【目安箱/3月14日】原子力推進の旗を振る 高市大臣への期待と不安


安倍晋三元首相が亡くなった後で、高市早苗・内閣府特命担当大臣が保守派の期待を集めている。彼女は新型原子炉へ強い関心を持ち、原子力を支えることを公言する。彼女の関心が、原子力・エネルギーにどのような影響を与えるだろうか。

◆高市氏が持つ原子力の知見

昨年末に、ある原子力立地県選出の国会議員の政治資金パーティーに出席した。どの政治パーティーでも、仲の良い議員が、主催する議員をほめるばかりで、同じような中身であまり面白くない。ただし、そのパーティーで来賓として挨拶した高市早苗氏は少し違った。彼女は話し上手で、人気があり、そして華があるために、出席者は会話や食事を止め、彼女に注目していた。

高市氏は、その議員が原子力問題で頑張っていることに賛辞を送った。「原子力には追い風が吹いています。三菱重工さんが、革新炉『SRZ1200』の開発を、関電さんなど、4社と共に行う良いニュースも出ています。私も核融合をA先生(その議員)と一緒に頑張ります。形になれば原子力への支援はますます広がるでしょう」

高市氏が革新炉の製品名までスピーチに出したことに、筆者は驚いた。そこまで知る議員は数少ないだろう。高市氏は原子力について相当勉強している様子がうかがえた。彼女は、今は内閣府で、科学技術・経済安全保障を担当している。彼女は新型炉、特にそのなかの核融合炉に関心を示している。

彼女の主導で昨年9月、内閣府に「核融合戦略有識者会議」が立ち上がった。日本は核融合について世界トップの知見と技術力を持つが、研究機関、大学、企業、政府がバラバラに動き、産業化という視点は少なかった。それをまとめようとしている。適切な着眼だ。高市氏は多忙にもかかわらず、この会議に全て出席している。皆勤賞だ。

◆革新炉への関心で業界は歓迎

22年に原研の核融合験装置「JT-60SA」が新しく稼働した。高市氏は岸田政権での自民党政調会長として、この装置の予算獲得を支援した。また自民党のエネルギー、原子力担当の委員会、部会の議員を原子力推進派で固めた。

「高市氏の原子力への関心は、革新炉に傾き過ぎ、バランスが悪い。どの種類でも稼働まで早くて十年先の話だ。核融合の実用化は2050年ごろだろう。それよりも今の原子力と日本に必要なのは、おかしな原子力の規制政策の是正と、原子力発電の再稼働だ」(研究者)との声もある。彼女に情報を提供しているのは、夫の山本拓前衆議院議員かもしれない。彼は福井県選出で、地下原発や高速増殖炉もんじゅなど、革新炉に詳しい議員として知られた。

ポスト岸田の有力候補の一人となっている高市氏の原子力への関心は、原子力関係者には歓迎されている。ポスト岸田には、同じ内閣府特命担当大臣として原子力業界を敵視する河野太郎氏もいるだけに、エネルギー関係者の応援が強まるのも当然の流れだ。

◆原子力が政争に巻き込まれる懸念

高市氏は、今は無派閥だが、安倍氏亡き後で、保守派の期待を集めている。ところが、そのためか野党や朝日新聞などの左派メディアは、彼女に厳しい。安倍晋三元首相に向けた敵意を、今は高市氏に向けているかのようだ。

岸田首相は今年1月の国会開会における施政方針演説で「G X(グリーントランスフォーメーション)」で日本経済の姿を変えると意気込みを述べた。今国会はこれを巡るエネルギー論戦、原子力の議論が行われることを筆者は期待した。ところが、この問題への世論の関心は今ひとつだ。それどころか3月初頭に焦点は、内閣府特命担当大臣としての高市氏の進退問題に移っている。

立憲民主党の小西洋之参議院議員が総務省の内部資料を公開。これは安倍政権当時の2014年での放送法の解釈についてのものだ。高市氏は当時、総務大臣として放送行政を所管していた。この文章について、自分の関わる部分について、「捏造だ」と述べた。そしてもし事実としたら議員辞職をするかとの、小西氏の問いに、「結構です」と述べてしまった。そのために話がずれ、彼女の進退をめぐる問題になっている。高市氏の主張が正しいかどうか、3月上旬時点では不明だ。野党やメディアは、彼女の発言を強く批判をしている。

エネルギー業界は、福島原発事故後の原子力への批判、その後の起こったエネルギー全体の自由化の動きによって大きな影響を受けた。「政治に振り回されるのはこりごり。政治や世論の反原発の動きが、沈静化しつつあることにほっとしている」(電力幹部)という状況だ。

高市氏が政治の中心になることで、「再び原子力が巻き込まれないか心配」(研究者)との声がある。高市氏は原子力推進に理解のある有力政治家だけに、彼女を巡る政争によって、原子力、ひいてはエネルギー業界も攻撃を受けかねないというわけだ。政治家としての今後の盛衰が、原子力とエネルギー業界に、微妙に影を落としていくことになりそうだ。

【記者通信/3月7日】再エネ規制シンポ突如中止に 舞台裏で何が起きた!?


太陽光や風力など再生可能エネルギーの乱開発防止を訴える全国規模の住民団体、「全国再エネ問題連絡会」が3月15日に東京都内で予定していたシンポジウムが、土壇場で中止に追い込まれた。

このシンポジウムは「今、再エネ問題解決に必要な法改正は何か」をテーマに、経済産業省、農林水産省、国土交通省、環境省の4省のほか、国会議員や地方議員、有識者らが参加。悪質事業者などによる再エネの乱開発に歯止めをかけるため、①再エネ固定価格買い取り制度(FIT)の改正、②都道府県知事の林地開発許可に関わる森林法の改正、③環境アセス法や地球温暖化対策法における罰則の強化――などを巡り幅広い議論を行う予定だった。しかし、7日になり突如中止が決まったのだ。

同連絡会の共同代表を務める山口雅之氏は、「開催場所である衆議院第二議員会館の会議室が急きょ使えなくなったため」「政治の世界がいかに魑魅魍魎(ちみもうりょう)であるか体感させていただいた。心からお詫び申し上げます」「ようやく自分の限界を知るにいたりました」などとコメント。政治家による何らかの圧力が中止の背景にあることを言外ににおわせた。

大阪府警OBの山口氏は警察を退官後、趣味の山登りなどを目的に、2013年に静岡県函南町の別荘地に移住。そんな中、函南町軽井沢地区の砂防指定地を含む山あい一帯で、トーエネックとブルーキャピタルマネジメントが手掛ける大型メガソーラー計画が浮上した。折しも21年7月3日、同計画地から東へ5kmほど離れた場所にある熱海市の伊豆山で違法盛り土が原因の土石流災害が発生し28人が死亡した。そうした事情もあり、「再エネ乱開発の脅威から、住民の生命と財産を守る」を合言葉に、政治や行政に対し、再エネ規制の強化を訴える活動を精力的に展開してきた。

「再エネ拡大一辺倒だった政策の風向きが変わりつつある。山口さんをはじめとする連絡会の活動の成果といえるだけに、今回の中止は非常に残念だ」(エネルギー有識者)。再エネ適正化政策がこれから本番を迎えようという矢先のシンポジウム中止劇。果たして、舞台裏で一体何があったのか、大いに気になるところだ。

【記者通信/3月1日】自然エネ財団がメディアセミナー 原子力推進の政府方針を批判


再生可能エネルギーの普及を進める自然エネルギー財団は2月24日、メディア関係者に向けたセミナーを開催した。財団の大野輝之常務理事は、政府が10日に閣議決定したグリーントランスフォーメーション(GX)基本方針、およびGX推進法案に対して「基本方針にあるカーボンプライシング(CP)構想は世界の標準と乖離しているのでは」と疑問を呈した上で、原子力を推進する現政府の方針を批判した。

セミナーの後半には「日本の原子力発電:政策の妥当性を検証」と題して、石田雅也シニアマネージャーが解説を行った。その中で、2030年度における原子力発電の政府目標について実現性に無理があると主張。「政府は原子力の発電比率を20~22%まで上げたいとしているが、設備利用率を含めると最大でも15.7%ほどだと考えている。とても現実的ではない」と指摘した。また石田氏は「原子力は将来的に主力電源にはなりえず、補完的な役割を持つにすぎない」と話し、太陽光・風力などの再エネ活用推進を訴えた。

