【メディア論評/8月27日】使用済み燃料中間貯蔵に関する報道を読む<下>


福井新聞の地元紙らしい論調

ところで、電気新聞でも紹介された福井新聞の記事は、全国紙が200tという規模感で説明する中、地元紙らしく〈今回搬出されるのは高浜原発で保管される一部であり、美浜、大飯の保管されているものについては具体的な計画は示さなかった〉と指摘している。その上で、〈核燃料サイクルを堅持する国の原子力政策は、国内で使用済み核燃料の貯蔵対策と再処理を行うのが基本だ〉と締めている。

福井新聞6月13日付1面記事を受けての2面掲載部分

〈関西電力が県内原発にたまる使用済核燃料の中間貯蔵施設の県外計画地点提示と「同等」として示したのは、フランスへの搬出計画だった。ただ、搬出量は県内原発に保管する使用済核燃料のわずか6%程度にすぎない。県との約束だった年末を期限とする計画地点提示は困難な情勢だったとみられ、県内関係者からは「苦肉の策」との声も出た。〉

〈—フランスへの搬出は、高浜原発内に保管する使用済核燃料3035体(5月末現在)のうち、420体にとどまる。他にも美浜原発に432体、大飯原発に3343体を保管しているが、これらの具体的な県外搬出計画については示さなかった。〉

〈—そもそも原発内に使用済核燃料がたまるのは、搬出先となる青森県六ケ所村の再処理工場が稼働せず、核燃料サイクルが回っていないからだ。  再処理工場は当初、1997年に完成予定だったが、試運転中のトラブルや審査の長期化で26回延期。2024年度上期の完成を目指すが、不透明感は否めない。〉

〈—関電の森望社長は杉本知事との面談で、中間貯蔵施設の候補地を具体的に検討した形跡などは一切示さなかった。中間貯蔵の問題とは直接関係ないフランスとの実証研究の中で、使用済核燃料の一部の搬出方針が決まったことだけで、「県との約束をひとまず果たした」とする言い分には疑問は残る。核燃料サイクルを堅持する国の原子力政策は、国内で使用済核燃料の貯蔵対策と再処理を行うのが基本だ。今国会で成立した改正原子力基本法で国と事業者の責務が明記されたが、関電と国は中間貯蔵問題の国内での解決に責務があることを忘れてはならない。〉

メディア、地元ともに厳しい反応

一方で、地元の反応はどうであったか。電気新聞7月19日付「ニュース解説”は次のように紹介する。

〈—県は7月上旬、立地市町の首長から意見を聞く場を設けた。美浜町の戸嶋秀樹町長、高浜町の野瀬豊町長、おおい町の中塚寛町長は、櫻本宏副知事に「一歩前進」との評価を伝えた。ただ、戸嶋町長は「解決すべき課題も露見しており、議論の必要がある」と主張。野瀬町長と中塚町長はともに「違和感」という表現を用い、「約束が果たされた」とする関電と国の認識に疑問を呈した。〉

〈—象徴的な場面の一つが6月23日の(県議会の)全員協議会だった。「今までで一番苦しい説明だった」。答弁に訪れたエネ庁幹部(←6月27日に退任発表)に対し、議会で厳しい意見が相次いだ。—〉

全体的に、6月12日の関電の発表は、業界紙の電気新聞でも書かざるを得なかったように、メディア・地元とも厳しい反応もあったようだ。

ところで、その後、冒頭に触れたように、8月2日に中国電が関電との共同開発を前提に「上関地点における使用済燃料中間貯蔵施設の設置に係る調査・検討について」を発表した。

この発表の後に掲載された、読売新聞8月12日付社説は、「使用済み核燃料 中間貯蔵施設の確保が急務だ」との見出しで、〈原子力発電所を安定して稼働するには、発電に利用した使用済み核燃料の処理が重要になる。国や電力会社は、そのための保管場所を早期に確保する必要がある〉とした上で、〈—関電は6月、使用済み燃料の一部をフランスに搬出する計画を発表した。今回の(中国電力の)中間貯蔵施設の計画と合わせ、約束の履行に向けて前進したのでないか—〉と書いている。

個々の事情や経産省の意向があったにせよ、まだ確定とは言えないものの上関町の件の発表が先にあるいは同時にあれば、この読売新聞の社説のような受け止めになったのではないかと思われる。

「第2再処理工場」の建設問題には触れられず

最後に、MOX使用済み燃料の再処理について、少し言及しておきたい。プルサーマル発電などで出てきたMOX使用済み燃料は、さらに再処理して利用される予定であるが、その再処理には六ケ所村とは別の「第2再処理工場」が必要となる。しかし、今のところその立地については決まっていない。なお、MOX燃料は劣化するためいつまでも使えるわけではない。かつて筆者が経産省の当時の担当課長に聞いたところでは、「専門家によって異なるが2~3回といったところ」ということであった。

このMOX使用済み燃料の再処理に関して、2018年9月、共同通信は配信記事の中で、要約すると次のように指摘した。

〈電力会社が出資する日本原燃㈱は、青森県六か所村で使用済み燃料の再処理工場とMOX燃料の加工工場の建設を進めているが、総事業費は約16兆円と巨額で操業延期も続く。しかし、MOX使用済み燃料の再処理には新たに「第2再処理工場」を造らなければならない。(六ヶ所村の建設に巨額の費用がかかる中、)そのためのさらなる費用確保は困難な情勢だ。MOX再処理ができなくなれば、核燃料の再利用は一度のみとなり、核燃料サイクルの意義は大きく崩れる。〉

余談になるが、この配信は、見出しで「MOX燃料の再処理断念 電力10社、核燃サイクル崩壊」と表現しており、それを原発立地の地方紙などが1面で取り上げたりしたので、自治体などから経産省に問い合わせが多く発生した。このため、当時の世耕弘成経産相が怒って、共同通信はしばらくの間、経産省記者クラブの活動などで厳しい扱いを受けたのだ。

いずれにしろ、MOX使用済み燃料の再処理には新たに「第2再処理工場」を造ることになる。使用済み燃料再処理機構という資金管理の仕組みはあるが、六ヶ所村の建設に費用がかかる中、そのための費用確保はなかなか厳しい状況であろう。

当時、経産省の担当課長補佐は共同通信に対して「第2再処理工場を造るという義務は残る」と“覚悟”を述べており、筆者もその上の担当課長から同じ認識を聞いていた。

今般のMOX使用済み燃料のフランスへの搬出計画が核燃料サイクルにおけるこのような大きな課題がある中で進んでいることは、各紙の記事の中では触れられず、「奇策」「苦肉の策」といった指摘や六ヶ所村の工事の遅れの状況などに話が傾いたのは、記事の奥行きを狭くした気がする。

ジャーナリスト 阿々渡細門

【記者通信/8月25日】中国が全面禁輸の狙い 日本は1世帯2800円で買い支えも?


「科学vs風評」の戦いが始まった。福島第一原発のALPS処理水の海洋放出を受け24日、中国政府は日本産の水産物の全面禁輸を発表した。禁輸対象を従来の福島県など10都県から全国に拡大した格好だ。岸田首相は24日夕方、外交ルートを通じて即時撤廃を求めたことを明らかにし、「水産事業者がALPS処理水の海洋放出によって損害を受けることがないよう、基金の活用や東京電力による賠償なども含め、万全の体制を取る」と述べた。

ALPS処理水が上流水槽から下流水槽に越流している様子(提供:東京電力ホールディングス)

中国「海全体が汚染される」 韓国「汚染水テロ」

「生態環境の破壊者であり、海洋環境の汚染者だ」――。中国外務省の汪文斌報道官は24日の記者会見で、海洋放出を強く非難した。中国共産党の機関紙「環球時報」は、「国際社会は日本に対して無制限に説明責任を問うことができる」と題した社説を掲載。イラストとして描かれた魚に「悪夢がやってくる。逃げなくちゃ」「海全体が汚染される。安全なところなんてない」と言わせ、「2023年8月24日は、海洋環境に対する壊滅的な日として、歴史上記録されることになろう」と結んでいる。

一方、韓国については日韓関係強化の観点から、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は処理水放出を事実上容認する構えだ。こうした中、最大野党「共に民主党」の李在明代表は23日の党最高委員会議で、「過去の帝国主義侵略戦争によって周辺国の生存権を脅かした日本が、核汚染水を放出して韓国と太平洋沿岸国にまたも取り返しのつかない災いをもたらそうとしている」「日本の核汚染水放出は第2の太平洋戦争として記録されるだろう」と述べ、処理水の放出を「汚染水テロ」と表現し強く非難した。共に民主党は同日夜、「100時間非常行動」を宣言して国会本庁前で大規模なロウソク集会を開催。26日には市民団体と連携して総集結大会(総決起大会)を開くという。

