【特集2】全国に1390カ所の発電所 再エネ自給率100%を目指す


イオングループの中核企業としてショッピングモールを展開するイオンモール。
電力需要は膨大であり、非常に高い再エネ導入目標を掲げている。

【インタビュー】渡邊博史/イオンモール 地域サステナビリティ推進室長、イオン 地域サステナビリティ推進担当リーダー

―太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入で高い目標を設定していますね。

渡邊 イオンモールは2025年に実質再エネ100%を目標に掲げています。と同時に再エネの「自給率」を25年に20%、30年に45%、40年に100%という「地域での自給自足」を目指しています。

―具体的な取り組みを教えてください。

渡邊 イオンモールの電力需要は年間約14億kW時(直営モール)です。イオンモールの敷地内に太陽光パネルを敷き詰めただけでは2~3割しか賄えません。そこで22年9月から「イオンモールまちの発電所」の取り組みを進めています。自己託送方式による低圧・分散型太陽光発電のオフサイトコーポレートPPAです。全国各地に1390カ所の発電所を持ち、再エネ自給率は23年に10%となりました。

強みとしては、需要が大きいことから価格交渉や技術面でスケールメリットがあることです。一方で、各送配電事業者とのやり取りは複雑で苦労しています。

―ほかにはどのような特徴がありますか。

渡邊 地域完結にこだわっていることです。イオンモールが存在する地域で発電することで雇用が生まれ、地域経済の発展につながります。地産地消を目指し、旧一般電気事業者のエリアを一つの単位として地域間融通は行いません。

われわれの最大目標は「お客さまの幸せ」です。住んでいる地域が脱炭素を実現するポテンシャルを秘めていることを知り、行動してもらうことが、その目標に直結すると考えています。地産地消の再エネ自給自足を目指すことは、あくまで手段に過ぎません。


EVを「動く蓄電池」として 脱炭素が経営に与える影響


―「お客さまの行動」という点ではV2H(ビークル・トゥ・ホーム)を進化させた「V2AEON MALL」サービスも画期的な取り組みだと思います。

渡邊 家庭で発電した余剰電力を電気自動車(EV)からイオンモールに放電していただくと、その行動に対してポイントを進呈します。23年5月、関西地区の3店舗で開始しました。イオンモールは国内で1842基のEV充電器を設置しています。社会実装研究として東京大学とも連携しており、今後もお客さまの環境意識を行動につなげるサポートができればと考えています。

―イオンモールの野心的な取り組みの背景には何があるのでしょうか。

渡邊 一つは中長期的観点から炭素税などのカーボンプライシングを想定した場合、電気料金が経営に大きなインパクトを与える可能性があることです。もう一つはサステナビリティを目指した取り組みを早急に行わなければ、企業として誰からも選択されなくなるという危機感です。

たなべ・ひろふみ イオンモール 地域サステナビリティ推進室長/イオン 地域サステナビリティ推進担当リーダー

【特集1】価格補助は恩恵を実感できず 需要家への直接給付が必要


減税やエネルギー補助金の延長を盛り込んだ政府の経済対策だが、より効果的な施策はないのか。
与野党の政策担当者と論戦を繰り広げる日本維新の会・音喜多政調会長に聞いた。

【インタビュー:音喜多 駿/参議院議員 日本維新の会 政調会長】

―政府が打ち出した経済対策の評価は。

音喜多 需給ギャップが解消に向かい、生鮮食品を除く全国消費者物価指数(コアCPI)は3%を超えて推移し続けました。こうした状況下では、インフレ圧力となるバラマキ型の需要喚起策ではなく、物価高対策と生活困窮者支援に絞った対策を行うべきです。

私たちは「集めて配るのではなく、そもそも集めない」経済対策を提案してきました。その点からは、物価高対策の目玉とされる減税(所得税3万円、住民税1万円)の方向性は評価します。しかし、その手法には賛成できません。1年限りであれば効果は疑わしく、防衛増税に備えて貯蓄に回る可能性があるからです。

―日本維新の会は社会保険料の減免を提言しています。

音喜多 低所得者層や現役世代にとって、最も負担となっているのは社会保険料です。低所得者層は5割、それ以外は3割減免すれば、国民の方々に可処分所得の増加を実感していただけるでしょう。短期的な物価高対策としては最適で、中期的にはわが国が避けて通れない社会保険制度改革の議論へとつなげられます。

また日本経済は各種指標が上昇しているとはいえ、設備投資や個人消費など内需は依然として弱いままです。消費税は来年度予算で8%へと減税し、軽減税率は廃止すべきです。

原発再稼働へ政治が全力を 成長のための構造改革

―エネルギー補助金の延長についてはどう考えますか。

音喜多 補助金ではなく、一般家庭なら月3000円程度のエネルギー手当など需要家への直接給付を行うべきでした。補助金制度では国民が恩恵を実感しづらいばかりか、事業者は「中抜き」を懸念されるなど、双方にとってあまりメリットがありません。

ガソリン料金では、道路財源の不足を理由に上乗せられた暫定税率の廃止が最優先でしょう。電気については、政府に提出した提言書でも取り上げましたが、原子力発電所を早期に再稼働させるべきです。政府も物価高対策に「数十基の原発の再稼働」を盛り込んでいますが、2012年に大飯原発が政治主導で再稼働したように、もう一歩踏み込んでほしい。原子力規制委員会の審査効率化や立地自治体の同意獲得のため、政治家がやるべきことはまだあります。

―供給力強化についての考えを教えてください。

音喜多 ここ数年、GX(グリーントランスフォーメーション)関連の基金などが増えましたが、補助金をばらまく自民党的なやり方が経済成長につながるかは疑問です。できる限り市場に任せ、あるべきところに資金が集まるルールづくりを行うのが政府の役割でしょう。経済成長のためには、生産性の向上と労働市場の流動化が不可欠です。前者ではライドシェアや農業への法人参入など、後者では「解雇の金銭解決」の法制化といった大胆な構造改革を行わなければ経済成長は実現しません。

