【論考/6月16日】日本を弱体化させる燃料油補助 石油価格ポピュリズムの大罪を暴く <後編>


<前編>からの続き。

オイルショック時の経験を忘れた日本

石油価格をめぐる今日の日本のポピュリズムは、かつて70年代の2次にわたる石油危機に正面から対応し、その克服を通じて経済大国として台頭した姿と比して、極めて対照的だ。

72年度から80年度にかけて、日本の原油輸入単価、総額とも実に10倍上昇した。ガソリン小売価格は2.5倍超、軽油、C重油の卸価格もそれぞれ3倍、7.5倍と跳ね上がった。また80年度、原油は日本の総輸入の35%超を占めていた。

この強烈な衝撃を日本は積極的な燃料転換と技術革新、国際競争力の強化によって克服した。需要の側では、それまで石油需要を牽引していた産業および発電部門において、大量の重油が代替された。85年度の重油需要はオイルショック以前の72年度対比、産業部門で3分の1まで落ち、発電用も半減。重油総量で日量100万バレル減少し、供給側に於ける原油処理設備合理化と精製能力の高度化を促した。

一方、世界的な石油高価格を梃子として、日本は良質・低燃費の小型車で世界の自動車市場を席巻し、また従来の資源・エネルギー集約的な素材・重化学工業から電機・電子工業を中心とする組み立て産業へ、さらにはサービス産業へと、産業構造の転換までも遂げた。2000年代半ば以降の油価上昇期にも、日本はハイブリッド車の普及を加速させ、資源高を消費側の技術革新によって積極的に克服する姿勢を示してきた。

このように、市場を通じて国内石油価格が、国際価格および為替レートを反映して変動する場合、これを共通の手掛かりとして石油消費・供給者が主体的に行動を変容させていく。その無数の地道な変革の積み重ねが、原油高への日本の対応能力を決する最も根本的な要因だ。

しかし今のように、燃料油価格が政治の一存で決まるのならば、その上昇を抑えるには、消費者・供給者が有権者として値上げに反対すればよい。「政治家が石油価格を決める」というルールの下では、それが最も有効な対応となる。世論の圧力が掛かれば、政党・政治家は値下げを容易に決め得ても、値上げは躊躇する。消費側では省・脱石油に励む必要が薄れ、また供給側でも、補助金が需要を下支えする分、経営努力せずに済む。「民意」の名のもとに、消費者は廉価の石油を、供給者は販売量を、そして政治家は票を、それぞれ獲得できる。これらの短期的利益は、既得権と化して、価格操作を延命させる強い誘因となって働く。この3年間の、燃料油補助金の度重なる延長は、この制度の慣性の強さ、正常化の困難さを、如実に物語っている。

ところでガソリン税を本則税率に戻せば、消費税を含む税額は約28円下がる。この措置がもし22年2月以降に適用されたと仮定すると、22年平均のガソリン小売価格は171円。これは補助金投入後の実際値にほぼ一致する。しかし補助金後の月平均価格が最安値168円から最高値175円、その差7円の範囲に収まったのに対し、本則税率価格は148円から184円と、その差36円の間を変動した計算になる。

特定税率を廃止し、仮に22年と同様の価格変動があった場合に、この36円の上昇を果たして「民意」が甘受するだろうか。値上がりは価格水準よりも、その上昇幅に注目が集まりやすい。「ガソリン高は政治の責任」という通念が支配する以上、今度は例えば150円程度を新たな「標準」として、補助金による価格操作が復活する可能性は十分にある。

今目指されている特定税率廃止は、ガソリン・軽油価格の引き下げそれ自体を目的としている。そこには「石油は安ければ安いほど良い」という論理しかない。実施されれば、次は価格水準を一層引き下げた補助金制度へと、容易に移行し得る。

【論考/6月13日】日本を弱体化させる燃料油補助 石油価格ポピュリズムの大罪を暴く <前編>


石油価格は政治家が決める――。これが日本の常識となった。

「ガソリン・軽油については、リッター当たり10円引き下げます。ガソリン価格が、現在のリッター当たり185円程度の水準であれば、それが175円程度になります」

4月22日、石破首相は淡々とした口調で表明した。聞いている記者団からも不審の声は上がらない。日本では、石油価格は首相の一存で決まるのだ。国際石油情勢や石油会社への言及もない。単に、与党からの提案に対応した、と言う。

昨年12月に自民、公明、国民民主の3党はガソリンの特例税率(いわゆる暫定税率)の廃止で合意した。しかし代替財源や実施時期は決まらず、本年4月初め暫定策として燃料油価格の早急な定額引き下げで意見が一致。これを受けての自公両党からの申し入れだった。

2022年1月末から続く「燃料油価格の激変緩和対策事業」はその後8回に及ぶ延長を経た後、本年1月半ば以降はガソリン基準価格を1ℓ当たり185円に引き上げて継続。本来はここから段階的に終了の予定だった。しかし今回の「定額引き下げ措置」は、5月下旬以降、国内ガソリン価格を23年10月から24年末までと同様、175円程度に再び下げようとする。

このような、政府による価格操作自体を問題視する政党は、見当たらない。国民民主党に加え、立憲民主党および日本維新の会はいずれも特例税率の早期廃止による恒久的減税を強く主張し、一層の価格引き下げを求めていた。6月11日、これら3党を含む野党7党は特例税率廃止時期を7月1日とする法案を衆院に共同提出。「国内石油価格は政治が決める」とする点においては、ほとんど挙国一致の様相を呈している。

国内燃料油価格の抑制を政府の価格補助、あるいは、やみくもな減税に頼ろうとする「財政ポピュリズム」は、日本が本来持つ創造的活力を削ぎ、国力を自ら弱める。世界の分断が一層深刻化し国際秩序が激しく動揺する今日、危険なほどに内向き・後ろ向きの姿勢と言わざるを得ない。

【記者通信/6月8日】ガス協会が新ビジョン eメタンとバイオガスで5~9割


日本ガス協会はこのほど、業界の新たな長期方針となる「ガスビジョン2050」を発表した。都市ガスのカーボンニュートラル(CN)化に向け、2050年に都市ガス全体の50~90%をeメタン(合成メタン)とバイオガスで賄う目標を掲げた。都市ガス業界はこれまで90%をeメタンのみで供給する方針だった。導入比率と脱炭素化の選択肢に柔軟性を持たせた内容に見直した。

