【目安箱/12月12日】賛否渦巻く太陽光義務化 小池都知事はなぜ固執するのか


東京都の小池百合子都知事が新築住宅の太陽光パネル義務化の政策を進める。人権、経済性、防災など、多くの問題がある。多くの問題があるのにその批判を無視して、小池都知事がこの政策を自ら主導して突如進めるのは不思議だ。両論併記で、賛成反対のそれぞれの意見と解説は「記者通信」に書かれている。このコラムでは、なぜ小池都知事がこの政策を唐突に持ち出したのかを考えてみたい。彼女自身が詳細を語っていないので謎なのだ。もしかしたら、彼女のいつもの行動「目立つことに飛びつく」というのが主要な理由かもしれない。

◆国が断念した政策に飛びついた

小池百合子東京都知事は2021年9月に、この政策を突如発表した。そして21年12月から始まった都議会定例会で設置義務化を定める東京都環境確保条例の改正案が審議されている。成立すれば2025年4月から施行される。実施されれば、新築一戸建てでは日本初の条例となる。華やかなことを追求する小池氏の好きそうな話になる。

菅義偉政権では20年に、温室効果ガスの排出を50年までに実質ゼロにする「カーボンニュートラル目標」を決めた。それを受けて、21年3月に当時環境大臣だった小泉進次郎が、この政策を行いたいと急に打ち上げた。しかし世論の反発が強く、立ち消えになった。小泉氏の断念した思いつき政策に、なぜか小池氏は飛びついた。

関係者によれば、小池氏の脳裏には、環境大臣(2003-05年)の時に自らが主導した「クールビズ」キャンペーンが成功体験として残っているらしい。夏の軽装で冷房を抑制しようとする政策だ。冷房抑制の効果があったかは疑問だが、服の軽装化は進んだ。キャンペーンでは各所に彼女が有名人と共に登場し、流れを作った。彼女は環境に注目するようになっている。

小池氏は、ネット広報には詳しくなさそうだが、ニュースキャスターの経験を活かして、オールドメディアの操作は上手だと思う。絵になる画像を提供し、短くキャッチフレーズを繰り返す。実際にこの政策で12月1日までに寄せられた3714件のパブリックコメントでは、賛成が56%と反対の41%を上回る。

◆「唐突すぎる」都民ファースト関係者からの声

ただし広報だけでは現実は変えられない。新型コロナでも、小池都知事は広報には一生懸命だった。しかし東京都による現実の防疫体制づくりは後手に周り、その政策と実務の評価は今ひとつだった。この太陽光パネルの義務化政策でも、実行には問題が多く、エネルギー関係者からは懸念の声ばかりが聞こえる。

太陽光パネルの設置義務化政策が、なぜ浮上したのか。小池氏の都議会与党である都民ファーストの関係者に聞く機会があった。「唐突すぎる」と都議の多くは不思議がっているという。同会の意思決定はほぼ小池の独断で決まり、秘書出身の側近側近がたまに小池の意見を聞かれる程度だ。それ以外の議員には、小池の真意はなかなか分からない。それでも選挙に勝てるから、都議たちはしがみついているようなのだ。

「メガソーラーが日本を救うの大嘘」(宝島社)という本で、かつて小池と協力したが、今は袂を分かち、「地域政党自由を守る会」を立ち上げ活動する上田令子都議会議員の寄稿が掲載されていた。彼女も、突然の政策化を疑問に思っていた。そして筆者は、上田氏と懇談する機会があった。

上田氏の見立ては「深く考えずに決めたのではないか」という。この政策が、突然浮上した21年9月に、都民ファーストは批判を集めていた。21年7月に行われた東京都議会議員選挙では、同会はなんとか過半数を制した。ところが選挙期間中に同会の木下富美子議員が選挙後に無免許運転で交通事故を起こし、さらに免許停止処分を5回も受けていたことが発覚。彼女はその後も11月まで都議に居座り、彼女を統制できない同会が批判されていた。また当時は新型コロナ対策にとらわれて、都政も社会の動きも止まっていた。その新型コロナ封じ込め策も批判を集めていた。小池氏には、新鮮な施策を手掛けたい動機があった。

「この政策に小池さんが飛びついた理由は、はっきりとはわからない。彼女は記者会見の目玉テーマをいつも探している。都民の注意を逸らすため、深く考えずに、目新しいテーマに飛びついた可能性がある」と、上田氏は言う。

◆行き詰まりの今こそ議論を尽くす好機

小池氏の一貫性のない行動を考えると、上田氏が言うように、目立つことを重視して、小池氏が太陽光パネル義務化の政策に飛びついた可能性もあると筆者は思う。

ただし、それでも先行きが怪しくなり始めた。有識者が疑問を示し、ネットを中心に世論の批判が強まっている。都議会第二勢力の自民党は、小池氏が国の政策と連動した強調したため、これまで強く批判はしていなかった。しかし、問題点が次々に出てきたことで12月からの都議会では「慎重な審議を求める」と要求した。小池氏も12月の記者会見で、批判に配慮し始めたのか、「最新技術の開発促進、情報発信、人権尊重などSDGsに配慮したい」と、推進一辺倒から少し態度を変えた。

小池氏の独断だけでは、政策を遂行できなくなっている。この重要な政策が仮に「目立ちたい」という軽率な意図で推進されたら問題だ。行き詰まったこの機会を逆に生かし、都民、国民に問題を周知させ、議論を深めてほしい。

【記者通信/12月8日】都の住宅太陽光義務化で賛成・反対両派が同日会見


東京都の小池百合子知事が意欲を示す新築住宅への太陽光パネル設置義務付けを巡り、義務化に反対するキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏らが12月6日、記者会見を行った。杉山氏は国民負担の増加や人権侵害、強制労働が疑われる中国製パネルの使用に懸念を示し、義務化の撤回を求めた。一方で条例義務化を求める東京大学大学院の前真之准教授らも同じ日に会見を行い、電気代価格引き下げに太陽光発電が寄与するとして、導入推進を呼びかけた。

杉山氏「人権、経済、防災で問題」

反対派の会見には、杉山氏のほか、常葉大学名誉教授の山本隆三氏、東京大学公共政策大学院特任教授の有馬純氏、全国再エネ問題連絡会共同代表の山口雅之氏、東京都議の上田令子氏らが出席。杉山氏は会見で「義務化には人権、経済、防災の3点で問題がある。9月に反対請願を提出したが、都から誠意ある回答は得られなかった」と苦言を呈した。また山口氏は、再エネ賦課金や託送料金など国民全般の電気料金が設置義務化の原資になっていると指摘。山本氏も「東京都の政策によって東京都以外の住民の負担が増える、こういう政策をやっていいのか」と述べ、一部の都民が価格の恩恵を受ける構造と負担格差の拡大に警鐘を鳴らした。

さらに、会見では新疆ウイグル自治区での強制労働が疑われる中国製パネルの輸入も問題視。有馬氏は「太陽光パネル義務付けとなった際、最も利益を得るのは中国。温暖化防止やウクライナ侵攻問題を自国の都合の良いように活用している」とパネル導入による地政学的リスクを訴えた。そのほか、大規模水害でパネル水没した際の感電事故の危険性や、世界平均気温1.5度目標に対するパネル設置効果への疑問などが提起された。

前准教授「義務化は電気代の負担軽減に」

これに対し、同日午後に条例義務化を求める前氏や一般社団法人「太陽光発電協会」らが会見。前氏は「燃料高騰による電気代上昇の中、電気代を安くできる確立された技術は、①断熱・気密、②高効率設備、③太陽光発電の三つだけ」だと述べ、義務化は電気代の都民負担軽減につながると主張した。

負担格差の拡大については「固定価格買い取り制度(FIT)の価格下落に加え、賦課金も近くピークアウトが予想される」と分析。太陽光導入で昼間の電力コストが軽減し、国民全体に恩恵をもたらすと話した。また「誘導策だけでは停滞が顕著だ。事業者への設置義務によって市場の競争原理が働き、太陽光をリーズナブルに導入できる」と義務化のメリットを説明した。その上で「条例案には設置が難しい、日照条件が悪い建物は除外できるなど、さまざまな配慮がある」としながら、「いま取り組むべきは『ほぼゼロリスク』をことさらに吹聴し不安をあおり、普及を阻害することではない」と義務化反対の風潮にくぎを刺した。

