【表層深層/6月19日】豪州で浮上する原発導入論 世論調査で6割支持


資源供給国として日本と密接な関係があるオーストラリアの国民意識に、異変が起こっている。豪州政府の政策決定に強い影響力を持つシンクタンク、ローウィが実施した国民世論調査で、原子力発電の活用を支持すると答えた人の割合が過去最高の6割に達した。豪州では1990年代に制定した二つの法律で、原発の活用を禁じており、長い間原発の導入に関する議論はタブー視されてきた。しかし気候変動問題が浮上し、主力の化石燃料の存在意義が揺らいだことなどが契機になり、国民意識にも変化が出てきたようだ。2025年にも予定されている総選挙で政権奪還を狙う保守政党がこの調査結果に即座に反応し、原発の導入を選挙公約に含めることを明言した。原発回帰は日本だけでなく、世界でも顕著になってきた。

2011年の調査と「逆転」

ローウィは24年3月に豪州全土の成人2028人を対象に調査を実施した。日本の人口と比較すると約1万人の成人に調査したことになる。この調査は05年から始まっており、約20年間にわたって国民意識の変化を追跡している。項目は安全保障から外交、経済と貿易、社会課題など多岐にわたっており、エネルギーと気候変動の項目は常に注目されているという。

今回の調査では豪州の国民の61%が、原発に「やや」または「強く」利用することを、「やや」または「強く」支持すると回答した。「やや」または「強く」反対していると回答した国民は37%にとどまった。原発を「強く支持する」と答えた人は27%で、「強く反対する」(17%)を上回った。

東京電力福島第一原発の事故が発生した11年に、この世論調査では原発の導入を質問項目にした。その際の回答は、温室効果ガス排出削減計画の一環として原発を建設することに「強く反対」(46%)または「やや反対」(16%)の反対と答えた人は計62%に及んでおり、今回の調査で原発への期待感を示す国民意識が鮮明になったといえる。

勢いづく保守政党

今回の調査結果に溜飲を下げたのは野党自由党と、行動を共にする保守系野党だ。25年の総選挙に向けて、現労働党政権の打倒を日増しに強めている。すでに自由党のピーター・ダットン党首は、次期総選挙の選挙公約に「豪州国内6か所の原発新設」を掲げることを明言している。気候変動対策を重視する与党労働党との違いを鮮明にして、気候変動対策よりエネルギーの安全保障を重視する路線をひた走る。

ダットン氏はさらに思い切った政策を打ち出した。6月8日の豪州全国紙「オーストラリアン」で、政権交代を果たせば、現労働党政権が打ち出した温室効果ガス削減目標を「取り消す」と表明した。現政権は30年までに05年比で43%減という目標を掲げているが、「達成できる見込みがない目標に意味はない」とバッサリ切って見せた。

ドナルド・トランプ氏並みの強硬論をダットン氏が振りかざす背景には、今回の国民世論調査がある。豪州ではエネルギー価格の上昇と生活費の上昇圧力が国民を苦しめている。エネルギーの優先項目という質問で、回答者のほぼ半数(48%)が「家庭の光熱費の削減」を最優先事項と答えている。21年調査の同様の質問から16ポイントも上昇している。そして、ダットン氏を勢いづかせたのは「炭素排出量の削減」を最優先事項とすべきだと答えた人の割合で、21年調査に比べて18ポイント減の㊲%となり、国民が気候変動対策を最優先に求めていないことが浮き彫りになった。

【表層深層/6月12日】内閣府調査結果の波紋 再エネ大量導入改革は終焉か


内閣府が6月3日発表した、再エネ規制改革タスクフォース(TF)関連資料に中国国営企業のロゴが表示されていた問題に関する調査結果を巡り、波紋が広がっている。この調査では、ロゴの混入は「事務的な誤り」とし、「中国政府などから不当な影響力を行使され得る関係性を有していた事実は確認されなかった」と結論付けた。河野太郎規制改革担当相はTFを廃止すると明言し、再エネ規制改革の議論は規制改革推進会議に移すことで幕引きを図った格好だ。だが自民党内からは「調べが甘い」と指摘する声が挙がるほか、これまでエネルギー官庁や業界を糾弾してきたTFの手法を問題視する発言も飛び出した。中国ロゴ問題を契機に再エネ規制改革のあり方は立て直しを余儀なくされる。

中国国家電網のロゴマーク(右上)が入った問題の資料

◆「ケアレスミス」を強調した調査結果

中国ロゴ問題は3月22日に開催されたTFに、有識者の一人である自然エネルギー財団の大林ミカ氏から提出された資料の表紙以外のすべてに、中国国営のエネルギー企業の中国国家電網のロゴが表示されていたことに端を発する。

ロゴはこれ以前の会議や経済産業省、金融庁の会議にも表示されていたことが判明した。資料は大林氏が作成したことから、大林氏と中国政府との関係、再エネ規制改革の議論に中国政府の影響があったのではないかという疑念が生じた。

所管する内閣府は即座に資料を削除し、大林氏は有識者を辞任した。大林氏が所属する自然エネルギー財団は調査を実施し、記者会見などで中国政府との親密な関係性、議論への影響を否定した。

しかし事は簡単には収まらず、経産省や環境省が自然エネルギー財団からの政策意見の聴取を停止したり、国会でも詳細調査の実施を求めたりするなどの指摘が相次いだ。内閣府は追及に応える形で2カ月間にわたり関係者や関係機関へのヒアリング調査を実施した。

3日に公表した調査結果は、大まかに次の3点を結論付けた。

①TF資料へのロゴ混入は事務的な誤りであり、中国政府、中国の団体を出所とする資料は含まれていない中国政府などから自然エネルギー財団、財団職員への資金提供、会食や送迎といった便宜が図られていない

②省庁の会議などで財団職員から中国政府や中国国家電網に関する発言はなかった。中国に関する発言は、国際比較などの事実関係を除きなかった

③内閣府の調査は指摘されている疑念はなく、あくまでケアレスミスの類であったということを強調し、調査前の主張を繰り返したにすぎなかった。

河野規制改革担当相は4日の記者会見で、TFについて「議論の内容そのものには問題はなかった」と述べた。ただTFの今後については「一定の成果も上げたこともあり、タスクフォースは廃止する」と明言した。河野担当相の肝いりで作られたTFはあっけない幕切りとなり、一連の騒動は収まったように見えた。

◆かみついた自民党経済安保族

しかし異を唱えたのが自民党の経済安全保障推進本部だ。本部長で経済安保族のドンともいえる甘利明前幹事長は4日、会合後に記者団に対し「中国との関係については調べが甘いのではないか。引き続き厳しく、再度調べようという話だ」と苦言を呈した。部会としても政府に調査の継続を要請する意向も示した。

最も問題視したのはTFそのものの位置付けだ。内閣府の調査結果でも「(TFが)規制改革会議の答申の一部と誤解される恐れがあったことは否定できない」と指摘している。甘利氏は「この問題は極めて深刻で、大臣の私的な懇談会でそれがあたかも公的審議会と同等の権限を持たされている。そしてエネルギー担当省庁を呼んで、糾弾する。そんなこと許されていいのか。私的諮問機関に公的機関と同等の扱いをしないというのは『いろはのい』で、大臣としてそんなことやったら日本がどこいっちゃうかわからなくなりますから」と痛烈に批判した。

甘利氏がここまで問題にするのは中国が再エネを利用して他国から情報を取り出していたり、自国マネーを搾取したりしていることが国際的な問題になっているからだ。米国では中国製の太陽光パネルが跋扈し、そこからサイバー攻撃を加えられるなど損失が出ているという。バイデン政権も中国製を締め出す策を講じている。欧州でも中国製を締め出す方向に動き始めている。

G7で共有する問題でかつ緊張関係にある国であることの認識が欠如していることに、経済安保族からはあまりにも「能天気な話」と映るというわけだ。日本の危機意識の希薄さは欧米では有名な話になっており、例えばサイバー攻撃に関する国際情報網から除外されていることがある。甘利氏は「緊張関係にある国が、重要なインフラであるエネルギーを間接的に支配できることになる」と危機感をあらわにした。

