【記者通信/3月28日】アンモニア火力の最前線に迫る JERA碧南の現地ルポ


火力発電で使う燃料の2割を、石炭から燃やしてもCO2を出さないアンモニアに置き換えて発電する――。国内火力発電最大手のJERAは、碧南火力発電所(愛知県碧南市)で3月末以降に、そんな実証試験に乗り出す。商用の石炭火力発電所で行う大規模試験は世界初で、CO2を排出しない「ゼロエミッション火力発電」の実現に向けた大きな一歩となる。試験の準備が進む同発電所を歩き、2027~28年をめどに商用運転に移行するアンモニア火力発電の最前線に迫った。

碧南火力発電所に新設したアンモニアの貯蔵タンク

◆4号機100万kWの実証を公開

名古屋市から南へ約40kmに位置する臨海部へバスで向かうと、巨大な建物が姿を現した。愛知県の約半分の電力をつくる総出力410万kWのJERĄ碧南火力発電所だ。その一端を担う100万kWの4号機で進めるのが今回の試みで、実証に先立つ13日に試験設備を報道陣に公開した。

発電所に到着した記者たちは、アンモニア漏えい時の避難や安全確保の方法について説明を受けた上で、防護用のヘルメットと眼鏡を装着。その後、高さがビルの20階以上に相当する4号機のボイラーへ向かった。同機の屋上から一望すると、名古屋ドーム40個分に匹敵する広大な敷地に多様な設備が整然と並んでいた。海に面する敷地に目を移すと、燃料の運搬船を受け入れる桟橋や運ばれた石炭をためる貯炭場も確認できた。

船で荷揚げした液体のアンモニアは、パイプラインを経由して専用のタンクに貯蔵。試験では、そのアンモニアを気化し、石炭を燃やすボイラーに差し込まれたバーナー(燃焼装置)で燃やす。そこで生まれた熱で水を沸かして蒸気に変え、タービン発電機を高速で回して電気をつくるという仕組みだ。

アンモニアを燃焼するためのバーナー

◆新型バーナーでアンモニア対応

バーナーは48本。重工業大手のIHIが開発した新型ノズルを取り付けることで、アンモニアを燃料として利用できるようにした。バーナーがある場所に潜入し、「のぞき窓」に目を向けると、オレンジ色の炎を観察できた。ボイラー内部は、約1500℃に達するという。

バーナーの「のぞき窓」から見える炎

さらに、新設された2000㎥(約1300t)という規模のアンモニア貯蔵タンクなども見学。蒸気を送り込む巨大なタービンを間近に見ると、想像を上回る大きさに圧倒された。

実証に向けては、約4万tのアンモニアを海外から調達。6月まで進める試験では、「安定して燃焼できるか」「電力需要の変化に応じて燃焼を調整できるか」などをテーマに検証を進める計画だ。

両社がアンモニア火力発電に熱い視線を注ぐ理由は、既存の技術や設備を一部改良するだけでアンモニアを利用できることに加えて、その扱いにも慣れているからだ。技術面では、アンモニアを燃やした際に排出される有害物の窒素酸化物(NOx)を高度に制御する対応が求められるが、そうした課題をクリアするために必要な技術を磨いてきた。IHIカーボンソリューションSBU副SBU長の高野伸一氏は「試行錯誤してアンモニアの注入方法を工夫した」と胸を張る。具体的には、アンモニアを空気が少ない状態で燃やした後に燃え残りを燃焼させる工夫で、NOxの発生を抑制できるようにしたという。

JERAが試験の後に見据えるのが、石炭からアンモニアへ置き換える転換率を50%以上に高めるという目標だ。将来的には、100%まで高めるための課題も探りたい考えだ。谷川勝哉・碧南火力発電所長は「確立した技術を国内外の火力発電に転用し、世界の脱炭素化に貢献したい」と意欲を示した。

◆アンモニア燃料の安定確保が課題

脱炭素化という潮流を見据え、2050年に自社事業から排出されるCO2をゼロにすると宣言したJERĄ。その一環でアンモニア火力発電の普及という野心的目標に挑む同社だが、その達成に向けた道のりは決して平たんではない。アンモニアへの転換率を段階的に高めようとすると、膨大な量のアンモニアを確保する必要があるからだ。

JERAによると、4号機で1年間を通じて20%の燃料をアンモニアに置き換えた場合、年間約50万tが必要となるが、日本が輸入するアンモニアの量は同20万t程度にしか過ぎない。アンモニアへの転換率を引き上げ、確立した発電技術を国内外の発電所へ水平展開しようとすると、必要な調達量はさらに増大してしまう。

碧南火力発電所を一望できる4号機の屋上

そこでJERAは、グローバル規模でクリーンなアンモニアを低コストで安定確保するためのサプライチェーン(供給網)を構築しようと、仲間づくりに注力。すでにノルウェーや米国に本社を置くアンモニア製造大手との間で協業に向けた検討を始めたほか、燃料の輸送体制を巡って国内海運大手の日本郵船や商船三井とも協議を進めている。

◆再エネと組み合わせ脱炭素化促す

そもそも火力発電は、日本の電源構成の7割以上を占める重要な発電法のひとつで、燃料の投入量を変化させることで出力を制御できるという強みを持つ。気象条件によって発電量が時々刻々と変わる太陽光や風力といった再生可能エネルギーで計画通り発電できない場合、発電量を柔軟に調整しやすい火力発電の出番が出てくる。JERĄ脱炭素推進室の高橋賢司室長は「仮に2030年に30~40%の再エネを導入した場合、それを補完する調整力が必要となる。再エネとゼロエミッション火力を組み合わせ、2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量が実質ゼロ)を目指したい」と意気込む。

◆「グリーンウォッシュ」の誤解払拭できるか

脱炭素化とエネルギーの安定供給という相反する課題に取り組むためには、選択肢を広げる「現実的なアプローチ」が求められる。そうした観点からJERAは、ゼロエミッション火力と再エネの相互補完で両課題を解決するシナリオを描いているが、アンモニア火力発電を誤解して受け止めるケースも少なくない。アンモニアと石炭の「混焼」というイメージが一人歩きし、石炭からクリーンなアンモニアに切り替えてCO2を減らす「転換」の真意が十分に伝わっていないという。環境配慮を実態以上に見せかける「グリーンウォッシュ」といった声まで浮上している状況だ。

日本勢が技術開発で先行するアンモニア火力発電を「脱炭素化とエネルギー安定供給を両立できる有効な手段」として実用化し、世界に認知させることができるか。アンモニアの燃料利用は未開拓の領域だけに、有効性と経済性を証明する中長期の道のりで根気が試されそうだ。

【記者通信/3月27日】中国企業ロゴ問題の波紋 国民・玉木代表が影響懸念


再生可能エネルギー分野の規制改革について議論する内閣府のタスクフォースに提出された民間構成員の資料に、中国企業のロゴが埋まっていた問題が波紋を広げている。国民民主党の玉木雄一郎代表は26日に開いた定例記者会見でこの問題の背後に隠された動きを問題視し、政府全体による徹底調査を求める考えを表明。日本のエネルギー政策を巡る議論に他国が干渉するリスクに目を向ける必要性も強調した。野党も巻き込み、全容解明に迫る機運が高まりそうだ。

記者会見で中国企業のロゴ表示問題を問題視する国民民主党の玉木代表(3月26日)

玉木代表「国家安全保障上の問題と認識」

波紋を呼んでいるのは、22日開催の再エネタスクフォース会議に提出された「構成員提言の参考資料集」の表紙以外の全ページに、中国の電力会社「国家電網公司」のロゴが表示されるという問題。これは、公益財団法人「自然エネルギー財団」の大林ミカ事業局長が送付した資料だ。同様のロゴは、昨年12月に開かれた再エネタスクフォース会議のほか、経済産業省と金融庁の検討会議に出された資料の一部にも入っていた。

会見で玉木代表は「ロゴが入っているかどうかの問題ではない。エネルギー安全保障、そして経済安全保障、もっと言うと国家安全保障の問題と認識している」とした上で、「わが国の大切なエネルギー政策を決める際に外国企業や外国政府の影響が及んでいるのではないか」と指摘。「安全保障に関わる極めて重大な問題なので、政府全体による徹底調査を求めたい」と、全容解明に向けた調査で岸田文雄首相がリーダーシップを発揮することも求めた。

さらに玉木代表は、構成員の人選を含めた重要会議の運営にも言及。「役所が選んだのか、政治家のプッシュで入ったのかについても、明らかにする必要がある」との認識も示した。

自然エネ財団「中国企業と関係なし」

再エネタスクフォースを担当する内閣府の規制改革推進室によると、自然エネルギー財団が2016~19年に開催された複数のシンポジウムなどに中国企業の関係者が登壇。大林氏がその資料を別の機会に引用したところ、普段使っている編集ソフト「パワーポイント」のテンプレートにロゴが残り、それが再エネタスクフォース会議に備えて作成した資料にも反映されたという。

大林氏から資料を受け取った内閣府は、ロゴの表示に気付かないまま、再エネタスクフォース会議で公表。外部からの指摘を受けて23日にロゴの表示を把握し、同日にX(旧ツイッター)の公式アカウントで問題を認めた。

ロゴの表示問題をめぐって憶測が飛び交う中、26日には自然エネルギー財団が、ロゴ表示に至った経緯の詳細をウェブサイトで報告。それによると、大林氏は2016年12月、国際送電網の構築に関する各国機関の提案を比較検討するための資料を作成。同年5月に開かれた同財団主催のワークショップで用いられた国家電網公司の資料を改変する過程で、同社の白いロゴが白いスライドに隠されて削除されなかった。それが、今回の問題につながったという。ロゴマークについては、「セキュリティー上のスタンプや『透かし』ではなく、白地の背景の上に置かれたために見えづらくなっていた白いロゴ」と説明した。

自然エネルギー財団は説明で、再エネタスクフォースに提出した資料の内容は中国企業の当初の資料と「まったく関係がない」とも釈明した。今後は再発防止のため、資料作成時のチェック体制を強化したいとしている。

セキュリティー・クリアランスの観点からも問題視

自然エネルギー財団は、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が2011年8月に設立。その翌月には、アジア各地に存在する再生可能エネルギーを各国が相互に活用できるようにする国際送電網「アジアスーパーグリッド(ASG)」の構想を発表している。

玉木代表はASG構想にも言及し、「仮に電力不足になった時に中国やロシアから電力を(ASG構想の)送電網を使って輸入していくことになると、電力の中ロ依存が高まっていくということになるので、真の意味でのエネルギーの自給体制からは程遠いものになってしまう」と危惧。再エネの普及のために電気料金に上乗せする「賦課金」も視野に入れ、「国民負担を求める(賦課金の)話が外国勢力の影響によって決まっているということはあってはならない」との認識を示した。