おときた・しゅん 1983年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。都議を経て19年の参議院議員選挙で初当選。21年11月から現職。

【特集1/座談会】 エネルギー政策の往古来今 安定供給こそ国益の源泉


オイルショックから50年、世界のエネルギー情勢は激変した。
電力政策は再び安定供給の課題を突き付けられている。

【出席者】

鈴木淳司 総務大臣 衆議院議員
十市 勉 元日本エネルギー経済研究所首席研究員
中井修一 電力ジャーナリスト
大場紀章 ポスト石油戦略研究所代表

左上から時計回りに、中井氏、鈴木氏、十市氏、大場氏

中井 10月で1973年の第一次オイルショックから50年となります。日本は翌年には、戦後初めてマイナス成長を記録し、高度経済成長は終焉を迎えました。78年には第二次オイルショックが発生したものの、これを克服して90年代の入り口まで安定成長を続け、この間、エネルギー政策は大きく転換していきました。オイルショックは時代のターニングポイントになったと言えますが、一方で「過去の出来事」と冷めた見方もあります。改めてオイルショックとは何だったのか、ご意見を伺わせてください。

十市 戦後の高度成長を支えた大きな要因は、中東からの石油供給でした。73年、日本の一次エネルギー源の約8割が石油です。ところが、二度のオイルショックで原油価格は十数倍に跳ね上がり、日本経済にとてつもないインパクトを与えました。

鈴木 当時、私は中学生でしたが、これは大変なことが起きたと思いました。まさに『油断』(堺屋太一の小説)―油が断たれた状況で、日本経済はどうなるのかと不安になったのを覚えています。

十市 日本人はオイルショックで「エネルギー安全保障」の重要性に気づき、「脱石油」がエネルギー政策の一丁目一番地になりました。この目標を実現するため、省エネルギー法や石油備蓄法、石油代替エネルギー促進法などが整備され、73年7月に発足したばかりの資源エネルギー庁が、規制と支援を組み合わせた政策を断行したのです。

 その結果、2010年の電源構成比は、石油火力9%、LNG火力29%、石炭火力28%、原子力25%、再生可能エネルギー9%となり、大部分が非石油燃料と原子力に置き変わった。官民の協調により、脱石油は成功したと言えるでしょう。

大場 今日のさまざまな国際的秩序も、オイルショックに端を発しています。74年に国際エネルギー機関(IEA)が設立され、79年には第二次オイルショックへの対応を協議するため、先進7カ国(G7)へとつながる先進国首脳会議(東京サミット)が開催されました。日本は当時、世界第二位の石油消費国だったこともあり、この枠組みに組み込まれたのです。

トイレットペ―パーの買い占めが発生した 提供:毎日新聞社/時事通信フォト

【特集1】「原発回帰」は必然の展開 新増設に時間的猶予なし


インタビュー:遠藤典子 慶應義塾大学 特任教授

岸田政権は「GX基本方針」で次世代革新炉への建て替えなど原子力の活用を掲げた。
しかし、国内のサプライチェーン維持のために残された時間はわずかだ。

―オイルショック後の原子力政策を振り返ってください。

遠藤 オイルショック後、「脱石油」を合言葉に、エネルギー源の多様化を求めて政策の方向性が変わりました。その一翼を担うべく原子力の重要性が高まり、導入促進の契機となったのです。その後、海外では1979年に米国スリーマイル原発で、86年にソ連チェルノブイリ原発で重大な事故が発生。国内でも、95年の高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏洩事故、99年の東海村ウラン加工工場での臨界事故があり、世論の逆風にさらされた時期もありました。それでも97年には「京都議定書」が採択され、原子力はクリーンなエネルギーとして注目を集めました。民主党政権下の2010年に策定された第三次エネルギー基本計画では、30年に電源構成比率の50%超を目指すと明記されたほどです。

 しかしながら、11年に福島第一原発事故が発生し、政策転換を余儀なくされました。電源構成から原子力が抜け落ちたことで石炭火力など化石電源への依存度が高まるなど、エネルギーミックスはバランスを欠いています。

―3・11後、原子力政策が長く停滞した要因は?

遠藤 福島第一原発事故は、帰宅困難区域を生んだり、風評被害をもたらすなど、立地地域周辺に甚大な被害を及ぼしました。また、賠償の一部を託送料金への上乗せで回収するなど、国民にも経済的な負担を負わせました。こうした中、今後も原子力を活用するべきなのか、議論がはばかられる状況が続きました。そのため、政治が再稼働や新増設・建て替えの判断に踏み込めなかったことは、仕方がない面があります。

 しかし、ロシアによるウクライナ侵略など、エネルギー安全保障の重要性に直面する中、ようやく現実的な議論ができる土壌が整ってきました。

イノベーションに必要不可欠 サプライチェーン維持の瀬戸際

―原子力の活用へとかじを切った岸田政権の動きをどう評価しますか。

遠藤 資源小国である日本はエネルギー安全保障において脆弱な立場で、自前のエネルギー源は再生可能エネルギーか原子力しかありません。ただ再エネはサプライチェーンの中国依存度が高い、発電効率が相対的に低い、などの問題を抱えています。一方で、原子力はベースロード電源であり、サプライチェーンは日本で完結でき、発電効率が高い。原子力なしで脱炭素を達成することは不可能です。やや時間はかかりましたが、政府の方針転換は高く評価しています。

