【目安箱/8月8日】再エネを汚した秋本議員 「競走馬」だけではない疑惑の流れ


「クリーン」を売り物にしている再生可能エネルギー業界に激震だ。自民党の再エネ拡大・脱原発派の急先鋒で再エネ普及拡大議員連盟事務局長を務めていた秋本真利衆議院議員(千葉9区)が、収賄の疑いで東京地検特捜部の捜査を受けている。具体的には、風力発電会社の日本風力開発から、洋上風力入札制度のルール変更の見返りとして計3000万円の資金提供を受けていたという疑惑だ。これに対し、秋本議員側、日風開側ともに贈収賄性を否定。関係者によると、秋本氏と社長は競馬仲間で2021年秋に競走馬を扱う馬主組合を設立しており、3000万円はその競走馬の購入に充当したとの主張だ。しかし秋本議員は去る8月4日に在職中の外務政務官を辞任し、自民党も離党した。ちなみに、秋本議員が師と仰ぐ河野太郎・デジタル相は、昨年8月まで日本競走馬協会の会長を務めていた。

秋本議員は以前から、再エネ問題での行動が異様で態度もおかしかった。以下は、秋本議員のSNSツイッター(現X)での2018年12月の発言だ。

〈日立は…原発なんてクソみたいな物よりも世界で日立しか作っていないダウンウィンドの風車を世界に売る努力をすべきだ。日立のダウンウィンドは陸上よりも「洋上で特に優位性がある」というコンストラクターもいる。シュリンク市場よりも次世代に貢献する市場で汗をかけ。〉

秋本議員のツイッター

原発や大手電力をののしる秋本議員

当時、日立は英国での原発売り込みを行い、日本政府も支援していた。結果として失敗した。そうした中で、下品な言葉を使って、再エネや風力発電を推奨する彼の姿は異様だった。

秋本議員は「反原発・再エネ重視」と自らの政治姿勢をPRし、さまざまな場所で前述のように原子力発電や大手電力会社について、「利権」「時代遅れ」など口汚く罵っていた。また過激な首相官邸前での抗議行動で知られ、反政府色の強い首都圏反原発連合という団体にも、講演などで関わっていた。与党議員でありながら、国の政策を混乱させる行動に加担した。

それどころか、自分の利益のために政治家としての権限を使って、ゆがんだエネルギーシステムをつくろうとした可能性がある。そして秋本氏は以前から、再エネ事業者との関係が噂されていた。

秋本真利衆議院議員(衆議院HPより)

入札実施後に政治介入でルールが変わる?

秋本議員の疑惑は、洋上風力発電の入札ルール変更に不当に干渉したというものだ。再エネに対する補助金は23年度の予想で4兆7477億円になる。その巨額さを見れば、ビジネスではなく、政治工作でその補助金から利益を得ようとする人も出てくるだろう。

再エネの中で、風力発電はコストで競争力がある。経産省はその拡大を期待している。陸上の適地に風力を作る余力が乏しくなったことから、洋上風力に注目が向いた。海面の利用、漁業権などで、さまざまな権利関係者、また省庁間の調整が必要であった。経産省はそれを行い、20年から合計4500万kW、発電予想15兆円分の海面が開放され、入札で事業者を集めることになった。

2021年12月に最初の3件(秋田沖2件、千葉沖1件)の公募入札の結果が発表された。それが予想外の結果になった。事前の予想では早くから参入を表明していたレノバや日本風力開発などが落札するとみられていた。

ところが、結果は三菱商事グループがkW時当たり11.99円~16.49円と他社に5円以上の差をつけ、3件すべてを落札した。外国製の安い機材の使用などの工夫をした。

上場していたレノバの株価は18年には200円台だった。洋上風力が行われる動きがあって20年には6000円台に上昇した。ところが、この入札結果を受けて暴落し現在は1300円台になっている。

ここに介入したのが自民党再エネ議連だ。経産省の担当者や業者を呼んで入札について聞き取りを行った。関係者によると、その中心になったのが秋本議員だった。

経産省は22年5月に突然、入札ルールを変更する方針を表明した。同年6月に行われる予定だった第2回の入札は23年6月に延期され、審査方法も変更された。新しい審査方法では、評点で価格の割合を下げ、事業建設の迅速性などの評価を高くした。これは三菱商事に不利になる。第2回の審査は今年6月30日が応募締め切りだった。結果はまだ公表されていない。ここまでが制度変更の経緯だ。

変更を主導した秋本議員に金が流れる

そこで秋本議員がこの制度変更にどのように関わったかが問題になる。秋本議員は第4次安倍政権(17年11月~18年10月)で国土交通政務官だった。この地位は洋上風力に関わる。今年(23年)2月の国会質疑での立憲民主党の調査によると、秋本議員は「安倍首相に洋上風力の制度を作るために、国交省に政務官として行かせてもらった」と、かつて発言したことが明らかになった。

そして役職についていなかった21年12月から、自民党再エネ議連の制度見直しの議論を仕切ったことに加え、22年初頭に国会で複数回、洋上風力を巡る質疑を経産省を相手に行った。

立憲民主党は秋本議員の政治資金を調査し、今年2月に源馬健太郎衆議院議員が、国会で外務政務官だった秋本氏に質問をしている。秋本氏はレノバ社の株を売買している。その時期と売買の数量、利益を出したかどうかは明確にしていないが、国交政務官の就任の前に買い、退任後に売ったと認めた。ただし秋本議員は「在職中の株売買ではないので違法ではない」としている。この間にレノバの株価は上昇した。原因は洋上風力の規制緩和であり、その制度変更に秋本議員は関わっていた。事業者に便宜を図り、株で利益を出したと指摘されても仕方がないだろう。

またこの質疑で、秋本議員は風力発電事業者5社から、21年までの3年間で1800万円の政治献金を受け取っていたことを認めた。

秋本議員は「制度改正は経産省の所管で、私は一議員であるから職務権限はない、政治献金は問題なく処理している」と主張した。しかし、風力発電事業者に有利な活動をしていた以上、批判を当然受けるだろう。

さらに報道によると、秋本議員は、日風開から競走馬を購入するためとして複数回にわたって計3000万円の資金提供を受けたという。昨年10月に基準が見直された直後、秋本議員が同社の塚脇正幸社長側から現金約1000万円を衆院議員会館で受領し、競走馬の購入に充てたもようだ。これは実際に馬を買ったのか、馬の売買を巡る政治資金ロンダリングかは不明だ。政治資金報告書には掲載されていないようだ。

秋本氏は職務に関わる事業者から献金や利益供与を受けている。この捜査の進展を注視したい。

自民党にも再エネ政策の説明責任

私は、この洋上風力の入札制度の突如の変更を、当時からおかしいと思っていた。再エネ賦課金の膨張が問題になる中で、価格の安さが入札の中心にするという経産省の当初の考え方のどこがいけないのか。また露骨な秋本議員の介入があった。

これは秋本議員の個人的な疑惑にはとどまらない。自民党再エネ議連、同党全体の問題になる。また秋本議員は、河野太郎内閣府大臣・衆議院議員との親しさを常に強調していた。また見直しには議連会長の柴山昌彦、メンバーの小泉進次郎の各衆議院議員も熱心だったという。なお、河野氏は日本競走馬協会の会長を務めていたことから、秋本議員の競走馬購入とのつながりを指摘する向きも。こうした政治家は秋本議員と自らの行動に説明責任がある。そして、彼らは再エネ振興と脱原発で協力し合っていた。

電気料金が上昇しているが、その一因は再エネへの補助金だ。家庭向けでは1世帯あたり月2000円近く支払い、電力料金の1割以上になっている。過剰な再エネ優遇を自民党が続ける理由に「利権」があるとしたら、国民感情的にも、倫理的にも許されない。

秋本議員のような、再エネを金で汚しおかしな制度づくり進めた人を、これを契機に排除したい。また検察は背後関係を徹底的に捜査してほしい。その上で、健全な再エネ発展のための議論を始め、政治ではなく国民と事業者主導でエネルギー制度を再構築していきたい。

