【特集1・再エネ安全保障論】有事化の脆弱性と特定国依存経済安保の現実直視を

再エネは供給網の特定国依存やサイバー攻撃のリスクに耐えられるのか。
主力電源とするために必要な条件とは何か。大野敬太郎議員に聞いた。

インタビュー/大野敬太郎(自民党 経済安全保障推進本部長)

おおの・けいたろう 1968年香川県出身。93年東京工業大学大学院理工学研究科機械工学専攻修了。2012年の衆議院議員選挙で初当選。防衛大臣政務官、内閣府副大臣、自民党政調副会長などを歴任。当選6回。

──再生可能エネルギーの導入は、わが国のエネルギー安全保障の強化に資するのでしょうか。

大野 自給率の向上に向けて再エネの導入は否定しませんが、リスクを最小化する必要があります。IT技術で需要と供給をリアルタイムに制御するスマートグリッドの発展が期待されていますが、サイバー攻撃などのリスクに対しては脆弱です。現在、自民党では国家安全保障戦略の改訂に向けた議論を進めていますが、有事の社会活動の持続性を考えれば、エネルギーと食糧が最重要です。再エネは有事の際にブロック単位で系統を分断できる仕組みの構築など、リスクを管理できるようにならなければ、主力電源としては頼れません。

むやみな導入拡大に警鐘 エネ基議論の前提変わる

──太陽光パネルや風力発電設備、蓄電池の供給は特定国への強い依存があります。

大野 供給網の依存リスクが解消されないまま、カーボンニュートラル(CN)の名の下でむやみに導入を進めることは控えるべきです。この点で、高市政権のメガソーラー規制は評価しています。政府は、外国政府の情報収集に協力する可能性がある企業を「特定外国投資家」として審査の強化に乗り出しています。また、地方自治体の権限で無秩序に再エネ開発が進まないよう、国が事務的な調整権限を行使できる形を整えています。

──パネルや蓄電池製造に必要な重工鉱物についても、特定国への依存リスクがあります。

大野 調達先の分散が重要です。豪ライナス社からのレアアース(希土類)の輸入、フランスとの合弁会社設立など国家安全保障局を中心に取り組みを進めています。依存は低価格が故に生じているので、有志国間でプライスフロア(価格の下限設定)を設けるといったプラットフォームの構築も一案でしょう。

──近年、「経済安全保障」という言葉が身近になりました。

大野 2011年の福島第一原発事故を受け、FIT(固定価格買い取り)制度が導入されましたが、日本を取り巻く環境は激変しました。例えば中国との関係で言えば、当時は経済的な相互依存が両国関係を安定化させるとの考え方が根強かったのですが、その後、中国は依存関係を利用し、戦略物資の輸出停止など「経済的威圧」を加えるようになりました。安全保障環境もAIやサイバー攻撃などによって、構造自体が変化し劇的に劣化しています。再エネについて議論する前提条件が変わったと言っていいでしょう。CN戦略は重要ですが、その実行がわが国の安全保障を脅かしたり、国力を衰退させたりすることは許されません。次期エネルギー基本計画の策定の際も、この点を吟味する必要があります。


【特集1・第3次石油危機】エネルギー有事対応をどう考えるか!政治家に問う危機突破の処方箋

備蓄放出や補助金投入をどう評価し、エネルギー安全保障をいかに再構築すべきか─。
危機対応と将来戦略の在り方を政策の最前線に立つ政治家に聞いた。

強い需給構造への転換を

【自民党】鈴木淳司(衆議院議員)


──政府の取り組みをどう評価しますか。

鈴木 比較的、上手く対応していると思います。早めに石油の備蓄放出を決めましたが、備蓄量が大きく減らないうちに代替調達を確保できつつあります。4月にはアジア諸国のエネルギー需給構造の強靭化を支援する枠組み「パワー・アジア」を立ち上げました。連携を強化することで、ナフサを原料とする製品の輸入など日本の供給力アップにもつながります。経済産業省が流通の目詰まりをピンポイントで把握し、解消に向けて取り組んでいることも評価できます。

──燃料油価格や電気・ガス料金への補助金は弊害が大きいのでは。

鈴木 一時的には必要ですが、いつまでも続ける政策ではなく、補助が当たり前という雰囲気になるのは良くありません。やめ時は需給状況を見ながら慎重に判断すべきです。一律の補助ではなく、特に支援が必要な領域に重点を置く方法もあり得るかもしれません。

──節約を呼びかけるべきでは。

鈴木 一人ひとりがエネルギーを賢く利用する心持ちは大切ですが、現段階では、例えば公共交通機関へのシフトやリモートワークの要請など半強制的な需要抑制は得策ではないように思います。

──今回の有事をエネルギー政策にどう生かすべきでしょうか。

鈴木 危機を奇貨として、強いエネルギー需給構造に転換すべきです。そのためには、エネルギーミックスを再考する必要がある。自前電源で自己決定力のある原子力は最重要で、輸出を含めた高効率石炭火力の活用やアジア諸国との連携も必須です。目先の対応にとらわれるのではなく、将来を見据えてピンチをチャンスに変える姿勢が重要です。

【特集1まとめ】第3次石油危機 これでいいのか!日本の有事対策

米国とイランの和平交渉が「チキンレース」の様相を呈す中、
ホルムズ海峡問題の影響が深刻化の一途をたどっている。
中東依存度の高いアジア諸国は軒並み深刻な石油・ガス不足に。
一方、日本は備蓄放出、代替調達、燃料油補助などの緊急対策により、
今のところ経済活動・国民生活に大きな混乱は生じていない。
しかし、「第3次石油危機」と称されるほどの有事下、
長期化を想定した総合対策、需給構造の転換は必須の状況だ。
過去の石油ショックを教訓に、史上最大の危機をどう乗り越えるのか。
エネルギー問題に絡む政・官・学・業の関係者を徹底取材した。

