【中国電力 中川社長】脱炭素化をリードし産業立地を促進しつつ 地域活性化に貢献する


需要家の脱炭素化ニーズの高まりや、将来の電力需要見通しが増加に転じるなど、事業を取り巻く環境は大きく変化している。

この変化をチャンスと捉え、エネルギー事業者として地域の活性化に貢献する。

【インタビュー:中川賢剛/中国電力社長】

なかがわ・けんごう 1985年東京大学工学部卒、中国電力入社。2017年執行役員・経営企画部門部長兼原子力強化プロジェクト担当部長、21年常務執行役員・需給・トレーディング部門長などを経て23年6月から現職。

志賀 2024年度の通期連結決算について、どう受け止めていますか。

中川 24年度決算については、売上高は総販売電力量の減少および燃料価格の低下に伴う燃料費調整額の減少などが影響し、前年度に比べ減収、経常利益も燃料費調整制度の期ずれ差益の大幅な縮小などにより減益となりました。一方で、燃料価格の低下、原子力発電所の再稼働、投資の抑制や経営全般にわたる効率化への取り組みにより、当初想定を上回る利益を計上したことで、目標としていた連結自己資本比率15%以上への回復を1年前倒しで達成することができました。しかし、有利子負債は増加しており、著しく毀損した財務基盤の立て直しにさらに一層、取り組む必要があると認識しています。

志賀 高い利益水準の要因には、昨年12月23日に島根原子力発電所2号機が再稼働した影響もありますか。

中川 24年度決算では、島根2号機の再稼働により原料費が減少した半面、減価償却費などが増加しましたが、結果的に利益は90億円増加しました。この島根2号機は、電力の安定的な供給に寄与するとともに、燃料価格変動の影響が緩和できることから業績の安定化・財務基盤の強化につながるほか、カーボンニュートラル(CN)に向けても非常に重要な電源だと認識しています。

志賀 25年度の業績見通しについては。

中川 今年度は、市場価格の低下に伴う卸・小売の競争進展や送配電事業の利益の減少によって、二期連続の減益を見込んでいますが、島根2号機の稼働増加により一定の利益水準を確保できる見通しです。とはいえ、足元の競争に加えて、物価上昇に伴う資機材の調達費用の増加や、米国の関税措置による経済活動への影響の懸念など、先行きに対する不透明感が増しています。引き続き、安定した利益の確保と財務基盤の回復を果たすべく、安全の確保を大前提とした島根2号機の安定稼働をはじめ、電力卸・小売販売事業の収益力強化と市場リスク管理の高度化、およびグループ一体となった経営全般にわたる効率化に取り組んでいきます。


3・11後初の新設基 島根3号機を早期に稼働

志賀 島根3号機の審査状況について教えてください。

中川 今年2月6日の審査会合において、今年度中に原子炉設置変更許可申請に係る一通りの説明を終える予定であること、島根3号機の審査の特徴として、島根2号機を含む先行例を踏襲しているため、現時点では大きな論点はないと考えていることを説明しました。今後、2号機の特重施設(特定重大事故等対処施設)および所内電源(3系統目)の審査に並行して、3号機の審査に対応していきたいと考えています。3号機の運転開始は、脱炭素化の観点でも非常に重要な課題ですし、3・11後、新設では初めて稼働することになりますので、大きなチャレンジだと考えています。

島根原子力発電所の外観

志賀 山口県上関町での中間貯蔵施設に係る立地可能性調査の進ちょくはいかがですか。

中川 島根原子力発電所を運転すれば、自ずと使用済燃料が発生します。同発電所の長期安定運転を維持するためには、再処理施設に搬出するまでの間、使用済燃料を安全に保管することが必要であり、中間貯蔵施設は、使用済燃料貯蔵対策に万全を期すための方策として有効であると考えています。また、中間貯蔵施設の設置検討は、「使用済燃料の貯蔵能力の拡大」というわが国のエネルギー政策にも合致しています。

山口県上関町での調査については、昨年11月に現地でのボーリング作業を終え、現在、ボーリングにより採取した試料を用いて各種分析を行っています。分析結果により調査に要する期間が変わるため、現時点で具体的な終了時期をお示しする状況にはありませんが、慎重に分析を進めていきます。