【記者通信/8月5日】中国電が旧経営陣を提訴 清水氏は中経連会長辞任の意向


8月2日に山口県上関町において、使用済み燃料の中間貯蔵施設建設に向けての調査・検討を関西電力と共同で行うと発表したばかりの中国電力を巡り、またも衝撃が走った。翌3日、大手電力4社グループによるカルテル問題で公正取引委員会から707億円の課徴金処分を受けた同社が、清水希茂前会長、瀧本夏彦前社長、渡部伸夫元副社長の3人に善管注意義務違反があったとして、損害賠償を求める訴えを広島地裁に起こすと発表したのだ。請求額は、課徴金に社内調査費用などを加えた額を想定しているという。

「まさか、中国電力が提訴に踏み切るとは思わなかった」。大手電力会社の関係者は驚きを隠さない。カルテル問題を巡っては、関西電力が7月28日、当時の経営陣に対して賠償を求める提訴をしないことを決めたと発表していたからだ。関電では、当時の経営陣4人について「過失や善管注意義務違反の余地がある」としたものの、「損害の有無や責任について不確定な事実が多く、勝訴の可能性の判断が困難」などとして提訴を見送った。

中部と九州については、そもそも公取委が認定したカルテルの合意はなかったと表明していることから、現在のところ経営陣を訴える可能性は低いとみられている。

清水氏と瀧本氏は3日付で、それぞれ相談役と特別顧問を辞任した。また清水氏については、6月に中国経済連合会の会長に再任されたばかりだったが、一部報道によれば、同社は4日、中経連に清水氏が辞任する意向であることを伝えたという。

【記者通信/8月3日】電力カルテルで処分3社が提訴へ 果たして勝算は?


大手電力4社グループが公正取引委員会からカルテル認定を受けた問題を巡り、課徴金などの処分を受けた3社が相次いで取り消し訴訟に踏み切ろうとしている。九州電力は7月31日、関西電力との間でカルテルを結んだとする公取委の認定に関して見解の相違があるなどとして、排除措置命令と課徴金納付命令で取り消し訴訟を提起することを取締役会で決議したと発表した。同じく課徴金処分を受けた中部、中国の2社は既に提訴する方針を明らかにしているため、事実上の提訴期限となる10月初めまでに3社が足並みをそろえて訴訟を起こせば異例の事態となる。

池辺和弘社長はこの日の会見で、カルテル合意時期の前後で同社の入札行動や関電エリアでの営業活動に変化がなかったことなどを理由に、「公取委が認定しているカルテル合意はなかったとの判断に至った」と述べた。ただ、九州は処分に至る過程で公取委の調査に協力していることから、ある業界関係者は「そのカルテル認定を否定する訴訟において、勝算はあるのだろうか」と疑問を投げる。

中部については、当事者の一人とみられている林欣伍社長自らが会見の場で「関電との間で営業活動を制限するような合意はしていない」と断言し、公取委側と全面的に争う姿勢を見せている。一方、中国については、課徴金の対象となる売上高で公取委と意見が食い違っているとの主張であり、処分の全面取り消しではなく、一部取り消しで争う構えだ。

全面取り消しの判例はなし カルテル認定の特殊性が影響するか

独禁法問題に詳しい関係者によれば、「過去の裁判例を見ると、課徴金納付命令の全取り消しに成功した事例はなく、課徴金減額という一部取り消しが1件あるのみ」だという。これを踏まえれば、勝算があるのは中国のみということになるが、「今回のカルテルでは会合に参加したなど状況証拠の積み重ねで認定されたという特殊性があるので、これまでがこうだったからという視点で評価はできない」(事情通)と見る向きもある。「とりわけ中部については林社長の毅然とした対応を見る限り、カルテルに合意していないことを裏付ける証拠があるのではと思えてならない」(エネルギージャーナリスト)。

公取委が初の全面敗訴に追い込まれるのか。いずれにしても、長期戦は必至の様相だ。

【記者通信/8月3日】中国電が上関に中間貯蔵施設 関電との共同開発前提に


新たな「共同利用案」だ。中国電力は8月2日、関西電力との共同開発を前提に、使用済み核燃料の中間貯蔵施設建設に向けた調査を山口県上関町で行う方針を明らかにした。同日午前には中国電の幹部が上関町役場を訪れ、西哲夫町長に方針を伝達。関電側としては使用済み核燃料の県外搬出量の確保につながり、「今年中に県外で中間貯蔵施設の確保」という福井県との約束への影響が注目される。

経済合理性を強調 中国電から関電に提案

中国電の大瀬戸聡常務はこの日の会見で、自社のみで中間貯蔵施設を建設・運営するのは負担が大きいとし、発電費の低減にもつながり経済的に「合理的な取り組み」だと共同開発の意義を強調したほか、「当社側から関西電力に提案した」と経緯を説明した。原発再稼働が進む西日本では、四国電力、九州電力がそれぞれ敷地内での中間貯蔵施設建設に向け動き出しており、島根2号機の再稼働を控える中国電も中間貯蔵施設の建設が課題となっていた。

中国電は1982年から上関原発の建設計画を立てているが、福島第一原発事故以降は準備作業が中断されたままとなっている。西町長は昨年10月の町長選で初当選し、今年2月には中国電力に対して地域振興策を要望しており、今回の中国電の方針は西町長への「回答」となる。西町長は面会後、議会で議員の判断を仰ぐ方針を示した。

一方、関電は6月、使用済み燃料の一部(使用済み核燃料と使用済みMOX燃料)を使用済みMOX燃料の再処理実証のためフランスに搬出する方針を発表している。福井県との約束を「ひとまず果たされたと考えている」との見解を示したが、使用済み核燃料の搬出容量を確保するため、引き続き「あらゆる可能性を追求」するとしていた。

青森県知事がエネ庁長官と面会 共同利用は言明避ける

関電の中間貯蔵地を巡っては20年12月、電気事業連合会が東京電力と日本原子力発電が所有する青森県・むつ中間貯蔵施設を共同利用する方針を発表したが、むつ市の宮下宗一郎市長(当時)の強い反対で棚上げとなっていた。

その宮下氏は今年6月、青森県知事に就任し、7月27日には経済産業省を訪問して資源エネルギー庁の村瀬佳文長官と面会。宮下知事は青森県と関係閣僚が意見交換を行う「核燃料サイクル協議会」の開催を求め、村瀬氏は「早速、政府内で検討したい」と前向きに回答した。同協議会は97年の設置以降、過去に11回開催されている。前回開催は六ヶ所再処理工場が原子力規制委員会から事業変更許可を得た20年10月で、約10年ぶりだった。

宮下氏は同協議会の開催を要請した理由について「知事が変わったことを一つの節目とし、青森県の原子力、核燃料サイクルなどエネルギー政策にどう向き合うかを私自身の言葉で関係閣僚にお伝えしたい」とし、「(知事就任後)最初の1カ月は仕事の進め方を県民に示す期間。核燃料サイクルに協力することを明らかにするタイミングだった」と説明した。また面会では日本原電・大間原発についても意見を述べたといい、「審査が長引いていることで地域は影響を受けている。核燃料サイクル協議会でもしっかりと伝えていきたい」と強調した。

だが、関電によるフランスに搬出方針への受け止めは「特にない」と言明を避けたほか、電気事業連合会が検討を続けているむつ中間貯蔵施設の共同利用案について、知事就任後に関電からのアクションはないことを明らかにした。「もし関電から共同利用の相談があったら」との問いかけに対しても、「仮定の話はできない」と回答しなかった。青森県やむつ市には、核燃料物質等取扱税(核燃税)や使用済み核燃料税を求めて共同利用に前向きな声も存在する。上関町での中間貯蔵施設建設の動きが、何らかの影響を与えるかもしれない。

【目安箱/8月1日】処理水海洋放出に危険性なし 政治の決断と実行のみ


政府と東京電力は、2011年に事故を起こした福島第一原子力発電所で、事故処理の過程でたまった汚染水から放射性物質を取り除いた130万t以上の処理水を海洋放出する方針を示している。近く放出の予定だ。

