衆議院選挙が10月27日に終わり、自民党・公明党の与党が敗北、衆議院の議席が過半数を大幅に割り込んだ。与党は原子力の活用を求める国民民主党に協力を打診中で、エネルギー政策は目先に大きな変更はなさそうだ。しかし7号機の再稼働を目指す東京電力の柏崎刈羽原子力発電所の今後の動きに影響を与える可能性がある。

◆自民党・公明党大敗、エネルギー政策への影響
この発電所のある新潟県柏崎市、刈羽村のある選挙区の新潟5区では、立憲民主党の米山隆一氏が当選した。旧民主党から自民党への鞍替え組の前職の鷲尾英一郎氏、自民党前職(北陸比例当選)で、元新潟県知事の泉田裕彦氏が落選した。鷲尾、泉田両氏は比例復活もできなかった。自民党内の調整が難航し、同一選挙区からの2人の出馬で共倒れしてしまった。
新潟県は2022年の選挙区見直しで、選挙区の区割りが大幅に変わった。小選挙区は6つから5つに減り、柏崎市と刈羽村は長岡市と統合した。米山氏はスキャンダルで知事職を辞職したが長岡市では選挙に強かった。謝罪を続けたことに加え医師、弁護士の資格を持つ頭脳は優秀な人で「地元出身の神童」と意外な人気を持つ。
有名作家で夫人の室井佑月さんも一緒に活動し、夫の人気を支えた。さらに米山氏の議員活動も「政策を語れない、作れない議員の多い立憲民主党の中で、頭の良さがあり当然目立つ」(同党関係者)と、一定の評価がある。
米山氏は2016年から18年までの新潟県知事時代には、さまざまな理屈をつけて東電の再稼働に消極的な態度を示した。彼は医師としては放射線の専門医で、本心で反原発でないと推測されている。しかし「小選挙区の勝利と民意を背景に、自分の政治的な存在感を高めるために、何かを仕掛けるのではないか」(地元関係者)との警戒が広がる。彼は各メディアのインタビューで再稼働の前に「県民投票」を行うことを提案している。米山氏が大勝を背景に「仕掛けやすい」状況にはある。
◆新潟県で自民党が小選挙区全滅
新潟県は小選挙区の5選挙区で、自民党議員が全員落選し、立憲民主党議員が勝ってしまった。いわゆる「裏金問題」と言われる政治資金報告書不記載問題で、比例出馬を認められなかった高取修一議員、自民党公認を得られなかった細田健一議員は落選してしまった。2人はエネルギー政策に理解があり、そして柏崎刈羽原発の再稼働を支援してきた。こうして、政治的に柏崎刈羽原発の状況は厳しくなっている。
現在柏崎刈羽原発は、原子力規制委員会の基準適合性の認可、そして再稼働を目指す7号機の工事も完了している状況だ。
政府は、早急な再稼働を求める。岸田文雄前首相は柏崎刈羽原発の再稼働の環境整備に前向きで、課題となっていた緊急時の避難路の問題については、9月6日の原子力閣僚会議の場で、国が再稼働を行い、問題になっている避難用の経路についても国が早急に整備する方針を示している。
あとは新潟県の花角英世知事、新潟県議会、地元自治体の同意が必要だ。この手順は、法律で正式に決まった手続きではない。他の原子力発電所がこのように動いたから、こうした同意の手続きが行われる。
しかし花角知事は「まだ県民の理解が得られていない」(10月の会見)などとして、具体的な住民合意を取りまとめる手続きに入っていない。県民の世論調査を見ても、再稼働の反対、賛成が拮抗しているか反対がやや多い結果が続く。
そして、今回の選挙の結果が出た。立憲民主党は、党の方針として、いまだに「脱原発」を掲げる。福島事故を起こしてしまった、東電の運営する柏崎刈羽原発は、政治ショーの材料として狙いやすいだろう。再稼働による日本国民、日本経済への利益よりも、政治家や活動家の中には、自分の政治利益のために活動する人がいる。柏崎刈羽原発の再稼働は、電力価格抑制、需給の改善、そして東電の経営状況の改善と信頼の回復など日本国民、日本経済に多くのメリットをもたらす。そうしたことより、自分の政治利益に関心を向けてしまう可能性がある。
この選挙結果のもたらす影響を、私たち日本国民は注視するしかない。もちろん新潟県民の民意は大切だ。しかし正式な法的根拠にない手続きに、再稼働を左右されていいのだろうか。新潟の政治情勢が柏崎刈羽原発の再稼働に障害になること、そして原子力発電が政争の材料になることは避けてほしい。