ガスビジョン2050の概要を説明する内田会長(3日、東京都千代田区)

新ビジョンの前身に当たる「カーボンニュートラルチャレンジ2050」(20年11月策定)では、30年に都市ガスの1%以上をe-メタンで供給し、50年には90%をeメタン、5%を水素の直接利用、残る5%をバイオガスやCCU(CO2回収・利用)やCCS(CO2回収・貯留)などの脱炭素化の手法で供給し、都市ガスのCN化を目指す計画だった。

これに対し、新ビジョンではバイオガスと天然ガスの役割を拡大した。30年に都市ガスの1〜5%をe-メタンとバイオガスで供給。50年には両者の導入比率を50〜90%まで引き上げる。供給手段としては、海外からの輸入や地産地消型の製造などを想定する。

残る10〜50%については、CCUS(CO₂回収・利用・貯留)、NETs(ネガティブエミッション技術)、カーボン・オフセットなどの脱炭素手法を組み合わせた天然ガスを供給する。具体的には、DACCS(大気中のCO2直接回収・貯留)やコンクリート原料などに利用するCCUなどの新技術の活用を視野に入れる。残り数%は水素の直接供給で都市ガス全体のCN化を目指す。

記者会見で同協会の内田高史会長は、「中小の事業者はeメタンに主体的に取り組むというのが非常に難しい。このため全国の都市ガス事業者が自分事として取り組めるビジョンにした」と見直しの意義を述べた。

見直しの背景には、2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画での方針転換がある。第6次エネ基は、50年までに90%をeメタンで供給すると明記していたのに対し、第7次エネ基では、eメタンやバイオガスなど多様な手段を組み合わせ、50年のCN化を実現するとしている。導入比率には触れず、柔軟性を持たせた形だ。加えて、S+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合)の観点から、天然ガスをCN実現後も重要なエネルギー源として位置付けている。内田会長は、「前回のビジョンは環境性に特化した内容だったが、今回は第7次エネ基の趣旨を踏まえ、CNだけでなくS+3Eの同時達成を図る内容にした」と強調した。

【時流潮流/6月3日】欧州で相次ぐ「脱原発」政策見直しの実情


欧州諸国で脱原発政策の見直しが相次ぐ。気候変動対策や、ロシアのウクライナ侵攻を受け、ロシア産天然ガスや原油への依存度を下げ、脱ロシアを図るためだ。

欧州では脱原発から原発推進への転換が進む。写真は原発増設を目指しているチェコのテメリン原発=筆者撮影

ベルギーは5月15日、「脱原発」政策の撤回を表明した。議会下院が賛成102、反対8の圧倒的大差で政府が提案した原発新設を認める法案を可決したことを受けてのものだ。ビエ・エネルギー相は「現実的で持続可能なエネルギーモデルに道を開く」と述べ、大きな転換点だと強調した。

ベルギーでは現在5基の原発が稼働、電力の約4割を供給している。ただ、2003年に制定した脱原発法に基づき、25年までに脱原発を図る予定だった。だが22年2月のウクライナ戦争勃発でエネルギー環境が激変する。ベルギーだけでなく、多くの欧州諸国はエネルギー源や、調達先の多角化を迫られた。

解決策のひとつは原発回帰だった。ベルギーは22年3月、手はじめに25年に運転停止を予定していた原発2基を10年間、運転を延長することを決める。今年2月に発足した新政権は、脱原発政策の廃止に踏み込んだ。

欧州諸国ではこれまで、原発事故が起きるたびに脱原発政策を採択するものの、その後の情勢変化を受け政策修正や撤回を繰り返してきた。

1979年の米スリーマイル原発事故では、スウェーデンとスペインが脱原発を表明。86年のソ連のチェルノブイリ原発事故では、オランダとイタリアが脱原発を打ち出した。11年の東京電力福島第一原発事故後は、ドイツのメルケル政権が脱原発を決め、スイスがそれに続いた。ドイツは17基ある原発のすべての運転を23年4月までに停止し、脱原発を果たした。ただ、ドイツ以外の国々は、政策を見直している。

オランダは現在、大型原発2基の新規導入を目指している。80年の国民投票で脱原発を決めたスウェーデンも、24年11月に原発を積極的に導入する政策に転換した。

注目を浴びているのはデンマーク。85年に議会が原発禁止決議を採択して以後、欧州では最も「原発嫌い」の国として知られてきたが、5月15日に議会が原子力利用の可能性を探る決議を3分の2の賛成多数で可決する。再生可能エネルギー導入に熱心な国で、全エネルギー供給量の8割が風力、太陽光、バイオマスなどの再生エネルギーが占めている。だが、ラスムセン元首相が「化石燃料を使わないベースロード電源は必要。原発を除外するのはばかげている」と述べるなど、原発見直しの機運が急速に高まっている。

90年に原発の運転を止め、欧州初の脱原発を実現したイタリアでも原発を再導入しようという動きが加速している。メローニ政権は、SMRの導入を視野に入れている。

ドイツでも、犬猿の仲にあるメルケル氏が導入した脱原発政策を厳しく批判してきたメルツ氏が5月に新首相に就任した。経済界も原発再稼働を強く求めており、今後の動向に注目が集まっている。

【目安箱/6月2日】トランプ大統領も参加 米国で原子力の活用計画が活発に


米国で原子力発電の建設計画が相次いで発表されている。トランプ政権の原子力建設支援も後押しした。AI(人工知能)などの発展に伴う電力需要の拡大を見据えたものだ。それを点描してみよう。

トランプ大統領は5月23日、原子力の活用を目的とした大統領令に署名した。

大統領は、AIや量子コンピューターなどの将来的な広がりを見据え、「十分なエネルギーの確保は安全保障上、重要だ」とした上で、原子力が先端技術、米国に豊かな電力を供給するとしている。
アメリカで原子力発電所の建設や運転の許認可を行う、NRC(原子力規制委員会)の改革を進め審査を迅速にする、新型原子炉の導入を促すため規制やコスト面での参入障壁を下げること、すでに停止している原発の再稼働を支援するなどの政策を打ち出した。

新型炉では10年以上かかるケースもある新しい原発建設の許認可について、最終的な決定までの期限を1年半以内に定めるといった目標を示している。トランプ政権が打ち出した、「エネルギーの優位性」(エナジー・ドミナンス)を形にしようとしている。