福島第一原発構内の大量の処理水タンク(編集部撮影、2017年)

一部の日本の政治勢力、メディアのほか、中国、韓国、北朝鮮がその放出に反対している。韓国は政府が容認しているものの一部世論が騒ぎ、また中国政府が懸念を表明している。今年の放出は2021年4月に廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚会議で決定していた。そもそも2015年に、海洋放出の方針が打ち出されていた。世論に配慮したとはいえ、あまりにも実行が遅すぎる。

同原発の構内には、高さ8mほどの貯水タンクが1000基立ち並ぶ。東電は費用を公開していないが、一基あたり建設に数億円かかるようだ。筆者は同原発を視察し、そのタンクが立ち並ぶ姿を見て、無駄遣いに悲しくなった。東電は事実上国営化されている。無駄な事故処理費用は、国民負担、そして東電の利用者の負担になる。

騒ぐ人たちは、実際の処理方法をよく知らないらしい。そのために、ここでポイントを整理して、健康被害の可能性がないことを確かめてみよう。以下の2サイトを参考にした。(東京電力サイト「もっと知りたい廃炉のこと#汚染水」「処理水ポータルサイト」

◆処理水は希釈して海に放出

この処理水を意図的に「汚染水」と呼ぶ人がいるが、それは誤りだ。有害な放射線各種は全て取り除かれた水だ。

東電は、放水のための設備を建設中だ。処理水は、沖合1kmの放水口から海水で希釈されて現在タンクに貯留放出される。その希釈用の海水は発電所の港湾の外で取水される。陸上側から海底の岩盤中にトンネルを掘り進めており、そこから放出される。放出した水が再度希釈用の水として取水されにくいように、その距離を大きく離すという。

処理水の設備概念図(東電資料)

事故処理水は多核種除去施設(ALPS)で62種の放射性各種を取り除いている。国際的に認められた環境への放出基準を下回っており、放出の際にも再確認される。東京電力は包括的海洋モニタリングシステムで海洋への影響を公開するという。東電は処理水に関する情報を徹底的に公開する方針だ。

東京電力・包括的海洋モニタリングシステム(サイト写真)

◆トリチウムの安全性

ALPSは、放射性物質のトリチウムは取り除けない。ただ、この物質は普通の水などにも混じり、少量では影響がない。130万tの処理水で、純粋なトリチウムはわずか15cc分という。

海水による希釈後のトリチウム濃度は1ℓ当たり1500ベクレル未満とする。この含有濃度にするために、現有の処理水をおおよそ100倍以上の海水で希釈する。

これは国際保健機構(WHO) の基準である同1万ベクレルの約7分の1である。また、2年後からの処理水の放出では、年間トリチウム放出量は22兆ベクレルを下回るように調整される見通しである。

いずれにしても原発ではトリチウムを排出する。隣の韓国の原発では、2018年の実績で、古里原発で50兆ベクレル、月城原発で25兆ベクレルを排出した。これは福島第一原発の処理水の予定を下回る。

◆騒ぎ続ける人たちを相手にする必要はあるのか

処理水について、東電がここまで対策をしているのに、国内外で安全性を懸念して騒ぐ人がなぜいるのか、私には理解できない。韓国や中国などは、日本をおとしめるために言っているとしか思えない。

国内では、事故直後の感情的な議論は落ち着き、大半の世論調査は処理水の海洋放出を容認する意見が多数だ。ところが、いまだにこの処理水に反対する人たちがいる。

あらゆる社会問題には、その問題が解決しないことによって利益を得る人たちがいる。『「正しさ」の商人 情報災害を広める風評加害者は誰か』(徳間書店)という、福島問題を取り上げ続けてきたジャーナリスト林智裕さんの著作がある。それによれば、以下の種の3人が、福島の放射能問題で騒ぎを混乱させ続けた。

政治闘争の手段として、反原発や政権批判などの政局づくりや、体制の脆弱化目的の情報工作を行う人がいた。

経済的・社会的利益を得ようとして、災害と社会不安に便乗した売名、金銭や地位などを得る詐欺的な行為を行う人がいた。

騒ぎで喜び、承認要求を得ようとして、自己顕示欲や逆転願望の発露、偏向した権威・派閥・コミュニティ内での保身的な踏み絵やポジショントーク、陰謀論などを展開する人がいた。

こうした人たちは永遠に騒ぎ続けるだけだ。孤立させ、その発言を誰も真面目に受け取らない状況を作り出す必要があるだろう。そして、この処理水問題でも不必要な騒ぎは無視することだ。

この問題では、問題を処理する側の動きも鈍すぎる。これは政府の役割だが、ここまで対応した以上、もう説得ではなく、実行の段階にある。

「ゴルディアスの結び目」という逸話がある。ゴルディアスという王が荷車と柱を結びつけ、「これをほどいたものは、アジアの王になる」と予言した。多くの人が試みたが、ほどいたものはいなかった。ところが、のちにアジアを征服するアレクサンドロス大王が、剣でバッサリとそれを切断してしまった。

思い切った実行が複雑な問題を解決する。そして実はその問題は大した内容ではないことを示す逸話だ。私には処理水問題は、風評被害対策と漁業補償という残った論点を除けば、「断行」で解決できる単純な問題のように思える。まさに「ゴルディアスの結び目」だ。

岸田文雄首相の英断と実行が待たれる。

【記者通信/7月28日】「脱炭素電源入札」に既存原発 巨額の安全対策費確保へ


原子力事業者の投資予見性を確保する動きが加速している。経済産業省は7月26日、原子力小委員会を開催し、巨額の安全対策投資を念頭に「長期脱炭素電源オークション制度」の対象に既存原発を盛り込む検討を開始する方針を示した。このほか、4月に閣議決定した「今後の原子力政策の方向性と行動指針の概要」(行動指針)を巡って、活発な意見交換が行われた。

巨額の安全対策費回収へ 反対意見や課題も

長期脱炭素電源オークションは脱炭素電源への新規投資を対象に国が実施する入札制度で、2024年1月の初回応札に向けた準備が進んでいる。応札された電源には、建設費や人件費など固定費の収入を原則20年間保証することで、収入の予見可能性を付与する。

原発の再稼働に当たっては、巨額の安全対策投資を回収するための予見可能性の確保が課題となっていたが、その扱いについては整理されていなかった。そこで行動指針では「国による安全対策投資に資する予見可能性確保など事業環境整備の検討」を盛り込み、GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法の成立に伴い改正された原子力基本法でも、安全性確保の投資を念頭に「安定的にその事業を行うことができる事業環境を整備するための施策」を講ずるとしていた。

一部の委員が「安全対策は新たな電源を追加するものではない」と制度の趣旨に反するとして否定的な意見を述べた一方で、「脱炭素電源として稼働するために安全対策が必要なら、違和感はない」など評価する声が多かった。さらに「工事費用の上振れ、安全対策は立地ごとに個別性が高く、どこまで制度でカバーするのか」といった課題も挙がった。

急がれる新増設 「建設地点を考え出してもいい」

同委員会ではこのほか、サプライチェーン維持のため革新炉開発の加速を求める意見が相次いだ。わが国では3.11以降、国内で進行・計画中だった新設プロジェクトがいずれも中断し、英国やトルコ、ベトナムで計画していた輸出案件も中止または終了した。空白期間の長期化により、川崎重工業や住友金属工業、古河電気工業といった大手企業が原子力の関連事業から撤退し、原子力従事者も減少の一途をたどる。

日本は原子力大国フランスに匹敵するほど、エンジニアリングや燃料、濃縮、原子炉容器、蒸気タービンなど、幅広い範囲で強固なサプライチェーンを温存している。だが、原子力サプライチェーンは一度断絶すると再構築するのは困難とされ、一刻も早い革新炉の建設が求められているのだ。革新炉ワーキングループで座長を務める黒崎健委員は、行動指針に「次世代革新炉の開発・建設」が盛り込まれたことについて「『建設』という言葉が入ったのは大きい」と強調しし、「そろそろどこに建設するか考え出してもいい」との見方を示した。原子力の「最大限活用」を掲げたGX基本方針は、いよいよ実行段階に入っている。

