラインハルト・ニーバー(1892–1971年)によるものという。私たちは、SNSで流れてくる心惹かれる情報に右往左往するのではなく、政治家のように政治を語るのではなく、目の前の仕事に向き合うべきだろう。エネルギーをめぐる問題に対してもそうあるべきだ。

【記者通信/10月9日】自民総裁選で約3000の無効票 そこにあった名前とは


10月4日に投開票された自民党総裁選は、党員・党友票の圧倒的な得票から高市早苗氏の勝利に終わった。フルスペック形と呼ばれる今回の総裁選だったが、改めて党員・党友票の重要性が認識されたに違いない。下馬評が高かった小泉進次郎氏は党員・党友票が獲得できず再び敗退する憂き目に遭った。

その小泉氏を巡って、実は党員・党友票の無効票に「小泉孝太郎」という記名が多かったという話が聞こえている。進次郎氏よりも兄貴の人気が一枚上だったかと納得してしまいそうになる。

関係者によれば、今回の総裁選での無効票は約3000票あった。どの選挙でも無効票というのは存在するが、「思わず笑ってしまった」と話すのは、開票作業に携わったスタッフの平川愛子さん(仮名)。

都内で開票作業をしていたというが、「またかまたかと小泉孝太郎が出てきました」と振り返る。平川さんは「孝太郎の名前が次々と出てくるのを見て、新総裁には孝太郎の方がいいかもしれないなんて考えも頭をよぎりました」と苦笑する。

小泉純一郎氏の世襲が進次郎氏ではなく、孝太郎氏だったとしたら、親子2代の首相が誕生していたかもしれない。

小泉孝太郎のほかに多かったのは「石破茂」だったという。「石破さん辞めないでという声は党員の中にもあったということでしょう。根強い人気を感じました」(平川さん)

「石破降ろし」を画策した議員はこの現実をどう受け止めるのだろうか。

【識者雑感/10月8日】高校生が考える将来の産業像を披露 IEEIが2回目の発表会


山本隆三/国際環境経済研究所副理事長・所長

NPO法人国際環境経済研究所(IEEI、小谷勝彦理事長)は、10月5日に福島市において「高校生が考える2040年から50年の産業界の姿」をテーマに、高校生による研究発表会を開催した。2月には福井県敦賀市において「高校生が考える2040年のエネルギー供給」をテーマに発表会を開催しており、今回は2回目の開催になる。

今回の発表会には福井学園福井南高校、静岡県立三島北高校、静岡県立焼津中央高校の3校が参加した。それぞれ研究対象の産業として、①福井南高校が自動車、②三島北高校が電力、③焼津中央高校がセメント――を選択した。産業界の関連する団体、日本自動車工業会、セメント協会、電気事業連合会に協力いただき、各高校において出前授業を実施するとともに、研究活動を支援いただいた。

3校それぞれが2050年の産業の姿を考え発表した

発表会では、福井南高校は、車の自動運転が行われている同県永平寺町での具体例を挙げ、「電気自動車を中心にした二酸化炭素を排出しない自動車が自動運転で運用される世界」の姿を描いた。

三島北高校は、「AI(人工知能)により電力需要が伸びる中での非炭素電源による電力供給の姿」を、学校内でのアンケートなどに触れながら説明し、浮体式原子力発電の可能性にも言及した内容を「AI(アイ)は地球を救う」として発表した。

焼津中央高校は、「セメント業界における二酸化炭素排出対策として自己治癒コンクリートによるライフサイクルを通しての削減案」を示し、技術の活用による輸出市場の獲得の可能性にも触れた。

