【記者通信/2月12日】衆院定数の98%が「原発再稼動」 規制委審査見直しの好機到来

長期停止が続いている原子力発電所の早期再稼動に向け、政治的環境が整った。2月8日に投開票が行われた第51回衆議院選挙で、自民党が単独で議員定数465の3分の2を上回る316議席を獲得。また連立を組む日本維新の会のほか、野党の国民民主党、参政党、チームみらいに加え、立憲民主党時代の脱原発路線を軌道修正した中道改革連合も含めると、衆院議員の約98%(455議席)が原発再稼動を推進する立場となった。有権者の期待に応える意味でも、これを機に早期再稼動の足かせとなっている原子力規制委員会の審査の在り方について、政治主導で見直しが進むことが求められる。

度重なるハードルを乗り越え再稼動を果たした東京電力柏崎刈羽原発

今回の衆院選で10議席以上を獲得した各党の公約などを見ると、原子力政策については主に次のような書きぶりになっている。

自民党(公示前198→316)〈東京電力福島第一原子力発電所事故への真摯な反省を出発点に、国民の原子力発電に対する不安をしっかりと受け止め、二度と事故を起こさない取組みを続けます。原子力規制委員会により厳しい安全性基準への適合が認められた原子力発電所については、立地自治体等関係者の理解と協力のもと再稼働を進めます。新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・設置に取り組みます〉

日本維新の会(公示前34→36)〈電力の安定供給とエネルギー安全保障の観点から、原子力規制委員会の審査の効率化を図りつつ、新規制基準の許可を得た原子力発電所の早期再稼働を進めます

国民民主党(公示前27→28)〈安全基準を満たした原子力発電所の早期再稼動に向けて、原子力に関する規制機関の審査体制の充実・強化や審査プロセスの合理化・効率化等を図り、適合性審査の長期化を解消します

参政党(公示前2→15)〈現下の電気料金高騰や電力供給問題へ対応するため、既存原発・化石燃料の活用や再エネ賦課金の見直しなど現実的な手段を用いた、国民の不安と負担の早急な払拭〉(政策9の柱から)

チームみらい(公示前0→11)〈2030年での原子力比率 20〜22 %の達成を目指し、国主導で再稼働支援策を整備します。2030 年時点で 25 基以上の運転を実現できるよう、手続きの迅速化と地域支援を両立させます。〉

中道改革連合(公示前167→49)〈将来的に原発に依存しない社会を目指しつつ、安全性が確実に確認され、実効性のある避難計画があり、地元の合意が得られた原発の再稼働

参政党以外は、「再稼動」を明記。中でも維新と国民については「早期再稼動」に向けて、規制委の審査の効率化などに言及している点が特筆される。チームみらいは、30年目標達成に向け、具体的な稼働基数目標を打ち出しているのが興味深い。

【記者通信/2月9日】自民歴史的勝利と中道大敗で見えた衆院選の「勝負所」

真冬の政治決戦は高市早苗首相率いる自民党が歴史的大勝利を収めた。8日に投開票された衆院選で、自民党は単独政党が戦後獲得した最多議席の316議席(追加公認含む)を獲得した。衆院の定数465議席のうち3分の2を超えるのも戦後初めて。選挙戦最中の報道各社、政党などの情勢調査でも自民党有利の予想はあったが、予想を超える事態となった。消費減税や安全保障政策など高市自民党が掲げる政策が評価されたと指摘する向きもある。だが、これだけの大勝をもたらした最大の要因は、SNSなどを駆使して「サナエ」を前面に推しだした「推し活」選挙を繰り広げたことだと言える。国民の感覚に機敏に対応すれば勝利を呼び込めると読んだ自民党の底力を見せつけられた格好だ。

高市自民党総裁の勝利会見を中継する日テレニュース

アイドル化した「サナエ」 YouTubeランキングでトップ

「これは高市早苗写真集か」。今回の選挙に用意した自民党の政策公約冊子を見ると、高市首相の写真が各ページの半分以上を占めている。鮮やかな赤色を中心に、高市首相が様々な場面で見せた表情やしぐさをこれでもかというぐらい配置した。ある政党関係者が漏らした前出の言葉は今回の選挙の特徴を象徴する。各候補者のポスターにも高市首相の姿が多く見られた。

解散直後の1月下旬、議員会館で選挙準備にとりかかる各議員の事務所には、地方組織、地元後援者などからひっきりなしに電話やメール着信音が鳴り響いていた。電話での会話の内容はもっぱら「高市首相はいつ入るのか?」「高市首相に入ってもらえるようお願いしたい」といったものだった。現役首相の選挙応援だからいつものことかと思いきや、ある議員秘書は「サナエ人気は純ちゃん(小泉純一郎元首相)に匹敵するよ」というものだった。

実際、選挙戦が始まると「サナエ」が行くところに人だかりができた。

「サナエちゃーん」。中年女性の集団が高市首相が現れると、奇声を上げた。一目見ようと行列ができることもあったという。真冬の寒空など関係なく、「サナエ」が行くところは熱気に包まれていた。

この現象はかつて人気を誇ったAKB48などアイドルグループの推し活に似ているではないか。中年女性の間で人気な藤井風、SNOWMan、若い女性に支持を受けるテイラー・スイフトのコンサート会場と間違うような雰囲気だ。

サナエを推す活動を「サナ活」というそうだ。SNSの世界では高市首相が使っているボールペンを買って書き記す若い女性のYouTube動画が5万回も再生されるという摩訶不思議な現象が起こっていた。

そしてYouTube最速1億回再生ランキングのトップにはなんと「高市総裁メッセージ、日本列島を、強く豊かに」が上がった。わずか9日でのトップは、2位のYOASOBI「アイドル」の35日、3位の米津玄師「IRIS OUT」の73日を大きく引き離した。

結果論だが、これらの現象から考えると高市自民党の勝利は必然だったかもしれない。2ちゃんねるの創設者で実業家のひろゆき氏は政治家を選ぶ基準について、「政策が素晴らしいからではない。単に見た目や話し方が好きなだけ」と持論を展開した。今回のサナエブーム、そして自民党大勝の結果を見ればこの指摘は正しいように思えてくる。

