家庭で使用する多彩なエネルギー関連機器を賢くマネジメント―。
そうした仕組みを実現する技術やサービスが続々と登場している。
再エネの導入拡大で、電力需給を調整する機会が増えているからだ。
エネ各社は家電や蓄電池、EVなどを高度に制御する展開に注力。
政府も生活者の電力管理意識を高めようと支援策に力を入れている。
成長が見込まれる「エネマネ」市場を巡るビジネスの最前線に迫った。

志賀 2024年元日の「令和6年能登半島地震」発生から1年が経ちました。復旧作業を記録した映像「電気を送り続けるために」を視聴しましたが、復旧の最前線で皆さんがどのような思いでおられたのか、よく伝わってくるものでした。
松田 北陸電力グループの社員と協力会社、他電力から応援に駆けつけてくれた皆さんが、過酷な災害現場でどのように活動したのか、今、見ていただくだけではなく後世に残したいという思いで作成した記録映像です。時を経て、震災後に入ってくる社員が増え、この災害を経験した社員が少なくなれば記憶は薄れていきます。新入社員教育のカリキュラムに取り入れるなど、組織としてしっかりと、この経験を伝えていきたいと考えています。
志賀 YouTubeで社外の方も視聴できます。インターネット時代にふさわしい、良い取り組みですね。現場の過酷さは相当なものだったのではないでしょうか。 松田 これまで北陸地方は、比較的自然災害が少ない地域と言われていました。われわれが全国の災害現場に駆け付けることはありましたが、誰もが身をもって経験したことのない「未曾有の災害」で24年が始まりました。平常時と違う状況の中で、電気は人びとの生活や産業を支える大事な役割を担うだけでなく、明かりが灯ることで震災からの不安を和らげる意味もあります。ただでさえ極寒の季節である上に、現場は寝るところもトイレもない困難な作業環境でしたが、北陸電力グループが一丸となってこの大きな試練を乗り越え、安全を確保しつつ一刻も早く電気をお届けするという強い覚悟を元日早々に決めました。
志賀 さらに同年9月には、豪雨災害も奥能登を襲いました。復旧状況はいかがでしょうか。
松田 復旧は「こころをひとつに能登」のスローガンの下、グループ一丸となって対応してきました。地震で延べ約7万戸の停電が発生しましたが、停電復旧はまず自治体の災害復旧拠点や病院、福祉施設、避難所などを優先し、全体としては1カ月で概ね電気をお届けすることが出来ました。その後、追い打ちをかけるように9月に豪雨災害が発生しました。これにより、能登地域を中心に延べ約1万1000戸の停電が発生。作業は洪水や浸水による泥との戦いとなりました。地震により約3000本、豪雨によりさらに約300本の計約3300本の電柱に被害が発生しました。これまでに、約1000本の対応を終えていますが、今後は、残された2300本ほどの電柱の本格復旧に取り組むことになります。道路状況などに併せて復旧を進める必要があり、長丁場になることが予想されます。自治体や関係機関と連携しながら、着実に本格復旧を進めていきます。
災害で多くの苦労もありましたが、多くの知見を得ることもできました。「電気が復旧して良かった」で終わるわけにはいきません。現在、災害対応をハード面だけではなく、後方支援や関係機関との連携などソフト面も整備して災害対応力の強化を図っています。また、この知見を全国に共有していくことも当社の使命です。
志賀 震災から2度目の冬を迎えました。供給力の面で懸念はありますか。
松田 地震で被災した七尾大田火力発電所(石川県七尾市)は、 石炭払出機の倒壊や、広範囲にわたるボイラー管の損傷など、甚大な被害が発生しました。協力会社やメーカーを含め最大900人体制で復旧作業に当たり、2号機は昨年5月10日に、1号機は定検期間中の7月2日に運転を再開し、目標としていた夏季の高需要期までの復旧を成し遂げました。今冬についても、計画外のトラブルや災害への備えなど緊張感を持って、万全な供給体制を確保しています。
志賀 アメリカで第2次トランプ政権が誕生しました。石油や天然ガスについて「掘って、掘って、掘りまくれ!」と国内での生産拡大を訴えるトランプ氏ですが、大阪ガスへの影響をどう見ていますか。
藤原 不確定要素は多いですが、そこまで大きな変化はないように思います。振り返ってみると、バイデン政権は昨年1月、LNG生産の環境への影響を精査する必要があるとして、輸出許可を一時的に停止しました。トランプ政権になれば、こうした政策が取られることはないでしょう。
一方で「掘りまくれ!」と言ったところで、今はインフレで掘削費用が高騰しています。そのような状況下で、値崩れを誘発して赤字リスクが高まるような無制限な採掘は起こり得ないでしょう。われわれが権益を持つ米サビン社のガス田も、ヘンリーハブ価格を見ながら採掘しています。ただ化石燃料に対する過度なバッシングは穏やかになる気がします。
志賀 そうですか。私はパリ協定からの離脱を掲げるトランプ氏の大統領就任で、世界の脱炭素政策に大きな変化が訪れるかと思ったのですが……。