加えて、経済安全保障上の機密を扱う人を認定する「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)制度」の法案を巡る審議が進む中、適格性評価という観点から政府の議論に関与する組織や個人をチェックする問題意識を高める必要性も説いた。国のエネルギー基本計画を見直す議論の本番を控える中、ロゴ表示問題を巡る調査の行方次第で、エネ政策全体の論議に波及する可能性もある。

【目安箱/3月26日】内閣府「河野委員会」の珍事 提出資料に中国企業マーク


内閣府の「再エネ再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」で、奇妙な出来事があった。3月22日に30回会合がオンラインで開催され、公開された構成員提出の資料に、中国の国営企業「国家電網公司」のロゴが入っていたのだ。現時点で資料は閲覧できない状況になっている。

再エネT Fの公文書右上に中国の国営企業「国家電網公司」のスタンプ(3月23日午前)

別ページのアップ

「中国国家電網公司」のスタンプが公文書にー事件の経緯

通常、政府の委員会は開催の当日に、議事録や資料が経産省、財務省などの経済官庁系では公開される3月22日は金曜日で同日午後にタスクフォース(TF)は開催された。同日中にネットに掲載されたらしい。

電子文書ではスタンプを入れられる。今回の文書では、こうした場合によく使われる「Adobeアクロバット」では表示されない。しかしAppleのPCなどでは透かしを確認することができる。おそらく官僚も作成者も、前者のみで確認をしたのだろう。上記資料の複数のページに掲載されていた。

資料は「構成員提言の参考資料集(構成員 提出資料)」という名目で公開されていた。内閣府規制改革担当室は土曜日にもかかわらず、SNSのX上で3月23日に説明を公表した。

「内閣府において事実確認を行ったところ、こちらは同タスクフォースの民間構成員の大林ミカ氏により提出された資料でありました。事務局より大林氏に確認したところ、大林氏が事業局長を務める自然エネルギー財団の数年前のシンポジウムに中国の当該企業関係者が登壇した際の資料の一部を使用したところ、テンプレートにロゴが残ってしまっていたとのことでした。なお、自然エネルギー財団と中国政府・企業とは人的・資本的な関係はないとのことです。念のため内閣府でも確認を行います。」

河野氏は3月24日に次のようにXで発言した。

「先ほど報告がありました。チェック体制の不備でお騒がせしたことについて、今後は対策を強化し同じようなことが起きないよう徹底していきます。」

また、大林氏が金融庁や経産省審議会でのヒアリングの際に提出した資料にも、この会社のスタンプがあった。

ちなみに中国国家電網公司は、中国の東北部、河北、華中地域の送配電を担う会社だ。

通称「河野太郎委員会」が中国と関係?

これは異常な状況だ。再エネTFは、河野太郎氏が内閣府特命担当大臣(行財政改革担当、大規制改革担当、及び国家公務員制度担当大臣)になった2020年(令和2年)に作った。一度離任した後に2022年に再度、内閣府特命担当大臣(行財政改革担当、デジタル化担当)に再任され、また動かした委員会だ。河野氏主導で作られたため、通称「河野太郎委員会」と呼ばれる。

構成員の大林ミカ氏は、再エネ・反原発の活動家だ。エネルギー研究者の高木仁三郎氏が運営した原子力資料情報室に在籍。そして飯田哲也氏の運営する環境エネルギー政策研究所(ISEP)に移り、孫正義氏が東日本大震災の後に作った自然エネルギー財団の事務局長を務める。強い反原発の思想の人だ。「反政府の立場の人を入れて、経産省と電力会社を攻撃する河野氏の行動はおかしい」(経産省OB)との意見もある。

そして、この再エネT Fは、再エネを過度に重視して、電力会社に敵対する姿勢を示し、エネルギー関係者の評判は悪かった。さらに太陽光を増やし、発電設備を生産する中国に肩入れする言動があった。これは河野太郎氏のこれまでの、反原発や電力業界への敵対姿勢を補強するものだった。

孫正義氏は、今はそれほど熱心ではないが2011年ごろから、アジアを電力網で結ぶアジアスーパーグリッド構想を提唱した。それにこの事件で出てくる中国国家電網が協力し、「Global Energy Interconnection Development and Cooperation Organization (GEIDCO)”」を作った。つまり大林氏は、中国の国営企業と密接に繋がっているとみられている。

中国側が日本のエネルギー政策に関与の疑惑

そこでこの奇妙な行動だ。わが国のエネルギー政策に一定の影響力を持つ政府部内組織の肩書きのある人物が、中国企業と関係を持ち、その作成した資料を使ってそこに利益をもたらす活動をしている。日本の政策に中国側が関与しようとしていると考えることもできよう。

河野氏は、父親の河野洋平氏と並んで、移民受け入れなど、親中国的な行動を取り続けてきた。その点で、中国の意向をエネルギー政策に反映させようとしているのかという疑惑が広がる。ネット上では、保守派を中心に、この出来事は大きな批判を集めている。

決して小さな間違いの問題ではない。日本は経済安全保障を強化して、中国への技術流出、企業の買収防衛などの政策を行なっている最中だ。問題の全容解明と、河野氏、内閣府の説明が求められる。

【メディア論評/3月25日】能登半島地震でのエネルギーインフラ巡る報道<下>


年明け早々に能登半島地震が起こり、これに関連してインフラ供給、原発関連についての報道が主に下記のような点について行われてきた。

(1)今回の地震そのものの特異性、大きな被害を受けたインフラの復旧の問題

(2)北陸電力志賀原発の被害と対応

(3)改めて課題として浮き彫りになった屋内退避、避難計画の問題

(4)東京電力柏崎刈羽原発の今後

(1)について前回「~復旧編~」として触れた。(2)(3)(4)について今回「~再稼働と屋内退避・避難計画編~」として、触れていく。

(2)(3)(4)北陸電力志賀原発の被害と対応、東京電力柏崎刈羽原発の今後 ~屋内退避、避難計画問題を含めて~

北陸電力志賀原発の被害と対応、東京電力柏崎刈羽原発の今後について、橘川武郎・国際大学学長は週刊ダイヤモンドのインタビューで次のように述べる。

◎週刊ダイヤモンド1月27日号

橘川武郎・国際大学学長インタビュー(抜粋)〈地震は東電・柏崎刈羽原発に影響大〉〈再稼働の鍵は東北電の協力!?〉〈 (北陸電力の供給についていえば)設備が故障した石川県の七尾大田火力発電所と設備補修のために一部停止中の富山県の富山新港火力発電所の影響はクライシスだった。志賀原発は(もともと)動いていない。北陸電力の供給アビリティという点ではだいぶ下がっていますから、同社としては大きな問題。メディアは若干、「志賀原発で何かあったはずだ」ということを言い過ぎです。……それよりも柏崎刈羽原発への影響に気づいていないメディアが多いのではないでしょうか。去年の12月に運転禁止令が解除され、再稼働について地元了解を得られるのかどうかが焦点でした。端的に言うと新潟県の了解です。花角英世知事がどういう態度に出るかが一番の焦点となっていた中で今回の地震が起きました。知事は「信を問う」という言葉をいつも使っていて、確実にやると言っているわけではないですが、出直し知事選挙が想定に入っていたわけです。こちらの方に影響があるんじゃないでしょうか。あの地震が原発に与えた影響で一番大きいのは柏崎刈羽原発だと思っています。〉〈新潟県が供給エリアの東北電力に避難計画の協力を得ることが鍵〉〈いずれにしても新潟県民からすると、(新潟県は)東電HDの供給エリアじゃないので、「東電HDが関わる(原発事故があった場合の)避難計画は大丈夫か」という不信感が今でもある。地元紙の論調を見ていても反原発ではなく反東京。避難計画自体は自治体が作りますが、電力会社はそれを支援することになっているので、「東北電力も一緒にやりますよ」とお墨付きをもらえるかが勝負どころになるのではないでしょうか。〉

(柏崎刈羽原発の運営主体に東北電力に参加してもらう案はどうでしょうか、と問われて)

〈それはないです。東電HDが運営主体にいる限り、柏崎刈羽原発で得た収入を福島(第一原発事故関連の補償など)に持っていかれてしまう可能性があります。東北電力の株主にとても受け入れられません。東電HDが完全売却した場合、つまり柏崎刈羽原発を売却したお金は福島に回すとなったらうまく資本関係が切れますので、その時点では東北電力の資本参加は十分あり得ますけど。 でも避難計画のところだけ東北電力が援助するのも変な話なので、私が両社の経営者ならばこう考えます。(再稼働を目指している) 柏崎刈羽原発6、7号機の電力をこれまでの枠組みだと東電HDエリアに送るわけですけど、一部を新潟県内に送って何らかのメリットをもたらす。例えば電気代を下げるとか。国際大学もそうですが、東北電力エリアでは電気代がとても上がって困っています。東北電力の女川原発2号機が再稼働したぐらいでは下がらない。柏崎刈羽原発が再稼働すればかなりの電力が出ますので、むしろ出力制御の事態となれば困る。なので、もっとすごいメリットをもたらす方法としては、原発の電力で水素を作る。そして新潟県のGXプロジェクトへ地元還元するとか。このような「東北電力は資本参加しないけど協力する」ための枠組みが、もしかしたら必要なんじゃないでしょうか。〉

震災早々、ある経産省幹部は、上記の橘川氏のインタビューとも通じるが、 「(活断層の規模など)状況が大きく変わった志賀原発の再稼働は当面厳しいだろう。(東電経営問題に直結する)柏崎刈羽原発の再稼働について地域の住民に受け入れられるか、それへの影響が心配」と述べていた。

◆北陸電力志賀原発

北陸電力は、志賀原発敷地内の活断層の疑いについて、説明を尽くしてその主張が認められ、次のステップにという段階で今回の地震に見舞われた。

◎読売新聞1月29日付〈志賀原発審査 長期化へ〉〈活断層連動 想定超えか〉〈……これから周辺の活断層に関する審査を進める矢先に大地震が起きた。北陸電が準備した審査資料では、能登半島北部に連なる計約96キロの海底活断層が連動する可能性を説明していた。これに対し、政府の地震調査委員会は、今回の地震では、海底活断層が連動するなどして約150キロの岩盤が動いた可能性を指摘。活断層が長ければ想定される地震の規模は大きくなり、審査資料の根拠が揺らぎかねない。……規制委の山中伸介委員長は、活断層について国などの調査を待つ必要があるとした上で「恐らく年単位の時間がかかる。審査はそれ以上の時間がかかる」との見通しを示す。……〉

参照=山中伸介・原子力規制委員会委員長の1月10日記者会見 (抜粋)

記者:能登半島の地震について、規制委員会、規制庁に対して、志賀を含め他の所にも反映すべき知見がないか検討するよう指示をされたと思いますが、どれぐらいのスケジュール感で進めてほしいとお考えでしょうか。

山中氏:地震について言いますと、やはり1年オーダーの時間をかけて新しい知見かどうかを地震関連の研究者あるいは国の調査機関できちっと調べていただいて、われわれとしては志賀原子力発電所の審査会合などと並行しながら分析をしていくことになろうかと思っております