【アウトライン】供給確保で高市政権の評価高まるが…批判相次ぐガソリン補助金の行方

【インタビュー】ホルムズ海峡再開後も石油の不足続く 示された備蓄の重要性

【レポート】史上最大の危機を乗り越えられるか 有事下のエネ供給最前線

【レポート】電力・ガス・石油業界、それぞれ連携強化し供給力確保に奔走

【検証】歴史に見る日本の役割と進路

【インタビュー】エネルギー有事対応をどう考えるか!政治家に問う危機突破の処方箋

【寄稿】日本のセキュアをいかに目指すか 見落とせない三つの危機

【特集1・第3次石油危機】歴史に見る日本の役割と進路を検証

【検証1】第1次石油危機の教訓を考える エレクトロステート日本を目指せ

1973年の第1次石油危機を機に、日本は省エネ先進国へと発展した。
当時の教訓を振り返りつつ、今取り組むべき政策課題を訴求する。

【寄稿:田中伸男/タナカグローバルCEO・元IEA事務局長】

1973年に第1次石油危機が起こった時、日本の電力の70%は石油火力であり、備蓄は50日分しかなかった。トイレットペーパーの買い占めに見られるパニックが起こった。しかし日本は短期的には空調温度の調節やネオンサインの停止などの節電を徹底し乗り切った。電源の多様化でガス、石炭、原子力に移行した結果、石油火力の比率は数%まで低下。一方、日本がアラスカから輸入を始めたLNGはコモディティとなり、世界のエネルギー安全保障に大きな役割を果たすまでになった。また日本が開発した低燃費の自動車や省エネ型の製品は世界を席巻した。日本は第1次石油危機を契機に世界の経済パワーにのし上がることができたのだ。

国際エネルギー機関(IEA)は昨年の世界エネルギー見通しで「電気の時代が来た」という。イラン危機で電化のスピードは上がる。今や石油需要の半分が自動車など輸送部門だ。危機の影響を最も受けているアジア諸国は石油備蓄が少なく、EVシフトが急速に進むだろう。安いEVを生産する中国が勝ち組になる。脱石油のための風力タービンや太陽光セル、バッテリー、電解装置、EVなどで大量の余剰生産能力がフルに使われ、エレクトロステート中国の経済成長が加速する。

日本は電化時代の将来デザインを描けるか

第3次石油危機で日本は何をすべきか。高市政権は17分野の成長戦略を進めているが、総花的過ぎる。エレクトロステート日本の将来デザインが必要だ。例えば自動車部門では全固体電池装備のEVと自動運転車に集中する。原子力では商業核融合を目指すが、当面のつなぎとしては小型モジュール炉や、廃棄物処理の簡単な統合型高速炉に投資する。造船では原子力船を進める。次世代型地熱発電も有望だ。グリーンな電力貯蔵としての水素貯蔵・メチルシクロヘキサン備蓄に期待がかかる。

日本政府はアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想を推進している。環太平洋パートナーシップ協定ではすでに英国がメンバーになっており、これに中国、台湾、インドネシア、韓国、UAEなどの加盟申請国を迎えるほか、米国やEU、インドも招待してグローバルなエレクトロステート連合を目指すべきだ。トランプ大統領によって「Pax Americana」は終焉を迎えている。高市首相が世界の中で花開く外交を考えるなら「Pax Electrica」を目指してもらいたい。

【SNS世論】TBS「報道特集」の炎上 ネットではたどり着けぬ石油危機の真偽

「日本は6月に詰むんですよ」。4月4日放送のTBSの「報道特集」で専門家が断言した。ホルムズ海峡の封鎖でナフサ供給がなくなるという。SNSで映像が切り取られて広がり、批判が広がった。高市早苗首相は自ら翌日5日、SNSのXで番組名を出さなかったものの「国内需要4ヶ月分を確保」と具体的な数字を挙げて反論。同番組も「趣旨を適切にお伝えすることができなかった」と7日にXで認めた。

報道特集の公式X

日本のSNS、特にXでは右派・左派の双方が書き込むが、高市首相支援の保守派の勢力がやや強い印象だ。そして報道特集は、政府に敵対的な姿勢を続け、偏向報道と保守派から批判が集まる番組だ。そうした中で、このあおり気味の報道をした。批判の広がりは仕方ないかもしれない。けれども、政府の石油をめぐる一連の政策の危うさ、危機意識のなさが、こうした批判でかき消されないかが心配だ。

ホルムズ封鎖で世界的に石油の流通が混乱し、世界各国では時短勤務や車の使用の抑制が広がる。ガソリン価格が上昇したため、民間の人々が自然とそう動いた。一方で、日本では4月に各地で例年通り「お花見渋滞」が起きた。今年1月の暫定税率廃止、3月のガソリン・軽油補助金の実施で、自動車燃料の上昇が抑えられたことが一因だろう。

日本政府のガソリン・軽油価格の抑制策は、自動車利用の頻度を増やして石油不足に拍車をかけかねず、また負担で財政を痛める。日本政府と高市政権は人々に不安を抱かせないように配慮をしているのだろう。しかし、そうした政策を行なっても、危機そのものはなくならない。

オールドメディア動かず、SNSは探れず

石油の供給問題をめぐる新聞・メディアの報道も歯切れが悪い。「ガソリン補助金2カ月で枯渇か」(毎日、4月6日)など、月5000億円と見込まれる補助金の継続支出を危ぶむ報道がある。しかし国民が燃料の値上げを受け入れるべきかという、価値判断の視点がない。それは他社の記事でも同じだ。自動車燃料費の抑制政策は、目先は国民それぞれには利益になるので、異論を唱えづらいのだろう。