投資会社のゴールドマン・サックスが2024年4月28日に発表したレポート『AIと電力:データセンターとこれからの米国の電力需要の急増』によると、2023年から30年にかけて、データセンターの電力需要は年平均15%の成長率で増加し、必要な追加発電設備容量は2024年から30年に4700万kW以上になると予想される。そしてデータセンターの米国での電力需要に占める比率は2023年には3%だが、30年までに8%に増える見込みだ。AI用電力需要は、2024年から30年にかけ2000億kWh増えるとされており、これが電力需要の急速な増加を牽引する。これに政権は応じようとしている。

◆素材製造業のダウが計画

米国の物質・材料系科学素材企業グループダウ(以下ダウ)、そして新型原子炉を開発するXエネジー(以下X社)は3月31日、テキサス州にあるダウのシードリフト工場での小型原子炉の建設を米国の規制当局に申請した。ダウはこの工場にある発電と蒸気供給システムを、小型モジュール炉(SMR)に置き換える。米国ではAI化の進展による電力需要の拡大予想の中で、SMRの建設が関心を持たれている。製造業が工場内に自社電源として原子炉を作る例はなかった。これは産業施設での原子力利用のモデルケースとなる可能性がある。

このプロジェクトは米国エネルギー省(DOE)の先進的原子炉実証プログラムによって支援されているという。X社の提供するSMRを使う予定だ。この工場ではプラスチックなどの化学素材を製造している。工場内の蒸気と電力に使い、余れば売電する計画だ(ダウ・プレスリリース、25年3月)

建設許可の承認は最大30ヶ月かかる可能性がある。設置の設備容量、建設と稼働の時期とコストについては、明確に両社は示していないが、報道によると運転開始は「2030年代初頭」が見込まれている。

X社は同社の製品によって「米国の急速な電力需要の増加に、対応できることを実証する」と、この事業の意義をプレスリリースで表明した。

◆ハイテク企業で広がる原子力活用の動き

米国では、生成AIの成長に伴いデータセンターの電力需要が急増する見通しだ。それを見据えて投資に動いているのが、グーグルやマイクロソフト、アマゾンといった米ビッグテック企業だ。

グーグルはAIの利用拡大に伴う電力需要を満たすため、SMRからエネルギーを購入する協定を結んだ.マイクロソフトは、1979年に2号機が事故を起こした米国のスリーマイル島原子力発電所の事故を起こさず2019年に停止した1号機を再稼働させ、供給が再開される電力を購入する計画を発表した。米エネルギー企業コンステレーション社の事業を支援する。アマゾンもX社などいくつかの会社のSMR事業に投資をし、そこからの電力供給を目指す計画を明らかにした。

ダウの計画は、米国でのテック企業の電力調達の流れが、製造業にまで広がったことを示すものとして、米国の経済ニュースでは大きく取り上げられた。しかし日本のメディアでは報道が少ない。これまでの原子力報道で揃って反原発を唱えたために、記事にしづらいのかもしれない。ただし、私たち一般人は日本のメディアの事情など関係ない。世界のビジネスの潮流をしっかり捉えればよいだけだ。

供給力増加の政策は必然、原子力再稼働を

SMRはまだ開発中の技術だ。それでも自社でSMRを整備する方が、安く安定的で脱炭素電源を獲得できると、ダウ、グーグル、アマゾンは判断したのだろう。既に停止したスリーマイル島原子力発電所を再利用するマイクロソフトの選択も、今の発電所建設のコストの高さを考えるとあり得る考えだ。

日本の場合には、電源確保でもっと安く簡単な方法がある。止まっている原子力発電所を再稼働すればいいだけだ。東日本大震災と福島原発事故から14年が経過しても、国内で再稼働している原発は、25年4月時点で全36基のうち、8発電所14基だ。厳格な原子力規制によるものだ。

AIによる電力需要の増加は、米国だけではなく世界的な動きだ。それに途上国の成長による電力需要の増加は続く。この環境の変化で、供給力を確保する必要がある。米国の企業が動いているように、原子力発電の活用はその答えの一つだ。

日本には世界の潮流を知らないかのような原子力発電の廃絶を求める不思議な政策を主張し続ける政治家、メディア、一部の専門家がいる。そして、それらの人々に配慮したのか政府の原子力政策はゆっくりとしたもので具体的な動きは少ない。電源の整備は何年もかかる。米国企業の動きの速さ、見通しの長さに比べると、日本の官民の鈍さは、とても不思議に思える。

【目安箱/5月27日】エネルギー産業の新たな顧客「外国人」とどう向き合うか


日本で、外国人の居住が増えた。旅行者も増加しているが、在留者も昨年12月末の時点で、約376万9000人と増えている。そして在留者は、日本で働く形で滞在する。この人たちの行動が、これまでの常識では想定できない形で、エネルギービジネスに影響を与え始めている。

◆「電気を止められたから放火」

まず考えなければならないのが、エネルギー産業各社の従業員の安全だ。これまでの日本のエネルギー産業では、想像できない事件が起きた。今年4月4日、東京電力の甲府事務所が放火された。犯人は玄関に灯油を撒いた後に車で逃走した。幸いなことに、すぐ消し止められ、怪我人はなかった。警察が防犯カメラの映像を追跡したところ、犯人は南アルプス市で飲食店を経営するスリランカ人だった。3ヶ月前に電力料金を不払いで止められたことに腹を立てたという。

電力料金は、飲食店経営の中で大きな割合を占めるだろうが、払えないほどの負担とは思えない。また会社の玄関には、今はどこにも防犯カメラがある。それなのに、すぐに特定されそうなこんな事件をするのは愚かだ。また日本の電力会社は顧客に優しく、なかなか電気を止めない。これ以上の詳細は警察からも東電からも発表されていないが、この程度の動機で犯罪に走るのは異様な行動だ。

「外国人だからこのような犯罪をした」と、差別的なことを言うつもりはない。日本人にも悪い人は当然いる。しかし外国人の中には、想定できない行動をする人がいることは確かだ。そして彼ら全てが善人ではない。

◆太陽光発電の機材窃盗、盗電の懸念

その他にも、外国人による困った動きがある。日本の太陽光発電は、安易な参入が行われたので、管理が各所で放置されている。それを狙われ、ここ数年、機材が盗まれる例が多い。ここ数年の最銅の高騰で、その電線が切断され盗まれる例が増えている。そして、多い。その実行犯、また買取をする犯人が外国人である例が多い。例えば、今年5月に茨城県警が逮捕した事案では、同国に在住するタイ人3人が発電所のケーブルを1年にわたって盗み続け、被害総額は4億円程度になったという。