記者:やはりそうすると、今回の能登地震を受けての地震の分析、例えば国の地震本部の見解とかそういったものが一通りまとまらなければ、いま進行中の志賀2号機の審査会合というのも進まない。要は今回の地震が起こったことによる影響は避けられないということですか。

山中氏:そういうふうに考えております。

(参考=北陸電力の情報発信)

記者:今回、志賀原発の状況に関しては、北陸電力の情報発信の在り方はどうなのかという疑問を持たれたのですが、そのあたり山中委員長はどう受け止めていますか。

山中氏:緊急時の情報発信というのは、これは本当に非常に難しいところだと思っておりますし、情報共有の在り方、これは、東京電力福島第一原子力発電所事故の大きな教訓でもあり、日々訓練はしているところではあります。今回、原子力発電所のいわゆる「止める・冷やす・閉じ込める」という、重要な情報に関しての情報発信は間違いなかったと考えております。しかし、火災の発生の有無とか水位計の変動の話ですとか、やはり不十分で、これからまだまだ努力していただかないといけないところもあろうかと思います。その点についてはきちっと指導していきたいと思っております。

参照=池辺和弘・電事連会長の2月16日定例会見〈能登半島地震を踏まえた原子力発電所の安全性向上に向けた業界の取り組み〉〈……原子力事業者としては、原子力発電所の更なる安全性向上に向けて、様々な知見や気づきを踏まえて、改善の取り組みを進めることが大変重要であると考えております。そのため2月2日より、電事連およびATENA(原子力エネルギー協議会)を中心とした事業者やメーカーと連携した体制を構築し、今回の地震による発電所への影響について検証を開始しております。具体的には、「地震や津波の検証」「発電所設備や核物質防護設備への影響」など、技術的な観点での検証に加えて、現場状況の把握や情報発信といった運用面の課題などについての検証を行います。「地震や津波の検証」においては、断層の連動など、今回の地震発生のメカニズム等について、新しい知見がないか検証を進める予定です。また、原子力発電所の安全性は確保されているものの、変圧器の故障など設備被害も発生しておりますので、発電所設備への影響などについても検証を進めてまいります。そして、これらの取り組みにより得られた知見については、原子力事業者間で共有し、安全対策の検討に活用していくことで、さらなる安全性向上に努めてまいります。 また、発電所の被害状況の把握や情報発信について、北陸電力は、多くの情報が飛び交う発災後の混乱の中で、情報発信に努められていたものと考えておりますが、 迅速かつ、正確な情報発信は、地域の皆さまの不安を解消する上で、大変重要なものです。今回は、電事連からも、北陸電力とも連携してホームページやSNSも活用した正確な情報発信に努めてまいりました。今回の知見も踏まえ、今後のきめ細やかな対応にも活かしていきたいと考えております。〉

【記者通信/3月23日】エネ主要2団体が会長交代発表 第7次エネ基の議論を注視


エネルギー業界の主要2団体が会長の交代人事を相次ぎ発表した。電気事業連合会の次期会長には中部電力の林欣吾社長が、また日本ガス協会の新会長には東京ガスの内田高史会長が、いずれも4月1日付で就任する。国の中長期的なエネルギー政策の方向性を示す第7次エネルギー基本計画を巡る議論が業界共通の関心事となる中、両者ともに「エネルギーの安定供給」を支える立場からエネ基議論の動向を注視する考えを示した。

林氏「新しいルールを着実に守り信頼回復」

電事連の会長交代は4年ぶりで、現会長の池辺和弘氏(九州電力社長)は3月末に退任する。後任となる林氏は3月15日に東京都内で開いた記者会見で、重視する課題を問われると、エネルギー基本計画の見直しと電力システム改革の検証を挙げた。その上で、「将来にわたり国や人々の暮らしを支える持続可能なエネルギーや電力システムの構築に向け、実務を担う立場からしっかりと検討に参加していきたい」と力を込めた。

握手を交わす電気事業連合会の林欣吾・新会長(右)と池辺和弘・現会長(3月15日)

林氏は、脱炭素の推進と電力の安定供給という相反する課題にも着目。「原子力と再生可能エネルギーの推進をパッケージとしてとらえ、それぞれに全力を尽くさなければいけない」と、課題解決に努める考えも強調。一方、大手電力4社のカルテル問題に関する質問も相次ぎ、林氏は「コンプライアンスの強化を徹底し、(公正な競争の確保に向けた)新しいルールを着実に守っていくことで、信頼回復に努めていきたい」と語った。

内田氏「3本柱をバランス良く進める」

ガス協会の会長交代は3年ぶり。現会長の本荘武宏氏(大阪ガス会長)は3月末で退く。バトンを引き継ぐ内田氏は19日に都内で行われた会見で、「カーボンニュートラルと安定供給と地域貢献という3 つの柱をバランス良く進めていくことが大切だ」と主張した。

握手を交わす日本ガス協会の本荘会長と次期会長の内田氏(右)(3月19日)

さらに内田氏は、安全性を大前提に安定供給、経済性、環境性を同時に実現するエネルギー政策の考え方「S+3E」にも言及。「環境性ばかりに目が向くが、それではいけない。安定供給や経済性の面も考えながらエネルギー政策を進めていかなければいけない。その政策を下支えするのが都市ガス業界だ」と強調した。エネ基見直しについては、「(S+3Eの)4つの視点がちゃんと入っているか、実現可能な計画になっているかを見ていきたい」と述べた。

ガス協会は、ガスのカーボンニュートラル実現を目指す「第3の創業」を迎えている。内田氏はその間に、水素とCO2で合成する都市ガス原料「e-メタン」の社会実装を促す機運を醸成し、脱炭素化につなげる決意も強調した。また、本荘氏は日銀が金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除を決めたことにも触れ、「経済が良くなれば間接的に(エネルギーの)需要増を通じ、(ガス事業に)良い影響を与えるのではないか」との認識を示した。

【記者通信/3月22日】柏崎刈羽「再稼働」へ動き加速 花角知事「容認」のタイミングとは


資源エネルギー庁の村瀬佳史長官は3月21日、新潟県庁を訪問し、花角英世知事に柏崎刈羽原発の再稼働を要請した。同日にはエネ庁の山田仁・政策統括調整官が柏崎市と刈羽村を訪れ、柏崎市の櫻井雅浩柏崎市長、刈羽村の品田宏夫村長に同様の要請を実施。再稼働に向けては、避難計画の実効性を高める国の支援が鍵となりそうだ。

立地自治体は容認の意向 避難道路整備への動き

「国からの返事、東電からの返事を経て、最終的には『ぜひ再稼働どうぞ』という返事をさせていただきたい」

櫻井市長は山田氏との面談でこう語り、再稼働を容認する姿勢をにじませた。すでに柏崎市議会と刈羽村議会は再稼働を求める請願を採択しており、櫻井市長と品田村長は再稼働を容認する見込みだ。

そこで、がぜん注目を集めるのが、花角知事が容認するかどうかだ。その判断に大きな影響を与えそうなのが、政府の支援で県や市町村が策定する避難計画の「実効性」である。

記憶に新しい2022年12月の大雪では、柏崎市などを通る国道8号線で22kmにわたって38時間に及ぶ車両滞留や通行止めが発生。除雪時の人員確保や避難道路の整備拡充、鉄道網の活用などの必要性が浮き彫りとなった。

そこで県と立地自治体は昨年7月、国道8号柏崎バイパスの早期全線供用や北陸自動車道への進入路を増やすためのスマートインターの導入などを、「地方負担を求めずに」実施するよう政府に要望。12月には県と長岡市など原発から5~30km圏内に立地する自治体が、安全対策の徹底や複合災害など防災対策の推進を求める要望書を提出した。これらの動きは、再稼働容認への「下準備」とも見て取れる。

村瀬長官は県庁訪問後の囲み取材で、昨年7月の要望について「できるだけ早いタイミングで答えを出したい」とし、関係省庁と具体的な調整を進めていることを明らかにした。県議会との調整など先行きは不透明だが、花角知事が再稼働容認を判断する一つのタイミングとしては、国から前向きな「答え」を得られた時が考えられる。

避難計画の位置付けとは 早期再稼働が最重要課題に

避難計画の実効性は「これまで、なあなあにされてきた部分」(エネルギー業界関係者)だ。過去の運転差し止め訴訟においても「避難計画の不備のみで差し止めはできない」との判断が示されている。原告側が、重大事故が発生する証明をできていないからだ。

避難計画は第1層~第5層からなる原発の安全確保の仕組み「深層防護」の第5層に分類されるが、深層防護は第5層を個別に扱うのではなく、全体の機能を考慮する必要がある。すなわち最も重要なのは、事業者が新規制基準への対応で「止める・冷やす・閉じ込める」やフィルタベントなど第1層~4層を格段に強化したことだ。しかし、能登半島地震では避難道路の寸断や家屋の倒壊などが発生し、これまで以上に第5層が注目を集めている。

重大事故を二度と起こさないように設計されたのが新規制基準だ。自民党の県議からは再稼働の要件として「避難道路の完成」を求める声もあるが、司法は深層防護の観点から運転の要件としてはそこまで求めていない。この点、櫻井市長の「いたずらに時間を積み重ねることだけが安全に資するとは考えていない」(21日の囲み取材)との発言は正鵠を射ている。

今年、総合特別事業計画の見直しを予定する東京電力にとって、柏崎刈羽原発の早期再稼働は最重要課題だ。全国各地のほかサイトの再稼働に向けても、速やかな再稼働に期待したい。

【メディア論評/3月22日】能登半島地震でのエネルギーインフラ巡る報道<上>


年明け早々に能登半島地震が起こり、これに関連してエネルギーインフラ関連を巡る報道が、主に下記のような点について行われてきた。

(1)今回の地震そのものの特異性、大きな被害を受けたインフラの復旧の問題

(2)北陸電力志賀原発の被害と対応

(3)改めて課題として浮き彫りになった屋内退避、避難計画の問題

(4)東京電力柏崎刈羽原発の今後

(1

(1) について今回「~復旧編~」として触れ、(2)(3)(4)については次回「~再稼働と屋内退避・避難計画編~」として、触れていく。

被災の状況を伝えるテレビメディア(関西テレビNEWSのウェブサイトから)

(1)能登半島地震そのものの特異性、大きな被害を受けたインフラの復旧の問題

◆能登半島地震そのものの特異性

今回の能登半島地震は、公的機関の発表、報道などによれば、下記のような特性を有する。

●複数の海底活断層が連動  M7.3相当の2つの地震が13秒差で発生

〈複数の断層の連動により、マグニチュード7.3相当の2つの地震が13秒差で発生、エネルギーが約2倍のマグニチュード7.6規模になった可能性がある。〉(京大防災研解析 産経新聞2月12日付)