【記者通信/7月28日】石油危機50年を総括 化石から次世代までエネ研が報告会


かつて石油危機をきっかけに、日本中が「狂乱物価」といわれるインフレに見舞われた第1次オイルショックから約50年。新たに発生したエネルギー危機を前に同じ過ちを繰り返さぬよう、日本エネルギー経済研究所は7月25日、「石油危機から50年、そしてこれからの50年」をテーマに定例研究報告会を開催した。

産官学による包括的な関係構築が重要に

冒頭に寺澤達也理事長が「1973年の第1次オイルショックから、中東への知見を深めるため、エネルギーの多角化からLNG、原子力、再生可能エネルギーと積み重ねてきた」とあいさつ。ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー問題が再度表面化した中で「日本のエネルギー安全保障に対する中東の位置づけはどうなったのか。真摯に見極めて今後に生かすことが重要だ」と話した。

その後、中東研究センター長の保坂修司理事が「50年前、中東で何が起こったのか」をテーマに、第1次オイルショックにおける日本の教訓とは何かについて講演した。保坂理事は「当時の日本は中東産油国やエネルギー安全保障に対する関心が欠如していた。情報収集や分析の不備、専門家の不足なども、国民のパニックを助長させる大きな原因となった」と指摘。その反省を生かし、これまで培ってきた中東との信頼関係は、現在の日本における大きなリターンになり得ると話した。一方で日本の石油需要の頭打ち、中国の台頭による日本の経済的影響力の低下にも言及。日本のソフトパワーを生かしながら、産官学による包括的な関係構築の重要性を訴えた。

危機は日本にとってのチャンスか

報告会の前半は、①50年前の石油危機からの教訓、②天然ガス市場の動向、③原子力活用の必要性、④資源の偏在性の脅威――の4点について講演を行い、化石資源と原子力の現状を解説した。後半は、「水素アンモニア」「GXに向けた取り組み」「アジアでのエネルギートランジション」などが論じられ、カーボンニュートラル時代に向けた今後の新規技術展開について、エネ研が調査した豊富な資料から課題を紐解いた。

報告会の最後には、エネ研専務理事の小山堅首席研究員が総括。エネルギー危機に対する国家戦略の重要性を示しつつ、市場に変革をもたらす技術革新への投資が、国家と市場の関係性に変化をもたらすと指摘した。エネルギー危機による将来の世界情勢の変化にも触れ、「技術革新とルールメーキングを巡るせめぎあいの世界で、次に起こり得るのが産業政策の復活だ。産業政策を批判していたアメリカが、方針を転換することで起こる危機にどう対応するのか。日本にとって大きなピンチだが、逆に言えばチャンスでもある」との見解を示した。

【記者通信/7月25日】商慣行是正で問われるプロパン業界の本気度


「プロパン業者にとってマンションの居住者は顧客なのだろうか。依然として不動産オーナー、もしくはデベロッパーだけを顧客だと思っているのではないか」――。7月24日、総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)液化石油ガス流通ワーキンググループ(座長=内山隆・青山学院大学教授)の第3回会合をオンラインで傍聴した消費者団体の関係者の一人はこう、会合への感想をこうつぶやいた。

賃貸集合住宅への設備無償貸与という長年の商慣行から脱却できるのか

プロパンの料金透明化、取引適正化を目指し3月に議論を再開した同WG。これまでの議論を踏まえ資源エネルギー庁事務局はこの日、商慣行是正に向けた対応方針と実効性確保の方策についての案を示した。その柱の一つが、賃貸集合住宅において、エアコンや給湯器といったガスとは関係のない設備費用をガス料金に上乗せして利用者に請求することを禁じることだ。プロパン業者が契約獲得のために投じた営業費用を付け回し、選択権のない利用者に経済的不利益を生じさせているとして、長らく問題視されてきた。来春にも省令を改正し27年度の施行を目指す。

「抜け駆け」「抜け道」で形骸化の懸念も

同WGの委員には、消費者や弁護士、プロパン業界の代表者らが名を連ねる。この議論を機に、プロパン業界を巡る消費者トラブルを一気に撲滅したいと息巻く消費者代表らに対し、方向性はおおむね合意しているとは言っても事業者側の「熱量」は低い。事業者側から幾度となく出てきた言葉は「抜け駆け」「抜け道」。長年にわたる商慣行にどっぷりとつかった事業者の多くが結局はこれまでと同じ轍を踏み、規制が形骸化してしまうのではないかという懸念だ。

これに対し、「抜け道を許さないよう業界全体で取り組むべきではないのか」と喝を入れたのは全国消費者団体連絡会の浦郷由季氏。同日の朝日新聞朝刊「賃貸住宅のLPガス料金、給湯器・エアコン費用上乗せ禁止へ 経産省」のニュースに付いたコメントに言及し、「『LPガスではないアパートを選べばいい』『LPガスの賃貸物件を選びたくない』というコメントが非常に多いことにとても驚いた。業界としてこれでいいのか」と、変化を求めた。

一方、「どれだけ自社努力しても、消費者トラブルを起こす一部事業者と『同じ穴のムジナ』だと言われてしまう。業界のブラックなイメージ払拭につながれば」と、この議論に期待するプロパン業者も。「省令改正の方向性が示されたとはいえ、まだ何も解決していないし何も変わっていない。本当の闘いはこれからだ」(同)と気を引き締める。

【記者通信/7月24日】LNG産消会議の同床異夢 日米とEUに温度差


7月18日に東京都内で開催したLNG生産国と消費国の関係者が集まる国際会議「LNG産消会議」。LNGセキュリティの強化など官民一体となった取り組みの発表や、各国の共同宣言などが盛り込まれ、2050年カーボンニュートラル実現に向けてLNG活用を目指す国際社会の団結をアピールした。しかし各国の会議での発言をひも解くと、LNG利用の方向性に対する「温度差」がにじみ出る。

LNGを活用したい日本と足並みを揃える立場を真っ先に示したのはアメリカだ。エマニュエル駐日大使は「日本は世界最大のLNG消費国。最大の輸出国であるアメリカと日本が手を組むことは、世界の成長を維持することにつながる」と日本のLNG活用に理解を示した。また、マレーシアからは国営石油会社ペトロナス社長兼グループCEOのタウフィック氏が登壇。「私たちは日本の現実的な姿勢を称賛したい。日本と視点を共有し、LNGを信頼できる新たな低炭素エネルギーとして供給する」と表明した。

ドイツ「化石燃料のルネサンスではない」

一方で、EU各国の反応は冷ややかだ。特にドイツは、LNGを含む化石燃料からの脱却を目指す認識を崩していない。経済・気候保護省のニンマーマン事務次官は「エネルギー危機に対処するために、化石燃料に関するわが国の短期的な体制は変わったが、これは化石燃料のルネサンス(復活)ではない」とくぎを刺した。

LNG輸入量を年間240億㎥に倍増したオランダも、LNGはあくまで再生可能エネルギーに切り替わるまでの代替であるとの考えだ。ロブ・イェッテン気候・エネルギー政策相は「LNGに関わる全ての関係者は、既存施設も新しい設備も、持続可能なエネルギーが水素なら、それに対応する準備を始めなければならない」とエネルギー転換の必要性を訴えた。

今回の会議では、再エネシフトを加速させたいEU各国とLNGを活用したい日米・LNG生産国との静かな対立が垣間見えた。クリーンな化石エネルギーであるLNGの活用に引き続き力を入れていくか、それともカーボンニュートラルの将来を見据えて脱化石を図っていくのか。LNGを巡る各国のスタンスの違いは、今後一段と鮮明化していきそうだ。

【記者通信/7月24日】地熱発電を火山国・日本で広げるには?