藤原 既に世界は現実路線に変わりつつあります。ロシアのウクライナ侵攻後は、欧州でも天然ガスの重要性が語られるようになりました。ガソリン車製造からの撤退時期を白紙撤回した自動車メーカーもあります。化石燃料の必要性が見直されているのは、トランプ氏の再登場というより、各国が現実路線に軌道修正したというのが要因でしょう。
志賀 e―メタン導入への影響はありませんか。
藤原 何とも言えませんね。バイデン政権で成立したIRA(インフレ抑制法)の支援は期待しています。大統領選でトランプ氏が勝利した激戦州でもIRAの恩恵を受けている州がありますし、議会を通して作られた法律ですので、トランプ政権になっても簡単に廃止はできません。トランプ政権がIRA適用の要件を厳しくする可能性はありますが、まだ政権の骨格が明らかになっていないため、占うことは難しいです。ただ化石燃料を扱うわれわれのような事業者にとって、政策がマイナスに後退することはないのではないかと思っています。
志賀 アメリカで東京ガスや東邦ガスなどと進めていた、キャメロンLNG基地でのe―メタン製造プロジェクトから撤退しました。トールグラス社とのプロジェクトに集中するとのことですが、どういった理由からですか。
藤原 大きな要因はコストが上がっていることです。世界的なインフレに加えてエンジニアの人手も足りず、高コスト構造になっています。こうした中ではトールグラス社との協業に集中した方がよいという判断になりました。
志賀 昨今、「内外無差別の徹底」がより厳格に求められるようになりました。JERAとの長期契約にはどう影響しますか。
林 JERAは全ての小売電気事業者を対象に、2026年度以降の長期卸契約の公募を開始し、電力・ガス取引監視等委員会の求める「内外無差別な卸売」に取り組んでいると認識しています。同年度以降は、中部電力ミライズとJERAの長期卸契約も、この公募に基づく契約に置き換わっていくと捉えています。需給のバランスが維持されている状況下においては、内外無差別により電源の流動化が進むことで、幅広い事業者から調達できる環境につながるでしょう。また、中部エリア外からの電源調達が進むことは、エリア外での販売機会拡大にもつながる可能性があります。今後も安定供給を大前提として市場動向を注視し、臨機応変に調達ポートフォリオを組み替えていく方針です。
志賀 21年に「中部電力グループ経営ビジョン2・0」を策定しました。それから数年経過し、電力経営を取り巻く環境は大きく変わっています。ビジョンの進捗、そして見直しの必要性をどう考えますか。
林 経営ビジョン2・0では、30年に連結経常利益2500億円以上を目標に、収益基盤の拡大と同時に、事業構造の変革をうたっています。2500億円以上の半分は国内のエネルギー事業で盤石なものとし、残りの半分はグローバル事業を含む新成長分野から生み出すことを目指します。他方、ビジョン2・0策定以降、電気に対する評価は大きく変化し、需要がシュリンクせず伸びていくマーケットと位置付けられるようになりました。海外情勢では地政学的リスクが顕在化。国内では電気料金のボラティリティが高まり、脱炭素要請も厳しさを増す一方です。しかし、これらの経営環境の変化により、優先順位やスピード感などの見直しはあっても、変わらぬ使命の完遂と、新たな価値の創出が必要だというビジョン2・0の根幹は変わりありません。変化を先取りした内容であると自負しています。
足元の進捗としては、グループを挙げて経営効率化・収支向上施策を実施しており、一時的な利益押し上げ要因を除いても2000億円程度の利益水準を維持する力がついてきたものと捉えています。
志賀 需要家の脱炭素電源へのニーズが拡大しています。先述のビジョンでは、30年頃に「保有・施工・保守を通じた再生可能エネルギーの320万kW以上の拡大に貢献」との目標を掲げています。
林 24年度上期末時点の当社グループの持分である設備容量は約103万kWで、進捗率は約32%です。24年は1月に太陽光発電事業者3社を完全子会社化し、3月にウインドファーム豊富、6月に八代バイオマス発電所の営業運転開始や西村水力発電所の開発決定をするなど、着実に歩を進めています。
志賀 再エネの主力として期待される洋上風力では、中電グループは4カ所の計画に関わっています。他方、洋上風力は資材高騰や人材面など多くの問題があることも事実です。
林 まず、電力需要が伸びていく中で、将来の安定供給の確保と脱炭素社会の実現を同時に達成するためには多様な電源を選択肢に入れておく必要があります。その中でも再エネは最大限導入するべき電源と認識しており、適地のポテンシャルを考えれば洋上風力の開発が重要です。ただテクノロジーや開発コストの上昇など課題が多くあります。ハードルが高くとも、コストダウンやイノベーションなどあらゆる方策で乗り越えられるよう努力していきます。
志賀 政府公募第一ラウンドで3地点を落札したコンソーシアムには、陸上風力で実績のあるグループ企業のシーテックが名を連ねています。
林 コンソーシアムの代表企業は三菱商事ですが、発電事業の技術面、そして地元への説明の仕方などは、やはり電気事業の経験がなければ分からない感覚があるかと思います。これらの面でシーテックのノウハウを生かし、当グループが貢献していけるものと思います。