〈能登半島の西方沖から北方沖、北東沖にかけて分布する複数の海底活断層が関連した可能性が高いと評価、長さ約150キロの震源断層が推定されており、その範囲は一連の地震活動の震源分布とほぼ重なる。〉(地震調査委員会 産経新聞2月5日付)

●地殻変動

〈輪島市西部で最大約4ⅿの隆起、最大約2ⅿの西向きの変動、珠洲市北部で最大2ⅿの隆起、最大約3ⅿの西向きの変動がみられる。〉(国土地理院)

〈「輪島市の海岸で最大4ⅿに及んだ地形の隆起は、明治以降の国内地震

では最大規模」といわれる〉(朝日新聞2月2日付)

●液状化

〈液状化も石川県内だけでなく、福井、富山、新潟の各県でも確認され、震源から約160キロ離れた福井県坂井市や新潟市も含まれる。「揺れる時間が長かったことが広範囲の液状化に影響した」とみられる。〉(防災科学研究所 日経新聞2月2日付)   

上記のような地震そのものの特性および半島エリアでの大きな被害という態様は、大都市部における大震災であった阪神・淡路大震災、東北から関東の太平洋岸への大津波で被害が甚大になった東日本大震災とは異なるものであったといえる。それはエネルギー行政をつかさどる経産省にとっても「今までにはなかった地震災害」(かつてエネルギー行政にも携わった元幹部)であった。

【目安箱/3月22日】民間有志が「第7次エネ基」のあるべき姿を提言


国の第7次エネルギー基本計画の策定に向けた議論が本格化するのを前に、エネルギー問題の研究者であり、エネルギーフォーラムにも寄稿する杉山大志氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)ら民間人有志が2月24日に「エネルギードミナンス:強く豊かな日本のためのエネルギー政策(非政府の有志による第 7次エネルギー基本計画)」を発表した。

筆者は現実に則し、今参考にするべき内容と思う。今年はエネルギー基本計画の年内の見直しが予定されている。見直しは第7次になる。それをめぐる議論で、この提言をぜひ取り入れてほしい。

日本の政策決定の問題は、政府が計画や提言、社会コンセプトづくりを主導し、民間や政党に対案がないことだ。こうした提言が出され、現実の政策に議論によって影響を与えることが必要である。政府だけに頼ってはいられない。

◆意欲的な11提言を評価

この提言ではエネルギー政策として、「エネルギードミナンス(優勢)」を提唱した。日本語で作った概念にしてもよかっただろう。

エネルギードミナンスとは、米国共和党で用いられている考えだ。豊富で、安定し、安価なエネルギーを供給することを指す。それによって、日本が経済発展をし、防衛力を高め、自由、民主といった普遍的価値を守り発展させることを目標にする。

提言ではエネルギードミナンスを確立するために、以下の11項目を掲げている。

1・光熱費を低減する。電気料金は東日本大震災前の水準を数値目標とする。エネルギーへの税や賦課金等は撤廃ないし削減する。

2・原子力を最大限活用する。全電源に占める比率50%を長期的な数値目標とする。

3・化石燃料の安定利用をCO2規制で阻害しない。

4・太陽光発電の大量導入を停止する。

5・拙速なEV推進により日本の自動車産業振興を妨げない。

6・再エネなどの化石燃料代替技術は、性急な導入拡大をせず、コスト低減を優先する。

7・過剰な省エネ規制を廃止する。

8・電気事業制度を垂直統合型に戻す。

9・エネルギーの備蓄およびインフラ防衛を強化する。

10・CO2排出総量の目標を置かず、部門別の排出量の割当てをしない。

11・パリ協定を代替するエネルギードミナンス協定を構築する。

◆混乱したこの10年のエネルギー政策

これらの提言を私は正論と思う。しかし、現状の日本では修正することが難しい点がある。東日本大震災による東京電力の福島第一原子力発電所事故以来、電力・エネルギー政策の見直しが行われた。政府・経産省が民意からの批判を避けるため、おかしな政策を受け入れ、迷走した。エネルギー業界も、特に電力は、原子力事故の悪影響で沈黙してしまった。

エネルギー政策では、自民党政権に変わって名目的になったが「脱原発」、「再エネ拡大」、「脱炭素」、そして「エネルギー自由化」が進んだ。エネ基は18年7月に第5次、20年10月に第6次の改訂が行われている。

いずれの目標でも、現実はうまくいっていない、それどころか弊害が出ていることはエネルギー関係者の共通の認識だ。エネルギードミナンスの目指す「豊富で、安定し、安価なエネルギーを供給する」という目標から真逆の、エネルギー不足、供給不安定化、価格上昇という現象が起きている。

成功だったと弁解しているのは、経産省の役人だけで、政治家でさえ修正を公言するようになった。これは外部環境の変化も影響しているが、制度設計、政策の面が大きい。

◆国際情勢はエネルギー安全保障強化へ

そして今や内外の情勢は、動き続けている。

安全保障状況は、ウクライナ、中東、台湾などを巡り切迫している。世界各国はエネルギーの安全保障の強化に舵を切っている。

低炭素・脱炭素政策の弊害を省みることなく、政府は合理的な根拠もエビデンスを示すこともない。それなのに、岸田政権は21年末に打ち出した、GX(グリーントランスフォーメーション)によって脱炭素政策をさらに強化しようとしている。

慣性のついてしまった行政府は、巨大な船のように方向転換が効かない。

それについて、対案となる考えが出た。世論も落ち着き、福島原発事故直後のような感情的な意見は減って、存在感がなくなっている。

◆当事者の参加する現実的なエネルギーシステムの議論を

電力自由化、再エネの発電設備の建設など、現実が動いてしまい、時間の針を戻すことは困難である問題もある。しかし、上記11の項目を軸に、政策と企業のあり方を議論したい。

現実に即さず、事業者、消費者の意見を取り入れない仕組みは弊害の方が大きくなる。残念ながら、この10年、エネルギー政策は、そうした弊害が大きくなってしまった。この提言だけではなく、民間、事業者、消費者それぞれが積極的にエネルギーのあり方を議論し、今のままではないより良いエネルギーシステムを作っていきたい。そのきっかけの一つになるこの提言を歓迎する。

【記者通信/3月8日】ビットコインマイニングを新たなDERに活用へ


ビットコイン(仮想通貨)のマイニング装置を新たな分散型エネルギーリソース(DER)に使う、というユニークな取り組みが各所で進行中だ。東京電力パワーグリッド(PG)傘下のエネルギーベンチャー、アジャイルエナジーX(AEX)が主導し、東電グループや自治体、スタートアップ他社などと連携し、実証に取り掛かっている。排熱利用やDAC(直接空気回収)を組み合わせ食料生産する循環経済システムとして、そして再生可能エネルギーの負荷追従型の上げDR(デマンド・レスポンス)として――。独自路線で持続可能なエネルギーシステムの確立に向けた挑戦を続けている。

マイニングは、暗号計算でビットコイン取引の検証・承認を行うこと。装置のスイッチを入れると自動で計算作業に入り、最速で正解を答えた装置に報酬が支払われる。電気代が安い海外では専業のマイニング事業者が存在するが、日本ではマイニング報酬だけでビジネスを成立させることは難しい。

そこでAEXが目を付けたのが、余剰再エネ発生時の「上げDR」としての価値だ。フレキシブルに需要を立ち上げるのに適し、設置が容易など、DERの中でも制約が少ない。全国大多数の地域で再エネの出力抑制が頻発する中、うまくエネルギーシステムに組み込めれば、さらなる再エネ導入の可能性が見えてくる。

埼玉県美里町が意欲 未利用エネで高付加価値の食料生産へ

このビジョンに賛同し、同社と共同実証を行う自治体の一つが、埼玉県美里町だ。水耕栽培と陸上養殖を組み合わせた「アクアポニックス」に未利用エネルギーを活用し、システムの一部にビットコインマイニングを組み込む。GX(グリーントランスフォーメーション)、DX、農業、さらに金融と、さまざまな要素を踏まえた斬新な循環経済モデルの確立を目指している。

美里町役場に設置したシステム。右から、アジャイルエナジーXの立岩健二社長、原田信次町長、シンクモフの堀彰宏副社長

アクアポニックスは、魚の排泄物を微生物が分解し、植物が栄養として吸収。浄化した水を水槽に循環させる。ここで必要な電気や熱、CO2を供給するため、マイニング装置を軸としたシステムを考案した。

仕組みはこうだ。まず、太陽光などの電気をアクアポニックスに供給するとともに、マイニング装置を稼働させる。装置が作動すると60℃程度の熱が発生するが、これをまずCO2のDACに活用する。

DAC装置は、名古屋大学発ベンチャーのSyncMOF(シンクモフ)が開発した。高機能多孔体でCO2を優先的に貯蔵・分離できるMOF(金属有機構造体)を活用した装置で、空気中のCO2を回収して野菜栽培に最適な濃度に濃縮し、アクアポニックスに供給する。ニーズに合わせ最適なMOFを選定、合成・成形して装置設計まで行えるノウハウを持つ企業は、同社のほかには見当たらないという。東邦ガスと低コストなCO2分離・回収技術の実証に取り組むなど、さまざまな企業との連携を拡大している。

また、別途マイニング装置と液浸冷却装置をつなぎ、排熱を冷やすとともに、マイニング中の騒音を抑えている。実は、装置が稼働する際に結構な音量を出し、数十台もつなげて動かすとなれば、場所によっては騒音対策が必要となる。さらに、液浸冷却後の熱は40℃程度となり、野菜栽培に活用するには最適な温度帯。これをアクアポニックスに供給するのだ。

同町では昨年11月から試験的にアクアポニックスにチョウザメを投入し、野菜も魚も生育は順調だという。チョウザメの卵はキャビアの材料であり、さらにマインング報酬も含め、高付加価値な食料生産を目指す考えだ。

上段に野菜、下段でチョウザメなどが順調に生育する

太陽光発電所で実証 追従型でマイニングを管理

AEXは、東電グループと連携し、再エネ出力抑制や系統混雑の回避を目指した実証も各地で進める。東電リニューアブルパワー(RP)の久呂保太陽光発電所(群馬県昭和村)敷地内では、再エネに追従しマイニングをコントロールするシステムを備えたコンテナ型データセンターを、昨年8月に構築した。系統混雑が発生しているエリアであり、東電RPとしても太陽光の自家消費拡大が望ましく、条件が一致した。

太陽光発電所に設置されたコンテナ型データセンター。曇天で一部しか動いていないためか、思ったほどの騒音ではなかった

出力1.4kWのマイニング装置50台強をコンテナ内に設置し、太陽光の発電量に追従しながらマイニングの稼働台数を自動制御している。逆潮はできず、昼間の負荷はスケジュール運転しているため、曇天だった視察当日は系統電力も使いつつ、発電量が乏しい太陽光に追従し、3分の1程度のマイング装置が稼働していた。