【東邦ガス 山碕社長】ガス事業を主軸に新事業への投資を加速 将来の成長への礎築く


新たな中期経営計画のスタートと時を同じくして4月1日に東邦ガス社長に就任した。

奇をてらわず、地道に愚直に仕事に向き合う姿勢を貫き、将来にわたって顧客の信頼を獲得し得る企業風土を醸成し成長し続けるための礎を築く。

【インタビュー:山碕聡志/東邦ガス社長】

やまざき・さとし 1986年名古屋大学経済学部卒、東邦ガス入社。2107年執行役員、20年常務執行役員、22年取締役専務執行役員などを経て25年4月から現職。

井関 4月1日付で社長に就任しました。どのような打診があったのでしょうか。

山碕 1月上旬に冨成義郎・前会長(現相談役)と増田信之・前社長(現会長)に呼ばれまして、「そういうことで、よろしく頼む」という話がありました。突然のことでしたし、私としては覚悟を固める時間が必要でしたので「ちょっと考えさせてもらいたい」と返答し、翌日「改めてよろしくお願いします」と承諾の意向を伝えました。

井関 東邦ガスに入社した経緯をお聞かせください。

山碕 経済学部を卒業し、技術的な素養があったわけではないので、最初からガス会社に就職しようと決めていたわけではありませんでした。「BtoB」の企業は何をしているのかあまりイメージできなかったので、金融機関やガス会社など一般消費者向けにサービスを提供している企業を中心に活動していました。最終的な決め手は、地元への愛着とこの地域の発展に貢献したいという気持ちであったと記憶していますが、その思いは今も変わりません。

井関 入社後はどのようなキャリアを歩んできましたか。

山碕 事務系の社員はまず、営業現場に配属されることが多く、私もそうでした。その後は企画、財務、営業と三つの部門に籍を置くことが多かったです。若い頃には、日本エネルギー経済研究所に出向したり、研修として10カ月ほどアメリカに滞在したりといった時期もありました。


実直に取り組む大切さ 最初の配属先で痛感

井関 会社人生で最も印象深かった仕事や出来事はありますか。

山碕 何と言っても入社直後に営業部門に配属され、社員として初めてお客さまと接点を持った時ですね。東邦ガスという会社がどのように見られているのか肌で実感し、まっとうに仕事に取り組んでいかなければならないと決意を新たにする機会となりました。

井関 それは、公益事業者としての責任感が芽生えたということでしょうか。

山碕 それももちろんありますし、決められたことに実直に取り組むということが当社の社風であるということを実感したことが大きいですね。仕事を進める上で問題が起きたとしても、テレビドラマのような奇想天外な解決策などはありません。日々の仕事にしっかりと取り組むこと、そしてお客さまに真摯に向き合うことの重要性など、当たり前のことに地道に愚直に取り組む大切さを感じました。

知多火力の完成予想図。同社初の大型電源となる

井関 カーボンニュートラル(CN)やエネルギーの自由化など、事業環境は目まぐるしく変わってきましたが、安定供給の大切さが改めて認識され、都市ガス会社にとっては天然ガスの普及拡大が、引き続き重要な取り組みとなりそうです。

山碕 その通りですね。当社に与えられている社会課題といいますか、求められている期待はさまざまあります。その時その時で比重の軽重はありますが、これまでも安全・安心、安定供給性、経済性、直近ではCNへの貢献を評価されてきたのですから、今後もどれか一つに偏るのではなく、多角的な視点を持ち、S+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合)のバランスを常に意識しながら取り組んでいかなければならないと思います。

少し前までは、水素や太陽光だけでCNを実現できるという風潮がありましたが、手掛けている側からすればそう簡単なことではありません。CNに向けた世の中の動向が読み切れず、ガスや火力発電への投資を決定しにくい時期もありました。今は国の政策、米国や欧州の情勢を見ても、一時のCN一辺倒から様相は変わってきたという印象です。とはいえ、50年を見据えていろいろ手を打っていかなければならないことに変わりありません。一足飛びにCNを目指そうとすると、S+3Eのバランスを損なうマイナスの事象が起きてしまいますので、その移行期に何にどう取り組むかの議論が引き続き重要だと考えています。