本当に石油製品は不足しているのか。石油関連製品の流通は裾野が広いため記者が実情を追いづらいのだろうが、現場の状況を伝える報道が少ない。「ナフサ不足で調達リスク、製造業3割『影響』 帝国データ調べ」(日経、同18日)は調査会社の報告をまとめ、流通は止まっていないものの、将来の不足や価格の上昇懸念が出始めたことを伝えた。しかし実態が今一つ不透明だ。

イラン攻撃をするトランプ政権、それを支持する高市政権を批判する記事は多いが、足元の危機を伝える報道にオールドメディアは熱心ではないように見える。そういう問題こそ、プロのメディアが頑張って、プロらしい取材をすれば良いのだが、今のメディアは、そうした手間のかかることをしない。メディア不況の中で、記者の数は減っている。

SNSはさまざまな人の参加による集合知で、オールドメディアが捉えられない情報を伝える。また編集者のバイアスがかからない、斬新な情報を提供する。それゆえに影響力を増してきた。しかし石油流通のような専門的な問題、取材の裾野の広い問題はなかなか適切な情報にたどり着けない。ガソリン価格が落ち着いているので文句も出ない。将来への補助金が財政を痛めていることの不安もそれほど出ていない。

こうした専門的な問題、影響の長期的な問題の情報を得る、議論をするには、SNSには不向きなのだ。情報は、当事者からの一次情報の集約、そして組み立て分析する人が必要だ。そうした手順を、SNS情報は行えない。

メディアの特性ごとに情報を使いこなす

結局、石油の流通という複雑な問題は、政府に情報も政策も委ねることになってしまう。ところが、最近の経産省・資源エネルギー庁は頼りなく、政治になかなか物を言えない。政治は日本も含めどの国もバラマキ志向だ。エネルギー政策も、問題があるのに、そのまま放置されることが多い。

この問題で事実を追うと、石油ショックの再来という恐ろしい未来が見えるかもしれない。そうであっても誰かが事実に迫ってほしい。頼りない政府と政治に委ね続けると、さまざまな危険が生じてしまう。だから民間の奮起が必要だ。しかし重要なツールとなりつつあったSNSは石油の流通問題には、頼りにならなさそうだ。

私たち一般国民は、メディアの特性ごとのメリットとデメリットを認識し、注意しながらそれを活用するしかないようだ。

【電力中央研究所 平岩理事長】課題を科学で捉え技術で解を示し、未来を支えていく

1951年の創立以来、科学技術研究を通じて、
経済社会の発展を支える電気事業に貢献してきた。
エネルギーを取り巻く環境が急速に変化する今、
求められる技術は増え、研究領域は広がる一方だ。
今後もエネルギーの安定供給を研究力で支えていく。

【インタビュー:平岩芳朗/電力中央研究所 理事長】

ひらいわ・よしろう 1984年東京大学大学院工学系研究科電気工学専門課程修了、中部電力入社。取締役専務執行役員、取締役副社長執行役員、送配電網協議会理事・事務局長などを経て2023年6月から現職。

井関 衆院選で自民党が圧勝しました。高市早苗政権のエネルギー政策をどう見ていますか。

平岩 エネルギー政策を国家安全保障の中核に位置付けるという方針を高く評価しています。原子力発電の活用拡大や、国内技術を活用した再生可能エネルギーの推進、サプライチェーンの多様化などを打ち出したことは、エネルギーの長期的な安定供給と自給率向上に資するもので、国益の観点からも重要です。当所としても、これらに資する研究を着実に進めていきます。

井関 原子力政策は期待が大きいのではないでしょうか。

平岩 原子力発電の活用に関し、原子力規制委員会により安全性が確認された原子炉の再稼働加速や、廃炉を決定した事業者の原子力発電所サイト内での建て替えに向けた次世代革新炉の開発・設置など、将来技術までを見据えて国民に目指す方向性を明確に示していることを評価しています。

DC電力需要の衝撃 問われる系統の安定

井関 世界的にAIの開発や活用が進むなか、データセンター(DC)による電力需要の急増が見込まれています。

平岩 特に米国の動きを注視しています。米中のAI覇権争いの中で、巨大テック企業などが巨額の投資や契約を行い、DCの建設ラッシュとなっています。膨大な電力需要増加が見込まれ、電源確保や電気料金の高騰などが課題です。わが国で同程度の状況が生じるかは分かりませんが、研究機関として海外の先行するトレンドをウォッチすることは重要です。

井関 具体的にどのような課題がありますか。

平岩 DC事業者が早期建設を望む一方、送配電網などのインフラ整備には数年以上かかるといったギャップが問題になっています。DC事業者が複数の送配電事業者と接続交渉を行い、最初に認められた案件でDCを建設し、他の交渉をキャンセルすることなどにより実際の需要を見極めることが難しくなる、いわゆる「ファントム需要(幻の需要)」の問題もあります。

井関 インフラ投資の費用負担についての議論も必要ですね。

平岩  DCは事業の動きが速く、短期間での事業規模縮小や技術革新により個別DCの電力需要が想定を下回る可能性もありますが、送配電網などの整備には多額の投資が必要であり、費用を誰が、どのように負担するかという議論は重要です。わが国では、経済産業省の次世代電力系統ワーキンググループにおいて、送配電網の効率的・合理的な設備形成と費用負担の在り方などについて議論が進められていると認識しています。

井関 系統の安定性にも影響を与えます。

平岩 米国の規制当局は大規模需要であるDCに対し、系統事故時に系統から離脱しないような規制措置を検討しています。わが国は太陽光発電などインバーター電源の増加により慣性力などの系統安定化機能を有する同期電源の系統連系が減少しており、DCのような大規模需要が電圧変動などの系統じょう乱に反応して一斉に切り離されると、系統全体の安定性が低下する恐れがあります。