規制値上げに「原発動かせば安くなると思わせている」

その後行われた質疑応答では、各大手電力会社の規制料金値上げの対応について問われると「電力会社は原発を再稼働すれば電気料金が安くなる、と思わせている」(石田氏)と批判。原発の運転期間延長とそれに伴う安全規制の見直しについても「運転停止中でも建物の腐食劣化は進む」として、運転期間から停止期間を除くカウントストップの方針に苦言を呈した。

一方、同席したロマン・ジスラー上級研究員は「原子力に関しては既存インフラを使いたい企業もある。電気料金の値上げと再稼働はケースバイケースで考えるべきだ」と、原子力活用に理解を示した。また、原発運転開始から30年を起点に10年ごとに設備評価をする方針を政府が示したことについては「フランスでも同様の政策が取られているが、事業者側も、検査側も、負担が非常に大きい」と指摘。フランスでは法律による原発の耐用年数は定めておらず、各原発の状況ごとに対応して延長の可否を決めていると述べた。

大規模な再エネ推進を訴える同財団は、原子力活用を目指す政府のGX基本方針に反発しており、14日には「日本の豊かな自然エネルギー資源を最大限に活用する戦略へ一刻も早く転換しなければならない」というコメントを発表している。大野常務理事は「現状で30年の再エネ比率46%は厳しい」と分析。目標達成には抜本的な政策変更が必要だと話した。

【目安箱/2月27日】どうなる再処理施設! 稼働の意義を改めて問う


日本原燃の核燃料再処理施設(青森県六ヶ所村)の完成が近づいている。昨年9月に26回目の完工延期を発表したことは残念だが、同社は「2024年度のできるだけ早く」と工期を設定し、それを目指して全社が一丸となっている。再処理工場が動き出せば、国策として構想されてきた核燃料サイクルが回り始める。これにより、原子力を巡る諸問題が解決に向けて大きく前進することになる。

◆建設開始から20年、完成にめど

日本原燃は、原子力政策の根幹を成す「核燃料サイクル」を担う。1993年に建設を開始したが、短期間試験稼働をしただけで完成に至っていない。増田尚宏社長は今年の年頭に、完工時期を「2024年度のできるだけ早く」と目標を定め「地域の皆様、電力会社との約束である完工を必ず成し遂げる」と表明をしている。

2019年1月に社長に就任した増田氏が、長期停滞していた状況を変え、問題の解決へ前進させたとされる。増田氏は電力・原子力業界では「英雄」として知られる人だ。東日本大震災では東京電力福島第二原発の所長だった。事故を起こした第一原発と同じように津波に襲われたが、彼の指揮でプラントは守られた。

増田氏は、そのリーダーシップを今回も発揮した。原燃は、電力会社の寄り合い所帯でガバナンスに甘いところがあったとされるが、増田氏ら新経営陣はそれを是正しつつある。

工期の遅れは残念だが、これをきっかけに安全性が高く高効率な運用のできるプラントを建設してほしい。規制対応工事は97%まで完成しており、24年の完工目標もかなり余裕を持って設定され、今度こそ予定は達成されそうだ。

◆核燃料サイクルは原子力政策の柱

核燃料サイクルは日本の原子力政策の柱だ。それを支える再処理施設の本格稼働は、日本の原子力の状況を一歩進める。これまで、原子力発電の使用済み核燃料を再処理して再び燃料として使う「資源を有効利用する」という目的とメリットが強調されてきた。

しかし、それに加えて「放射性廃棄物の量を減らす」「高レベル放射性廃棄物の有害さ(放射能レベル)の度合いを低くする」「プルトニウムを消費する」という核燃料サイクルの効果が、今の原子力の状況に前向きの変化をもたらすだろう。

福島事故以来不信の広がった原子力への社会の見方が変わりつつある。現在の電力不足、そして電力価格の上昇で、原子力の大量発電、それによる電力価格の低減効果について、多くの人が認識している。また安全性も、原子力規制の強化によって、事故の可能性が低下していることの認識が少しずつ知られるようになった。

◆使用済み核燃料の量を減らせる

その中で、反対派の批判は、使用済み核燃料などの原発で出る放射性廃棄物の問題が中心になりつつある。その処理が決まらないことへの批判だ。それに一般の人々が引っ張られ、不安を抱いているようだ。再処理の実施は、この問題の解決に向けて、状況を変える。

再処理施設が動き出せば、使用済み核燃料の量を減らせる。現在、この燃料の総量は1万8000tに上り、その大半は各原発の使用済み燃料プールに置かれている。再処理によってその量が減り、7分の1程度の高レベル放射性廃棄物のみを処分すればよくなる。この燃料の総量は、現在保管可能量の7割を超える。再処理が進めばプールに余裕もでき、原発の再稼働もしやすくなるだろう。

高レベル放射性廃棄物の最終処分地については、北海道で文献調査に2自治体が立候補するなど、変化の兆しが見られる。すぐに解決できる問題ではないが、処理すべき物質の量が大きく減れば、建設もしやすくなる。

またプルトニウムは核兵器の材料になり、放射線量の高い危険な物質だ。日本は原子力の平和利用に際して、これを核兵器に使わず、減らすことを国際的な公約にしてきた。再処理が進み、余剰プルトニウムの量を減らせれば、各国からの懸念や批判がなくなる。中国などは日本のプルトニウムの大量保有を批判している。また、革新炉開発の推進を背景に、わが国で高速炉の開発が再び進むことになれば、その燃料を抽出する再処理の開始の意味がさらに大きくなるだろう。

◆早期稼働で反対論に再考迫るか

福島原発事故の後の混乱はいまだに続いている。ただし、岸田政権における原子力政策の転換、そして世論の原子力への期待など、ようやく変化が始まった。核燃料サイクルの完成は、そうした変化を加速させる。

なぜか核燃料サイクルを目の敵にする人は多い。反原発の立場の人だけではなく、原子力の活用を認める人でも、使用済み核燃料の直接処分を主張する人、プルトニウムの利用を嫌う人が、日本だけではなく、世界的にいる。しかし、これまで述べたように、核燃料サイクルには多くのメリットがある。再処理施設を完成させ、さまざまな利益を生み出していけば、その反対論にも現実が再考を迫るだろう。

原燃が適切な形で1日も早く、再処理工場を竣工させることを期待したい。がんばれ日本原燃!

【記者通信/2月24日】狙うはガス屋を超えたガス屋か 東ガスが新中計を発表


東京ガスの笹山晋一副社長が12月の社長交代会見で表明した「ポートフォリオ経営」の全容が明らかになった。東ガスの内田高史社長と笹山晋一副社長は2月22日、東京・大手町で会見し、2023年度から25年度までの新中期経営計画を発表した。

会見する内田社長(左)と笹山副社長

それによると、23~25年度を同社グループのビジネスモデルを変革する期間と位置付け、グリーントランスフォーメーション(GX)・デジタルトランスフォーメーション(DX)・お客さまとのコミュニケーション変革(CX)を軸に、①エネルギー安定供給と脱炭素化の両立、②ソリューションの本格展開、③変化に強いしなやかな企業体質の実現――という三つの主要戦略を実行していく。その際、「収益性=エネルギー事業から創出されるキャッシュフローの最大化」「成長性=新たな成長領域であるGX・ソリューションなどにキャッシュフローを積極投入」「安定性=リスク・リターン特性の異なる複数の事業を育成することで、グループ全体で事業安定性を確保」の視点で、事業ポートフォリオマネジメントを強化する狙いだ。

四つの社内カンパニー体制へ トップ人事も発表

主要戦略の具体的取り組みを見てみると、次の三つの取り組みが注目される。まずは脱炭素ソリューション組織「GXカンパニー」の新設だ。同カンパニーでは、e-メタンの大規模サプライチェーンの構築や水素製造用の低コスト水電解セル・スタックの商用化のほか、浮体式洋上風力など新たな収益源の獲得に向けた再エネ電源の獲得などを手掛けていく。同社のエネルギートレーディングカンパニー、カスタマー&ビジネスソリューションカンパニー、海外事業カンパニーと並ぶ四つ目の社内カンパニーとなる。現行の中計で掲げている「ホールディングス型グループ体制への移行」を背景に、将来的な分社化も視野に入れているもようだ。