◆規制強化と推進団体再考の必要性

2020年のカーボンニュートラル宣言を契機に、再エネの導入拡大のためにさまざまな規制を見直すことを目的で作られたTFだが、今後は規制改革会議で議論が継続する方針とされている。だが中国ロゴ問題によって、有名無実化するのではないだろうか。

岸田政権はグリーントランスフォーメーション(GX)として、脱炭素を進める施策を打ち出している。さまざまな規制はあるものの、国益やコストなどを踏まえながら担当省庁がそれぞれ担う時代になった。再エネについては主力電源として従来にはない仕組みが作られており、導入環境は20年当時と比べ格段によくなったといえよう。

再エネを巡っては度重なる事故や地域住民との軋轢、事業者の不正や衰退などで規制改革というより規制強化が必要になってきている状況にある。闇雲に開発や導入を叫ぶフェーズは終わり、社会に受け入れられるルールの下、開発や運営、管理をしていくフェーズに入った。その意味では大量導入のための規制改革の役割は終わったという見方もできる。

今回のやり玉に挙がった自然エネルギー財団は、再エネ導入を強力に推し進めていたパイオニアではある。内閣府の調査結果が公表された同じ日、同財団は凍結されている経産省や環境省との交渉を再開するとウェブサイトで宣言した。

しかし両省の関係者は「勝手に再開すると言っているが、再開を決定するのはこちら側で財団に言われる筋合いはない」と冷淡だった。霞が関筋は「これまでさんざん攻撃されてきましたからね。公開処刑もされてきたし。今回は手切れのいいきっかけになったかもしれません」。

同財団は再エネシンクタンク、コンサルタント的な役割を果たしていたが、中国ロゴ問題はこうした再エネ推進団体の必要性や役割を再考する余地を与えたのかもしれない。

【目安箱/6月11日】浮ついたエネルギー政策を懸念 GXもいいが…価格を下げて


岸田政権の経済政策の柱は、気候変動に対応したエネルギー供給体制と経済の作りかえ、GX(グリーン・トランスフォーメーション)という。もちろん、それは意義ある政策だ。しかし話が大きすぎる。私たち庶民の関心は、自らが今体験しているエネルギー価格の上昇だ。その改善のための政策に注力するべきではないだろうか。

24年5月13日、総理大臣官邸で行われたGX実行会議での岸田総理と大臣たち(首相官邸HPより)

「足元のエネルギー産業の状況はガタガタなのに大風呂敷を広げて大丈夫なのか」。エネルギー分野の担当が長かった経産省OBと会話をしたところ、最近の政府・経産省の行動を不安がっていた。この懸念に私は共感する。

◆気候変動対策でITや飛行機? 原子力ではないか

GX政策を2022年末から岸田文雄首相自らが唱えた。岸田首相は21年10月に政権についたものの、明確な経済政策を打ち出していなかった。そこで経産事務次官出身の嶋田隆秘書官の「気候変動対策で経済を作り替えよう」と言う入れ知恵に飛びついたのだろうと、ささやかれている。

GX政策の構想は壮大だ。16の産業分野にテコ入れし、23年度からの10年間で150兆円の投資、そのうち政府による出資20兆円を行うという。その20兆円は当初「G X債」を発行し、現在検討中の排出権取引での負担金、カーボンプライシング、事実上の炭素税などで支払う計画だ。

世界各国は、気候変動対策をテーマにした経済政策や大規模な国主導の投資計画をコロナ前に打ち上げていた。日本もそれに追随した。しかし、ウクライナ戦争やパレスチナ紛争の激化の中で、各国がエネルギー安全保障に注目する今、GXを唱えるのは少しずれているように思う。

そして関心の向き方がおかしい。岸田首相が最初にGXを語り始めた頃は「原子力発電の活用」を強調した。エネルギー問題に理解ある人はこの政策を期待した。気候変動対策で一番効果のある政策は、温室効果ガスを出さない原子力発電の推進なのに、日本では福島の原発事故の後遺症のためなかなか進まなかったためだ。

ところが、焦点がぼやけてしまった。GXでは支援の産業は16に拡大。新型原子炉の開発や送配電網の作り替え、燃料電池などは残っているものの、エネルギー産業の作り替えに直結する支援は目立たなくなってしまった。総花的になったのは、経済界からの要請を全て受け入れたためという。そのために経済界からの反対は少ない。

経産省内部では、潤沢な補助金で行政が行えるために、士気は上がっているという。そして同省は、国産半導体の支援や、国産航空機の製造も唱え始めた。高性能の半導体も航空機も、GXに多少は関わるだろう。しかし気候変動対策やエネルギー産業の強化に直接の関係はない。また半導体や航空機は残念ながら他国との競争で、日本のそれらの産業が厳しい状況に追い込まれている産業だ。経産省は時代錯誤の補助金による産業支援政策をやりたがっているように見えてしまう。

◆私たち庶民が求めるのは「安さ」

現実のエネルギー問題は、なかなか良い方向に動かない。それどころか問題は山積している。原子力発電所の再稼働は遅れている。その原因である原子力規制の改革は進まない。SNSで風光明媚な釧路や阿蘇での太陽光発電による環境破壊の映像が流れて、再エネへの不信感が高まっている。22年にひとまず完了したことになった電力自由化は、さまざまな問題が発生して制度設計の手直しが続く。エネルギー産業そのものの改革に本格的に手をつけず、GXという壮大な話を語る岸田首相と経産省を、私は一国民として浮ついていると思うし、不安を感じてしまう。

電気料金が7月から上昇する。〈政府の電気料金補助廃止が直撃!この夏は「災害級の暑さ」予想で国民生活どうなるのか〉と、夕刊紙の日刊ゲンダイは5月27日の記事で政府を罵った。これは一例だが、メディアは庶民の不満を代弁する形で、この値上がりを批判する。

電力・ガス料金は「値上げ」ではなく、これまでの「電気・ガス価格激変緩和対策事業」補助金が6月末で終わることで上昇する。繰り返されるメディアのセンセーショナルな政府批判にはうんざりする面もあるが、私たち庶民にはエネルギーを考える際に「価格」が注目されることを、報道を通じてあらためて感じる。

◆エネルギー産業そのものへのテコ入れを!

補助金は市場の価格決定メカニズムを歪める筋の悪い政策だ。22年度末から24年度まで、この補助金は総額約6兆5000億円にもなる。価格を下げる政策で行うべきは、エネルギーシステムの需要と供給の強化だろう。

需要を減らすために、省エネの推進が必要だ。エコポイントという過去に行った政策がある。供給を増やすには、エネルギー産業を強くし、その供給能力を増やすことだ。原子力発電所の再稼働、再エネが活用できる送配電網の作り替えというGXで語られた政策を、推進すべきだ。そうした本筋の取り組みを、政府・経産省は熱心にやっていないように思える。

このままでいいのだろうか。最初の関係者の心配に戻るが、今の政策は「足元のエネルギー産業の状況はガタガタなのに大風呂敷を広げて大丈夫なのか」という感想を、私は抱いてしまう。日本の産業構造の作り替えは必要だ。しかし目の前の現実の問題を放置して、未来を語っても仕方がない。岸田政権も経産省もスローガンばかりで足元がしっかりしていないように見える。

まずはエネルギー価格の抑制だ。多くの識者の言うとおり、エネルギー政策の目標を「価格」にしてもいい。首相も、最近の政治家も、今やるべきことをやってから、未来を語ってほしい。

【論考/6月7日】国際石油市場で今何が起きているのか 足元の価格安定に油断するな


6月2日、サウジアラビアなどのOPECプラス「有志国」は、2024年第3四半期まで原油生産量を概ね据え置くことで合意した。第4四半期以降に緩やかな増産に転じ、来年は今年対比、ロシア分を除けば日量平均130万バレルの増産を目標とした。一般に、「減産の継続」と報じられて分かりにくいが、この「減産」とは名目基準量や特定時点の生産自主目標量からの差分を指しているだけで、実質は「当面現状を維持し、来年に向けて増産を伺う」姿勢と理解しておけばいい。