 複数のDCにワークロード(計算処理)を分散させ制御することは合理的ですが、それが急激な潮流変化をもたらすことも考えられ、系統運用者との協調が欠かせません。わが国では審議会などで大規模需要の柔軟性(フレキシビリティ)の活用が論じられていますが、系統の安定性維持に向けて、DCなど大規模需要者と系統運用者が各々の運用実態や課題認識についてお互いに理解を深め、解決策を探るためのコミュニケーションが必要と考えます。

井関 電中研としての具体的な取り組みはありますか。

平岩 米国などのDCの導入と運用に関する調査などを行っており、わが国で求められる事業者間連携の姿についての議論に貢献できるように準備を進めています。今年1月に、EPRI(米国電力研究所)が主導する「DCFlex」に研究機関として参画し、議論に加わり始めました。巨大テック企業や規制当局、電力会社など多数の関係者が参画し、DCの柔軟性活用などについて実証などを踏まえた議論を行っており、先行する米国の現状をいち早く吸収していきたいと考えています。

【特集1原子燃料サイクルの号砲】エネルギー安保確立の“究極の切り札” 聞こえてきたサイクル実現の足音

原子燃料サイクルを確立できれば、日本のエネルギー安全保障の弱点が補われる。
発電・再処理・プルサーマル・地層処分……。完遂に向けた現在地と課題とは。

原子力発電所で使用した燃料を再利用する──。日本が追う「夢」の実現が近づいている。

使用済み燃料には、エネルギーとして使える成分が多く残っている。使用済み燃料から使える成分を取り出して(再処理)、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料として再利用する仕組みこそ、日本が国策として推進する「原子燃料サイクル」だ。

なぜ日本は原子燃料サイクルを目指すのか。原子力発電は石炭やLNGを燃料とする火力発電と異なり、少量のウラン燃料で莫大な電力を生み出すため、「準国産エネルギー」と言われる。だが、日本にウラン鉱山はなく、現状では採掘や大部分の濃縮を海外に頼っている。もし使用済み燃料を再利用できれば、燃料の輸入依存度を下げ、エネルギー安全保障の強度を高められるのだ。

原子燃料サイクルを実現するメリットはほかにもある。それは最終処分時の高レベル放射性廃棄物(HLW)の量が減り、放射性毒性が低下するまでの期間が短くなることだ。現在、自由主義陣営で使用済み燃料を再処理する方針を打ち出しているのは日本とフランスだけで、ほかの国は直接、地層に処分する。この場合、放射性物質の有害度が人体に影響がないレベルに下がるまで、10万年もの年月を要する。一方、再処理をすると「残りかす」としてHLWが発生するが、体積は直接処分の4分の1に縮小し、毒性低下期間は約8000年に短縮できる。将来的に高速炉を活用できれば、その期間は300年程度にまで縮められる。

【特集1原子燃料サイクルの号砲】「プルサーマルの先駆者」玄海町が示した立地のプライド

日本初のプルサーマル、立地自治体初の文献調査を実施する佐賀県玄海町。
その裏にはパイオニアとしての矜持と知られざる葛藤があった。

【インタビュー:脇山伸太郎/玄海町長】

わきやま・しんたろう
1956年佐賀県玄海町生まれ。福岡大学を卒業後、自営業に従事。2001年玄海町議会議員に初当選。総務文教常任委員長、産業建設常任委員長などを歴任し、18年から現職。現在2期目。

──原子燃料サイクルの必要性をどう認識していますか。

脇山 原子力発電を活用する以上、サイクルは不可欠だと考えます。特に期待しているのは、使用済み燃料の再処理によって、放射性廃棄物を大幅に減容化することです。高速炉が実用化すれば、さらなる減容化や有害度の低減も期待できます。そうなれば、最終処分を巡る国民の理解も得られやすくなるでしょう。

プルサーマルの安全性 国策への協力を続ける

──2009年、国内で初めてMOX(ウラン・プルトニウム酸化化合物)燃料を使用するプルサーマルを受け入れました。

脇山 当時は町議でしたが、「プルサーマル」という言葉自体、なじみがなかったです。事業者から話を聞き、町議会の原子力対策特別委員会などで勉強を重ね、町議全員でフランスのグラヴリーヌという町を視察しました。プルサーマル発電を当たり前に実施していて、先進国での実績を肌で感じ、安全性に問題はないと確信しました。それで受け入れを決めたのですが、特に町外からの反響はすさまじかったです。受け入れを発表した途端、役場には全国から苦情の電話とFAXが殺到しました。しばらくは役場の職員が本来やるべき業務ができませんでした。

──それから15年を経て、24年6月に高レベル放射性廃棄物の最終処分場建設に向けた「文献調査」を受け入れました。原子力発電所の立地自治体としては初です。

脇山  23年頃から、町議の中には「文献調査に協力すべきだ」との声がありました。ただ、科学的特性マップを見れば分かるように、玄海町は適地ではありません。私は議会で受け入れを否定していましたが、24年4月に議会が経済団体からの請願を可決します。5月には私が当時の斎藤健経済産業相と面会し、町長や県知事が反対すれば次のステップ(概要調査)に進まないことを改めて確認した上で、受け入れを表明しました。プルサーマルの時ほどではないですが、役場の職員には苦労をかけました。

──現時点で、玄海町の後に文献調査に続く自治体は出ていません。

脇山 今の「手挙げ方式」では難しいでしょう。去年、島根県益田市でも受け入れに向けた動きがありましたが、知事や市の強い反対でとん挫しました。国が適地を10地点ほど提示し、自治体に協力を要請するくらいの姿勢を見せないと、この問題は解決しません。