全国で、建設業・解体業では、外国人労働者が目立つようになった。また外国人の運転免許の緩和でトラックに乗るようになっている。SNSで多くの日本人がその問題行為を見付け、公表している。危険な運転ばかりだ。そこで彼らの運転するトラックには多くの場合に、缶から車のタンクに液体を入れる石油ポンプがつ備えられているとの指摘がある。

灯油と軽油はほぼ成分が一緒で、灯油を使い軽油を燃料とするディーゼルエンジンを使うトラックは動かせる。灯油は軽油より税金が安い。しかし、それを続けるとエンジンの故障は多く、排気ガスも多くなる。かつての日本では、業界団体と警察の努力でそうした灯油のディーゼルの使用は減った。それを外国人がやっているらしい。

◆「外国人批判」と問題を怒る人々

ただし、外国人を批判し、事実を指摘すると、配慮が不足すると、人権問題として批判されかねない。一例を示してみよう。埼玉県南部には、トルコ国籍のクルド人が集住し、彼らが違法行為、迷惑行為で地元住民とトラブルとなっている。メディアはほとんど報道しないが、SNS主導で社会に知られ、注目を集めてしまった。

その埼玉県南部で24年秋から大規模停電が何度か起きた。ある日本人ジャーナリストが、トルコでクルド人の集住地域で「盗電」が問題になっているとの情報を、トルコの新聞を紹介する形で伝えた。

在日クルド人の出身地であるトルコ南部では電力が送電線から盗まれ、中には配電の4割分が課金できない市町村がある。住民は、電力会社の電線に自分用の電線を繋いでしまう。その電線を切断する、料金を徴収しようとすると、暴力的に電力会社の社員が追い払われるなどの事件が多発していると言う。盗電は日本以外の国では珍しいことではない。しかしそのためにトルコでは、電力会社の収益が低下し、一部地域の電力供給が不安定になっている。これは日本の電力会社も念頭に置いていい話だろう。

このジャーナリストはXの投稿でこの事実を紹介した後で、「まさか日本でね。もしかしたらこの停電も」と、余計な言葉を付け加えてしまった。すると、クルド人の擁護をする日本人、またカタコトの日本語を話すクルド人が「差別だ」「ヘイト(特定人種への憎悪)だ」と批判し、炎上しそうになった。するとクルド人を批判する一般人が、このジャーナリストを擁護する、またはトルコの現状を紹介して、批判を批判した。SNS上で相互のグループで罵り合いが広がってしまった。

【現地ルポ/5月27日】東ガスが袖ヶ浦基地公開 7月以降に発電所稼働へ


東京ガスは5月26日、袖ヶ浦LNG基地と3月に敷地内に完成した袖ケ浦発電所を報道陣に公開した。同基地は1973年に操業を開始。世界最大級の貯蔵量を誇り、これまでに日本の累計輸入総量の約2割に当たる約4億t、タンカー9000隻分のLNGを受け入れてきた。今後は発電所の稼働によって、安定供給に向けた新たな役割を果たすことになる。

3月に敷地内に完成した袖ケ浦発電所。10台のガスエンジンは起動即応性の高さを生かし、7月以降、主に調整力電源としての活用を見込む。

系統安定化や再生可能エネルギーの普及拡大に貢献する

LNG船の桟橋。12~13時間をかけて構内にLNGを受け入れる

マイナス162℃という超低温のLNGは、海水との熱交換によってガス化する必要がある。その際に用いるのが、オープンラック式ベーパーライザー、通称ORVと呼ばれる設備だ。ORVは海水を使用するためコストを削減でき、構造がシンプルで保守点検が容易。気化したガスは熱量調整設備へと送られる。

LNGはパイプの中を流れ、外側から浸水する海水と熱交換している

地上型(上)と地下型のLNGタンク。合計16基のタンクがある

製造した都市ガスは6万㎞を超える導管網を通して需要家に届けられる。だが、ガス管がつながっていない都市ガス事業者や大口需要家には、ローリーでLNGを送り届け、現地でガス化して使用している。

ローリー出荷場。現在は84カ所の輸送先があるという

脱炭素へのトランジション(移行)に向けて、石炭に比べて低炭素のLNGの役割は高まっている。今後も袖ヶ浦LNG基地は首都圏の安定供給の中心だ。

役員人事について


5月27日開催の株主総会および取締役会において、下記のとおり役員人事(本日付)を決定しましたので、お知らせいたします。

代表取締役会長  志賀正利  〈昇任〉

代表取締役社長  井関 晶  〈昇任〉

常務取締役    久木田真紀 〈昇任〉

取締役編集部長  門倉千賀子 〈新任〉

【メディア論評/5月22日】キャリア官僚の人材確保と経産省の組織改革・新機軸


◆人事院有識者会議 国家公務員の人材確保に向けた提言

1.「人事行政諮問会議 最終提言」の問題意識

3月24日、人事院の有識者会議「人事行政諮問会議」は、国家公務員の人材確保に向けた「最終提言」をまとめた。「最終提言」本文の「はじめに」の部分では、大要、次のように指摘する。〈近年の国内外のさまざまな情勢の変容を受けて、人材獲得の面でも状況変化が甚だしく、公務組織の各層において人材確保が危機的な状況に陥っている。人材獲得の競合相手となる民間企業がニーズに沿った変革を講じている一方、国家公務員の人事管理はこの状況変化に十分応えられていない

●「人事行政諮問会議 最終提言」本文より 3月24日

「はじめに  ~未来をつくるための改革を、今~」(抜粋)

国家公務員は、国民の安全・安心な暮らしを守り、この国を一層発展させる、そして未来への責任も担っている。しかし今、その人材確保が公務組織の各層において危機的な状況に陥っている。……複雑化・多様化する国際情勢、生成AIを始めとしたテクノロジーの急速な進展、わが国の生産年齢人口の減少、公的分野における企業活動のプレゼンスの拡大など、国内外においてさまざまな変容が生じている。組織を支える人材に目を向ければ、公務の人材獲得の競合相手となる企業では、働き方やキャリア形成に対する意識の変化に対応し、採用手法、職場環境、雇用慣行や処遇などの面で、特に若年層を中心としたニーズに沿った変革が講じられている。いかにして優秀な人材を集め、強靭で持続可能な組織をつくり、事業を展開していくか工夫を重ねている。公務組織においても、近年、採用試験の見直し、長時間労働の是正や柔軟な働き方の推進、初任給の引上げや諸手当の見直しを含む給与制度のアップデートを講じてきたしかしながら、国家公務員志望者数が増加に転じているとは言えず、若手職員の離職は増加傾向にある