そして高市首相を前面に推した戦略を敷いた自民党の読みは当たったといえる。もちろん高市首相が自身の進退をかけた解散の仕掛け方も「わかりやすさ」で評価が高まった。

小泉元首相が郵政解散時に発した「国民に聞いてみたい」というフレーズは、高市首相が解散表明の記者会見で発した「高市早苗が内閣総理大臣で良いのかどうか、今主権者たる国民の皆様に決めていただく」と重なる。

高市首相が仕掛けた解散で郵政解散時の自民党の獲得議席(296議席)を抜いた。時代背景もあるが、「小泉超え」を果たした高市首相にはアイドル性が備わり、それが戦後最多議席につながったと言えよう。

【時流潮流/2月3日】騒擾の海にあるイランと米国 近づく「戦争」の足音

イランを巡る緊張が高まっている。米国は、空母「エイブラハム・リンカーン」を中心とした海軍部隊や、戦闘機などの空軍部隊を中東地域に展開させ、いつでも攻撃できる態勢を築いている。一方、イランの最高指導者ハメネイ師は「戦争になれば地域戦争に発展する」とけん制する。ただ、双方とも妥協の余地はなく、戦争の足音が近づいている。

米軍は中東海域に原子力空母やイージス駆逐艦、原子力潜水艦などで構成する空母打撃群を派遣、イラン攻撃を見据えている(米国防総省提供)

イランは昨年末以降、騒擾(そうじょう)の海の中にある。通貨イラン・リヤルが大暴落、欧米からの厳しい経済制裁なども重なり、物価は1カ月前より60%も上昇する狂乱状態にある。不満を募らせた国民は、12月下旬から首都テヘランをはじめ全土で抗議活動を始めた。

デモは年明け以後、急速に激化し政府機関や金融機関などが襲われた。鎮圧のため治安部隊が発砲、多数の死傷者が出た。当局発表の死者数は3117人だが、実際ははるかに上回るとの観測が広がる。1月中旬以後は、デモは沈静化している。

イラン当局は、イスラエルの情報機関モサドや、米中央情報局(CIA)などの外国勢力が暴動を先導、武器も配布したと非難する。犠牲者には、イラン当局が「テロリスト」と呼ぶ約700人も含まれる。

外国スパイの関与説は、政権側の「言い訳」とも聞こえるが、取材に応じた専門家は「一定程度は現実だろう」と指摘する。昨年6月にあったイランとイスラエル、米国の「12日戦争」の際にも、イスラエルなど多数の外国情報機関員が事前にイラン国内に潜入して準備を重ね、ドローンなどで軍高官を根こそぎ殺害した「実績」もあるからだ。

混乱に乗じ、大幅譲歩をイランから引き出そうと圧力を強めるのがトランプ米政権だ。トランプ氏は昨年末、米南部フロリダでイスラエルのネタニヤフ首相と会談、弾道ミサイル増強や、核活動再開などの動きがあれば、イランを再攻撃する考えで一致、イランに「次の攻撃はもっとひどいものになる」との警告を続ける。

サウジやUAEが自制求めるも歩み寄りは困難か

米軍が攻撃に踏み切るタイミングはまだ見通せていない。攻撃を受ければ、イランが中東諸国に置く米軍基地などを報復攻撃するのは確実で、地域全体が大混乱に陥る事態も予想される。そうした事態を避けようと、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)は「イラン攻撃にわが国の領空や領海は使わせない」と、米国に強く自制を求めている。

さらに、サウジアラビアやエジプト、トルコなど中東主要国は、米国とイランの直接交渉をお膳立てするための外交努力も続ける。ただ、仮にこうした努力が実を結び、交渉が実現した場合でも、事態の好転は見込めそうもない。米国とイラン両国の主張はこれまでも大きくすれ違ってきた歴史があるからだ。

米政権は、核兵器開発につながるウラン濃縮の完全停止や、イランが保有する弾道ミサイルの総量や飛距離に上限に設けることなどを求めている。一方、イランはこうした要求に応じる考えはないとの主張を続ける。双方が歩み寄り、妥協点を見いだすことは極めて難しい状況にある。私が取材した専門家の中からは「時期は見通せないが、米軍のイラン攻撃は必ず年内にある」と指摘する声も上がる。

中東全体を巻き込む戦争になれば、中東地域に石油・天然ガスの供給を頼る日本にとっても一大事となる。心して準備する必要がありそうだ。

【記者通信/1月29日】25年度新エネ大賞が決定 革新的新型水車の開発が最高賞

新エネルギー財団が2025年度新エネ大賞の受賞者を決定し、最高位の経済産業大臣賞や、それに次ぐ資源エネルギー庁長官賞など14件を選出した。1月28日に都内で表彰式を開いた。太陽光、風力、水力などさまざまな分野の新技術や導入事例があり、GXにつながる内容やAIの活用なども目立った。

新エネ大賞は1996年に創設し今回で29回目。新エネの機器開発や設備導入、地域共生などの先進事例を表彰し、新エネの普及促進を目的とする。

今年度大臣賞に輝いたのは、秋田県産業労働部、東北小水力発電、早稲田大学による「広範囲な流量・落差で運転可能な新型水車の開発」。ポイントは、従来型フランシス水車を改良し、これまでの設計の常識を覆す革新的技術により、低水量域での安定発電を実現した点。運転可能な流量域や落差の拡大、高効率化により、発電電力量が増大する。また、柔軟な水車の配置によりトータルコストの低減が見込め、これまで開発を断念していた地域での導入も期待できる点が高い評価を得た。

長官賞は2件 地域版GXや福島復興支援を評価

エネ庁長官賞には、「洋上風力×データセンターの連携による地域活性化への挑戦」、「福島の復興と地域発展に貢献する『国内最大』の陸上風力発電所」の2件を選んだ。

前者は、グリーンパワーインベストメント、グリーンパワーリテイリング、京セラコミュニケーションシステムの取り組みで、地域版GX・DXモデルとして期待される。石狩湾新港洋上風力(北海道)と、近隣に建設した太陽光を電源とし、蓄電池やAIを活用した需給制御などを実施。事業開始時点ではデータセンター事業として日本で初めて常時再エネ100%を実現した。

後者では、福島復興風力が運営する阿武隈風力発電所の売電収入の一部を避難指示解除区域などに拠出。地域住民の雇用や地元メーカーの活用にも積極的で、まもなく福島原発事故の発生から15年を迎える中、着実に復興を後押ししている点が評価ポイントとなった。