火山国・日本で拡大が期待される地熱発電。しかし、その量がなかなか増えない。地元との調整の難しさが課題だ。このビジネスで、地域と協調し小さいながらも着実に成長する「ふるさと熱電(熊本県阿蘇郡小国町)」を訪ねた。そして発電を増やす方法を考えてみた。

出力2000k Wのわいた発電所(熊本県小国町)

◆地熱発電はなぜ伸びないのか

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の調査では、現時点で日本の地熱発電所の設備容量は20カ所、発電設備容量は57万kW、発電量は2019年で2472GWh(2019年、ギガワット)だ。これは大型石炭火力1基分、発電量としては日本全体の0.02%にすぎない。

経済産業省・資源エネルギー庁の評価によれば、建設可能な設備は約2350万kW分もある。それなのに利用されないのはなぜか。経産省は、2019年の評価で「調査に多くの費用を必要とするものの十分な量の蒸気を安定的に採取できるか明確でなく」「開発期間が長期にわたること等の事業リスクがある」と指摘する。(資源エネルギー庁・「地熱発電の現状について」

調べてみると、事業者と地域の関係者や住民との調整が難航する例が多い。地熱発電は、地下から取り出した蒸気や熱水を使ってタービンを回す。その利用の後で熱水を地下に戻す。そうした場所はほぼ温泉地がある。その活用に影響が出かねない。温泉組合などが懸念するのは当然だ。「よそ者」が、土地の資源を利用して利益だけを取っていくことにも反発は当然あるだろう。実際に、全国の太陽光、風力発電では、そうした事業者と地域住民で、対立が起きている場も多い。

◆地元への利益を中心に、事業を作る

しかし、ふるさと熱電のビジネスは違う。主役は地元住民であり、同社はそれに「寄り添う」という形だ。2012年に創業しビジネスを成長させてきた。創業以来、その中心になったのが、取締役の赤石和幸氏だ。同社は中央電力の事業から、独立した企業だ。NTTグループや、関西電力なども出資している。

ふるさと熱電取締役の赤石和幸氏

岳の湯地区では、地域の人々が温泉と地熱を700年以上にわたって活用し守り続けてきた。ここの30世帯が「合同会社わいた会」を設立し、地元の地熱を使って発電を行う。ふるさと熱電は、その発電所の運営を委託されている。

また発電所の運転で、わいた会の住民と業務委託契約を結んで発電所の管理などに働いてもらうほか、小国町住民を採用して計6人の雇用が生まれている。収益は発電所の運営や、地域づくりの資金に使われ、残りは各世帯に分配される。「よそ者」が外から来て利益を得るビジネスではない。ふるさと熱電は住民と一緒になり、地域のために収益を活用するという目標を掲げている。その結果、信頼関係が生まれ、事業がスムーズに行われていた。

「地域の皆さんが発電事業の中心になっています。私たちはわいた会の皆様と一緒に共生・共栄を目指しています」。赤石氏が住民の人々と対話を重ねる中で、このビジネスを作り上げていったという。

【図】ふるさと熱電のビジネスモデル

◆地元との信頼が高収益を支える

ふるさと熱電は、わいた発電所で出力2000kWの発電を行っている。他の地熱発電所では収益を確保するために、1万kW程度の設備が多い。小さく始めたのは環境への影響を見極めようとしたためだ。同社は地元の人々と協力しながら現在は同5000kWの発電所を建設中だ。

日本では地熱発電の建設で10年ほどかかる。一方で、わいた発電所は構想から4年の2015年に完成・稼働した。試掘成功率は日本の地熱発電で1割以下とされる。しかし、わいた地熱発電所の場合75%と高くなった。調査を念入りに行い、地元の協力と理解があったので有望な場所を試掘できたからだ。

「全国には温泉地域が3000カ所あります。その熱源の適地は、地元の方々が一番知っています。わいた発電所の場合は住民の方々が主体なので、ともに協力し合い、土地の所有者である住民と合意形成を行えました。その結果として、開発のリードタイムが短くすんでいます」(赤石氏)

また運営でも信頼が生きる。地熱発電では温水や蒸気を使い、それを地下へ戻す。発電所のある岳の湯地区には、6軒の温泉旅館と24軒の農家があり、その温水、また地下水を旅館の温泉や農業に使っている。ふるさと熱電とわいた会のメンバーはその使い方を頻繁に合議している。発電が地下の温水や水に影響を及ぼさないか、モニタリング調査を町内の13 カ所で実施している。これまでのところ、温泉にも農業にも生活にも悪影響は発生していない。

こうした取り組みを丁寧に取り組んだ結果、地元とふるさと熱電の信頼関係が作られた。ここ数年のわいた発電所の稼働率は95%の高率だ。

「住民の皆さんとの丁寧なコミュニケーション、地元に納得いただける形で利益を還元する形を作ることが、事業の肝(きも)でした。温泉地域の方々が地域の財源として考えて事業を考えるからこそ、高い稼働率とそれよる収益が維持できています」と、赤石氏は話した。

◆「わいたモデル」を全国に、そして地域を豊かに

赤石氏は今後、事業を拡大させながら、社会を変えたい夢があるという。地元の岳の湯地区、そして小国町の地域活性化だ。そして、ここでの地熱発電のビジネスモデルを日本全国に広げることだ。この形のビジネスを「わいたモデル」と名付けている。

新型コロナ禍が落ち着き、日本各地の観光地で人が戻り始めた。しかし人気の場所がより栄えるという状況だ。補助金ではないお金を地域全体で使い、その観光地を魅力的にしなくてはいけない。そのために地熱発電を使おうという温泉地が、前にも増してふるさと熱電に学ぼうと日本中から同社を訪ねるようになっているという。実際に、「わいたモデル」を使って、地熱発電、また地域振興に使う相談を受けている

わいた会は、その収益で岳の湯温泉を整備している。地熱や温水を使った野菜の栽培、染め物への利用を行い、観光地としてより魅力を高める取り組みが進む。これを支えてふるさと熱電もビジネスを広げていく意向だ。

「将来的には上場も目指したいです。熊本の一地方から、再エネと地域振興のビジネスで株式を公開する企業が出る。いずれも日本の重要な課題であり、日本を元気にするインパクトがあると思います」と赤石氏は語った。

◆地域の「眠れる宝」 再エネ拡大のヒント

現在、エネルギー産業では再エネの拡大が期待されている。しかし、乱開発への懸念でその開発がなかなか進まない。そこで生活をしてきた地元住民や、林業、漁業、温泉などの各種組合との交渉がうまくいかない例もある。太陽光、風力では作った後の環境破壊のトラブルも数多く発生している。「わいたモデル」は、そうした地元との関係づくりに参考となるだろう。

日本には、地域ごとに「眠れる宝」がたくさんある。それに価値を与え、お金に変え、豊かにすることが課題だ。また脱炭素も社会の流れだ。複数の課題解決を行い、ビジネスで社会を変える。ふるさと熱電の、まだ小さいけれどもユニークな姿は、地熱発電の可能性を示しているように思える。

【記者通信/7月21日】岸田首相が資源外交展開 中東3カ国と多分野で連携


日本国トップによる中東諸国への資源外交の成果はどうだったのか――。岸田文雄首相は7月18日、訪問先のカタール・ドーハで記者会見を行い、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールの中東3カ国歴訪について「大変有意義だった」と振り返った。中東3カ国とは食事会などを経て会合を重ね、エネルギーを含むさまざまな分野で協力連携を確認したと成果を強調した。

会見で岸田首相は、訪問した3カ国が化石燃料の輸出に頼る現状からの脱却を図っているとした上で、「湾岸諸国と日本がそれぞれの強みを組み合わせて、中東産油国を、脱炭素エネルギーや重要鉱物を輸出するグローバル・グリーンエネルギー・ハブに変える」と、日本の持つ脱炭素技術で中東諸国の産業多角化に貢献する考えを明らかにした。また、今年11月に開かれるCOP28議長国であるUAEとは、気候行動に関する共同声明を発表。COP28の成功に向け「中東地域を将来のクリーンエネルギーや重要鉱物のグローバルな供給ハブとするビジョンを提示」し、賛同を得たとしている。G7議長国として、5月に行われた広島サミットでの成果を各国に共有し、国際社会を主導することに意欲を示した形だ。