なお、同日発表された東ガスの役員人事によれば、海外事業カンパニー長(代表執行役副社長)に糟谷敏秀・執行役専務、GXカンパニー長(代表執行役副社長)に木本憲太郎・専務執行役員、カスタマー&ビジネスソリューションカンパニー長(代表取締役副社長)に小川慎介・専務執行役員、エネルギートレーディングカンパニー長(専務執行役員)に棚澤聡・常務執行役員が、それぞれ4月1日付で就任する。

二つ目は、ソリューションに関する統合事業ブランドの構築だ。顧客に提供する価値を「レジリエンス」「最適化」「脱炭素」と再定義。顧客にとって分かりやすく、体系化されたソリューションを新ブランドで提供する。「社名とは別物になる」(笹山副社長)と言い、名称やロゴなどは今後発表する予定だ。

そして三つめが、本社の法人営業機能を東京ガスエンジニアリングソリューション(TGES)に集約することだ。これによりソリューション営業の全国展開を強化、顧客と共に「環境価値の向上・事業継続性の強化・事業生産性の向上」という事業変革を推進していく。25年度時点でソリューション売上高約2100億円(3年間で10%増)を目標に掲げている。

25年度に利益1500億円 薄まる「天然ガス」の存在感

こうした取り組みによって、20~22年度平均で1300億円(内訳=エネルギー50%、ソリューション等25%、海外25%)のセグメント利益(営業利益+持ち分法利益)を、25年度には1500億円(エネルギー60%、ソリューション等25%、海外15%)に引き上げることを目指していく。

余談になるが、東ガスの広瀬道明会長は2月1日、東京・銀座で行われた講演会のあいさつの中で、4月1日付で発足する笹山社長体制に言及し、「トヨタの豊田章男社長は(トップ交代の会見で)『クルマ屋を超えられない。それが私の限界』と言われたが、笹山さんにはガス屋を超えたガス屋になってほしい」とエールを送った。新たな中計には、その方向性がはっきりと浮かび上がっている。実際、プレス向けに配られた32頁の説明資料から読み取れるのは、「天然ガス」という4文字の存在感が薄まりつつあることだ。そう遠くない将来、歴史的な社名変更が行われても不思議ではないだろう。

【記者通信/2月24日】JERA可児・奥田両氏のツートップへ 「共同CEO」でグローバル企業目指す


JERAは2月22日、4月1日付で佐野敏弘会長、小野田聡社長が退任し、可児行夫取締役副社長執行役員が代表取締役会長・グローバルCEO(最高経営責任者)に、奥田久栄副社長執行役員が代表取締役社長・CEO兼COO(最高執行責任者)に就任するトップ人事を発表した。

JERA本社で会見した可児(左)、奥田両副社長

東京電力出身の可児氏は、資源確保やエネルギー事業開発といった豊富な海外経験を有することを強みとする。片や中部電力出身の奥田氏は、経営企画の経験をベースに他社とのアライアンスなど従来の電力会社の企画部門の枠を超えた多彩な経験を持つ。同日の会見を通じて強調されていたのは、両氏の異なる強みを生かした「相互補完」により強力な執行体制を実現し、事業を取り巻く環境が激変する中においても、グローバルなエネルギー企業へと着実な成長を果たすという強いメッセージだ。

世界的な脱炭素化の潮流が加速する一方で、足下では燃料調達や国内の電力価格の安定化という課題に直面している。可児氏は、「世界最大級のLNG調達力を生かし、(上流から下流に至る)LNGバリューチェーンを構築し不測の事態に即応できる日本にとっての保険機能を備えていく」とした上で、「大規模な再生可能エネルギーの開発、水素・アンモニアのバリューチェーンを構築することで日本から世界の脱炭素社会への移行をリードしていきたい」と抱負を述べた。

グローバル企業を目指していく上で、気になるのが親会社であると東電ホールディングス、中電との関係だ。これについて奥田氏は、「両社は株主であると同時に電力の取引先でもある。取引先という点では、徹底した内外無差別の付き合い方をしているし今後もこれを継続していく。株主という観点では、企業価値を高めることで株主の利益になるよう経営をしていくというポリシーが変わることはない」と強調した。

【目安箱/2月22日】電力・原子力界に敵意!? 河野消費者相への懸念


岸田文雄内閣でデジタル相兼内閣府特命担当相(消費者および食品安全)を務める河野太郎・自民党衆院議員への世間の注目度は依然として高いものがある。政権の支持率が伸び悩む中、後継首相との声も根強い。しかし、電力・原子力業界に向けられる「ある種の異様な敵意」(大手エネルギー会社関係者)が気がかりだ。

「核燃料サイクルを潰す」と公言

旧聞になるが、エネルギーフォーラム2016年12月号に掲載された河野氏のインタビュー記事を読み、電力業界に対する辛辣な言葉に驚いたことがある。当時、河野氏は安倍政権で行政改革相を離任して一議員に戻っていた。専門誌の取材で、強いメッセージを伝えようと思ったのだろうが、あまりにもエキセントリックだ。引用してみよう。

「電気事業連合会は『反社会勢力』と同じだ。任意団体であり、運営や財務内容も公開していないのに、政治に影響を及ぼそうとしている」

「私は反原発ではないが、原子力政策の根幹である核燃料サイクル政策は間違いだ。国民に膨大な負担を与えるのに推進されている。この政策を潰す。そのために首相になりたい。首相なら国策を動かせる」

「私は情報を公開し合理的に政策を進めろと、当たり前のことを言っている。それなのに電力会社や経産省が反発してくる」

業界は「河野氏の一挙手一投足」を注視

河野氏は以前にも外務、防衛、ワクチン担当など、注目される大臣職を歴任している。安倍晋三、菅義偉、岸田文雄の3代の首相が評価し、SNSのツイッターのフォロワーの数も1月末で267万人と国会議員トップであり、国民の注目度も高い。

そして今、河野氏は消費者相として、電気料金の上昇を問題視している。1月13日には、家庭向け電気料金の値上げを経済産業省に申請している大手電力4社をヒアリングした。値上げの認可過程での聴取は異例だ。メディアは、これを大きく取り上げ、まるで河野氏を支援しているかのようだ。

今回の値上げ申請は、決して大手電力が不当な利益を得ようとして行うものではない。昨年から歴史的な燃料費の高騰が続き、燃料費調整条項の上限に張り付いてた「規制料金」の赤字状態を解消するために行うものだ。国内のさまざまな企業がコスト上昇分を末端価格へ適正に転嫁していくことは、岸田政権の重要政策にもなっている。しかし、こと電力に関しては、河野が値上げに絡んで事業者を攻撃してくる可能性は否定できない。折しも大手電力会社による価格カルテルや不正閲覧問題が世間をにぎわせている最中だけに、「河野氏の一挙手一投足をかたずをのんで注視している」と大手電力幹部は言う。

とはいえ、前述のようにそもそも業界への敵意を持つ人が、国家権力を背景に介入を行うのは、行政の中立性、公平性が疑われる行為だろう。河野氏はその役職ごとに電力・原子力の無駄遣いを攻撃、再エネを支援する動きをしてきた。「世論やメディアを煽って電力業界を悪者にし、痛いところを突いてくる」と、同幹部は苦々しげに河野氏の態度を批判していた。今回の騒ぎでも、そんな気配を感じざる得ない。

自民党内にくすぶる反発 業界とは建設的対話を

こうした河野氏の電力・原子力への敵対姿勢には、反発も大きい。21年9月の自民党総裁選挙で、河野氏は岸田首相に敗れた。原子力施設が立地する自治体は全国で12道県になる。これらの地域の自民党支部、国会議員はそろって河野氏に投票せず、その地域の党員票は伸びなかった。河野氏は「反原発ではない」と繰り返したが、これまでの態度と発言をみれば原発嫌いは明らかであり、これらの地域の政治家も自民党員も反発した。