【特集2まとめ】万博が描く脱炭素の世界 革新的エネ技術がつくる未来を探訪


「2025年日本国際博覧会」が4月13日~10月13日、大阪・夢洲で開かれている。

次代を切り拓く新技術のショーケースでもある今回の大阪・関西万博は
カーボンニュートラル社会の実現を見据え、再生可能エネルギーや水素、eーメタン、スマートグリッド、蓄電池、空飛ぶクルマ、EVバスなどが導入され、まさに未来社会の実験場となっている。

私たちの社会は今後どう変わるのか―。

万博の最先端エネルギー関連施設や取り組みをレポートし、未来へのヒントを探る。

【アウトライン】最先端の技術を実証する場 楽しんで体感できる展示が充実

【レポート】さまざまな次世代技術を体験 エネルギーが叶える未来を探る

【インタビュー】「可能性のタマゴ」がコンセプト 次世代エネ技術を面白く体験

【インタビュー】CNに向け「化けて」変容を 地球温暖化を考える機会に

【レポート】未来の「あたりまえ」を創造 大規模実証で実用化を検証

【レポート】日本発の技術でCNを訴求 会場内で地産地消モデルを確立

【レポート】グリーン水素の供給網を構築 通信インフラを有効に活用

【レポート】大阪湾を滑るように航行 水素を利用する次世代船舶

【トピックス】電化による空の次世代型移動手段 交通分野の課題解決に期待高まる

【トピックス】特殊塗料で位置情報の精度を補完 走行しながらの無線給電実証

【トピックス】耐荷重の低い場所への設置が可能 屋根やアート作品など多彩な用途

【特集1まとめ】火力復権! 供給力強化へ潮目変わるか


ここ10年ほどで休廃止が一気に進んだ火力電源だが、復権の兆しが見えてきた。

移行期を支える供給力・調整力としての役割が高まるLNG火力は、新設を後押しする制度が徐々に整備され、建設計画が相次いで公表されている。

エネルギー基本計画でも2040年に向けてLNG火力の必要性を強調している。

一方、石炭火力を巡っては非効率設備のフェードアウト以外の方針は打ち出されず、このままではサプライチェーンが維持できずに「第二の石油火力」となりかねない。

設備容量の維持や今後の燃料調達を巡る関係者や有識者、政策当局の問題意識に迫り、これからのあるべき火力政策の方向性を探った。

【アウトライン】計画ラッシュのLNGと退出する石炭 火力発電ブーム再来の舞台裏事情

【レポート】首都圏支える国内最大級の設備 再エネ対応で起動停止の急増も

【レポート】長期軸で政策見直しの羅針盤に 高リスク低利構造にメスを

【レポート】現実的な安定供給・脱炭素両立へ 大規模投資判断できる環境整備を

【インタビュー】供給力・燃料調達の維持強化へ 不確実な時代にどう備えるか

【静岡ガス 松本社長】積極投資で事業を拡大 収益増と変革を両立し包括的施策で公益担う


都市ガスに加え、再エネや住宅再生、海外展開など事業の多角化を進めている。

包括的なサービスで地域のニーズに応えながら、人材育成や株主還元にも取り組み、持続的な企業価値の向上を図る。

【インタビュー:松本尚武/静岡ガス社長】

まつもと・よしたけ 1993年大阪大学理学部卒、静岡ガス入社。2020年静岡ガス&パワー社長、22年南富士パイプライン社長、23年静岡ガス常務執行役員経営戦略本部長などを経て24年1月から現職。

井関 まずは、2024年12月期決算のポイントと評価についてお聞かせください。

松本 24年度は、前年度と比べ大幅な減益という結果になりました。ただこれは、23年度が燃料費調整の期ずれ差益による増益効果が大きかったことの裏返しで、これを補正すると経常利益が23年度は108億円、24年度は116億円と、実質増益となります。それぞれに一過性の増益要因があったことを考慮しても、着実に成長できていると捉えています。

井関 一過性の要因とは。

松本 為替変動や市場の不安定さなどです。例えば、当社が出資している愛知県田原市のバイオマス発電事業では、原料を長期で為替予約して調達しています。ドル建てのため、近年の円安傾向により評価益を計上しました。また昨年、需給調整市場で全商品区分の取引が開始となり、当社グループも参加しています。所有する電源を活用し落札することができましたが、市場は創設されたばかりであり、継続的に落札できることを見通し難いため、これらを抜きにした実力をいかに底上げしていくかが重要です。

