今年5月から、電気料金が段階的に値上がりする。再生可能エネルギー賦課金の上昇と国による電気料金の負担軽減措置の終了が主な原因だ。また電力小売事業者によっては、容量市場の拠出金の支払い額を電気料金に転嫁するところもあり、その場合、利用者の負担額はさらに増えることに。標準家庭の平均的な使用量で月2000円以上の値上がりになるとみられる。加えて託送料金についても、レベニューキャップの導入という制度変更によって単価が上昇し、小売料金を押し上げるケースも発生してくる。エネルギー資源高や円安の進行もあいまって、需要期の夏場に電気料金の大幅上昇による利用者の負担増が顕在化する公算が大きく、業界関係者の一部では政治問題化することへの懸念も出始めている。

再エネ賦課金上昇と補助廃止でkW時5.59円上昇
まず再エネ賦課金については、23年度(23年5月~24年4月)は1kW時当たり1.4円と低水準だったが、24年度は同3.49円と2.09円上昇する。電力市場価格の低迷で回避可能費用が減少したためだ。22年度の3.45円を上回り、過去最高水準となる。また、国による電気料金補助については、現在1kW時当たり3.5円となっているが、これが5月分で1.8円に減少し、6月分から廃止される。これらの結果、6月以降の電気料金は4月までと比べ、月間使用量300kW時の標準家庭で1680円ほど値上がる計算だ。
これに輪を掛けそうのが、電力小売事業者による容量拠出金の支払いである。20年の初回入札で約定した1億6769万kW、金額にして約1.6兆円に上る負担の支払いが今年度から始まるのだ。朝日新聞社が新電力116社(回答75社)を対象に行った調査報告書によると、容量拠出金についてはkW時当たり2~4円未満が56社となったほか、41社が電気料金に反映させる方向であることが分かった。仮に平均値の3円が上乗せされると、標準家庭で900円程度の負担増になる。
なお、電気事業連会では、朝日新聞が4月14日付朝刊1面トップで「大手電力との不公平感」を強調する記事を掲載したことに対し、「日本全体の電力の安定供給は、電力の消費者に等しくメリットがあることから、容量市場における供給力(kW)の確保に係る費用を日本全体で負担することは消費者の皆さまにとって公平であり、また、供給力(kW)を中長期的に確保する仕組みは、電気料金の安定化など価格高騰リスクの抑制にもつながるものと考えている」との見解を公表している。
このほか、大手電力会社の燃料調達費も3月ごろからのエネルギー資源(原油、LNG、石炭)価格上昇や円安加速によって増加が見込まれている。これは燃料費調整条項によって4~6カ月後の電気料金に反映されるため、夏以降の電気料金に影響を与えることになる。
夏場の電気料金明細を見て驚くケースも
「エアコンなどで電力を多く使う夏場に、電気料金の上昇が顕在化するのは確実。オール電化や大家族の家庭では、前年同期に比べ数千円規模のレベルで負担が増える可能性もある。電気料金制度に関心のない家庭だと、7~8月の料金明細を見てびっくり、という展開になりそう。それで一部のマスコミや消費者団体、政治家が騒いだりすると、負担軽減措置の復活とかおかしな矢が飛んできかねない。そうならないためにも、今のうちから小売事業者などによる需要家への丁寧な説明が必要だろう」(大手電力会社関係者)
ちなみに、ガス料金についても、国の補助金が現在の1㎥当たり15円が5月に7.5円に縮小し、それ以降は廃止される。月平均30㎥を使用する標準家庭で600円程度の負担増となるが、ガスについては夏場の使用量が少なく冬場に増えるため、補助金廃止の影響が顕在化するのは今年の冬になりそうだ。
今後も料金上昇傾向は続く!? 負担抑制は省エネ推進で
「さまざまな物価が上昇する中で、エネルギー価格も例外ではないわけだが、エネルギーの場合は省エネ化を進めることで、支払い額を抑えることができる。また、地球温暖化対策にも貢献することになる。その意味で、小売価格低減のために国の税金を注ぎ込むことは、もう止めたほうがいい。これは、人気取りの政治判断で継続が決まった燃料油補助についても当然充てはまる。市場を通じた価格形成メカニズムを歪めるだけだ」(エネルギー市場関係者)
小売り事業の全面自由化をはじめとする電力システム改革が始まった当初は、競争促進による料金の低廉化が狙いの一つにあったが、ふたを開けてみれば、再エネの大量導入や原発稼働停止の長期化、火力発電の維持コスト・燃料費の上昇など複数の要因によって、価格の上昇傾向が鮮明になっている。2023年度に導入された「託送料金のレベニューキャップ」も、小売価格の押し上げ要因になるとみられている。「今後も、世界的なエネルギー資源価格の上昇や、カーボンニュートラル化への対応、安定供給システムの維持などを背景に、電力事業におけるコスト増加は避けられそうもない」(前出の市場関係者)。今となっては、電気料金が安い時代の到来は、夢のまた夢なのか。