これらの取り組みはいずれも実証段階ではあるが、これまでにない新たなGXモデルとなる可能性を秘めている。各種実証で課題を洗い出すとともに、次のステップへの展開を待ちたい。

【論考/3月6日】フーシ派の紅海攻撃に見る国際石油秩序の行方


イエメン北西部を実効支配するフーシ派は、イスラエルのガザ地区侵攻に抗する数度の空爆が失敗に終わった後、昨年11月半ば以降、紅海南部・アデン湾航行中の商船を次々に襲う。イスラエルに関係する船舶が標的と言いながら、実態は無差別攻撃に近い。イエメン沖でミサイル攻撃を受け3月初めに沈没した貨物船も船主は英国企業ながらベリーズ船籍、ペルシャ湾岸で積んだ化学肥料をブルガリアに向けて輸送中だった。米国は12月に英国等の有志国連合の形で「繁栄の守護者作戦」を発動。今年1月からは米・英でイエメン領内のフーシ派拠点を空爆し、軍事的衝突が本格化している。

このため、紅海を回避する船舶が相次ぐ。国際通貨基金(IMF)によれば、昨年11月初めから今年2月末にかけて、バベルマンデブ海峡通過の総貨物量は6割減。スエズ運河経由も55%減っている。BP、シェルなどの石油メジャーも紅海ルートを避ける。

スエズ運河・紅海は欧州と中東・アジア太平洋を結ぶ海上輸送の動脈である。石油も例外ではない。国際エネルギー機関(IEA)によれば、昨年の世界石油海上輸送量の約1割、日量700万バレル強がこの水路を経由した。これは日本の石油消費量の2倍以上の規模だ。中東の石油生産能力自体は健在であり、またパイプラインとは異なり海上輸送では迂回の代替経路がある。しかし希望峰回りの航路では最大2週間の遅延が生じ、これが隘路となって石油供給を滞らせる。

ウクライナ危機後の分断を映す紅海

南下・北上分を併せてスエズ運河を通る日量700万バレル強のうち、アジア方面へ南下の分が日量400万バレル強。その約8割がロシア産で主にインドと中国に向かい、特にインドでは原油輸入総量の3割超をロシア産が占める。ロシアの対ウクライナ侵略開始後、それまで一体化していた欧露間の石油供給が遮断され、ロシア石油が中東産を押し除ける形でアジアに輸出されている。

一方、スエズ運河を欧州方面へ北上は日量約300万バレル。IEAは原油が約110万バレル、石油製品を約180万バレルとしている。原油はサウジアラビア、イラク等の中東産。石油製品も中東が主だがアジアからも運ばれ、特にインドは軽油・ジェット燃料の大手輸出元。また紅海から地中海への輸送経路としては、スエズ運河の他にエジプトのSUMEDパイプラインがあり、昨年は日量70万バレル以上の中東産原油がここを通ったと見られる。

欧州にとって、中東はアフリカ、北米と並ぶ原油供給の主柱だ。昨年1~10月実績を2021年と比べると、欧州のロシア原油輸入は日量200万バレル弱減少。中東は、北米、中南米、アフリカなどと共に、この失われたロシア産を代替する主要供給源である。

このように欧露分断を反映し、紅海は南下するロシア産石油と北上する欧州向け石油が活発に行き交う場となった。そこでの航行の安全は、石油供給者としてのロシアと中東、消費国・地域としての欧州、インドおよび中国、いずれにも共通の利益だ。この呉越同舟の現実は、1月10日フーシ派非難の安保理決議に対する、ロシアと中国の拒否権不行使にもよく現れている。

フーシ派はロシア、中国などの「イスラエルと無関係」な船舶は攻撃対象外と重ねて表明。実際、ロシア産石油積載タンカーは紅海経由での航行を継続している。ただし、アデン湾におけるロシア産石油積載船への誤爆も報じられ、また、紅海が大規模な戦域と化すのはロシアに不利だ。米英とフーシ派の対立が局地的に限定され、これを傍観して石油輸出を継続するのがロシアに有利だが、現状はおおむねその線に沿って動いている。即ち、石油の紅海南下ルートへの影響は今のところ少ない。

影響がより大きいのは、北上ルートだ。原油はサウジアラビアとイラク産が大半を占める。このうちサウジアラビア産は、同国を横断する東西パイプラインを経由すれば、危険な紅海南部を通らずに、その北方から直接に出荷できる。事実、サウジアラビア紅海岸からの原油輸出は既に日量数十万バレル増大と報じられており、ペルシャ湾岸からの輸送の遅れ・減少をある程度補うだろう。一方、石油製品、特に中間留分は状況が厳しい。昨年1~10月期に欧州(トルコ除く)は中間留分の約2割を輸入に依存していたが、その8割方が中東、アジア産。輸入元も中東ではサウジアラビアの他にUAE、オマーン、クウェートがあり、インドを大宗とするアジア産も輸入総量の3割を占めていた。この供給源の多様さにより、サウジアラビア・紅海岸製油所からの出荷を増しても、大半が希望峰回りとなるのは避けられない。

欧州の石油製品が焦点 案じられる力の空白 

すなわち、それは海上輸送中の数量の大幅な増加と、陸上商業在庫の取り崩しとなって現れる。IEAの暫定見積もりでは、昨年12月、海上分は日量200万バレル増加。一方、陸上在庫は日量130万バレル減り、特に第4四半期を通じた欧州中間留分在庫の落ち込みが著しいとしている。低在庫はさらなる不測の供給逼迫時に、市場が価格の押し上げ圧力に対してもろいことを意味する。

昨年10月のハマスによる対イスラエル・テロ攻撃は、おそらくは支援するイランの思惑を遥かに超えた過激さで行われた。対してイスラエルのガザ侵攻の酷薄さも、米バイデン政権の許容範囲から既に大きく逸脱している。両者の闘争がイラン、米国による制御能力を超えて凄惨化するに伴い、フーシ派がパレスチナ支援の象徴的な示威行為として行っているのが、その船舶攻撃であろう。これもやはり局地的暴発であり、いずれの外部勢力もイスラエル・ハマス戦争を停止できない中、暴力の連鎖が自己増殖する危険な過程にあることを示している。

潜在的には、共通利益に基づく諸大国による協調的対応が十分可能な問題だろうが、ロシアのウクライナ侵略およびイスラエルのガザ侵攻を巡る厳しい対立が、それを阻む。また直接的には米英によるフーシ派攻撃で最も利益を得るのはロシア(および、その買い手のインド・中国)であり、このような性格の作戦を米国民はいつまで支持するのだろうか。今年トランプ前大統領が再選されれば、「米国第一」の旗印の下、米軍が紅海での治安維持活動から手を引く事態も十分あり得る。その時には力の空白を埋める動きが、各国の試行錯誤の中で進まざるを得ない。それは有力国間の相互不信を助長する可能性が高い。

今は目先の国際石油価格の動きにとらわれるべき時ではない。国際石油供給秩序が、その基盤を日々崩されつつあるのだ。

石油アナリスト 小山正篤

【目安箱/2月22日】能登半島地震の報道で考える 的外れな電力会社批判


◆エネルギー問題を語る際には是々非々で

愚痴に聞こえるかもしれないが、私の関わるエネルギー業界は、2011年の東京電力の福島第一原発事故の後で、理不尽な批判に直面している。原子力発電の批判が繰り返され、現在も続く。日本は無資源国で化石燃料を使わざるを得ないのに、非合理な化石燃料批判が向けられることもある。既存の大手電力会社は真面目で堅実な社風の企業ばかりだ。安定的で、安全な電力供給のために日夜努力を続けている。そうした側面は、メディアにはなかなか取り上げられない。

今回の能登半島地震で北陸電力グループは、巨額の被害を出しながら、電力の復旧活動を行っている。地元紙の北國新聞は2月1日の記事「停電生活から解放―県内ほぼ解消、住民安堵」で同グループ社員が輪島市の停電復旧地域を周り、安全を確認するなど丁寧な対応をして、住民が「普通の生活に近づいた」と報じた。

しかし北陸電グループの努力がクローズアップされることは少ない。能登半島地震発生から2月10日までの期間で、朝日新聞のウェブサイトを「北陸電力」で検索すると、約60本の記事のうち50本ほどは、別に危険ではない同社グループの志賀原子力発電所についてのものだった。他のメディアでも同じように、志賀原発のことばかり伝える。報道するべきテーマがずれているように思える。是々非々で評価しなければ、各企業は萎縮する。それは企業の長所を消し、さらには日本経済全体の力も弱めてしまうだろう。

◆電力の復旧遅れ、誰のせいか

能登半島地震で、生活復旧のために重要な要素の一つが電気の復旧だ。1月1日に地震が発生してから2月17日時点で依然1100戸が停電していたが、北陸電グループの契約数は北陸3県を中心に同社の契約口数で218万8200件(23年9月末時点)あり、電力供給の大半は維持されている。そして世界の大災害を見ると、電力の復旧に数カ月かかる例も多い。同社の電力の維持の取り組みは、評価されるべきだ。

復旧に取り組む北陸電力送配電(同グループのXより)

一方、日本での大災害では被災後1週間程度で完全復旧した例が多く、この復旧スピードはやや遅い印象がある。北陸電力グループは能登半島の道路網が他地域に比べて充実しておらず、しかもその道路が被災していることが原因と説明している。にもかかわらず、それを批判する報道があった。日本経済新聞は、1月24日に「電力供給 進まぬ分散-大手寡占、災害時にリスク」という記事を掲載した。

記事の中では、〈能登半島地震の被害で長引く停電が電力供給のもろさを浮かび上がらせている。再生可能エネルギーを使って供給を分散できれば広範囲の停電リスクが下がるが、送電網の事業への新規参入は進んでいない。必要になる蓄電池のコストの重さなどが要因で、災害に強い電力網づくりは途上だ〉〈電力は小売りが自由化され、売り手は多様になってきた。一方で安定供給の責任が求められる発電や送配電は大手の寡占が続く状況だ。大手の大規模発電所と送配電網に頼る構図は災害時のリスクになりかねない〉などと指摘している。

◆地域独占時代の大地震では迅速な復旧

これは不思議な見方だ。1990年代から始まった電力自由化は、2020年の発送電事業の分離で現在、一段落した。発電事業、小売事業からの一般送配電事業を切り離したのは、送配電部門は自由化せず総括原価・地域独占を残しておいた方が、電柱や電線など送配電網の建設・保守のスケールメリット、一元的な管理による二重投資の防止など、電力インフラの運営面で効率的であるという理由からだ。

そもそも、全面自由化される前の発送電一貫体制時代に発生した大地震(1995年の阪神・淡路大震災、2004年の新潟県中越地震、07年の新潟県中越沖地震、11年の東日本大震災、16年の熊本地震、18年の北海道胆振東部地震など)において、電力インフラについてはいずれも概ね1週間~10日間程度で9割以上の停電復旧が完了している。この経緯を見る限りでも、大手電力の独占が災害時のリスクになりかねないとの指摘は的外れであることが分かる。少なくとも、復旧までに数週間を要する都市ガスよりは災害時の復旧が迅速なエネルギーであるといえよう。