同財団の寺坂信昭会長は、第7次エネルギー基本計画の策定から1年となる中、さまざまな情勢変化があることに触れつつ、「カーボンニュートラルの国際的な流れが一部で足踏みしているのは事実だが、底流では再エネの導入拡大を内外で競い合う姿に変わりはない」「わが国においても経済安全保障、GX産業立地、地域との共生と国民負担の抑制を意識しながら、産学官の再エネ導入拡大に向かう取り組みはさらに力を増していく」と強調した。

【記者通信/1月28日】リプレース容認なのか? 見えぬ「中道」の原発政策

第51回衆議院選挙が1月27日、公示され、超短期決戦の選挙戦がスタートした。物価高対策が最大の焦点となっているが、各党の原発政策も関心を集めている。そんな中、中道改革連合の野田佳彦共同代表は26日、日本記者クラブ主催の党首討論会で原発の「新増設」を認めない方針を明らかにした。推進派からは「やっぱりか」「立憲のままだ」と落胆が広がったが、背後には原発建設を巡る「言葉のあや」がある。

立憲民主党は綱領で「原子力エネルギーに依存しない原発ゼロ社会」を掲げ、基本政策には「原子力発電所の新設・増設は行わず、すべての原子力発電所の速やかな停止と廃炉決定」を盛り込んでいた。

一方、中道の基本政策には相変わらず「将来的に原発へ依存しない社会」と明記されているが、新増設や建て替え(リプレース)には触れていない。合流前、公明党はリプレースを認めていたが、立憲内では認否を巡って議論が続いていた。

政府も新増設は認めていない

混同されやすいが、新増設とリプレースは同義ではない。新増設は原発を新たな地点に建てたり(新設)、1~7号機がある柏崎刈羽原発の8号機を建てたり(増設)することだ。かたやリプレースは、廃炉と引き換えに新しい炉をつくることを意味する。

政府が昨年2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画では、「廃炉を決めた事業者の敷地内限定」で「リプレース」を容認した。例えば、九州電力なら玄海1、2号機が廃炉済みなので、新たに川内原発3号機の建設が可能になる。新増設ではなく、リプレースのみを認めたのは「国内原発の総基数を増やさない」と主張する公明党に配慮したからだ。

ここで中道の原子力政策に話を戻すが、討論会で記者は野田氏に「新増設」を認めるかどうかを問うた。新増設は、公明党はおろか政府ですら容認していないのだから、中道が認めるはずがない。

記者が問うべきは新増設ではなく、「リプレース」だったのではないか。公明党が容認している中で、旧立憲執行部は党内左派を抑えられたのかどうか……。野田氏は同じ討論会で、米軍普天間飛行場の辺野古移設について賛否を明らかにできなかったが、リプレースについても苦しい答弁を強いられたかもしれない。

いずれにせよ、中道が原発政策を巡って火種を抱えているのは確かだ。中道の松下玲子議員は21日、Xに「原発再稼働反対です。入った上で、中で頑張りたいと思います」と投稿した(後に「覚悟に欠ける投稿があった」として謝罪)。

心強い維新・国民の原子力政策

他党の公約はどうか。

自民党は「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・設置」を盛り込んだ。新増設でもリプレースでもない「設置」という言葉には妙がある。新地点で小型モジュール炉(SMR)の建設を推進しても公約違反とはならない。

連立を組む日本維新の会は「原子力規制委員会の審査の効率化」「早期再稼働」を掲げた。規制委に斬り込む姿勢や「早期」という一言が心強い。

国民民主は「安全確保を大前提とした上で、原子力発電所の再稼働・リプレース・新増設や核融合等で安価で安定的な電力確保とエネルギー自給率50%を実現」と新増設にも踏み込んだ。

参政党は「次世代型小型原発や核融合など新たな原子力活用技術の研究開発を推進」としたが、再稼働やリプレースについて具体的な記述はない。1月25日の福井県知事選では支援した石田嵩人氏が当選した。地方議員の数も増えており、政策の中身と実行力が問われる。

【目安箱/1月23日】「環境疲れ」の広がりと向き合う 米国の変化が影響か

「エコへの配慮って意味あるのでしょうか」

筆者がエネルギー業界の末席にいるためか、知人の女子高生から聞かれた。決して無知でも軽薄でもなく、名門校の真面目な優等生だ。気候変動や環境破壊について心配しつつも、「『これが正しい』『このようにするべきだ』と他人に押し付けられても本当にそうなのか分からない。悪い人に利用されていないか、心配になる」という。

◆「環境疲れ」という言葉が英語圏で広がる

私は「環境疲れ」という言葉を思い出した。これは英語圏のメディア、環境問題の専門家の中で広がっている。漠然とした内容の言葉だが、環境問題に向き合うことに疲労感を感じる、警戒心を感じてしまうという意味のようだ。英語圏では「eco fatigue」(エコ疲労)、「climate fatigue」(気候疲労)、「sustainability fatigue」(持続可能性疲労)などという言葉もできている。

流れ続ける環境がらみの大量の情報や活動に望まなくても接して、精神的な圧迫、うんざり感を抱く人が増えているようだ。またグリーンウォッシュ(偽の環境配慮)が各所で告発され、人々のうんざり感を強めている。

中でも米国の変化が影響を与えたように思える。トランプ米大統領は、気候変動や環境配慮をめぐる事実とその取り組みを批判し続け、2025年9月の国連総会演説では気候変動「世界史上最大の詐欺行為」などと激しい言葉で罵った。彼の主張は事実に反することもあるが、一定の喝采を世界で集めている。その一連の行動は、米国がこの問題でまとまりがないという国際的なイメージを植え付けてしまった。これは世界で「環境疲れ」を広げる効果があっただろう。

◆過剰な環境情報への批判、日本の消費者にも

これは消費者の動きでも観察できる。博報堂の「生活者のサステナブル購買行動調査2025」(同年8月発表)では、社会・環境問題への取り組みに「疲れを感じる」人が4割以上いた。

企業を巡るスキャンダルもあった。中国系メーカーのシーイン(Shein)のヨーロッパでの問題だ。同グループは、エヴォルシーイン「evoluSHEIN」というブランドで、持続可能な素材を使ったエコフレンドリーな商品群を発表した。ところが、イタリアの競争・市場当局(AGCM)がグリーンウォッシュ(環境配慮を偽装したマーケティング)の疑いで調査を2024年9月に調査が開始し、25年8月に100万ユーロ(約1億8000万円)の罰金を課した。虚偽、または誤解を招く広報をしたという。日本以外の国では、最近の中国批判、そして「環境疲れ」現象に絡めて、メディアや社会評論で大きく取り上げられた。