その後の質疑応答では、地元カタールの記者から日本の石油市場戦略について問われる場面もあった。岸田首相は、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化や投資縮小による国際石油市場の先行きの不透明さを指摘。ガス・石油開発に対し、LNGや省エネ技術などへの投資「トランジション・ファイナンス」や、官民での公的資金や慈善資金と民間の投資・融資を組み合わせた「ブレンデッド・ファイナンス」を活用し、投資拡大を図っていくことが重要だと話した。

そのほか、カタールとの関係については「戦略的パートナーシップ」に格上げし、外務・防衛当局間の対話を強化することで一致。サウジアラビアとは包括的な協力枠組みである「日・サウジ・ビジョン2030」の下、エネルギー分野のほか、先端技術、観光、エンターテイメントといった広い分野での協力を確認している。

【記者通信/7月15日】電力5社に業務改善命令 関西「悪質性」中部の対応に注目


関西電力など大手電力4社グループが法人向けの電力販売でカルテルを結んでいた問題を巡り、経済産業省は14日、関西電力、中部電力ミライズ、中国電力、九州電力、九電みらいエナジーの5社に対し「業務改善命令」を出した。またこれとは別に、大手電力各社において健全な競争を阻害する問題が相次いでいることを受け、経産省は同日、大手電力など12社に対し、卸取引における内外無差別の強化など「電気事業の健全な発達を実現するための対応」を指示。業界団体の電気事業連合会には、「電気事業の健全な発達に向けた電事連対応の在り方」に関する指導を行った。

関西 は三度目の業務改善命令

業務改善命令の処分内容を見ると、とりわけ関西の行為について「悪質性」を認定したのが特徴だ。具体的には、「経営層が参加する会議において意思決定を行った後、経営層以下の各階層において主体的に中部電力・中国電力・九州電力に働きかけを継続して行ってきたことが確認されており、かかる行為の悪質性、故意性、組織性・計画性が認められる」とした。関西はこれまでも、原発立地地域からの多額の金品受領問題(2020年3月)や顧客情報の不正閲覧問題(今年4月)で業務改善命令を受けており、これで三度目になる。

中部については、「関西電力との間で行った意見・情報交換の少なくとも一部には経営層の関与が認められるほか、関西電力との間の社員同士の懇親会についてその存在を確認しにくくするような不適切な経理処理が行われていたことも確認された。したがって、かかる行為の不健全性、故意性、組織性・反復継続性も認められる」と指摘した。中部側は、公正取引委員会によるカルテル合意認定を巡り裁判で争う構えを見せていることから、今回の命令に対しどんな対応を見せるのか、注目される。

中国、九州、みらいエナジーの3社については「関西電力との間で行った本件情報交換等は、経営層が自ら行ったもののほか、経営層に対してその内容が共有されていたものもあることから、少なくとも一部には経営層の関与も認められる」などとして、「かかる行為の不健全性、故意性、組織性・反復継続性も認められる」とした。

経産省は5社に対し、再発防止のための改善計画を策定した上で、8月10日までに同計画内容や実施状況、および域外進出の状況などを報告するよう求めている。

中部だけが簡素なコメント発表

業務改善命令を受け、各社は同日、次のようなコメントを発表した。

関西「今後、指示内容を踏まえ、当社として取り組む対応について速やかに検討してまいります。当社は、監督官庁のご指導に真摯に対応するとともに、二度とこのような事態を起こさない、真にコンプライアンスを徹底できる企業へと再生できるよう、全社一丸となって、再発防止策の徹底と組織風土改革に全力で取り組むことで、社会の皆さまからの信頼回復に引き続き全力を尽くしてまいります」

中部「今後、業務改善命令の内容を精査し、適切に対応してまいります」

中国「当社としては、本命令等を受領したことを重く受け止め、今後、適切に対応してまいります。本件につきまして、お客さまをはじめ関係者の皆さまに多大なるご心配・ご迷惑をお掛けしましたことを深くお詫び申し上げます。当社としては、引き続き、本件を踏まえて策定した再発防止策を着実に実施してまいります」

九州「お客さまをはじめ関係者の皆さまに、多大なご心配とご迷惑をおかけしておりますことを深くお詫び申し上げます。当社といたしましても、二度と法令上の疑義を招くようなことがないよう、2023年4月27日に公表した独占禁止法を含む法令等遵守のための取組みを着実に実施しているところですが、この度の命令を厳粛に受け止め、これまで進めてきた取組みに加え、今後、監督官庁のご指導もいただきながら、取組みの一層の強化を図ってまいります」

一見して分かる通り、中部だけが簡素なコメントであり、カルテル認定を不服とする同社のスタンスがうかがえる。

「内外無差別の強化」にどう対応?

一方、電気事業の健全化に関しては、北海道電力、東北電力、東京電力ホールディングス、東京電力エナジーパートナー、中部電力、中部電力ミライズ、北陸電力、関西電力、中国電力、九州電力、沖縄電力、JERAの12社が対象。経産省は.対象各社の事業形態に応じ、①保有電源の内外無差別な卸取引の強化、およびこれを通じた短期から長期まで多様な期間・相手方との安定的な電力取引関係の構築、②魅力的で安定的な料金・サービスのさらなる選択肢の拡大――などについて具体的な検討を行い、7月28日までに報告するよう求めている。果たして、各社はどのような対応策を打ち出してくるのか。

また電事連に対しては、「電事連の活動の在り方について自ら検証を進め、電気事業の健全な発達に対する懸念を生じさせないよう、法令等遵守を徹底するための具体的な取り組み、および組織運営の透明性向上に向けて必要な取り組みを進める」よう指導を行った。

【論考/7月13日】サウジアラビア「悪玉」論の的外れ


2012年初から5年半の間、サウジアラビア・ダーランにてサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコに勤めたことがある。家族を米・マサチューセッツ州に残しての「出稼ぎ」で、一外国人スタッフとして本社・経営計画部門で働いた。

会社の短・長期経営計画の前提となる世界石油需給見通しを策定するチームに入り、もっぱら石油需要動向の分析・予測を担当。日本国籍保有者でサウジアラムコ本体の社員になったのは初めてだと言われ、調子に乗ってしばらくは「わが社で最優秀の日本人」を自称していた(その後、日本人社員が数人加わり、あっさり首位陥落となった)。総じて若いサウジ人エリート達を、各国から馳せ参じた外国人スタッフが補佐し、仕事は全て英語で行う(だからアラビア語を全く解さない私のような人間でも十分働ける)。小さなチームだったが、スタッフの国籍・出身地は米、英、伊、ノルウェー、エジプト、バングラデシュ、マレーシア、フィリピン、ベネズエラ、タジクスタンなど多彩だった。

視点は常に世界全体の石油需給動向に

アラムコは東京の他にも、北京、シンガポール、ロンドン、ワシントンDCなどに現地法人を置き、有能な人材を抱える。特に北京事務所の中国分析の能力の高さに、何度も舌を巻く思いがした。欧米の民間調査会社や金融機関からのレポートは随時入り、幹部級のアナリストやメジャー各社のエコノミスト達が次々にダーランを訪ねてきた。

サウジアラムコは、おそらく一般のイメージとは異なり、かなり広い視野を持つ会社だ。その視点は、常に世界全体の石油需給動向に置かれている。無論、生産調整を含め政策事項は政府決定に従い、そのため時として唐突な方針転換も行われるが、実務者レベルでの思考法はいたって常識的で、市場への順応を重視する。よく報道される「油価何ドルを死守」といった、力ずくで市場価格を操作する考えは、耳にしなかった。

サウジアラビアの原油生産行動は、市場志向の現実的な姿勢を基調とし、時としてこれが政府首脳部による突発的な方針転換によってかく乱される、この二相が交互に現れるものとして捉えるべきと思う。

これは大方の見方とは異なろう。ことサウジアラビアの原油生産調整となると、欧米および日本のメディアは、ともすれば、その意図を大袈裟に勘ぐり、身勝手な視点で批判する。増産すると「価格を下げて米・シェールオイルを潰す戦略」、減産すると「価格を吊り上げるカルテル行為」などとなって、いずれもサウジアラビア悪玉論となる。