中東情勢の緊迫化を背景に、ブレント原油価格は4月前半にバレル当たり90ドルを超えていた。4月初のイスラエルによる在ダマスカス・イラン公館周辺の空爆に端を発し、同月13日のイランによるイスラエル領を直接狙う示威的なドローン・ミサイル攻撃を経て、19日にイスラエルがイラン核施設を擁するイスファハンを限定空爆。しかしイラン、イスラエル双方に全面戦争回避の自制が働き、一連の軍事的応酬はひとまず終息した。これを受け、ブレント原油価格は5月半ばには80ドル近辺にまで下落した。

今回のOPECプラスの決定も、事前の大方の予想と概ね違わず、かえって来年の増産方針が注目され、直後のブレント原油価格はむしろ下落して80ドルを割り込んだ。1~5月は平均84ドルで昨年の年間平均と大差なく、また価格の変動幅も比較的小さい。足元では、国際石油価格は安定している。

今年の世界石油需給は引き締まる方向へ

しかし、OPECプラスの生産量据え置きは、今年末にかけて次第に世界石油需給を引き締めていくだろう。また、より根本的に、国際石油供給を支える秩序基盤が脆弱化している。目先の価格動向にとらわれない、慎重な考察が必要だ。

OPECプラスはOPEC側9カ国、非OPEC側10カ国から成るが、このうち原油生産量を生産枠に整合して変動する能力を有するのは、昨年5月以降に自主的追加減産を行ってきた「有志国」に限られる。サウジ、UAE、クウェート、イラク、アルジェリアのOPEC側5カ国とカザフスタン、オマーンの非OPEC側2カ国で、これが中核集団を成す。ロシアはこれら7カ国と協調した生産調整目標を掲げているが、有事の同国にとってその遵守は優先事項ではない。いずれにせよロシアを含め、他の参加国の多くは基準割当量に生産能力が追い付かず、実生産量は概ね横這いで推移し、従ってその参加は形式的なものにとどまる。今年初にアンゴラがOPECを脱退、同時にOPECプラスからも離脱したが、同国もこの「形式参加組」だったから、実質的な影響は乏しい。

昨年7月にサウジが単独で追加減産して以来、「有志7カ国」の原油生産量は日量2200万バレル強で推移している。本年1月以降にサウジ以外の6カ国が日量合計50万バレル弱の追加減産を約束したが、全体として守られていない。このうち特にイラク、カザフスタン両国は、第1四半期における超過生産量を今年中に帳消しにすべく追加減産を計画。これを加味した上で、直近の国際エネルギー機関(IEA)石油需給見通しに基づき、「有志7カ国」が5月以降に自主生産目標を遵守し、かつ他のOPEC産油国の原油生産量が4月時点の水準で一定と仮定すると、今年は年間平均・日量100万バレル超の需要超過となる。目標を超えた現行水準並みの生産量を見込んだとしても、今後次第に価格が強含みとなる展開を示唆する。非OPECプラスの増産を主導してきた米国で伸びが鈍化しつつあり、これが有志産油国に有利に働く。

またIEAが今年の需要増を日量110万バレルと堅く予想する一方、例えばOPEC事務局などは日量200万バレル以上とするなど、見通しには相当の幅がある。需要の強さ如何で、需給の引き締まりと価格への上方圧力が一層に鮮明となり得る。

【記者通信/6月7日】光合成細菌でCO2固定 出光が西部石油に実証設備


出光興産は、CO2を固定する光合成細菌の量産技術の確立に向けた取り組みで、京都大学発スタートアップのSymbiobe(シンビオーブ、京都市左京区)と連携する。両社がこの分野の協業で基本合意したもので、出光完全子会社の西部石油が運用する山口製油所(山口県山陽小野田市)の敷地内に実証設備を建設する計画。出光はこうした協業を通じて脱炭素化を後押しするとともに、新規事業の創出にもつなげたい考えだ。

紅色光合成細菌を培養する実証設備のイメージ(提供=出光興産)

CO2の固定に生かすのは、「紅色光合成細菌」と呼ばれる海洋性微生物。海の中に生息し、太陽の光を受けるとCO2や窒素を取り込み固定化する特徴を持つ。微生物開発で高い知見を持つシンビオーブと石油精製や石油化学事業を通じて技術やノウハウを蓄積する出光は、こうした細菌を温室効果ガスの固定化技術や有用な資材として社会実装する可能性に注目し、大量培養技術の構築を目指す。

27年度に商業プラントで検証

具体的には、まず海水やボイラーなどからの排ガス、太陽光を用いて、シンビオーブから提供を受けた細菌を「フォトバイオリアクター」で培養。バイオリアクターは透明のガラスチューブからなる装置を予定しており、培養の進行に伴い細菌が増殖し濃度が高まることで、リアクター全体が赤紫色に変化するという。その後は後処理を経て、アミノ酸などの有価物「グリーンバイオ資材」として生かす計画で、肥料や飼料などの用途を想定している。

まずは量産技術の実証に向けたベンチプラントを2024年度に建設し、検証を実施。その成果を土台に27年度には、小型商業プラントで生産性や採算性の確認を行う。将来的には、確立した技術を国内外に広げることを狙う。

製油所が事業転換へ

西部石油は、脱炭素の潮流などを踏まえて製造・供給体制を見直す出光グループの方針に沿って、3月に山口製油所の精製機能を停止。30年代までに温室効果ガスを発生させないカーボンフリーエネルギーの供給や資源循環を担う「地域産業ハブ拠点」に事業転換する構想を打ち出していた。

すでに出光は、高機能材事業の重点領域の一つとして「バイオ・ライフソリューション」を位置付け、微生物の代謝を生かす「バイオものづくり」の事業化に挑んでおり、今回の協業もその一環。先進マテリアルカンパニー技術戦略部戦略企画室の水野洋室長は「大学やスタートアップとさまざまなトライアルを行いながらものづくりの実証に取り組んでいる。この中から実際のビジネスとして仕上げられるものを育てたい」と意欲を示しており、石油元売り大手発のイノベーションとして注目を集めそうだ。

【記者通信/6月6日】23年度版エネ白書 長期補助金「現実的でない」と指摘


政府は6月4日に閣議決定した2023年度版のエネルギー白書の中で、電気・ガス代や燃料油価格を抑える政府の補助金について、巨額の予算で長期間実施することは「現実的ではない」と指摘した。近年の世界的な化石エネルギー価格の高騰・高止まりや歴史的な円安進行下では、一時的な負担軽減策では対応しきれない。エネルギー資源の大半を海外産に頼る現行のエネルギー供給構造から脱却し、原子力や再生可能エネルギーといった準国産エネルギーを軸に、強靭な需給構造への転換を進める重要性を訴えた。

白書は、増加する化石エネルギーの輸入金額の影響で、「国富」の流出が拡大している状況について説明した。日本の化石エネルギー輸入量は20年から22年にかけて大きな変化が見られない一方で、20年に11.3兆円だった化石エネルギーの輸入価格は、22年には33.7兆円と約3倍に急増し、23年も27.3兆円と高止まりしている。これにより、日本の貿易収支は、20年に記録した0.4兆円の黒字から、22年には過去最大の赤字、20.3兆円を計上した。

また、22年1月に発動した「燃料油価格激変緩和対策事業」には約6.4兆、23年1月以降の使用分を対象として始まった「電気・ガス価格激変緩和対策事業」には約3.7兆円を計上し、補助金総額は10兆円超となったことも明記した。

エネルギー白書は、エネルギー政策基本法に基づく法定白書で、04年から毎年作成しており、今回が21回目となる。例年3部構成で、第1部は各年度のエネルギーを取り巻く動向を踏まえた分析、第2部は国内外のエネルギーに関するデータ集、第3部はエネルギーに関して講じた施策集となっている。このうち今回の第1部の第1章では「福島復興の進捗」を取り上げ、多核種除去設備(ALPS)処理水の放出などの取り組みを紹介した。第2章では「カーボンニュートラルと両立したエネルギーセキュリティの確保」と題し、世界的なエネルギー情勢の変化や日本のエネルギーが抱える構造的課題などを明記した。第2部では、国内外のエネルギー需給や一次エネルギーなどの動向を紹介。世界のエネルギー消費や需給の展望などをグラフ化して解説した。第3部では、水素・アンモニア、再エネ導入拡大策、原子力政策、GX推進戦略などの項目における施策状況についてまとめた。