日本のオールドメディアは、最近、世界から孤立しがちで、また日本の現実からも遊離しがちだ。この「環境疲れの」報道はほとんどない。英字紙のジャパンタイムスが11月10日に、「Want to fight climate change? Fight ‘climate fatigue’」(気候変動と戦いたいですか、それよりも「気候疲れ」と戦え)という記事を掲載した。日本の大学で教える外国人の社会学者の寄稿だった。日本の環境意識の遅れを叱る視点だったが、筆者はその「上から目線」に共感できなかった。

◆正直さという当たり前の向き合い方を考えよう

こうした「環境疲れ」の広がりにどう向き合うのか。筆者の私見を述べると、こうした「環境疲れ」は、当然の動きと思う。環境問題では最近「何かをしなければならない」という意見の押し付けが目立った。環境保護は誰もが総論では賛成するために、結論が先行して、中身の検証が疎かになる場合もあった。そして声高に環境保護の解決策を主張する人たちの「答え」と称するものを検証してみると、効果が疑わしかったり、ある政治集団や企業の利益になったりするものもあった。前述のシーインの行動はその一例だ。

「他人に押し付けられても本当にそうなのか分からない。悪い人に利用されていないか、心配になる」と前述の女子高生は語った。広がる不信への対応策は、多くの人が抱くこのような考えに向き合うことだろう。個人の場合でも、企業、組織、国などの行政機関の場合でも同じだ。他人へ「環境問題で動け」と押し付けない。正直に、淡々と事実を伝え、合意できることで協力する、当たり前の行為が必要かもしれない。

そして環境問題を語るときに、人々が「環境」というテーマに単純に反応しなくなっているという事実に目を向けるべきだ。「環境」というカードを使って、物事やビジネスをきれいに見せる行為、他人の行動を誘導しようとする行為は、もう効果がないどころか、批判されかねない。

「正々堂々と正直に」。生きるための当たり前の規範が、環境問題に向き合うとき、語るときでも通用する。それを実現することで「本当にそうなのか分からない」という、最近誰もが抱く懸念は消えていくだろう。

【時流潮流/1月22日】ベネズエラ侵攻の損得勘定 注目されるカナダの動向

トランプ米政権は年明け早々、ベネズエラを急襲し、対立するマドゥロ大統領夫妻を拘束し米国に移送した。世界一の原油産出量を誇る米国が、原油埋蔵量トップのベネズエラを管理下に置けば、世界の原油取引市場で米国の発言力が強まる可能性が出てきた。

米国に移送中のベネズエラのマドゥロ大統領。トランプ米大統領がSNSに投稿した

トランプ氏は、ベネズエラ産の原油を米国が統制し、売却益を米国とベネズエラで山分けする考えを示す。さらに、老朽化した生産施設の改修や更新、新規油田の開発などを米国石油大手などに担わせる構想も打ち出した。

だが、9日にホワイトハウスで開いた石油企業トップとの協議は不調に終わった。過去にベネズエラ政府に資産を没収され、債権が回収できていない状態などを理由に世界トップの米エクソンモービルが「投資対象として魅力がない」と要請に応じない考えを示した。米コノコ・フィリップスも同様の考えを示した。前向きだったのは英蘭シェルなど少数にとどまった。トランプ氏は「1000億ドル(16兆円)を超す投資をする」と息巻くが、思惑通りには進みそうもない。

ベネズエラは1997年には日量320万バレルを産出するなど世界有数の産油国だった。石油輸出機構(OPEC)の設立メンバーでもある。だが、左派のチャベス政権が99年に石油国有化を進めて以後、外国資本の撤退が相次ぎ、現在の産出量は日量100万バレルを切る水準にまで落ち込んでいる。

ベネズエラ産の原油は、対岸に位置する米メキシコ湾岸(ガルフ)沿いの石油精製施設に大量に供給されていた。ジェット燃料やディーゼル油、そしてアスファルトなどの製品を作り、米国内外に販売されていた。

だが、18年にトランプ米政権が制裁を科したことで、ベネズエラ産原油の調達が難しくなる。製油所の操業を維持するため、ベネズエラと同様に超重質油を産出するカナダ産原油に切り替えた。

カナダは米国、サウジアラビア、ロシアに次ぐ世界4位の産油国。西部アルバータ州に油田が集中し、豊富なタールサンドから得た超重質油の生産が近年伸びている。多くは国境南側の米中西部の製油所向けに輸出されるが、ベネズエラへの制裁が始まって以後は、パイプライン経由でガルフ向けにも運ばれ始めた。

だが、今回の政変でガルフの製油所の目は、距離的に近いベネズエラ産の原油に向かう。制裁が解かれ、カナダ産より安価に調達が見込めそうで、ガルフは「ゲームチェンジ」に沸いている。

打撃を受けたのはカナダと、ベネズエラ産原油の約半分を購入していた中国だ。超重質油が手に入らなければ、中小の独立系を中心に経営が立ちゆかなくなる製油所も出てくる。カナダは、それに目をつけた。

カナダのカーニー首相は13日、関係悪化が続いていた中国を訪問した。首相の訪中は実に8年ぶりとなる。首脳会談を経て、カナダは中国製電機自動車(EV)への関税を100%から6.1%へと下げる一方、中国はカナダ産菜種油の関税を84%から15%に引き下げると発表した。関係強化を図る方針を内外に打ち出した形だ。

カナダは西岸バンクーバー港と産油地帯を結ぶ石油パイプラインの輸送能力を24年に大幅に増強したばかり。さらに増強する方針で、中国だけでなく日本、韓国などアジア市場を見据える。カナダは、米国が目指す石油取引市場への影響力強化に一石を投じることができるか。今後の動向が注目だ。

【記者通信/1月21日】常態化する電気ガス代支援 国が本来注力すべき施策とは

政府が物価高対策の一環として実施する電気・ガス料金の負担軽減策が常態化しつつある。激変緩和対策事業として始まった2023年1月からこれまでに投じられた税金は、ざっと5.5兆円規模に達する。それだけの国費投入に見合う効果は、国民経済的にきっちりと表れているのか。電力・ガス業界関係者からは疑問の声が相次ぐ中、国による検証もないままズルズルと続く電気・ガス代補助は、完全に止め時を見失った感がある。国民ウケ狙いの付け焼き刃的な支援ではなく、国が本来注力すべき施策とは。