そして河野氏は政界で孤立気味だ。麻生派に属するが、エネルギー政策に理解の深い同派の甘利明・前自民党税制調査会長や山際大志郎・前経済再生相は、河野氏のエネルギー政策を公然と批判していた。派閥トップの麻生太郎元首相も河野氏を強く支援しなかった。菅内閣では再エネ振興と脱原発で協調して2人で「KK」と呼ばれた、小泉進次郎・前環境相も人気は現在急降下している。

河野氏の電力・原子力ムラへの批判には、確かにうなずける部分もある。ところが、その過激な発言・行動ゆえに攻撃性が目立ち、感情的な対立構造に陥りがちだ。「河野さんがこちらを潰しに来ているのだから、当然強く反発する。落ち着いて冷静に対話をする意向はあちらにない」と前出の電力幹部は話す。

河野氏は、聡明な政治家だ。日本に原子力が必要であり、その体制が核燃料サイクルによって組み立てられていること、それが米国などとの協議の上で成立していることは、重々承知しているはずだ。核燃料サイクルは、核兵器の材料になりかねないプルトニウムを、使用済み核燃料から分離し、それを加工して再び原発の燃料にするという政策だ。余剰プルトニウムを持たないことは米国など核保有国との約束であり、高レベル放射性廃棄物の最終処分地も決まらない中で日本が核燃料サイクル政策を中止したら、日米同盟を含め外交関係を揺るがしかねない。

河野氏が電力・原子力問題について、個人的な思いを封印し、岸田政権の閣僚の一人としてエネルギー関係者と建設的な対話を進め、国益にかなう未来づくりを行うことを切に望む。

【記者通信/2月13日】再エネを巡り国策捜査!? 怪しげな話が次々表面化


再生可能エネルギービジネスを巡る怪しげな話が立て続けに浮上している。

三浦瑠麗氏の夫の会社が強制捜査

国際政治学者の三浦瑠麗氏の夫が経営する投資会社のトライベイキャピタル(東京)が1月に東京地検特捜部の捜査を受けた。太陽光発電を巡る約10億円の詐欺容疑という。この案件は相手方と民事で係争中のようで、刑事での強制捜査の並行はかなり異例だ。三浦氏は社会的な批判を受けて活動を自粛している。

三浦氏は菅義偉政権時に発足した成長戦略会議のメンバーだった。ここで彼女は太陽光発電の拡大について政府によるテコ入れを主張していた。筆者は、彼女の夫が太陽光に関係しているとその当時から知っていたので、その行為とそれを許した菅政権に違和感を覚えた。

ただし成長戦略会議は2021年10月に菅政権が退陣した。同会議は次の岸田文雄政権では「新しい資本主義検討会」と「G X検討会議」に変わり、三浦氏は再任されなかった。同年6月にまとまった中間報告でも太陽光の支援は従来の政策の延長となり、彼女の主張は反映されなかった。

東京地検特捜部は、昨年から再エネ関係の企業を続けて捜査している。小泉純一郎元首相、小泉進次郎衆議院議員と近かった、太陽光発電会社のテクノシステム(横浜市)の経営陣が一昨年に詐欺容疑で逮捕、有罪となった。再エネ企業が集まり、政界との関係を築いていた大樹総研(東京)を、特捜部は昨年初頭に捜査した。三浦氏の夫も、同総研に関係していたという。特捜部は再エネと政治に絡んだ刑事事件を追っているのかもしれない。世論を誘導するために、捜査情報を少しずつメディアに漏らしているようだ。

自民党・秋本議員に再エネに絡む株取引の疑惑浮上

もう一つは自民党の秋本真利衆議院議員、外務政務官の疑惑だ。2月2日の衆議院予算委員会で立憲民主党の源馬謙太郎議員が追及した。

2021年12月に経産省が洋上風力の入札を行った。三菱商事が3カ所で全て落札する結果になった。その後、落札できなかった再エネ事業者が自民党再エネ普及拡大議員連盟の秋本議員らにロビー活動を繰り広げるなどしてルールが変わった。安い価格で発電できる事業者が有利だった入札の仕組みを、運転開始時期などのいろいろな仕組みを加えて、小規模事業者でも有利な仕組みにしたのだ。当時から、政治の強い介入がうかがえた。

源馬議員によると、秋本議員は3年間で再エネ事業者から多額の献金を受けていた。加えて、その入札に参加した風力発電会社レノバの株を安値の時期に購入していたという。その後に同社株は急騰した。秋本議員は、献金と株の売買の事実を認めたが、利益が出たかは、明らかにしなかった。

源馬議員は、「利害関係者による利益誘導」と批判した。そうした疑いは当然だろう。秋本議員のさらなる説明と、今後の全容解明が待たれる。

巨額の補助金でスキャンダル事案は当然起こる

このように再エネを巡ってはスキャンダルめいた話が増えている。補助金を使って再エネを増やす従来の振興策、そして再エ固定価格買い取り制度(F I T)がもたらしたものだ。企業努力やイノベーションではなく、制度をいじって利益を増やそうという動機が、事業者に生まれてしまう。

再エネには多くのメリットがある。それを適切な形で増やすべきだが、大量に無計画に導入してしまったため、エネルギーシステムが混乱している。

22年にFITで流れた補助金は3兆6000億円の巨額だ。そして電気料金の上昇が問題になっている。その一因は再エネ賦課金だ。1世帯あたり月2000円近く、電気料金の1割以上を占める状態になっている。利用者が支払った賦課金の行き先は、再エネ発電事業者だ。この制度の見直しに政府・自民党が動かない理由に「利権」があるとしたら、国民感情的にも、倫理的にも許されない。

再エネに関わるのは真面目な事業者が大半ではあるが、その中にはルールを破る人がいて、周囲には怪しい政治家がウロウロしているのだ。

「国策捜査」の狙いは再エネか?警戒が必要

元外交官でベストセラー作家になった佐藤優氏に『国家の罠』(新潮社)という著書がある。佐藤さんは大物政治家、鈴木宗男氏(現衆議院議員)のロシア疑惑に関係して捕まる。この中で、佐藤氏を取り調べた検事が、検察は時代の転換を促す「国策捜査」を行うと話す。ただし、ターゲットは検察官ではなく世論が決めるという。

役人が威張る不気味さ、危険さ、傲慢さを感じるが、印象的な言葉である。この言葉通り、検察が変に張り切り、時として暴走することはあり得るだろう。

この10年を振り返ると、とにかく再エネが優遇された。再エネ事業者の大半は真面目に法律に基づいて事業を行っている。ところが行き過ぎた一部の人の行動が各所で目立ち、社会問題を起こしている。外資系企業の動きもある。それを批判する声が社会に広がり、それを背景に再エネ絡みの事件を摘発しようと、検察が張り切り、時代を変えようとしているのかもしれない。

真面目に再エネに取り組んでいる人には迷惑な話だ。違法行為に走った再エネ事業者は処罰の覚悟を、そして社会問題化しかねない「グレー」(灰色)の行動をしてきた人は自粛を、真っ当な事業者はとばっちりを警戒をすべきだろう。時代の転換がやってきているのかもしれない。

【論考/2月1日】建築物省エネ法が脱炭素の次の妨害者か!?


