去る5月28日、電力業界関係で、それぞれは別のジャンルの話であるが、二つの発表があった。一つは、中部電力が、大口需要家向け都市ガス供給に関する東邦ガスとのカルテル(不当な取引制限)で排除措置命令および課徴金納付命令を受領した件で、元取締役1人に約7000万円の損害賠償請求することを発表した。もう一つは、消費者庁が、中国電力に対して不当景品類及び不当表示防止法に規定する不当表示で課徴金約16億円の納付命令を出したと発表した。それぞれの事案における両社の対応を、電力4社カルテル事案(「特別高圧・高圧のエリア外での営業活動の制限」)への対応の経験により、リスク感覚がどう磨かれていたかという視点で見てみる。
◆中部電力 東邦ガスとのカルテルで元取締役に損害賠償請求
3月4日、公正取引委員会は、東邦ガス供給区域に所在する大口需要家向けの小売供給において、独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)に違反する行為があったとして、中部電力に課徴金納付命令、中部電力ミライズに排除措置命令および課徴金納付命令を出した。この件に関して中部電力は、5月28日、排除措置命令および課徴金納付命令等の受領に係る元取締役の「任務懈怠(けたい)」に対して、約7000万円の損害賠償請求を発表した。本件に入る前に、それ以前にあった電力4社カルテル事案への中部電力の対応経過について振り返っておく。(電力4社=関西電力、中部電力・中部電力ミライズ、中国電力、九州電力・九電みらいエナジー)
1.電力4社カルテル事案への中部電力の対応経過(振返り)
中部電力は、電力4社カルテル事案については、2021年4月13日の公取委による立入検査以降、否認の立場を貫いている。23年3月30日に公取委から排除措置命令および課徴金納付命令を受けた同日、取消訴訟の提起決定を発表、その後23年9月25日に訴訟提起したことをプレスしている。一方、株主からは23年6月21日に現旧取締役の責任追及の訴え提起を受領したが、23年8月9日に訴えを提起しないことを決定してプレス、これに対して23年10月12日に株主代表訴訟が提起されている。
〈電力4社カルテル事案の経過〉
◎21年4月13日および7月13日 公正取引委員会による電力4社立入検査
21年4月13日 中部電力・中部電力ミライズ、関西電力、中国電力
21年7月13日 関西電力、中国電力、九州電力・九電みらいエナジー
◎22年12月1日 事前リーニエンシーをした関西電力を除く電力3社、公取委より排除措置命令および課徴金納付命令に係る意見聴取通知書受領と適時開示
◎23年3月30日 事前リーニエンシーをした関西電力を除く電力3社、公取委より排除措置命令及び課徴金納付命令
●本件に関連しての経産省関係の動き
・23年3月30日 電力・ガス取引等監視委員会より電力4社に、独禁法違反に関して電気事業法に基づく報告徴収
→4月12日 電力4社 報告徴収への報告
・23年3月30日 経産省より電力4社に小売事業の健全性確保の観点から法令等遵守のための指示
・23年4月3日 経産省 電力4社に対して補助金交付等の停止及び契約に係る指名停止等の措置
・23年7月14日 経産省 電力4社に業務改善命令
・23年7月28日 中部電力・中部電力ミライズが業務改善計画
(他3社は8月10日)
◎中部電力 取消訴訟提起
・23年3月30日 取消訴訟提起決定
・23年9月25日 訴訟提起 プレス
◎本件に関する株主代表訴訟 中部電力
・23年6月21日 株主からの現旧取締役の責任追及の提訴請求 受領
・23年8月9日 訴えを提起しないことを決定(プレス)
〈株主からの提訴請求への対応〉〈—当社取締役とは利害関係のない外部法律事務所に調査を委託し、その結果を監査役会にて精査し、対応を検討してまいりました。検討の結果、本日、当社の全監査役は、当社の現取締役および元取締役20名に関し、本提訴請求書で指摘のあった事項について、善管注意義務違反があったとは認められず、責任追及の訴えを提起しないことといたしました。〉
⇔会社が60日以内に訴訟を提起しない場合、または提訴しないという回答を得た場合、株主自身が会社を代表して訴訟を提起
・23年10月12日 株主代表訴訟提起 当時の取締役14人約376億円