【特集2】津波・水害対策の新手法 小規模タンクの漂流を防ぐ


【東電設計】

津波・水害対策の「抜け穴」をふさぐ可能性を秘めた工法を東電設計が開発した。

現在、プラントや漁港に設置されている小規模(500㎘未満)の危険物タンクが、津波・水害対策の抜け穴となっている。というのも、小規模タンクには設計時に津波対策などの法的規制がなく、対策を施していない設備が多いからだ。危険物タンクが流されれば、火災などの二次災害につながりかねない。実際に2011年の東日本大震災では、気仙沼市などで燃料タンク19基が漂流した。

小規模タンクの津波・水害対策については、これまでの研究や特許でもいくつかの提案はあった。だが、コストや実現可能性が原因で普及しなかった。背景には漁業組合などの事業者が「津波で漂流する」という低頻度災害に対して、コストをかける余裕がないという事情もあるようだ。

基礎とタンクを「面」で固定 種子島で初の社会実装

危険物タンクが流されるリスクを抑えるため、効果的な津波・水害対策を低コストで実現できないか―。東電設計は消防庁のガイドライン策定に合わせて二つの工法での対策を提案。その工法を盛り込んだガイドラインが、22年3月に公表された。

対策工法1は、タンクと基礎を炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で、隙間なく「面的」に固定するものだ。これまでタンクと基礎をボルトで固定する工法はあったが、これでは応力がボルト固定部の「点」に集中してしまう。だが、CFRPで面的に固定することで応力を分散。またタンクと基礎の隙間が埋まるため、水が侵入するのを防ぎ、タンク底面の浮力を殺すことができる。白羽の矢が立ったCFRPは構造物に接着硬化する溶接不要のシートで、危険物を保管している性質上、溶接不要という特徴は施工時の安全性にも寄与している。

対策工法2もCFRPを用いる。タンクの側板中間段にワイヤーを接続するための接続孔を溶接したプレートをCFRPで固定し(タンクの中心付近にプレートを付け、CFRPで巻いた状態)、防油堤内に設けられたアンカーと接続孔をワイヤーで緊結固定する。ワイヤーとタンクが「面」でつながる状態となり、応力集中を回避できる仕組みだ。対策工法1と異なり、基礎の形状を問わず施工できるのがポイントとなっている。

二つの工法について、神奈川県の港湾空港技術研究所で津波実験を実施。波が当たってもタンクが動かず、CFRPも大きく乖離しないことを確認した。

8月には鹿児島県・種子島の油槽所(90㎘のガソリンタンク)で、対策工法1を用いた工事を完了。社会実装の第1号となった。開発を担当したLNGエンジニアリング第二グループマネージャーの保延宏行氏は「特に対策工法1は、CFRPを巻くだけで津波・水害対策になる。日本はもちろん、島しょ国などにも広がってほしい」と期待を寄せる。

東電設計が考案した工法が、ほぼ手付かずだった小規模タンクの津波・水害対策の救世主となるかもしれない。

対策工法1の社会実装1号

【特集1】値上げは粛々と速やかに!? ガス・水道・鉄道の料金事情


首相や消費者庁の介入により、大きくクローズアップされた電力規制料金の値上げ。
公益サービス維持のために求められるのは、電力だけを特別扱いしないことだ。

電力規制料金の値上げが規制当局による厳しい査定を受ける一方で、粛々と実施されているのが、ガスや水道料金、鉄道運賃などの値上げだ。同じ公共料金なのに、この違いは一体何なのか。

「健全経営」の都市ガス 水道料金7千円時代へ

まず都市ガスについては、2017年の全面自由化以降、21年10月に大手事業者に課せられていた経過措置料金規制が解除。電力の規制料金と異なり、審査や公聴会を実施せず、自由に料金を設定できるようになった。この後、昨年2月にロシアがウクライナに侵攻し、原料費が高騰。東京ガスなどガス事業者は原料費調整条項の上限を廃止、もしくは自主的に引き上げ、資源高騰による直接的な影響を回避することができた。この効果は、電力が総崩れした22年度決算で軒並みの大幅黒字という形で顕著に表れている。

料金の算定方法は電力と同じ総括原価方式だが、都市ガスは原価構成が単純だ。原料のほとんどはLNGで、原油価格と連動する長期契約が中心となっている。総原価では原料費が大半を占めるため、LNG価格の変動が、そのままガス料金の改定圧力となる。

一方、自治体が運営する水道料金に関しては、値下げ要因がほぼない。実際、全国に約1200ある事業者のうち、17~22年までの5年間で値下げ実施したのは、わずか36事業者。片や値上げを行ったのは274事業者に上る。

算定方法はやはり総括原価方式だが、基本的に国による審査プロセスはない。地方公共団体が検討を行い、給水条例を改正する形式だ。審議会などに諮り外部の意見を仰ぐが、関係者によれば「値上げはスムーズに実行されることが多い」という。主な値上げ理由は、人口が減少する中で浄水場や水道管の老朽化が進んでおり、設備の維持・更新のためには相応の費用負担が発生することだ。

値上げ不可避という現実を前に、国も環境づくりに動き出した。18年に実施された水道法改正では、料金について規定する第14条に「適正な原価に照らし、〝健全な経営を確保することができる〟公正妥当なものでなければならない」という一文(強調部)が加えられた。公益サービスの維持のための健全経営の必要性を法律で示したのだ。

3月には厚生労働省が将来の水道料金の試算結果を初めて公表。投資規模の違いなど三つのパターンで推計しているが、いずれも60年の1カ月の平均料金(一世帯当たり)は6000~7500円程度と約2倍になっている。

特筆すべきは、内々価格差が電気と比べ物にならないことだ。EY新日本などがまとめた「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?(2021版)」によると、18年度に20㎡利用時で基本料金が最も低いのは、長野県下諏訪町で750円。これに対し、最も高い北海道夕張市は6841円となっており、内々価格差は約9倍に及ぶ。電力規制料金の内々価格差は2倍弱だから、その違いは一目瞭然だ。同資料では、43年の夕張市の基本料金が衝撃の2万8956円と推計されており、今後も内々価格差は拡大するとみられる。