日本の省エネルギー、ひいては脱炭素に大きな役割を果たしてきたのが省エネ法(経済産業省資源エネルギー庁所管)/建築物省エネ法(国土交通省住宅局所管)という対になった法律がある。このうち省エネ法は2022年に石油危機以降の燃料消費中心の規制ルール(いわゆるキロリットル主義)から脱炭素に寄り添う形でリフォームされたのは知られたところである。何しろ法律の名前自体に「非化石エネルギーの活用」という概念が加わって変わったのである。

昨年の省エネ法改正は画期的だった

これによって「再エネが系統電力のエネルギー原単位として反映されていないことから、再エネ電源により低炭素化が進んだ電気の使用が進まず脱炭素を妨害しているのではないか」という批判には耐えるようになり、むしろ大胆な改正によって再エネ導入を後ろ押しし、かつ系統電力から再エネを引き込む「上げDR」も呼び込める法律へと画期的に変わったと評価できるものであり、すでにエネ庁分散型電力システム検討会で需給に貢献する「下げDR・上げDR」の省エネ法上の評価を具体設計しているのも特筆に値する。

それとともに、省エネ法運用上の長年の焦点だったいわゆる神学論争(建物新設時の選択によってエネルギー効率はどう変わるか、についての結論の出ない論争)も、電気利用の中の再エネウェイトが常態的に上がり、火力発電の閉鎖が中長期にわたって続くことを反映して火力平均の原単位から全電源原単位に改定された。火力平均の数値自体も低効率の石炭・石油の閉鎖や高効率機シフトが反映されていない状態が解消され、需要サイドの脱炭素化に貢献する電気利用の高い効率機器の評価がようやく正常化された改定であった。

需要サイドの電気利用機器は、高効率化以外に、再エネ大量導入時代に不可欠な需要サイドフレキシビリティの拡充に貢献できる唯一のエネルギー利用機器という面があり、その導入遅れはロックイン効果(一度建物に入った機器は炭素税などの環境変化の影響を受けず、長い期間変更されないこと)を生む。省エネ法改正は、それに歯止めをかけたといえる。

建築物省エネ法は2025年まで原単位改定を反映せず

このように前向きな改正がプレーヤーの動きに反映されつつある省エネ法に対して、対となる法律である建築物省エネ法も合わせて改正された。一番大きな変更点は断熱基準をはじめとする省エネ対策の強化であり、2021年の内閣府タスクフォースでの激しいやり取りから改正に至ったのは記憶に新しいところだ。全ての建築物について省エネ基準への適合義務を課す、というこの内容は、建物の3割を占める木造建築物の省エネ性能向上に大きく貢献することが期待される。「断熱は最大の暖房機器」と言われるゆえんである。

その一方で、建築物省エネ法上での一次エネルギー換算係数については、省エネ法との整合を基本とするはずのこの法律で、全電源平均への改定が25年まで棚上げされた、というより永遠に放置のおそれさえある。内部事情を察するに、①関連業界の協力が不可欠な省エネ基準適合義務化の円滑な導入を最優先するため、②またエネルギー機器まで巻き込んで業界構造が変わりかねない原単位問題まで関わってはいられないという当局の事情、③さらには脱炭素への協調で大胆すぎる経産省だけに付き合っていられないという気持ち――もわからなくもない。

しかしながら、この改定の遅れ、しかも25年まで棚上げというのは25年まで建築物省エネ法が脱炭素貢献のある機器・システム転換を妨害し、ロックイン効果を助けていく、と言っているのに等しい。これでは省エネ法と対にはなっていない。25年という固定化によって、技術や情勢変化に対して硬直的であることもさらなるイノベーションを阻害する効果を持つかもしれない。

脱炭素の鍵は一つ一つの建築物にあり 

目下のエネルギー危機は、日本中の一つ一つの家屋、企業の建物に「エネルギーコストにどう向き合い、どう投資してどう戦うか」を考えさせる機会となっている。節約もDRも方法の一つだが、断熱や太陽光・蓄電池によるプロシューマ化の方がはるかに大きな投資効果を持つ。

電気機器やガス・石油機器に関わる多くの産業は国民の前向きなアクションを助ける産業でなければならず、建築業界ももちろん同様だ。省エネ法と建築物省エネ法は国民のアクションを引き出すために不可欠なルールインフラを提供するものであり、その改正は確実に浸透させて、いわば日本の脱炭素化の基礎付け(マクロ・ファウンデーション)を形作らなければならない。

その「国民のために」という基礎に立って、業界調整をはじめ多くのハードルを乗り越えてこそ、脱炭素に貢献するエネルギー機器・建築産業、政策当局であり続けることができるのではないだろうか。

西村 陽  大阪大学招聘教授

【目安箱/2月1日】脚光浴びる九州の電気料金 製造業に魅力的な地域へ


九州というと、どのようなイメージがあるだろうか。

五つの県ごとに県民性も特徴的も違うが、東京に長く暮らす筆者には、「豪快さ」「先見性」「外国に開かれた」「開明さ」の印象がある。そして、今のビジネスパーソン各所で「九州の電気が安い」という点を話題にしている。その特徴によって、現実の経済が動き始めている。

◆原子力活用し料金を据え置き

正確にいうと、九州電力の電気が安くなったのではなく。他の電力会社が値上げをする中で、九州電力が据え置いていることで、相対的な割安感が出ている。これが長期化しそうだ。この数カ月、九州、中部、関西を除く大手電力7社が値上げ申請に踏み切った。その結果、2023年度は九州の電気料金が家庭・業務向けでも、産業向けでも最も安くなる見込みだ。

九州電力は産業用電力(高圧)の料金を1㎾時当たり10~12円にしている。現時点でのそれは関電で14~15円、東電で15~16円だ。東電は値上げによって20円近くになる見込みだ。九州電の産業向け料金が東京や他地域の6割程度になれば、製造業にとって九州は魅力的な立地場所になる。この差は、原子力発電の活用の違いによるものだ。

電力各社は、ウクライナ戦争後の化石燃料価格の高止まり、原子力発電所の稼働の遅れ、円安などを背景に決算が軒並み悪化した。大手電力会社は支出の4~5割を、火力発電の燃料費が占めるという他産業にない企業構造となっている。急激な化石燃料の値上がりは、経営努力でなかなかカバーできない。九州も22年度の収益は黒字を保つものの、減益見通しの厳しい状況だ。それでも原発の稼働が通常に戻る見通しであることから値上げには動かなかった。

◆いち早く原発をフル稼働、価格に影響

九州電は現状で四つの稼働可能原発を持つ。玄海原発3号機(118万kW)が2022年12月に発電を再開した。川内原発1、2号機(各89万kW)は運転しており、玄海4号機(118万kW)も今年2月には稼働を始める見通しだ。玄海1、2号機は廃炉にしたため同社は原発4基体制だが、それらが活用される。

稼働中の九州電力川内原発(鹿児島県)

東京電力の福島第一原発事故の後に、原子力規制体制の見直しと過剰規制、審査体制の混乱で、原子力発電の稼働が遅れた。九州電力は、行政に抵抗せず、言うとおりにして早期再稼働を進めた。規制当局の政策がおかしかったので、九州電力の対応は変だと当時の私は思った。しかし経営は結果が全てだ。今の稼働の状況を見ると、九州電力の対応は正しかったと言える。一方で反原発派の妨害に対して、同社も立地自治体も右往左往せず、粛々と再稼働の手続きを進めた。この結果は、電気料金に効いてくる。

九州での電力の安さが半導体工場建設の一因

熊本県では半導体生産の世界最大手TSMC(台湾積体電路製造)の工場建設が進む。同社は日本国内で熊本県内を候補に、もう一つの工場の建設を検討している。またソニーも同県内に昨年6月に半導体の新工場を建設し、もう一つの建設を同県内で検討している。半導体が世界中で不足しているが、この経済環境で再び日本が生産拠点として注目されている。

半導体は安定・廉価な電力供給を必要とする。熊本は豊富できれいな地下水があり、県などとの協力、九州大と熊本大などの地元大学と半導体産業が協力して工学系の人材を供給するなどの取り組みを重ね、1970年代から半導体工場が集積していた。そうした背景が半導体工場新設の背景にある。蒲島郁夫知事は1月に台湾のTSMCを訪問し、トップセールスで第二工場建設の検討を依頼し、県のできる協力を行うことを申し入れている。

しかし、それに加えて両社の決定には、安定的に供給され、安い、九州電力の電気が一因となっただろう。

ある家電事業を縮小し、海外生産を増やしているメーカーの幹部に昨年末に取材した。関西と関東に工場があるものの「電力の値段が高いため、関東の工場に海外から生産を戻せない」と話していた。

◆九州人は利益をたっぷり出し、モデルケースを作ってほしい

原子力・エネルギー政策に関しては、福島原発事故の後で、感情的な反発が渦巻いて、政争の道具にもなってしまった。先ほど述べたように、九州人の開明性が、この問題に冷静な対応をもたらしたのかもしれない。他電力の原子力発電の稼働が遅れがちなために、この九州電力の料金の相対的な安さは、10年単位の長期にわたって続きそうだ。

他地域の企業やビジネスパーソンにはうらやましい状況だが、九州の人々は、この電力の利点を大いに活用して日本経済を引っ張ってほしい。そして電力を巡る冷静な議論を促す成功例を作ることを期待したい。