小池知事は急激にトーンダウン

賛成派と反対派との議論が活発化する中で、旗振り役だったはずの小池百合子都知事は急激にトーンを落としている。9月の都議会の所信表明では「新築住宅への義務化の動きは、国際社会の潮流だ」と話していた小池都知事だが、12月の記者会見では太陽光発電普及について「最新技術の開発促進などをはじめとする情報発信、人権尊重などSDGsに配慮した事業活動に関する取り組みなどについても協力して進めていく」と批判に配慮した発言にとどまっている。

設置義務化の反対署名活動を行ってきた上田都議は「小池知事はこんなに(反対派から)やり玉に挙げられるとは思っていなかったはず」だと話す。さらに「今回の件は政府や国に先駆けたい小池百合子都知事のパフォーマンスの一環ではないか」との見方も示している。上田令子都議らは会見終了後、反対運動に署名した5778筆を都の担当者に手渡した。

【記者通信/11月28日】四国28%・沖縄41%値上げ申請 原発稼働が明暗分ける


四国と沖縄の大手電力2社が11月28日、経過措置規制料金の値上げを経済産業省に申請した。両社とも今年4月には、燃料費調整制度の平均燃料価格が調整上限に達し、燃料費の超過分を自社で負担しなければならない状態が続いていた。燃料費の変動を適切に反映できる料金体系とすることで、これ以上の財務状況の悪化に歯止めをかける狙いがある。

具体的には、四国は低圧規制料金を平均28・08%値上げし、標準的な家庭(契約種:別従量電灯A、使用電力量260kW時/月)の月額料金は現行比27・9%値上がりの1万120円とする。一方、沖縄は40・93%の値上げを申請。標準的な家庭の電気料金は同39・3%値上がりし1万2320円となる。沖縄は高圧分野にも規制が残っており、こちらは50・02%の大幅値上げとなる。

四国は2013年、沖縄は08年以来の料金改定。沖縄では12年に吉の浦火力が運開したため、今回初めてLNG火力が電源構成に加わった。これにより、電源が石油、石炭のみと仮定した場合よりも、3か年平均で92億円の燃料費抑制効果を原価に織り込むことができたという。

燃料費に加え、卸市場価格が押し上げ要因に

25日に申請した東北、中国も含めて各社共通しているのは、燃料費に加え「他社購入電力料」が原価算定期間である23~25年度の年平均原価の押し上げ要因となっていることだ。これは、FIT(固定価格買い取り制度)に基づく再エネの買い取り量が増え、この買い取り価格が卸電力市場の高騰と連動しているためだ。一方で、市場での販売量も増加傾向にあり、販売電力料も大幅に増加している。自由化の進展や再エネの導入拡大が原価の在り方に大きく影響していることが浮き彫りとなっている。

総じて大幅値上げを申請している各社の明暗を分けているのが、原子力発電所の稼働状況だ。伊方3号機を供給力として織り込める四国は値上げ幅を20%台に抑え、24年初頭の原発再稼働を織り込んだ東北、中国はそれぞれ30%強の値上げ申請となったのに対し、供給力のほとんどを火力に依存せざるを得ない沖縄は40%強と、他社と比べても大幅な値上げに踏み切らざるを得ない状況だ。原発が稼働している関西、九州は今のところ値上げを表明しておらず、電源構成の違いが電気料金の地域間格差を拡大することになりそうだ。

【目安箱/11月28日】好調な日立の危うさ 原子力で転んだ東芝と類似?


エネルギーの現場を歩くと電力でもガスでも、前から多かった日立の計測機器類、システムがこの10年でさらに増えた印象がある。I T化の動きにも対応し、より使いやすく、正確になっている。技術者など社員の努力に加えて、川西隆氏、故・中西宏明会長らの経営者の改革が実を結んだ結果だろう。ところが、中の人から見ると、絶好調から一転して経営危機に陥った東芝に「似ている」という声がある。エネルギー分野での心配という。本当のところはどうなのか。

◆足元絶好調、死角なし?

日立グループが10月28日に発表した中間決算発表は好調だ。⑳20、21年度と連続で過去最高益を出した強い成長は継続。22年度上半期(4~9月)の連結業績は、売上高が前年同期比12%増の5兆4167億円。円安による為替影響と電機、重電の世界的な市況回復傾向が影響した。

売り上げの伸びの中心は計測分析システムの好調と、20年に1兆円で購入したソフトウェア開発の米国のグローバルロジック社の効果だ。さらに、分析システムの機器と連携し、顧客のデータを使いシステムを共同で作り上げる「Lumada」事業も広がりを続けている。通年の売上高予想は、期初比5500億円増の10兆4000億円。ただし当期利益は変わらず6000億円となっている。

ウェブ会見した河村芳彦副社長は、この好調さにもかかわらず先行きで慎重な見方を示した。世界的なリセッションと中国ビジネスの不透明感を当面は警戒し、「地政学リスクを考慮すると、一部の拠点を国内や同盟国に戻すこともあり得る」と述べた。

◆財界活動を引き受けた悪影響

この決算を見ると、日立の行く末に問題はなさそうだ。ところが元幹部によると、「東芝に似ていないか」という声が社の内外に囁かれているという。特に、電力に関わる面に不安があるそうだ。この人によると、東芝と2つの類似点がある。

第一は、財界活動に巻き込まれ、本業が悪影響を受けることだ。

東芝は古くは、石坂泰三、土光敏夫という名経営者が会社を飛躍させ、その後に経団連会長になった。同社は三菱、三井、住友以外の非財閥系企業で、財界の中では中立的立場だ。そのために経団連会長になりやすい。東芝を、一時、重電、原子力で2000年代に成長させた西室泰三氏(1935-2017)は、亡くなる直前には、財界、本業以外の活動に積極的だった。05年に会長から相談役になった後で、公職を歴任した。

ところが西室氏は、社長を務めたゆうちょ銀行で不祥事の責任をとらされ、16年に退任。さらに東芝の経営危機は、西室氏が敷いた原子力への積極策が影響したとされる。西室氏の指名で後任になった西田厚聡元社長は利益水増し、原子力分野の巨額の買収の失敗などの失策を行なってしまった。

日立は2008年度決算で、約7800億円の赤字決算を出した。その際に、子会社転出後の役員らを呼び戻し、幹部を入れ替えた。川村隆氏(1939-)、中西宏昭氏(1946−2021)はその時、子会社の経営者から日立本体に復帰し、大規模なリストラと、今の重電、電子ソリューション分野への注力の路線を敷いた。

日立は、東芝と違って財界活動にはそれほど関心を示さなかった。いまは昔と違って各社とも経営に余裕はないし、利益にもつながらない。14年には川村氏が経団連会長に推薦されたが就任を固辞。中西氏は経団連会長に18年から就任した。当初は就任を固辞したが、今の財界の人材不足と、ふさわしい大企業がなかったために、引き受けてしまった。

川村氏は17年に東京電力会長に就任するが、20年に退任してしまう。早期の退任は年齢面もあるが「事実上国営化され自由に行動できない東電の経営の自由度を上げようと動きはじめ、政府に嫌がられた」(電力筋)という説もある。日立幹部O Bによると、こうした財界活動に引き込まれると、日立の経営に悪影響が出かねないという懸念が会社にあるという。

現在の東原敏昭会長、小島啓二社長は、中西氏に近い人材、その路線の忠実な後継者とされる。「危機の際に自発的に、同じ対応ができるか疑問」(日立幹部OB)という。

◆原子力の束縛の悪影響も

東芝との類似点の第二点は、原子力を巡る問題だ。筆者が懇談した日立幹部O Bは原子力の経歴はなかったが、こんなことを述べていた。「原子力に関わる人は、それを発展させなければいけないと、思い入れを持つ。川村さん、中西さんもそうだ。しかし国策であり、一企業ではどうしようもない。東芝はそれで転んだ」。経歴では中西氏はI T・システム中心だが、川村氏は原子力、発電畑の出身だ。2人とも原子力の必要性をことあるごとに強調していた。

20年の日立の英国からの原発事業の撤退では、同社は3000億円の損失処理を余儀なくされた。これは中西氏主導のプロジェクトだった。その失敗には、日英経済協力の外交案件になって、また英政府の政策変更に翻弄された気の毒な面があった。ただし撤退が遅れたのは、「中西さんらしくなかった。経団連会長職による束縛と、原子力への思い入れのためかもしれない」(同)。日立・G Eの原子力事業は次の成立しそうな案件は見当たらない。一方で中国、ロシア、韓国企業は世界で攻勢をかけている。

現在、日立は子会社の整理が終わり、前述のグローバルロジックなど巨額投資の結果を待っている状態だ。現時点では業績上の効果が出ている。しかし10年に原子力への巨額投資が一巡した東芝でも、似た姿があった。また独シーメンス、成長中の中国企業などとの競争の中で、システム、重電分野の日立の優位局面は長く続くとは限らない。

財界活動と原子力。この東芝をつまずかせた2つの問題をきっかけに、好調の日立の業績が暗転する可能性があるかもしれない。

【記者通信/11月28日】原油価格急落で昨年12月水準に 国の補助金見直しも?