……官民を問わず、今の若年層は一つの組織で定年まで働くことを当然と考えていない。自身の市場価値を高めるべく、仕事を通じて早い段階から成長できる環境があるかを重視する傾向がある。国家公務員の人事管理は、この状況変化に十分応えられていない

参考=「人事行政諮問会議 最終提言」 全体の要約 3月24日(抜粋)

「公務の危機は、国民の危機」

国家公務員の人材確保は危機的な状況

◇採用試験申込者数の減少

10年前と比べ、総合職試験・一般職試験いずれも約3割減

参考=22歳人口は、近年大きな変動なく推移

2015年115.9万人→23年116.3万人

◇若年層職員の離職の増大

直近では、総合職試験採用者が200人超離職

これら2点の主な背景

生産年齢人口の減少

・勤務環境、処遇面での魅力の低下

・若年層のキャリア意識の変化

・国民生活に大きな影響

・国際社会での日本の影響力低下

公務組織の生産性を高めつつ、国の未来を支えるため、人材マネジメントのパラダイムシフトを

〇使命感を持って意欲的に働ける公務

「国家公務員行動規範」の策定と周知・啓発

・“国民を第一”に考えた行動

・“中立・公正”な立場での職務遂行

・“専門性と根拠”に基づいた客観的判断

〇年次に縛られず実力本位で活躍できる公務

・官民給与の比較対象となる企業規模の引上げ

・政策の企画立案、調整などの職務に見合った外部労働市場も考慮した給与水準の設定

・納得感と成長につながる評価の実効性向上とマネジメント力の養成

・初任管理職の給与水準の引上げ/在級機関の廃止

〇働きやすく成長を実感できる公務

・業務効率化と長時間労働の改善

・短時間勤務の拡大と裁量勤務の導入

・資格取得の支援や兼業・副業の後押し

・転勤する職員へのインセンティブの充実

〇多くの人から“選ばれる”公務

・オンライン試験の導入/採用プロセスにおけるインターンシップの活用

・地元志向のニーズに応える採用スキーム

・公務の戦略的ブランディングの推進

・公務内外の人材に魅力的な公務の実現

かつて中央官庁のキャリア官僚は、「ホテルおおくら」「通常残業省」などと言われるほどの過重な業務をこなしてきた。その中で行政機構も、デジタル化などでの業務効率化、長時間労働の是正などに取り組んできた。しかし、行政を取りまく最近の情勢は、安全保障(国際政治、経済安保)、財政状況、気候変動、人口減少・高齢化など、一層厳しさを増している。また、国会対応(議員説明、議会質問対応など)などはなお残り、少数与党下では政策が政治の動きに翻弄される面もある。こうした状況が影響している面もあるのか、上記「人事行政諮問会議 最終提言」は、国家公務員の人事管理の現況を次のように指摘する。〈官民を問わず、今の若年層は一つの組織で定年まで働くことを当然と考えていない。自身の市場価値を高めるべく、仕事を通じて早い段階から成長できる環境があるかを重視する傾向がある。国家公務員の人事管理は、この状況変化に十分応えられていない〉

「最終提言」は一方で、人材獲得で競合する民間企業では、〈働き方やキャリア形成に対する意識の変化に対応し、採用手法、職場環境、雇用慣行や処遇などの面で、特に若年層を中心としたニーズに沿った変革〉を講じているとする。企業では、自社を退職した人間を改めて受け入れる制度(アルムナイ採用)の活用が広がる。官においても人材が官公庁と民間企業の間で流動的に出入りするリボルビングドア(回転扉)の取組み促進が必要であろう。また、女性活躍の拡大などに伴い勤務・転勤の在り方も課題である。「最終提言」は次のように指摘している。〈ワークスタイルやライフスタイルが大きく変わるような転勤の必要性を改めて見直すべきである。転勤を伴う人事異動は、育児や介護など個人の置かれた事情を最大限斟酌する必要がある〉

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【SNS世論/5月21日】エネルギー代補助金の議論はなぜ盛り上がらないのか!?


石破茂首相は4月22日、物価高対策としてガソリン価格の段階的10円値下げ、また7~9月の電気・ガス料金の引き下げを表明した。いずれも補助金によるが、こうしたエネルギー代補助金の累計は12.5兆円の巨額になる。SNSで調べる限り、政権与党への感謝や高評価には結びついていない。一方で、その補助金の負の側面についての意見や分析も少ない。巨額の税金が投入され、さまざまな問題を内包しているのに、SNS世論が静かになっている。

累計12・5兆円の巨額支援

電気・ガス料金の補助は今年3月まで止めては2回復活し、今回が4回目だ。ガソリンの補助(灯油、軽油も含む)は2022年1月に開始され、一時的措置のはずが継続されている。東京電力福島第1原発事故の後で、電力とエネルギーの自由化が政治主導で進み、エネルギー価格は市場の働きに任せることになったはずだ。また脱炭素は国策となり、政府はエネルギーと化石燃料の使用抑制を国民に求めてきた。それなのに、その使用が値下げでうながされる。一連の補助金はこれまでの政策と矛盾する。しかも、いま原油、天然ガス、石油といったエネルギー資源価格は高騰しておらず、落ち着いた水準で推移している。率直に言って、高騰していないのだ。

武藤容治経済産業相は5月20日の閣議後会見で、ガソリン代補助を巡る問題への見解を問われ、次のように回答している。「足元では原油価格が低下傾向にあります。この従来の支援方式では、補助額はゼロとなっておりますけれども、新たな支援策であれば価格を低下させることができ、物価高に苦しむ国民の皆さんの負担軽減につながると考えております」、下落傾向にあるのに支援するという、よく考えれば意味不明。物価高対策であれば、エネルギーではなく、別の形で生活支援を行うべきではないか。