衆院解散を表明した高市首相の会見(首相官邸ホームページより)

「国民の皆さまが直面する物価高対策については、これもう待ったなしの課題だ。高市内閣として、速やかに対策を打つ必要があった。高市内閣が編成した令和7年度補正予算で措置した、ガソリン・軽油の値下げ、電気代・ガス代支援、重点支援地方交付金、物価高対応子育て応援手当により、1世帯当たり、標準的には8万円を超える支援額となることが見込まれる。ガソリンと軽油の価格については、補助金も活用したことで、既に値下がりしている。電気代とガス代の支援もまさに今月から始まっている」

高市早苗首相は1月19日の衆院解散を表明した記者会見の冒頭、物価高対策への取り組みを強調しながら、電気・ガス代支援の成果をアピールした。この件について、世論は概ね好意的に受け止めており、メディアの論調を見ても表立った批判は見られない。国民負担の軽減につながる施策であれば、基本的に良しとする風潮は理解できる。

しかし、だ。言うまでもなく、物価高の主因は円安である。高市政権が掲げる「責任ある積極財政」は、マーケットには「円安要因」と受け止められている。現在の日本のような、物価上昇局面での積極財政は、通貨の信頼低下やインフレ懸念を通じて円安を加速させやすい側面がある。消費減税論の高まりを背景にした財政悪化への警戒感から、長期金利も上昇し27年ぶりの高水準となっている。つまり物価高対策としての積極財政が円安や金利上昇を招き、結局は回りまわって物価高を助長させているのが実態だ。この本質的問題にメスを入れない限り、国民経済的にマイナスとなっている現状の物価高局面は解消されないだろう。

【記者通信/1月16日】電事連の林会長が辞任 浜岡の不祥事受け「痛恨の極み」

電気事業連合会の林欣吾会長(中部電力社長)は16日午後、都内で記者会見を行い、同日付で辞任することを明らかにした。林氏は浜岡原発の基準地震動算定に関する不適切事案について、「原子力事業の根幹を揺るがしかねない極めて深刻なもの」と改めて謝罪。その上で「中電社長として、事実解明、原因究明、再発防止策の策定に専念しなくてはらない」と辞任の理由を語った。

会見で辞任を表明した林会長

午前中に行われた会議で各社の社長に意向を伝え、了承を得た。会議で反対する意見はなかったという。タイミングについては「今日の今日まで悩み続けた。中部電力の社長として事実解明や組織の解体的な再構築に専念したいという強い思いがある一方で、電事連会長としての責務もあり、辞任によって空席を作ることの影響や周囲への迷惑を考え、どうすべきかずっと悩んでいた」と明かした。後任が決まるまでは、3人いる副会長(松田光司・北陸電力社長、森望・関西電力社長、安藤康志・関電執行役常務待遇)が職務を代行する。

3月末まで残されていた任期途中での辞任となった。任期中の昨年2月に、原子力推進へと舵を切った第7次エネルギー基本計画が閣議決定されるなど、原子力の重要性が再評価されている時期だけに、会見では「痛恨の極み」と繰り返した。柏崎刈羽原発の再稼働など業界全体の取り組みについては「着実に進むことを願っている」とし、後任に対しては「ビジョンを持ってリーダーシップを発揮し、山積する課題を一つずつ着実に前に進めてほしい」と期待を寄せた。

実態解明には数か月

林氏がデータの不適切な取り扱いの可能性を把握したのは昨年12月2日のことだ。2日前の11月30日には浜岡原発の工事費未払いの責任を取り、原子力本部長の伊原一郎副社長と同本部の名倉孝訓執行役員が辞任したばかりだった。林氏は、昨年5月ごろに原子力規制庁との間で地震動に関するヒアリングが始まったことは知っていたが、不適切事案だとは認識していなかったという。12月2日以降、社外弁護士を通じて十数名にヒアリングを行い、原子力土建部の数名が関与していたことが明らかになった。18日、原子力規制委員会に結果を報告した。

規制委の山中伸介委員長は1月7日の会見で、「ねつ造であり明らかな不正行為」と強く非難。組織的な不正だったのか、社内でブレーキをかける声はなかったのか、どのレベルの社員まで把握していたのか──といった実態は、第三者委員会の調査や規制委による本店立ち入り検査などで明らかになる見通しだ。

【SNS世論/1月16日】原子力規制の「権力監視」に期待 頼りないオールドメディア

中部電力は1月5日、同社の浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の再稼働に向けた原子力規制委員会の審査で「不適切事案」があったと発表した。詳細は完全に明らかではない。しかし、いつもの通りオールドメディアの報道は、中部電力と原子力への批判一色となった。関係者、そしてオールドメディアは冷静に問題に向き合うべきだ。そして権力者である原子力規制当局の行動のチェックが、メディアや政治によって行われていないことも改めて分かった。SNS世論が適切な意見を示し、規制当局や関係者の行動を牽制してほしいと思う。

問題となっている中部電力浜岡原発

◆状況不明、なぜ中部電が?

発表や報道などによると、中部電力は原発の耐震設計の要である基準地震動を策定する際に、条件の異なる20種の試算を行った。規制庁に提出する資料では、地震動の中で代表となる試算4種で平均に最も近い試算を選んだと説明。ところが地震動を意図的に会社側が選び過小評価したものを提出した疑いがあるという。

しかし、この不祥事の中身は、まだはっきりしない。中部電力の行動が発電所の安全や審査にどのような意味があるのか分からない。また当局の規制や審査の妥当性を専門家ともに検証する動きが少ない。浜岡原発は東南海地震の危険があるために、審査で地震動はこの10年常に問題になっており、規制当局が何回も出し直させているらしい。それは意味があることなのか不明だ。

ただし筆者は中部電力を積極的に擁護する意図はない。2011年の東京電力の福島第一原発事故の後で、原子力への厳しい批判が続き、厳格な行政当局の規制が行われる中で、中部電力のようなしっかりした会社が、なぜ批判を受けかねない行動をしたのか残念に思う。