【記者通信/6月5日】エネ大手が現実的な脱炭素へ決意 サミットで表明


エネルギー業界の最新トレンドを発信する国際イベント「ジャパン・エネルギー・サミット」は6月5日、3日間の日程を終えて閉幕した。この中でJERAや東京ガスなど主要企業の首脳が、エネルギー安定供給と脱炭素化を両立する現実的な道筋を開拓する決意を表明。展示会場には道筋づくりを支える多彩な最新技術も集結し、エネルギー分野に広がるDX(デジタルトランスフォーメーション)の今後を占う舞台にもなった。

ジャパン・エネルギー・サミットは東京ビッグサイト(東京都江東区)で開き、国内外から40社以上の出展者が参加。LNGから水素や再生可能エネルギーに至る幅広い分野に焦点を当てながら、官民の関係者が「カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量を実質ゼロ)」の実現に向けてエネルギー業界が果たす役割を探った。

東ガスの笹山晋一社長は基調講演で、地政学リスクの高まりやデジタル化の進展などを背景に変化するエネルギー需給構造に触れた上で、「当社は今、安定供給の確保と気候変動への対応の両立という非常にチャレンジングな事業環境にある」と説明。さらに再エネの導入拡大に伴う出力変動問題にも触れ、「出力変動にも柔軟性に対応し、CO2削減効果もある天然ガスの安定的な確保が現実的かつ重要なソリューションだ」と力説。その上で「LNGのより柔軟性の高い長期契約やLNGトレーディング機能の拡大による需給の最適化などを通じてエネルギーの安定供給に引き続き貢献したい」と力を込めた。

ジャパン・エネルギー・サミットで基調講演する東京ガスの笹山社長 

「責任あるトランジョン(移行)」を追求してきた東ガス。笹山社長は天然ガスを高度利用しながら、水素とCO2から作る合成メタン「e‐メタン」に置き換えていくという移行期の戦略にも言及し、「カーボンニュートラル社会へのシームレスな転換をけん引したい」との決意を述べた。報道陣の取材にも応じ、「カーボンニュートラルを目指すアジアでも(経済性も加味した)現実的にCO2を削減する方策としてLNGへの期待が高まっている」と述べ、そうしたニーズに応えることにも意欲を示した。

トリレンマ問題の解決に意欲

また、JERA常務執行役員でチーフ・ストラテジー・オフィサー兼企画統括部長の多和淳也氏も、エネルギー安定供給、手ごろな価格を実現する経済性、脱炭素への移行という「トリレンマ(三重苦)」を成立させる課題に取り組む必要性を説いた上で、「再生可能エネルギーと低炭素火力を組み合わせ、最先端のソリューションを提供する」考えを強調。経済産業省も各社の熱意に呼応するかのように「日本はCO2削減、経済成長、エネルギー安全保障の同時達成を目指す」(資源エネルギー庁国際カーボンニュートラル政策統括調整官の木原晋一氏)との認識を示した。

さらに登壇者は、エネルギーを巡るバリューチェーン(価値連鎖)づくりで国際協調する課題も共有。欧州委員会のカドリ・シムソン・エネルギー担当委員は「日本は特にLNGをはじめ世界のエネルギー安全保障体制を設計する上で重要なパートナーの一つだ」と期待感を示した。

DXの最前線にも熱視線

一方、エネルギー業界に新風を注ぐ最新技術にも注目が集まった。JERAのブースでは、発電所の運転・保守業務をデジタル化する「デジタル発電所(DPP)」などを紹介。仮に火力発電所で問題が発生した場合、世界中のエンジニアが3次元(3D)の仮想空間「メタバース」上に集まり対応。その際に生成AIも駆使し、蓄積した発電所の運営ノウハウや課題解決策を導き出す仕組みで、働き方を革新する可能性を示した。

多彩な最新技術が集まった展示会場

東ガスはブースで「空間コンピューター」と呼ばれる米アップルのゴーグル型端末「Vision Pro」を披露。実際に端末を装着すると、浮体式洋上風力発電所の設備が3D映像として目の前に現れ、海に浮かぶ設備のデッキに立ったかのような疑似体験を味わえた。

東ガスのブースで疑似体験するゴーグル型端末の装着者

今回のサミットはJERAと東ガスがホストスポンサーを務めるイベントで、6回目となる。会期全体で4000人規模の来場を見込んでいる。

【記者通信/6月4日】「再エネTF」が廃止へ 林官房長官が注意し河野規制改革相が判断


河野太郎規制改革担当相は6月4日の閣議後会見で、内閣府の再エネ規制改革タスクフォース(再エネTF)を廃止する考えを明らかにした。林芳正官房長官が河野氏に対し、再エネTFの運営方法に不適切な点があったとして注意を行ったことが背景にある。再エネTFを巡っては、構成員だった大林ミカ・自然エネルギー財団事務局長が作成した資料に中国国家電網のロゴが混入していた問題で、内閣府が3日、「(自然エネ財団や大林氏らが)中国政府などから不当な影響力を行使され得る関係性を有していた事実は確認されなかった」とする調査結果を公表したばかり。河野氏は、廃止の理由について「議論の内容そのものには問題はなかったが、再エネTFは一定の成果を上げたこともあり、ここで廃止し、再エネに関する規制については規制改革推進会議で2050年カーボンニュートラルの実現に向けてしっかり議論していく体制を構築すべく検討する」と述べた。

閣議後会見する河野氏(6月4日)

一方、林氏は4日午後の会見で、記者からの質問に応える形で、「私から河野大臣に対し、再エネTFの運営について、懇談会等の運営に関する政府の指針に照らして不適切な点があったため、今後そのようなことがないよう注意を行ったところだ。TFの廃止については、河野大臣自らが判断したことだ」と述べた。不適切な点の内容に関しては、「再エネTFは、政府の指針においてはあくまでも行政運営上の意見交換、懇談等の場として性格づけられているものだ。一方で、今般、内閣府大臣官房で行った調査において、当該TFの運営は構成員が具体的な規制制度上の論点を上げて、各省庁に対し政策対応を求めるなど、審議会である規制改革推進会議と同様の運営が行われていたことが確認された」と指摘した。

再エネTFは、再エネ導入拡大政策に力を入れる河野氏の肝いりで2020年12月1日に発足。再エネ推進派の有識者である大林氏のほか、川本明・慶応大学経済学部特任教授、高橋洋・法政大学社会学部教授、原英史・政策工房社長の4人が当初構成員(21年12月13日の第17回会合から原氏の代わりに、八田達夫・アジア成長研究所理事長が参加)となったことや、経済産業省出身の山田正人・内閣府参事官が事務局を務めたことも話題を呼んだ。ただこの1~2年は、自然を破壊する大規模再エネ開発が社会問題化したり、河野氏の弟分的存在だった秋本真利元自民党議員が洋上風力公募に絡む贈収賄問題で逮捕されたりするなど、再エネに逆風が吹き始め、会合の開催頻度も低下。そして、大林氏のロゴ混入資料問題が発覚した今年3月22日の第30回会合が事実上の最終回となった形だ。

河野氏の会見発言要旨は次の通り。

〈自然エネルギー財団などが中国政府などから不当な影響力を行使され得る関係性を有していたか、などについて、タスクフォースの人選の経緯などと合わせて調査が行われた。調査は中立性を確保するために内閣府の大臣官房で行われたもの。調査の結果、大林さん、あるいは大臣側が中国政府などから不当な影響力を行使され得る関係性にあったという事実、人選の経緯などに関する問題点などは確認されなかった〉

〈ただ再エネTFについて、懇談会に関する指針の趣旨に必ずしも沿っていなかった、審議会である規制改革推進会議と同様の運営が行われていたとの指摘があり、その運営の在り方を含め、規制改革担当大臣が適切に判断するようにと求められていた。再エネTFの内容そのものには問題はなかったが、再エネTFについては一定の成果を上げたこともあり、ここで廃止し、再エネに関する規制については規制改革推進会議で2050年カーボンニュートラルの実現に向けてしっかり議論していく体制を構築すべく検討することとしたい〉

