【特集2まとめ】水素利活用の転換点 新技術で国内需要拡大へ


使用時にCO2を排出しない次世代クリーンエネルギーの水素。
多様な資源から製造できる上、用途も産業から船舶燃料までと幅広い。
これらは脱炭素とエネルギー安定供給、経済成長につながる利点だ。
日本はその「一石三鳥」を狙い、水素産業の育成に力を入れてきた。
そこで培った技術を生かせる需要地を開拓し、身近な存在にできるか。
社会実装を促す転換点に直面する官民の最新戦略に迫った。

【アウトライン】クリーンエネ市場の開拓へ先手 広がりを見せる日本勢の挑戦

【東京ガス】東京五輪のレガシーを受け継ぐ 選手村跡地で先駆的なエネ事業

【北九州市】大規模サプライチェーン構築へ 環境と経済の好循環を目指す

【川崎市】地の利を生かして大転換を図る 発電・熱・原料を先駆的に利用

【東京都】将来の水素の可能性と課題を議論 体験型プログラムで理解を深める

【岩谷産業】国内初の旅客輸送する水素船 大阪中心部と万博会場を結ぶ計画

【関西電力】ゼロカーボン電力を万博会場に供給 エネルギーの未来像を映し出す

【東邦ガス】CNニーズに応える事業を拡大 供給基盤構築と需要創出を推進

【大阪ガス】製造装置の信頼性が顧客に好評 e‐メタン利用も武器に市場開拓

【三菱化工機】トータルソリューションに注力 高純度水素製造からCO2回収まで

【三國機械工業】既存技術の利点を集めた製造装置 再エネの出力変動への追従が可能

【タツノ】独自技術による製品を展開 新たな市場対応への動き進展

【三菱重工エンジン&ターボチャージャ】既存エンジンを応用して開発 500kW級専焼エンジンの実証開始

【川重冷熱工業】燃焼と蒸気供給技術を融合 専焼・混焼の両モードを実現

【特集1まとめ】原子力規制委の治外法権 国益を無視した独善と不合理


政府は第7次エネルギー基本計画で「原子力の最大限活用」を掲げたが、
東日本大震災後に再稼働を果たした原子力発電所は14基にとどまる。
適合性審査への申請から10年以上が経過したにもかかわらず、
いまだに多くのサイトが原子力規制委員会の審査中だ。
審査の合理性や進め方を巡っては見直しを求める声が根強い一方で、
規制委は「三条委員会」を盾に事実上〝聖域化〟しており、
政府側からは問題に触れにくいという弊害が生じている。
常識から逸脱した超長期審査の解消へ、規制の適正化は避けて通れない。
規制委の「治外法権」を巡る問題点と改善策を探った。

【アウトライン】規制委の“聖域化”はなぜ起きた? 審査体制の見直しが急務

【インタビュー】原子力再稼働は「極めて重要」知見の共有や人材の相互支援を

【レポート】「三条委員会」の弊害あらわ 審査効率化は政府の重要課題

【インタビュー】原子力「最大限活用」に向けて 規制のあるべき姿とは

【レポート】規制が厳しければ安全なのか 米国の検査制度から学ぶこと

【レポート】国民との意思疎通が肝要に 規制委の業務改善策を提起

【東京ガス 笹山取締役代表執行役社長CEO】企業価値向上に向け資本効率を高め成長投資を促進する


中長期経営計画の最終年度となる2025年度を前に、資本政策を重視した企業価値向上策を打ち出した。

米トランプ政権誕生や脱炭素化の潮流の変化を見極め、安定供給を重視した調達戦略を展開するとともに、多様なエネルギーとソリューションの提供を目指す。

【インタビュー:笹山晋一/東京ガス取締役代表執行役社長CEO】

ささやま・しんいち 1986年東京大学工学部卒、東京ガス入社。執行役員総合企画部長、専務執行役員エネルギー需給本部長、代表執行役副社長などを経て2023年6月29日から現職。