原油価格の下落が止まらない。米原油価格指標のWTI原油先物は11月28日午前に1バレル73ドル台に突入し、一時73.7ドルまで急落した。今年12月下旬以来の水準だ。先週、主要7カ国が適用するロシア産原油の価格上限制度を巡って、現在の相場とほぼ同水準の「1バレル65~70ドルを上限に設定することを検討」との情報が流れたことで、供給減少の懸念が後退。さらに、中国の厳格な新型コロナ対策への抗議デモで需要後退懸念が高まっていることも、全体的な原油相場の押し下げにつながっているとみられる。

先行きは不透明だが、もし今後も引き続き70ドル台で安定的に推移するのであれば、昨年1月下旬にガソリンなど石油燃料への補助金投入を始める前の市況水準に戻ることになる。その上で為替が円高に振れていけば、補助金の根拠がなくなるわけで、政府の総合経済対策にある「(燃料油価格の高騰に対しては)来年度前半にかけて引き続き激変緩和措置を講じる。具体的には、来年1月以降も、補助上限を緩やかに実施し、その後、来年6月以降、補助を段階的に縮減する一方、高騰リスクへの備えを強化する」との方針の見直しが求められる可能性もある。

その一方で、オーストラリア産石炭(一般炭)の相場は25日現在1t当たり347ドルと相変わらず高値圏での推移。アジア市場のLNGスポット価格(JKM)も依然として100万BTU当たり30ドル台前半で高止まりしている状況だ。このため、国内の電気・ガス料金の燃料・原料費に関しては今後も高値傾向が続く公算が大きい。大手電力6社が想定する規制部門の電気料金の値上げ改定に影響を与えることはなさそうだ。

【記者通信/11月25日】東北・中国電が3割強の値上げ申請 赤字解消へ正念場


大手電力会社による低圧規制料金の値上げ改定に向けた申請ラッシュが始まった。4月の改定実施を視野に、11月25日までに東北・中国電力が経済産業省に申請を済ませ、北陸、四国、沖縄が月内にも申請する見通し。経済産業省の有識者会合などが値上げ額の妥当性について査定を行った上で正式に決定する。当初月内に申請すると見られていた東京については、年明けの申請、6月の実施を目指すもようだ。

今回、各社が値上げに踏み切るのは、2016年の全面自由化後も「需要家保護」を名目に規制が残されてきた経過措置料金。具体的には、東北は、24年2月の女川2号の再稼働を織り込むことで5ポイント上げ幅を抑制しつつ平均で32・94%の値上げを申請した。これにより、標準的な家庭(契約種:別従量電灯B、使用電力量260kW時/月)の月額料金は現行比31・72%値上がりの11282円となる。中国は24年1月末の島根2号機の再稼働を織り込むことで3ポイント上げ幅を抑制。平均で31・33%の値上げ申請となった。標準的な家庭(従量電灯A、使用電力量260kW時)の月額料金は現行比29・88%値上がりの1万0428円となる。

今回の料金値上げの背景には、22年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けた燃料や卸電力市場の価格高騰がある。東北は今年6月、中国は3月に燃料費調整制度の平均燃料価格が上限を超過。既に規制が外れている高圧・特別高圧契約の料金値上げや、低圧契約の自由部門で燃調上限を廃止するなど手を打ってきたが、東北の場合、10月末までの自社負担額212億円中119億円と大半を規制料金分が占める。低圧契約も含めて自由部門は燃調上限を廃止済みの中国でも、22年度340億円の自社負担額が来年度には450億円まで膨れ上がる見通しで、規制部門の赤字解消が喫緊の課題となっていた。

値上げ改定に合わせて両社は、逆ザヤの要因となった燃調の前提となる電源構成比などを見直し、基準燃料価格を大幅に引き上げ(東北は3万1400円→8万5400円/㎘、中国は3万9000円→8万0300円/㎘)、燃料市況の変動をより確実に料金に反映できるようにした。

規制料金の限界が浮き彫りに 来年4月実施を危ぶむ声も

とはいえ、自由化の進展や再エネの導入拡大により電力の需給構造は前回改定時から激変。これまでの延長上の見直しではこの変化に対応できるとは到底言えない。例えば、卸市場価格の変動が調達コストに与える影響が増す中、自由部門では燃料費のみならずこの市場価格を料金に反映する調整項を導入する動きが始まっているが、「特定小売り供給約款料金算定規則」に則って策定する規制料金では、燃料費以外の調整項を設けることができず、こうした構造変化を料金に柔軟に反映することができないままだ。自由化時代における現行の規制料金制度の限界が浮き彫りになっているわけで、その存在意義も含めて抜本的に見直すタイミングが来ている。

関係者の中には、公聴会や査定といった手続きに必要な時間を踏まえれば、来年4月の改定実施は間に合わないとの観測もある。だが、健全な電力安定供給体制が維持困難な状況を放置してはならず、経産省・電力ガス取引監視等委員会には迅速で適切な審査が求められる。

【目安箱/11月25日】米中間選挙とトランプ再出馬 エネルギー政策への影響は?


米国で11月8日に連邦議会議員の中間選挙が行われ、15日にトランプ前大統領が2024年に大統領選挙の出馬を表明した。上院は多数派を民主党が占めるものの、下院は共和党が過半数以上を占めるねじれ状態に。トランプ氏が大統領選挙で勝てるかは不明だが、彼を中心に米国の政治が回っていくことは間違いない。報道とこれまでの動きからの表面的分析だが、日本ではこの問題で、あまり情報がないので整理してみたい。

◆一理ある共和党保守派のエネルギー批判

共和党保守派は2月のウクライナ戦争の後で、エネルギーを軸に、バイデン政権を批判した。

テッド・クルーズ共和党上院議員(テキサス州)は、バイデン政権の2つの過ちが、ウクライナ戦争を誘ったと、指摘している。21年に行われたアフガニスタンでの米軍の無様な撤退。そして同年にトランプ政権が課していたロシアからバルト海を通じてガスを供給するノルドストリーム2への制裁を、バイデン政権が解除したことの2つだ。

マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)は、世界最大のガス・石油の産出国であるアメリカが、自由に開発と輸出ができなくなったからプーチン大統領が利益を得て増長したと主張。バイデン政権は、オバマ政権と同じように、環境ビジネスへの投資を促すグリーン・ニューディールを掲げているため、ルビオ議員は「最大の対ロシア制裁は、今すぐ愚かなグリーン・ニューディールをやめることだ」と述べている。

2人の発言は保守系のFOX Newsで今年3月配信されているのを筆者は見たが、同趣旨の演説やTwitterを2人は繰り返している。意見への共感もかなり多い。そして、この選挙で共和党の議員は、中道派でも似た意見で、バイデン政権を批判していた。今後、こういう認識と主張が、米国で一定の割合を占めるはずだ。

トランプ氏はまだ大統領選挙の公約を発表していない。彼は大統領の在任期間中、石油、石炭産業の支援を行い、気候変動問題については懐疑論に飛び付かなかったものの、米国の雇用を守るためとしてパリ協定を脱退した。

トランプ氏はその個性の強さが注目されがちだ。しかし、その政策では、共和党が掲げるマニフェストを着実に実行したものばかりだった。エネルギー政策では特にそうだ。彼はエネルギー問題で共和党保守派の議論に乗ってくるだろう。