ちなみに、業界団体の電気事業連合会は日経報道の同日、この記事に対する見解をウェブサイトに掲載。〈一般送配電事業は、周波数を維持し安定供給を実現するとともに、電柱や電線など送配電網の建設・保守のスケールメリット、一元的な管理による二重投資の防止、などの観点から、規制領域とされている許可事業であり、大手の寡占との指摘はあたらない〉〈今回の能登半島地震においては、輪島市、珠洲市を中心に道路の寸断(土砂崩れ、道路の隆起・陥没・地割れ等)や住宅の倒壊等により立入困難な箇所が多数あることなどが思うように復旧作業が進まない要因だと承知しており、停電長期化の原因が「電力供給のもろさ」にあるという指摘はあたらない〉と反論している

◆危機の時ぐらい、おかしな批判はやめるべきでは

日本経済新聞は、近年の報道で、既存の大手電力に冷たく、原子力を批判し、電力・エネルギー自由化を過度に賛美する傾向があった。今回の報道もその流れの一つに見える。経済専門紙なのだから、経済の最前線にいる電力業界人を唸らせる記事を世に出してもらいたいものだ。

この日経の報道は一例だが、電力会社は理不尽な批判に直面し続けている。せめて、今回のような危機の時には、電力会社を応援するべきではないだろうか。批判ばかりでは、何ごとも作り出せないどころか、当事者の意欲を失わせてしまうだけだろう。

【目安箱/2月20日】原発稼動は高くつく? 女川原発を巡る奇妙な報道


既存の電力会社は報道と社会との関係で大変だと思う。福島事故以来、業界の真面目さ、電力システム維持の努力などの良い話はメディアに伝えられず、評価する声も目立たない。メディアは原子力を巡る粗探しばかり報じる。そして時には、嘘まで伝える。また一つ、がっかりする報道があった。

◆河北新報と専門家の奇妙な東北電力批判

宮城県を中心に発行されている地方紙の河北新報が、1月28日に「原発費用 電気料金底上げ 東北電女川2号機再稼働しても…引き下げ効果の約4倍に」との記事を掲載した。

内容は以下の通りだ。

▼東北電力の原発施設の維持費用は年間1617億円になる。維持・管理コスト、それに使われる電気代を合算した。2023年6月に同社は規制されている一般向け料金の値上げをしたが、その際の申請書類で示された23年初頭の数字だ。また同社は東京電力の柏崎刈羽原発と日本原電の東海第二発電所からこれまで電気を購入していたが、いずれも停止中で受電料がゼロなのに272億円支払っている。

▼東北電力は、現在準備中の女川原発の2号機の再稼働で、同社が主張する料金効果の引き下げ効果を372億円としている。維持費用の1617億円は、この引き下げ効果の4倍で原発を稼動させない方が良い。

▼標準家庭は、使用電力量が月260kW時である。これで試算すると、料金引き下げ効果は140円、原発を維持することによる費用は月額611円だ。

▼これは消費者庁の電力価格アドバイザーを務める龍谷大学の大島健一教授の試算によるものだ。

◆比較対象がおかしい

これはかなり変な意見だ。順番に指摘してみよう。

第一に、比較のおかしさだ。この原稿は、これから行う新たな企業活動による「料金原価の低減効果」と、現在の「料金原価そのもの」を比較している。金額の比較として適切ではない。比較するならば、新たな企業活動を行った場合とそうしなかった場合の料金原価の比較をするのが妥当だろう。

372億円の原子力発電所を動かす効果の数字の意味は、再稼働による燃料費の減少試算(いわゆる炊き減らし)の811億円から、新たな再稼働に必要な費用年439億円を引いた数字である。

それぞれ数字の解釈は、「原子力には23年初頭時点で1617億円の費用が、止まっても掛かっている。追加費用を439億円掛けて原子力発電所を動かすことで811億円の燃料費が減る。それでも372億円の削減効果がある」と解釈するべきだろう。

例えてみよう。発電単価10円の火力発電、発電単価6円の原子力発電があったとしよう。この原稿は、置き換えた場合に「4円が下がる」という事実と、「発電単価は6円」という数字を比較している。この場合は「10円」と「6円」を比較するべきだ。企業活動で、投資による固定資産、費用は、収入と利益を産むために必要だ。資産である原子力発電を使わないで置いておく損を、この記事では考えていない。

第2に、原子力の再稼働の経済性の評価がおかしい。この経費は、決して固定的ではない。記事は、止まっている他社の原子力発電所への経費負担を批判している。東電、日本原電ともに、東北電力に売電する原子力発電所の近日中の再稼働を予定している。すると、これまでの経費が生きて、原子力による安い大量の電気が使えることになる。さらに、火力の燃料費、東北電力の場合の LNGは、国際的に価格が大きく動く。上記経費は2023年初頭のままではない。すぐに変わる可能性が高い。

第3に、電源の評価は、安全保障、経済性、環境、安全(S+3Eと言われる)の観点から多角的に考える必要がある。原子力発電はCO2や大気汚染物質を出さない。これを動かすことで、カーボンニュートラルや大気汚染対策に役立つ。

以上の点から、この河北新報の記事はかなりおかしいものだ。河北新報の記者は企業活動も、エネルギー政策も理解していないらしい。

◆メディアは経済を考え、原子力に向き合ってほしい

そしてこのような記事は、原子力とエネルギー、経済に悪影響しかもたらさないだろう。東北電力の安定した経営、それに役立つ原子力発電の活用は、電気料金を引き下げる。これは東日本大震災の復興から次のステップに移行するために必須だ。

九州では、原子力発電の活用による電気料金の抑制が経済効果をもたらし、熊本での台湾企業TSMCの工場新設の一因にもなっている。

東北の未来を考えるなら、単純な反原発の意見に、不勉強のまま飛びつくべきではない。経済と社会効果の視点から、エネルギー問題、日本経済のことを真剣にメディアは考えてほしい。地域に根ざす地方メディアならなおさらだ。

【メディア論評/2月20日】COP28巡る論調〈下〉交渉結果の前段を読む


ところで、COP28の交渉結果を見るに際して、G7広島首脳コミュニケや議長国からのレターなど、その議論の前段階として参考となるいくつかの事項に触れておきたい。    

◆G7広島首脳コミュニケ(23年5月20日)~

今回、岸田首相は、G7議長国としてCOP28に出席することになった。その「G7広島首脳コミュニケ」で気候変動、環境、エネルギー分野で表明された内容はどのようなもので、COP28にどのようにつながったかという視点で見ておく。

<G7広島首脳コミュニケ 本文及び骨子より~> (抜粋)

◎気候〈我々の地球は、気候変動、生物多様性の損失及び汚染という3つの世界的危機、並びに進行中の世界的なエネルギー危機からの未曽有の課題に直面している。我々は、この勝負の10年に行動を拡大することにより世界の気温上昇を摂氏1.5度に抑えることを射程に入れ続け、2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させ、エネルギー安全保障を確保するとともに、これらの課題の相互依存性を認識し、シナジーを活用することで、パリ協定へのコミットメントを堅持する。我々は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)及びその第6次評価報告書(AR6)の最新の見解……を踏まえ、世界のGHG排出量を2019年比で2030年までに約43%、2035年までに約60%削減することの緊急性が高まっていることを強調する。我々は、国が決定する貢献(NDC)目標の達成に向けた国内の緩和策を早急に実施し、……我々の指導的役割、また、すべてのG7諸国において排出量が既にピークを迎えたことに留意し、……すべての主要経済国が果たすべき重要な役割を認識する。2030年の国が決定する貢献(NDC)目標または長期低温室効果ガ ス排出発展戦略(LTS)が、摂氏1.5度の道筋 及び 遅くとも2050年までのネット・ゼロ目標に整合していないすべての締約国、特に主要経済国に対し、可及的速やかに……2030年NDC目標を再検討及び強化し、LTSを公表または更新し、遅くとも2050年までのネット・ゼロ目標にコミットするよう求める。〉

 <参照1>電気新聞23年10月27日付〈橘川武郎 国際大学学長〉〈2035年 2019年比60%削減〉〈……日本はG7の開催国として、(上記の)新しい削減目標を事実上「国際公約」したことになる。日本のそれまでの国際公約は「2030年に温室効果ガスの排出を2013年比で46%削減する」というものであった。2013年度から2019年度にかけて、わが国の年間温室効果ガス排出量は……14%減少した。14%減少した年間温室効果ガス排出量をさらに60%削減するというのであるから、これは大事(おおごと)である。「2035年GHG2019年比60%削減 」という新しい国際公約は「2013年」比に換算すると、「66%削減」を意味する。期限が2030年から2035年へ5年間延びるとはいえ、削減比率は46%から66%へ20ポイントも上積みされるからである。日本の多くの企業や自治体は、政府のこれまでの「2030年GHG2013年比46%削減」目標に平仄を合わせるか、若干上積みするかして、……カーボンニュートラルを目指す中長期計画を策定してきた。……ところが、政府が「2035年GHG 2019年比60%削減」目標を新たに国際公約したことによって、状況は一変する。多くの企業や自治体は、カーボンニュートラルにかかわる中長期計画の目標値を大幅に引き上げざるをえなくなる。……〉  

(コミュニケ本文に戻る)◎気候 (続き)〈〇グローバル・ストックテイク……我々は、COP28における第1回グローバル・ストックテイク(GST)の最も野心的な成果物を確保するために積極的に貢献することにコミットし、その結果が、緩和、適応、実施手段と支援にまたがる、強化された、即時かつ野心的な行動につながるべきである。〇トランジション・ファイナンス 我々は各国の状況を考慮し、多様かつ現実的な道筋を通じた移行を支援するとともことを含め、排出削減を加速するために、開発途上国及び新興国に関与する。2020年から2025年にかけて年間1000億米ドルの気候資金を合同で動員するという先進締約国の目標に対する我々のコミットメントを再確認する。特にクリーン技術や活動の更なる実施及び開発に焦点を当てた民間資金を含む資金を動員することの重要性を強調する。我々は、カーボン・ロックインを回避し、効果的な排出削減に基づいているトランジション・ファイナンスが、経済全体の脱炭素化を推進する上で重要な役割を有することを強調する。〉

<参照2>トランジション・ファイナンス推進に向けた取組23年11月経産省事前レク資料〈・パリ協定実現のためには、再エネを中心とする「グリーン」のみならず、省エネやエネルギー転換など着実な低炭素化を実現する「移行(トランジション)」が重要。・トランジション・ファイナンスの市場環境整備のため、これまで基本指針及び分野別技術ロードマップの策定、モデル事業・補助事業を実施。結果として、累計調達額は1兆円を超える規模に市場が成長。〉