日本は国際原子力機関(IAEA)の包括報告書などで安全性を担保し、科学的見地から国際社会の理解を獲得してきた。22日に中国外務省の孫衛東外務次官と面会した日本の垂秀夫中国大使は、「中国側が科学的根拠に基づかない主張を行っているのは残念」だとし、対抗措置をちらつかせた孫次官に対して、欧州連合(EU)など諸外国が日本産食品の輸入規制を撤廃する中で「中国のみが流れに逆行している」と、中国の「孤立」を強調。科学的見地から中国の対応に毅然と反論した。

中国の真の狙いは? 大使館は「不測の事態」に注意喚起

中国の禁輸措置について、中国ウォッチャーからは「経済が崩壊し国民の不満が溜まる中、“外敵”をつくって国民の不満を外に向かわせる狙いがある」と指摘する声が聞こえる。事実、中国の7月の消費者物価指数(CPI)は前年同期比マイナス0.3%と、世界中がインフレと戦う中でデフレに落ち込んだ。さらにゼロコロナ政策など強権的な政策が外資系企業の懸念を招き、第2四半期の外国直接投資(FDI)の流入は前年同期比87%減、コロナ前と比べれば95%もの減少で、「外資がほとんど入ってこない状況」(経済評論家)だ。ただ処理水の放出は30年程度を予定しており、全面禁輸を撤廃するタイミングも難しい。国内情勢から国民の目を逸らすカンフル剤になったとしても、その効果は一時的とみられる。

こうした厳しい現実を前に、今後は水産物以外の禁輸や日本政府による尖閣諸島の国有化に端を発した日本製品の不買運動、激しい反日デモにまで発展するのか懸念される。24日には香港の日本総領事館前で約50人が参加した抗議デモが行われ、在中国日本大使館は同日、ウェブサイト上に「ALPS処理水の海洋放出開始に伴う注意喚起」と題した文書を掲載。「不測の事態が発生する可能性は排除できないため、注意していただきますようお願いします」と注意を呼び掛けている。

こうした中国の措置に対して、実害を最小限に抑えられるのか――。日本の2022年の水産物輸出は、中国・香港・マカオで約1647億円と全体の4割を超える。だが、単純計算でこの額を日本の世帯数(約6000万世帯)で割ると「約2800円」であり、ネット上では「各家庭が水産物の消費を増やすだけでそれなりにカバーできる」との意見も挙がった。経済産業省が23日に開催した「ALPS処理水の処分に係る風評対策・流通対策連絡会」では、小売業界が「三陸常磐ものをこれまで通り取り扱っていきたい」との考えを提示。日本人の風評に惑わされない冷静さと復興を願う慈愛の精神を発揮する時だ。

団体旅行解禁で訪日客は増加か おいしいシーフードを土産話に

ところで、中国政府は8月10日から日本への団体旅行を約3年半ぶりに解禁した。民間試算では、団体旅行の再開で2023年の訪日中国人が198万人分上振れするという。すでに、東京、大阪などの主要都市や人気観光地では予約が埋まるホテルが相次いでいるようで、宿泊料金も上昇傾向が続いている。今回の処理水放出問題は、訪日客の動向に影響を与えるのか。

「科学的根拠もなく、日本産の魚介が汚染されて食べたくないと言っているような人たちは、頼むから日本に来ないでほしい」――。これが、郷土を愛する日本人の率直な思いではないだろうか。ただ、実際に観光で訪日する一般の中国人の多くは、おそらく処理水の問題など気にしていないはず。福島産のおいしいシーフード料理に舌鼓を打って、日本観光を満喫できたことを、本国に帰ったらぜひ土産話に語ってほしい。

【メディア論評/8月25日】使用済み燃料中間貯蔵を巡る報道の流れを読む<上>


使用済み核燃料の中間貯蔵に関する動きが6月後半から出てきた。原発再稼働が進むと、一方で敷地内での使用済み核燃料保管の空き容量が少なくなる。核燃料サイクルの中の再処理工場建設が進まない中では、それまでの中間貯蔵施設の確保は電力業界にとって大きな課題である。

中間貯蔵施設の確定期限が年内に迫る

関西電力は、福井県に約束した福井県外での中間貯蔵施設の確定が進捗せず、2021年2月には森本孝社長(当時)が「23年末の期限までに計画地点が確定できない場合には、確定できるまでの間、美浜3号機、高浜1、2号機の運転は実施しない」と表明していた。

過去の経緯は省略するが、最近においては、むつ市の中間貯蔵施設(東電・日本原電出資のリサイクル燃料貯蔵)への参画は地元の厳しい反応で進まず、期限が迫っていた。

そうした中で、6月12日、関西電力から「使用済MOX燃料再処理実証研究に伴う当社の使用済燃料の搬出等に係る福井県への報告について」が発表され、8月2日には、中国電力が、関西電力との共同開発を前提に「上関地点における使用済燃料中間貯蔵施設の設置に係る調査・検討について」を発表した。

前者の発表については、電気事業連合会の使用済みMOX燃料の再処理実証研究の下で、使用済み燃料約200t(使用済みMOX燃料約10t、使用済みウラン燃料約190t)をフランスに搬出するものだ。

核燃料サイクルにおいては、各原発で生じた使用済み核燃料を再処理して、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を作り、プルサーマル発電(Jパワー・大間の場合はフルMOX発電)を行う。

プルサーマル発電などで出てきた使用済みMOX燃料については、経産省は「今後再処理する方針。現時点で具体的な地点(編注・第2再処理工場)や事業規模も未定」としている。そんな中で、今回の使用済み燃料のフランスへの搬出は、使用済みMOX燃料の再処理技術の早期確立を目指した取り組みということになる。

このフランスへの搬出を福井県との約束との関係でどう見るか、関電は6月12日、プレス資料において下記のような認識を表明した。

「この度の使用済み燃料の搬出は、当社の原子力発電所に貯蔵されている使用済み燃料が福井県外に搬出されるという意味で、中間貯蔵と同等の意義がある。この搬出の決定によって、23年末を最終の期限としていた福井県外における中間貯蔵の計画地点確定は達成され、2021年2月に福井県知事にご報告した約束は、ひとまず果たされたと考えている」

この認識に、西村康稔経産相も翌13日の閣議後会見で早速呼応した。

「—経産省としては、関西電力が使用済み燃料を福井県外に搬出する方針を示したことは、関西電力が福井県にこれまでしてきた約束を実現するうえで重要な意義があると考えている。最終的には、福井県にご理解いただくことが必要であるが、今回の対応は、使用済み燃料の海外搬出という意味で、中間貯蔵と同等の意義がある。—福井県は、国の考えを確認したうえで、県として総合的に判断する方針と承知しており、今後、私どもの考えもしっかり説明するなど、丁寧に対応していきたい」

借金の一部返済でも約束は守ったことに?

こうした動きに対するメディアの反応について、業界紙の電気新聞は7月19日付「ニュース解説」で次のように書いた。

〈「苦肉の策」。関電の搬出案を受け、地元の福井新聞はこう報じた。「棚上げ」「奇策」と表現した全国紙もある。おおむね共通するのは「200t」という搬出量への懸念だ。福井県外での中間貯蔵について、関電は「2030年頃に2千トン規模で操業を開始する」と計画していた。今回示した搬出量は、この1割にとどまる〉

その上で、同紙は、〈関電は(プレス資料にもあるように)使用済燃料の発生量について、中間貯蔵施設計画段階の想定よりも稼働プラントが少なく、将来的に減少する。今回の取り組みは「2030年の操業開始に向けた通過点」との認識を示した〉と説明する。

電気新聞の上記記事で紹介された全国紙の記事は、①産経新聞6月13日付「MOX燃料、関電、県外搬出の奇策」、②毎日新聞6月13日付「関電、中間貯蔵施設棚上げ」「根本的解決にならない」

なお、産経新聞大阪夕刊のコラム「湊町365」には、カルテル問題を巡る関電への厳しい報道の延長線上のように、次のような記載があった。

〈例えば「借金は今年中に返す」と言うので待っていたら、ほんの少しだけ持ってきて「これで約束は一応守ったことになるよね」と告げられたとする。踏み倒されるよりはまし、と我慢すべきだろうか。福井県内にある原発の使用済み核燃料を巡る関西電力の言い分に、そんなことを思った。—〉

<下>に続く。

ジャーナリスト 阿々渡細門

【メディア論評/8月9日】本当に「目玉」はないのか!? 経産省人事報道の裏を読む


旧聞に属する話だが、経産省の幹部人事(7月4日付)が、去る6月27日に発表された。これを受けて翌28日付の日経新聞は、「経産次官は年次逆転、脱炭素を重視」との見出しで、次のように解説した。