こうした状況にもかかわらず、代表的なSNSであるXとLINEで「ガソリン補助金」「電力補助金」などの言葉を検索しても、数日に一回ぐらいしか出てこない。あまり話題になっていない。政府や与党が狙う、国民からのばらまきによる支持の拡大効果もほとんどなさそうだ。

複雑な問題をメディアはスルー

私たち庶民の生活からすると、エネルギー価格の抑制は生活のプラスになる。けれども諸物価の上昇の中で、この補助金は目立たなくなってしまった。電力・ガス料金は、たいてい通帳からの引き落としで負担が目に見えづらい。これまで据え置き目標の全国平均ガソリン価格は1リットル170円だった。コロナ流行中の2020年には、リッター120円前後だった。それと比較してしまうと高い。だから満足感はなかなかでないのだろう。

SNSである問題の議論が盛り上がる場合には、きっかけとなる既存メディアの報道があることが多い。しかしメディアも、このエネルギー補助金について熱心に報道していない。これは短期的には国民の負担を軽減する政策だが、長期的にはこれまでの政策との矛盾(エネルギー小売り自由化政策との矛盾、カーボンニュートラル・省エネ政策との矛盾など)のほか、日本の財政負担の増大など、問題を考えるさまざまな論点がある。そして立場ごとに評価が異なる。複雑で報道が難しい問題であるために、メディアもあまり動かないのかもしれない。

いつもは政府批判に熱心な朝日新聞だが、この問題では歯切れが悪い。社説「経済政策の迷走 必要性の見極め怠るな」(25年4月19日記事)では、この巨額補助金を「理由と財源を明確に説明する責任がある」と一文だけ言及したが、解説記事は薄いものばかりだ。

産経新聞「新聞に喝! 12兆円超のエネルギー巨額補助金 検証報道がないままだと次の無駄遣いの呼び水に」(5月18日)では、新聞・メディアが深掘り報道をしないことを批判した。この記事をめぐって「12兆円も?」などという、驚きのコメントがSNSで一時的に広がったが、一過性で関心は終わってしまった。普通に考えれば、12.5兆円という税金はとてつもない規模であるにもかかわらずである。参考までに、国のエネルギー特別会計の年間予算総額が約1.9兆円という現実を踏まえれば、その規模の異常さが分かるだろう。

技術革新でなく、ばらまきに広がる戸惑い

筆者はエネルギー業界の片隅にいるが、このエネルギー補助金のおかげで需要が下支えされ、石油会社をはじめエネルギー各社の決算は好調だ。個人的には最近は行き当たりばったりのエネルギー自由化に振り回され、この補助金で会社の経営はようやく一息つけた感じがある。しかし「国の補助金で助けてもらっていいのだろうか」という思いもある。周囲の人からも「儲かっていると大きな声で言えない」と、戸惑いの声が聞こえる。

かつて1970年代の日本ではオイルショック、そしてインフレに直面した。その際に日本政府とエネルギー業界は、省エネ、新エネの技術革新に取り組み、それに金を使った。ばらまき補助金ではなかった。このエネルギー補助金は、適切なのかと、私たちのエネルギー業界人は複雑な思いや感想を抱えている。それをSNSで表明したくても、業界や会社に迷惑をかけそうなのでなかなか表に出せない。代弁者を探しているのだが、なかなかいない。

短く、センセーショナルな映像や文書が、SNSでは好まれる。このために、エネルギー補助金のような複雑な問題は、話題になりづらい。また問題を分析できて、それを広げることができる人も足りない。アメリカでは、ネットには専門家がサイトを開設しそれがSNS世論を深いものにしているという。エネルギーや気候変動問題では、そうした場での議論が社会や専門家、時には政府に影響を与える。

SNS世論の成長と深まりに期待

日本ではまだそうしたネット言論の裾野が狭い。日本ではエネルギー系ユーチューバー「電気予報士 なな子のおでんき予報」を運営する伊藤奈々さんが頑張っているが、数は少ない。SNS世論の足りなさを補うべき立場にある、日本のメディアは深掘り報道が少なく頼りない。ちなみに、エネルギーフォーラムでは最近開設したYouTubeチャンネルで、「ずんだもん」がエネ代補助金の問題を分かりやすく解説する動画を掲載している。

SNSでの言論は、可能性に満ちている。しかし複雑な問題を集合知で解析する、そして答えを見つける、世論を引っ張るなどの力はまだ乏しいようだ。今回のエネルギー補助金の検証でそれを感じてしまった。健全な世論が、ネット発で作り出すことを期待したい。それが健全に発展すれば、12.5兆円をばら撒いた、今回のエネルギー補助金のような、さまざまな問題を持つ無駄遣い政策は起きづらくなるだろう。

【時流潮流/5月19日】核戦争一歩手前だったインド・パキスタンの軍事衝突


5月7日にインド軍の攻撃で始まったパキスタンとの戦闘は、4日間という短期間ながら密度の高い戦いだった。インドは、マッハ3の超音速で飛ぶロシアと共同開発した最新鋭巡航ミサイル「ブラモス」を撃ち込み、双方は大量のドローンを飛ばし合った。さらに、パキスタンは核兵器使用に向けた準備を始めた。

インドとパキスタンの国境

1947年に英国から独立して以来、両国はライバル関係にある。カシミール地方の帰属を巡り衝突を繰り返してきた。今回の戦闘も、4月22日にインド領カシミールであったインド人観光客など26人が殺される銃撃テロ事件がきっかけだ。インドは、パキスタンが関与したと強く非難、報復の機会を探ってきた。

両国はいずれもに核兵器保有国。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、24年1月時点で約170発ずつ保持する。問題は、パキスタンが80年代半ばに核兵器を取得して以後、事あるごとに核兵器使用の構えを見せることだ。

インドに対抗するため、「草を食べてでも核兵器開発を」と主張し、パキスタンを核武装に導いたアリ・ブット元首相の肖像画。娘のベナジル・ブット氏もパキスタンの首相を務めた=パキスタンのラワルピンディで、筆者撮影

例えば、カシミール地方での小競り合いをきっかけに緊張が高まった90年には、パキスタンは「F16戦闘機に核爆弾を載せ、インドのムンバイを攻撃する準備を進めた」。当時の軍参謀総長だったベグ元将軍は、後にこう語った。米国は、慌てて高官をパキスタンに派遣、緊張緩和に向けた調整を始めた。

以来、世界で最も核戦争が起きる危険性が高い地域と位置づけられている。そうした事情があるにもかかわらず、バンス米副大統領は8日に「これは、基本的にわれわれには関係のないことだ」と語るなど、米国は当初、静観の構えを見せていた。