(コミュニケ本文に戻る)◎環境〈我々は、持続可能で包摂的な経済成長及び発展を確保し、経済の強靭性を高めつつ、経済及び社会システムをネット・ゼロで、循環型で、気候変動に強靭で、汚染のない、ネイチャーポジティブな(生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せること)経済へ転換すること、及び2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させることを統合的に実現することにコミットする。〇生物多様性 我々は、人間の幸福、健全な地球及び経済の繁栄の基礎となる、生物多様性の損失を2030年までに止めて反転させるための歴史的な昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)の採択を歓迎し、その迅速かつ完全な実施と各ゴール及びターゲットの達成にコミットする。すべての署名者に対し、昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)の下での彼らのコミットメントを迅速に実施し、途上国に対して支援を提供できるよう用意することを求める。我々は、自然に対する国内及び国際的な資金を2025年までに大幅に増加させるというコミットメントを改めて表明する。〉

<参照3>〈日経新聞23年8月15日付寄稿〉〈和田篤也 環境事務次官〉〈今年、G7広島サミット、G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合が開催されました。そこでは、ネット・ゼロ、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブの統合的な実現の重要性が再認識されたところです。政府においても、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」や「新しい資本主義実行計画」に、この3つの課題に向けた取組みが位置づけられました。……特にネイチャーポジティブは生物多様性をネット・ゼロと一体的に取り組むべきビジネス課題と位置付けて事業活動に組み込んでいく動きが加速する中、国際的にも注目されています。生物多様性の損失や自然資本の劣化が事業継続性を損なうリスク、あるいは新たなビジネスを生み出す機会として認識されつつあるのです。 〉

(コミュニケ本文に戻る)◎エネルギー〈我々は、エネルギー安全保障、気候危機及び地政学的リスクに一体的に取り組むことにコミットする。ロシアのウクライナに対する侵略戦争による現在のエネルギー危機に対処し、遅くとも2050年までにネット・ゼロ排出という共通目標を達成し、同時に、エネルギー安全保障を高める手段の一つでもあるクリーン・エネルギー移行を加速することの現実的かつ緊急の必要性及び機会を強調する。我々は、各国のエネルギー事情、産業・社会構造及び地理的条件に応じた多様な道筋があることを認識しつつ、気温上昇を摂氏1.5度に抑えることを射程に入れ続けるために、これらの道筋が遅くとも2050年までにネット・ゼロという共通目標に繋がることを強調する。〉

<参照4>〈小山堅 日本エネルギー経済研究所専務理事・主席研究員〉〈G7広島サミットの成果と日本の課題〉〈「我々は、各国のエネルギー事情、産業・社会構造及び地理的条件に応じた 多様な道筋があることを認識しつつ」という部分は、今回の合意の最重要部分。G7気候・エネルギー・環境大臣会合(札幌)で提示された重要な原則「多様な道筋、共通のゴール」をそのまま引き継ぐ形で提示された。欧米からの「上から目線」の「一本の道筋」を押し付けるのでなく、各国の国情を踏まえた対応を認めることは、エネルギー転換のコストを抑制しつつ、グローバルサウスとの連携を強めるアプローチになる。 世界の分断という現実を踏まえ、地政学的に極めて重要な意味を持つことになる。〉

(コミュニケ本文に戻る)◎環境(続き)〈〇省エネ、再エネ 我々は、現在と過去のエネルギー危機への対処の経験を通じて、「第一の燃料」としての省エネルギー及びエネルギーの節減の強化並びに需要側のエネルギー政策の発展の重要性を強調する。我々はまた、再生可能エネルギーの実装や次世代技術の開発及び実装を大幅に加速させる必要がある。〇水素・アンモニア 我々は、低炭素及び再生可能エネルギー由来の水素並びにアンモニアのような派生物は、摂氏1.5度への道筋と整合する場合、産業及び運輸といった特に排出削減が困難なセクターにおいて、セクター及び産業全体の脱炭素化を進めるための効果的な排出削減ツールとして効果的な場合に、……開発及び使用されるべきであることを認識する。〇石炭火力、カーボンリサイクル 我々は、……国内の排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズアウトを加速するという目標に向けた、具体的かつ適時の取組みを重点的に行なうというコミットメントを再確認し、他の国に対して我々に加わるよう要請する。……公正な方法でクリーン・エネルギー移行を加速するため、排出削減対策が講じられていない新規の石炭火力発電所のプロジェクトを世界全体で可及的速やかに終了することを他国に呼びかけ、協働する。……我々は、二酸化炭素回収・有効利用・貯蔵(CCUS)/カーボンリサイクル技術が、他の方法では回避できない産業由来の排出を削減するための脱炭素化解決策の幅広いポートフォリオの重要な要素となりうること、また、強固な社会及び環境面のセーフガードを備えた二酸化炭素除去(CDR)プロセスの導入が、完全な脱炭素化が困難なセクターにおける残余排出量を相殺する上で不可欠な役割を担っていることを認識する。〇LNG クリーン・エネルギー移行を加速させることの主要な必要性を認識しつつ、……ロシアのエネルギーへの依存からのフェーズアウトを加速すること、及びエネルギー供給、ガス価格及びインフレーション、並びに人々の生活へのロシアによる戦争の世界的な影響に対処することが必要である。この文脈において、我々は、液化天然ガス(LNG)の供給の増加が果たすことのできる重要な役割を強調するとともに、ガス部門への投資が、現下の危機及びこの危機により引き起こされ得る将来的なガス市場の不足に対応するために、適切であり得ることを認識する。〉

<参照5>〈小山堅 日本エネルギー経済研究所専務理事・主席研究員〉〈G7広島サミットの成果と日本の課題〉〈エネルギー安全保障問題のハイライトの一つはガス・LNG問題。グローバルサウスへの配慮や気候目標との整合性確保に言及しつつ、「我々は、液化天然ガス(LNG)の供給の増加が果たすことのできる重要な役割を強調するとともに、ガス部門への投資が、現下の危機及びこの危機により引き起こされ得る将来的なガス市場の不足に対応するために、適切であり得ることを認識する」との合意を取り付けた。〉

◆UAE ジャーベルCOP28議長から事前に各国に宛てたレター 2023年10月 (23年11月経産省事前レク資料)

〈〇グローバル・ストックテイク 今年は最初のグローバル・ストックテイク(GST)を行うパリ協定実施の重要な年。気候野心サミットは、グローバル・ストックテイクに関する成果物を検討するハイレベル・イベント開催のプラットフォームとして機能する。各国リーダーが、行動、支援、国際協力の強化に関する機会と課題を特定し、重要な政治的メッセージを提供することを期待。〇緩和 COP28の成果の中心であり、1.5度を射程に持ち続けるために重要。我々は明日のエネルギーシステムをどう構築するかを考えなければならない。そして、利用可能なあらゆるソリューションや技術の実装拡大などを通じて、今世紀半ばまでに排出削減対策の講じられていない化石燃料から脱却する未来のエネルギーシステムに向けて取り組まなければならない。〇ロス&ダメージ 優先事項の一つとして、新しい基金と資金アレンジメントが早期に創設・運用されることを確保する必要あり。〇議長国行動アジェンダ エネルギー移行の加速化 *すべての化石燃料の需要と供給のフェーズダウンは重要。今世紀半ばまでに実現する排出削減対策の講じられていない化石燃料から脱却したエネルギーシステムに向けて取り組む必要性があり、特に、石炭に関しては優先度を持って行動が必要。一方で、エネルギー安全保障、経済性、そしてアクセシビリティを確保しながら、実現する必要もある。*世界の再生可能エネルギー容量を3倍(2030年までに11TWに到達)とし、エネルギー効率を世界年平均で2倍(2030年までに4%に到達)とすることについて、すべての締約国に対し誓約(pledge)に参加することを求める。*再エネ3倍・エネルギー効率2倍の実現と、排出削減対策の講じられていない石炭火力の新規認可の終了は、化石燃料の需要のフェーズダウンを可能にし、1.5度を達成可能な範囲に留めるために不可欠。〉

〈参照〉環境省幹部の振返り23年12月談〈〇合意内容について〈グローバルストックテイク(GST)を議論するタイミングで、今回の内容に取り纏めることが出来たことは本当によかった。GSTは地球全体で考えないといけない話であり、「みんなでしないといけないけれど、どうする?」という話だ。そうであれば自ずと、ソリューションにハイライトがあたる。そうすると、まずは再エネをみんなでしましょう、その次は省エネをしましょう、となる。「エネルギー効率」という言葉も今回初めてでてきた。e-fuelや原子力、CCUSまで書いてある。日本が入れ込んだというよりも、結局はソリューションを示す国が日本しかなく、日本の取組み以外にネタがないから、日本の主張するソリューションが評価されて、全て書かれることになったというのが正しい理解だ。この頃はメディアに対しても、「1.5度目標なんて出来ないと思っていたけれど、最近は産業界がいろいろソリューションを出してくれるので、もしかしたら1.5度目標は一旦置くとしても、2050年カーボンニュートラルは出来るかもしれない。日本の技術が流布されるならば1.5度目標もありだな、と思っている」と言っている。メディアも最近では技術を勉強して、ソリューションについて書き始めている。今はペロブスカイト発電や洋上風力、蓄電池がハイライトされており、今後もっと多くの記事が出てくると思っている。〉

年が明けて、日経電子版で「温暖化対策、旗振るべきは経済産業省か環境省か」という記事が出た。あえて、ほぼ全文を引用する。                                                  

〇日経電子版24年1月14日付〈霞が関ノート〉〈霞が関での地球温暖化対策の旗振り役は、環境省なのだろうか。経済産業省なのだろうか。〉〈……COP28が開かれた。化石燃料や再生可能エネルギーなどが注目を浴びた「エネルギーCOP」での主役は経済産業省だ。象徴的だったのが成果文書に入った「transitioning away from fossil fuels」という文言の訳し方だ。メディアはawayの言葉に着目した。化石燃料から離れるなら「脱却」となる。伊藤 信太郎 環境相は記者団にこう話した。「化石燃料からの移行に言及する文書が公表されたことは大変重要だ」。移行なら脱却とはニュアンスが違う。見解を求めた記者団に経産省の官僚がこう答えた。「この10年間は非常に重要な期間でしっかり頑張るものとして定められた」。移行という訳が正しいというわけだ。日本は多くの原子力発電所が再稼働せず、再生エネの導入も遅れている。電源は石炭や天然ガスの火力発電に依存する。脱却ではなく移行を目指すというのは経産省の意見だ。世界各国が「脱却」の方策を競っても、日本は足元では対応しきれない。経産省はエネルギー業界の意見に配慮せざるを得ない。では、環境省は誰の意見を誰に発信するのか。立ち位置の曖昧さが垣間見えた場面もある。伊藤氏はCOP28で中国の解振華・気候変動問題担当特使とは会談する予定があったが、直前に相手が趙英民・生態環境部副部長に差し替わった。会場からはケリー米大統領特使(気候変動問題担当)が出てきたため、解氏と面会したのではないかとみられている。環境省幹部は「趙氏は代表団長なので伊藤氏と同格だ」と語る。出張したUAEは暑い国で、COPの会場は空調が効きすぎなほどひんやりしていた。霞が関にある中央省庁のビルは生真面目なほど温度管理を徹底している。環境省はもっと懸命に、日本の温暖化対策の努力を説明すべきではないか。もどかしさが募った。〉

ジャーナリスト 阿々渡細門

【メディア論評/2月12日】COP28巡る論調〈上〉「~ away from」どう解釈!?