◆原子力に敵意?オールドメディアの過剰な批判報道

オールドメディアはいつもの通り、この問題でもおかしな報道を続ける。「『どこが信用できるのか分からない』 原子力規制委、浜岡再稼働の審査を白紙化」(東京中日新聞、7日)など、規制当局側や関係者の批判的な声を集め、再稼働を遅らせるような記事を書く。朝日新聞を例にすると、同社サイトの検索で、発表の5日から14日まで、「浜岡」と入った記事は、24本になった。同社の社説では中部電力批判と、原子力規制を強化し各原発に追加調査をしろと、似た内容を2回も取り上げた。

一方で原子力規制庁は最近、不祥事を起こした。昨年11月、同庁職員が私用で訪問した中国で業務用スマートフォンを現地で紛失していたことが6日、明らかになった。機密性が高いため公表していない核セキュリティー担当部署の職員名や連絡先が登録されていたという。

謎の多い事案だ。日中両国間の緊張が高まる中で、なぜ中国に業務用スマホを持って私用でいったのか。スマホは中国の情報機関に盗まれたのではないのか。しかも「関係者」への取材で分かっただけであり、規制庁からの公式発表ではない。再び朝日のサイトで検索すると、記事は1本のみ。浜岡報道に比べ熱量が明らかに少ない。

【時流潮流/1月13日】脚光浴びる揚水発電 米国が普及拡大へ本腰

原発ブームが下火になって意向、すっかり忘れ去られていた揚力発電所が、いま静かなブームに沸いている。太陽光や風力発電の急速な普及に伴い、調整弁機能に注目が集まる。世界各地で着工や導入検討が相次いでいる。

日本最大の714mの高低差を利用した葛野川揚水発電所。120万kwの出力がある=東京電力リニューワブルパワーのウェブサイトから

揚水発電所は19世紀末にイタリアとスイスで始まり、米国でも1930年から導入が始まった。出力調整が難しい原発の普及に伴い、20世紀半ば以後に世界各国で建設が相次いだ。夜間の余剰電力を使い低い場所にある調整池の水を標高が高い上部の貯水池にくみ上げ、需要が高まる時間帯に放水して発電する巨大なバッテリーの役割を果たす。

だが欧米や日本で原発ブームが去り、揚水発電の着工数も激減した。米国では、21世紀に入って以後は二件しか新規着工がなく、忘れられた存在になりかけていた。

転機は、地球温暖化対策として太陽光などの再生可能エネルギーが注目を浴び始めたことにある。これらの再生可能エネルギーも、原発と同様に弾力性ある出力調整が難しい。太陽光は、夜間は発電できず、風力も風が吹かなければ発電できない。

さらに、状況に恵まれ発電しすぎてしまい、送電線に負荷をかけすぎてパンクさせる事故も相次ぐ。そうした中、「巨大な蓄電池」とも言える揚水発電所は柔軟な運用が可能で、調整弁の役割を果たせるはずとの期待が高まり始めた。

昨今の原発ルネサンス到来も、ブームを後押しする。米国は、エネルギー貯蔵面でも世界のトップリーダーの地位を築こうと、2020年から揚水発電所の普及拡大に本腰を入れ始めている。中国産のレアアースが必要なリチウムイオン電池とは違い、揚水発電所は「国内資源」であるという魅力もある。

米国は再生可能エネルギーの「調整弁」としての役割に加え、揚水発電所に老朽化が目立つ送電インフラ対策の役割も期待している。病院、空港、軍事基地など重要インフラへの送電が万が一止まった場合のバックアップ電源として位置づけられている。

ルーマニアやブルガリアと協力関係構築へ

最近では、海外に米国製原発を売り込む際に、揚水発電所をセット販売する動きもある。2025年5月には、欧州を訪問した米エネルギー省のライト長官が、ルーマニアとブルガリア両国のエネルギー相と個別に会談、原発だけでなく揚水発電所所でも協力関係を築くことで合意した。

原発や風力や太陽光などの再生可能エネルギーで余分に発電した電力を、揚水発電所で活用すれば「安全で手ごろな価格、そして、クリーンなエネルギーの確保」が可能となりますというのが、米国の売り文句だ。

現在、揚水発電所は世界に約400カ所あり、約200GWの発電容量がある。トップ3は、中国の51GW、日本の22GW、米国の18.9GWで、この三カ国だけで約5割を占める。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、2050年にカーボンニュートラルを達成するには、世界で新たに420GWの揚水発電所の整備が必要と試算するが、中国など東アジア諸国を中心に旺盛な投資意欲があり、目標達成は確実とみられている。

豪州の研究機関によると、揚水発電所の適地は世界に60万カ所以上もある。今後、急速に普及する可能性が高そうだ。

【現地ルポ/1月6日】航空の脱炭素化どうする?〈下〉 トランプ大統領テコ入れと日本のメリット

◆生産プラント増設計画続く、価格安定の期待

それでは、今後のSAFの供給体制はどうか。

イリノイ州立大学のシュテファン・ミューラー教授を訪ねた。同教授は、二酸化炭素排出、バイオ燃料の計測の専門家。米国のバイオ燃料の各委員会にも参加している。

前述したように米国の農業は効率化が進んでいる。それに伴いエネルギー使用量が減少し二酸化炭素は減少傾向だ。2019年までのデータだが、一貫してバイオ燃料のCI値(カーボン・インテンシティ、炭素排出原単位、算出一単位ごとの二酸化炭素排出量)は低下している。ここ数年のCCSの導入で、一段と減少することが見込まれるという。「バイオエタノール、SAFの使用は、脱炭素の有効な手段だ」と同教授は指摘した。

エタノール製造におけるCIの減少。シュテファン教授作成

またエネルギー調査会社のアーガス社のアナリストの話も聞いた。現在は供給が不足しており、また需要も多くなく、価格が乱高下している。バイオエタノールからSAFへの転換する工場の増設が予定されており、供給増に対応していくことが見込まれる。「価格も落ち着き、需要が増えるが価格は低下傾向になるだろう」と予想した。そしてSAF使用の国際協定があり、EUを中心に規制強化が見込まれる。EUは域内でのSAF製造を試みるだろうが、「米国の安いSAFは使われていくだろう」と見ていた。

◆「トランプ案件」になったSAF

「SAFはトランプ大統領自ら関わる重要な政治問題になっています」。首都ワシントンで農業団体のロビイストは現状を説明した。ロビイストとは、企業や団体などの利益代表として議員や政府関係者に働きかける専門家のことで、米国の場合は登録制だ。このロビイストは弁護士・法務博士で弁が立ち、政治の裏表に詳しかった。