──今後、エネルギー政策にどのように貢献していきますか。

脇山 玄海町はこれからも、「日本を支える電力を安定供給できる町」として、国の政策に協力します。それが町の財政を支え、住民の暮らしを守ることにつながるからです。

【特集1原子燃料サイクルの号砲】批判一辺倒のメディアが抱える問題と本質

原子燃料サイクルを巡り、メディアは批判一辺倒の報道姿勢を崩さない。
建設的提言なき批判がもたらす悲劇とは。小島氏が警鐘を鳴らした。

【寄稿:小島正美/ジャーナリスト】

原子力発電所の使用済み燃料を再利用する「原子燃料サイクル」がいよいよ動き出す。再処理工場が2026年度中に稼働しそうだが、最終的には高レベル放射性廃棄物の最終処分場の決定が必要となる。しかし、最終処分場の選定は遅々として進まない。その要因の一つと考えられるメディア(主に新聞)報道の偏りとは何か。

建設的議論を忌避 偏る毎日・朝日の紙面

新聞の中でも特に原子燃料サイクル問題に批判的なのは毎日新聞と言ってよいだろう。たとえば、同紙(25年12月5日付)は「原発出口なき迷走」と題して記事を載せているが、〈「核のごみ」の行き場はなく、処分場が先送りされる中で原発の再稼働が進み、建設地の選定は「自治体任せ」〉とほぼ批判一色だ。

同記事は盛んに〈国民的な議論は欠いたままだ〉とか〈真剣に議論されることなく〉と強調するが、違和感を禁じ得ない。「真剣な議論がない」と思うなら、メディア自らが両論併記のような形で堂々と議論を戦わせる紙面を展開すればよいが、それはやらない。問題が起きるたびに批判的な意見のみを載せ、賛成派の意見はほとんど見たことがない。

その証拠に、毎日新聞は4年前からずっと「迷走プルトニウム」との題名で定期的に連載記事を載せているが、特定の記者が延々と再処理問題を批判し続けている。読んでいるとまるで一記者が毎日新聞という媒体を通じてプロパガンダを発信しているかのようにみえる。

しかも、その記事に登場する学者は特定の学者ばかりで、たとえば、12月7日付紙面では1面と3面を使って、原子燃料サイクル問題で批判に転じた原子力工学者の鈴木達治郎氏(25年3月31日まで長崎大学核兵器廃絶研究センター教授)の言説をとくとくと紹介している。紙面からは鈴木氏の考え方は分かるが、それに対する反論や異なる意見は全く読めない。いくら社是が反原子力路線とはいえ、これでは多面的な事実や言論を知りたい読者が離れていくのではないかと思えてくる。

リベラル紙の姿勢が問われる

【特集1原子燃料サイクルの号砲】燃料供給安定化へ国産化の推進を

原子力利用を推進する上でのハードルの一つが海外依存の不安定な燃料供給体制だ。
ウラン、回収ウラン、回収プルトニウムを使った燃料製造の国産化が求められる。

【寄稿:竹下健二/東京科学大学 理事特別補佐】

カーボンニュートラル(CN)達成に向けた脱炭素電源の確保や、データセンター(DC)稼働による電力消費の拡大を背景に、昨年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では「再エネおよび原子力の最大限利用」がうたわれ、既設炉の再稼働とともに、将来的に革新軽水炉へのリプレースが求められている。また、次世代の発電炉として期待される高速炉については、実証炉の運転が2045年頃と想定されており、商用炉導入は今世紀後半になるであろう。従って、今世紀中は発電炉として大型軽水炉の利用が継続されると思われる。

また海外に目を向けると、英国では50年までに最大で電力需要の25%に相当する24 GW(1GW=100万kW)を原子力発電で賄うこと、フランスでは30年の原子力発電容量を現行の279TW(1TW=10億kW)時から380~420TW時に拡大することが計画されている。米国では50年までに原子力の発電容量を現行の4倍にすることが昨年5月の大統領令に記載された。さらに、地球温暖化防止国際会議・COP28での原子力3倍宣言や、北米、欧州におけるニュースケールSMR(小型モジュール炉) やBWR(沸騰水型原子炉)―X300など軽水炉系SMRの建設計画も進む。

国内外の状況から、今後も軽水炉の需要は増加していくと考えられ、第7次エネ基に示された「40年の全発電量の20%程度を原子力発電」という電源構成の達成には、既設炉、革新軽水炉の稼働と共に原子燃料の安定供給が重要課題となる。

余剰Puを持たない理念 高まるプルサーマルの意義

青森県六ヶ所村の日本原燃(JNFL)には、処理能力800t・U/年の使用済み燃料再処理施設(再処理工場)と、加工能力130t・U/年のMOX(混合酸化物)燃料加工施設が建設中で、それぞれ26年度、27年度に竣工予定である。使用済みウラン燃料は全国で約2万t。1%程度プルトニウムが含まれ、再処理工場がフル運転されると6・6tが回収される。

わが国には余剰プルトニウムを持たないという理念があり、保有量を47・3tに制限している(プルトニウムキャップ)。これを順守しながら原子力発電を継続していくには、MOX燃料に加工して軽水炉で利用していくプルサーマルを進める必要がある。現在、MOX燃料を燃焼できる原子炉4基(高浜3、高浜4、伊方3、玄海3)の年間利用量は合計2tであり、再処理工場からの回収プルトニウム量に遠く及ばない。軽水炉1基で燃焼できる量は0・3~0・6tで、全てを燃焼するには12基程度の軽水炉が必要になる。再処理工場がフル運転に入る30年代半ばまでには、MOX燃焼炉12基体制を確立すべきだ。