◆世論調査で示される米国の分断

興味深い記事を読んだ。エネルギー論客である山本隆三氏が(常葉大学名誉教授)「米中間選挙の争点−エネルギー問題が日本に与える影響」というWedge Onlineの記事で、米国での世論調査をまとめている。

「クイニピアック大学が11月2日に発表した世論調査では、最も喫緊の課題は何かとの質問に対し、36%がインフレを挙げ、次いで10%が中絶の権利を挙げているが、共和党、民主党支持者間で大きな違いがみられる。共和党支持者の57%がインフレ、15%が移民問題を挙げたのに対し、民主党支持者は中絶の権利が19%、インフレが15%となっており、関心は大きく異なっている。」(以上記事)

米国の分断が指摘されるが、こうした意識の面からも、うかがえる。経済が低迷し、インフレが米国でも顕在化している。2024年の大統領選挙と、次の連邦議会選挙に向けて、共和党はインフレと経済を中心に論戦を仕掛けるに違いない。結果として世界のエネルギー需給・価格と各国の気候変動政策も影響を受ける。

◆気候変動を巡る対立は長期化しそう

米国は、議会の立法権限が強く、それが具体的で、政府の政策を規定する。8月に民主、共和両党合意の下に成立した「インフレ抑制法」は、10年間で約3700億ドル(約55兆円)のエネルギー・気候変動関連の支出をすることを決めた。補助金、アメリカらしく税額控除で支援をする。再生可能エネルギー、小型モジュール炉、水素製造、E Vのなどが対象になる。これらの産業をアメリカの政治家は党派を問わずに、これからも支援するだろう。

ただし前出のガス、石油などの資源貿易と米国内の生産では、党派的な対立が見込まれる。また気候変動をめぐる国際交渉でも共和党は、民主党攻撃を続けそうだ。バイデン政権は2050年に温室効果ガスの純排出量ゼロを宣言している。それは不可能そうだが、その目標を下さない以上、化石燃料を抑制する政策は転換しそうにない。

前述の2人の議員の発言は誇張された面がある。米国の産油量は、連邦、各州政府の政策が影響することは確かだが、市場原理によって左右される点が大きい。その産出は3−4年前に大幅に減ったが、直近2年ほどは増加している。しかし政治では事実よりもイメージが大切だ。「バイデン政権と民主党が政策の失敗で、エネルギー価格を上げている」という主張は、共和党支持者の耳に心地良いだろうし、トランプ氏もそこを攻めてくるだろう。

日本は米国でのビジネスで収益を上げる企業は多い。また気候変動交渉では、日米が協力して結んだ国際協定を2回も米国が脱退する経験をしている。京都議定書とパリ協定(バイデン政権では復帰)だ。もちろんそれに関心を向ける世界の大きな流れは米国政府でも変えられないだろうが、微妙に影響を与えるに違いない。政府も民間も、米国の政策に縛られた行動をするのではなく、いつでも米政府の勝手な方針転換に対応できるように、柔軟な構えをしておいた方がよさそうだ。

【記者通信/11月22日】大手電力5社が月内値上げ申請へ 公取委の処分も同時期か?


大手電力会社5社が相次いで規制部門の電気料金の値上げ改定申請に踏み切る。関係筋によれば、東北電力が11月24日に申請するのを皮切りに、中国電力が25日、四国電力と沖縄電力が28日、北陸電力が30日に、それぞれ申請する見通しだ。経済産業省での査定を経て、来年4月からの実施が予想されている。

当初、東京電力も25日に申請するのではと見る向きもがあったが、産経新聞が22日付朝刊の1面で「6電力、値上げ申請へ」と報じたことに対し、東電はウェブサイトで「規制料金を含む家庭向け電気料金について、月内(11月中)に値上げ申請を行う予定はない。現在、東京電力エナジーパートナー(EP)では規制料金を含むすべての低圧の料金メニューの見直しに向けた検討を行っているところであり、値上げ幅など、具体的な見直しの内容については決まったものはない」とコメントし、報道を否定した。

これについて、事情通は「役員クラスから、東電EPが増資するタイミングで値上げ申請はどうなのか、という疑問が出たようだ」と解説。役員会などの場で改めて協議した上で、今週後半に予定される会見で、2022年度決算の通期予想とともに、料金改定に関する状況説明を行うとみられる。

カルテル処分と値上げ改定は別次元の問題か

値上げ改定とは別に、11月下旬に予想されているのが、中部、関西、中国、九州の大手電力4社の価格カルテル問題に対する公正取引委員会の処分だ。公取委は昨年4月から10月にかけて、①大手電力4社が供給区域外での法人向けの電力営業活動を巡って価格カルテルを結んだ、②中部電力と中部電力ミライズ、東邦ガスの3社が電力・ガス販売で価格カルテルを結んだ――という二つの独占禁止法違反容疑で、関係各社に立ち入り調査。それを踏まえ、近く課徴金などの処分を行う見通しだ。

もし公取委の処分が月末に出るとなると、一部の電力では値上げ申請と課徴金のタイミングが重なることに。業界関係者からは「カルテルの課徴金で世間から厳しい目が向けられる時期に、本当に値上げ改定などできるのか」との指摘も聞こえてくる。一方、別の有力関係者は「料金改定とカルテルは別次元の問題であり、たまたまタイミングが重なるというだけ。事業者から改定申請があれば、規制当局としては制度上の手続きにのっとって、粛々と手続きを進めていくはず」と話す。

いずれにしても、大手電力10社全てが通期決算予想で最終赤字を見込む厳しい情勢の中、ここに巨額の課徴金などが加われば、経営の根幹を支える資金力で決定的なダメージを受けかねない。規制当局の迅速・適正な査定を通じ、経営健全化に必要な値上げ改定を速やかに実行に移すことが、何よりも求められる。

【記者通信/11月18日】住民に暴力恫喝 北杜市の太陽光で何が起こっているのか?


「いい加減にしろ」。男性の老人が、怒鳴り、人を殴る素振りを見せ、バンと机を叩く。そして「黙ってろ」と怒鳴り、住民の資料を無理やり取り上げ、それを制止しようとした人の腹を叩く。見ている女性は悲鳴をあげる。このような衝撃的な映像が、S N Sで拡散されている。(サイト「太陽光パネルの乱立から里山を守る北杜連絡会」

これは、山梨県北杜市で行われた太陽光発電の住民説明会を映した映像だ。いったい、何が起きているのか。

◆暴力老人と事業者の素性

関係者によると、これは5月に2回、7月に1回行われた、北杜市内での住民説明会での映像だ。この老人は、営農型太陽光発電を作り、販売する東京・世田谷区にあるN社の人だ。7月の説明会では、暴力沙汰で刑事事件になっている。

北杜市では、2019年に「北杜市太陽光発電設備と自然環境の調和に関する条例」を作り、10k W以上の発電能力を持つ太陽光発電設備(屋根上等の設置を除く)では設置前に地元住民に周知を行うこと、一定の条件に基づき市が太陽光を許可することを定めている。そのために、N社は説明会を行った。

N社は現時点で、北杜市内での3カ所の太陽光発電の実施を計画している。しかし突然の計画発表で、住民は計画に懐疑的だ。最初からN社は攻撃的で、住民との対話をする姿勢がない。一連の対応をし、暴力を振るったのはN社の顧問の80歳のNという人物だ。

映像の内容を紹介する。今年5月7日の説明会では住民の参加者を選び、それに住民が抗議すると、Nは「俺が決めてんだよ、何が決めて悪いんだよ」と激昂。さらに住民に「けんか売りにきたのか。帰ってもらおう」と凄んだ。冒頭の住民に殴る姿勢を示した映像は、この時の説明会の光景だ。腹を殴られたのは同社の社員らしい。

同7月14日の説明会では、出席した北杜市議会の高見澤伸光議員が、このNに腕を掴まれ全治2週間のけがとの診断を受けた。市議は被害届を警察に出し、甲府区検察庁は10月17日に暴行罪でNを略式起訴した。11月15時点で、裁判の結果は明らかになっていない。

N社側から住民に出された資料もかなりおかしなものだ。「景観について」という文章で、同社の営農型太陽光発電は「スマートでおしゃれでかっこいい」「パネル下でお食事でもしたくなる」などと、暴力からは連想できない単語を並べている。