井関 1月31日の2024年度第3四半期決算説明会で、現中期経営計画後の経営の方向性を示す「持続的な企業価値向上に向けて」を発表しました。

笹山 当社は、企業価値の向上には資本効率を高めることが重要であることを踏まえ、投資家の意見に耳を傾けながらどのような施策を執るべきか社内で協議を重ねてきました。その上で、第一弾として昨年10月、自社株取得のほか資本政策を意識した企業価値向上策に取り組む方針を示しました。1月の発表はその第二弾となります。来年度には、現行中計の最終年度を迎えます。これらは、中計で掲げた施策を遂行するための重要なマイルストーンであり、今後の施策を具体化する指針です。

井関 資本政策では、累進配当の方針を打ち出しました。

笹山 従来から実質的には累進配当を導入しており、安定配当と緩やかな増配を掲げていました。ただ、その意図がなかなか理解されづらい点があったため、明確に累進配当の方針を示したものです。総還元性向については、かつての6割から4割程度をベースとしてきましたが、投資家に分かりやすいメッセージを伝えることが重要であると考え、4割還元をベースに、必要に応じて追加的な対策を講じることとしました。


目標達成へ進捗は順調 成長分野に一層注力

井関 23年度の連結自己資本比率は43・6%と、財務体質は堅調ですね。25年度の目標として据えた、ROE(自己資本比率)8%、累積営業キャッシュフロー(CF)1・1兆円、成長投資6500億円に対する進ちょくはいかがですか。

笹山 いずれも順調で、それらの目標を達成できる見込みです。累積営業CFを含め、収益を確保しつつ成長投資に注力していきたいと考えています。

また、経営資源を生み出すために、低収益または戦略不適合の資産および事業については、売却ないしは、新たなスキームを考えるなどしてきましたし、それはこれからも変わりません。今後も、中計で示した収益性、成長性、安定性の視点を持った事業ポートフォリオマネジメントを目指していきます。

千葉県袖ケ浦市に建設する火力発電所のイメージ図

井関 第3四半期決算では、連結経常利益が前年同期比59・8%減の685億円となり、通期見通しも従来予想の1060億円から1030億円に下方修正しました。この要因についてお聞かせください。

笹山 円安を含めた期ずれ差益の影響や一部減損があったこと、さらには暖冬で家庭分野のガス販売量が減少したことが要因です。業界の構造上やむを得ないことではありますが、天候や為替に左右されない、ガス・電力に次ぐ第三の柱としてのソリューション事業も伸ばしていきたいと考えています。

井関 そうしたソリューションの一つに「IGNITURE(イグニチャー)」の展開があるわけですね。

笹山 対一般消費者(BtoC)や対企業(BtoB)に加え、自治体など対行政(BtoG)の三分野で、社員一丸で事業の拡大に挑んでいます。BtoC分野では、これまでさまざまなサービスを展開してきましたが、今後はガス器具や高効率ガスシステムといったエネルギー関連設備の導入に一層注力していく方針です。従来の販売方法にとらわれず、ウェブサイトなどを活用した拡販を進めていきます。

また、蓄電池や太陽光発電システムなどの商材の販売についても、東京都の補助金を追い風に積極的に取り組んでいきます。近年は施工の担い手不足が課題となってきました。このため、場合によっては施工会社のM&A(企業の合併・買収)を視野に入れ、着実な対応し成果につなげます。

BtoB分野では、当社が保有する土地や再開発エリアの多くにスマートエネルギーネットワークを導入しており、これにより業務効率化、脱炭素、レジリエンス向上を実現しています。デジタル技術を活用した最適化は、不動産価値の向上に寄与します。この分野でも蓄電池や太陽光発電といった商材の拡充を図るとともに、イグニチャーと連携可能な商材を開発、投入することで収益率の向上を図っていきます。

さらに、脱炭素分野ではCO2の見える化などで支援するESG(環境・社会・ガバナンス)経営サービス「サステナブルスター」を展開しています。特に不動産業界での導入事例が多いのですが、他の業界にも広がりつつあり好調です。