産業界・高校生同士で熱心な質疑応答 女川原発も視察

各校のプレゼンテーション後には、産業界の参加者から多くの質問が出た。高校生からも他校のプレゼンテーションに関する質問が出され、熱心な質疑応答があった。

産業界からの参加者全員による投票の結果、最優秀賞には三島北高校、優秀賞に焼津中央高校、理事長賞に福井南高校が選ばれた。

発表会の前日4日には、参加者全員が宮城県女川町の震災遺構を見学した後、女川原子力発電所のPR館を訪問し原子力発電所の安全対策などについて学んだ。

女川の震災の語り部の方から説明を聞く参加者
女川原子力PRセンターでの様子

【記者通信/10月8日】改造EVで有事に電力供給 越谷市・NTT東・イハシが連携


埼玉県越谷市とNTT東日本、石油・ガス販売などを手掛けるイハシグループのイハシライフは、可搬型の交換式バッテリーを搭載したEVを災害時の電力供給に活用する取り組みを始める。NTT東がEVを所有し、イハシライフが運用する太陽光発電設備(PV)などから有事にバッテリーに充電、避難所へ運搬して供給する仕組みだ。東日本エリアでは初のモデルとなる。地域のレジリエンス向上、脱炭素、さらには地域経済循環の向上に資する新たなモデルを目指す。

協定式に臨む(左から)井橋社長、福田市長、霜鳥支店長

9月29日、3者で協定を締結した。市は昨夏、民間事業者10者と「こしがや脱炭素コンソーシアム」を設立しており、今回の取り組みはそこでの検討の際に出てきたアイデアだ。

特長は、ガソリンエンジン車を改造したコンバージョンEVを活用する点。エンジンや燃料タンクを取り除き、交換式の可搬型バッテリー(1台当たりの蓄電容量11.84kW時)やモーターを取り付けた。

災害用蓄電池は未使用なまま保管しているケースがあるが、本件では平時はNTT東の社用車として運行し、有事の際に避難所に貸し出す。屋根貸しでイハシが所有する近隣中学校のPV(49kW)を電源に活用することを想定し、スマートフォン約1180台の充電ができる規模という。まず車1台、バッテリー2台で11月から運用を始める。

これまでにNTT西日本などが環境省事業で同様の取り組みを実証しており、今回はその成果を踏まえ東日本で初めて実施することとなった。

地域経済循環に貢献 都市近郊型のモデルの一つに

車両の改造はイハシが担当した。市販のEVを購入するのではなく、地域のガソリン車を地場の企業がEVに改造することで、「長い目線では地域循環型の経済が作られる」(NTT東日本埼玉事業部の霜鳥正隆・埼玉南支店長)といった狙いもある。

イハシがコンバージョンEVに改造し、平時はNTT東の社用車として活用する

市では別のEVメーカーとも災害時の電力供給で協定を結んでいる。そこに今回の協定も加わり、多様な形でレジリエンスの向上を図る構えだ。福田晃市長は「災害が頻発、激甚化する中、災害対応を多重化し構えておくこと、特に地域の企業と組んでいくことは、市民の安心感につながる」と強調した。

イハシの井橋英蔵社長は、事業者間の協業の形やEVの形態、そこへの再エネの組み合わせなどさまざまなケースがあり得るとし、「こうした組み合わせを横に広げていけば、越谷市のような都市近郊型でもう一段CNの可能性が広がってくる。そこに当社として関わっていきたい」と展望した。

【記者通信/10月7日】ETSは成長志向型の制度へ 経産省GXグループ長が強調


経済産業省の伊藤禎則・脱炭素成長型経済構造移行推進審議官兼GXグループ長が10月2日、専門紙記者団の取材に応じ、排出量取引制度(ETS)やGX戦略地域などの重点施策に関する見解を述べた。来年度のスタートを予定し制度設計の議論が進むETSに関しては、当初から提唱するように「成長志向型」の制度とすべくさまざまな仕掛けを導入していく考えを示した。