◆COP28の交渉結果

COP28は昨年11月30日~12月13日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された。今回の会議ではいくつかの成果事項があった。パリ協定の目的達成に向けた世界全体の進捗を評価するグローバル・ストックテイク(GST)に関する決定、ロス&ダメージ(気候変動の悪影響に伴う損失と損害)に対応するための基金を含む新たな資金措置の制度大枠に関する決定などが採択された。(以下は環境省、外務省資料などから作成)

〇グローバル・ストックテイク(GST)に関する決定

参考=第1回グローバル・ストックテイ。2023年に第1回を開催。その後は5年に1度、世界全体のパリ協定の実施状況を評価。(パリ協定第14条)。先進国や島しょ国は、各国の定める「2030年目標(NDC)」や「長期目標」は、「1.5度目標」に整合的であるべきと主張。日本は既に「1.5度目標」に整合的。(23年11月経産省事前レク資料) ←環境省幹部(23年12月談)「日本はオントラック」という点をCOPで訴求しようと、経産省と一緒に官邸にもあげた。官邸の受けも良く、岸田首相はCOPにおいて「ジャパン・イズ・オントラック」と述べた。これはインパクトがあり、日本叩きがしづらい状況になった。

<決定事項>

●1.5度目標の達成に向けて25年までの排出量のピークアウト

●全ガス・全セクターを対象とした野心的な排出削減

●各国の判断、事情等を考慮して行われる世界的努力への貢献

・世界全体で再エネ発電容量3倍・省エネ改善率2倍

・排出削減対策が講じられていない石炭火力発電の逓減加速

・エネルギー部門の脱・低炭素燃料の使用加速

・化石燃料からの移行

・再エネ・原子力・CCUSなどの排出削減・炭素除去技術・低炭素水素等の加速

・メタンを含む非CO2ガスについて30年までの大幅な削減の加速

・交通分野のZEV・低排出車両の普及を含む多様な道筋を通じた排出削減

・非効率な化石燃料への補助のフェーズアウトなど 

 〇ロス&ダメージ

 COP27で設置が決定されたロス&ダメージに対応するための基金を含む新たな資金措置を運用化するための決定が採択。基金については、気候変動の影響に脆弱な途上国を支援の対象とすること、世界銀行の下に設置すること、先進国が立ち上げ経費の拠出を主導する一方、公的資金、民間資金等のあらゆる資金源から拠出を受けることなどを決定。

◆COP28閉幕後の記事掲載状況

これに対して、閉幕直後の全国紙は、会議の中で合意に至るまでに激しいやり取りがあった脱化石燃料についての議論を中心に記事掲載した。(一部を紹介)

〇日経新聞23年12月15日付〈COP28 「化石燃料脱却」初の明記〉〈大幅削減 道は見えず〉〈曖昧さ残す「歴史的合意」〉〈……COP28は「化石燃料からの脱却」を成果文書に盛り込む「歴史的な合意」(欧米メディア)を得て閉幕した。化石燃料の削減を促す方針を明記したのは初めてだが、大幅削減への道筋は曖昧でもある。実効性を持たせられるかが試される〉〈「化石燃料時代の終わりの始まり」。国連はCOP28の終幕時にこう総括した。これまでのCOPは石炭火力発電の段階的削減を打ち出したが、すべての化石燃料の扱いは言及していなかった。多くの欧米メディアは肯定的な見出しで報じた。……当初案にあった「化石燃料の段階的廃止」の明記は、サウジアラビアなど中東産油国からの猛反発で見送った。成果文書の前の案にあった「減らす」という文言からは表現は強まったが、廃止は実現できなかった。1.5度目標の達成には温暖化ガスを2030年までに10年比で45%減らし、今世紀半ばにゼロにする必要がある。今回の案では30年に具体的にどれだけ化石燃料を減らすか定かではない。……国連は化石燃料の使用削減を訴えるが、二酸化炭素など温暖化ガスは増え続けている。……1.5度の達成には不十分だが200カ国・地域が温暖化ガス削減目標を共有する意義は大きい。〉

〇毎日新聞 見出しのみ*23年12月14日 付1面〈脱化石燃料化、初の合意〉〈「温室ガス35年6割減」明記 COP成果文書〉22面〈化石燃料時代の終わり〉〈COP28合意 意義大きく〉*23年12月15日付「検証」コーナー〈脱化石燃料 薄氷の合意〉〈COP28産油国に配慮 実効性課題〉〈日本 交渉で薄い存在感〉*23年12月22日付「オピニオン 記者の目」コーナー〈COP28「化石燃料脱却」合意〉〈日本も実現への道筋示せ〉

こうした記事傾向について、経産省時代にはCOP交渉にも携わった有馬純・東京大学公共政策大学院特任教授は次のように評価、指摘する。

〇産経新聞24年度1月15日付「正論」コーナー〈ドバイで行われたCOP28に参加したが、元交渉官としての経験に照らし、評価できる点とできない点がある。報道の多くは「化石燃料からの移行」が初めて書き込まれたことを歴史的成果としている。しかし温室効果ガス削減のための世界的な取り組みとして列挙された8項目の1つであり、これだけを特筆大書するのはバランスを欠く〉〈それ以外にも2030年までに世界の再エネ設備容量3倍、エネルギー効率改善率2倍、ゼロ・低排出技術(再エネ、原子力、炭素回収・利用・貯蔵=CCUS=等)の導入加速、ゼロ・低排出自動車等を含む様々なやり方による道路部門の排出削減が含まれる。新聞は報道しないが、再エネと並んで原子力、CCUSが加速すべき技術として認定されたこと、エネルギー安全保障を確保しつつエネルギー転換するための移行燃料(天然ガス等)の役割が書き込まれたことも史上初めてだ。COP28の成果として特筆大書すべきなのは、これらの取り組みを「それぞれの国情、道筋、アプローチを考慮し、国ごとに決定された方法で行う」としたことだ。COPの世界では「再エネは推奨するが、原子力、CCUSは排除すべき」といった偏頗な議論が幅を利かせてきた。しかし脱炭素化という方向性を共有しつつも、経済発展段階、化石燃料生産国と輸入国など各国の置かれた状況は様々で排出削減の道筋も異なる。評価できない点は世界の気温上昇を「1.5度」に抑える目標の呪縛である。〉〈合意文書にはIPCC第6次評価報告書を踏まえ、1.5度目標を達成するためには世界の温室効果ガス排出量を2025年にピークアウトさせ、19年比で30年に43%削減、35年に60%削減が必要、といった数値が盛り込まれた。……しかし、そのためには23~30年で年率9%、30~35年で年率7.6%の削減が必要だ。……今後の排出削減のカギを握る中国、インド、ASEAN等の新興国・途上国がそれに見合った目標を出す可能性はゼロに等しい。……COP28では化石燃料フェーズアウト(段階的廃止)が最大の争点となった。低炭素化、脱炭素化に向けたエネルギー転換が進むことは間違いない。しかし1.5度目標、50年カーボンニュートラルから逆算して急速な排出削減経路から割り出し、化石燃料の新規投資を排除せよと主張するのは化石燃料が世界の8割を占める現実から乖離しており、……1.5度目標は死んでいるに等しい。……〉

【記者通信/2月7日】23年度新エネ大賞決定 応募・受賞数が過去最多


新エネルギーに関する機器開発、設備導入、普及啓発に貢献した取り組みを表彰する「新エネ大賞」(主催:新エネルギー財団)の受賞式が1月31日、東京・有明で開かれ、過去最多の応募数83件の中から25件が受賞した。受賞数も過去最多だ。最高位の経済産業大臣賞には、パナソニックホールディングス(HD)、パナソニックエナジー、FDの3社による新たな太陽光発電導入方式の取り組みが選ばれた。次点の資源エネルギー庁長官賞は、ビオクラシックス半田、にじまちの2社による「地域バイオマス資源を活用した脱炭素型地域内循環の創出」。このほか、新エネルギー財団会長賞が20件、審査委員長特別賞が3件という結果だった。

新エネ大賞の受賞者が勢ぞろい

経産大臣賞を獲得したパナソニックHDなど3社が開発したのは、特別高圧受電の大規模工場に太陽光発電を導入する際、工事費を大幅に抑制する新たな手法だ。一般的な方式では、地絡事故が発生した際、逆潮流が起きないように瞬時に発電停止の指令を出す「地絡過電圧継電器(OVGR)」を特高部に設置することが必要。これがない場合は、大掛かりな設備改造が求められる。

経産大臣賞を受賞したパナソニックHDなど3社(赤バラのリボン)

一方、本件は2MW級の太陽光発電を自社工場に導入するに当たり、高圧側に高速作動する「デジタル式逆電力継電器」を設置することで、変電所の大幅な改造工事を必要とせず、系統事故時に求められる3秒以内の発電停止を実現した。これにより、工事費の2億円削減、工期の約1年短縮という成果を生み出した。発電設備は昨年4月に稼働を開始。電力購入契約(PPA)によって年間約2000万円の電気代削減、年間1000tのCO2削減を見込んでいる。

今回の受賞では、工事費の大幅な削減や工期の短縮化を実現する先進性、独創性ある取り組みとして高い評価を受けた。ちなみに日本全体の特高受電契約件数は約1万1200件。同様のケースで今回実証したシステムを活用すれば、スピーディーな新エネ導入促進に寄与する可能性がある。3社は、パナソニックの他工場でも同様の効果が期待されるとして導入を検討中だ。

太陽光・バイオマスが7割超 脱FIT・FIP傾向も

今年度の応募傾向として、新エネ分野のうち、太陽光分野が38件と全体の4割以上を占めた。ただ、蓄電池や周辺機器の普及に向けたビジネスモデルが多く、独創性のある新技術の開発は少なかったという。次に応募が多かった分野は、バイオマス分野で、太陽光と合わせると全体応募数の約7割を占める。ここ数年、この2分野が過半数を占める傾向が続いている。

審査委員会委員長を務めた内山洋司氏(筑波大学名誉教授)は、FIT(固定価格買い取り制度)・FIP(市場連動価格買い取り制度)に依存しない新しいビジネスが展開されたことは望ましいとしつつも、「太陽光パネルの多くは輸入品で、これでは日本の産業が育たない。もっと力を入れて普及啓発に努めていく必要がある」と強調した。50年カーボンニュートラル実現に向け、新エネルギーに係る開発技術や知見が一堂に会する「新エネ大賞」からますます目が離せない。