また、青森県大間に建設中の大間原子力発電所(ABWR=改良型沸騰水型軽水炉/138・3万kW)は フルMOXで1・7tのプルトニウムを利用でき、プルサーマル推進には大変有効である。国が前面に立って責任ある体制の下で建設を推進していただきたい。

プルサーマルを実施する伊方原子力発電所

【特集1原子燃料サイクルの号砲】バックエンドの課題克服へ示すべき国家の覚悟

国策として進めてきた原子燃料サイクルは、課題を抱えながらも前に進みつつある。
政策の現場と研究の最前線に立つ3人が、日本が進むべき道を語り合った。

左から小林氏、岡本氏、滝波氏

【座談会/出席者】

小林祐喜(笹川平和財団 主任研究員)

岡本孝司(東京大学大学院教授)

滝波宏文(参議院議員)

──日本が原子燃料サイクルを進める目的・意義をどう考えますか。

岡本 電力需要の大幅増という観点から話したいと思います。世界全体の電力消費量は、今後15年で1・5倍程度増えると言われています。毎年、日本一国分の需要増という恐ろしいペースです。各国は需要増に対応するため、先進国だけでなくグローバルサウスなども原子力の活用に向けて動き出しました。今「100年持つ」と言われているウラン資源が、数十年後には枯渇するかもしれません。そんな時、自国で使用済み燃料を再処理してMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料を作れれば、原子力発電を使い続けられます。

小林 自前の技術で供給できる原子力の役割が見直されていますが、それと原子燃料サイクルのあり方は別に考えるべきだと思います。経済合理性では、すでに原子燃料サイクルを継続する意義を見出すことは困難になっており、再処理技術をわが国がなぜ継承するべきなのか、粘り強く国民に説明する必要があります。ウランがなくなることを理由にすると、探査技術の進歩で新たな産地が見つかり、ウランの供給が安定する場合に、サイクルを回す意義が薄れてしまうからです。

滝波 原子力発電所だけでなく、将来の最終処分場の立地地域に寄り添うという点でも、原子燃料サイクルの実現は不可欠です。発電所のリプレース(建て替え)がフロントエンド側の北極星だとすれば、バックエンド側のそれは最終処分場の地点確保です。

 使用済み燃料が天然ウラン並みの有害度になるまで、ワンススルー(直接処分)なら10万年、再処理後に生まれる高レベル放射性廃棄物は8000年かかりますが、高速炉サイクルでMOX燃料を燃やせば300年へと大幅に短縮できます。もし、高速炉サイクルを諦め、これまで天然レベルまで落ちるのに300年と言っていても引き受け手がいなかったのに、それが10万年や8000年になってしまえば、最終処分場を引き受けてもらえる可能性はますます減る。再処理工場とMOX燃料工場の竣工、そして高速炉を稼働させて有害度を低減しなければ、北極星に到達することはできません。

岡本 アメリカやスウェーデン、フィンランドはワンススルーです。10万年と聞くと途方もなく長く感じますが、地球の歴史は45億年。10万年はその1万分の1です。地殻は深さ6㎞ほどで極めて安定しており、多くの場所は1000万年単位で安定しています。地表は変動があっても、300mより深い層なら、日本列島でも100万、1000万年単位で安定している場所が多数ある。感情論に流されるのではなく、こうした科学的知見が広がることが重要です。

【特集1まとめ】原子燃料サイクルの号砲 数々の困難克服し実現なるか

地政学リスクの高まりや脱炭素の要請を背景に、世界で原子力発電の価値が見直されている。

ウランの争奪戦が見込まれる中、資源を再利用できる原子燃料サイクルの意義はこれまで以上に高まった。

国土が限られる日本にとっては、高レベル放射性廃棄物の減容化や有害度の低減も避けて通れない。

こうした課題を解決するサイクルの確立に向け、日本の取り組みは着実に次のステージへと進みつつある。

描く青写真にどこまで近づいているのか。足りないピースは何か──。

六ヶ所再処理工場の竣工が見えてきた今、その真価を問う。

【アウトライン】エネルギー安保確立の“究極の切り札” 聞こえてきたサイクル実現の足音

【インタビュー】「プルサーマルの先駆者」玄海町が示した立地のプライド

【寄稿】批判一辺倒のメディアが抱える問題と本質

【寄稿】燃料供給安定化へ国産化の推進を

【座談会】バックエンドの課題克服へ示すべき国家の覚悟

【インタビュー】次代担う東大生が評価する政策の現状

【関西電力・森社長】不変の使命を胸に変革を積み重ね、未来を切り拓く

2025年度に中期経営計画の最終年度を迎えた関西電力。
原子力7基体制の確立という経営の土台づくりと、
脱炭素化と事業変革に向けた投資を着実に進めてきた。
次のステージに向けて新たな経営計画の議論を深めているが、
産業の成長を支える安定供給という責務は変わらない。

【インタビュー:森望/関西電力社長】

もり・のぞむ
1988年京都大学大学院工学研究科修士課程修了、関西電力入社。執行役員エネルギー需給本部副本部長、常務執行役員再生可能エネルギー事業本部長、取締役執行役副社長などを経て2022年6月から現職。

井関 まずは2025年度が最終年度だった中期経営計画(21〜25年度)についてうかがいます。ロシアによるウクライナ侵攻や燃料価格の激騰など、エネルギーを取り巻く状況が激変した5年間でしたが、どう振り返りますか。

 おっしゃる通り、現行の中計を策定した21年と現在では、エネルギーを取り巻く状況が全く異なっています。中計で大きなテーマとして掲げていたのは、「原子力7基の再稼動を成し遂げ、それを土台として困難を乗り越えていく」ということです。単なる数値目標ではなく、当社の存立基盤に関わる最重要課題でした。