〈経済産業省は多田明弘事務次官と平井裕秀経済産業審議官が退任し、後任にそれぞれ飯田祐二経済産業政策局長(1988年入省)と保坂伸資源エネルギー長官を充てる。――経産次官は入省年次がナンバー2の経産審より1年若く“年次逆転”となる異例の人事だ。西村康稔経産相は27日の閣議後記者会見で“政策の継続性と新陳代謝の両立を図る。年次や職種にとらわれない適材適所の人事だ”と語った。飯田氏は岸田文雄政権が看板政策に掲げる脱炭素に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)の立案を担ってきた。2023年頃から10年間で20兆円規模のGX経済移行債を発行し、官民の投資が本格化する。飯田氏をトップに据えて重要政策を継続する姿勢を示す。保坂氏もかねて次官候補と目されてきた。エネ庁長官としてウクライナ危機後のエネルギーの安定調達に向けて陣頭指揮をとった。経験豊富な保坂氏が国際交渉を含めた調整を引き続き担う。――

一方、業界紙の電気新聞6月29日付は、「経産省幹部人事 実績重視 手堅い配置」「異例の登用も“納得感”」の見出しで、次のよう解説した。

〈7月4日発令の経済産業省幹部人事は、着実に実績を残した人物を登用した手堅い形となった。エネルギー関係者から「目玉はない」との声も聞かれるが、事務次官に就く飯田祐二経産局長らには多核種除去設備(ALPS)処理水の海洋放出、グリーントランスフォーメーション(GX)の加速などで確実な対応が求められる。――役職的には保坂氏より入省が1年遅い飯田氏が上の立場になるため「異例の年次逆転」とする見方もあるが、経産省関係者は「適材適所の今の時代ならありえる」と納得感を持つ。「2氏は生年月日が一緒でともに違和感はないかも」とジョークを交えて関係性を説明する関係者もいた。〉

事務次官・経産審議官人事を巡る報道

多田事務次官が在任2年となるため勇退、平井経産審議官も筆者に対して本人が笑いながらいわく「自分は勇退」と述べる中で、この二つのポジションを誰が占めるかが注目された。

候補者としては、保坂資源エネ庁長官(87年)、飯田経済産業政策局長(88年)、藤木 俊光官房長(88年)、あるいはこれは経産審候補と言えようが松尾剛彦通商政策局長(88年)――。これらの候補者からどういう組み合わせになるのか。結局、飯田事務次官、保坂経産審の体制となり、藤木官房長と松尾通政局長は現ポジションに留任となった。

メディアは、上記の日経記事が書いたように、従来は事務次官と経産審は後者が同期あるいは年次が下というのが通例だったのが、今回は「経産次官は入省年次がナンバー2の経産審より1年若く“年次逆転”となる異例の人事」ととらえた。

筆者のところにも、発表当日、長年METIを取材してきた複数の全国紙ベテラン論説委員から驚きのメールや電話があった。

一方で経産省の課長クラスの一人は、6月初めに「今の時代に年次逆転はありうる話」と述べていた。同氏はその後人事が発表されると、「飯田さんは、外部の人からはそう見えないかもしれないが、秘書課長をしていただけあって、アイツはダメだとか、人の評価が明確な人なんです」と笑いながら述べていた。

また大手電力幹部は発表直後、「知っています? 資料見ていて気付いたんですけど、飯田さんと保坂さんは生年月日(63年5月2日生)が一緒なんですよね」と筆者に面白い指摘をしてくれた。 電気新聞が上記記事の中で、同様のことを書いたのも、こうした話を聞いて書いたものであろう。   

筆者が聞く限り、経産省内部では保坂事務次官説を唱える人も多かった。保坂氏は、昨年1年間はロシアのウクライナ侵攻に伴うサハリンLNG問題への対応などで陣頭指揮の活躍をし、侵攻当初には当時の経産審議官に代わって官邸の危機対応の会議にも詰めていた。 経産審議官として、IPEFなどの対応とともに、ロシア・ウクライナ情勢の展開次第ではそういう場面が再び出てくるかもしれない。

ところで、現職に留任となった藤木官房長、松尾通政局長は、入省年次はともかく、学年的には今回の次官、経産審より2学年若いということになる。

本来、88年入省組は藤木氏が大臣官房総務課長を務め、エースと見做されてきた。前出の課長クラスの一人は、「藤木さんは、下からの信頼厚い。無茶苦茶人望ある」と話している。

一方で、別の課長は5月の段階で「藤木さんはずっと中枢を走ってきたが、ここ数年で見ると飯田さんかな」と呟いていた。その通りになったともいえる。

経産省は、財務省などと異なり、これまで同期で事務次官を引き継ぐというケースは考えられなかったといえる。しかし来年、藤木氏が事務次官に就任するかについては、筆者が感ずるに、多士済々の92年組までの間の幹部層を考えると、OBも含めて違和感は少ないように思われるが、どうであろうか。。また松尾氏は、経産審に就任するかが注目される。

業界紙に見る局長クラスの人事評

西村経産相は6月27日の記者会見で局長クラスの人事について次のように述べた。

「通商政策、GX推進法の詳細な制度設計、半導体、蓄電池戦略といったさまざまな重要施策の継続性、それから大阪・関西万博の開催準備、更には先般成立した知財関連法案、そして経済安保法の非公開特許などに万全を期して――松尾通商政策局長、畠山陽二郎産業技術環境局長、野原諭商務情報政策局長、茂木正商務・サービス審議官、浜野幸一特許庁長官など、関係幹部を留任させます」

経産省が対処すべき課題を特許庁や万博なども含めて抽出し、それに基づき幹部人事を説明しており、これについてあるOBは「原稿を書いた人間がいたとしても、局長世代の顔が見えている西村大臣(85年)らしさも出ていた」と評価する。

ところで、上記の電気新聞6月29日付の記事の中の局長クラスに関するいくつかのコメントは、電力業界の見方を反映しているとも言えるもので、興味深い。

〈内閣府から戻り、資源エネルギー庁長官に就く村瀬佳史氏についても、電力・ガス事業部長の経験から実情に即した制度設計に期待の声が上る〉

最近、カルテル、不正閲覧などの不祥事の根源を、組織風土ではなく、制度問題に寄せて語る傾向が一部見られるが、電力業界を熟知した村瀬氏に「実情に即した制度設計に期待の声」というのも、ややその傾向が感じられるといえよう。

〈山下隆一製造産業局長は、“本流”とされる経済産業政策局長に就くことから、事務次官の有力候補とみる関係者は多い〉

89年入省組の経産局長就任を「事務次官の有力候補となった」というのは、OBでもそのように指摘する人もおり、一般論としてその通りなのであるが、電気新聞の記事には電力業界の気持ちも入っているとも言えよう。

山下氏は、福島第一原発事故時の電力市場整備課長として、激務に対応した人という評価が電力業界の多くの見方といえる。

ジャーナリスト 阿々渡 細門

【目安箱/8月9日】原子力停滞の安倍政権時代から学ぶべきこと


安倍晋三元首相が2022年7月8日に暗殺されてから1年以上が過ぎた。心からご冥福を申し上げる。

安倍晋三氏(1954−2022)(安倍氏Hウェブサイトより)

安倍氏の政治家としての業績を讃える声が、世間に満ちる。もちろん筆者も、それに賛成する。外交面・安全保障問題では、首相主導による成果はすばらしかった。頻繁に政権が変わったことが、日本の政治の問題だったが、安倍氏は08年に加えて、12年から19年まで長期政権を担った。

ところが、エネルギー関係者、特に電力・原子力産業に関わる産業人、技術者・研究者は、安倍政権の行動をあまり評価していないだろう。エネルギーを巡る多くの課題を放置したからだ。

11年3月の東京電力福島第一原発事故の後で、電力・エネルギー分野は民主党政権と経産省・資源エネルギー庁が主導した改革で大混乱した。民主党政権が崩壊して自民党・公明党の連立政権に変わったときに、エネルギー政策も変わると期待された。ところが、安倍氏とその政権は、政権が後退しても、一度決まったエネルギー政策の方向を変えなかった。

エネルギー・原子力問題は在職中放置状態

「安倍晋三回想録」(中央公論新社)が22年末に発表された。読売新聞の政治記者2人が安倍氏に聞き書きし、元内閣情報官で元警察官僚の北村滋氏が監修している。安倍氏も聞き手も、経済問題に関心が少なく、さらにその中のエネルギー・原子力問題にはほとんど言及がなかった。外交については首相主導で、対策や戦略が練られていたが、内政ではそれがほとんどなかった。安倍氏は「財務省との戦い」に関心を向けていた。