【記者通信/6月3日】中国企業ロゴ問題に一区切り? 内閣府が調査結果を公表


内閣府・再エネ規制改革タスクフォース(再エネTF)の構成員だった自然エネルギー財団の大林ミカ事務局長が作成した資料に中国国家電網のロゴが混入していた問題を巡り、内閣府は6月3日、一連の問題に関する調査結果を公表した。それによると、①再エネTF資料へのロゴ混入は事務的な誤りであり、中国政府など中国の団体を出所とする資料は含まれていない、②中国政府などから財団および財団職員への資金提供は行われていない、③政府の省庁の会議などにおいて、財団職員からは中国政府や中国国家電網に関する発言はなく、中国に関する発言は、国際比較などの事実関係を除きなかった――と指摘。自然エネ財団や大林氏らが「中国政府等から不当な影響力を行使され得る関係性を有していた事実は確認されなかった」とした。

これを受け、自然エネ財団側は同日、次のような主旨のコメントを発表した。

〈(財団は)ロゴ混入問題の発生直後から、混入が全くの事務的ミスであることを説明し、財団が中国の政府や特定企業からの影響とは無縁な、独立したシンクタンクであることを事実とデータを示して明らかにしてきた。内閣府の調査は2カ月余を要したが、今回、財団が述べてきた当然の事実が政府によって公式に確認されたことを歓迎する〉

〈経済産業省、環境省は、「懸念」が解消されるまで、自然エネルギー財団からの意見を聴くことは控える、としてきた。内閣府調査によって、懸念に根拠がないことが明らかになったことを踏まえ、自然エネルギー財団はエネルギー政策、気候対策など日本と世界が直面する重要な課題について、両省との議論を再開していく〉

〈この間、ロゴ混入問題を契機に主にSNS上で財団への誹謗中傷が行われたことに対し、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のフランチェスコ・ラ・カメラ事務局長、グローバル・リニューアブルズ・アライアンス(GRA)のブルース・ダグラスCEOなど、世界の多くのエネルギー機関の方々から連帯のメッセージが寄せられた。また、国内の企業・団体、自治体、環境NGOなどの方々から、大きな激励をいただいた〉。

〈自然エネルギー財団は、今月、脱炭素へのエネルギー転換シナリオを公表する。多くの企業、自治体、NGOの皆さん、また政府の中で真剣にエネルギー転換に取り組む人々とともに、気候危機を回避する脱炭素社会の実現に向け、これまで以上に積極的に取り組んでいく〉

今回の調査結果により、エネルギー業界を騒がせた中国企業ロゴ問題は一区切り付いた格好になるのか。国のエネルギー基本計画の見直しを巡る議論が5月からスタートした中で、自然エネ財団側はエネルギー政策論争の場で再び存在感を高めてくることも予想される。今後の展開に、関係者の関心が集まる。

【目安箱/6月3日】国の原子力広報がおかしい 官僚は逃げずPRに本腰を


「原子力の活用」。これが日本の原子力政策の方針だ。岸田政権によって2023年2月10日にそのことを記した「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定された。ところが、効果的な広報活動が政府によって行われていない。その基本方針は国民に知られていないし、福島事故でできてしまった原子力の悪いイメージを払拭するための活動も、積極的に行われていない。そして今年1月に発生した能登半島地震では、安全を巡る適切な情報を公開していないため、原子力への不信が高まる状況になっている。特に原子力規制委員会、原子力規制庁の広報体制は不適切と私は思う。それを検証してみよう。

◆安全を強調しない、おかしな規制委員会の広報

2月27日の衆議院予算委員会分科会では、能登半島地震の政府の対応について議論を行った。元経産官僚の福島伸享議員(ふくしま・のぶゆき、有志の会、茨城)は、原子力規制委員会の初動のあり方について質問をした(エネルギーフォーラム「福島伸享・永田町だより」4月12日「原子力規制委は災害時に機能したのか 計画・マニュアル策定は政治家の責任」https://energy-forum.co.jp/online-content/16510/)。

今年1月1日の午後4時10分に能登半島地震が発生した。規制庁では9分後には警戒本部が立ち上がっていた。志賀原発でも、地震発生の10分後に現地に駐在する職員がオフサイトセンターに参集している。この速さは、ほとんど報道されていない。年末年始にこうした対応をできる点は、即応体制の面で規制庁は適切に動いている。福島議員もその点を評価した。

しかしその後の規制委・規制庁の広報はおかしかった。規制庁はモニタリングポストの値に異常がなかったことを確認して同日に警戒体制を解いてしまう。しかしそれ以降は規制委・規制庁からは志賀原発の状況についての発信が積極的になされなかった。

◆原子力広報にリスク評価や説明なし

志賀原発では1月2日以降、変圧器からの油漏れや使用済燃料プールの水の溢れ、敷地内でのひび割れなどが、北陸電力から広報された。そうした事象は、原子炉の安全に何にも関係がなかった。そもそも志賀原発は長期停止中で、燃料さえ装填されていない。それなのに、それらの情報を勝手に危険と解釈してネット上ではさまざまなデマが飛び交った。一部メディア、そして反原発活動家は、大事故があったかのように SNSで騒いだ。

当事者の北陸電力、電気事業連合会は強く反論した。ここで政府が、安全であると事実を示せば、騒ぎの落ち着きに一定の効果があっただろう。しかし、それを担うべき規制委・規制委は、積極的にデマを止めなかった。騒ぎは2月ごろまで長引いた。

「情報発信を一元化」「初期段階でデマをただす」「正しい情報を繰り返し発信する」「『安全である』など、リスク判定をした情報を積極的に流す」――。

これらが災害での広報で必要と、どのような専門家も語るし、私もその通りだと思う。東日本大震災での福島第一原発事故は、それができなかったゆえに混乱が長引いてしまった。志賀原発についても、これを行うべきだった。

規制委の会合が開かれたのは1月10日だった。規制委・規制庁は、志賀原発を巡る情報をまとめたが、この内部資料をそのまま公開しただけだ。

◆言い訳、逃げの目立つ原子力広報

情報は、受け手が分かりやすいように編集し、手に入りやすい状況にしなければならない。そうしなければ、人々に情報は届かない。また原子力規制委員会は「安全である」という判断を示すべきなのに、そこから逃げている。この文書は情報を羅列しただけだ。これは不適切な広報活動だ。

福島議員はこうした規制委・規制庁の対応を批判している。私も同感だ。規制委の災害時の広報体制は、国民感覚からずれ、おかしいと思う。自らが批判されないように、「守り」「言い訳」が目立つ。広報活動でも、情報を国民に提供し、世論を作ることに熱心ではなく、保身に配慮しているように見受けられる。

そもそも原子力規制は、過剰とも言える強化をされ、福島事故前と違って、安全性は一段と高まっている。そのことも国民の多くは知らない。これも規制委員会の広報が少ないためであろう。

◆推進チャンスをなぜ生かさないのか

これだけではない。推進の方の広報も足りない。一例が、高レベル原子力廃棄物の地層処分問題だ。第一段階の文献調査について、北海道の2町村が北海道の寿都町、神恵内村、佐賀県玄海町と3つの自治体が手を挙げている。

高レベル放射性廃棄物の最終処分地はまだ決まっていない。この方向が決まれば、原子力政策の懸念が払拭される。せっかくの好機なのに国の動きは鈍い。対話集会というのを行っているが、大臣クラスは出ていない。政治的なプラスにならないからだろう。NUMO(原子力発電環境整備機構)が、役割上演面に出ているが、逆に国は逃げているように思う。

国策となったGX(グリーン・トランスフォーメーション)でも、国の動きは鈍い。気候変動に対応する

◆分かりやすく、当事者に届く原子力広報に進化を

日本の行政組織はあらかじめ計画やマニュアルで決めていることは忠実に、適切に実行する。ところが突発事項に弱い。そして官僚は保身に走る。広報という、現代的な取り組みも下手だ。