だが、首都イスラマバードに近い空軍基地が攻撃を受け、パキスタンが核使用の構えを示すと、米国は急いで仲介に乗り出す。トランプ大統領は10日、両国が停戦に合意したと発表した。

今回のインド・パキスタンの衝突で、パキスタンに深く関わる中国の存在の大きさが改めて浮き彫りになった。中国はインドと国境紛争問題があり、「敵の敵」であるパキスタンを手厚く支援してきた歴史がある。核爆弾の設計図や、核弾頭を載せる弾道ミサイルまで提供するほど、両国は「深い仲」である。

今回は、パキスタン軍が中国から調達した戦闘機「殲10(J10)」から、これまた中国製の空対空ミサイルを発射し、インド空軍の最新鋭機であるフランス製戦闘機「ラファール」を撃墜した。

戦闘能力を下げた「格落ち」の輸出用であっても、中国製の戦闘機は、欧米製の最新鋭戦闘機と互角に戦える実力があることを世界に示した。中国空軍と直接対峙するインドにとっては、想定以上の脅威となるはずだ。

中国はパキスタンと86年に原子力平和利用協力協定を結ぶなど原発でも関係が深い。中国の最新鋭炉「華龍1号(HPR1000)」を初めて輸出したのもパキスタンだ。

インド、パキスタン両国の対立を読み解くには、中国の動向にも目配りする必要がありそうだ。

【オンライン限定公開/5月14日】5月号地域エネ特集レポ詳細版 エネ3事業を巡る合従連衡の実相


エネルギーフォーラム2025年5月号では「地域エネ衰退の危機 合従連衡で再生なるか」と題し特集記事を掲載した。さまざまな地域エネルギー事業者を取材したものの、誌面制約上、レポートで掲載しきれなかった話題が盛りだくさん。そこで、オンライン会員限定の記事として全文を公開する。地域エネルギーは社会課題を克服すべく新たな供給体制への再構築が求められている。LPガス、都市ガス、SSのエネルギー3事業を巡るアライアンスの行方はどうなっていくのだろうか。

地域経済を襲う過疎化や人口減少の荒波を、エネルギー事業者はどう乗り越えていくのか

商圏買収が有効なLPガス 都市ガス、SSに秘策は?

これまでも活発に営業権の売買が行われてきたLPガス業界。利益率が高いLPは、営業権の価格が他の商材よりも際立って高水準だ。これまでは事業を手放す際には、卸売りなど取引関係のある事業者に譲渡するのが主流だった。ところが最近では、仲介会社が間に入り、全国規模で展開する大手が株式取得を伴うM&Aを足掛かりに、新たな地域に進出する動きが出てきた。

M&Aを進める上で資本力のある大手が有利であることは間違いなく、進出を許せばそこを拠点に次々と顧客を奪われかねない。地域の中堅・小規模事業者は警戒感を強める。

「LPは引き受け先があるが、こちらは全く受け皿がない」と関係者が危ぶむのは、都市ガス業界だ。供給設備が独立し、M&Aを進めたところで規模の経済を生かして事業効率を飛躍的に高められるわけではない。

実際、これまで公営のガス事業者が民間に事業譲渡するケースばかりで、民間同士のM&A事例がないのはそのためだ。業界の事情通は、「立地制約を受ける都市ガスの小規模事業者をM&Aで救済することはできない。複数の地域で一斉に事業が立ちいかなくなる可能性もある」と、危局を訴える。

最も危機的状況にあるのがSSだ。足元では燃料油補助金に支えられ高い収益を出している事業者は多いが、それでも事業を譲渡する先が見つからない。過疎化やEVシフトに伴う需要減以上に、地下タンクの更新や土壌汚染など将来のリスクが懸念され、投資対象として敬遠されがち。課題を乗り越え事業承継できなければ、やがて地域からSSが消滅してしまうだろう。

それぞれ固有の問題を抱える中で、各事業者のM&A事情ははどうなっているのか。最新動向を追った。

LPガスはエネルギー供給の“最後のとりで”

【現地ルポ/5月13日】JERAが富津火力公開 国内最大級LNG施設の全容


発電大手のJERAは5月8日、富津火力発電所(千葉県富津市)の設備を報道陣に公開した。同発電所は全4系列21軸からなる発電機群をはじめ、LNG船を受け入れるための専用バース(船着き場)、12基の地下式貯蔵タンク、神奈川エリアへガスを供給する東西連系ガス導管などを有し、国内最大となる516万kWの発電能力と設備規模を誇る。4号系列では、2023年8月に最新鋭のガスタービン・コンバインドサイクル発電システム(東芝・GEの共同システム)へのリプレースが完了し、発電効率60%を実現するなど高い性能を達成している。今回の公開では、首都圏の電力供給を支える巨大インフラの実態と、その支え手達の姿に触れることができた。

最新鋭のガスタービンが据え付けられた4号系列の建屋内部。静けさの中に、機械音がこだましていた

最初に視察したのは中央制御室だ。フロアの右手には、発電量やガス導管の流量が表示される「LNG制御盤」が設置されている。作業員はこれらをモニターしながら、需給や再エネの出力状況に応じて施設全域の設備の起動停止をマニュアルで行う。近年では、太陽光発電の普及などの影響から起動停止回数が増加しており、昨年度は2564回と過去最高を記録した。この影響ついて、泉義和副所長は、「特にガスタービンなどの金属製の部品は温度変化によるダメージを受けやすい。現段階ではインターバルの工夫や状況に応じて分解点検の頻度を上げていくなどの対策を取っているが、さらなる対処法を模索していく」と説明。調整力を担う火力現場では、柔軟な運用体制の構築に向け日々試行錯誤が行われている。

あらゆる発電設備とガス流量がここで管理される

階段を降りて地下13mに達すると、厚いコンクリートに覆われたトンネルが姿を現す。その内部を貫くのは、東西連係ガス導管。導管が整然と敷設されたトンネル内はどこか無機質で、荘厳ささえ漂わせていた。内径700mm、全長は約18kmに及び、1時間あたり最大300~400tの天然ガス供給能力を有する。東京湾海底に敷設されており、川崎市の東扇島発電所に通じている。導管の脇には自転車数台。敷地内で遠く離れたメンテンナンス地点までの移動手段として用いているそうだ。薄暗いトンネルの中に一歩足を踏み入れると、果てしなく続く景色に、まるで永遠に伸びているかのような錯覚を覚える。天然ガスの安定供給を担うインフラのスケールの大きさを、間近で体感することができた。