安倍政権下では経済政策が「アベノミクス」と名付けられ、何かをやっているように見えた。確かに安倍政権の間は、株価は上昇し、失業率は低かった。しかし実質は大きな改革をせずに、日本の経済・社会の課題の解決を先送りしてしまった。高支持率と選挙の勝利という政治資産を、外交、安全保障法令の改正、また彼の持論であった憲法改正の準備に使ってしまったように見える。そしてエネルギー・原子力は後回しにされてしまった。

自民党議員によると、安倍氏は首相の退任理由となった病の癒えた後に、自民党のエネルギーを巡る議員会合、議員連盟に出席し、エネルギー問題について、政権中に「やり残した」という感想を述べたという。また原子力や電力システムの安定を訴えた。もしそれが事実ならば、なんで在職中に取り組まなかったのか、悔やまれる。

政治主導で修正する必要がった四つの政策課題

エネルギー産業は、どの国でも政治が企業活動に影響を与える。日本ではそのマイナスの影響が最近大きい。そして安倍政権は懸案が山積したのに動かなかった。それは今でも悪影響を与えている。安倍氏だけに責任はないが、一連の政策には大きな問題があった。

民主党政権で、エネルギーでは政治主導によって、以下の4点が大きく変わった。それを安倍政権は、政治主導で修正しなければならなかった。

・原子力の過剰規制による原発の長期停止。その見直しと原発活用、再稼働。

・エネルギーシステム改革、電力自由化の検証。負の部分の是正。

・再エネへの過剰支援を抑制し、適正な形に着陸させること。

・東京電力福島第一原発の事故処理の検証、補償の線引き。

23年になって、その弊害は明らかだ。特に①の原子力問題は大きなつめ跡を残している。

原発の停止で、代替の天然ガスなどの燃料費はこの10年で約50兆円に達したとの試算がある。日本のGDPは名目で500兆円程度だ。毎年数兆円の天然ガス、石炭などの電力のエネルギー源の余分な購入を海外からしたら、その成長を0.5〜1%程度押し下げただろう。

ここ数年、需要の高まる夏冬に電力が不足し、停電の危機さえ発生している。原発を使えないまま、自由化したことで、既存電力会社の供給能力が抑制気味であるからだ。またウクライナ戦争の後の国際エネルギー価格の高騰の影響で、日本の電力・エネルギー価格も急騰した。原発の利用が見通せないために、再エネを原発と調整しながら増やすことも、東電の経営に原子力発電を役立てることもできない。

14年ごろ、シェールガス革命の影響で国際的な原油やガスの価格が下落した。それがなければ安倍政権と日本経済は、エネルギーの面から失速していたかもしれない。

安倍政権は、原発ゼロという政策は採用しなかった。しかし「安全性の確認された原発は再稼働」と繰り返すだけで、原子力規制の見直しに踏み込まなかった。

時の政権の一挙手一投足に振り回されぬように

安倍氏はイメージだけで「タカ派」のレッテルを貼られ、批判が先行した。一方で、ファンも多かった。賛美でも中傷でもなく、その活動を冷静に評価するべきだ。

その上で、私は自分の知るエネルギーと経済政策では、安倍政権は、「問題先送り」という評価できない政策を行ったと思う。とても残念だ。外交、安全保障面の偉大な実績と比べると、それは見劣りする。

また安倍氏は、エネルギー・原子力問題に政治家の中では理解と関心があった。それでも、その問題には手をつけられなかった。彼にとっては、エネルギー・原子力は多くの論点の一つに過ぎなかった。そして選挙に連勝した強い政治基盤を持つ安倍政権でさえ、日本の諸問題の改革を大きく成し遂げられなかった。エネルギー・原子力問題は後回しにされた。

興味深いのは、現在の岸田文雄政権が誕生して以降、停滞していたエネルギー・原子力問題が前進し始めたことだ。何よりも、先の通常国会で成立した脱炭素電源法により、運転開始から40年を超える原発の稼働期間延長に道筋が開けた。また福島第一原発から出る処理水の海洋放出も、いよいよ今月下旬に実施される見通しとなっている。国の原子力規制委員会による原発の安全審査も少しずつではあるが歩みを進め、北陸電力の志賀原発では長年の活断層疑惑が払しょくされ、再稼働に向けてようやくスタート地点に立った。一方、普及拡大の一途をたどってきた再生可能エネルギーを巡っては、メガソーラーなどの乱開発規制の強化が重要な政策課題に浮上している。

いずれも、エネルギー・原子力を取り巻く内外情勢の変化が少なからず影響しており、必ずしも岸田首相の政治力のおかげというわけではないものの、現政権に対するエネルギー関係者の評価は意外なほど高い。だからといって、業界が必要以上に政治に頼るのは、やはり危険だ。時の政権の一挙手一投足に振り回されるような業界は、国民の目からみると「斜陽産業」に映るものだ。

「永田町にも霞が関にも頼り過ぎず、まずは自らの努力で未来を切り開く」。このように幻想を捨て、彼らがどのように動いても生き残れる、そんなビジネスの自立心が業界関係者に求められている。

【目安箱/8月8日】再エネを汚した秋本議員 「競走馬」だけではない疑惑の流れ


「クリーン」を売り物にしている再生可能エネルギー業界に激震だ。自民党の再エネ拡大・脱原発派の急先鋒で再エネ普及拡大議員連盟事務局長を務めていた秋本真利衆議院議員(千葉9区)が、収賄の疑いで東京地検特捜部の捜査を受けている。具体的には、風力発電会社の日本風力開発から、洋上風力入札制度のルール変更の見返りとして計3000万円の資金提供を受けていたという疑惑だ。これに対し、秋本議員側、日風開側ともに贈収賄性を否定。関係者によると、秋本氏と社長は競馬仲間で2021年秋に競走馬を扱う馬主組合を設立しており、3000万円はその競走馬の購入に充当したとの主張だ。しかし秋本議員は去る8月4日に在職中の外務政務官を辞任し、自民党も離党した。ちなみに、秋本議員が師と仰ぐ河野太郎・デジタル相は、昨年8月まで日本競走馬協会の会長を務めていた。

秋本議員は以前から、再エネ問題での行動が異様で態度もおかしかった。以下は、秋本議員のSNSツイッター(現X)での2018年12月の発言だ。

〈日立は…原発なんてクソみたいな物よりも世界で日立しか作っていないダウンウィンドの風車を世界に売る努力をすべきだ。日立のダウンウィンドは陸上よりも「洋上で特に優位性がある」というコンストラクターもいる。シュリンク市場よりも次世代に貢献する市場で汗をかけ。〉

秋本議員のツイッター

原発や大手電力をののしる秋本議員

当時、日立は英国での原発売り込みを行い、日本政府も支援していた。結果として失敗した。そうした中で、下品な言葉を使って、再エネや風力発電を推奨する彼の姿は異様だった。

秋本議員は「反原発・再エネ重視」と自らの政治姿勢をPRし、さまざまな場所で前述のように原子力発電や大手電力会社について、「利権」「時代遅れ」など口汚く罵っていた。また過激な首相官邸前での抗議行動で知られ、反政府色の強い首都圏反原発連合という団体にも、講演などで関わっていた。与党議員でありながら、国の政策を混乱させる行動に加担した。

それどころか、自分の利益のために政治家としての権限を使って、ゆがんだエネルギーシステムをつくろうとした可能性がある。そして秋本氏は以前から、再エネ事業者との関係が噂されていた。

秋本真利衆議院議員(衆議院HPより)

入札実施後に政治介入でルールが変わる?

秋本議員の疑惑は、洋上風力発電の入札ルール変更に不当に干渉したというものだ。再エネに対する補助金は23年度の予想で4兆7477億円になる。その巨額さを見れば、ビジネスではなく、政治工作でその補助金から利益を得ようとする人も出てくるだろう。

再エネの中で、風力発電はコストで競争力がある。経産省はその拡大を期待している。陸上の適地に風力を作る余力が乏しくなったことから、洋上風力に注目が向いた。海面の利用、漁業権などで、さまざまな権利関係者、また省庁間の調整が必要であった。経産省はそれを行い、20年から合計4500万kW、発電予想15兆円分の海面が開放され、入札で事業者を集めることになった。

2021年12月に最初の3件(秋田沖2件、千葉沖1件)の公募入札の結果が発表された。それが予想外の結果になった。事前の予想では早くから参入を表明していたレノバや日本風力開発などが落札するとみられていた。

ところが、結果は三菱商事グループがkW時当たり11.99円~16.49円と他社に5円以上の差をつけ、3件すべてを落札した。外国製の安い機材の使用などの工夫をした。

上場していたレノバの株価は18年には200円台だった。洋上風力が行われる動きがあって20年には6000円台に上昇した。ところが、この入札結果を受けて暴落し現在は1300円台になっている。