東日本大震災に、福島の原発事故という想定外のことが発生した。いろいろな問題が起きたが、原子力を巡る広報も失敗した。東電、原子力保安院(当時)、官邸、それぞれで分散して広報が行われた。当事者ごとに間違いも多く、デマと混乱が広がった。恐怖に騒ぐ人、混乱を利用して自らの影響力を広げようとする政治勢力がいてデマを流した。その事故の後の対抗策も不十分だった。その結果、福島の混乱の悪影響は今も続いている。

今回の能登半島地震では、実際に事故は起きていないために混乱は一時的だった。しかし同じような失敗を、原子力規制委員会、規制庁は繰り返してしまった。

そして前向きの広報も少ない。「原子力を活用する」という国策があるのに国全体の広報が足りない。役所は面倒な原子力広報から、推進の役割を担う経産省でさえ、腰がひけている印象がある。役割の縦割りで、最低限のことしかやらない。

このままでは次の災害で過度に危険な印象を原子力発電がまた受ける失敗を繰り返してしまう。そして原子力の振興は不可能だ。

原子力を総合的にPRすることを、国は検討するべきだろう。省庁横断的に広報の仕組みを作り、その必要性などの前向きな問題、さらに安全性や災害の時の安心をもっと強く示すようにしてほしい。

【記者通信/5月30日】原油処理装置を自動運転 ENEOSがAIでプラント革新


石油精製プラントの運転をAIで自動化する取り組みが動き出した。ENEOSが川崎製油所(川崎市)にある原油処理装置の自動運転に乗り出したもので、同装置で常時自動運転を行うのは世界で初めて。運転ノウハウを持つ熟練作業員の高齢化が進む課題に直面する中、人の技量に左右されずに設備の安定運転を実現することが狙いだ。

ENEOS川崎製油所の常圧蒸留装置

今回のAIシステムは、AI開発を手がけるPreferred Networks(PFN、東京都千代田区)と共同開発したもので、保安力の向上にもつなげたい考えだ。AIシステムの採用先は、原油に含まれる各成分の沸点の差を利用して異なる種類の石油製品を作り出す「常圧蒸留装置」。今後はENEOSの他の製油所にもAIシステムを広げるほか、ソリューションとして国内外のエネルギー企業へ外販することも視野に入れている。

常圧蒸留装置は、温度や圧力、流量などの制御対象が24個に達するほか、予測に用いるセンサーの数も930個と多い。このため経験を積む熟練運転員の技術や知識が必要で、従来は各センサーを通じて取得したデータを運転員が24時間体制で監視したり、バルブ操作の判断を行ったりしていた。

AIシステムを採用することで、こうした装置を運転・制御する仕組みを自動化した。常時監視と13個に及ぶバルブ操作を同時に行うことも特徴で、原油処理量の変更や原油種を切り替える際の変動調整作業に対応できるようにした。例えば、運転に影響を与える外気温の変化などが大きい状況下であっても、センサー値とバルブ操作間の相関関係を学習したAIが威力を発揮。外部因子による運転への影響を最小化し、正常運転を維持できるようにするという。

手動操作を超える経済性・効率性

すでにENEOSとPFNは2018年度から、石油プラントを自動運転するAIシステムの開発に着手。23年1月には、同製油所の石油化学プラント内にある「ブタジエン抽出装置」でAIシステムの常時使用を始め、手動操作を超える経済的で高効率な運転を達成したという。

背景には、プラントに携わる熟練者の高齢化に伴う技能伝承や人材確保の問題があり、先進技術を駆使して設備を安定運転できる環境づくりが望まれていた。こうした対応は大規模で複雑なプラントを持つエネルギーや素材など産業界共通の課題で、AIを駆使して設備の効率的な運用や保安に生かす動きは一段と広がりそうだ。

【記者通信/5月30日】電力株が好業績で好調 内部からは「違和感」も


大手電力株が好調だ。TOPIXの電気・ガス業指数を見ると、上昇率は東証33業種のトップクラスで、5月下旬現在、東京電力の第一原発事故が発生した11年3月以来の高値圏で推移している。燃料費調整制度の上限値の影響などで各社が赤字に陥った2021~22年度決算から一転、燃料費の期ズレや規制料金の値上げ、原子力稼働率の向上などが奏功し、23年度は軒並みの過去最高益となった。ただ24年度については、期ズレ効果が一服することもあり、大半が減益予想だ。大手電力の関係者からは「儲かっている実感はないのに、なぜ株価だけ急上昇しているのか」と不思議がる声も聞こえている。

◆みずほ証券、一部の電力株で投資判断を引き上げ

5月27日にみずほ証券証は27日、電力株の投資判断を、東北電、関西電、四国電で引き上げた。東北電については判断を「中立」から「買い」、目標株価を1000円から1700円に見直した(29日の終値は1548円)。同社は5月25日、女川原子力発電所2号機の安全対策工事の完了を発表し、24年度内の原子力再稼働の期待が出た。

関西電の目標株価も2400円から2900円に引き上げ。投資判断は「買い」を継続した(29日終値2816円)。原発の安定稼働により、将来の電力需要が増える局面にコスト競争力で相対的な優位性があると評価した。業績が大幅に改善した四国電力も中立から買いとした。

これら3社の上昇に釣られて、北海道電力の株価も上昇し、11年3月以来の高値圏だ。た。同社は泊原発再稼働の目処が立たない。しかし半導体企業ラピダスの進出や、企業のデータセンターの建設が営業地域で続くことなどの期待が材料視されたという。しかし、カルテル問題の罰金問題を抱える中国電力や、東京電力の上昇の出足は鈍い。

かつて電力株は、配当の高さと収益の堅実さで「大儲けできないけれども、収益が見込める」安定資産として一定の人気があった。ところが、福島原発事故や電力システム改革で、株価の低迷が続いた。22年には国際エネルギー市況が上昇したのに規制の残る低圧の料金を機動的に値上げできず、各社は軒並み赤字に陥った。カルテル問題、東電の福島の賠償問題なども尾を引き、株価は低迷を続けた。

◆株高が経営の負担に? 強まる値下げ要求への懸念

それが一転して、各社の業績は好転した。そして電力株は株式市場の注目を集めている。今の上昇は「相場が上がっているから買う」「仕手筋の参加などもある」などと、株の掲示板ではささやかれる。どこまで上がるかの関心が、市場関係者の間で高まる。

ある大手電力の中堅幹部に、この株高の感想を聞いた。「お客さまの需要は、実体経済が好転していないので、それほど好調ではない。意外な結果だ」という。そして「経過措置規制の影響で低圧・電灯の標準料金は国の許認可が必要だったりするなど、自由化が中途半端。実際は、世論に怯えながらの経営だ。儲かったり、株高で目立ったりすれば、また値下げ要求が広がる」と、株高が逆に経営に負担になることを警戒していた。

実際、再生可能エネルギー賦課金の上昇や国の負担軽減措置の廃止、容量拠出金の支払い開始などによって、前年同期と比べ電気料金は大幅に上昇する傾向にある。この状況を受け、メディアは続々と電気料金上昇問題を報じ始めており、電力会社への値下げ圧力が強まってきている。「儲かっているなら値下げを!」。そんな世論がある限り、「好業績、株高はもろ手を挙げて歓迎できるものではない」(大手電力関係者)といえよう。それにしても、小売りが全面自由化されて、需要家は数多くの小売事業者の中から自由に買えるわけだから、メディアも大手電力に対し値下げしろなどと声高に主張するのは筋違いだろう。好業績で株価を上げて企業の資産価値を引き上げるのも、自由化時代の重要な経営戦略の一つなのだから。