井関 小売全面自由化で、供給エリアに多くの競合が参入していますが、これについてはどうお考えですか。

笹山 競合他社とは、ガス単体でも競争していますが、当社としては、ソリューションを含めたトータルの提案力で競争力を高めていく方針です。

【日本原子力発電 村松社長】原子力の最大限活用エネ基でついに明示 具体化に役割発揮へ


原子力の最大限活用に向けた方針が、第7次エネ基に盛り込まれた。

具体化される政策と歩調を合わせ将来ビジョン実現に貢献しつつ、一歩ずつ足元の課題解決に努める。

【インタビュー:村松 衛/日本原子力発電社長】

むらまつ・まもる 1978年慶応大学経済学部卒、東京電力入社。2008年執行役員企画部長、12年常務執行役経営改革本部長、14年日本原子力発電副社長、15年6月から現職。

志賀 さまざまな議論を経て2月18日に閣議決定された第7次エネルギー基本計画を見ると、原子力についての評価が大きく変わりました。多くの関係者からほぼ満点の内容ではないかといった受け止めが出ているようです。まずは率直な評価をお聞きしたい。

村松 第7次エネルギー基本計画では、原子力事業者にとってありがたい内容が示されました。一つは、「原子力への依存度を可能な限り低減する」という一文が消え、積極的に活用する方針へ明確に転換されたことです。二つ目は次世代原子炉へのリプレースの定義が、「廃炉を決定した原発の敷地内」から「廃炉を決定した事業者のサイト内」へと修正されました。この意義は大きい。

当社は既に敦賀発電所1号機と東海発電所の廃止措置を進めており、敦賀3・4号機の計画そのものが今回のエネ基に沿った内容といえます。


革新炉へのリプレース 急がれる政策の具体化

志賀 具体的に展開していく上ではどんな課題がありますか。

村松 最大のポイントは、革新軽水炉をどういう性能にするのか、ということです。この内容について、原子力規制委員会とATENA(原子力エネルギー協議会)主導の民間で検討を進めています。敦賀3・4号機はAPWR(改良型加圧水型軽水炉)の計画ですが、山中伸介委員長からは、「今のままで新規制基準に適合する内容というだけでは革新軽水炉としては不十分で、それ以上の性能を組み込むように」といった考えが示されています。

現在、議論のベースとなっているのは三菱重工業が提案する「SRZ―1200」で、従前のAPWRとの大きな違いとして、福島第一の事故を踏まえてデブリ(溶融燃料)を原子炉格納容器内で保持・冷却するコアキャッチャーを装備することがあります。こうした要求性能を踏まえる必要があり、まず一連の議論を見極めていきます。

安全対策工事が進む東海第二の主排気筒補強工事

志賀 現時点で明言は難しいでしょうが、コストはどの程度の水準になりそうでしょうか。

村松 まだ分かりませんが、欧州で建設中のEPR(欧州加圧水型炉)、あるいは米国のAP1000などは1兆円規模となっています。厳しい基準に耐える仕様となれば、コストが高くなるのはやむを得ません。

志賀 経営的なリスク、特に資金調達や推進体制の在り方などが課題になるかと思いますが、具体的な議論はこれからです。どんな方向性を期待しますか。

村松 既に、投資回収のリスクを低減する仕組みとして長期脱炭素電源オークションがあります。ただ、いざリプレースをしていく段階での支援措置としては、これだけでは不十分です。政府はエネ基で示した方針の実現に向け、GX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョンで示されたように、大胆な設備投資などの実践に向けた事業環境整備を進めていくものと思います。

例えば、英国のCfD(差額決済契約)が参考になるのではないでしょうか。建設審査と実際の建設の期間が長期化する中でリスクが拡大することを踏まえ、投資の予見性を確保する仕組みです。今後日本でどのような制度が検討されていくのか、注目していきます。2030年あるいは50年のビジョンに向けた措置となりますが、時間はそれほどありません。早急に議論を進め、来年の通常国会あたりで必要な法整備などが行われることを期待しています。

【エネルギーフォーラム賞】第45回受賞作の決定


「エネルギーフォーラム賞」は、株式会社エネルギーフォーラムが1980年5月、エネルギー論壇の向上に資するため創立25周年の記念事業として創設いたしました。同賞は年間に刊行された邦人によるエネルギー・環境問題に関する著書を関係各界の有識者らによるアンケートによる結果を参考にして、選考委員会が選定し顕彰するものです。