2025年のトランプ政権が発足した後で、このロビイストは戸惑ったという。バイデン政権と民主党の議員らは、「エコ」という言葉に飛びつく傾向にあり、バイオエタノールを巡る要請では「脱炭素」の面を押し出した。一方でトランプ大統領と与党の共和党議員の多くは、「エコ」という言葉が嫌いで、「トランプの言葉でバイオ燃料を語るようにした」という。トランプ政権のスローガンである「アメリカ・ファースト」という言葉に対応し、「バイオエタノール、SAFは米国農家の利益になる」と強調している。そして今は、SAFへの支援、制度作りにも、現政権は協力的で、「大統領の関心も高い」という。

米国では、トウモロコシ由来のバイオエタノールが自動車向けの混合燃料として定着している。その製造で、全国で10万軒以上の生産農家、直接雇用約5万5500人、間接雇用約26万人に収入をもたらす巨大な産業になっている。これを再加工するSAFによって、この産業はさらに発展する可能性がある。当然、政治影響力も強い。「共和党、民主党の政治的な立場に関係なく、バイオ燃料の拡大と政治の支援は続く。米政府からの日本への購入のお願い、ビジネスの売り込みも続くだろう」とこの人は述べた。

【現地ルポ/1月5日】航空の脱炭素化どうする?〈上〉 米国バイオ燃料産業が準備着々

航空業界の脱炭素のため、「SAF」(Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料))を使い、燃料の面から航空産業の脱炭素を進めようという動きが世界各国で始まった。米国ではトウモロコシ由来のSAFの製造業を政府、民間が育成しようとしている。そして重要な顧客として日本が期待されていた。米国現地を訪ねて関係者の話を聞いた。

航空業界でSAFの使用は広がるのか(写真はiStockより、イメージ)

筆者は、2025年7月に米国産バイオエタノールの現地取材のリポートをエネルギーフォーラムに掲載している。米国のSAFはバイオエタノールを加工して作るものが中心で、今回はその続編となる。

「米国バイオエタノール事情<上> 脱炭素・価格・支援策のポイント」

「米国バイオエタノール事情 <中>「食料を燃料に使うな」にどう向き合うか」

「米国バイオエタノール事情<下> 問われる日本の選択」

◆不耕起栽培で作られるトウモロコシ

まずSAF製造の新しい動きを〈上〉では紹介してみよう。

刈り入れの済んだ、地平線まで広がるトウモロコシ畑を訪問した。米国ノースダコタ州北部のスペンサー農場だ。ここはエネルギーベンチャーのジーボ・グループ(Gevo)と提携して、デントコーンというトウモロコシを生産している。それが加工されてバイオエタノールになる。ここでは土を耕さない農法である不耕起栽培を行っている。地面を調べると、土は硬いままだった。経営者には広大な農地の刈り入れ中で会えなかった。

ノースダコタは北海道北部よりやや北の緯度にある寒冷地でトウモロコシ生産の適地ではない。この農場は、4000エーカー(1600ha)の農場を2人で運営していた。日本の平均耕作面積は3.6ha。その440倍の面積だ。米国の農家の豊かさ、産業としての農業の強さの一因は、この規模の大きさにあると理解した。

広大なノースダコタ州のトウモロコシ畑、不耕起栽培が行われていた

不耕起栽培は炭素を土中にそのまま残すことで、栽培での二酸化炭素の削減を目指す。農家の手間も減る。耕した方が食物の成長に良い影響があるが、適切に肥料、改良種を使うことで収穫は増加することもある。この農法での二酸化炭素の削減量を排出量削減クレジットとして評価する計測法もある。米政府はこの農法を行う場合に、二酸化炭素の削減量に合わせ25年までの3年平均で1エーカー(0.4ha)当たり25ドルの補助金を出したという。この支援はトランプ政権では終わってしまった。

◆CCSと繋げ、バイオエタノールを脱炭素に

ジーボ社のノースダコタ工場。バイオエタノールを生産(資料より)

ジーボ社のノースダコタにあるバイオエタノール工場を訪ねた。ここでは集めたトウモロコシを分解し、その30%の糖分からバイオエタノールを作る。30〜40%を家畜飼料にする。製造工程で出る20%程度の二酸化炭素は圧力をかけて液化し、パイプで2kmほど離れた地下2000mの砂岩層に流し込み地中に埋める。これはCCS(二酸化炭素回収・貯留)という取り組みだ。

砂岩の上下は岩盤で、二酸化炭素はその中に閉じ込められることになる。ランニングコストでは、1t分の二酸化炭素を貯留するのに5ドル(750円程度)という。モニタリングも行い、州と国に情報を共有している。

CCSは日本でも検討されているが、適地が少ない。米国は国土が広く、その結果、地層も多様であり、CCSで使える適地が多いようだ。ジーボ社のCCSを日本のNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が支援していて、そこからデータを収集していた。「環境負荷の少ないバイオ燃料が、完全にカーボンフリーに近づく。22年から始めたが二酸化炭素が外に漏れるなどの問題は起きていない。今後は他の生産プラントから、液化した二酸化炭素を受け入れてCCSを行うことを検討している」と、同社の担当者は話した。

ジーボ社は、バイオエタノールを原料とするSAF工場の建設を予定している。不耕起栽培、またCCSは「生産で炭素を削減した」と認定される。それはバイオエタノールの販売で付加価値として提供され、商品価値を高める。さらに同社は米国の公的な温室効果ガスの指標に加えて、炭素削減の価値評価指標を独自に作り、顧客に提供している。

米国政府、そして米国企業は、環境問題では数字を示し、データで議論やPRをしようとする。イメージで環境を語る傾向がある日本の行政や企業より、その姿勢は客観的で、説得力を持つ。この姿勢は、見習った方が良いだろう。

【記者通信/12月24日】メガソーラー規制を強化 閣僚会議が対策パッケージ決定

政府がメガソーラーに関する関係閣僚会議(議長:木原稔・内閣官房長官)の初会合を12月23日に開き、対策パッケージを決定した。「地域との共生が図られた望ましい事業は促進する一方で、不適切な事業に対しては厳格に対応する必要がある」とし、関連法の規制強化や、2027年度以降の事業用太陽光でFIT(固定価格買い取り)・FIP(市場連動買い取り)制度による支援廃止の検討など、さまざまな対策を提示。関係省庁が連携し、速やかに実行していく方針だ。