OPECプラス減産の意味

さて、サウジアラビアが主導するOPECプラスは、昨年11月に生産目標量を引き下げ、続いて今年5月には同国をはじめとする有志8ヵ国が追加的な自主減産を行った。これは、ウクライナを侵略するロシアを利し、油価抑制に努めるバイデン米政権に反旗を翻す行為として、西側では至って評判が悪い。しかし、ここでまたサウジアラビア悪玉論に飛びつく前に、OPECプラスが何を決めてきたのか、その内容を振り返ろう。なお、以下、石油生産・需要量の実績・予想値は基本的にIEA(国際エネルギー機関)石油市場レポートに拠る。

公式に発表されるOPECプラスの生産目標量(あるいは生産枠)は産油20ヵ国を対象としている。即ち、OPEC(石油輸出国機構)加盟国のうち10ヵ国(サウジアラビア、UAE、クウェート、イラク、アルジェリア、ナイジェリア、アンゴラ、コンゴ、ガボン、赤道ギニア)および、OPEC非加盟の産油10ヵ国(ロシア、カザフスタン、オマーンアゼルバイジャン、マレーシア、スーダン、南スーダン、バーレーン、ブルネイ、メキシコ)である。

本稿でも、これら20ヵ国をOPECプラスとしよう。実際には、メキシコは2020年7月以降、生産調整に参加していないのだが、目標量は与えられているので、ここでは便宜上OPECプラスに入れる。またOPEC加盟国には他にイラン、ベネズエラ、リビアがあるが、この3ヵ国は生産調整を免除されているので、ここでもOPECプラスから外しておこう。

昨年11月、OPECプラスは生産目標総量を8月時点の日量4400万バレル弱から4200万バレル弱へと日量計・200万バレル削減した。その意図を考える上で、OPECプラスを、次にようにロシアとさらに他の2つのグループに分けてみる。

グループA:サウジアラビア、UAE、クウェート、イラク、アルジェリア、ガボン、カザフスタン、オマーン、計8ヵ国

グループB:ナイジェリア、アンゴラ、コンゴ、赤道ギニア、アゼルバイジャン、マレーシア、スーダン、南スーダン、バーレーン、ブルネイ、メキシコ、計11ヵ国

このグループ毎に、原油生産目標量と実際の生産量を見ると、以下のようになる。

表1:原油生産目標量と生産量(単位:日量・百万バレル

(注)生産量の数値はIEA Monthly Oil Market Report June 2023 に依拠。以下の図も同じ。

 確かにOPECプラスの生産目標量は昨年8月から11月に向けて、日量200万バレル削減されている。しかし昨年8月時点、実際の生産総量は目標量を日量350万バレル、下回っていた。したがって11月の目標を額面通り達成するには、8月に比して逆に日量150万バレルの増産が必要だった。一体目標は減産なのか、それとも増産なのか?

このような不可解さが生ずるのは、グループBおよびロシアに割り当てられている生産目標量が形骸化しているからだ。グループBに割り当てられた高い目標量は、実生産から著しく乖離していて意味をなさない。同グループの中では、アンゴラおよびナイジェリアが有力産油国だが、両国とも長引く投資不足などで原油生産量はここ数年低迷しており、増産余力は乏しい。一方、ロシア原油生産が目標に届かないのは、輸出も国内石油消費も概ね現状維持で推移しているからだが、そもそもウクライナ侵略開始後のロシアにとって、原油生産は第1級の戦略課題であり、他産油国との協調を優先させる余地は乏しい。

即ち、生産量を目標量に整合させる意思と能力を兼ね備えるという観点からすれば、実質的にOPECプラスとはグループAなのだ。したがって目標量の変化、実生産量の変動、そのいずれもこのグループAに絞って見るのがよい。すると表1から、昨年11月に生産目標量は8月対比・日量120万バレル削減されたが、実際の減産幅は日量50万バレルに止まっていたのが分かる(これは8月時点で不調だったカザフスタンの生産量が、11月に目標量相当まで増えたのが効いている)。注意すべきは、これはあくまで昨年8月対比の数字であり、2021年11月との対前年同月比ではグループAは日量140万バレル、OPECプラス全体でも日量100万バレル、それぞれ増産だった。

月刊エネルギーフォーラムの拙稿(2023年5月、6月号「危機の時代の国際石油情勢」)でも触れたが、明らかに、このような生産調整を「大幅減産」と称するのは誤りだ。

続いて今年5月、グループAは「有志8ヵ国」として追加的な自主減産を行った。

表2:原油生産目標量と生産量(単位:日量・百万バレル)

生産目標量は日量約120万バレル削減。これは昨年11月の削減とほぼ同量だ。即ちグループAは同規模の目標量削減を昨年11月、今年5月と二度繰り返した。何故だろうか?

今年1~4月のグループAの原油生産量は、平均すると対前年比・日量約60万バレルの増産だった。もし5月以降の追加減産が無く、4月並みの水準(日量2400万バレル強)で推移すれば2023年通年では対前年比・日量約20万バレルの減産になる計算だ。おそらくは、これが微温的と判断されたのだろう。

減産は昨年の超過供給解消を狙った動き

2022年の世界石油需給は、政府在庫の取り崩しによる市場外からの追加供給を加味すれば、日量約100万バレルの供給過剰と見る点でOPECとIEAの統計はほぼ一致する。グループBの原油生産量に変化が無く、かつ2023年の世界石油総需要の増分を米国他の非「OPECプラス」の原油増産、及び、原油由来以外の石油供給(NGL、バイオ燃料等)増によって大方賄われてしまえば、昨年積み上がった過剰供給の解消はもっぱらグループAおよびロシアの原油減産に任される。ロシアは本年3月以降、2月時点の生産量を基準とした日量50万バレルの減産を表明しているが、その2月の生産量は日量約1000万バレルと高水準に引き上げられていた。グループAによる対前年比・日量約20万バレルの減産では供給過剰解消に不足と考えたとしても不思議はない。

そこで今年5月の減産第2弾となる。グループAの5月生産量は概ね目標量の削減幅に合わせて落ちており、そのまま推移すれば2023年通年では、対前年比・日量約80万バレルの減産となる。ロシアの減産を対前年比・日量約20万バレルとすると、減産幅は計・日量100万バレルになる。一方、6月時点でのIEA見通しに基づけば、今年の世界石油需要増は対前年比・日量250万バレル弱に達するが、(イラン、ベネズエラおよびリビア原油生産量を前年並みとすれば)OPECプラス原油を除く供給増は日量約200万バレルに止まる。ここでの不足量日量約50万バレルを加えると、2023年通年の世界石油需給バランスは日量約150万バレルの需要超過となる。より慎重に需要増の減速を見込むとすれば、概ね昨年の超過供給解消を狙った動きと見なし得る。

以上、昨年11月および今年5月のOPECプラス原油減産は、基本的に市場志向的な動きというのが筆者の見方である。喧伝されるサウジアラビア悪玉論は、さまざまな意味で的外れだ。

ただし、6月初めのOPECプラス協議の際に表明されたサウジアラビアの単独追加減産(日量100万バレル)には、この市場志向的な基調から逸脱する衝動的な動きの出現を感じさせられる。この単独減産は7月に続いて8月も行われ、8月にはロシアも原油輸出を日量50万バレル削減する方針。これは一見すると協調行動に映るが、むしろ両国の利害対立の表面化の兆しと捉えるべきではないかと思う。これらの点に関しては、稿を改めて考えたい。

(なお本稿は私見を述べるもので、筆者の所属する組織とは無関係である)

小山正篤 石油市場アナリス

【記者通信/7月7日】「現実路線」の電力改革案 エネチェンジが発表


電力システム改革に対するエネチェンジの主張が「現実路線」に近づいてきた。同社は7月6日、「未来志向の電力システム改革の実現に向けた当社見解」を発表した。電力産業はGX(グリーントランスフォーメーション)において中心的な役割を担う重要産業であり、旧一般電気事業者による一連の不祥事に対する対応は未来志向で行うべきだとして、①送配電部門、②発電部門、③小売部門――の3点で、法的分離の厳格化や内外無差別の徹底、規制料金の撤廃などを求める改革案を提示。発表に先立つ5日には、同見解を資源エネルギー庁に提出しており、今後は国会議員にも説明を行っていく構えだ。