【記者通信/5月28日】電気料金報道のミスリードを両断 今求められる対策とは


4月23日付の記者通信で既報の通り、再生可能エネルギー賦課金の上昇と国の負担軽減措置の終了に伴い、一般家庭の電気料金が7月分から前年同月比でkW時当たり9.09円上昇する。資源高・円安進行による燃料費上昇もあいまって、需要期の夏場に電気料金の大幅上昇が顕在化するのは避けられない。4月から始まった容量拠出金を電気料金に上乗せしている新電力の需要家ではさらに上昇。オール電化や大家族の家庭だと、前年同月比で5000円以上の値上がりになるケースも予想される。こうしたことから、記者通信では「それで一部のマスコミや消費者団体、政治家が騒いだりすると、負担軽減措置の復活とかおかしな矢が飛んできかねない」とする大手電力会社関係者のコメントを紹介したのだが、案の定、そんな懸念が現実のものとなってきた

補助金打ち切りは岸田政権の横暴なのか

〈6月電気代、最大46.4%上昇 補助金終了、再エネ賦課金負担増〉(共同通信5月22日)、〈6月の電気料金、大手電力10社全てで大幅値上がり 補助金廃止で、最大46.4%上昇〉、(産経新聞5月24日)、〈電気料金6月分から値上げ 関西電力は前月比で468円値上げの見通し 物価高対策の補助金終了〉(読売テレビ5月22日)、〈「厳しすぎてやっていけない」 電気代6月分から約400円値上げ 政府の補助金終了で〉(日本テレビ5月22日)――。

5月中旬以降、テレビや新聞などの大手メディアは一斉に電気料金上昇問題を報じ始めた。中には、「値上げ」と書いているところも。この表現だと、電力会社が自らの判断で「値上げ」したような印象を与えるが、正しくは制度や政治上の外的要因による「値上がり」もしくは「上昇」である。ただ、大手一般紙系などはまだいいほうだ。これが、夕刊紙や週刊誌、ネットメディアになると・・・。

〈政府の電気料金補助廃止が直撃!この夏は「災害級の暑さ」予想で国民生活どうなるのか〉(日刊ゲンダイ5月27日)、〈岸田首相の〝無策〟に怒り 電気代暴騰、補助金切れ、再エネ賦課金放置 物価上昇に苦しむ国民を「恩着せ減税」でごまかす狙いか〉(夕刊フジ5月24日)、〈「定額減税吹っ飛ぶ」6月電気代、補助金終了・再エネ賦課金負担増で最大46.4%上昇…SNSで広がる恨み節〉(FLASH5月23日)、〈電気料金値上げに悲痛の声「えっぐい・・・」「健康で文化的な最低限度の生活ができなくなるぞ」〉(All About5月23日)――。

もはや補助金を打ち切るなど言語道断といった論調だ。記事の中には、SNSのつぶやきを引用する形で目に余るミスリードも見受けられる。そもそも、燃料油高騰の激変緩和措置に巻き込まれる形で、岸田文雄政権の肝いりとして始まり、業界の一部からは「市場の価格決定メカニズムをゆがめる筋の悪い政策」との悪評も聞こえる電力・ガス補助金なのだが、そんな経緯など知ったことではないとばかりの報道ぶり。「筋悪だろうが、何だろうが、とにかく補助金を復活せよとの世論が高まれば、ただでさえ支持率悪化に悩む自民党議員にとっては、政治的に動く材料になってしまう」(大手電力関係者)

そして、事態はそんな見方の通りに動きつつあるのか。自民党の木原誠二前官房長官は5月26日のフジテレビ「日曜討論」で、こうコメントした。「もちろん5月にいったんは(政府の補助金)やめるということを決めていますが、同時にその時に状況の変化があれば臨機応変に対応しますということも政府は言ってきていますから、何ができるかしっかり検討したいと思います」(スポニチ5月26日)〉

料金上昇は当然の帰結 省エネ支援こそ「王道の政策」

2011年3月の福島第一原発事故以降、わが国政府は脱原発、再エネ大量導入、総括原価方式廃止という電気料金を上昇させるベクトルのエネルギー政策を展開してきた。そう考えれば、現状は当然の帰結と言っていい。その状況を改善するために、一時的ならまだしも、国民の血税を投入し続けるのは、どう考えても無理がある。

と、思っていたら、お笑いタレントの山里亮太さんが27日、自らがMCをつとめる日テレの番組で、電気料金問題について「みんないろいろ節約することを考えている。補助金をお願いしますって言っても、その補助金はどこかから無限に出てくるものでもない。その補助金がなくなる理由もちゃんと分かりながらだけど」と指摘していた。一部メディアの記者よりも、はるかにまっとうなコメントだ。

電気料金上昇対策として何より求められているのは、省エネを誘導する政策である。かつてあったようなエコポイント方式による省エネ家電への買い換え促進策などは、改めて検討してみる価値があろう。省エネ支援こそ、地球温暖化対策にも資する「王道の政策」ではないかと思うが、どうか。補助金の復活ではなく、省エネ政策の必要性を訴える論調が、メディアの間で盛り上がることが期待される。

【目安箱/5月28日】原子力の進まぬ現状をどう乗り越えるか


「なかなか進みませんね」。日本原子力産業協会の「第57回原産年次大会」が4月9日、10日に東京で開かれた。そこで一年ぶりに会った研究者が原子力の現状について語った言葉だ。原子力について追い風が吹いているように見えるが、具体的動きがない。この現実への嘆きだ。この大会を振り返りながら原子力関係者の今の考えを推察してみたい。

講演する三村明夫原産協会会長

◆1年前の期待がしぼむ

2022年末に岸田文雄首相が、政権の重要課題として「GX政策」(GX:グリーントランスフォーメーション、環境経済への転換)を示し、そこでGXを進めるために原子力の活用を打ち出した。23年2月に「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定された。続いて同年4月に「今後の原子力政策の方向性と行動指針」が決まった。

東京電力の福島第一原発事故の後で、安倍、菅政権では「脱原発」を唱えなかったものの、原子力にあいまいな態度を取り続けていた。そのために岸田政権が「活用」を打ち出したことに原子力関係者は喜んだ。「久々のうれしいニュース」と23年のこの大会の会場で会った、前述の研究者と私は共に喜んだ。

昨年23年の大会のテーマは「エネルギー・セキュリティの確保と原子力の最大限活用-原子力利用の深化にむけて」だった。国際的な安全保障情勢の変化を受けたものだ。1年前の会議では、話す人、会う人、そろって原子力に追い風が吹いていることを歓迎していた。私もその期待を、エネルギーフォーラムのサイトでコラムにした。(23年4月26日「原産年次大会で実感 前向きの変化と期待」)

◆進まない現実にいらだち

しかし岸田政権にありがちだが、目標を示しても口先だけでなかなか形にならない。日本企業による原子炉の新設や受注、原子力規制の改善による停止原発の再稼働の加速など、前向きの変化は生まれていない。私の期待は甘かったようだ。

一方で、日本の原子力産業のライバルである韓国企業の海外での建設のニュースは届く。中国とロシアの原子力企業は、対立の中で自由主義陣営に原発を売り込むことは難しくなったものの、彼らの友好国である第三世界では受注、建設が続く。私は具体的動きの乏しさに、ややイライラしている。

この研究者は私の感想に共感するとしながら、「進まない現実にいらだっても、心の健康に悪いだけ。私たちは民間の立場でできることをやるしかない」と話していた。

こうした原子力関係者の意向を反映したのか、原産大会の今回のテーマは「今何をすべきか 国内外の新たな潮流の中で原子力への期待に応える」だった。参加者からは1年前の「うれしさ」は消えていたように思う。

この大会は毎春行われ、今回の参加者は、オンラインを含むと約700人だったという。私は時間が許せば、この大会を毎年、会場に行って聞いている。海外の原子力関係者がシンポジウムに出てさまざまな情報を提供する。そして日本の顔見知りの原子力関係者にも会え、彼らの意見を聞ける。原子力問題に関心を持つ人は、参加する価値が十分にあるイベントに思う。

◆課題は、人材育成、バックエンド、事業環境整備

大会の開会の挨拶で、日本原子力産業協会の三村明夫会長(元新日鉄(現日本製鉄)会長、元日本商工会議所会頭)はまず、「原子力発電の積極的な活用の機運が国内外において極めて高まっている」と強調。その上で「国内外の強い原子力推進モメンタムの中で、われわれ原子力産業界は今何をすべきなのかを考えることが必要」と、大会テーマを語った。