【記者通信/1月24日】東電が規制料金29.31%値上げへ 鍵握る柏崎10月再稼働


東京電力ホールディングス(HD)と東電エナジーパートナー(EP)は1月23日、低圧向け経過措置料金(規制料金)について、平均29.31%の値上げを経済産業省に申請したと発表した。6月からの実施を目指す。低圧自由料金についても、規制料金と同額になるよう平均5.28%の値上げを行う。値上げ対象は約1000万件とみられ、値上げ申請は東日本大震災後の2012年以来11年ぶりとなる。

1月23日の会見で規制料金の値上げを表明した東電HDの小早川社長

同日に行われた記者会見で東電HDの小早川智明社長は、燃料価格・市場価格高騰に伴う電源調達費用の増加を値上げの理由に挙げた。東電EPの規制料金は燃料費調整単価の上限張り付き状態が昨年9月から続いており、赤字供給を余儀なくされている。小早川社長は「この状態が続くと、23年度で2500億円ほどが東電EPの負担になる」と言う。昨年6月末には67億円の債務超過に陥り、東電HDが引受先とする2000億円の資本増強したものの、今年度末の経常損失は5050億円に膨れ上がる見通し。規制料金の値上げを目指すとともに、1月末を期日とする3000億円の追加増資を決定することで収支悪化による財務基盤の改善を目指す。小早川社長は「このままでは電力の安定供給に支障を来す恐れがある。本意ではないが、(値上げの)苦渋の決断に至った」と理解を求めた。

昨年には東北、北陸、中国、四国、沖縄(高圧含む)の大手5社が経産省に対し、規制料金の改定(平均値上げ率、東北32.94%、北陸45.84%、中国31.33%、四国28.08%、沖縄40.93%)を申請している。今回の規制料金値上げで、東電EPはおよそ3000億円の収支改善を見込む。値上げに当たっては、東電EPで新たに年平均2642億円の経営効率化を織り込み、老朽火力を契約対象電源から除外するなどして固定費を削減。代わりに高効率火力などからの新規調達を行うことで購入電力量の抑制を図る。

原発稼働なければ再値上げか どうする第四次総特

一方で「お客さまの負担軽減のために原発再稼働を一定程度織り込んだ」(小早川社長)とする柏崎刈羽原発。7号機は今年10月、6号機は25年4月稼働を前提とした原価算定をしているが、今のところ再稼働のめどは未だ立っていない。小早川社長は「再稼働の時期を約束するものではない」としているが、再稼働が出来なかった場合の対策については「徹底した経営合理化を行う」と話すにとどめている。

「柏崎刈羽の10月再稼働が実現できるかどうは、正直全く分からない。東電のさらなる重大ミス発覚や設備トラブルなどが起きれば、途端に10月再稼働は危うくなるだろう。もし原発が想定通りに動かず収支が悪化すれば、再値上げや再追加増資の可能性もあり、その時は『負担軽減のためという説明は何だったのか』と相当な批判を浴びるだろう。であれば、今回はあえて再稼働を織り込まない水準で上げるだけ上げておいて、稼働した際に速やかに値下げするほうが、需要家の納得感を得やすいのは間違いない。東電経営陣はそのあたりの判断を読み違えたと考えている」。元東電幹部はこう警鐘を鳴らす。

余談だが、東電EP救済のための増資計5000億円は、平時であれば福島の賠償に充てられる資金だったはずとの見方もある。そもそも『2022年度までに(小売事業の)利益減少に歯止めをかける』としていた第四次総合特別事業計画とのかいりをどうするのか。東電EPの大幅な赤字拡大によって、同計画の見直しは避けられないだろう、需要家のため、福島のため、そして東電グループ社員のためにも、現経営陣の責任において経営の早期健全化を図っていくことが求められる。

【目安箱/1月24日】中国の元気な原子力産業 23年に建設中が30基


中国の原子力産業が元気だ。国営企業の中国核工業建設(中国核建)が昨年末に、2023年の予定を発表した。建設中の原子力発電所が同年に同国内で30基以上になるとの見通しを示した。国の計画である「第14次5カ年計画(2021-25年)」末には40-50基に達する可能性があるとしている。日本の原子力産業は大丈夫なのだろうか。

建設中の田湾原子力発電所7号炉(中国江蘇省、中国核建プレスリリース)

◆海外輸出も成功

日本の原子力で今建設中なのは、Jパワーの大間原発(青森県大間町)のみだ。東京電力の東通原発(青森県東通村)の建設は止まってしまった。日中間でここまで建設数に差があると、産業の未来に影響が出てしまうだろう。

中国核建は、海外輸出も積極的で、パキスタンでこれまで2基の原発を完成させている。一つは同社の独自技術の新型炉「華龍1号」だ。中国では多くの産業で、複数の企業を育成して競争させている。他に国家核電技術公司という、米国ウェスティングハウス(WH社)の新型軽水炉AP1000をベースにした新型原子炉を建設する会社もある。ここも現在国内で6つの建設を進め、海外に売り込みをしている。

西側諸国では、ウクライナ戦争後の脱ロシアや化石燃料の高騰対策で、政治主導で原子力発電を復活させようとしている。しかし、なかなかうまくいっていない。どの国でも、長い間建設が少なかったために、企業の技術力が衰えているのだ。世界トップクラスにあった日本でも、福島原発事故の後の原子力を巡る混乱で事情は同じだ。日本の負けは、西側の負けということになる。

中国の技術のベースになっている、仏のフラマトム(旧アレバ)のEPR(欧州加圧水型原子炉)、米ウェスティングハウス(WH)の新型炉AP1000が建設されたのも、本国ではなく中国が先だった。

ちなみにウクライナへの侵略で西側諸国に経済制裁を受けているロシアは、第三世界への原子力の輸出には積極的だ。22年には、エジプトで2基のロシア企業による原発建設の許可が下りた。

◆なぜ中露企業の輸出が成功するのか

中露企業の原子力で海外の販売が成功している理由は、報道されているところでは、価格の安さと「おまけ」の多さだ。原子炉以外に、中露企業は技術者育成の支援を行い、ロシア企業は同国による核燃料の再処理まで提案している。さらに軍事援助、経済援助もリンクさせる。

安さの点では、福島事故後に西側諸国は安全対策費とコストが跳ね上がった。日本円換算で4000億円程度の建設費が数倍に跳ね上がっているようだ。

フィンランドで、アレバとシーメンス(当時)が2000年から建設を始めたオルキルオト原発3号機は、規制対応に加えて工事・設計ミスもあって完成が遅れ、営業運転を開始したのは22年3月になった。総建設費は当初見積もりの約30億ユーロ(約4200億円)から推定約85億ユーロ(約1兆1900億円)へと3倍近くに膨れ上がり、受注したアレバはそのため経営危機になり、政府の救済で新会社フラマトムが作られる混乱が生じた。

日本の原子力でも過剰規制によって原子力の再稼働が遅れ、電力会社の経営が苦しく、また電力料金の上昇に国民は直面している。

中露企業の建設費の詳細は不明だが、こうした強権的な国では、国内で建設費は西側のように上昇しないだろう。そして輸出でも、建設費が以前のままなら、そして国民の批判が起きないなら、第三世界の国は、中露の原発を採用してしまうのは当然かもしれない。

◆過剰規制が原子力建設をはばむ

もちろん安全対策は必要だが、それが過剰になってはいないだろうか。中国の原子力建設と輸出の成功が続けば、福島事故以来、世間の批判と建設の停止によって弱っている日本の原子力産業は、さらに差をつけられてしまう。

先送りで知られる岸田文雄首相が、原子力問題では珍しくやる気を出している。GX(グリーントランスフォーメーション:環境技術の転換)の活用のためとして、昨年から原子力発電所のリプレース、新型炉の研究の方針、再稼働推進を、政権の政策で打ち出した。しかし「笛吹けど踊らず」で、建設の具体的な話は進んでいない。

