再生可能エネルギーの導入拡大や原子力再稼働が進む中、調整力として火力発電所に求められる役割はミドル電源へと変化している。また、7月に入ると連日の猛暑に見舞われ、8日には東京電力パワーグリッド管内の予備率が低い見通しとなり、火力の焚き増しなどで対応した。調整力の面でも供給力の面でも、火力はやはり安定供給の頼みの綱ではあるが、その現場ではさまざまな課題に直面している。

LNG火力はもとより、本来の設計思想はベースロードの石炭火力も、ミドル電源的な運用はもはや当たり前となっている。そのために以前から現場では石炭ミルの稼働数を減らすなどの部分負荷に応じた運用上の対応を取ってきたが、さらに最近ではプラントごとに設計時に定められた最低負荷を更に引き下げたり、1週間単位で停止したりといった試みも行われている。
国内で数多くの石炭火力発電所を有する電源開発(Jパワー)の場合、最近は低需要期に昼間の発電量が低下傾向にあり、特に西日本側でその傾向が目立つ。このため、運用面でさまざまな工夫を取り入れている。
具体的にはどのような対応かというと、まずは最低負荷の引き下げだ。発電コストが卸電力市場の市況を上回る際、例えば設計上の最低負荷から昼間はさらに1~2万kWほど出力を下げる。そして夕方~夜間の需要増に合わせ負荷を上げている。最低負荷の引き下げに当たっては、機器や環境(SOxやNOxなど)への影響を試験によって確認した上で行うようにしている。
ただ、石炭火力は短時間での頻繁な出力の上げ下げは困難だ。そこで、定期点検などとは別に、収益性を確保するべく、需要や市況予測を基に1週間単位で停止する対応も行っている。現在の運用方針について、川端泰治・火力戦略室長は「頻繁に増減負荷を行う運用が常態化しており、こうした運用の変化に伴い、これまでにない機器への影響が出てくる可能性もあるため、定期点検などで注意深くみていく」と説明する。
運用方針の変化に伴い、設備改修のために大規模投資できれば話は早い。しかし、2050年カーボンニュートラルで石炭火力の活用について不透明感がぬぐえない中、現状はそうした地合いではなく、運用面で対応している状況だ。最低負荷の引き下げなどの運用性向上に向けた対応で、運転員の操作・監視に関する負担は増える方向にある。地道な取り組みだが、今後も引き続き実施していくという。
さらに川端氏は、「効率的かつ経済的に負荷追従の機能を持たせないといけない。その点、大崎クールジェンなどのIGCC(石炭ガス化複合発電)ではLNG火力並みの追従性を確認しており、その後の水素専焼発電にもつながる。こうした機能が今後求められるのではないかと考えているところだ」とも強調する。
進む非効率石炭フェードアウト 供給力への影響は否めず
また同社は、5月上旬に発表した新たな中期経営計画(24~26年度)で、国内火力のトランジションに向けて地点ごとの方針を示している。USC(超々臨界圧)の設備(磯子新1、2号機、竹原新1号、橘湾1、2号、松浦2号、松島2号、石川石炭火力1、2号)などは地点の特性を踏まえそれぞれトランジションを図り、このほか新規地点も検討する構えだ。、その一方で政府方針に沿い、運開が1990年の松浦1号以前のプラントはフェードアウトし、高砂1、2号は廃止。竹原3号と松浦1号は休廃止もしくは予備電源化を予定する。
地点ごとに意思決定したわけではないが、新中計を踏まえれば電力販売量はおのずと縮小傾向となる。さらに火力の調整力の役割が重みを増す中、設備の規模よりも機動性を重視するようになる可能性がある。設備の高機能化は進むとはいえ、供給力への影響も気になるところだ。
大谷明徳・経営企画室長は「調整力としては、個別相対取引に加え、需給調整市場が発展・成熟し、その価値が適正に評価されることを期待する。また供給力としても、日本全体で脱炭素技術が普及するまでの間、LNG火力だけでなく石炭火力の両方を持っておく必要がある中で、予備電源制度が有効に機能してほしい」と求める。さらに、トランジションに関する投資回収の予見性を高め、インセンティブになり得るとして、「相応の価格のカーボンプライシングが必要」とも続ける。
DXやGXに伴い今後電力需要が爆増する可能性が示唆される中、火力はますます重要な役割を担うようになる。政府は非効率石炭火力のフェードアウトで規制的措置を打ち出した際、「過度な退出につながらないよう」としていたが、具体策はないまま。その課題への対応は、もう先延ばしにはできない。