また高見澤市議のブログによると、このNは市役所で許可をめぐって昨年から押しかけ、騒ぎ、市職員の胸ぐらをつかむなどのこともしたという。

N社に対して11月にEメールと電話で取材を申し込んだが、電話は留守電で、メールに返事はなかった。

◆反対に一丸となれない地元、冷たい市長

山梨県北杜市は、八ヶ岳の南斜面にあり、冬でも雪が少なく日照時間が長い。そのために近年太陽光発電が急増したが、それが景観や環境を破壊し、大変な問題になっていた。ここは別荘地で、高原野菜の産地であり、国蝶とされるオオムラサキの生息地である里山が残る地域だ。

太陽光発電など再エネは2012年以来、国が補助金(再エネ賦課金制度(F I T))で設置を支援する。太陽光発電は、その開発の多くの場合に、森が切り開かれる。パネルによるぎらつきや景観の悪化、周辺環境の破壊など多くの問題が起きる。家の周りが太陽光パネルに囲まれると、資産価値は当然暴落する。設置の際には、常識的にせめて住民の合意が必要だが、これまでほとんど行われていないし、法律上の規定もなかった。太陽光発電の事業者は、計画も、小分けによる販売も含めて、北杜市内でF I Tで認定された太陽光発電施設の数2400カ所になる。その面積は不明で、全体像はどこも把握していない。F I Tの制度はかなり雑に作られており、手直ししても問題が次々と浮上している。

太陽光発電による太陽光発電の問題が顕在化する中で、21年には山林指定された地域での太陽光パネルの設置を原則禁止する山梨県条例、19年には前述の北杜市の条例が施行された。しかし再エネの優遇策が始まってから時間が過ぎ、あまりにも遅い。すでにできてしまった設備には、訴求適用はされない。

北杜市では住民が集まり、太陽光発電について意見交換を重ねるようになった。その一つの「太陽光パネルの乱立から里山を守る北杜連絡会」(里山連絡会)は、市内の要望を取りまとめ、上村英司北杜市長、北杜市、北杜市会議員に働きかけを行っている。政党や市民団体の背景はなく、地元住民による自発的なグループという。

同会代表の坂由花(ばん・ゆか)さんによれば、「せっかく北杜市の条例ができたのに、また住民から多くの疑問の声が寄せられているにもかかわらず、太陽光発電所の設置許可は安易に出てしまっているというのが実情だ」という。

同会では上村北杜市長に今年5月26日に直接面会した。上村市長は「個人の土地は個人が自由に使う権利があると思っている、それは憲法で定められているので過度な制約はかけられない」と述べた。そして里山連絡会のチラシに「北杜市でたくさん問題が起きていると思われかねない」と、やんわりと批判した。そして条例の厳格な運用に消極的だったという。北杜市の住民の権利への視点、公共の福祉の視点を重視していないように思える態度だ。

ただし、この暴力事件の後には、市は市議会で、このN社に対して、「地元との信頼がまったく回復できていないので、それについては許可の対象にならないものと考えております」と、議員の質問に答弁している。

市長の反応が示唆するように、北杜市では太陽光発電によって利益が出る人たちもいる。事業者は市外の人が大半だが、遊休地を貸す人、設置に関わる地元工務店などだ。20人の市議会議員がいるが、同会が説明しようとしても約半数がそれを断ったという。つまり北杜市全体が一丸となって、太陽光の乱開発に対応できていないのだ。

◆悪質業者の自発的排除が必要

同会の坂さんは「私たちは太陽光発電を否定はしていません。景観や安全に配慮し、地域住民の意見を聞いて事業を行ってほしいという、当たり前の願いを持っています。しかし、このN社などのように最初から対話をする意思がないどころか、暴力の恐怖を撒き散らす人たちがいます」と、悲しげに語る。住民の不安と不満は当然だ。

太陽光では日本各地で乱開発による住民トラブルが発生している。一部には反社会的勢力が、太陽光発電に参入したという噂がある。太陽光など再エネの補助金の総額は2022年度の見込みで4兆2000億円。人為的に利権が急にできた以上、怪しい人々が参入するのも当然だ。北杜市と同じような住民の困惑は、日本中で起きつつある問題だ。

北杜市は住民を守るという態度を明確にしなければならない。そして、この異様な事件では、当事者の説明が必要だ。さらに太陽光事業者全体による自主規制と悪徳業者の排除が行わなければ、再エネや太陽光事業の未来はない。

【記者通信/11月2日】函南太陽光計画の崖っぷち 町が「勧告従わず」と社名公表


本誌でもたびたび報じてきた、静岡県函南町軽井沢地区での大規模メガソーラー建設計画を巡る問題。昨年、町側が「函南町自然環境等と再生可能エネルギー発電事業者との調査に関する条例」に基づき、計画への不同意を事業者側に通知して以降、膠着状態を続けていたが、このほどようやく事態が動いた。

函南町は10月28日、再エネ条例の勧告を受けた事業者が「正当な理由なく当該勧告に従わないため」として、トーエネック、ブルーキャピタルマネジメント両社の社名を公表した。それによると、両社に対する勧告内容について次のように記している。

〈(事業者の計画の届け出に対して)町は不同意を通知し、当該不同意の事業を継続する場合には、同条例第9条第3項の規定に基づき町長の同意を取得するよう指導を行いましたが、その後、事業地の地盤調査を実施するなど、当該事業を継続していることが確認されましたので、直ちに町長の同意を取得するよう勧告を行いました〉

トーエネックが特別損失を計上 事実上の撤退か

町側の勧告を受けたトーエネックは同日、2022年度上半期決算で特別損失を発表。具体的には、「当社が計画している再生可能エネルギー事業に係る固定資産(建設仮勘定)について、事業の見通しが不透明である」として、114.9億円の特別損失を計上した。関係者が言う。

「トーエネックとしては、函南町メガソーラーを特損扱いにしたことで、事実上の撤退ということだろうが、問題はブルー社から商社T社を経由して購入したFIT認定IDの行方だ。本来であれば、認定IDは取り消されるべきところだが、T社やブルー社が買い戻す可能性も否定できない。ただ、町側が計画への不同意を掲げている以上、事業続行は極めて厳しい。一体どんな決着を見せるのか、注視している」

同計画を巡っては、静岡県でも林地開発許可の前提となる河川調査の協議で事業者の提出した書類に不備があった問題が浮上。県議会での追及が始まっている。今回の町側の対応も加わり、計画はいよいよ崖っぷちに立たされた格好だ。

【記者通信/11月2日】脱炭素先行地域第2弾で20選定 再挑戦の地域多数


環境省は11月1日、脱炭素先行地域の第2回選定結果を発表した。7月 26 日から8月 26 日まで募集が行われ、共同提案を含めて全国 53 の地方公共団体から 50 件の計画提案書が提出された。今回、新たに先行地域に選出されたのは次の20地域(カッコ内は共同提案者)だ。

①北海道 札幌市(北海道ガス、北海道熱供給公社、北海道電力、北海道大学、北海道科学技術総合振興センター)

②北海道 奥尻町(越森石油電器商会、エル電)

③岩手県 宮古市(東北大学、宮古市脱炭素先行地域づくり準備会議)

④岩手県 久慈市(久慈地域エネルギー、岩手銀行)

⑤栃木県 宇都宮市(芳賀町、宇都宮ライトパワー、NTTアノードエナジー、東京ガスネットワーク栃木支社、東京電力パワーグリッド栃木総支社、関東自動車)

⑥栃木県 那須塩原市(那須野ヶ原みらい電力、東京電力パワーグリッド栃木北支社)

⑦群馬県 上野村

⑧千葉県 千葉市(TNクロス)

⑨神奈川県 小田原市(東京電力パワーグリッド小田原支店)

⑩新潟県 関川村

⑪福井県 敦賀市(北陸電力)

⑫長野県 飯田市(中部電力)

⑬愛知県 岡崎市(愛知県、三菱自動車工業)

⑭滋賀県 湖南市(滋賀県、こなんウルトラパワー、滋賀銀行)

⑮京都府 京都市

⑯兵庫県 加西市(プライムプラネット エナジー&ソリューションズ)

⑰奈良県 三郷町(藤井会、檸檬会、奈良学園、信貴山のどか村、Daigasエナジー、地域共生エコ・エネ推進協会、日本環境技研、三郷ひまわりエナジー、大和信用金庫

⑱山口県 山口市(西日本電信電話、NTTアノードエナジー、エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所、NTTビジネスソリューションズ、山口銀行、YMFG ZONEプラニング)