各賞および選考委員は以下のとおりです。

<各賞>

エネルギーフォーラム賞(大賞):大変優れていると評価された著作への賞、賞金30万円

優秀賞:優れていると評価された著作への賞、賞金20万円

普及啓発賞:広く啓蒙に秀でた著作への賞、賞金10万円

特別賞:上記3賞に該当しないが評価された著作への賞、賞金10万円

<エネルギーフォーラム賞選考委員(50音順、敬称略)>

大橋 弘(東京大学副学長)

神津 カンナ(作家、エッセイスト)

田中 伸男(タナカグローバル株式会社CEO)

十市 勉(日本エネルギー経済研究所客員研究員)

山地 憲治(地球環境産業技術研究機構理事長)

【特集2まとめ】家庭用エネルギーの新ビジネス 分散型制御で新たな価値創出


家庭で使用する多彩なエネルギー関連機器を賢くマネジメント―。

そうした仕組みを実現する技術やサービスが続々と登場している。

再エネの導入拡大で、電力需給を調整する機会が増えているからだ。

エネ各社は家電や蓄電池、EVなどを高度に制御する展開に注力。

政府も生活者の電力管理意識を高めようと支援策に力を入れている。

成長が見込まれる「エネマネ」市場を巡るビジネスの最前線に迫った。

【レポート】 電力マネジメントの時代が到来 官民一体で需要家意識の醸成へ

【大阪ガス】エネシステム確立に功績 実験集合住宅30年の挑戦

【TGオクトパスエナジー】英企業の知見を存分に活用 3年で30万件の顧客獲得

【東急パワーサプライ】沿線軸に持続可能な街づくりに注力 顧客目線で魅力あるサービス追求

【静岡ガス】太陽光発電の余剰電力を活用 地域通貨で経済の好循環を創出

【中部電力ミライズ】冷蔵庫の使用パターンを賢く制御 DR運転で利用者の行動変容へ

【日本ガス協会】2030年300万台突破が目標 エネファーム普及拡大を加速

【ニチガス】省エネ機器販売で一段と成長 スマートリモコンで最適運用

【リンナイ】「バブル」で快適な入浴実現 新発想の給湯器で存在感を発揮

【パーパス】少ない湯量で給湯能力を確保 独自の特許技術でニーズをつかむ

【北陸電力/松田社長】未曽有の災害乗り越え 地域の持続的な発展と社会課題の解決に貢献


2024年に石川県能登地方を襲った地震と豪雨災害。

復旧・復興へは道半ば、エネルギーの安定供給という使命を果たしつつ、
地域の持続的な発展に貢献。

災害の知見を踏まえ、脱炭素化など社会課題解決に取り組む。

【インタビュー:松田光司/北陸電力社長】

まつだ・こうじ 1985年金沢大学経済学部卒、北陸電力入社。営業推進部長、エネルギー営業部長、石川支店長などを経て、2019年6月に取締役常務執行役員。21年6月から現職。

志賀 2024年元日の「令和6年能登半島地震」発生から1年が経ちました。復旧作業を記録した映像「電気を送り続けるために」を視聴しましたが、復旧の最前線で皆さんがどのような思いでおられたのか、よく伝わってくるものでした。

松田 北陸電力グループの社員と協力会社、他電力から応援に駆けつけてくれた皆さんが、過酷な災害現場でどのように活動したのか、今、見ていただくだけではなく後世に残したいという思いで作成した記録映像です。時を経て、震災後に入ってくる社員が増え、この災害を経験した社員が少なくなれば記憶は薄れていきます。新入社員教育のカリキュラムに取り入れるなど、組織としてしっかりと、この経験を伝えていきたいと考えています。

志賀 YouTubeで社外の方も視聴できます。インターネット時代にふさわしい、良い取り組みですね。現場の過酷さは相当なものだったのではないでしょうか。 松田 これまで北陸地方は、比較的自然災害が少ない地域と言われていました。われわれが全国の災害現場に駆け付けることはありましたが、誰もが身をもって経験したことのない「未曾有の災害」で24年が始まりました。平常時と違う状況の中で、電気は人びとの生活や産業を支える大事な役割を担うだけでなく、明かりが灯ることで震災からの不安を和らげる意味もあります。ただでさえ極寒の季節である上に、現場は寝るところもトイレもない困難な作業環境でしたが、北陸電力グループが一丸となってこの大きな試練を乗り越え、安全を確保しつつ一刻も早く電気をお届けするという強い覚悟を元日早々に決めました。