井関 7基体制を確立したわけですが、経営への貢献度はどうですか。

 極めて大きなインパクトがありましたが、道のりは平坦ではなかったです。これは立地地域をはじめ、福井県の皆さまのご理解のたまものです。また、原子力を動かすための資金調達を含め、財務状況は一時、有利子負債が大きく膨らむなど厳しい局面もありました。それでも、徹底したコスト効率化を全社一丸となって断行し、必要な資金を捻出してきました。7基体制が当社の揺るぎない基盤になっていることは間違いありません。

井関 中計は24年4月に財務目標などをアップデートしていますね。目標は達成できそうでしょうか。

 第2四半期実績は堅調に推移し、昨年4月に公表した通期業績予想も上方修正しました。財務目標達成に向け着実に進捗しています。

GHG削減目標は前進 将来に向け攻めの投資

井関 中計では、成長戦略の柱として「EX(エネルギートランスフォーメーション)」「VX(バリュートランスフォーメーション)」「BX(ビジネストランスフォーメーション)」という三本柱を掲げています。

 三つの柱は、単に中計の期間中だけ取り組めばいい施策ではありません。われわれが向き合うべき本質的な課題を整理したものだと考えています。

 まずEXは、脱炭素化という世界的な潮流の中で、電源をより高効率で低炭素なものへと置き換えていく取り組みです。原子力の安定稼動だけでなく、再生可能エネルギーの新規開発、火力のゼロカーボン化、ゼロカーボン水素の活用、これらを支える最適な電力系統の実現など、その他の電源についても脱炭素化に向けた検討を加速させています。実績として、24年度の温室効果ガスの排出量は13年度比でスコープ1、2が59%削減、スコープ1~3では36%削減となっており、ゼロカーボンに向けた取り組みが前進しています。

井関 VXやBXについてはどうでしょうか。

 VXはお客さまに新しい価値を提供する領域です。最近では、蓄電池ビジネスやモビリティ関連のサービス、あるいは太陽光発電とセットで電気をお届けするようなモデルなど、従来の電気事業の枠を超えた広がりを見せています。周辺領域を含めた新しいサービス提供は、着実に芽が出てきていると感じています。

 そして、これらを支える基盤となるのがBXです。単なるコスト削減にとどまらず、仕事の在り方そのものを進化させる挑戦です。人財の確保はもちろん、AIの活用やDX(デジタルトランスフォーメーション)を駆使し、より付加価値の高い働き方を目指しています。

井関 5年間でEXに1兆500億円、VXに1200億円の投資目標、BXに900億円(25年度単年)のコスト削減目標を掲げていました。手応えはどうですか。

 最終的な精査は年度末になりますが、各分野で具体的な取り組みが着実に進捗していると考えています。将来の成長に向けた攻めの投資を、計画通りの規模で実行できていることは大きな成果だと言えます。

【特集1世界の電気料金事情】制度が積み上げるコストの山

電気料金の裏側ではさまざまな制度が複雑に絡み合っている。
5人の識者が入り組んだコスト構造を解説する。

規制(経過措置)料金

電力市場は2016年に全面自由化されたが、需要家保護のため、低圧分野では大手電力会社が提供する規制料金メニューが残置された。公正・公平な競争状態が実現するまで経過措置としての非対称規制であり、4年後の20年に解除可否を判断することになっていた。20年時点では要件が満たされていないとして、経過措置は継続され、以降も毎年の確認の結果、解除は実現していない。

自由化の目的は市場原理による最適な社会厚生実現であり、理想的な競争環境下では市場をゆがめる可能性がある料金規制は不要となる。実際に、20年代初頭の燃料高騰時には規制料金が公正・公平な市場競争の阻害要因となった。規制料金は燃料費調整額に上限が設けられており、高騰分の一部が反映されないことで結果的に価格競争力が高まることとなった。結果、規制料金に移行する需要家が増え、新電力のシェアが低下したのである。経過措置の主目的である消費者保護が実現したとも言えるが、経過措置は大手電力による「規制なき独占」状態を妨げるために設けられたのであり、これが独占回帰を助長するような状態は本末転倒と言える。

規制料金は原価に適正利潤を上乗せして決定されるが、大幅な「燃調の取り漏れ」が発生し、規制料金で売るほど赤字が増えることになった。結局、多くの大手電力が規制料金の値上げを申請したが、認可までの間、収益を毀損し続けることになり、新電力は競争力の高い規制料金についていけず需要を手放すことになった。

自由化のメリットが減る エリアごとに解除を

一方、需要家にとっては、市況高騰時のセーフティーネットが提供されるメリットはあるが、大手電力が自由料金にそのリスク分を織り込む、新電力もそれに見合った料金を提供することにより、自由化で得られるメリットが減殺されるかもしれない。消費者へのセーフティーネットであれば、高圧以上と同じく最終保障供給を設定すれば良いのではないか。

小売り全面自由化から間もなく10年になり、競争環境の整備は進展し、シェア上位の新電力に低圧供給を中心とする事業者も存在している。1年遅れて全面自由化された都市ガスにおいては、4年で料金規制が解除された。電力についても「競争状況の進展」を認め、順調に進ちょくしているエリアから規制を解除していくことが自由化の理念に適うのではないだろうか。

桑原鉄也/KPMGコンサルティング リードスペシャリスト

【特集1】IPCC報告書は「自然」を軽視 気候変動への人為的影響は限定的

人為的な影響で地球温暖化が起きているのか、CO2の増加は人類にとって悪なのか……。
気候変動を巡る数々の疑問に、環境計測科学が専門の伊藤公紀・横国大名誉教授が答える。