ここに介入したのが自民党再エネ議連だ。経産省の担当者や業者を呼んで入札について聞き取りを行った。関係者によると、その中心になったのが秋本議員だった。

経産省は22年5月に突然、入札ルールを変更する方針を表明した。同年6月に行われる予定だった第2回の入札は23年6月に延期され、審査方法も変更された。新しい審査方法では、評点で価格の割合を下げ、事業建設の迅速性などの評価を高くした。これは三菱商事に不利になる。第2回の審査は今年6月30日が応募締め切りだった。結果はまだ公表されていない。ここまでが制度変更の経緯だ。

変更を主導した秋本議員に金が流れる

そこで秋本議員がこの制度変更にどのように関わったかが問題になる。秋本議員は第4次安倍政権(17年11月~18年10月)で国土交通政務官だった。この地位は洋上風力に関わる。今年(23年)2月の国会質疑での立憲民主党の調査によると、秋本議員は「安倍首相に洋上風力の制度を作るために、国交省に政務官として行かせてもらった」と、かつて発言したことが明らかになった。

そして役職についていなかった21年12月から、自民党再エネ議連の制度見直しの議論を仕切ったことに加え、22年初頭に国会で複数回、洋上風力を巡る質疑を経産省を相手に行った。

立憲民主党は秋本議員の政治資金を調査し、今年2月に源馬健太郎衆議院議員が、国会で外務政務官だった秋本氏に質問をしている。秋本氏はレノバ社の株を売買している。その時期と売買の数量、利益を出したかどうかは明確にしていないが、国交政務官の就任の前に買い、退任後に売ったと認めた。ただし秋本議員は「在職中の株売買ではないので違法ではない」としている。この間にレノバの株価は上昇した。原因は洋上風力の規制緩和であり、その制度変更に秋本議員は関わっていた。事業者に便宜を図り、株で利益を出したと指摘されても仕方がないだろう。

またこの質疑で、秋本議員は風力発電事業者5社から、21年までの3年間で1800万円の政治献金を受け取っていたことを認めた。

秋本議員は「制度改正は経産省の所管で、私は一議員であるから職務権限はない、政治献金は問題なく処理している」と主張した。しかし、風力発電事業者に有利な活動をしていた以上、批判を当然受けるだろう。

さらに報道によると、秋本議員は、日風開から競走馬を購入するためとして複数回にわたって計3000万円の資金提供を受けたという。昨年10月に基準が見直された直後、秋本議員が同社の塚脇正幸社長側から現金約1000万円を衆院議員会館で受領し、競走馬の購入に充てたもようだ。これは実際に馬を買ったのか、馬の売買を巡る政治資金ロンダリングかは不明だ。政治資金報告書には掲載されていないようだ。

秋本氏は職務に関わる事業者から献金や利益供与を受けている。この捜査の進展を注視したい。

自民党にも再エネ政策の説明責任

私は、この洋上風力の入札制度の突如の変更を、当時からおかしいと思っていた。再エネ賦課金の膨張が問題になる中で、価格の安さが入札の中心にするという経産省の当初の考え方のどこがいけないのか。また露骨な秋本議員の介入があった。

これは秋本議員の個人的な疑惑にはとどまらない。自民党再エネ議連、同党全体の問題になる。また秋本議員は、河野太郎内閣府大臣・衆議院議員との親しさを常に強調していた。また見直しには議連会長の柴山昌彦、メンバーの小泉進次郎の各衆議院議員も熱心だったという。なお、河野氏は日本競走馬協会の会長を務めていたことから、秋本議員の競走馬購入とのつながりを指摘する向きも。こうした政治家は秋本議員と自らの行動に説明責任がある。そして、彼らは再エネ振興と脱原発で協力し合っていた。

電気料金が上昇しているが、その一因は再エネへの補助金だ。家庭向けでは1世帯あたり月2000円近く支払い、電力料金の1割以上になっている。過剰な再エネ優遇を自民党が続ける理由に「利権」があるとしたら、国民感情的にも、倫理的にも許されない。

秋本議員のような、再エネを金で汚しおかしな制度づくり進めた人を、これを契機に排除したい。また検察は背後関係を徹底的に捜査してほしい。その上で、健全な再エネ発展のための議論を始め、政治ではなく国民と事業者主導でエネルギー制度を再構築していきたい。

【記者通信/8月5日】中国電が旧経営陣を提訴 清水氏は中経連会長辞任の意向


8月2日に山口県上関町において、使用済み燃料の中間貯蔵施設建設に向けての調査・検討を関西電力と共同で行うと発表したばかりの中国電力を巡り、またも衝撃が走った。翌3日、大手電力4社グループによるカルテル問題で公正取引委員会から707億円の課徴金処分を受けた同社が、清水希茂前会長、瀧本夏彦前社長、渡部伸夫元副社長の3人に善管注意義務違反があったとして、損害賠償を求める訴えを広島地裁に起こすと発表したのだ。請求額は、課徴金に社内調査費用などを加えた額を想定しているという。

「まさか、中国電力が提訴に踏み切るとは思わなかった」。大手電力会社の関係者は驚きを隠さない。カルテル問題を巡っては、関西電力が7月28日、当時の経営陣に対して賠償を求める提訴をしないことを決めたと発表していたからだ。関電では、当時の経営陣4人について「過失や善管注意義務違反の余地がある」としたものの、「損害の有無や責任について不確定な事実が多く、勝訴の可能性の判断が困難」などとして提訴を見送った。

中部と九州については、そもそも公取委が認定したカルテルの合意はなかったと表明していることから、現在のところ経営陣を訴える可能性は低いとみられている。

清水氏と瀧本氏は3日付で、それぞれ相談役と特別顧問を辞任した。また清水氏については、6月に中国経済連合会の会長に再任されたばかりだったが、一部報道によれば、同社は4日、中経連に清水氏が辞任する意向であることを伝えたという。

【記者通信/8月3日】電力カルテルで処分3社が提訴へ 果たして勝算は?


大手電力4社グループが公正取引委員会からカルテル認定を受けた問題を巡り、課徴金などの処分を受けた3社が相次いで取り消し訴訟に踏み切ろうとしている。九州電力は7月31日、関西電力との間でカルテルを結んだとする公取委の認定に関して見解の相違があるなどとして、排除措置命令と課徴金納付命令で取り消し訴訟を提起することを取締役会で決議したと発表した。同じく課徴金処分を受けた中部、中国の2社は既に提訴する方針を明らかにしているため、事実上の提訴期限となる10月初めまでに3社が足並みをそろえて訴訟を起こせば異例の事態となる。

池辺和弘社長はこの日の会見で、カルテル合意時期の前後で同社の入札行動や関電エリアでの営業活動に変化がなかったことなどを理由に、「公取委が認定しているカルテル合意はなかったとの判断に至った」と述べた。ただ、九州は処分に至る過程で公取委の調査に協力していることから、ある業界関係者は「そのカルテル認定を否定する訴訟において、勝算はあるのだろうか」と疑問を投げる。

中部については、当事者の一人とみられている林欣伍社長自らが会見の場で「関電との間で営業活動を制限するような合意はしていない」と断言し、公取委側と全面的に争う姿勢を見せている。一方、中国については、課徴金の対象となる売上高で公取委と意見が食い違っているとの主張であり、処分の全面取り消しではなく、一部取り消しで争う構えだ。

全面取り消しの判例はなし カルテル認定の特殊性が影響するか

独禁法問題に詳しい関係者によれば、「過去の裁判例を見ると、課徴金納付命令の全取り消しに成功した事例はなく、課徴金減額という一部取り消しが1件あるのみ」だという。これを踏まえれば、勝算があるのは中国のみということになるが、「今回のカルテルでは会合に参加したなど状況証拠の積み重ねで認定されたという特殊性があるので、これまでがこうだったからという視点で評価はできない」(事情通)と見る向きもある。「とりわけ中部については林社長の毅然とした対応を見る限り、カルテルに合意していないことを裏付ける証拠があるのではと思えてならない」(エネルギージャーナリスト)。

公取委が初の全面敗訴に追い込まれるのか。いずれにしても、長期戦は必至の様相だ。

【記者通信/8月3日】中国電が上関に中間貯蔵施設 関電との共同開発前提に


新たな「共同利用案」だ。中国電力は8月2日、関西電力との共同開発を前提に、使用済み核燃料の中間貯蔵施設建設に向けた調査を山口県上関町で行う方針を明らかにした。同日午前には中国電の幹部が上関町役場を訪れ、西哲夫町長に方針を伝達。関電側としては使用済み核燃料の県外搬出量の確保につながり、「今年中に県外で中間貯蔵施設の確保」という福井県との約束への影響が注目される。

