安倍晋三元首相が亡くなった後で、高市早苗・内閣府特命担当大臣が保守派の期待を集めている。彼女は新型原子炉へ強い関心を持ち、原子力を支えることを公言する。彼女の関心が、原子力・エネルギーにどのような影響を与えるだろうか。
◆高市氏が持つ原子力の知見
昨年末に、ある原子力立地県選出の国会議員の政治資金パーティーに出席した。どの政治パーティーでも、仲の良い議員が、主催する議員をほめるばかりで、同じような中身であまり面白くない。ただし、そのパーティーで来賓として挨拶した高市早苗氏は少し違った。彼女は話し上手で、人気があり、そして華があるために、出席者は会話や食事を止め、彼女に注目していた。
高市氏は、その議員が原子力問題で頑張っていることに賛辞を送った。「原子力には追い風が吹いています。三菱重工さんが、革新炉『SRZ1200』の開発を、関電さんなど、4社と共に行う良いニュースも出ています。私も核融合をA先生(その議員)と一緒に頑張ります。形になれば原子力への支援はますます広がるでしょう」
高市氏が革新炉の製品名までスピーチに出したことに、筆者は驚いた。そこまで知る議員は数少ないだろう。高市氏は原子力について相当勉強している様子がうかがえた。彼女は、今は内閣府で、科学技術・経済安全保障を担当している。彼女は新型炉、特にそのなかの核融合炉に関心を示している。
彼女の主導で昨年9月、内閣府に「核融合戦略有識者会議」が立ち上がった。日本は核融合について世界トップの知見と技術力を持つが、研究機関、大学、企業、政府がバラバラに動き、産業化という視点は少なかった。それをまとめようとしている。適切な着眼だ。高市氏は多忙にもかかわらず、この会議に全て出席している。皆勤賞だ。
◆革新炉への関心で業界は歓迎
22年に原研の核融合験装置「JT-60SA」が新しく稼働した。高市氏は岸田政権での自民党政調会長として、この装置の予算獲得を支援した。また自民党のエネルギー、原子力担当の委員会、部会の議員を原子力推進派で固めた。
「高市氏の原子力への関心は、革新炉に傾き過ぎ、バランスが悪い。どの種類でも稼働まで早くて十年先の話だ。核融合の実用化は2050年ごろだろう。それよりも今の原子力と日本に必要なのは、おかしな原子力の規制政策の是正と、原子力発電の再稼働だ」(研究者)との声もある。彼女に情報を提供しているのは、夫の山本拓前衆議院議員かもしれない。彼は福井県選出で、地下原発や高速増殖炉もんじゅなど、革新炉に詳しい議員として知られた。
ポスト岸田の有力候補の一人となっている高市氏の原子力への関心は、原子力関係者には歓迎されている。ポスト岸田には、同じ内閣府特命担当大臣として原子力業界を敵視する河野太郎氏もいるだけに、エネルギー関係者の応援が強まるのも当然の流れだ。
◆原子力が政争に巻き込まれる懸念
高市氏は、今は無派閥だが、安倍氏亡き後で、保守派の期待を集めている。ところが、そのためか野党や朝日新聞などの左派メディアは、彼女に厳しい。安倍晋三元首相に向けた敵意を、今は高市氏に向けているかのようだ。
岸田首相は今年1月の国会開会における施政方針演説で「G X(グリーントランスフォーメーション)」で日本経済の姿を変えると意気込みを述べた。今国会はこれを巡るエネルギー論戦、原子力の議論が行われることを筆者は期待した。ところが、この問題への世論の関心は今ひとつだ。それどころか3月初頭に焦点は、内閣府特命担当大臣としての高市氏の進退問題に移っている。
立憲民主党の小西洋之参議院議員が総務省の内部資料を公開。これは安倍政権当時の2014年での放送法の解釈についてのものだ。高市氏は当時、総務大臣として放送行政を所管していた。この文章について、自分の関わる部分について、「捏造だ」と述べた。そしてもし事実としたら議員辞職をするかとの、小西氏の問いに、「結構です」と述べてしまった。そのために話がずれ、彼女の進退をめぐる問題になっている。高市氏の主張が正しいかどうか、3月上旬時点では不明だ。野党やメディアは、彼女の発言を強く批判をしている。
エネルギー業界は、福島原発事故後の原子力への批判、その後の起こったエネルギー全体の自由化の動きによって大きな影響を受けた。「政治に振り回されるのはこりごり。政治や世論の反原発の動きが、沈静化しつつあることにほっとしている」(電力幹部)という状況だ。
高市氏が政治の中心になることで、「再び原子力が巻き込まれないか心配」(研究者)との声がある。高市氏は原子力推進に理解のある有力政治家だけに、彼女を巡る政争によって、原子力、ひいてはエネルギー業界も攻撃を受けかねないというわけだ。政治家としての今後の盛衰が、原子力とエネルギー業界に、微妙に影を落としていくことになりそうだ。