【特集1】文献調査を受け入れた寿都・神恵内 貴重な「2年」が遺したもの


寿都町と神恵内村で文献調査が実施されてから約2年半がたとうとしている。
現地を訪れると、真剣に「まちの将来」を考える住民の姿があった。

岸田政権が原子力政策の大転換を打ち出そうとしていた昨年末、バックエンド事業は一つの区切りを迎えた。北海道寿都町と神恵内村で実施されていた高レベル放射性廃棄物(HLW)の最終処分場選定に向けた文献調査期間の目安とされる2年間を終えたのだ。2年間の貴重な経験は、いったい何を遺したのか―。

熱心に村おこしを議論 ふるさと納税が急増

新千歳空港から電車とバスを乗り継ぎ4時間半。積丹半島西部に位置する神恵内村に入った。バスを降りると、静けさの中に波の音だけが響きわたり、曲線を描く海岸線が美しい。そんな海岸線を望む高台の民宿「きのえ荘」で、地元で水揚げされたおいしいナマコとサクラマスを食す。神恵内村ではこのほか、ホッケやカレイ、ホタテ、ウニなどが獲れる。

神恵内村の課題は、品質は確かなこれらの特産品をどう売っていくかだ。〝外貨〟を獲得すべく、ブランド力を高めて札幌やニセコに販路を開拓できないか―。そこで神恵内村は2017年、隣接する泊村・岩内町と連携し、地域商社キットブルーを設立した。同社の大塚英治社長は、神恵内を活性化させるには、村民がビジネスマインドを持つこと=意識改革が必要だと説く。

さて、きのえ荘の女将は〝生粋の地元っ子〟という池本美紀さん。村おこしに熱心で、NUMOが運営する「対話の場」にも積極的に参加した。

自分の住む村が文献調査を受け入れたことで、「核燃料サイクルはもちろん、日本のエネルギー政策を主体的に考えるようになった」と振り返る。だが、池本さんが感じた変化はそれだけではない。村民が「村の将来を真剣に考えるようになった」というのだ。

民宿「きのえ荘」から臨む景色

神恵内村の企画振興課長・高田徹さんは、対話の場を「すごくいい場所」と表現する。村民が最終処分場の受け入れの是非だけではなく、村おこしについても熱心に議論しているといい、大塚社長の言う「意識改革」が始まっているようだ。

文献調査を受け入れて間もない頃は、多くの抗議の手紙や電話が来たが、商工会や漁業協同組合に調査したところ、風評被害はほとんどなかった。それどころか、「神恵内村を応援します」という励ましの電話やふるさと納税も多く届いたという。

19年度まで100万円に届かなかったふるさと納税額は、21年度に513万6000円、今年度は約1200万円(昨年12月時点)にまで増えた。「文献調査を受け入れたことがキッカケとなり、さまざまなことが好転している」(高田さん)

【特集1】ハードル高い概要調査への移行 受け入れ難い根拠なき反対


寿都町、神恵内村では概要調査への移行が注目されるが、北海道内には批判的な声も多い。
地層処分が科学・工学に基づく事業であり、正しいプロセスを踏んでいることを主張すべきだ。

井川 陽次郎
元読売新聞論説委員/工房YOKIA代表

石川和男
社会保障経済研究所代表

左・井川氏、右・石川氏

――北海道寿都町と神恵内村で文献調査が開始されてから、目安となる2年が経過しました。石川さんは両町村の地域振興アドバイザーを務めているので、何度も現地に足を運んでいます。

石川 文献調査の期間は、NUMOが地元の皆さんと交流して、処分事業について理解を深めてもらう時間です。調査が始まってから、NUMOは現地に職員を常駐させ、首長から一般住民まで多くの方々と交流してきました。地元の皆さんと密接な関係を構築できた点で、有意義な2年間だったと思います。

明らかに減った処分事業への抵抗感 概要調査を受け入れる雰囲気も

――地元で理解は深まりましたか。

石川 文献調査を受け入れた当初は「危険」「後戻りできない」というイメージが先行して、処分場がすぐに建設されると思っていた人もいました。最終処分場という言葉に拒絶反応もあった。ところが、この2年間で明らかに抵抗感が少なくなりました。それは寿都町、神恵内村に限りません。道全体の中でも理解を示してくれる人が増えています。

――今後は概要調査への移行に注目が多く集まります。

石川 これからは地元議会の同意や知事の意見など、さまざまなプロセスがあります。さらに精密調査まで考えると、マラソンに例えればまだ5㎞進んだくらいです。ですから軽々しくは言えませんが、両町村には次のステップを受け入れる雰囲気がある気がします。

井川 ただ残念なのは、最終処分について全国的な議論の広がりがなかった点です。NUMOによる「対話の場」も、現地でどういう議論が行われているのか伝わってこなかった。

――井川さんはマスコミOBです。文献調査については中立・公正な報道が行われたか疑わしい。メディアの報道をどう見ていましたか。

井川 もともと北海道のメディアは反政府的な色彩が強い。北海道新聞をはじめ地元メディアには反対寄りの報道が多く、「概要調査に進ませない」ムードをつくり出していた。

石川 でも、マスコミがネガティブキャンペーンを行うのは分かり切っていることです。人間はネガティブな情報が好きで、ワイドショーでも結婚の話題は数分なのに不倫や離婚はずっと取り上げている。処分事業について理解が進んでいるという「良い」事実にはニュース価値がありません。対話の場で建設的な議論が行われたり、地域振興策が話し合われている様子も、メディアからすれば画にならない。