もう一段、強い原子力支援策が必要に思える。また産業界の奮起も求められる。このままでは、原子力の分野で、強権国家に必ず負けてしまう。

【目安箱/1月12日】冬の停電危機、「嫌われもの」の火力と原子力が救う


◆電力会社の早期稼働の努力

2023年初頭の冬は、電力不足と停電が確実視されていた。ところが電力会社の奮闘で、「嫌われもの」である原子力と火力が稼働して、その停電の危機を止めた。このことを、多くの人は知らない。

以下は2023年初頭の電力予備率(2023年初頭の電力予備率の予想。22年6月と同12月段階)の状況だ。

(図)

総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第52回会合)、2022年12月16日、経産省提出資料110ページ

予備率が東京電力管内では22年6月の時点で今年1月、2月にマイナス、その他の地域でもゼロに近いと予想されていた。政府は、7年ぶりとなる今年冬の節電要請を昨年夏時点にしていた。ところが問題は解消されそうだ。電力会社が頑張って供給力を増やし、12月の予備率は全国で5%前後に回復した。まだ危険な状況であるが、停電が確実な状況ではなくなった。

◆電力会社の奮闘、次々と石炭火力が運転開始

この理由は嫌われものである火力や原子力の発電所が、新規稼働、再稼働して供給が増えたためだ。

2022年の8月には、JERAの武豊火力発電所5号機(107万kW、愛知県)、同11月には中国電力の三隅発電所2号機(100万kW、島根県)が営業運転を開始した。JERAは東電と中部電の合弁火力発電会社だ。神戸製鋼所も22年度中に神戸で65万kWの石炭火力の営業運転開始を予定している。これらはすべて高性能の石炭火力発電だ。

さらに21年3月の福島県沖地震で破損して一時停止した東電の広野火力発電所の石炭火力である5、6号機(計120万kW)も、22年には通常運転に戻った。また関西電力は美浜原子力発電所3号機(82万kW)を22年8月から再稼働をしている。いずれの発電所も、当初の稼働予定を前倒した。

このほか、JERAが保有する姉崎5、6号機(計120万kW、千葉県)、知多5、6号機(計170万kW、愛知県)、四日市4号系列(58万kW、三重県)などの老朽LNG火力も供給力の戦列に加わっている。こうした事情から、経産省・資源エネルギー庁の出した昨年6月時点の見通しが大きく変わった。真冬の停電の危機から日本を救った、電力会社の人々の取り組みに深い敬意と感謝を述べたい。

◆当事者は石炭火力の活躍をなぜか沈黙

中でも石炭火力については、4~5年前に計画したものが完成した。各種電源の中では、一番早く建設ができる。また燃料となる石炭は、各種エネルギー源の中で比較的調達が容易だ。原子力は原子力規制委員会の過剰規制、特にテロ対策などの特別重要施設の工事で遅れていた。いずれも電力会社と協力会社の努力で、完工が早まった。

にもかかわらず、当事者である電力会社、電力供給の増加を支援する立場にあるエネ庁はなぜか、石炭火力と原子力によって電力危機が解消に向かったという事実の広報に積極的ではない。変な批判を受けることを避けようとしているのだろうか。

石炭火力はCO2排出量が多いため、国際環境NGOなどの批判にさらされている。東芝グループなど日本企業が最新型の石炭火力プラントをバングラデシュのマタバリ石炭火力発電所で使う計画があった。ところが、住友商事とJBIC(国際協力銀行)、そして日本政府は22年春にこのプロジェクトから撤退してしまった。環境への配慮のためとしている。まだ売り込みは続いているが、この発電所の増設も頓挫しそうで、現地の人も困っているという。

スウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥーンベリの関係する団体「フライデー・フォー・フューチャーズ」が、住友商事の株主総会に押しかけるなど、過激な反対行動が内外で見られた。同社などは明言していないが、そうした反対運動が影響した可能性がある。こうした団体の活動の背景は不明だ。

◆石炭、原子力の有効性を今こそ語ろう

しかし、自分の財布が痛むという現実を前に、世論は変わり始めている。

電気料金の上昇が、社会のさまざまな場所に悪影響を与えている。東京国立博物館の館長が、文藝春秋誌に寄稿し、ネットで1月9日に公開されて騒ぎになった。同博物館は年間予算20億円しかないが、2022年度には主に電力の光熱費が前年度の2億円から4.5億円に倍増し、運営に支障をきたしているという。

いわゆる左派の人たちは「自民党政権と岸田文雄首相が文化をなおざりにしている」「財務省が悪い」と政府批判に使った。しかし、その他の人が「あなたたちは原子力に反対しているからこうなった」と言い返し、ネットで議論が盛り上がった。日本人は愚かではない。エネルギーを巡る事実をしっかり認識している人たちがいる。

気候変動問題の活動家の人たち、有識者と称する人たち、メディアは、今回の電力危機や、続く石炭火力の再稼働には沈黙している。これは日本だけでなく、世界的に観察されることだ。2022年2月からのウクライナ戦争で、エネルギーにおける脱ロシアの動きが強まり、世界的にエネルギーの供給不足と価格の上昇が起きた。欧州は日本よりもエネルギー価格の上昇が激しい。その現実を前に、地球環境を巡る過激な主張ができなくなったのだろう。

気候変動は大切な論点だ。しかしエネルギーで日本と世界の「今そこにある危機」は安定供給と価格上昇の抑制である。その問題を、ある程度解消するのが、エネルギー源としての火力と原子力を活用することだ。当事者である電力業界、産業界、そして政府は、その事実を明確に述べ、その道を進むことを隠さずに堂々と宣言してもよいと思う。「ノイジーマイノリティ」は声の大きさはあるものの、現実を動かす力はそれほどない。そうした声に萎縮の必要はない。

【目安箱/12月26日】太陽光パネルは都市災害時に危険 東京都への警鐘


◆100年前の後藤新平の知恵「災害で逃げられる道路」

紅葉見物で賑わう神宮外苑の銀杏並木

東京都民の筆者は、神宮外苑の銀杏並木が好きで晩秋に毎年散策する。外苑前の道路は車道も歩道も幅広い。ここは1923年の関東大震災の後で、内務大臣と帝都復興院総裁を務めた後藤新平(1857-1929)が、新しい東京のモデル道路として作った。自動車化時代の到来と防災を意識し、道幅を広くし、長寿の銀杏を植えたという。大震災の際に、東京の入り組んだ道路が避難を遅らせて、被害を増やした反省により、後藤は「災害の時の逃げやすさへの配慮」を建設の際に指示したという。

ただし後藤の構想は経費がかかるため、世論や関係者に受け入れられず、道路の拡張は限定的だった。出典不明だが、昭和天皇が戦後外苑に来たときに、「後藤の言う通りにしていれば、戦災の規模も少しは小さくなったかもしれない」と、悔やんだという逸話があると聞いた。

100年経過しても、後藤の考えが東京の街づくりに活かされているとは思えない。筆者は東京東部のゼロメートル地域のマンションに住んでいる。周囲は埋立と以前は農地だった場所のようで、無計画に街が建設されたために、道路が入り組んでいる。仮に火災、洪水が起きた場合に、逃げられなくなるのか心配になる。

東京だけではない。日本のどの市街地も、防災や災害時の避難を意識して作られていないように思う。

◆太陽光パネル義務化政策、防災の配慮はあるのか

12月15日、東京都の進める新築住宅の太陽光パネルの義務化政策が、都議会で可決された。事前にそれほど話題になっていなかったので、唐突感がある。そして東京に住む人間として、防災面での心配がある。

筆者の住む東京東部のゼロメートル地帯では、数メートルの浸水の危険がある。また大規模火災、地震での避難の心配の破損がある。太陽光パネルが街中に増えたら、災害の際にどうなるのか。

以下、「メガソーラーが日本を救うの大嘘」(杉山大志編著、宝島社)を参考にした。東京の北部・東部を流れる荒川水系、南部を流れる多摩川水系の下流域は、河川と海に囲まれたゼロメートル地帯だ。

こうした水害の際に、太陽光パネルは危険だ。太陽光発電では、光があたれば発電をし続ける。特に水は通電性が高く、また破損時にそのような経路で電気が漏れるかわからないので、近寄ってはいけない。1システムで光があたれば300ボルト前後の電流を発生させる。これは数秒人間の体に通電すれば、心筋梗塞などをもたらして死ぬ可能性のある電流だ。

