資源供給国として日本と密接な関係があるオーストラリアの国民意識に、異変が起こっている。豪州政府の政策決定に強い影響力を持つシンクタンク、ローウィが実施した国民世論調査で、原子力発電の活用を支持すると答えた人の割合が過去最高の6割に達した。豪州では1990年代に制定した二つの法律で、原発の活用を禁じており、長い間原発の導入に関する議論はタブー視されてきた。しかし気候変動問題が浮上し、主力の化石燃料の存在意義が揺らいだことなどが契機になり、国民意識にも変化が出てきたようだ。2025年にも予定されている総選挙で政権奪還を狙う保守政党がこの調査結果に即座に反応し、原発の導入を選挙公約に含めることを明言した。原発回帰は日本だけでなく、世界でも顕著になってきた。

2011年の調査と「逆転」
ローウィは24年3月に豪州全土の成人2028人を対象に調査を実施した。日本の人口と比較すると約1万人の成人に調査したことになる。この調査は05年から始まっており、約20年間にわたって国民意識の変化を追跡している。項目は安全保障から外交、経済と貿易、社会課題など多岐にわたっており、エネルギーと気候変動の項目は常に注目されているという。
今回の調査では豪州の国民の61%が、原発に「やや」または「強く」利用することを、「やや」または「強く」支持すると回答した。「やや」または「強く」反対していると回答した国民は37%にとどまった。原発を「強く支持する」と答えた人は27%で、「強く反対する」(17%)を上回った。
東京電力福島第一原発の事故が発生した11年に、この世論調査では原発の導入を質問項目にした。その際の回答は、温室効果ガス排出削減計画の一環として原発を建設することに「強く反対」(46%)または「やや反対」(16%)の反対と答えた人は計62%に及んでおり、今回の調査で原発への期待感を示す国民意識が鮮明になったといえる。

勢いづく保守政党
今回の調査結果に溜飲を下げたのは野党自由党と、行動を共にする保守系野党だ。25年の総選挙に向けて、現労働党政権の打倒を日増しに強めている。すでに自由党のピーター・ダットン党首は、次期総選挙の選挙公約に「豪州国内6か所の原発新設」を掲げることを明言している。気候変動対策を重視する与党労働党との違いを鮮明にして、気候変動対策よりエネルギーの安全保障を重視する路線をひた走る。
ダットン氏はさらに思い切った政策を打ち出した。6月8日の豪州全国紙「オーストラリアン」で、政権交代を果たせば、現労働党政権が打ち出した温室効果ガス削減目標を「取り消す」と表明した。現政権は30年までに05年比で43%減という目標を掲げているが、「達成できる見込みがない目標に意味はない」とバッサリ切って見せた。
ドナルド・トランプ氏並みの強硬論をダットン氏が振りかざす背景には、今回の国民世論調査がある。豪州ではエネルギー価格の上昇と生活費の上昇圧力が国民を苦しめている。エネルギーの優先項目という質問で、回答者のほぼ半数(48%)が「家庭の光熱費の削減」を最優先事項と答えている。21年調査の同様の質問から16ポイントも上昇している。そして、ダットン氏を勢いづかせたのは「炭素排出量の削減」を最優先事項とすべきだと答えた人の割合で、21年調査に比べて18ポイント減の㊲%となり、国民が気候変動対策を最優先に求めていないことが浮き彫りになった。