井関 そうした要因がなくても、経常利益は増加しています。

松本 都市ガスの大口分野の販売拡大が増益につながりました。第7次エネルギー基本計画では、天然ガスは化石燃料の中で温室効果ガスの排出が最も少なく、カーボンニュートラル実現後も重要なエネルギー源と位置付けられました。産業界において、天然ガス転換へのニーズが高まっていることは追い風です。実際、当社にも、設備更新のタイミングで燃転を要望する声が多く寄せられています。

井関 今後、家庭用や卸売りの販売量はどう推移していくでしょうか。

松本 家庭用に関しては横ばい、もしくは漸減していくと予想しています。人口減少や核家族化に加えて、給湯器や住宅の断熱の性能が飛躍的に向上していることを考えると、家庭部門における販売量の微減傾向は致し方ない部分もあります。卸先への販売量も減少傾向です。都市ガス小売りの全面自由化で、大手電力会社などの新規参入が進んだことによる影響を受けており、今後もこの傾向は続くと予想しています。この点は中期経営計画にも織り込み済みです。

YouTube「公式エネルギーフォーラムch」を開設


株式会社エネルギーフォーラムの公式YouTubeチャンネルを開設しました。「石川和男の白熱エネルギートーク」「プロジェクトE」「ずんだもん解説シリーズ」など、月刊誌やオンライン番組などと連携しながら順次コンテンツをアップしていきます。

下記「サムネイル」をクリックのうえ、チャンネル登録をよろしくお願いいたします。

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【特集2まとめ】おかげさまで本誌創刊70年 松永安左エ門翁生誕150周年、昭和100年、戦後80年


国民の福祉の増進―。この理念の下、1955年5月に前身の「電力新報」が創刊した。

高度成長、公害問題、オイルショック、自由化、東日本大震災、脱炭素化と、戦後から現在までエネルギー産業を巡る課題は大きく変わってきた。

今号は創刊70年を迎えるに当たりエネルギーフォーラムの足跡を振り返ると同時に、

山地憲治・RITE理事長によるエネルギー政策の変遷と将来像についての寄稿、エネルギー業界6団体からのメッセージを掲載する特別編とした。

不偏不党の編集方針を堅持 「国益と福祉の増進」のため報道(志賀正利/エネルギーフォーラム取締役社長)

【寄稿】激動の歴史をたどった電力政策 戦後80年の変遷を振り返る(山地憲治/地球環境産業技術研究機構理事長)

【寄稿】正面からエネ問題に向き合う 国民一人ひとりの理解を醸成(林欣吾/電気事業連合会会長)

【寄稿】知見を基に公平・中立を維持 鋭い視点を合わせた誌面作成を(木藤俊一/石油連盟会長)

【寄稿】長期的視点での主張と問題提起 識見の高い編集姿勢を貫く(内田高史/日本ガス協会会長)

【寄稿】戦後から有益な情報提供に尽力 エネ・環境・経済の発展に貢献(田中惠次/日本LPガス協会会長)

【寄稿】総合専門誌として多角的に分析 今後も一層深い掘り下げに期待(山田耕司/全国LPガス協会会長)

【寄稿】国内外の情勢・動向発信に功績 さらに進化したオピニオン誌へ(森 洋/全国石油業共済協同組合連合会会長)

【特集1まとめ】地域エネ衰退の危機 合従連衡で再生なるか


人口減少や過疎化を背景とする地域経済の疲弊に加え、
脱炭素や省エネといったエネルギー政策の要請を背景に、
地方のガス・石油供給事業が衰退の危機にさらされている。
ガス、石油とも経済や生活にとって欠かせないライフライン。
供給網・インフラの存続は地域の将来を左右する重要課題なのだ。
そんな時代に対応すべく、業界ではM&A(合併・買収)をはじめ、
同業者間や異業種とのアライアンスなど合従連衡が進みつつある。
果たして、その実情はどうなっているのか。直面する課題や展望は?
都市ガス、LPガス、SSの3事業の最新事情に迫った。