【特集1】石炭調達・利用政策の展望 いずれは新たな安定状態に


インタビュー:羽田由美子/資源エネルギー庁 資源・燃料部 石炭課長

昨年顕在化した石炭市場の変貌を、政策当局はどう捉えているのか。
石炭調達や利用政策の展望を、資源エネルギー庁の羽田石炭課長に聞いた。

はた・ゆみこ 1999年東京大学理学系研究科修士課程修了、通商産業省(当時)入省。内閣広報室国際広報室企画官、原子力発電所事故収束対応調整官、資源循環経済課長などを経て2022年7月から現職。

―2022年の石炭市場の変化をどのように受け止めていますか。
羽田 石炭は低廉で地政学的リスクが比較的低い資源であることが特徴の一つですが、日本を含むG7(先進7カ国)各国がロシア炭輸入のフェーズアウトや禁止を決め、22年末には価格が前年同期比約2倍に高騰するなど、市場環境が短期間で劇的に変わってしまいました。いずれ新しい安定状態を迎え価格は落ち着くと考えられますが、それまでの間は、影響が出ている産業分野の動向をしっかりと注視し対応していきます。

―ロシアから輸入していた企業にとって、調達先を変えることは容易ではありません。
羽田 調達先を切り替えるにあたり、石炭の保管施設(バース)の仕様を変える必要がある場合、サプライチェーンが遮断されることがないよう支援するための予算措置を行っています。また、一部の大手電力会社が経過措置料金の値上げ申請を行いました。中小の製造業を含む各事業者が、コスト増分を取引価格に転嫁できるよう後押ししています。

中長期的な方向性が重要 低炭素型の技術開発を支援


―石炭火力の活用についてはどうお考えですか。
羽田 第六次エネルギー基本計画において、石炭火力は30年のエネルギーミックス(電源構成比率)の19%を占め、30年以降も活用し続けます。50年カーボンニュートラル(CN)実現に向け資源の多くを輸入に頼る日本がトランジション(移行期)に安定的にエネルギーを供給するためには、低炭素化の技術開発が欠かせません。

 これまでも発電事業者が取り組んできたタービンの効率化や低品位炭の受け入れ拡大の取り組みはもちろんのこと、石炭ガス化複合発電(IGCC)やCCS(CO2回収・貯留)、カーボンリサイクル、アンモニアやバイオマスの混焼といった技術開発を評価し、引き続き支援していきます。また、再生可能エネルギーの調整電源としての役割を担うことになりますので、調整力に優れた技術の開発も求められます。

―中長期的には上流投資の先細りは避けられません。
羽田 日本はS(安全)+3E(安定供給、経済、環境)の観点から、エネ基を策定しエネルギーミックスを示していますが、これはマーケットに対するシグナルになると考えています。生産者が上流投資をする上で、いつどれだけの需要があるかが分かるため、過不足なく投資を行うインセンティブが働くからです。

 今回のように、マーケットが劇的に変わった時の対応が難しいことに変わりはありませんが、国としての中長期的な方向性を示すこと、それを踏まえ需給双方でコミュニケーションを図ることがこれまで以上に重要になるでしょう。オーストラリアやインドネシア、そして新興の石炭生産国とも官民問わず資源外交を展開し、需給をバランスさせながら50年CNの実現を目指します

【特集1/座談会】著名作家が占う「癸卯」の年 斬新な着想でエネ問題を両断 事実は小説より奇なりか


波乱が予想される2023年、エネルギーを取り巻く情勢はどうなるのか。
エネルギーフォーラム小説賞選考委員の著名作家3人が語り尽くす。

【出席者】鈴木光司/小説家、高嶋哲夫/小説家、江上剛/小説家
【司会】松本真由美/東京大学教養学部客員准教授

左上から時計回りに、江上氏、鈴木氏、高嶋氏、松本氏

松本 2022年は年明け早々からロシアによるウクライナ侵攻を契機に、エネルギー資源価格の高騰と需給ひっ迫が世界的な問題となりました。現在のエネルギー業界を取り巻く状況をどのように見ていますか。

高嶋 自然エネルギーが大きな割合を占める欧州諸国でさえ、ロシアからの天然ガスや石油の輸入停止で大騒ぎをしている。世界がいかに化石燃料に依存しているのかを痛感した。日本も「早期の原発再稼働」という解決方法は分かっているんだけど……。

江上 つくづく日本は現実を直視しない国だと思ったね。年末に原発の運転延長や新増設・リプレースの議論が盛り上がったけど、反対派は感情的に反対するのではなく、賛成派も国民を脅すような形ではなく、再稼働が必要な理由を正面から語るべきだ。

鈴木 3・11以降、正常に稼働していた原発まで政治判断で止めてしまったのがまずかった。ボクはヨットに乗るから分かるけど、エネルギーは多様性が重要だ。ヨットの動力源は軽油のディーゼルエンジンと風を受けるセール。片方がダメになっても、もう片方でカバーできる。国民の生命に関わるエネルギー政策もバランスを考えるべきだ。

太陽光パネル義務付けの愚 脱炭素予算の流れに逆らえず

江上 23年は、戦前の大同電力の初代社長を務めた福澤桃介の小説を上梓する。「電力王」と呼ばれた福澤は水力発電に可能性を見出し、木曽川開発などに注力した偉大な実業家だ。

鈴木 日本は急峻な山岳地帯が多く、梅雨や9月の長雨がある。だから水力発電に適していて、数多く開発された。反対に、そうした地理的、気候的特性を持つ日本に、太陽光発電は向いているのだろうか。ただ欧米に右へならえで、日本の特性という現実を直視できていない気がする。

江上 経済の現実も見えていない。太陽光パネルの多くを製造しているのは中国だ。中国は石炭火力が主力で、製造時に大量のCO2を排出する。カドミウムなど廃棄時の問題も解決していない。産業廃棄物の再生処理は日本の得意分野だが、太陽光パネルをほとんど作っていない国がその対策を推進するのもどうなのかと思う。