災害対応の課題を検証 知見を広く共有

志賀 さらに同年9月には、豪雨災害も奥能登を襲いました。復旧状況はいかがでしょうか。

松田 復旧は「こころをひとつに能登」のスローガンの下、グループ一丸となって対応してきました。地震で延べ約7万戸の停電が発生しましたが、停電復旧はまず自治体の災害復旧拠点や病院、福祉施設、避難所などを優先し、全体としては1カ月で概ね電気をお届けすることが出来ました。その後、追い打ちをかけるように9月に豪雨災害が発生しました。これにより、能登地域を中心に延べ約1万1000戸の停電が発生。作業は洪水や浸水による泥との戦いとなりました。地震により約3000本、豪雨によりさらに約300本の計約3300本の電柱に被害が発生しました。これまでに、約1000本の対応を終えていますが、今後は、残された2300本ほどの電柱の本格復旧に取り組むことになります。道路状況などに併せて復旧を進める必要があり、長丁場になることが予想されます。自治体や関係機関と連携しながら、着実に本格復旧を進めていきます。

奥能登では地震に続いて豪雨災害からの復旧に尽力した

災害で多くの苦労もありましたが、多くの知見を得ることもできました。「電気が復旧して良かった」で終わるわけにはいきません。現在、災害対応をハード面だけではなく、後方支援や関係機関との連携などソフト面も整備して災害対応力の強化を図っています。また、この知見を全国に共有していくことも当社の使命です。

志賀 震災から2度目の冬を迎えました。供給力の面で懸念はありますか。

松田 地震で被災した七尾大田火力発電所(石川県七尾市)は、 石炭払出機の倒壊や、広範囲にわたるボイラー管の損傷など、甚大な被害が発生しました。協力会社やメーカーを含め最大900人体制で復旧作業に当たり、2号機は昨年5月10日に、1号機は定検期間中の7月2日に運転を再開し、目標としていた夏季の高需要期までの復旧を成し遂げました。今冬についても、計画外のトラブルや災害への備えなど緊張感を持って、万全な供給体制を確保しています。

【特集1まとめ】新生「第7次エネ基」の是非 亡国から興国への脱皮なるか


第6次エネルギー基本計画策定以降、地政学リスクやグリーン政策の弊害の顕在化、
さらにGX・DXに伴い電力需要は減少から急増傾向へ―と情勢は様変わりしている。
難しい連立方程式をどう解くのか。第7次議論に需要・供給両サイドの注目が集まる中、
政府案が示した答えはこれまでのアプローチの刷新、そして単一シナリオからの脱却だった。
第6次と比べバランスの取れた「現実路線」と、エネルギー業界の評価はおおむね前向きだが、エネルギー転換の難しさに直面する現場からはさまざまな声が挙がる。
果たして今回のエネ基は興国へとつながる道しるべとなるのか―。

【特集1】アプローチ刷新で議論百出 複数シナリオ化をどう読むか

【特集1】原子力を巡るブレーキを解除 現実路線に転換で合格点

【特集1】 「移行期」の難しさが随所で噴出 個別4分野の現在地を検証

【特集1】過去との対比で見える「原点回帰」GXビジョン登場で問われる役割

【特集1】産業・エネ政策を一体で最適設計 「日本が勝つ」シナリオに

【大阪ガス 藤原社長】国際情勢に対応し 安定供給とCNに向け国内外の事業に注力


海外ではe―メタン製造の検討やLNG調達先の多様化、国内では電気事業の拡大などに取り組む。

阪神・淡路大震災から30年を迎え、安定供給はもとより、幅広い経営戦略の実現に向けて社員の「個」の育成に力を入れる。

【インタビュー:藤原正隆/大阪ガス社長】

ふじわら・まさたか 1982年京都大学工学部卒、大阪ガス入社。大阪ガスケミカル社長、常務執行役員、副社長執行役員などを経て2021年1月から現職。

志賀 アメリカで第2次トランプ政権が誕生しました。石油や天然ガスについて「掘って、掘って、掘りまくれ!」と国内での生産拡大を訴えるトランプ氏ですが、大阪ガスへの影響をどう見ていますか。