⑲宮崎県 延岡市(延岡市ニュータウン脱炭素再生コンソーシアム)

⑳沖縄県 与那原町(与那原脱炭素地域づくりコンソーシアム)

提案の大半が「関係者と連携した実施体制」を反映

環境省は 2050 年カーボンニュートラル達成に向けて、25 年度までに少なくとも 100 カ所の先行地域を選定し、30 年度までに実行するとしている。4月の第1弾では26 件の先行地域が選定されており、合計で 29 道府県 66 市町村となった。

先行地域は環境省の「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」を受け、カーボンニュートラルの早期実現を目指す。環境省は同交付金について、本年度の200億円に加え来年度予算の概算要求で400億円を計上。西村明宏環境相は1日、閣議後の記者会見で「今回選定された地域の皆さまの取り組みに大いに期待する」と述べた。

今回の選定結果について評価委員会は、需要家の数・規模、提案の具体性、住民・需要家・系統側などとの合意形成がより重視されたことで、それらの程度・熟度が全体的に向上したと総括する。第1弾の後、「範囲の広がり・事業の大きさ」「関係者と連携した実施体制」「先進性・モデル性」を指摘していたが、今回の地域は第1弾の提案書などを参考にしたと思われる。

また評価委員会は、選定された提案の大半が「関係者と連携した実施体制」を反映して、地方公共団体や発電事業者、送配電事業者、地域金融機関、大学・シンクタンクなどとの共同提案であったことも特徴として挙げた。

新たに選定された20地域の多くは、前回不選定となった地方公共団体からの提案だった。先行地域は今後も年2回程度の募集と選定が予定されており、落選した地域の“三度目の正直”もありそうだ。

【記者通信/11月1日】大手電力各社が記録的な赤字予想 主要都市ガスは軒並み増益


震災などの災害時を除き、電力会社と都市ガス会社で業績の明暗がこれほど鮮明化したことがあっただろうかーー。

上半期1433億円の最終赤字で規制料金などの値上げ検討に入った東京電力


大手電力、主要都市ガス各社の2022年度上半期決算の最終損益を見ると、大手電力10社については燃料費の上昇や卸電力市場価格の高騰が影響し、四国を除く9社がいずれも大幅な赤字を計上。22年度通期の予想でも、未定の東京と九州を除く8社が3桁から4桁台の記録的な大幅赤字の見通しだ。

これに対し、主要都市ガス5社は料金における原料費調整上限の影響が少なかったことなどが奏功し、大阪ガスが米フリーポートLNG基地の火災事故の影響で最終赤字となった以外は軒並みの黒字に。年度通期では5社がいずれも黒字の見通しで、大阪を除く4社は増益を予想している。

大手電力10社の22年度赤字総額は1兆円に上るか?

大手電力10社の最終損益状況は次の通り。

上半期=北海道16億円の赤字、東北1363億円の赤字、東京1433億円の赤字、中部426億円の赤字、北陸437億円の赤字、関西763億円の赤字、中国560億円の赤字、四国89億円、九州476億円の赤字、沖縄168億円の赤字。

通期予想=北海道710億円の赤字、東北1800億円の赤字、東京(未定)、中部1300億円の赤字、北陸900億円の赤字、関西1450億円の赤字、中国1390億円の赤字、四国250億円の赤字、九州(未未定)、沖縄416億円の赤字。

主要都市ガス5社の最終損益状況は次の通り。

上半期=北海道23億円(対前年比32.5%増)、東京716億円(同161.6%増)、東邦69億円(同135.8%増)、大阪297億円の赤字、西部72億円(同39倍)。

通期予想=北海道53億円(同1.2%増)、東京1180億円(同23.3%増)、東邦160億円(同3.5%増)、大阪290億円(同77.8%減)、西部100億円。

こうした中、大手電力各社は今後予想される低圧規制料金の値上げ改定や、燃料費削減に貢献する原子力発電所の再稼働加速などをテコに、来年度の業績を最終黒字に転換することができるのか。重大な正念場を迎えている。

【特集2】都市ガス事業の歴史をひもとく 利用も競争も「全ては照明から」


明治初期、同時期に開業した鉄道と並び文明開化の象徴とみられていた「都市ガス」。国民経済にとって不可欠な重要インフラへと発展するまでの軌跡をたどる。

大阪造幣局・横浜馬車道 鉄道と同時期に開業

エネルギー源としての「ガス」の始まりは、1609年にさかのぼる。日本では徳川家康が江戸幕府を開いて間もないころ、ベルギーの科学者ヘルモントが、石炭を蒸し焼きにしてエネルギーに利用。ギリシャ語で混沌を意味する「CHAOS(カオス)」にちなんで「GAS」と名付けたのが最初とされている。

しばらくの時を経た1792年、スコットランドの技師ウイリアム・マードックが、照明用としてガス灯の開発に成功し、世界初となる「都市ガス」が誕生した。その後、欧米で都市ガス事業の研究が行われ、1812年には英国のフレデリック・ウインザーらによって、世界初の都市ガス会社「ロンドン・アンド・ウェストミンスター・コーク」が発足。15年に仏パリで、16年に米ボルチモアで、41年に豪シドニーで、それぞれ都市ガス会社が設立され、世界に広まっていた。

日本はといえば、欧米から遅れること71年(明治4年)、大阪造幣局が石炭の製造過程で発生するコークスガスを燃料に、実用的なガス灯を設置したのがそもそもの始まりだ。その前年、神奈川・横浜では、実業家の高島嘉右衛門氏が日本初のガス会社「横浜瓦斯」を設立。中国上海でガス灯整備を手掛けたフランス人のアンリ・フレグランを招きガス灯の開発を進めた。翌72年10月31日、鉄道の開業と時を同じくして横浜馬車道でガス灯数十本の運用が始まった。日本初の都市ガス事業の誕生だ。

日本初のガス事業となった横浜馬車道のガス灯

そして74年11月に神戸で、12月には東京でそれぞれ都市ガス事業が始まった。東京初のガス灯は銀座通りに設置された86本。それまで暗闇に包まれていた夜の街を一面に明るくするガス灯は文明開化の象徴となり、都市ガスの利便性が多くの庶民に知れ渡ることになった。なお、当時のガス灯1本当たりの料金は1カ月3円55銭5厘。現在価値に換算すると3万円強という高水準だった。

一方、世界では照明の革命が起きる。米国人のトーマス・エジソンが白熱電球を実用化したのだ。83年に日本初の電力会社「東京電燈」が設立され、87年から一般配電事業が始まった。当時の東京府はガス灯から電灯への切り替えを検討したが、性能上の課題がありガス灯の存続が決まったという。ガスと電気の競合も、照明分野から始まったわけだ。

活躍の場は熱利用へ 大正時代に瓦斯事業法

その後、97年から1913年(大正2年)にかけて大阪瓦斯、神戸瓦斯、名古屋瓦斯、西部瓦斯が次々と設立され、15年には全国各地で都市ガス91事業者が誕生した。他方11年に電気事業法が制定され、タングステン灯などによる照明の電化が進展。ガスは照明用から厨房や給湯などの熱源へと活躍の場を移す。調理器やストーブ、風呂釜など多彩なガス機器が登場。また工業の動力としてガスエンジンが輸入され、14年には2700台に達した。

近代日本の暮らしの発展を支えたガス機器

こうしてガス産業の礎が築かれていく中、14年~18年の第一次世界大戦を背景に物価が高騰。ガス料金は自治体との契約から1.5倍程度までしか値上げができなかったため、多くの都市ガス事業者が赤字に転落し撤退も相次いだという。どことなく現在の新電力事情を彷彿とさせるが、それはさておき、関東大震災直前の23年の帝国議会で瓦斯事業法が成立、25年に施行された。都市ガス事業は電気事業と並ぶ公益事業に位置付けられ、基幹インフラとして地域独占が認められたのだ。

昭和時代を迎え、都市ガスは順調に普及拡大を図っていく。1935年(昭和10年)には全国の需要家数が200万件へと拡大した。そんなさなかの39年、またも世界は戦争に突入する。第二次世界大戦だ。日本では前年の電力国家管理法成立を受け、日本発送電が発足。民間電力会社は地域の配電9社に再編され、電力事業は国家管理体制に組み込まれた。その波はガスにも押し寄せる。同年、ガス需給調整命令が発令され、節ガスのための統制色が強まった。