送配電部門は厳格な法的分離で

送配電部門の改革案では、所有権分離を「長期的には有効な選択肢」としたものの、憲法29条の財産権に抵触する恐れがあることや制度設計に時間を要することなどから、「厳格な法的分離(ITO)」を求めた。具体的には、各部門との人事交流時の監視強化、建物・ITシステムなどの物理的分離、罰則強化(直接罰への対象拡大)、監視強化(通報窓口設置、外部人材からのチェック機能新設、内部監査機能の強化)といった人・技術・物・資金面の独立性、自立性の強化と、インサイダー取引規制のように情報が流出することを前提とした違反者への罰則規定を整備すべきだとした。

電力業界の一連の不祥事を受けて、内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」や立憲民主党と日本維新の会は、所有権分離を求める提言を西村康稔経済産業相に提出している。こうした中、ITOにとどめたエネチェンジの見解は早期に実現可能な改革案で、「さまざまな事業者の声を集めて代弁」(同社の城口洋平CEO)したものだという。同社はかねて所有権分離の必要性を強調していたことから、トーンダウンした格好といえよう。

内外部差別は指針・法制化で対応

発電部門では内外無差別について、旧一電の自主的コミットメントではなく、ガイドラインもしくは法制化を進めるべきだとした。内外無差別の徹底は利益最大化という経営原則と相反する場合があるため、自主的コミットメントでは実効性に懸念が残るが、「コンプライアンス違反」となれば発電事業者も対応せざるを得ないという理由からだ。

また来年開始の容量市場で、発電部門で優越的な地位にある旧一電の競争力が強化される懸念に対しては、旧一電の部門ごとの会計の透明性を担保し、電力ガス取引監視等委員会などが小売部門の競争条件に不当な影響がないか監査する必要性を記述した。

規制料金撤廃の早期検討を

小売部門では特に内外無差別の徹底を条件とした上で、規制料金撤廃の早期検討を求めた。撤廃時には需要家への周知徹底策として、固定価格買い取り制度(FIT)の買い取り期間満了時の通知方法と同様に、契約可能な小売事業者の提示など切り替え情報の提供が必須だとしている。

エネチェンジはこの見解をエネ庁だけでなく、GXや電力システム改革に関心を持つ政治家などにも提出する構え。城口氏は発表に先駆けて行われたメディア向け勉強会で「今後、小委員会などで参考資料として使われるようになればいい」と意図を語った。事業者側の意見として、今後の議論にどう生かされるのか注視したい。

【記者通信/7月4日】エネ庁主要人事の全容 「化石カラー」消した組織改編


今夏の経済産業省、環境省の主要人事が出揃った。注目は、資源エネルギー庁の組織改編だ。エネルギーの安定供給とカーボンニュートラル(CN)実現の両立に向け、省エネルギー・新エネルギー部、そして資源・燃料部の課室体制を見直し、7月4日付けで施行した。特に資燃部は、CNに向けたエネルギー転換の必要性から大幅な変更となる。「石油も天然ガスも石炭も今回、資源エネルギー庁、経産省からは課の名前としてはなくなる。時代の大きな変化を感じている」(西村康稔経産相)。「エネルギー・金属鉱物資源機構」へ名称変更したJOGMECに続き、エネ庁の部署名からも「化石燃料カラー」がほぼ消えることとなった。

GX時代を見据えた新たな布陣

では、新生資燃部の布陣とは――。

まず政策課の下に、GX(グリーントランスフォーメーション)を見据えた資源外交戦略を担う「国際資源戦略室」を新設した。

石油・天然ガス課は「資源開発課」に改称し、非化石を含めた燃料の上流開発を推進する。また、石油精製備蓄課や石油流通課の名称からも「石油」を抜いた上で統合し、「燃料供給基盤整備課」として、合成燃料やSAF(持続可能な航空燃料)などを含めた燃料の供給体制を担当する。同課には、これら次世代の燃料の安定供給を図る「燃料流通政策室」も設置した。

そして石炭課は、鉱物資源課と統合して「鉱物資源課」に。課の中には、石炭関連政策を実施する主体として「石炭政策室」を置いた。

CCS(CO2回収・貯留)やカーボンリサイクルの推進は、新設の「燃料環境適合利用推進課」が担う。特にCCSに特化した事業化・法制化を行う部署として「CCS政策室」も新たに整備した。

他方、省新部には、水素・アンモニアに特化して需給両面の政策を担う「水素・アンモニア課」を新設した。

経産次官に飯田氏 エネ庁長官は村瀬氏

エネ庁を中心に、経産省の主要人事を見てみよう。※( )内のポストは前職

前経産事務次官の多田明弘氏(1986年入省)は退任し、その後任で、飯田祐二氏(88年、経済産業政策局長)が新たに次官に就任した。エネ庁長官として、政策の大きな節目となったGX関連法成立に尽力した保坂伸氏(87年)は、経済産業審議官のポストに移った。

南亮氏(92年、首席国際カーボンニュートラル政策統括調整官)が総括審議官に、山下隆一氏(89年、製造産業局長)が経済産業政策局長に就く。

そしてGX政策の中枢を担う「GX推進機構」の24年度設立に向け、龍崎孝嗣氏(94年、審議官・経済産業政策局担当)が首席GX機構設立準備政策統括調整官を担う。

保坂氏の後任としてエネ庁長官に就任したのは、村瀬佳史氏(90年、内閣府政策統括官)だ。なお、村瀬氏は2013年に電力・ガス事業部政策課長、電力小売り全面自由化後の2016年6月から4年間は電力・ガス事業部長を務めた。GXだけでなく、電力システム改革の在り方が改めて問われる局面で、どのように政策を主導していくのか、注目される。

エネ庁次長の小澤典明氏(89年)は退任し、後任は松山泰浩氏(92年、電力・ガス事業部長)が務める。松山氏は、首席最終処分政策統括調整官、首席エネルギー・地域政策統括調整官も兼任する。電ガ部長には、2019年に原子力立地・核燃料サイクル産業課長を務めた久米孝氏(94年、大臣官房総務課長)が就いた。

経産省・エネ庁はこうした新体制で、まずは5月末までに成立したGX関連法の実施のほか、国のエネルギー基本計画の改定に向けた議論、東京電力の第五次総合特別事業計画の策定などに取り組むことになる。

主要ポスト人事(入省年次含む) 女性幹部を積極登用

大幅な組織変更となったエネ庁の主要ポスト人事は次の通り(敬称略)。

<長官官房>

総務課長=河野太志(96年、電ガ部政策課長)

大臣官房参事官(総合エネルギー戦略担当)=遠藤量太(01年、電ガ部原子力政策課長)

総務課戦略企画室長=小髙篤志(05年、大臣官房総務課政策企画委員)

国際課長=白井俊行(99年、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局参事官)

<資燃部>

政策課長=貴田仁郎(97年、電力・ガス事業部原子力立地・核燃料サイクル産業課長)

資源開発課長=長谷川裕也(00年、長官官房国際課長)

燃料供給基盤整備課長=永井岳彦(98年、資燃部石油流通課長)

燃料流通政策室長=日置純子(99年、商務情報政策局情報経済課デジタル取引環境整備室長)

燃料環境適合利用推進課長=羽田由美子(99年、資燃部石炭課長)

<省新部>

政策課長=稲邑拓馬(98年、省新部省エネルギー課長)

省エネルギー課長=木村拓也(00年、通商政策局通商機構部参事官)

水素・アンモニア課長=日野由香里(03年、省新部新エネルギーシステム課長)

<電ガ部>

政策課長=曳野潔(98年、前省新部政策課長)

電力産業・市場室長=筑紫正宏(04年、内閣官房新しい資本主義実現本部事務局企画官)

原子力政策課長=吉瀬周作(03年、電ガ部電力産業・市場室長)

原子力立地・核燃料サイクル産業課長=皆川重治(01年、電ガ部原子力政策課原子力基盤室長)