藤原 不確定要素は多いですが、そこまで大きな変化はないように思います。振り返ってみると、バイデン政権は昨年1月、LNG生産の環境への影響を精査する必要があるとして、輸出許可を一時的に停止しました。トランプ政権になれば、こうした政策が取られることはないでしょう。

一方で「掘りまくれ!」と言ったところで、今はインフレで掘削費用が高騰しています。そのような状況下で、値崩れを誘発して赤字リスクが高まるような無制限な採掘は起こり得ないでしょう。われわれが権益を持つ米サビン社のガス田も、ヘンリーハブ価格を見ながら採掘しています。ただ化石燃料に対する過度なバッシングは穏やかになる気がします。

志賀 そうですか。私はパリ協定からの離脱を掲げるトランプ氏の大統領就任で、世界の脱炭素政策に大きな変化が訪れるかと思ったのですが……。

藤原 既に世界は現実路線に変わりつつあります。ロシアのウクライナ侵攻後は、欧州でも天然ガスの重要性が語られるようになりました。ガソリン車製造からの撤退時期を白紙撤回した自動車メーカーもあります。化石燃料の必要性が見直されているのは、トランプ氏の再登場というより、各国が現実路線に軌道修正したというのが要因でしょう。


トールグラス社と協業 米国でe―メタン製造

志賀 e―メタン導入への影響はありませんか。

藤原 何とも言えませんね。バイデン政権で成立したIRA(インフレ抑制法)の支援は期待しています。大統領選でトランプ氏が勝利した激戦州でもIRAの恩恵を受けている州がありますし、議会を通して作られた法律ですので、トランプ政権になっても簡単に廃止はできません。トランプ政権がIRA適用の要件を厳しくする可能性はありますが、まだ政権の骨格が明らかになっていないため、占うことは難しいです。ただ化石燃料を扱うわれわれのような事業者にとって、政策がマイナスに後退することはないのではないかと思っています。

志賀 アメリカで東京ガスや東邦ガスなどと進めていた、キャメロンLNG基地でのe―メタン製造プロジェクトから撤退しました。トールグラス社とのプロジェクトに集中するとのことですが、どういった理由からですか。

藤原 大きな要因はコストが上がっていることです。世界的なインフレに加えてエンジニアの人手も足りず、高コスト構造になっています。こうした中ではトールグラス社との協業に集中した方がよいという判断になりました。

【中部電力 林社長】将来の情勢見据えた経営ビジョンを実現し 政策目標にも貢献へ


昨今の情勢変化を先取りした経営ビジョンの実現に全力投球する。

脱炭素ではグループで複数地点の洋上風力の開発に関わるほか、浜岡原子力発電所の審査過程も一つステップアップした。

電気事業以外では不動産をはじめ、中部エリア内外で強みを生かした事業展開を加速させている。

【インタビュー:林 欣吾/中部電力社長】

はやし・きんご 1984年京都大学法学部卒、中部電力入社。2015年執行役員、16年東京支社長、18年専務執行役員販売カンパニー社長などを経て20年4月から現職。

志賀 昨今、「内外無差別の徹底」がより厳格に求められるようになりました。JERAとの長期契約にはどう影響しますか。

 JERAは全ての小売電気事業者を対象に、2026年度以降の長期卸契約の公募を開始し、電力・ガス取引監視等委員会の求める「内外無差別な卸売」に取り組んでいると認識しています。同年度以降は、中部電力ミライズとJERAの長期卸契約も、この公募に基づく契約に置き換わっていくと捉えています。需給のバランスが維持されている状況下においては、内外無差別により電源の流動化が進むことで、幅広い事業者から調達できる環境につながるでしょう。また、中部エリア外からの電源調達が進むことは、エリア外での販売機会拡大にもつながる可能性があります。今後も安定供給を大前提として市場動向を注視し、臨機応変に調達ポートフォリオを組み替えていく方針です。