鈴木 太陽光発電を生かすとすれば、地産地消しかないだろう。大量のメガソーラーを送電系統に接続すると、需給バランスが崩れて停電の恐れが出てくる。

高嶋 そうは言っても、世界は脱炭素に向かって進んでいる現実もある。例えば、ハイブリッド車やコンバインドサイクル発電は日本の技術力の結晶だけど、CO2を少しでも排出するから門前払いされてしまう。日本は脱炭素の流れに乗るのか、独自路線で孤立する道を選ぶのか。国際社会で生きていくには、世界の流れに乗るしかないだろう。

江上 世界的なEV普及は、トヨタ潰しに違いない。ガソリン車で勝てないから、技術が全く異なるEVを持ち出してきた。逮捕される前のカルロス・ゴーンに会った時、「ガソリン車ではトヨタに負けるからEVの時代にする」と言っていたよ(笑)。

鈴木 日本が太刀打ちできないのは、欧米が中心になって脱炭素を軸にした国際的な資本の流れを作ってリードしているからだろう。科学的な正しさなど関係なく、マネーの流れを作り、先に乗って売り抜けた人が莫大な利益を得る。

江上 だから国の補助金に群がる再エネ事業者には、詐欺師もいると思う(笑)。日本は技術力を武器に、付加価値のある製品を海外に売って儲けてきた。突き詰めれば、それは海外からエネルギーを買うためだ。エネルギー事業がカネ儲けだけの連中の集まりになったら終わり。エネルギーはまさに国家の生命線である現実を考えると、本来は国家観や使命感を持つ人間が手掛けるべきだ。

松本 再エネに詐欺師ですか! 先ほど経済産業省の審議会(産業構造審議会・グリーンイノベーションプロジェクト部会・グリーン電力の普及促進分野ワーキンググループ)に参加していたのですが、そこではグリーンイノベーション基金の次世代太陽電池など、今のお話とは対照的な議論をしていました。座談会の予想外の展開にとまどっています(笑)。

【北海道ガス 川村社長】DXを軸に改革を断行 総合エネルギー企業へ変貌を目指す


2022年6月、大槻博現会長からバトンを受け継いだ。経営のDXを加速させるとともに、都市ガス・電気を組み合わせた総合エネルギーサービス事業の展開で、「エネルギーと環境の最適化による快適な社会の創造」を目指す。

【インタビュー:川村智郷/北海道ガス社長】

【聞き手:志賀正利/本社社長】

かわむら・ちさと 1992年早稲田大学教育学部卒、北海道ガス入社。2020年次世代プラットフォーム検討プロジェクト部長、21年執行役員DX・構造改革推進部長などを経て22年6月から現職。

志賀 2022年6月に社長に就任されました。1969年生まれで、大槻博会長(前社長)とは20歳差。21年に執行役員となったばかりで、相当驚かれたのではないでしょうか。

川村 22年1月中旬に当時の大槻社長に呼ばれ、身構えずに話を聞いていたら、社長就任への打診だったので驚きました。地元・北海道に貢献したいという思いで北海道ガスに入社しましたが、社長という立場になれば、地元への貢献でより大きな役割を果たせるのではないかと考え、引き受けることを決めました。

志賀 早稲田大学教育学部のご出身ですが、何が入社の決め手だったのでしょうか。

川村 教育学部ではありますが、特に教育関係に進もうとは考えていませんでした。満員電車もあまり得意ではなく、ずっと東京で生活するのは難しいなと思い、大学在学中の比較的早い時期から卒業したら北海道に帰ろうと考えていました。

 就職活動を通じてさまざまな業界の企業を訪問しましたが、北海道に貢献したいという思いを持つ中で、当時の人事担当者との巡りあわせもあり、北海道ガスに入社を決めました。
 当時は社員が500人ほどで、今のような事業規模の会社ではありませんでした。ましてや、電気を売ることになるとは思いもしませんでした。

電力事業は順調に伸張 価格競争はしない

志賀 入社後は、どのような仕事に携わってきましたか。

川村 最初は、ガス料金を計算したり集金に出向いたりといった業務を担う料金課に配属となりました。その後、30代になって日本ガス協会に出向したのですが、その頃はちょうど電力・ガス小売り全面自由化を巡る議論の真っただ中で、電気・ガス事業法の制度改正議論を目の当たりにし、貴重な経験をしました。

 当社に戻った後は、企画系の部門に長く所属しましたが、14年から電力事業の立ち上げに携わったのは、私にとって印象深い仕事の一つです。

志賀 就任直後の7月に、原料費調整制度の上限値を10月以降廃止することを決めました。大きな決断だったのではないでしょうか。

川村 廃止にあたっては、第一に、お客さまにご負担をかけてしまうことへの心苦しさがありました。ただ、原料の調達価格の高騰が続くと、エネルギーの安定供給のみならず、持続的なサービスの提供などにも影響する可能性があります。苦渋の決断でした。しかし北海道は、冬期間にエネルギーの使用量が増えるので、その地域特性を考慮し、3月までは平均原料価格がこれまでの上限値を超えた分の半分は料金に反映せず当社で負担するという経過措置をとることにしました。

 あわせて、当社の会員制ウェブサイト「TagTag」を通じて、省エネによる負担軽減に役立つ情報の発信を充実させたところです。 さらに、国や北海道の補助金を活用した「節電キャンペーン」を実施中ですが、当社独自の「ガスの省エネキャンペーン」も行っています。今後も、北ガスならではのノウハウを生かし、省エネをしっかり後押ししていきたいと思います。

