福井新聞の地元紙らしい論調
ところで、電気新聞でも紹介された福井新聞の記事は、全国紙が200tという規模感で説明する中、地元紙らしく〈今回搬出されるのは高浜原発で保管される一部であり、美浜、大飯の保管されているものについては具体的な計画は示さなかった〉と指摘している。その上で、〈核燃料サイクルを堅持する国の原子力政策は、国内で使用済み核燃料の貯蔵対策と再処理を行うのが基本だ〉と締めている。

福井新聞6月13日付1面記事を受けての2面掲載部分
〈関西電力が県内原発にたまる使用済核燃料の中間貯蔵施設の県外計画地点提示と「同等」として示したのは、フランスへの搬出計画だった。ただ、搬出量は県内原発に保管する使用済核燃料のわずか6%程度にすぎない。県との約束だった年末を期限とする計画地点提示は困難な情勢だったとみられ、県内関係者からは「苦肉の策」との声も出た。〉
〈—フランスへの搬出は、高浜原発内に保管する使用済核燃料3035体(5月末現在)のうち、420体にとどまる。他にも美浜原発に432体、大飯原発に3343体を保管しているが、これらの具体的な県外搬出計画については示さなかった。〉
〈—そもそも原発内に使用済核燃料がたまるのは、搬出先となる青森県六ケ所村の再処理工場が稼働せず、核燃料サイクルが回っていないからだ。 再処理工場は当初、1997年に完成予定だったが、試運転中のトラブルや審査の長期化で26回延期。2024年度上期の完成を目指すが、不透明感は否めない。〉
〈—関電の森望社長は杉本知事との面談で、中間貯蔵施設の候補地を具体的に検討した形跡などは一切示さなかった。中間貯蔵の問題とは直接関係ないフランスとの実証研究の中で、使用済核燃料の一部の搬出方針が決まったことだけで、「県との約束をひとまず果たした」とする言い分には疑問は残る。核燃料サイクルを堅持する国の原子力政策は、国内で使用済核燃料の貯蔵対策と再処理を行うのが基本だ。今国会で成立した改正原子力基本法で国と事業者の責務が明記されたが、関電と国は中間貯蔵問題の国内での解決に責務があることを忘れてはならない。〉
メディア、地元ともに厳しい反応
一方で、地元の反応はどうであったか。電気新聞7月19日付「ニュース解説”は次のように紹介する。
〈—県は7月上旬、立地市町の首長から意見を聞く場を設けた。美浜町の戸嶋秀樹町長、高浜町の野瀬豊町長、おおい町の中塚寛町長は、櫻本宏副知事に「一歩前進」との評価を伝えた。ただ、戸嶋町長は「解決すべき課題も露見しており、議論の必要がある」と主張。野瀬町長と中塚町長はともに「違和感」という表現を用い、「約束が果たされた」とする関電と国の認識に疑問を呈した。〉
〈—象徴的な場面の一つが6月23日の(県議会の)全員協議会だった。「今までで一番苦しい説明だった」。答弁に訪れたエネ庁幹部(←6月27日に退任発表)に対し、議会で厳しい意見が相次いだ。—〉
全体的に、6月12日の関電の発表は、業界紙の電気新聞でも書かざるを得なかったように、メディア・地元とも厳しい反応もあったようだ。
ところで、その後、冒頭に触れたように、8月2日に中国電が関電との共同開発を前提に「上関地点における使用済燃料中間貯蔵施設の設置に係る調査・検討について」を発表した。
この発表の後に掲載された、読売新聞8月12日付社説は、「使用済み核燃料 中間貯蔵施設の確保が急務だ」との見出しで、〈原子力発電所を安定して稼働するには、発電に利用した使用済み核燃料の処理が重要になる。国や電力会社は、そのための保管場所を早期に確保する必要がある〉とした上で、〈—関電は6月、使用済み燃料の一部をフランスに搬出する計画を発表した。今回の(中国電力の)中間貯蔵施設の計画と合わせ、約束の履行に向けて前進したのでないか—〉と書いている。
個々の事情や経産省の意向があったにせよ、まだ確定とは言えないものの上関町の件の発表が先にあるいは同時にあれば、この読売新聞の社説のような受け止めになったのではないかと思われる。
「第2再処理工場」の建設問題には触れられず
最後に、MOX使用済み燃料の再処理について、少し言及しておきたい。プルサーマル発電などで出てきたMOX使用済み燃料は、さらに再処理して利用される予定であるが、その再処理には六ケ所村とは別の「第2再処理工場」が必要となる。しかし、今のところその立地については決まっていない。なお、MOX燃料は劣化するためいつまでも使えるわけではない。かつて筆者が経産省の当時の担当課長に聞いたところでは、「専門家によって異なるが2~3回といったところ」ということであった。
このMOX使用済み燃料の再処理に関して、2018年9月、共同通信は配信記事の中で、要約すると次のように指摘した。
〈電力会社が出資する日本原燃㈱は、青森県六か所村で使用済み燃料の再処理工場とMOX燃料の加工工場の建設を進めているが、総事業費は約16兆円と巨額で操業延期も続く。しかし、MOX使用済み燃料の再処理には新たに「第2再処理工場」を造らなければならない。(六ヶ所村の建設に巨額の費用がかかる中、)そのためのさらなる費用確保は困難な情勢だ。MOX再処理ができなくなれば、核燃料の再利用は一度のみとなり、核燃料サイクルの意義は大きく崩れる。〉
余談になるが、この配信は、見出しで「MOX燃料の再処理断念 電力10社、核燃サイクル崩壊」と表現しており、それを原発立地の地方紙などが1面で取り上げたりしたので、自治体などから経産省に問い合わせが多く発生した。このため、当時の世耕弘成経産相が怒って、共同通信はしばらくの間、経産省記者クラブの活動などで厳しい扱いを受けたのだ。
いずれにしろ、MOX使用済み燃料の再処理には新たに「第2再処理工場」を造ることになる。使用済み燃料再処理機構という資金管理の仕組みはあるが、六ヶ所村の建設に費用がかかる中、そのための費用確保はなかなか厳しい状況であろう。
当時、経産省の担当課長補佐は共同通信に対して「第2再処理工場を造るという義務は残る」と“覚悟”を述べており、筆者もその上の担当課長から同じ認識を聞いていた。
今般のMOX使用済み燃料のフランスへの搬出計画が核燃料サイクルにおけるこのような大きな課題がある中で進んでいることは、各紙の記事の中では触れられず、「奇策」「苦肉の策」といった指摘や六ヶ所村の工事の遅れの状況などに話が傾いたのは、記事の奥行きを狭くした気がする。
ジャーナリスト 阿々渡細門