伊藤氏は、「GX経済移行債による20兆円の先行投資とカーボンプライシングが一体であることが重要」だと強調。ETSではカーボンプライスは当初低い価格とし、徐々に上昇させる。取引価格の上限・下限価格を示し、5~10年単位で上昇トレンドが予見できる仕組みとし、具体的な価格水準は、国民や産業への影響、他国の価格水準などを踏まえて毎年決める形を想定している。

制度設計では、産業・業種ごとの特性を踏まえたきめ細かな基準づくりと、CO2多排出産業の海外移転(リーケージ)を防ぐ仕組みを重視する。特に後者については、「ETS導入でカーボンリーケージがあってはならず、リーケージ対策は相当しっかりやる」と説明。加えて、EU‐ETSにない制度として、GX関連の研究開発投資に積極的な事業者には一定の範囲で割当量を調節する仕組みを導入する。来年度のスタートに向け、年内に主要論点を整理する方針だ。

他方、発電事業者に関しては2033年度から排出枠を一部有償化する方針だ。事業者ごとの電源構成によってCO2削減のハードルに差があり、大幅削減が難しい事業者にカーボンプライスの負担が過度にかかれば、さらなる火力電源縮小の圧力となりかねない。その点、伊藤氏は「ベンチマークの設定が大事で、電力会社それぞれの賦存状況や電源構成を丁寧に踏まえていく必要がある」としつつ、石炭火力の縮小方針も踏まえて「全体のペースはよく考えていく」と述べた。

ベンチマークに加え、取引価格の上下限価格の設定や、カーボンクレジットの活用なども駆使し、「生成AIやデータセンター、デジタル化などで電力需要が増える見込みの中、安定供給に支障が出るような形にはしない」と言及した。

投資様子見モードを打破 GX戦略地域は年内公募開始目指す

一方、米トランプ政権のさまざまな政策変更で、企業がGX投資の様子見モードになりつつある。そこを打破する仕掛けとして「GX戦略地域制度」を創設し、3種類の重要プロジェクトを推進する。①コンビナート等の再生でGX新事業創出、②データセンターの集積、③脱炭素電源の活用で産業団地などを整備――といった三類型で、「この三つを切り口としてGX投資をもう一段、来年にかけて進めていく。GX戦略地域の提案を自治体や事業者から10月いっぱい募っており、早ければ年内に公募を開始したい」と説明した。

採択された際のメリットを現在検討中で、例えばコンビナート再生で土壌汚染対策法に基づく調査の合理化などを求める要望が出ており、「国家戦略特区との連動も現在検討中」とした。他に、設備投資支援や、DC集積での電力系統への優先的なアクセス確保などが検討されている。

【記者通信/10月3日】 Looopが新規事業に参入 「ホームIoT」×「電力」でシナジー創出


新電力のLooop(東京都台東区)は10月2日、8月末にIoTベンチャーのグラモ(東京都豊島区)を完全子会社化したことを機にスマートホーム事業に参入し、2032年には契約顧客数を250万件に拡大すると発表した。同社は、卸電力市場価格に合わせて30分ごとに料金が変動する「スマートタイムONE」を軸に、低圧電気契約数を足元で34万件まで伸ばしてきた。今後はこの料金プランとグラモが開発した住宅用IoT端末「ナインドット」を組み合わせ、さらなる利用者の拡大を狙う。

スマートホーム事業参入への意気込みを示した藤田COO(左)

「ナインドット」は、インターホンやHEMS(家庭用エネルギー管理システム)モニターなど50の機能に対応し、提案型AI「グラモン」を搭載する。ユーザーは、よく使う機能を9つのショートカットボタンに登録でき、ワンタッチで直感的利用可能だ。また、グラモンは利用者の生活データを解析し、ライフスタイルに合った電気利用を提案するほか、各種センサーやカメラを活用してペットや子供の見守り機能なども備える。