【アウトライン】地域課題克服し供給体制の再構築なるか エネルギー3事業のアライアンス事情

【ディスカッション】地域インフラの将来像を考える 事業承継に三者三様の課題

【レポート】規制緩和と一体のSS過疎地対策 LP事業譲渡は卸会社優先で検討を

【インタビュー】インフラ間の親和性に着目 あらゆる方策の検討が不可欠

【電力中央研究所 平岩理事長】持続可能な未来に向け 研究成果を創出し社会実装を目指す


第7次エネ基策定を受けて電気事業への関心が高まる中、「サステナブルなエネルギーで支える安全で豊かな社会」の実現に向けたさまざまな研究開発を進めている。

外部機関との連携や分かりやすい情報発信にも力を入れ、電気事業の発展に貢献する。

【インタビュー:平岩芳朗/電力中央研究所理事長】

ひらいわ・よしろう 1984年東京大学大学院工学系研究科電気工学専門課程修了、中部電力入社。取締役専務執行役員、取締役副社長執行役員、送配電網協議会理事・事務局長などを経て2023年6月から現職。

志賀 第7次エネルギー基本計画が閣議決定されました。全体的な評価を教えてください。

平岩 国際情勢の不安定化を背景にエネルギー安全保障の重要性が高まる一方で、データセンターなどに伴う電力需要増加が見込まれています。こうした国内外の情勢変化を踏まえ、カーボンニュートラル(CN)に向けた野心的目標を掲げつつも、安定供給を第一とし、現実的なトランジション(移行)の重要性を示すなど、現実的な計画であると評価しています。

志賀 2040年度のエネルギー需給見通しでは複数シナリオが提示されました。

平岩 革新的技術の不透明性を念頭にリスクケースへの備えの必要性を示したことは、安定供給の重要性を強く認識している表れでしょう。GX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョンとの一体性が強調された点も重要です。DX(デジタルトランスフォーメーション)、GXの進展による経済成長、産業競争力強化の実現とCNに向けたエネルギー政策は密接に関係します。


投資への手当て必要 再エネ運用の合理化を

志賀 電源構成の点ではどうですか。

平岩 エネルギー安全保障に寄与する脱炭素電源として、再生可能エネルギーと原子力発電を最大限活用することを明記し、二項対立から脱却した点と、トランジション手段としてのLNG火力の重要性を化石燃料確保の必要性と合わせて強調した点は、ベストミックスの重要性を再認識したものとして意義があると思います。

志賀 再エネの主力電源化に向けて、統合コストという概念も盛り込まれましたね。

平岩 総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)発電コスト検証ワーキンググループの電源コスト試算を踏まえ、調整力確保など変動性再エネを電力システムに受け入れるために必要な統合コストの一部を、エネルギーミックスの検討において算定し評価している点は、国民負担を極力抑え、合理的な供給システムの構築を目指しているものと評価しています。

志賀 洋上風力はCN実現に向けた切り札とされていますが、開発コストの上昇などで先行きは不透明です。

平岩 物価上昇と日本近海での施工環境などから、開発コストと建設の動向を注視しています。再エネが集積する地域にデータセンターなどの需要を立地誘導することで、系統設備の稼働率を高め規模を適正化するという考えが現実的になる中で、電力広域的運営推進機関で広域連系系統のマスタープラン見直しの要否が検討されていることは、重要な動きととらえています。

志賀 エネ基ではS+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性)の重要性が再確認されていますが、このために電力システム全体で必要なことは何ですか。

平岩 大量の変動性再エネを電力システムに受け入れ、安定運用するためには、電源や需要も含めた電力システム全体を俯瞰した合理的かつ計画的なネットワークの設備形成と運用技術、および制度設計が肝要です。

【特集2まとめ】水素利活用の転換点 新技術で国内需要拡大へ


使用時にCO2を排出しない次世代クリーンエネルギーの水素。
多様な資源から製造できる上、用途も産業から船舶燃料までと幅広い。
これらは脱炭素とエネルギー安定供給、経済成長につながる利点だ。
日本はその「一石三鳥」を狙い、水素産業の育成に力を入れてきた。
そこで培った技術を生かせる需要地を開拓し、身近な存在にできるか。
社会実装を促す転換点に直面する官民の最新戦略に迫った。