志賀 電力事業は順調に契約数を伸ばしていますか。

川村 お客さま件数は21万件まで増え、電力事業は当社グループの売上高の約2割となり事業の柱に成長しました。契約獲得はお客さまとの接点機会での営業活動が中心ですが、最近ではウェブで他社と見比べるお客さまも多いので、ネットにタイミングよく広告を出したり、オンラインで申し込みが簡単にできるようにしたりと、ウェブマーケティングを強化しました。その成果もあり、ガスの供給区域外のお客さまも増えています。 

 電源の整備については、北ガス石狩発電所や札幌発電所などの自社電源で販売電力量の約6割を賄うまでになりました。電源としてはそのほか、相対契約による調達分もあるので、電力市場からの調達にはそれほど依存していません。国際情勢の影響によって燃料価格の高騰が続いていますが、その影響は最小限にとどめられています。

志賀 健全な事業運営や脱炭素社会の実現のためには、さまざまな投資が必要です。しかし、利益を犠牲にした過当な価格競争は企業体力を削ぎ、それらの投資を妨げることにつながりかねません。私は行き過ぎた価格競争には反対ですが、いかがお考えですか。

川村 私も同感です。期間限定のキャンペーンを行うことはありますが、価格競争をするつもりはありません。当社ならではの強みを生かしたサービスで勝負したいと考えています。お客さま宅に訪問してのガス機器保守サービスなどは当社の強みの一つですが、「TagTag」をはじめとした省エネサービスや、家庭用エネルギーマネジメントシステム「EMINEL」といったエネルギーマネジメントにも力を入れているところです。

 省エネは、お客さまの負担軽減だけではなくCO2の削減にもつながり、脱炭素に向けたベースとなる取り組みです。そのことをこれからも社会にしっかり訴えかけ、お客さまと双方向のコミュニケーションを図りながら、当社ならではの機能的で効果的な省エネを訴求していきたいと考えています。

会員制ウェブサイト「TagTag」でエネルギーの使用状況を確認できる

【中国電力 瀧本社長】安定供給に全身全霊 全社員一丸で 難局に立ち向かう


厳しい経営状況の中、社長に就任した。最大の使命である安定供給と、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、あらゆる取り組みを加速させていく。

【インタビュー:瀧本夏彦/中国電力社長】

志賀 6月の取締役会で社長に就任されました。抱負をお聞かせください。

瀧本 昨今の燃料価格や電力市場価格の高騰、ウクライナ情勢の長期化に伴う燃料調達への影響、全国的な電力需給のひっ迫……。非常に厳しい経営状況の中、そのかじ取りを担うことになりました。いかにその重責を全うしていくか、大変身の引き締まる思いです。

 当社の経営理念は、「信頼。創造。成長。」。この理念に基づき、中国地方において70年以上築き上げてきたお客さま・地域の皆さまとの信頼関係を、より強く、確固たるものにします。さらに快適性や利便性といったエネルギーを通じた価値を提供する中で豊かな未来を創造し、地域の成長へとつなげていく考えです。

たきもと・なつひこ 1981年東京大学経済学部卒業、中国電力入社。取締役常務執行役員経営企画部門長、取締役常務執行役員販売事業本部長などを経て、2022年6月から現職。

厳しい業績予想 値上げの検討に着手

志賀 2023年3月期の連結最終損益が過去最大の赤字見込みとなり、規制料金の値上げ検討にも着手されました。

瀧本 22年度の業績予想は、燃料価格の上昇による燃料費調整制度の「期ずれ」差損の拡大に加え、一部の料金メニューにおいて燃料費調整単価に上限が設定されており、燃料価格上昇を電気料金に反映できないといった理由で、経常損益、親会社株主に帰属する当期純損益、いずれも過去最大の赤字になる見込みです。

 現状、燃料価格や電力市場価格が急激に高騰し、電源の調達費用の増加や一部の料金メニューにおいて、燃料費調整が上限を超えることで、収支や財務へ大きな影響が生じており、電力の安定供給に支障を来たしかねない切迫した状況に至っているものと受け止めています。
 当社は東日本大震災以降も規制料金の値上げ改定を行わず、島根原子力発電所の長期稼働停止や電力小売り全面自由化に伴う競争激化の中、徹底した効率化を進め、料金水準を維持してきました。

 昨今の燃料価格や電力市場価格の高騰に対しても、市場価格の変動リスク低減に向けた取り組みや、グループを挙げたさらなる効率化の深掘りに最大限努めておりますが、仮にこのような状況が続くようであれば、規制料金を含め全ての電気料金について値上げせざるを得ないと考えており、値上げの検討に着手することとしました。 

 ウクライナ問題に端を発したエネルギー問題は、いまや世界規模で大きなうねりが巻き起こっています。資源小国である日本は海外の環境変化の影響を受けやすく、エネルギー政策の基本方針であるS+3Eにおける「Energy Security」、つまり「電力の安定供給」が特に脅かされている状況にあります。当社としては、今後も事業環境の変化に迅速に対応し、中国電力グループの最大の使命である電力の安定供給に全力を尽くしていきます。

【特集1】支離滅裂の独エネルギー事情 脱原発を諦めない政府とメディアの重い責任


2011年、22年に全原発を停止するとのドイツ政府の決定に拍手喝采したのはドイツ人と日本人だった。この二国はなぜか主要メディアがこぞって強硬な反原発派で、しばしば国民をミスリードする。ただ、それ以外の国々は、このエネルギー転換の方針に迷惑顔。送電線が網の目状につながる欧州では、一国の電力事情の乱れが即、全体に影響を及ぼすからだ。

再生可能エネルギー(主流は風力)発電は全体の4割まで伸びたが、真に原発を代替しているのは石炭・褐炭・ガス火力。ところが20年には、38年までの脱石炭・褐炭を法制化した上、30年で全廃が「理想」とうたわれ、既に急速に縮小している。