住宅用IoT端末「ナインドット」は、誰でも簡単に操作できる仕様となっている

Looopは新築の集合住宅や分譲マンションを中心に、ナインドットと市場連動型料金プランを組み合わせたパッケージを訴求していく方針で、機器は32年までに100万台の導入を、低圧契約件数は250万件にまで引き延ばす目標を示す。藤田総一郎取締役CОO(最高執行責任者)は2日に行った事業説明会の中で、「電気利用の最適化はもちろん、暮らし全体をより安全・快適にする“プラスα”の価値を提供し、新電力のトップを目指す」と力強く宣言。代表取締役社長の中村創一郎CEO (最高経営責任者)も、ナインドットの自宅での利用体験を踏まえ、「エネルギーの使い方だけでなく、生活習慣そのものを変える仕組みになる」と語り、今後の展望に自信をのぞかせた。

【時流潮流/10月6日】プルトニウム復活へ米トランプ政権が政策大転換


米トランプ政権が、一度は利用を断念したプルトニウムの活用策に乗り出している。5月の大統領令で、包括的な原子力推進策を打ち出して再処理推進を盛り込み、8月には政府が保有するプルトニウムを、先進的な原子炉を開発するスタートアップ企業に「ほぼ無償」で提供する案も打ち出した。

政府が提供するプルトニウムは約20tで、主に核軍縮で解体された核兵器から取り出したものを使う。米露は2000年、両国がそれぞれ34tずつの余剰プルトニウムを、二度と核兵器に使えないよう処理することに合意した。

米国はMOX(プルトニウム・ウラン混合酸化物)燃料にして軽水炉で使う計画だったが、建設費高騰や工期の大幅遅延が重なり、第1次トランプ政権は18年に計画断念を決める。

代替案は、プルトニウムを「捨てる」ことだった。プルトニウムに混ぜ物をして希釈した上で、南部ニューメキシコ州にある廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)で地層処分を進めた。だが、第2次トランプ政権は、プルトニウムを「捨てる」政策を取りやめ、一転して「活用する」政策へと大転換を図ろうとしている。

原発大国の米国は、再処理は実施していない。インドが1974年に再処理で取り出したプルトニウムを使って初めて核実験に踏み切ったことで、核拡散問題が大きな国際問題に浮上し、フォード政権が76年に再処理中止を打ち出しためだ。

その後、81年に誕生したレーガン政権が再処理再開に道を開くが、採算が合わないことを理由に、再処理事業に乗り出す企業は現れなかった。

とはいえ、時代は変わった。人工知能(AI)向けデータセンターの設置急増など、今後は大幅な電力需要増が見込まれる。

中国とのAI技術競争に勝ち抜くには、電力確保がカギとなる。そう位置づけるトランプ政権は、2050年までに原発の発電容量を現在の4倍の400GWとする原発推進策をまとめた。計画実現には、原発300基の増設だけでなく、核燃料の手当ても必要となる。

DOE長官が再処理事業再開に強い意欲

注目したのは、廃棄しているプルトニウム。そして、原発など全米各地のサイトに保管され、9万4000tにまで積み上がった使用済み核燃料だった。

エネルギー省(DOE)のライト長官は5月の米議会下院公聴会で「再処理の適切な進め方について調査検討中だ」と述べるなど、再処理事業再開に強い意欲を燃やす。現在、94基が稼働する軽水炉用だけでなく、今後導入が期待される次世代炉への燃料供給も見据える。

政府の呼びかけに応じ、9月にはカリフォルニア州に拠点を置き、ライト長官が就任直前まで役員を務めていた「オカロ」社が、南部テネシー州に再処理施設を設計、運営する計画を発表した。30年代初めまでに高速炉など先進炉用の核燃料生産を目指すという。

ただ、米国内にはこうした動きへの懐疑論もある。オバマ政権でエネルギー長官を務めたモニズ氏は「過去にうまくいかなかったアイデアを復活させるのは時期尚早」と苦言を呈す。失敗したMOX事業の二の舞になるとの指摘も。政府のかじ取りが今後の課題となる。