【アウトライン】クリーンエネ市場の開拓へ先手 広がりを見せる日本勢の挑戦

【東京ガス】東京五輪のレガシーを受け継ぐ 選手村跡地で先駆的なエネ事業

【北九州市】大規模サプライチェーン構築へ 環境と経済の好循環を目指す

【川崎市】地の利を生かして大転換を図る 発電・熱・原料を先駆的に利用

【東京都】将来の水素の可能性と課題を議論 体験型プログラムで理解を深める

【岩谷産業】国内初の旅客輸送する水素船 大阪中心部と万博会場を結ぶ計画

【関西電力】ゼロカーボン電力を万博会場に供給 エネルギーの未来像を映し出す

【東邦ガス】CNニーズに応える事業を拡大 供給基盤構築と需要創出を推進

【大阪ガス】製造装置の信頼性が顧客に好評 e‐メタン利用も武器に市場開拓

【三菱化工機】トータルソリューションに注力 高純度水素製造からCO2回収まで

【三國機械工業】既存技術の利点を集めた製造装置 再エネの出力変動への追従が可能

【タツノ】独自技術による製品を展開 新たな市場対応への動き進展

【三菱重工エンジン&ターボチャージャ】既存エンジンを応用して開発 500kW級専焼エンジンの実証開始

【川重冷熱工業】燃焼と蒸気供給技術を融合 専焼・混焼の両モードを実現

【特集1まとめ】原子力規制委の治外法権 国益を無視した独善と不合理


政府は第7次エネルギー基本計画で「原子力の最大限活用」を掲げたが、
東日本大震災後に再稼働を果たした原子力発電所は14基にとどまる。
適合性審査への申請から10年以上が経過したにもかかわらず、
いまだに多くのサイトが原子力規制委員会の審査中だ。
審査の合理性や進め方を巡っては見直しを求める声が根強い一方で、
規制委は「三条委員会」を盾に事実上〝聖域化〟しており、
政府側からは問題に触れにくいという弊害が生じている。
常識から逸脱した超長期審査の解消へ、規制の適正化は避けて通れない。
規制委の「治外法権」を巡る問題点と改善策を探った。

【アウトライン】規制委の“聖域化”はなぜ起きた? 審査体制の見直しが急務

【インタビュー】原子力再稼働は「極めて重要」知見の共有や人材の相互支援を

【レポート】「三条委員会」の弊害あらわ 審査効率化は政府の重要課題

【インタビュー】原子力「最大限活用」に向けて 規制のあるべき姿とは

【レポート】規制が厳しければ安全なのか 米国の検査制度から学ぶこと

【レポート】国民との意思疎通が肝要に 規制委の業務改善策を提起

【東京ガス 笹山取締役代表執行役社長CEO】企業価値向上に向け資本効率を高め成長投資を促進する


中長期経営計画の最終年度となる2025年度を前に、資本政策を重視した企業価値向上策を打ち出した。

米トランプ政権誕生や脱炭素化の潮流の変化を見極め、安定供給を重視した調達戦略を展開するとともに、多様なエネルギーとソリューションの提供を目指す。

【インタビュー:笹山晋一/東京ガス取締役代表執行役社長CEO】

ささやま・しんいち 1986年東京大学工学部卒、東京ガス入社。執行役員総合企画部長、専務執行役員エネルギー需給本部長、代表執行役副社長などを経て2023年6月29日から現職。

井関 1月31日の2024年度第3四半期決算説明会で、現中期経営計画後の経営の方向性を示す「持続的な企業価値向上に向けて」を発表しました。

笹山 当社は、企業価値の向上には資本効率を高めることが重要であることを踏まえ、投資家の意見に耳を傾けながらどのような施策を執るべきか社内で協議を重ねてきました。その上で、第一弾として昨年10月、自社株取得のほか資本政策を意識した企業価値向上策に取り組む方針を示しました。1月の発表はその第二弾となります。来年度には、現行中計の最終年度を迎えます。これらは、中計で掲げた施策を遂行するための重要なマイルストーンであり、今後の施策を具体化する指針です。