電力をガスと風力に頼らざるを得ないにもかかわらず、21年は風が吹かず、ガスの高騰が始まった。それでも同年暮れに3基の原発を予定通り停めたのは、ノルドストリーム2の運開が目前だと信じていたからだ。ところが、予期せぬ戦争勃発で計画は瓦解。今やノルドストリーム1からのガス供給さえ急減している。

今冬のガス不足はより深刻。政府は予備の褐炭火力の運転に踏み切り、国民には冷たい水で手を洗え、シャワーの時間を短縮せよなどと言い、EU各国に節ガスの「連帯」を求めながら、今年末の脱原発の完遂を諦めていない。経済と国民生活の破綻がさらに進めば、政府内で力を振るう緑の党とそれを持ち上げてきたメディアの責任は極めて重い。いずれ軌道修正を強いられる彼らが、いかなる詭弁を弄するのか、興味深い。

かわぐち・マーン・えみ
日本大学芸術学部音楽学科ピアノ科卒業。シュトゥットガルト国立音楽大学院ピアノ科修了。『ドイツの脱原発がよくわかる本 日本が見習ってはいけない理由』(草思社)が第36回エネルギーフォーラム賞の普及啓発賞、『復興の日本人論 誰も書かなかった福島』(グッドブックス)が第38回同賞の特別賞を受賞。その他、著書多数。

【特集1】プーチンに翻弄される世界市場 LNG危機の真相に迫る


天然ガスを武器にするプーチン大統領の思惑に、世界市場が翻弄されている。
サハリン2など日本への影響は――。専門家4人が危機の真相に迫る。

【出席者】加藤学/国際協力銀行エネルギー・ソリューション部長、白川裕/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部調査役、大場紀章/ポスト石油戦略研究所代表、山本隆三/常葉大学名誉教授

左上から時計回りに加藤氏、白川氏、大場氏、山本氏

――ウクライナ戦争を背景に、G7(主要7カ国)がロシア産資源の禁輸など経済制裁を強化していることで、世界的に天然ガスや石油、石炭といったエネルギーの市場価格が高騰しています。本日のテーマであるLNG市場の動向については、どう見ていますか。

白川 ロシアからの供給が減少したことによって、欧州諸国がアジアなど世界のLNGを買いあさっています。その結果、一気に供給余力がなくなり、価格が高騰したのです。需給ひっ迫のトレンドは、2032年ごろまで続くことが予想されます。

大場 ロシア以外の供給国の動向も、価格高騰に追い打ちをかけています。世界の三大LNG供給国は、オーストラリア、米国、カタールの三カ国。オーストラリアは、今春の電力危機や石炭火力の老朽化によってガス需要が増えていて、輸出する余裕がありません。米国は6月に、国内供給の17%を占めるフリーポートLNG社のプラント火災事故があった。10月の再稼働を目指していますが、規制当局から原因究明を求められており、遅れる可能性がある。カタールは、生産量が増えてくるのが26年ごろ……。今は世界レベルで節電・節ガスなどを通じて需要を減らしながら、価格高騰という痛みを分け合っていくしかありません。

加藤 実は最大の犠牲者はインドやパキスタン、バングラデシュなどの新興国だと思います。小麦やトウモロコシといった穀物不足に焦点が当てられていますが、エネルギー問題も深刻です。

大場 新興国で長期契約を結んでいない国は、スポット価格がそのまま価格に転嫁される。

山本 資金が潤沢な先進国は、価格が高騰してもカネを出せば買えるだけマシです。でも新興国の場合、そうはいかない。

白川 外貨準備高が少ないことを理由に、売ってさえくれないこともあるとか。パキスタンなど、計画停電を実施せざるを得ないほど追い込まれている国もあります。

加藤 石炭価格も高騰し、新興国を直撃しています。インドは電源構成の72%が石炭火力で、インドネシアやベトナムも石炭火力の比率が高い。各方面に累が及んでいます。

――欧州連合(EU)は7月、今冬のガス使用量を15%削減することで合意しました。需要期の冬場を乗り越えられるのでしょうか。

白川 エネルギー戦略的にみれば、欧州は戦う前からロシアに負けていました。いざとなれば、ロシアは欧州へのガス供給をゼロにすることもできる。さらに需給と価格の関係で、ロシアはガスの輸出量が減っても収入への影響が小さい。一方、ロシアに依存する欧州は、ガス禁輸を交渉のカードにすることはできません。それどころか、ロシアから供給を減らされれば、ガス料金の高騰で国民の不満がたまり、デモが乱発するなど政情不安のリスクに直面します。

加藤 実際に7月、イタリアのドラギ首相が辞任しました。イタリアは昨年よりも、ガス価格が71%、電気代が83%上昇していた。辞任の直接的な原因ではありませんが、影響は大きかったはず。ドイツもエネルギー価格が高騰しています。国民世論も冬を控え、原発容認が8割を超えた。政権内の「緑の党」が、稼働中の原発3基の年内停止を主張し続ければ、政権が不安定化するかもしれません。

山本 イタリアやスペインは、補助金を出しても、電気料金と都市ガス料金が7~8割上がっています。日本も抑制策をとらなければ、まだまだ上がり続けるでしょう。

白川 もしロシアから欧州へのガス輸出が8月からゼロになった場合、23年1月には欧州の地下ガス貯蔵在庫が尽きると推計されています。

加藤 ゼロにしたら暖房が使えず、最悪の場合、凍死する人も出るかもしれない。欧州は事実上、今冬に向けたエネルギー安全保障プランを有していないのではないでしょうか。

白川 欧州は、LNGの受け入れ能力が不十分です。これから必死に基地を建設したとしても、ロシアから輸入していた分を全て賄えるのは32年になる。反対にロシアにとっては、今冬が欧州のクビを締めるチャンスです。欧州には、対ロ制裁を続けながらもガス供給は継続させるという、したたかな戦略が求められています。