また太陽光パネルの表面はガラス製で、重さは1枚15キロ程度だ。強風や地震で屋根から外れて飛んだり、落下したりする危険がある。日本各地でパネルの手抜き工事で、その破損が伝えられている。

「屋根が電気を作ることを当たり前にしたい」。小池百合子都知事は、21年9月にこの政策を発表したときに語った。屋根に太陽光パネルを置くことが問題なのだ。筆者の住む場所の周りの屋根の上に、太陽光パネルが大量に設置される光景を想像してみた。水害の時には太陽光パネルによる感電のリスク、強風や地震の時には15キロを超えるガラスと金属の塊が住宅地に舞い、人にぶつかり移動を妨害する可能性があるだろう。とても危険だ。

太陽光発電を人里離れた場所でやるならともかく、なぜ東京のような人口密集地で行うのかわからない。

◆危険を考えていない東京都

東京都が2022年8月に「太陽光パネル解体新書」という政策説明パンフレットを作った。これを読むと、水没による感電については「過去に事故の事例は聞いていない」「専門家に対応を依頼してください」、破損リスクは「少ない」(同)と書いてある。(パンフ内Q&A18)

大水害の時に専門家を呼ぶ暇があるのだろうか。全国で太陽光発電の乱開発、パネルの破損問題が起きているのに、リスクは少ないのだろうか。あまりにも答えがいい加減すぎる。想定される人命リスクを無視すべきではない。

この政策は小池都知事の主導のようだ。(エネルギーフォーラム記事「【目安箱/12月12日】賛否渦巻く太陽光義務化 小池都知事はなぜ固執するのか」)東京都の事務方の方でも突如上から降りてきたために、政策をしっかり練っていないらしい。

そしてこれは東京都だけの問題ではない。京都市が大規模建物の太陽光パネル義務化を行い、群馬県も検討している。また神奈川県川崎市は新築住宅での義務化を検討している。防災の観点からリスクの大きな政策を遂行する不思議な動きが、日本各地にある。

太陽光発電を否定する意図は私にはない。しかし、どんな物事にも、場所や方法の適切なやり方への配慮がある。なんで都市に合わない太陽光発電の普及を、東京都や各自治体が進めるのか不思議だ。

冒頭の例を引用すれば、後藤新平が考えたような「災害時に逃げる」ための動く経路を、21世紀の都市計画で行政が考えていないのは、愚かで残念なことだと思う。太陽光パネル設置を都の条例は成立してしまった。2025年4月からの施行まで時間がある。この防災の面の懸念を払拭できない限り、筆者は都民として、この政策を支持できない。東京都を含め、各自治体は、過去を含めて知恵を絞り、その場に合い、効果があり、安全な環境・エネルギー対策を考えてほしい。

【記者通信/12月23日】政府がGXで原子力の持続的活用を明示 「成長志向型CP」実現も


政府は12月22日、GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針案を取りまとめた。今後10年を見据えたロードマップを策定。原子力では、再稼働の着実な推進に向け国が前面に立つことや、次世代革新炉の開発・建設、運転期間に関して長期停止期間分の延長も可能とする方針などを示した。第6次エネルギー基本計画では原子力について「必要な規模を持続的に活用していく」と掲げており、今回の基本方針はエネ基の方向性をよりクリアに整理したものだと言える。また、もう一つの柱となる「GX経済移行債」創設に際し、その償還財源となる「成長志向型カーボンプライシング(CP)」の方針も決定した。政府はGX基本方針案を2023年に閣議決定し、次期通常国会に関連法案を提出する予定だ。

原子力政策の「方針転換ではない」 第6次エネ基を踏襲

第6次エネ基では、原子力に関して「依存度の低減」という方針は残しつつ、新増設・リプレースの明示は見送った。こうしたことから、一部では今回のGX基本方針案で、政府が原子力政策を大きく方針転換したと報じる向きもある。

だが、自民党内の原子力派議員に言わせると、「方針転換をしたわけではない」。第6次エネ基での原子力のポイントは、策定作業の最終盤で盛り込んだ「必要な規模を持続的に活用していく」という一文。今回の基本方針はこの表現を踏襲する形で、「将来にわたって持続的に原子力を活用するため、安全性の確保を大前提に(中略)次世代革新炉の開発・建設に取り組む」とリプレースの推進を明示した。

また、運転期間を巡っては、新規制基準適合性審査の長期化などで停止した期間を除外する「カウントストップ」を認めることとした。これまでの原則40年、最大20年の延長を一度限りで認める方針は残しつつ、長期停止期間の追加的な延長も可能になる。

これに伴い、原子力規制庁が高経年化原子炉の安全規制の枠組みを見直している。従来は①30年以降10年ごとの高経年化技術評価、②最大60年の運転期間延長認可制度――の2つが存在していたが、今後は新制度に一本化。30年以降、10年以内ごとに、「長期施設管理計画」で災害防止上の支障がないことや、技術基準適合性を規制委が審査していく。

そして、30年度原子力比率20~22%達成に向けて再稼働の加速を図る。今冬までに再稼働済みの10基に加え、来夏以降には、設置許可済みの高浜1、2号、女川2号、島根2号の再稼働が順次見込まれている。さらに来冬以降には、複数の課題を抱える柏崎刈羽や、東海第二の再稼働も目指したい考えで、国が前面に立った対応や、運営体制の改革に取り組む。20年代半ばごろからは、設置許可審査の申請済みや未申請の19基の再稼働も目指す構えだ。

このほか、核燃料サイクルや最終処分の取り組みの推進も掲げた。

ただ、今回の方針を具体的にどう実現していくのかは、いまだ不透明だ。例えば柏崎刈羽は、東京電力の核物質防護での不手際に対する不信感が根深く、新潟県の「3つの検証の総括」が進まず地元同意が得られていない。東海第二を巡っては、茨城県や水戸市などでの避難計画の策定や、日本原子力発電と東海村や周辺5市との「事前了解」締結に至っていないことが課題だ。長年停滞していたこれらのハードルをどうクリアしていくのか。

また、「カウントストップ」は認められたものの、それがどの程度原発稼働率の向上に寄与するかは未知数。革新炉建設についても、資金調達などに関する制度的支援の検討などが必要になるし、具体的地点の選定段階ではまた課題に直面することになるだろう。

これらの課題をそれぞれ着実に解決していくための具体的な政策の検討が、引き続き求められている。

炭素賦課金を28年度以降徴収 発電部門には排出量取引を有償化

GX基本方針でのもう一つの注目点が、成長志向型CP政策だ。政府はGX経済移行債を20兆円規模で発行し、これを呼び水に今後10年間で官民合わせて150兆円を超える脱炭素分野の投資に結びつけたい考え。GX移行債の新設は償還財源の明示が条件となっており、①排出量取引制度(ETS)の本格化と、発電事業者を対象とした「有償オークション化」、②炭素賦課金の導入――を決めた。

まず①を先行させ、段階的なCP強化を図る。23年度から自主的な形でETSを始め、26年度頃からは企業が削減目標を超過達成した分の取引などを本格化させていく。そして33年度頃からは、発電部門を対象に有償オークションに移行する方針だ。

もう一方の炭素賦課金は、化石燃料輸入業者に対し炭素比例で課し、28年度頃から導入する。なお、CPの二重負担を避けるため、発電事業者は炭素賦課金の対象からは外れる。

これらの導入条件として、エネルギー諸税や再エネ固定価格買い取り制度(FIT)賦課金といった既存制度を含め、炭素に絡む総合的な負担は増えないようにするという。例えば炭素賦課金は、石油石炭税や地球温暖化対策税との位置づけの整理や、賦課金の水準設定が焦点となる。政府はGXの進展などに伴い将来的な石石税収の減少や、FIT賦課金の負担減を見込んでいるが、脱炭素へのトランジションがうまく進まず化石燃料使用量が大して減らなかった場合でも、総額負担が増えないことを担保できるのか。

他方、賦課金を巡っては「最終的に国庫に入るのであれば結局は炭素税とイコールだ」(政府関係者)といった見方もある。防衛増税議論などで今は炭素税議論を封印した形だが、いずれ議論が再浮上する可能性がある。

真に成長につながるCP施策を具体的にどう設計していくのかも、23年の注目点となる。