井関 資本政策では、累進配当の方針を打ち出しました。

笹山 従来から実質的には累進配当を導入しており、安定配当と緩やかな増配を掲げていました。ただ、その意図がなかなか理解されづらい点があったため、明確に累進配当の方針を示したものです。総還元性向については、かつての6割から4割程度をベースとしてきましたが、投資家に分かりやすいメッセージを伝えることが重要であると考え、4割還元をベースに、必要に応じて追加的な対策を講じることとしました。


目標達成へ進捗は順調 成長分野に一層注力

井関 23年度の連結自己資本比率は43・6%と、財務体質は堅調ですね。25年度の目標として据えた、ROE(自己資本比率)8%、累積営業キャッシュフロー(CF)1・1兆円、成長投資6500億円に対する進ちょくはいかがですか。

笹山 いずれも順調で、それらの目標を達成できる見込みです。累積営業CFを含め、収益を確保しつつ成長投資に注力していきたいと考えています。

また、経営資源を生み出すために、低収益または戦略不適合の資産および事業については、売却ないしは、新たなスキームを考えるなどしてきましたし、それはこれからも変わりません。今後も、中計で示した収益性、成長性、安定性の視点を持った事業ポートフォリオマネジメントを目指していきます。

千葉県袖ケ浦市に建設する火力発電所のイメージ図

井関 第3四半期決算では、連結経常利益が前年同期比59・8%減の685億円となり、通期見通しも従来予想の1060億円から1030億円に下方修正しました。この要因についてお聞かせください。

笹山 円安を含めた期ずれ差益の影響や一部減損があったこと、さらには暖冬で家庭分野のガス販売量が減少したことが要因です。業界の構造上やむを得ないことではありますが、天候や為替に左右されない、ガス・電力に次ぐ第三の柱としてのソリューション事業も伸ばしていきたいと考えています。

井関 そうしたソリューションの一つに「IGNITURE(イグニチャー)」の展開があるわけですね。

笹山 対一般消費者(BtoC)や対企業(BtoB)に加え、自治体など対行政(BtoG)の三分野で、社員一丸で事業の拡大に挑んでいます。BtoC分野では、これまでさまざまなサービスを展開してきましたが、今後はガス器具や高効率ガスシステムといったエネルギー関連設備の導入に一層注力していく方針です。従来の販売方法にとらわれず、ウェブサイトなどを活用した拡販を進めていきます。

また、蓄電池や太陽光発電システムなどの商材の販売についても、東京都の補助金を追い風に積極的に取り組んでいきます。近年は施工の担い手不足が課題となってきました。このため、場合によっては施工会社のM&A(企業の合併・買収)を視野に入れ、着実な対応し成果につなげます。

BtoB分野では、当社が保有する土地や再開発エリアの多くにスマートエネルギーネットワークを導入しており、これにより業務効率化、脱炭素、レジリエンス向上を実現しています。デジタル技術を活用した最適化は、不動産価値の向上に寄与します。この分野でも蓄電池や太陽光発電といった商材の拡充を図るとともに、イグニチャーと連携可能な商材を開発、投入することで収益率の向上を図っていきます。

さらに、脱炭素分野ではCO2の見える化などで支援するESG(環境・社会・ガバナンス)経営サービス「サステナブルスター」を展開しています。特に不動産業界での導入事例が多いのですが、他の業界にも広がりつつあり好調です。

井関 小売全面自由化で、供給エリアに多くの競合が参入していますが、これについてはどうお考えですか。

笹山 競合他社とは、ガス単体でも競争していますが、当社としては、ソリューションを含めたトータルの提案力で競争力を高めていく方針です。

【日本原子力発電 村松社長】原子力の最大限活用エネ基でついに明示 具体化に役割発揮へ


原子力の最大限活用に向けた方針が、第7次エネ基に盛り込まれた。

具体化される政策と歩調を合わせ将来ビジョン実現に貢献しつつ、一歩ずつ足元の課題解決に努める。

【インタビュー:村松 衛/日本原子力発電社長】

むらまつ・まもる 1978年慶応大学経済学部卒、東京電力入社。2008年執行役員企画部長、12年常務執行役経営改革本部長、14年日本原子力発電副社長、15年6月から現職。