セッション1では「カーボンニュートラルに向けた原子力事業環境整備」、同2では「バックエンドの課題:使用済み燃料管理・高レベル放射性廃棄物最終処分をめぐって」、3では「福島第一廃炉進捗と復興状況」、同セッション4では「原子力業界の人材基盤強化に向けて」がテーマ。いずれも、今の原子力産業が対応しなければならない問題だ。

来賓挨拶をした岩田和親・経済産業副大臣は、「サプライチェーン・人材を含めた原子力産業を支える事業環境は年々危機的な状況になりつつある」と懸念を述べ、政府がサポートをすると述べた。原発再稼働で儲かる状況を作れば大きく改善するが、経産省は積極的に動かない。それに私は不満があるものの、危機感と問題意識は共有している。

◆脱炭素、電力需要の増加という世界潮流に応える

そして世界原子力発電事業者協会(WANO)の千種直樹CEO、元米国エネルギー省(DOE)副長官のダニエル・ポネマン氏(ビデオメッセージ)が講演。WANOのメンバーとなる発電所は現在、世界で運転中460基、建設中60基に上るという。「技術革新で安全性は高まっている」と強調した。

ポネマン氏は、「世界のエネルギー業界ではますます原子力の拡大が必要」と予想した。電気自動車の普及、運輸部門の脱炭素化、データセンターやAIの普及で、全世界でエネルギー需要が増えている。「原子力発電所の新設でも賄いきれない、遥かに速いスピードで進む爆発的勢いだ」と懸念さえ述べた。「すべての人の意見が一致することはできないが、こうした深刻な懸念にも立ち向かわねばならない。そのために原子力産業は今後、大きく成長できる」と述べた。

日本の原子力産業の再生、そしてさらなる発展という原子力関係者のそろって願う希望は、なかなか形にならない。しかしそれが動き出すには、そして動き出した後で更なる発展を遂げるには、現時点で原子力産業の方でそれに応える準備が必要だ。安く安定的なエネルギーの供給は、全世界で求められており、日本の原子力産業は世界から期待されている。

進まない現実にいらだつ前に、「今できる」準備をすれば、いつか大きな成果が戻ってくると信じたい。

【メディア論評/5月28日】今国会提出の環境関連法案に関する報道を読む


ネットゼロ、サーキュラーエコノミー(循環経済)、ネイチャーポジティブの統合的な実現

1月から始まった通常国会は6月23日に会期末を迎える予定だ。エネルギー・環境関係では、水素社会推進法、CCS事業法、再生可能エネルギー海域利用法改正、地球温暖化対策推進法改正、生物多様性増進活動促進法、再資源化事業高度化法(いずれも略称)など、各分野での課題対応を図った法案が提出された。ここでは、水素、CCS、洋上風力関連の法案に比べて、メディアで取り上げられるボリュームがやや少ないように思われる、地球温暖化対策推進法改正、生物多様性増進活動促進法、再資源化事業高度化法の意義などについて、メディアの取り上げ状況も含めて触れておきたい。昨年のG7広島サミット、G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合では、ネットゼロ、サーキュラーエコノミー(循環経済)、ネイチャーポジティブ(←生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せること)の統合的な実現の重要性が再認識された。政府においても、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2023」や「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」などでこの3つの課題に向けた取組みが取り上げられた。

参考=23年6月16日 経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)(抜粋)

◆新しい資本主義の加速~投資の拡大と経済社会改革の実行~

・グリーントランスフォーメーション(GX)、デジタルトランスフォーメーション(DX)などの加速

30年度の温室効果ガス46%削減(13年度比)、50年カーボンニュートラルの実現に向け、わが国が持つ技術的な強みを最大限活用しながらGX投資を大胆に加速させ、エネルギー安定供給と脱炭素分野で新たな需要・市場を創出し、日本経済の産業競争力強化・経済成長につなげる。……(省エネルギー推進、再生可能エネルギー拡大、原子力活用、水素戦略、自動車・輸送分野での対応などに触れたのち)……地域・くらしの脱炭素化に向けて、中小企業などの脱炭素経営や人材育成への支援を図りつつ、25年度までに少なくとも100カ所の脱炭素先行地域を選定するなどGXの社会実装を後押しする。また、……国民・消費者の行動変容・ライフスタイル変革を促し、脱炭素製品などの需要を喚起する。環境制約・資源制約の克服や経済安全保障の強化、経済成長、産業競争力の強化に向け、産官学連携のパートナーシップを活用しつつ、サーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に取り組む。また、動静脈連携による資源循環を加速し、中長期的にレジリエントな資源循環市場の創出を支援する制度を導入する。……

◆わが国を取り巻く環境変化への対応

1.国際環境変化への対応

・対外経済連携の促進、企業の海外ビジネス投資促進

……アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想などの実現に向け、標準作りなどに加え、日本の技術や制度を活用し、世界の脱炭素化に貢献する。日本の技術を活用し、40年までの追加的プラスチック汚染ゼロとの野心の達成に向けて多数国による条約の策定交渉などを主導する。また、30年までに生物多様性の損失を止めて反転させる目標に向け、本年度中の国会提出を視野に入れた自主的取組を認定する法制度の検討や、グリーンインフラ、G7ネイチャーポジティブ経済アライアンスなどの取組を推進する。…… ←「ネイチャーポジティブ経済」については、後述「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」の項参照 

4月19日の経済財政諮問会議においても、伊藤信太郎環境相が「環境を軸としたグローバル対応と地域活力の創生」と題して、ネットゼロ、サーキュラーエコノミー(循環経済)、ネイチャーポジティブの統合的な実現について語っている。

◎4月19日の経済財政諮問会議における伊藤信太郎環境相の説明〈環境を軸としたグローバル対応と地域活力の創生〉(内閣府議事要旨より)〈GXの推進に当たっては、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブを含め一体的に進めることが重要。現在検討中の第6次環境基本計画案においては、自然資本の基盤の上に経済社会活動が成立しているという認識に立ち、自然資本の維持・回復・充実を図り、複数課題の同時解決を目指す「統合的アプローチ」を環境政策のグランドデザインとして位置づける方針である。これに基づき、地域共生型の再エネ導入による地域の脱炭素化と経済活性化の同時実現や、GXに資するサーキュラーエコノミーの取組を進めていく。グローバル対応に関しては、先行する気候変動対策に加え、資源循環やネイチャーポジティブへの対応が重要になっている。資源循環分野においては、事業者間連携などによる資源循環の促進と国内外の資源循環体制の強化を通じ、わが国企業の産業競争力強化、経済安全保障に貢献する。ネイチャーポジティブ分野では、自然資本に立脚した豊かな経済社会の礎とすべく、ネイチャーポジティブ経済への移行による新たな企業価値の創造などを推進する。その際、日本の自然資本の状況を適切に表せる評価ツールの開発と、それを世界の標準としていくための産官学連携拠点の形成、国際標準化活動を通じ、サステナブルファイナンスの呼び込みを目指す。〉

環境・公害関係の専門紙・環境新聞は、上記会議での伊藤環境相の説明について報道するとともに、今国会の提出法案について関連付けて説明している。

◎環境新聞4月24日付〈4月19日の経済財政諮問会議に関する報道の中で〉〈……伊藤環境相は臨時議員として「環境を軸としたグローバル対応と地域活力の創生」を説明した。伊藤氏は「わが国が主導したG7コミュニケにもある通り、気候変動、生物多様性の損失及び汚染といった3つの世界的危機に対し、シナジーを活用し一体的に対応する『統合的アプローチ』が重要」と指摘。その上で「SDGSのウェディングケーキの図に示される通り、環境は経済・社会の基盤。ネットゼロ、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブを統合的に実現し、経済・社会の課題解決、新たな成長につなげていく」と強調した。環境省は統合的アプローチの一環として、今国会に再資源化事業等高度化法案、生物多様性増進活動促進法案、温暖化対策法改正案の3法案を提出している。〉

なお、環境新聞は閣議決定、衆議院可決といった節目ふしめでその動きを、付帯決議の内容まで含めて紹介している。