志賀 女川原子力発電所2号機が2024年11月に再稼働しました。これまでを振り返ってどのようなお気持ちですか。
樋口 女川2号機は、10月29日に原子炉を起動し、11月15日に14年ぶりに再稼働しました。ここまでに至る経緯を振り返ると、非常に感慨深いものがあります。当社は、発電再開を単なる「再稼働」ではなく「再出発」と位置付けています。これは、「発電所をゼロから立ち上げた先人たちの姿に学び、地域との絆を強め、東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を反映し新たに生まれ変わる」という決意を込めたものです。また、東北の震災からの復興につながるとともに、電力の安定供給やカーボンニュートラル(CN)への貢献の観点からも大きな意義があると認識しています。
これまで、審査申請に係る事前協議了解や発電所視察などを通じ、真摯に議論、確認をいただいた宮城県、女川町、石巻市ならびにUPZ(5~30㎞圏内)の自治体の関係者の皆さまをはじめ、監督官庁など国の関係当局の皆さま、立地地域の皆さま、安全対策工事に尽力していただいた皆さまに対し、心から感謝を申し上げます。
志賀 再稼働に向けて、現場の士気をどう高めたのでしょうか。
樋口 私自身、現場に頻繁に足を運び「女川2号機の再稼働は、東日本大震災で被災した沸騰水型軽水炉(BWR)で初の再稼働であり、日本中、世界中から注目されている、歴史に残る一大プロジェクト。しっかり頑張ろう」と鼓舞してきました。9月3日の燃料装荷時には「ようやくここまで来ることができた」と、こみ上げてくるものがありました。地震・津波といった自然現象や重大事故に備えた多種多様な安全対策の強化により、震災前と比較して安全性は確実に向上しました。
今後とも、「安全対策に終わりはない」という確固たる信念の下、原子力発電所のさらなる安全性の向上に向けた取り組みを進めていきます。そして、引き続き安全確保を最優先に安定運転に努めるとともに、当社の取り組みを分かりやすく丁寧にお伝えし、地域の皆さまから信頼され地域に貢献する発電所を目指していきます。
志賀 社長就任を打診された際、即承諾したそうですね。
加藤 酒見俊夫会長(現相談役)からの打診に間髪入れず「頑張ります」と答えてしまい、その後に「私のような者で大丈夫でしょうか」と付け足すことになりました。道永幸典社長(現会長)からは、「漫画一コマの間もなく受けたね」とからかわれ、その後、北九州の取引先の間では即答することを「加藤の1秒」と言われていたようです。社長になればさらにいろいろなことにチャレンジできるのですから、私としては「よし来た」でしたね。
志賀 24年4月の就任からこれまでをどう振り返りますか。
加藤 正解が分からない中でのかじ取りだからこそワクワクする反面、経営資源を預かる職責の重みを感じています。同時に、当社グループで働く社員が「自信と誇り、プライドを持って業務に取り組むグループ経営」を実践したいという強い思いもあります。そのためには、経営層が大汗をかいて取り組んでいることを可能な限り感じてもらう必要がある。そこで、私の人となりを含め社長としての考えや方向性を正しく伝えようと、グループ報ウェブサイトに動画配信チャンネル「卓二の部屋」を開設しました。「形式百回は、ありのまま一回に如かず」という気持ちで、さまざまな動画を配信し、経営層とグループ社員の距離を縮めていきたいと考えています。今後は少し業務寄りの内容を増やそうと思案中です。
志賀 社長としての抱負は。
加藤 現在の事業環境は、前門の「ガス小売全面自由化」、後門の「脱炭素化」の様相です。そこにウクライナクライシス、電源調達価格の高騰、LNG産出国のトラブルなどが重なり、経験則の無力さを感じています。こうした状況下でも日々現場で働いているグループ社員、そしてその家族が、2050年においても西部ガスグループに勤めていて良かったと誇りを持てる礎を築くことが私の役割です。会社は株主のものですが、社員が幸せを感じながら生きるための源泉でなければなりません。
ESG(環境・社会・ガバナンス)経営の徹底は、そのためのミッションの一つであり、「サステナビリティ経営」「資本コスト経営」「グループネットワーク経営」、そして「人的資本経営」にチャレンジしていきます。特に人的資本経営については、DX(デジタルトランスフォーメーション)化による労働環境の再整備・スマートワーク化やキャリア採用の拡大を進め、ダイバーシティと健康経営、女性活躍推進に取り組みます。文字通り、ワークフォースから西部ガスグループ社員ならではのヒューマンリソースへの転換です。これは、既存組織の価値観や既存制度の文化を変えることになり、一朝一夕に達成できるものではありません。しかし、このパラダイムシフトと脱炭素に向かう経営合理性の追求をパラレルに進めるという、現代ミッションとして挑んでいかなければなりません。何よりも、人材育成とPDCAの徹底、そして新規事業を創出できるマネジメント力を強化する必要があります。