経済合理性を強調 中国電から関電に提案

中国電の大瀬戸聡常務はこの日の会見で、自社のみで中間貯蔵施設を建設・運営するのは負担が大きいとし、発電費の低減にもつながり経済的に「合理的な取り組み」だと共同開発の意義を強調したほか、「当社側から関西電力に提案した」と経緯を説明した。原発再稼働が進む西日本では、四国電力、九州電力がそれぞれ敷地内での中間貯蔵施設建設に向け動き出しており、島根2号機の再稼働を控える中国電も中間貯蔵施設の建設が課題となっていた。

中国電は1982年から上関原発の建設計画を立てているが、福島第一原発事故以降は準備作業が中断されたままとなっている。西町長は昨年10月の町長選で初当選し、今年2月には中国電力に対して地域振興策を要望しており、今回の中国電の方針は西町長への「回答」となる。西町長は面会後、議会で議員の判断を仰ぐ方針を示した。

一方、関電は6月、使用済み燃料の一部(使用済み核燃料と使用済みMOX燃料)を使用済みMOX燃料の再処理実証のためフランスに搬出する方針を発表している。福井県との約束を「ひとまず果たされたと考えている」との見解を示したが、使用済み核燃料の搬出容量を確保するため、引き続き「あらゆる可能性を追求」するとしていた。

青森県知事がエネ庁長官と面会 共同利用は言明避ける

関電の中間貯蔵地を巡っては20年12月、電気事業連合会が東京電力と日本原子力発電が所有する青森県・むつ中間貯蔵施設を共同利用する方針を発表したが、むつ市の宮下宗一郎市長(当時)の強い反対で棚上げとなっていた。

その宮下氏は今年6月、青森県知事に就任し、7月27日には経済産業省を訪問して資源エネルギー庁の村瀬佳文長官と面会。宮下知事は青森県と関係閣僚が意見交換を行う「核燃料サイクル協議会」の開催を求め、村瀬氏は「早速、政府内で検討したい」と前向きに回答した。同協議会は97年の設置以降、過去に11回開催されている。前回開催は六ヶ所再処理工場が原子力規制委員会から事業変更許可を得た20年10月で、約10年ぶりだった。

宮下氏は同協議会の開催を要請した理由について「知事が変わったことを一つの節目とし、青森県の原子力、核燃料サイクルなどエネルギー政策にどう向き合うかを私自身の言葉で関係閣僚にお伝えしたい」とし、「(知事就任後)最初の1カ月は仕事の進め方を県民に示す期間。核燃料サイクルに協力することを明らかにするタイミングだった」と説明した。また面会では日本原電・大間原発についても意見を述べたといい、「審査が長引いていることで地域は影響を受けている。核燃料サイクル協議会でもしっかりと伝えていきたい」と強調した。

だが、関電によるフランスに搬出方針への受け止めは「特にない」と言明を避けたほか、電気事業連合会が検討を続けているむつ中間貯蔵施設の共同利用案について、知事就任後に関電からのアクションはないことを明らかにした。「もし関電から共同利用の相談があったら」との問いかけに対しても、「仮定の話はできない」と回答しなかった。青森県やむつ市には、核燃料物質等取扱税(核燃税)や使用済み核燃料税を求めて共同利用に前向きな声も存在する。上関町での中間貯蔵施設建設の動きが、何らかの影響を与えるかもしれない。

【目安箱/8月1日】処理水海洋放出に危険性なし 政治の決断と実行のみ


政府と東京電力は、2011年に事故を起こした福島第一原子力発電所で、事故処理の過程でたまった汚染水から放射性物質を取り除いた130万t以上の処理水を海洋放出する方針を示している。近く放出の予定だ。

福島第一原発構内の大量の処理水タンク(編集部撮影、2017年)

一部の日本の政治勢力、メディアのほか、中国、韓国、北朝鮮がその放出に反対している。韓国は政府が容認しているものの一部世論が騒ぎ、また中国政府が懸念を表明している。今年の放出は2021年4月に廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚会議で決定していた。そもそも2015年に、海洋放出の方針が打ち出されていた。世論に配慮したとはいえ、あまりにも実行が遅すぎる。

同原発の構内には、高さ8mほどの貯水タンクが1000基立ち並ぶ。東電は費用を公開していないが、一基あたり建設に数億円かかるようだ。筆者は同原発を視察し、そのタンクが立ち並ぶ姿を見て、無駄遣いに悲しくなった。東電は事実上国営化されている。無駄な事故処理費用は、国民負担、そして東電の利用者の負担になる。

騒ぐ人たちは、実際の処理方法をよく知らないらしい。そのために、ここでポイントを整理して、健康被害の可能性がないことを確かめてみよう。以下の2サイトを参考にした。(東京電力サイト「もっと知りたい廃炉のこと#汚染水」「処理水ポータルサイト」

◆処理水は希釈して海に放出

この処理水を意図的に「汚染水」と呼ぶ人がいるが、それは誤りだ。有害な放射線各種は全て取り除かれた水だ。

東電は、放水のための設備を建設中だ。処理水は、沖合1kmの放水口から海水で希釈されて現在タンクに貯留放出される。その希釈用の海水は発電所の港湾の外で取水される。陸上側から海底の岩盤中にトンネルを掘り進めており、そこから放出される。放出した水が再度希釈用の水として取水されにくいように、その距離を大きく離すという。

処理水の設備概念図(東電資料)

事故処理水は多核種除去施設(ALPS)で62種の放射性各種を取り除いている。国際的に認められた環境への放出基準を下回っており、放出の際にも再確認される。東京電力は包括的海洋モニタリングシステムで海洋への影響を公開するという。東電は処理水に関する情報を徹底的に公開する方針だ。

東京電力・包括的海洋モニタリングシステム(サイト写真)

◆トリチウムの安全性

ALPSは、放射性物質のトリチウムは取り除けない。ただ、この物質は普通の水などにも混じり、少量では影響がない。130万tの処理水で、純粋なトリチウムはわずか15cc分という。

海水による希釈後のトリチウム濃度は1ℓ当たり1500ベクレル未満とする。この含有濃度にするために、現有の処理水をおおよそ100倍以上の海水で希釈する。

これは国際保健機構(WHO) の基準である同1万ベクレルの約7分の1である。また、2年後からの処理水の放出では、年間トリチウム放出量は22兆ベクレルを下回るように調整される見通しである。

いずれにしても原発ではトリチウムを排出する。隣の韓国の原発では、2018年の実績で、古里原発で50兆ベクレル、月城原発で25兆ベクレルを排出した。これは福島第一原発の処理水の予定を下回る。

◆騒ぎ続ける人たちを相手にする必要はあるのか

処理水について、東電がここまで対策をしているのに、国内外で安全性を懸念して騒ぐ人がなぜいるのか、私には理解できない。韓国や中国などは、日本をおとしめるために言っているとしか思えない。

国内では、事故直後の感情的な議論は落ち着き、大半の世論調査は処理水の海洋放出を容認する意見が多数だ。ところが、いまだにこの処理水に反対する人たちがいる。

あらゆる社会問題には、その問題が解決しないことによって利益を得る人たちがいる。『「正しさ」の商人 情報災害を広める風評加害者は誰か』(徳間書店)という、福島問題を取り上げ続けてきたジャーナリスト林智裕さんの著作がある。それによれば、以下の種の3人が、福島の放射能問題で騒ぎを混乱させ続けた。

政治闘争の手段として、反原発や政権批判などの政局づくりや、体制の脆弱化目的の情報工作を行う人がいた。

経済的・社会的利益を得ようとして、災害と社会不安に便乗した売名、金銭や地位などを得る詐欺的な行為を行う人がいた。

騒ぎで喜び、承認要求を得ようとして、自己顕示欲や逆転願望の発露、偏向した権威・派閥・コミュニティ内での保身的な踏み絵やポジショントーク、陰謀論などを展開する人がいた。

こうした人たちは永遠に騒ぎ続けるだけだ。孤立させ、その発言を誰も真面目に受け取らない状況を作り出す必要があるだろう。そして、この処理水問題でも不必要な騒ぎは無視することだ。

この問題では、問題を処理する側の動きも鈍すぎる。これは政府の役割だが、ここまで対応した以上、もう説得ではなく、実行の段階にある。

「ゴルディアスの結び目」という逸話がある。ゴルディアスという王が荷車と柱を結びつけ、「これをほどいたものは、アジアの王になる」と予言した。多くの人が試みたが、ほどいたものはいなかった。ところが、のちにアジアを征服するアレクサンドロス大王が、剣でバッサリとそれを切断してしまった。

思い切った実行が複雑な問題を解決する。そして実はその問題は大した内容ではないことを示す逸話だ。私には処理水問題は、風評被害対策と漁業補償という残った論点を除けば、「断行」で解決できる単純な問題のように思える。まさに「ゴルディアスの結び目」だ。