志賀 さまざまな議論を経て2月18日に閣議決定された第7次エネルギー基本計画を見ると、原子力についての評価が大きく変わりました。多くの関係者からほぼ満点の内容ではないかといった受け止めが出ているようです。まずは率直な評価をお聞きしたい。

村松 第7次エネルギー基本計画では、原子力事業者にとってありがたい内容が示されました。一つは、「原子力への依存度を可能な限り低減する」という一文が消え、積極的に活用する方針へ明確に転換されたことです。二つ目は次世代原子炉へのリプレースの定義が、「廃炉を決定した原発の敷地内」から「廃炉を決定した事業者のサイト内」へと修正されました。この意義は大きい。

当社は既に敦賀発電所1号機と東海発電所の廃止措置を進めており、敦賀3・4号機の計画そのものが今回のエネ基に沿った内容といえます。


革新炉へのリプレース 急がれる政策の具体化

志賀 具体的に展開していく上ではどんな課題がありますか。

村松 最大のポイントは、革新軽水炉をどういう性能にするのか、ということです。この内容について、原子力規制委員会とATENA(原子力エネルギー協議会)主導の民間で検討を進めています。敦賀3・4号機はAPWR(改良型加圧水型軽水炉)の計画ですが、山中伸介委員長からは、「今のままで新規制基準に適合する内容というだけでは革新軽水炉としては不十分で、それ以上の性能を組み込むように」といった考えが示されています。

現在、議論のベースとなっているのは三菱重工業が提案する「SRZ―1200」で、従前のAPWRとの大きな違いとして、福島第一の事故を踏まえてデブリ(溶融燃料)を原子炉格納容器内で保持・冷却するコアキャッチャーを装備することがあります。こうした要求性能を踏まえる必要があり、まず一連の議論を見極めていきます。

安全対策工事が進む東海第二の主排気筒補強工事

志賀 現時点で明言は難しいでしょうが、コストはどの程度の水準になりそうでしょうか。

村松 まだ分かりませんが、欧州で建設中のEPR(欧州加圧水型炉)、あるいは米国のAP1000などは1兆円規模となっています。厳しい基準に耐える仕様となれば、コストが高くなるのはやむを得ません。

志賀 経営的なリスク、特に資金調達や推進体制の在り方などが課題になるかと思いますが、具体的な議論はこれからです。どんな方向性を期待しますか。

村松 既に、投資回収のリスクを低減する仕組みとして長期脱炭素電源オークションがあります。ただ、いざリプレースをしていく段階での支援措置としては、これだけでは不十分です。政府はエネ基で示した方針の実現に向け、GX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョンで示されたように、大胆な設備投資などの実践に向けた事業環境整備を進めていくものと思います。

例えば、英国のCfD(差額決済契約)が参考になるのではないでしょうか。建設審査と実際の建設の期間が長期化する中でリスクが拡大することを踏まえ、投資の予見性を確保する仕組みです。今後日本でどのような制度が検討されていくのか、注目していきます。2030年あるいは50年のビジョンに向けた措置となりますが、時間はそれほどありません。早急に議論を進め、来年の通常国会あたりで必要な法整備などが行われることを期待しています。

【エネルギーフォーラム賞】第45回受賞作の決定


「エネルギーフォーラム賞」は、株式会社エネルギーフォーラムが1980年5月、エネルギー論壇の向上に資するため創立25周年の記念事業として創設いたしました。同賞は年間に刊行された邦人によるエネルギー・環境問題に関する著書を関係各界の有識者らによるアンケートによる結果を参考にして、選考委員会が選定し顕彰するものです。

各賞および選考委員は以下のとおりです。

<各賞>

エネルギーフォーラム賞(大賞):大変優れていると評価された著作への賞、賞金30万円

優秀賞:優れていると評価された著作への賞、賞金20万円

普及啓発賞:広く啓蒙に秀でた著作への賞、賞金10万円

特別賞:上記3賞に該当しないが評価された著作への賞、賞金10万円

<エネルギーフォーラム賞選考委員(50音順、敬称略)>

大橋 弘(東京大学副学長)

神津 カンナ(作家、エッセイスト)

田中 伸男(タナカグローバル株式会社CEO)

十市 勉(日本エネルギー経済研究所客員研究員)

山地 憲治(地球環境産業技術研究機構理事長)