寄稿/伊藤公紀(横浜国立大学 名誉教授)

米国がパリ協定を離脱するなど気候変動対策を巡りさまざまな動きが見られる。そこで、今回は私なりに気候変動に関する素朴な問いに答えてみたい。

低温期からの回復期の面も レジリエンス強化が先決

①気候変動(地球温暖化や異常気象)はなぜ起きているのか。

地球気候には分からないことがまだ多く、自然変動要因も複雑である。例えば、ここ2、3年、高温が続き、「地球温暖化がひどくなった」とも言われた。しかし実は、気候モデル研究者の間では「この高温はCO2では説明がつかない、不思議だ」という声が強かった。いくつか説が登場したが、一番もっともらしいのは、海底火山の噴火で成層圏まで水蒸気が運ばれたのが原因、という主張だ。

水蒸気は強力な温室効果ガスだが、地球大気上層に運ばれると、宇宙空間に赤外線を放出して冷える。すると、地球外から見た地球の温度が下がるので、それを補償するために地表と対流圏の温度が上がるというわけだ。通常の火山噴火では気温が下がるが、これは成層圏まで運ばれた硫酸エアロゾルが日射を遮ることによる。

熱波や寒波のような極端気象はどうか。基本的には、偏西風の蛇行により、北極の寒気が入った地域では寒波、熱帯の熱気が入れば熱波となる。偏西風が蛇行するのは、北半球では北極の低気圧の強弱(北極振動の正負)のためだ。詳細な機構は不明ながら、冬に太陽風が弱いと北極振動が負に振れ、偏西風が蛇行しやすい。

太陽活動が低下していた17世紀頃は、小氷期と呼ばれる低温期だった。現在に至る気温上昇には、そこからの回復という面もあり、人為的影響は限定的だ。

残念ながら、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書では気候モデルによるシミュレーションが重視され、太陽や海洋などの自然変動が軽視される傾向がある。

②カーボンニュートラル(CN)を達成すれば、気候変動は緩和されるのか。

気候変動に自然要因が大きければ、CNでCO2増加を止めても気候変動はなくならない。しかも、現在開発されている技術の多くは、ライフサイクル・アナリシス(LCA)の観点から見て疑問がある。例えば、木材チップを利用しようとすれば、木材の運搬などに意外にエネルギーが必要だったり、森林の過剰伐採につながったりする。農作物などの燃料転換は、廃棄物の利用なら意味があると報告されている。

「気候変動の緩和」は無理でも、「気候変動の影響の緩和」は可能である。システムの脆弱性は、最も弱いところで決まるので、ここへの手当てが肝要だ。そして、社会・生態系のレジリエンス(回復性・弾力性)を強化して、暑くても寒くても対応できるように、また激甚気象が起きて被害が出ても早急に回復できるようにするのが、最も妥当な政策である。

③CO2の排出増加は、人類にとって悪なのか。

何ごとにも、メリットとデメリットの両方がある。気候の自然変動が大きいなら、CO2濃度増加による気候変動は、深刻なデメリットにはならない。しかし、化石燃料の使用を効率化して、CO2が過剰に増加しないようにすることは、エネルギー源の持続性に対しては意味がある。

メリットはどうか。当然ながら、植物にとってCO2は栄養源だ。150ppmより小さいCO2濃度では成長が阻害され、最適なCO2濃度は1000 ppm程度という解析がある。実際、衛星観測によれば、近年、植物の被覆面積が増えており、CO2濃度の増加によると解釈されている。

再エネの拙速導入は危険 現実主義のCOP30


④再生可能エネルギーは地球環境を破壊し、安定供給を犠牲にしてまで推進すべきか。

気候変動には自然要因が大きいということを考えると、大規模再エネは気候変動を抑制できない。むしろ、釧路湿原でのメガソーラー開発で問題になったように、環境破壊につながるようでは本末転倒である。

太陽光発電や風力発電のコストが顕著に下がっているのは事実だが、ドイツや英国では、再エネの大量導入によって、むしろ電気代が上がり、エネルギーでの貧困格差や産業競争力低下が生じている。これは、送電網や電気貯蔵技術の未発達が一因とされる。社会システム全体を見ない拙速な導入は危険だ。

自然の保護と脱炭素のどちらが重要なのか

⑤今回の地球温暖化防止国際会議・COP30をどのように評価するか。

COP30では、化石燃料の段階的廃止に関する明示的な言及は避けられ、適応支援の強化や公正な移行メカニズムの確立が主な成果とされた。インドの環境相は「開発途上国の期待を満たした」と評価し、中国やインドが自国の経済成長を担保したと言える。欧州の〝気候原理主義〟ではなく、途上国を含めた〝現実主義〟が目立った。これには、米国の離脱も影響しているだろう。

しかし、そもそも気候変動枠組み条約(UNFCCC)の趣旨によれば、CO2削減は地域・国の経済的発展を阻害しないように進めるべきであり、今回のCOP30の結論はそれに沿っていると評価できる。

⑥CO2を急増させる紛争が各地で繰り広げられている。この矛盾をどう見ているか。

軍事行動は、CO2排出の数%を占めるとされるが、これまでのCOPでは軍事行動への言及はほぼない。軍事大国に対する配慮という要因があるにしても、軍事行動抑制の理由としては、気候変動は弱いということだろう。今後、CO2排出と気候変動の関連が薄いという認識が広まれば、CO2排出の観点からの軍事行動抑制はさらに難しくなるだろう。

いとう・きみのり 1980年東京大学大学院工学研究科博士課程修了。専門は環境物理化学、環境計測・診断・修復の技術開発。著書に「光触媒」(共著)、「地球温暖化」、「放射能と原発50の疑問」など。