岸田文雄首相の英断と実行が待たれる。

【記者通信/7月28日】「脱炭素電源入札」に既存原発 巨額の安全対策費確保へ


原子力事業者の投資予見性を確保する動きが加速している。経済産業省は7月26日、原子力小委員会を開催し、巨額の安全対策投資を念頭に「長期脱炭素電源オークション制度」の対象に既存原発を盛り込む検討を開始する方針を示した。このほか、4月に閣議決定した「今後の原子力政策の方向性と行動指針の概要」(行動指針)を巡って、活発な意見交換が行われた。

巨額の安全対策費回収へ 反対意見や課題も

長期脱炭素電源オークションは脱炭素電源への新規投資を対象に国が実施する入札制度で、2024年1月の初回応札に向けた準備が進んでいる。応札された電源には、建設費や人件費など固定費の収入を原則20年間保証することで、収入の予見可能性を付与する。

原発の再稼働に当たっては、巨額の安全対策投資を回収するための予見可能性の確保が課題となっていたが、その扱いについては整理されていなかった。そこで行動指針では「国による安全対策投資に資する予見可能性確保など事業環境整備の検討」を盛り込み、GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法の成立に伴い改正された原子力基本法でも、安全性確保の投資を念頭に「安定的にその事業を行うことができる事業環境を整備するための施策」を講ずるとしていた。

一部の委員が「安全対策は新たな電源を追加するものではない」と制度の趣旨に反するとして否定的な意見を述べた一方で、「脱炭素電源として稼働するために安全対策が必要なら、違和感はない」など評価する声が多かった。さらに「工事費用の上振れ、安全対策は立地ごとに個別性が高く、どこまで制度でカバーするのか」といった課題も挙がった。

急がれる新増設 「建設地点を考え出してもいい」

同委員会ではこのほか、サプライチェーン維持のため革新炉開発の加速を求める意見が相次いだ。わが国では3.11以降、国内で進行・計画中だった新設プロジェクトがいずれも中断し、英国やトルコ、ベトナムで計画していた輸出案件も中止または終了した。空白期間の長期化により、川崎重工業や住友金属工業、古河電気工業といった大手企業が原子力の関連事業から撤退し、原子力従事者も減少の一途をたどる。

日本は原子力大国フランスに匹敵するほど、エンジニアリングや燃料、濃縮、原子炉容器、蒸気タービンなど、幅広い範囲で強固なサプライチェーンを温存している。だが、原子力サプライチェーンは一度断絶すると再構築するのは困難とされ、一刻も早い革新炉の建設が求められているのだ。革新炉ワーキングループで座長を務める黒崎健委員は、行動指針に「次世代革新炉の開発・建設」が盛り込まれたことについて「『建設』という言葉が入ったのは大きい」と強調しし、「そろそろどこに建設するか考え出してもいい」との見方を示した。原子力の「最大限活用」を掲げたGX基本方針は、いよいよ実行段階に入っている。

【記者通信/7月28日】石油危機50年を総括 化石から次世代までエネ研が報告会


かつて石油危機をきっかけに、日本中が「狂乱物価」といわれるインフレに見舞われた第1次オイルショックから約50年。新たに発生したエネルギー危機を前に同じ過ちを繰り返さぬよう、日本エネルギー経済研究所は7月25日、「石油危機から50年、そしてこれからの50年」をテーマに定例研究報告会を開催した。

産官学による包括的な関係構築が重要に

冒頭に寺澤達也理事長が「1973年の第1次オイルショックから、中東への知見を深めるため、エネルギーの多角化からLNG、原子力、再生可能エネルギーと積み重ねてきた」とあいさつ。ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー問題が再度表面化した中で「日本のエネルギー安全保障に対する中東の位置づけはどうなったのか。真摯に見極めて今後に生かすことが重要だ」と話した。

その後、中東研究センター長の保坂修司理事が「50年前、中東で何が起こったのか」をテーマに、第1次オイルショックにおける日本の教訓とは何かについて講演した。保坂理事は「当時の日本は中東産油国やエネルギー安全保障に対する関心が欠如していた。情報収集や分析の不備、専門家の不足なども、国民のパニックを助長させる大きな原因となった」と指摘。その反省を生かし、これまで培ってきた中東との信頼関係は、現在の日本における大きなリターンになり得ると話した。一方で日本の石油需要の頭打ち、中国の台頭による日本の経済的影響力の低下にも言及。日本のソフトパワーを生かしながら、産官学による包括的な関係構築の重要性を訴えた。

危機は日本にとってのチャンスか

報告会の前半は、①50年前の石油危機からの教訓、②天然ガス市場の動向、③原子力活用の必要性、④資源の偏在性の脅威――の4点について講演を行い、化石資源と原子力の現状を解説した。後半は、「水素アンモニア」「GXに向けた取り組み」「アジアでのエネルギートランジション」などが論じられ、カーボンニュートラル時代に向けた今後の新規技術展開について、エネ研が調査した豊富な資料から課題を紐解いた。

報告会の最後には、エネ研専務理事の小山堅首席研究員が総括。エネルギー危機に対する国家戦略の重要性を示しつつ、市場に変革をもたらす技術革新への投資が、国家と市場の関係性に変化をもたらすと指摘した。エネルギー危機による将来の世界情勢の変化にも触れ、「技術革新とルールメーキングを巡るせめぎあいの世界で、次に起こり得るのが産業政策の復活だ。産業政策を批判していたアメリカが、方針を転換することで起こる危機にどう対応するのか。日本にとって大きなピンチだが、逆に言えばチャンスでもある」との見解を示した。

【記者通信/7月25日】商慣行是正で問われるプロパン業界の本気度


「プロパン業者にとってマンションの居住者は顧客なのだろうか。依然として不動産オーナー、もしくはデベロッパーだけを顧客だと思っているのではないか」――。7月24日、総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)液化石油ガス流通ワーキンググループ(座長=内山隆・青山学院大学教授)の第3回会合をオンラインで傍聴した消費者団体の関係者の一人はこう、会合への感想をこうつぶやいた。

賃貸集合住宅への設備無償貸与という長年の商慣行から脱却できるのか

プロパンの料金透明化、取引適正化を目指し3月に議論を再開した同WG。これまでの議論を踏まえ資源エネルギー庁事務局はこの日、商慣行是正に向けた対応方針と実効性確保の方策についての案を示した。その柱の一つが、賃貸集合住宅において、エアコンや給湯器といったガスとは関係のない設備費用をガス料金に上乗せして利用者に請求することを禁じることだ。プロパン業者が契約獲得のために投じた営業費用を付け回し、選択権のない利用者に経済的不利益を生じさせているとして、長らく問題視されてきた。来春にも省令を改正し27年度の施行を目指す。

「抜け駆け」「抜け道」で形骸化の懸念も

同WGの委員には、消費者や弁護士、プロパン業界の代表者らが名を連ねる。この議論を機に、プロパン業界を巡る消費者トラブルを一気に撲滅したいと息巻く消費者代表らに対し、方向性はおおむね合意しているとは言っても事業者側の「熱量」は低い。事業者側から幾度となく出てきた言葉は「抜け駆け」「抜け道」。長年にわたる商慣行にどっぷりとつかった事業者の多くが結局はこれまでと同じ轍を踏み、規制が形骸化してしまうのではないかという懸念だ。

これに対し、「抜け道を許さないよう業界全体で取り組むべきではないのか」と喝を入れたのは全国消費者団体連絡会の浦郷由季氏。同日の朝日新聞朝刊「賃貸住宅のLPガス料金、給湯器・エアコン費用上乗せ禁止へ 経産省」のニュースに付いたコメントに言及し、「『LPガスではないアパートを選べばいい』『LPガスの賃貸物件を選びたくない』というコメントが非常に多いことにとても驚いた。業界としてこれでいいのか」と、変化を求めた。

一方、「どれだけ自社努力しても、消費者トラブルを起こす一部事業者と『同じ穴のムジナ』だと言われてしまう。業界のブラックなイメージ払拭につながれば」と、この議論に期待するプロパン業者も。「省令改正の方向性が示されたとはいえ、まだ何も解決していないし何も変わっていない。本当の闘いはこれからだ」(同)と気を引き締める。

【記者通信/7月24日】LNG産消会議の同床異夢 日米とEUに温度差


7月18日に東京都内で開催したLNG生産国と消費国の関係者が集まる国際会議「LNG産消会議」。LNGセキュリティの強化など官民一体となった取り組みの発表や、各国の共同宣言などが盛り込まれ、2050年カーボンニュートラル実現に向けてLNG活用を目指す国際社会の団結をアピールした。しかし各国の会議での発言をひも解くと、LNG利用の方向性に対する「温度差」がにじみ出る。