これに先駆け、18日には自民党の経済産業部会や環境部会などの合同会議が政府に提言を提出。その方向性を共有し、①不適切事案に関する法的規制の強化、②地域の取り組みとの連携強化、③地域共生型への支援の重点化――の3本柱でまとめた。

事業用へのFIT・FIPの支援停止へ アセスや電事法も見直し・強化

具体的には、例えば、自然環境保護に関して環境影響評価(アセス)法の対象の見直しや電気事業法での実行性強化を図る。その他、種の保存法や文化財保護法、自然公園法、森林法、景観法などでも規制・運用強化を図る。

そして、地域共生型を重点的に支援する方針を一層強化するため、事業用太陽光(地上設置)へのFIT・FIPによる支援の在り方を見直す。27年度以降の事業用太陽光について廃止を含めて検討し、25年度中に方針を決める予定だ。他方、次世代型電池の開発・導入や屋根置きへの導入支援の重点化などで、望ましい再エネの普及拡大を図る。

地域との連携強化に向けては、地方三団体(全国知事会、全国市長会、全国町村会)を交えた「再エネ地域共生連絡会議」を新設。また、法令違反通報システムによる通報や、「再エネGメン」による調査の対象に、非FIT・非FIPも追加する。

政府はこれまでも再エネ特措法の改正などで段階的に規制を強化してきたが、十分な効果を発揮できなかった。号令をかけるだけでなく、パッケージで示した方針を各地できちんと実施できるような体制の構築が欠かせない。

【記者通信/12月23日】柏崎刈羽再稼動の地元同意完了 「分断」と批判した朝日の見識を問う

新潟県の花角英世知事は12月23日、赤沢亮正経済産業相と面会し、柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働に同意する考えを伝えた。東京電力は24日にも原子力規制委員会に使用前検査を申請する。来年1月20日ごろには6号機が再稼働する見込み。ようやく地元同意が完了したが、一連のプロセスを巡っては朝日新聞など左派系メディアの的外れな批判が目に余った。

赤沢経産相(右)と面会した花角知事

メディアが頻繁に使う言葉に「分断」がある。特に原子力や沖縄県の米軍基地に関する記事など、イデオロギーが対立しやすい分野で多用される傾向にある。普天間基地の辺野古移設を巡って島が分断している──こんな使われ方を目にしたことがある人も多いだろう。

知事の判断が分断を招く?

新潟県の地元合意に際しても、やはり「分断」が使われた。朝日新聞は11月18日(花角氏の容認判断の前日)、「東電の再稼働 分断を招く判断 避けよ」と題した社説でこう主張した。〈地域住民の分断を招くおそれのある判断は避けるべきだ〉

やや話はそれるが、この社説を呼んで米大統領選を思い出した。2018年に第1次トランプ政権が誕生した時、メディアは盛んに「トランプが米国社会を分断させている」と報じた。トランプ氏が分断を作り出している「原因」だという主張だった。

確かに、トランプ氏の発言が米社会の分断を「加速」させている側面はあるだろう。しかし、「原因」と言われると疑問符がつく。トランプ氏の登場以前から、グローバリズムへの疲弊感や格差の拡大、移民の流入による白人アイデンティティの喪失などで、すでに米社会は分断していた。その「結果」がトランプ氏の当選だったというのが現実だ。

話を再稼働問題に戻すと、朝日の社説は「分断を招く恐れがある判断は避けるべきだ」と、花角氏の判断が分断の「原因」であるかのような書きぶりだ。だが、意見が対立している状況を「分断」と呼ぶのなら、花角氏が再稼働を容認しようが、判断を先送りしようが、新潟県はとうに分断されている。反対派からすれば、知事が容認すればいい気はしないし、また判断を先送りしても、早期再稼働を求める立地地域を中心に不満が噴出する。意見が拮抗している以上、分断を招かない判断などないのだ。

再稼働問題と同じように、意見が拮抗しているテーマに選択的夫婦別姓がある。各種世論調査では、現制度の維持・通称使用の拡大・選択的夫婦別姓の導入の三つで世論は割れている。最近まで政府は「分断を招く判断を避けて」きたが、再稼働問題と異なり、朝日は「早期実施を」と主張してきた。結局は「原発を動かしたくない」「選択的夫婦別姓を導入したい」といったイデオロギーが先行した二重基準(ダブルスタンダード)でしかないのだ。

丁寧なプロセスだった

そもそも、「分断」という言葉自体に違和感がある。米社会のように低中所得者層とエリート層、人種間の対立が激化し、時にそれを原因とする暴動などが起きる状況は「分断」と言えるだろう。

一方、柏崎刈羽の再稼働を巡って、そこまでの混乱は生じていない。ただ単に県民の間で意見が割れているだけで、むしろ民主主義社会としては健全な状態だ。そして、県民は首長や議員を通じて自分たちの意見を反映させようしている。事実、花角氏は公聴会や首長との意見交換、県議会は再稼働問題に焦点を絞った委員会の開催などで、そうした機会を設けてきた。その上で、知事が政治家として最終判断を下す──。民主主義が機能した丁寧なプロセスだった。

こうしたプロセスを踏んだ上でも、朝日は「判断を避けるべき」と書いた。朝日の主張に従えば、住民の意見が拮抗している物事に対しては、政治家が判断を下せなくなってしまう。政治家の存在意義の否定と言われても仕方がない。

規制委の判断こそ重要

新潟県の混乱を反面教師として、再稼働を巡る「事前了解権」のあり方は再考すべきだ。福島第一原発事故後は、立地基礎自治体と都道府県の同意が、再稼働に向けた事実上の必須条件となった。泊や東海第二では基礎自治体以外にも事前了解権が拡大し、柏崎刈羽でも拡大を目指す動きがある。

原発の運転は「地元」の理解があってこそ成り立つものだ。ただ、その「地元」とは、原発が所在する自治体なのか、重大事故時に避難や屋内退避が求められるPAZ(原発から30キロ以内)圏内の自治体なのか、都道府県も含まれるのか──。今後、なし崩し的に事前了解権が拡大すれば、いくら国民が原子力の活用に賛成しようとも、1人の慎重派の首長が反対姿勢を貫けば運転できなくなってしまう。

原発の新規制基準は司法の場でも合理性が認められている。法治国家の日本でこれ以上の安全・安心の材料は存在しない。安易な事前了解権の拡大は、電力大量消費時代のエネルギー政策に暗い影を落とすかもしれない。