利益水準拡大に手応え 洋上風力の開発に全力

志賀 21年に「中部電力グループ経営ビジョン2・0」を策定しました。それから数年経過し、電力経営を取り巻く環境は大きく変わっています。ビジョンの進捗、そして見直しの必要性をどう考えますか。

 経営ビジョン2・0では、30年に連結経常利益2500億円以上を目標に、収益基盤の拡大と同時に、事業構造の変革をうたっています。2500億円以上の半分は国内のエネルギー事業で盤石なものとし、残りの半分はグローバル事業を含む新成長分野から生み出すことを目指します。他方、ビジョン2・0策定以降、電気に対する評価は大きく変化し、需要がシュリンクせず伸びていくマーケットと位置付けられるようになりました。海外情勢では地政学的リスクが顕在化。国内では電気料金のボラティリティが高まり、脱炭素要請も厳しさを増す一方です。しかし、これらの経営環境の変化により、優先順位やスピード感などの見直しはあっても、変わらぬ使命の完遂と、新たな価値の創出が必要だというビジョン2・0の根幹は変わりありません。変化を先取りした内容であると自負しています。

足元の進捗としては、グループを挙げて経営効率化・収支向上施策を実施しており、一時的な利益押し上げ要因を除いても2000億円程度の利益水準を維持する力がついてきたものと捉えています。

志賀 需要家の脱炭素電源へのニーズが拡大しています。先述のビジョンでは、30年頃に「保有・施工・保守を通じた再生可能エネルギーの320万kW以上の拡大に貢献」との目標を掲げています。

 24年度上期末時点の当社グループの持分である設備容量は約103万kWで、進捗率は約32%です。24年は1月に太陽光発電事業者3社を完全子会社化し、3月にウインドファーム豊富、6月に八代バイオマス発電所の営業運転開始や西村水力発電所の開発決定をするなど、着実に歩を進めています。

志賀 再エネの主力として期待される洋上風力では、中電グループは4カ所の計画に関わっています。他方、洋上風力は資材高騰や人材面など多くの問題があることも事実です。

 まず、電力需要が伸びていく中で、将来の安定供給の確保と脱炭素社会の実現を同時に達成するためには多様な電源を選択肢に入れておく必要があります。その中でも再エネは最大限導入するべき電源と認識しており、適地のポテンシャルを考えれば洋上風力の開発が重要です。ただテクノロジーや開発コストの上昇など課題が多くあります。ハードルが高くとも、コストダウンやイノベーションなどあらゆる方策で乗り越えられるよう努力していきます。

志賀 政府公募第一ラウンドで3地点を落札したコンソーシアムには、陸上風力で実績のあるグループ企業のシーテックが名を連ねています。

 コンソーシアムの代表企業は三菱商事ですが、発電事業の技術面、そして地元への説明の仕方などは、やはり電気事業の経験がなければ分からない感覚があるかと思います。これらの面でシーテックのノウハウを生かし、当グループが貢献していけるものと思います。

【東北電力 樋󠄀口社長】電力の安定供給維持へ 自己資本を積み増し財務基盤を回復する


東日本大震災で被災した原子力発電所として初めて、女川原子力発電所2号機が再稼働を果たした。

東北地方の東日本大震災からの復興、そして電力の安定供給とカーボンニュートラルへの貢献に向け、大きな一歩を踏み出した。

【インタビュー:樋󠄀口 康二郎/東北電力社長】

ひぐち・こうじろう 1981年東北大学工学部卒、東北電力入社。2018年取締役常務執行役員発電・販売カンパニー長代理、原子力本部副本部長、19年取締役副社長 副社長執行役員CSR担当などを経て20年4月から現職。

志賀 女川原子力発電所2号機が2024年11月に再稼働しました。これまでを振り返ってどのようなお気持ちですか。

樋口 女川2号機は、10月29日に原子炉を起動し、11月15日に14年ぶりに再稼働しました。ここまでに至る経緯を振り返ると、非常に感慨深いものがあります。当社は、発電再開を単なる「再稼働」ではなく「再出発」と位置付けています。これは、「発電所をゼロから立ち上げた先人たちの姿に学び、地域との絆を強め、東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を反映し新たに生まれ変わる」という決意を込めたものです。また、東北の震災からの復興につながるとともに、電力の安定供給やカーボンニュートラル(CN)への貢献の観点からも大きな意義があると認識しています。