巨大トンネルに覆われた東西連係ガス導管は東扇島発電所(川崎)まで続く
導管の脇には、トンネル内の移動手段である自転車が並べられている

なお、富津火力は千葉、五井、姉崎、袖ケ浦火力、さらには近隣ガス事業者にも燃料を供給する役割を担っている。海底・地下に広がる導管を駆使し、見えないところから首都圏のエネルギーを支えている。

第二バースに停泊するLNG船。船の側面に設置された4本のアームで荷揚げ作業を行う

年間約1000万tの受入実績を誇る富津火力のLNG基地は、主に船を受け入れる2つのバース、地下式貯蔵タンクなどで構成され、調達先は20カ国にも及ぶ。この日はそれぞれのバースで1隻ずつのLNG船を迎え入れていた。山本茂保副所長によれば、「LNG船が来るのは平均で3日に1回、次に来るのは4~5日後」らしく、このような光景を見られるのは運がいいとのこと。 LNGの受入作業では、接岸した船の側面に設置された複数のアームが要となる。いずれも油圧で駆動し、船側の導管と接合するように現場作業員がリモコンで操作する。アームは、船側のタンク内における圧力上昇を防ぐためのリターンガスの供給に充てるものと、LNGを敷地に荷下ろしする際に使用するアンローディングアームとに分かれる。この日、第二バースのアームは4本だったが、本来はメンテンナンス作業に入っていたアームを加えた5本で作業を行う。1時間あたりで最大1・2万klのLNGを荷揚げすることが可能で、17万kl規模のLNG船であれば、17時間ほどで作業を完了することができる。荷揚げ作業は、澄み渡った青空の下、穏やかな海の上で粛々と進められていた。

高さ17mもの屋根が露出する地下式タンク群

敷地内に移されたLNGは地下式の貯蔵タンクに送られる。施設の屋上からは、地下35 mに埋設された直径70m、最大容量12.5万klの巨大タンクをはじめとした12基のタンクが立ち並ぶ光景を一望できた。タンクは耐熱性の高いメンブレン構造で覆われているほか、万一の火災に備えた放水装置を完備。さらに、敷地内には緊急時に大量の水を一気に放射し、タンク全体を包み込む「ウォーターカーテン」も敷設されている。この日は実際に、およそ20m弱もの水柱が勢いよくタンク周辺に立ち上がる様子が披露された。視察の模様は弊社SNSでも順次配信予定。現場のリアルな姿を、ぜひそちらでもご覧いただきたい。

発電やLNGの供給を担う一連の設備群を実際に見て回る中で、日々の電力供給がいかに緻密な技術と綿密な運用によって支えられているかを実感する一日となった。膨大なエネルギーを日々生み出し続ける富津火力の設備群。その足元で行われる一つひとつの作業が、首都圏の「当たり前の日常」を下支えしている。

【時流潮流/5月6日】米露のウクライナ原発「争奪戦」トランプ大統領の思惑は?


ウクライナ戦争の停戦交渉が長引いている。米露首脳が早期停戦に向けた交渉開始に合意してからほぼ3カ月たつが、依然として先行きは不透明だ。ロシアは占領地域の拡大を、米国は鉱物資源開発やロシアが占領中のザポリージャ原子力発電所の奪還を目指す。停戦交渉の遅れにいらだつトランプ米政権は、冷却化していたウクライナとの関係を修復、ロシアから譲歩を引き出そうと揺さぶりを続けている。

チェコのテメリン原発。原子炉はロシア製だが、オペレーションルームは欧米式が採用されている。ウクライナも脱ロシア化に取り組んでいる=2004年、筆者撮影

ロシアはウクライナ東部2州や南部2州、さらに、2014年に一方的に併合したクリミア半島の領有権獲得を狙う。「領地」を少しでも増やそうと各地で戦闘を続ける。欧州最大の原発であるウクライナ南部のザポリージャ原発周辺も戦闘地域に近く、国際原子力機関(IAEA)によると、原発周辺では「連日、激しい銃声や爆発音」がある。

ウクライナには四つのサイトに15基の原発がある。すべてロシア製原発で、多くは旧ソ連時代の1980年代に運転を始めた。電源構成に占める原発の割合は55%とフランスに次ぐ原発大国である。

中でも最大のザポリージャ原発には出力100万kWの「VVER1000」を6基設置。ロシアの侵攻前は、ウクライナの電力の約2割を供給し、約1万1000人が働いていた。だが、ロシア軍は侵攻直後の22年3月4日に同原発を占拠する。現在は6基すべて冷温停止状態にあり、ロシア国営企業ロスアトムが管理に当たる。

ロシアは、停戦後の早期運転再開を目指す。だが壁がある。14年にロシアがクリミア半島を一方的に併合して以後、ウクライナはさまざまな「脱ロシア化」に取り組んできた。原子力分野でも、核燃料をロシア製から米ウェスチングハウス社製に切り替えるなど欧米化を進めた。欧米技術に不慣れなロシア人には対応が難しく、管理業務は現在もウクライナ人の運転員が中核を担う。

そうした中、3月19日にウクライナのゼレンスキー大統領と電話協議した米国のトランプ大統領が意外なことを口にした。「米国が(ウクライナの)発電所を所有するのが最善だ」。ザポリージャ原発をロシアから取り戻し、米国が運営するとの宣言だ。老朽化が進むロシア製原発を、米国製に置き換える野望も透ける。

当然、ロシアは反発した。ラブロフ露外相は同原発の引き渡しは「考えられない」と述べた。ロシアはすでに同原発をロシアの原発と認定済みで、将来のロシアへの電力供給を計画しているからだ。ただ、ロスアトムのリハチェフ社長は4月30日、ロシアの政権指導部が承認すれば、米国との協議は「可能かもしれない」と述べ、含みを残した。

トランプ政権は、ウクライナが求める軍事面での「安全保証」を与えなくとも、資源開発やエネルギー面に米国が直接関与する経済的な「安全保障」があれば、ロシアの再侵攻を防ぐ「盾」になれると考えている。ウクライナの原発をめぐる米露の争奪戦から目が離せない状況が続きそうだ。