戦後復興は値上げから 天然ガス時代の幕開け

41年に太平洋戦争が始まると、日本中が軍需化の波に飲み込まれ、44年には東京ガスも軍需会社に指定。電力を参考にガス事業者も全国8ブロックに再編する方策が検討されたが、45年の敗戦で実現することはなかった。戦争を通じて都市部の多くが焦土と化したことで、全需要家数は100万件を割り込む水準にまで激減した。

そして、そこから現在の都市ガス事業へとつながる目覚ましい発展、成長が始まる。戦争終了とともに全国で順次、都市ガス供給が再開され、導管などインフラの復旧作業が急ピッチで進んだ。設備投資増大への対応から、事業者は相次いでガス料金の値上げに乗り出す。47年に日本瓦斯協会が発足、49年には需給調整が撤廃され、ここでようやく24時間の安定供給体制が確立された。

戦後の団地ブームで注目されたキッチンとガス

その後の高度成長の波に乗って、都市ガスの需要は急拡大した。当時の原料は石炭由来から石油系の改質ガスにシフトし、熱量や成分の違いによってグループ化されている特徴があった。昭和20年代後半からは、LPガスをシリンダーに充填し配送する供給方式が登場。また建設ラッシュを迎えた団地にボンベ小屋を設置して、そこから導管供給する方式も始まり、都市ガスとの無秩序な競合が激化していった。この問題を解消すべく、70年のガス事業法改正で制度化されたのが、供給地点ごとに事業を認可する簡易ガスである。

一方高度成長の影では、大気汚染をはじめとした環境問題が深刻化していた。何とか青い空を取り戻せないものか―。その解決策を導き出したのが、東京ガスと東京電力だ。69年、アラスカから日本初のLNGを輸入。これを受け、東ガスは石油系ガスからクリーンエネルギーの天然ガスへと原料を切り替え、高圧導管など供給インフラの整備に着手。その後、大阪や東邦などが相次いでLNGの導入に踏み切り、本格的な天然ガス時代が幕を開けた。

LNGの導入が都市ガスを劇的に進化させた

20年事業の高カロリー化 高度利用と自由化の時代

次なる課題は、全国の都市ガス事業者へのLNG拡大と、高カロリー化に向けたガス種の統合だった。85年に天然ガス導入促進センターが設立され、国の利子補給制度が開始。91年(平成2年)からは官民連携の下で、2010年まで約20年をかけて全事業者の熱量変更を行う一大事業「IGF21計画」がスタートした。

大都市部では地冷による熱の面的利用が加速

そしてこの間、都市ガス業界では電力業界とのし烈な競争を背景に、産業用から家庭用まで幅広い分野で利用技術の開発が加速した。GHPや吸収式冷温水器に代表される「ガス空調」、エンジンやタービンをベースに熱と電気を併給する「コージェネレーション」、それを燃料電池などを使って超小型化した「家庭用コージェネ」、潜熱回収方式によって給湯器の大幅な省エネを図った「エコジョーズ」、優れたデザイン性と同時にセンサー技術を駆使して調理機能を高性能化した「ガラストップコンロ」、ガス調理器を使いながら涼しい厨房を実現した「涼厨」など、枚挙にいとまがない。

分散型エネルギー時代を開いたガスコージェネ

その一方で、95年のガス事業法改正による大口需要部門の自由化を皮切りに、自由競争の導入を柱とした制度改革がスタート。旧通産省(現経済産業省)主導の下で、産業用から業務用へと自由化範囲は段階的に拡大され、料金制度についてもヤードスティック(比較)査定や選択約款の導入によって低廉で多様な料金メニューが登場した。「天然ガスの高度利用と自由化」が、平成時代を象徴するキーワードだ。

                                                               ◇  ◇  ◇

2011年の東日本大震災を経て、平成から令和に至る動きは誌面の都合上割愛するが、LNGを巡る50年間については本誌19年11月号の特集で詳報している。また都市ガス200年に向けた今後の展開については、本特集をご覧いただきたい。

【記者通信/10月28日】電力ガス負担軽減策が決定 本格値上げへの露払いに


政府・与党は10月28日、物価高対策などを盛り込んだ「新たな総合経済対策」を閣議決定した。2022年度第2次補正予算案の一般会計29.1兆円を財源に、地方支出や財政投融資を含めた財政支出総額は39兆円規模に達する。最大の焦点である電気・ガス料金の負担軽減策については、標準家庭で月平均3000円前後の補助を見込んでおり、早ければ来年1月から実施する。この対策に歩調を合わせるかのように、北陸電力は27日、規制部門を含めた全ての電気料金を来年4月に改定する方針を発表。翌28日には、東北電力が規制料金の値上げ申請に向けた準備を、四国電力も規制料金の値上げ検討を、それぞれ表明した。既に値上げ検討に着手している中国電力を含め、大手電力各社による規制料金の値上げが来年4月以降相次ぐ見通しだ。エネルギー関係者の間では「今回の負担軽減策が、電力本格値上げへの露払い的な役割を担うことになりそう」と見る向きも。SMBC日興証券の宮前耕也・シニアエコノミストは「来年 1 月に(物価の)伸び率が急縮小しても、4 月 に本格改定値上げで伸び率が急拡大する可能性が出てきた。消費者マインドが一旦改善した後、再び悪化する可能性がある」と指摘。来年9月以降の出口戦略をどう描くも含め、課題山積の状況だ。

総合経済対策によると、まず電気料金の負担軽減策については「来年度初頭にも想定される電気料金の上昇による平均的な料金引き上げ額を実質的に肩代わりする額を支援し、企業より手厚い支援とする」として、低圧契約の家庭用で㎾時当たり7円を補助。これは現行の電気料金の2割程度に相当するもので、標準家庭だと月平均2000円程度の負担軽減になる。高圧契約の企業などに対しては、「FIT賦課金の負担を実質的に肩代わりする金額(1kWh当たり3.5円)の支援を行う」とした。「来年春に先駆けて着手し1月以降の可及的速やかなタイミングでの開始を目指す」という。一方、都市ガスについては「電気とのバランスを勘案した適切な措置を講ずる」として、1㎥当たり30円を支援する。標準家庭で月平均1000円程度の補助だ。

「金額少なく期待外れ」「一律の給付金を」の声

この負担軽減策について、宮前氏は「今般の負担軽減策は、来年春の電力会社や都市ガス会社による本格改定値上げに備えたものであるため、見方を変えれば、本格改定値上げが実施される確度が高まったとも言える」と指摘する。現在、北陸電力が来年4月からの規制料金の値上げを発表し、中国電力、東北電力、四国電力の3社が規制料金の値上げ改定に向けた検討や準備を表明しているが、経済産業省の関係者によれば「大幅赤字が予想される他の大手電力会社も追随する可能性が高い」。そうした情勢を見越しての支援策という位置づけが総合対策に明記されたことは、電力会社にとっては朗報といえよう。

ただ、標準家庭で月平均3000円前後の支援を巡っては、需要家から「岸田首相が『前例のない思い切った対策』とぶち上げたわりには、金額が少ない。正直、期待外れ」「都市ガスではなく、LPガスを使っているので、ガス料金がバカ高いにもかかわらず、ガス代での恩恵を受けられない。各家庭一律の給付金にしてほしい」といった声が聞こえている。総合経済対策は、LPガスについて「価格上昇抑制に資する配送合理化等の措置を講じる」と記すのみで、需要家への支援を見送った格好だ。経産省は「LPガスの原料費はLNGほど上昇していないため」としているが、LPガス原料の都市ガス事業者や簡易ガス事業者の需要家支援はどうなるのか、現時点でははっきりとしていない。また電力についても、再生可能エネルギー100%電気や卸電力市場連動型の料金メニューの利用者はどうなるのかなど、課題も多い。

岸田政権が狙うは支持率の回復だが・・・

大手シンクタンクによると、電気・ガス料金対策で、今後1年間で必要となる財政支出は約4兆円に上る。ガソリンなど石油燃料の補助金と合わせれば、10兆円規模だ。しかし、これほどの政策資金を投入したところで、消費者が物価抑制効果を実感できるかは不透明。前出の宮前氏は「来年 1 月に負担軽減策で電気代・都市ガス代が大幅に引き下げられても、4 月には大幅に引き上げられ、乱高下する可能性が高そうだ。負担軽減策がない場合と比べて、家計や企業の負担は軽くなるが、 価格水準が乱高下する影響 には注意すべき」だと警鐘を鳴らす。

自民党関係者によれば、「今回の総合経済対策で政権が狙っているのは、旧統一教会問題で低迷する支持率の回復」だという。しかし需要家からは支援額の水準や対象への不満が高まっており、思惑通りになるかは極めて微妙だ。先行実施された石油燃料補助金の費用対効果が疑問視される中、一連のエネルギー高騰対策の出口戦略をどう描くかも含め、岸田政権は難しいかじ取りを迫られそうだ。

【目安箱/10月24日】エネルギー広報のテーマに「産業遺産」は?