LNGを活用したい日本と足並みを揃える立場を真っ先に示したのはアメリカだ。エマニュエル駐日大使は「日本は世界最大のLNG消費国。最大の輸出国であるアメリカと日本が手を組むことは、世界の成長を維持することにつながる」と日本のLNG活用に理解を示した。また、マレーシアからは国営石油会社ペトロナス社長兼グループCEOのタウフィック氏が登壇。「私たちは日本の現実的な姿勢を称賛したい。日本と視点を共有し、LNGを信頼できる新たな低炭素エネルギーとして供給する」と表明した。

ドイツ「化石燃料のルネサンスではない」

一方で、EU各国の反応は冷ややかだ。特にドイツは、LNGを含む化石燃料からの脱却を目指す認識を崩していない。経済・気候保護省のニンマーマン事務次官は「エネルギー危機に対処するために、化石燃料に関するわが国の短期的な体制は変わったが、これは化石燃料のルネサンス(復活)ではない」とくぎを刺した。

LNG輸入量を年間240億㎥に倍増したオランダも、LNGはあくまで再生可能エネルギーに切り替わるまでの代替であるとの考えだ。ロブ・イェッテン気候・エネルギー政策相は「LNGに関わる全ての関係者は、既存施設も新しい設備も、持続可能なエネルギーが水素なら、それに対応する準備を始めなければならない」とエネルギー転換の必要性を訴えた。

今回の会議では、再エネシフトを加速させたいEU各国とLNGを活用したい日米・LNG生産国との静かな対立が垣間見えた。クリーンな化石エネルギーであるLNGの活用に引き続き力を入れていくか、それともカーボンニュートラルの将来を見据えて脱化石を図っていくのか。LNGを巡る各国のスタンスの違いは、今後一段と鮮明化していきそうだ。

【記者通信/7月24日】地熱発電を火山国・日本で広げるには?


火山国・日本で拡大が期待される地熱発電。しかし、その量がなかなか増えない。地元との調整の難しさが課題だ。このビジネスで、地域と協調し小さいながらも着実に成長する「ふるさと熱電(熊本県阿蘇郡小国町)」を訪ねた。そして発電を増やす方法を考えてみた。

出力2000k Wのわいた発電所(熊本県小国町)

◆地熱発電はなぜ伸びないのか

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の調査では、現時点で日本の地熱発電所の設備容量は20カ所、発電設備容量は57万kW、発電量は2019年で2472GWh(2019年、ギガワット)だ。これは大型石炭火力1基分、発電量としては日本全体の0.02%にすぎない。

経済産業省・資源エネルギー庁の評価によれば、建設可能な設備は約2350万kW分もある。それなのに利用されないのはなぜか。経産省は、2019年の評価で「調査に多くの費用を必要とするものの十分な量の蒸気を安定的に採取できるか明確でなく」「開発期間が長期にわたること等の事業リスクがある」と指摘する。(資源エネルギー庁・「地熱発電の現状について」

調べてみると、事業者と地域の関係者や住民との調整が難航する例が多い。地熱発電は、地下から取り出した蒸気や熱水を使ってタービンを回す。その利用の後で熱水を地下に戻す。そうした場所はほぼ温泉地がある。その活用に影響が出かねない。温泉組合などが懸念するのは当然だ。「よそ者」が、土地の資源を利用して利益だけを取っていくことにも反発は当然あるだろう。実際に、全国の太陽光、風力発電では、そうした事業者と地域住民で、対立が起きている場も多い。

◆地元への利益を中心に、事業を作る

しかし、ふるさと熱電のビジネスは違う。主役は地元住民であり、同社はそれに「寄り添う」という形だ。2012年に創業しビジネスを成長させてきた。創業以来、その中心になったのが、取締役の赤石和幸氏だ。同社は中央電力の事業から、独立した企業だ。NTTグループや、関西電力なども出資している。

ふるさと熱電取締役の赤石和幸氏

岳の湯地区では、地域の人々が温泉と地熱を700年以上にわたって活用し守り続けてきた。ここの30世帯が「合同会社わいた会」を設立し、地元の地熱を使って発電を行う。ふるさと熱電は、その発電所の運営を委託されている。

また発電所の運転で、わいた会の住民と業務委託契約を結んで発電所の管理などに働いてもらうほか、小国町住民を採用して計6人の雇用が生まれている。収益は発電所の運営や、地域づくりの資金に使われ、残りは各世帯に分配される。「よそ者」が外から来て利益を得るビジネスではない。ふるさと熱電は住民と一緒になり、地域のために収益を活用するという目標を掲げている。その結果、信頼関係が生まれ、事業がスムーズに行われていた。

「地域の皆さんが発電事業の中心になっています。私たちはわいた会の皆様と一緒に共生・共栄を目指しています」。赤石氏が住民の人々と対話を重ねる中で、このビジネスを作り上げていったという。

【図】ふるさと熱電のビジネスモデル

◆地元との信頼が高収益を支える

ふるさと熱電は、わいた発電所で出力2000kWの発電を行っている。他の地熱発電所では収益を確保するために、1万kW程度の設備が多い。小さく始めたのは環境への影響を見極めようとしたためだ。同社は地元の人々と協力しながら現在は同5000kWの発電所を建設中だ。

日本では地熱発電の建設で10年ほどかかる。一方で、わいた発電所は構想から4年の2015年に完成・稼働した。試掘成功率は日本の地熱発電で1割以下とされる。しかし、わいた地熱発電所の場合75%と高くなった。調査を念入りに行い、地元の協力と理解があったので有望な場所を試掘できたからだ。

「全国には温泉地域が3000カ所あります。その熱源の適地は、地元の方々が一番知っています。わいた発電所の場合は住民の方々が主体なので、ともに協力し合い、土地の所有者である住民と合意形成を行えました。その結果として、開発のリードタイムが短くすんでいます」(赤石氏)

また運営でも信頼が生きる。地熱発電では温水や蒸気を使い、それを地下へ戻す。発電所のある岳の湯地区には、6軒の温泉旅館と24軒の農家があり、その温水、また地下水を旅館の温泉や農業に使っている。ふるさと熱電とわいた会のメンバーはその使い方を頻繁に合議している。発電が地下の温水や水に影響を及ぼさないか、モニタリング調査を町内の13 カ所で実施している。これまでのところ、温泉にも農業にも生活にも悪影響は発生していない。

こうした取り組みを丁寧に取り組んだ結果、地元とふるさと熱電の信頼関係が作られた。ここ数年のわいた発電所の稼働率は95%の高率だ。

「住民の皆さんとの丁寧なコミュニケーション、地元に納得いただける形で利益を還元する形を作ることが、事業の肝(きも)でした。温泉地域の方々が地域の財源として考えて事業を考えるからこそ、高い稼働率とそれよる収益が維持できています」と、赤石氏は話した。

◆「わいたモデル」を全国に、そして地域を豊かに

赤石氏は今後、事業を拡大させながら、社会を変えたい夢があるという。地元の岳の湯地区、そして小国町の地域活性化だ。そして、ここでの地熱発電のビジネスモデルを日本全国に広げることだ。この形のビジネスを「わいたモデル」と名付けている。

新型コロナ禍が落ち着き、日本各地の観光地で人が戻り始めた。しかし人気の場所がより栄えるという状況だ。補助金ではないお金を地域全体で使い、その観光地を魅力的にしなくてはいけない。そのために地熱発電を使おうという温泉地が、前にも増してふるさと熱電に学ぼうと日本中から同社を訪ねるようになっているという。実際に、「わいたモデル」を使って、地熱発電、また地域振興に使う相談を受けている

わいた会は、その収益で岳の湯温泉を整備している。地熱や温水を使った野菜の栽培、染め物への利用を行い、観光地としてより魅力を高める取り組みが進む。これを支えてふるさと熱電もビジネスを広げていく意向だ。

「将来的には上場も目指したいです。熊本の一地方から、再エネと地域振興のビジネスで株式を公開する企業が出る。いずれも日本の重要な課題であり、日本を元気にするインパクトがあると思います」と赤石氏は語った。

◆地域の「眠れる宝」 再エネ拡大のヒント

現在、エネルギー産業では再エネの拡大が期待されている。しかし、乱開発への懸念でその開発がなかなか進まない。そこで生活をしてきた地元住民や、林業、漁業、温泉などの各種組合との交渉がうまくいかない例もある。太陽光、風力では作った後の環境破壊のトラブルも数多く発生している。「わいたモデル」は、そうした地元との関係づくりに参考となるだろう。

日本には、地域ごとに「眠れる宝」がたくさんある。それに価値を与え、お金に変え、豊かにすることが課題だ。また脱炭素も社会の流れだ。複数の課題解決を行い、ビジネスで社会を変える。ふるさと熱電の、まだ小さいけれどもユニークな姿は、地熱発電の可能性を示しているように思える。