人為的な影響で地球温暖化が起きているのか、CO2の増加は人類にとって悪なのか……。
気候変動を巡る数々の疑問に、環境計測科学が専門の伊藤公紀・横国大名誉教授が答える。
寄稿/伊藤公紀(横浜国立大学 名誉教授)
米国がパリ協定を離脱するなど気候変動対策を巡りさまざまな動きが見られる。そこで、今回は私なりに気候変動に関する素朴な問いに答えてみたい。
低温期からの回復期の面も レジリエンス強化が先決
①気候変動(地球温暖化や異常気象)はなぜ起きているのか。
地球気候には分からないことがまだ多く、自然変動要因も複雑である。例えば、ここ2、3年、高温が続き、「地球温暖化がひどくなった」とも言われた。しかし実は、気候モデル研究者の間では「この高温はCO2では説明がつかない、不思議だ」という声が強かった。いくつか説が登場したが、一番もっともらしいのは、海底火山の噴火で成層圏まで水蒸気が運ばれたのが原因、という主張だ。
水蒸気は強力な温室効果ガスだが、地球大気上層に運ばれると、宇宙空間に赤外線を放出して冷える。すると、地球外から見た地球の温度が下がるので、それを補償するために地表と対流圏の温度が上がるというわけだ。通常の火山噴火では気温が下がるが、これは成層圏まで運ばれた硫酸エアロゾルが日射を遮ることによる。
熱波や寒波のような極端気象はどうか。基本的には、偏西風の蛇行により、北極の寒気が入った地域では寒波、熱帯の熱気が入れば熱波となる。偏西風が蛇行するのは、北半球では北極の低気圧の強弱(北極振動の正負)のためだ。詳細な機構は不明ながら、冬に太陽風が弱いと北極振動が負に振れ、偏西風が蛇行しやすい。
太陽活動が低下していた17世紀頃は、小氷期と呼ばれる低温期だった。現在に至る気温上昇には、そこからの回復という面もあり、人為的影響は限定的だ。
残念ながら、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書では気候モデルによるシミュレーションが重視され、太陽や海洋などの自然変動が軽視される傾向がある。
②カーボンニュートラル(CN)を達成すれば、気候変動は緩和されるのか。
気候変動に自然要因が大きければ、CNでCO2増加を止めても気候変動はなくならない。しかも、現在開発されている技術の多くは、ライフサイクル・アナリシス(LCA)の観点から見て疑問がある。例えば、木材チップを利用しようとすれば、木材の運搬などに意外にエネルギーが必要だったり、森林の過剰伐採につながったりする。農作物などの燃料転換は、廃棄物の利用なら意味があると報告されている。
「気候変動の緩和」は無理でも、「気候変動の影響の緩和」は可能である。システムの脆弱性は、最も弱いところで決まるので、ここへの手当てが肝要だ。そして、社会・生態系のレジリエンス(回復性・弾力性)を強化して、暑くても寒くても対応できるように、また激甚気象が起きて被害が出ても早急に回復できるようにするのが、最も妥当な政策である。
③CO2の排出増加は、人類にとって悪なのか。
何ごとにも、メリットとデメリットの両方がある。気候の自然変動が大きいなら、CO2濃度増加による気候変動は、深刻なデメリットにはならない。しかし、化石燃料の使用を効率化して、CO2が過剰に増加しないようにすることは、エネルギー源の持続性に対しては意味がある。
メリットはどうか。当然ながら、植物にとってCO2は栄養源だ。150ppmより小さいCO2濃度では成長が阻害され、最適なCO2濃度は1000 ppm程度という解析がある。実際、衛星観測によれば、近年、植物の被覆面積が増えており、CO2濃度の増加によると解釈されている。
再エネの拙速導入は危険 現実主義のCOP30
④再生可能エネルギーは地球環境を破壊し、安定供給を犠牲にしてまで推進すべきか。
気候変動には自然要因が大きいということを考えると、大規模再エネは気候変動を抑制できない。むしろ、釧路湿原でのメガソーラー開発で問題になったように、環境破壊につながるようでは本末転倒である。
太陽光発電や風力発電のコストが顕著に下がっているのは事実だが、ドイツや英国では、再エネの大量導入によって、むしろ電気代が上がり、エネルギーでの貧困格差や産業競争力低下が生じている。これは、送電網や電気貯蔵技術の未発達が一因とされる。社会システム全体を見ない拙速な導入は危険だ。
自然の保護と脱炭素のどちらが重要なのか
⑤今回の地球温暖化防止国際会議・COP30をどのように評価するか。
COP30では、化石燃料の段階的廃止に関する明示的な言及は避けられ、適応支援の強化や公正な移行メカニズムの確立が主な成果とされた。インドの環境相は「開発途上国の期待を満たした」と評価し、中国やインドが自国の経済成長を担保したと言える。欧州の〝気候原理主義〟ではなく、途上国を含めた〝現実主義〟が目立った。これには、米国の離脱も影響しているだろう。
しかし、そもそも気候変動枠組み条約(UNFCCC)の趣旨によれば、CO2削減は地域・国の経済的発展を阻害しないように進めるべきであり、今回のCOP30の結論はそれに沿っていると評価できる。
⑥CO2を急増させる紛争が各地で繰り広げられている。この矛盾をどう見ているか。
軍事行動は、CO2排出の数%を占めるとされるが、これまでのCOPでは軍事行動への言及はほぼない。軍事大国に対する配慮という要因があるにしても、軍事行動抑制の理由としては、気候変動は弱いということだろう。今後、CO2排出と気候変動の関連が薄いという認識が広まれば、CO2排出の観点からの軍事行動抑制はさらに難しくなるだろう。
いとう・きみのり 1980年東京大学大学院工学研究科博士課程修了。専門は環境物理化学、環境計測・診断・修復の技術開発。著書に「光触媒」(共著)、「地球温暖化」、「放射能と原発50の疑問」など。