◆歴史は常に人気のコンテンツ

コンテンツ産業の人と話すと、「歴史」はテーマとして常に注目するという。歴史好きな人が各年代に性別を問わず多くいて反響が大きく、書籍、雑貨、映像、ネットなど同じ素材をさまざまな形で提供でき、課金できる可能性があるためだ。

産業遺産情報センター(東京・新宿区)

歴史では政治史だけではなく、社会、経済、文化などを学際的に横に見ることが流行している。その中で、産業史が注目され始めた。エネルギー産業の広報や社会貢献の取り組みで、この流れを使うことができないだろうか。産業遺産情報センター(東京・新宿区)を訪問して考えた。

2015年7月にユネスコの世界遺産委員会において、「明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産として登録された。製鉄・製鋼、造船、石炭の分野で、全国23ヶ所、8県11市にまたがるものだ。その情報発信の拠点として同センターが2020年6月に開所した。

◆産業は明治維新と富国強兵の隠れた主役

日本は明治維新をきっかけに政府の力によって、近代化が成し遂げられたという印象がある。それは事実ではあるが一面で、民間と各地方の底力によって産業が成長し国が発展できた。このセンターの展示ではそれがよく分かった。

迫力のあるV R(仮想現実)による端島炭坑の映像。見せ方に工夫を凝らしていた

製鉄、造船、石炭の各産業は、江戸時代後期から各藩、また民間が行っていた。岩手や北九州では製鉄業が発展し、それに伴って高温の炉を運用するために、石炭産業が勃興した。鹿児島(薩摩藩)、佐賀(肥前藩)、山口(長州藩)という明治維新を牽引した西日本の雄藩では、海外から刺激を受け、自発的に造船業を作り出していた。

展示は、映像、V R(仮想現実)、また写真が活用されていた。映像と印刷技術の進歩で、迫力のある美しいものだった。製鉄、造船、石炭の各産業は設備の規模が大きいので、産業遺産も見栄えのあるものとなっていた。ボランティアの説明がついたが、どの方も熱心で博学で、聞きがいがあった。

さらに石炭産業は日本でほぼなくなったが、造船や製鉄は一時世界トップの生産量となり、今でも重要な産業として各地域に残っている。各自治体も、産業遺産を活かした観光、広報、講演会などを行っていた。産業遺産は、コンテンツとして魅力的で、さまざまな楽しみ方、活用方法があることも理解できた。

◆政治問題に企業は関わりづらい−軍艦島の難しい例

しかし、このセンターへの訪問で、産業遺産に伴う難しい問題が見えた。ここは「外交戦」「歴史戦」の舞台になっていた。

端島(軍艦島)展示コーナーのかつての居住者の人たちの写真と、居住者のボランティア。故郷への誹謗を解消しようと熱心に説明していただいた

上記の産業遺産に「軍艦島」と呼ばれた石炭採掘場だった端島炭坑(長崎市)が加えられた。ここは明治期から三菱財閥が購入し、島から海底に伸びるトンネルで、石炭採掘事業を明治初期から1974年まで行っていた。古い建物が廃墟のように残り、観光名所になっている。

ところが、韓国から「軍艦島で、強制的に徴用された朝鮮人労働者が奴隷の如く働かされた」という批判が行われた。同国政府はユネスコに抗議を今でも繰り返している。それは誤りだ。

展示ゾーンの一部は、この軍艦島についてのものだ。当時の島民の証言が集められている。中には朝鮮出身者の声もある。終戦前後には朝鮮人には日本人と同じ高い給金が与えられ、待遇に差別なく、一緒に仲良く暮らしていたという内容の証言ばかりだ。当時の端島にいた島民の方がここにボランティアとして詰めて、説明もしている。ところが韓国は、そうした記録を全く受け止めず、被害を受けたという主張を執拗に続けている。このセンターにも韓国の反日団体、そして日本の同調者が何度もやってきて抗議をし、ユネスコにまで訴えて展示内容を彼らのいう通りにせよと圧力をかけているという。

もちろん日本人として、こうした韓国の動きは不快だ。誤りならば反論するのは当然で、この施設が設けられたのは適切なことだ。このセンターは安倍政権時代に、「歴史戦」の必要性を訴えた安倍晋三首相の政治判断で作られたという。ただし、企業や政府が、そうした外交戦、歴史戦の矢面に立つのはためらいがあるようだ。

この施設は一般財団法人の産業遺産国民会議が運営し、施設は国が貸し出している。ところが政府側に熱心さを感じない。このセンターは、観光名所や博物館の集まる都心から離れた東京都新宿区若松町にあり、既存の政府の古い建物を使っていた。玄関は、主要通路から外れた路地裏の道から入る場所にあった。休日は休みで、コロナを名目に入館制限をしている。他の国営の博物館は休日に開館しコロナの制限も撤廃しているのに、おかしな話だ。

ユネスコ関係の対外広報は外務省、施設運営は内閣府・総務省、観光は国土交通省が関わっているようだが、各役所は存在を明確に示していなかった。故・安倍氏が首相として指示をしても、現場の役人たちはこのセンターを目立たせないように設置し、そして自らの責任逃れをしているのかもしれない。

軍艦島の石炭事業は三菱合名、その後に三菱鉱業に受け継がれ、閉山後は事業の後始末は、三菱マテリアルに受け継がれた。この展示では、同社や三菱グループは、資料提供以外に積極的に協力していなかった。筆者の推測だが、政治問題に巻き込まれることを嫌がり、消極的な関係にとどめたのかもしれない。役人が事なかれ主義に逃げることは批判されるべきだが、企業が消極的になることは理解できる。

◆エネルギーは産業遺産の宝庫

産業遺産情報センターの展示を見ながら、エネルギー業界の広報を考えた。

エネルギー業界の多くの会社が、企業博物館を運営している。この業界は真面目な社風の会社ばかりで、どの博物館も企業の歴史を丹念に広報している。しかしそれは個社の視点にとどまり、日本の歴史、地域社会の発展と企業の関わりを説明する大きな視点を組み入れたものは少ないように思う。

また2011年の東京電力の福島原発事故前まで、電力各社は原子力広報に力を入れ、専用の巨大なP R館を作っていた。そこでは原子力の安全を訴えていたが、歴史の視点は少なかったように思う。

産業遺産がブームだ。エネルギー産業は、明治に起源を発する古い企業が多く、地域の発展、人々の生活、国の歴史と密接に関わってきた。エネルギーインフラには歴史を感じさせる古いものがあり、巨大であり、見栄えがする。例えば電力会社のダムや発電施設、ガス、石油の精製施設は、その巨大さゆえに、多くの人に珍しく、また圧倒されるものだ。

各企業はこれまでも考えてきただろうが、歴史との関係を活用して企業広報をしてはどうか。その歴史を考える際に、企業の歴史だけを訴えるのではなく、日本全体や地域の歴史と絡め、リアルの観光と連動することで、新しい形のP R、企業広報が行えるように思える。産業遺産の側面を強調するのだ。露骨な企業を前面に出した広報は今では嫌われる。歴史を使いながら、各企業が行ってきた社会貢献を、さりげなく世の中に伝えて、印象を改善するのだ。各地域は観光に力を入れており、産業遺産の公開をすることで地域社会との交流も行いやすい。

ただし石炭の歴史に沈黙してしまった三菱マテリアル、三菱グループのように、歴史問題で政治や外交という難しい問題に巻き込まれてしまうかもしれない。