これまで、審査申請に係る事前協議了解や発電所視察などを通じ、真摯に議論、確認をいただいた宮城県、女川町、石巻市ならびにUPZ(5~30㎞圏内)の自治体の関係者の皆さまをはじめ、監督官庁など国の関係当局の皆さま、立地地域の皆さま、安全対策工事に尽力していただいた皆さまに対し、心から感謝を申し上げます。

志賀 再稼働に向けて、現場の士気をどう高めたのでしょうか。

樋口 私自身、現場に頻繁に足を運び「女川2号機の再稼働は、東日本大震災で被災した沸騰水型軽水炉(BWR)で初の再稼働であり、日本中、世界中から注目されている、歴史に残る一大プロジェクト。しっかり頑張ろう」と鼓舞してきました。9月3日の燃料装荷時には「ようやくここまで来ることができた」と、こみ上げてくるものがありました。地震・津波といった自然現象や重大事故に備えた多種多様な安全対策の強化により、震災前と比較して安全性は確実に向上しました。

今後とも、「安全対策に終わりはない」という確固たる信念の下、原子力発電所のさらなる安全性の向上に向けた取り組みを進めていきます。そして、引き続き安全確保を最優先に安定運転に努めるとともに、当社の取り組みを分かりやすく丁寧にお伝えし、地域の皆さまから信頼され地域に貢献する発電所を目指していきます。

【西部ガスホールディングス 加藤社長】経営合理性の追求とESG経営の徹底を両立 組織の価値観を変える


エネルギー業界が大きな転換点を迎える中、2024年4月に西部ガスホールディングス社長に就任した。

引き続きガスエネルギー事業を中核に据えつつ、ESG経営を徹底することで組織の価値観を変え、脱炭素社会で社員が誇りを持ち続けられる企業としての礎を築く。

【インタビュー:加藤卓二/西部ガスホールディングス社長】

かとう・たくじ 1985年西南学院大学法学部卒、西部ガス(現西部ガスホールディングス)入社。2010年エネルギー企画部部長、16年理事、18年執行役員、20年常務執行役員、21年取締役常務執行役員などを経て24年4月から現職。

志賀 社長就任を打診された際、即承諾したそうですね。

加藤 酒見俊夫会長(現相談役)からの打診に間髪入れず「頑張ります」と答えてしまい、その後に「私のような者で大丈夫でしょうか」と付け足すことになりました。道永幸典社長(現会長)からは、「漫画一コマの間もなく受けたね」とからかわれ、その後、北九州の取引先の間では即答することを「加藤の1秒」と言われていたようです。社長になればさらにいろいろなことにチャレンジできるのですから、私としては「よし来た」でしたね。

志賀 24年4月の就任からこれまでをどう振り返りますか。

加藤 正解が分からない中でのかじ取りだからこそワクワクする反面、経営資源を預かる職責の重みを感じています。同時に、当社グループで働く社員が「自信と誇り、プライドを持って業務に取り組むグループ経営」を実践したいという強い思いもあります。そのためには、経営層が大汗をかいて取り組んでいることを可能な限り感じてもらう必要がある。そこで、私の人となりを含め社長としての考えや方向性を正しく伝えようと、グループ報ウェブサイトに動画配信チャンネル「卓二の部屋」を開設しました。「形式百回は、ありのまま一回に如かず」という気持ちで、さまざまな動画を配信し、経営層とグループ社員の距離を縮めていきたいと考えています。今後は少し業務寄りの内容を増やそうと思案中です。


人的資本経営に注力 社員の誇りを高める

志賀 社長としての抱負は。

加藤 現在の事業環境は、前門の「ガス小売全面自由化」、後門の「脱炭素化」の様相です。そこにウクライナクライシス、電源調達価格の高騰、LNG産出国のトラブルなどが重なり、経験則の無力さを感じています。こうした状況下でも日々現場で働いているグループ社員、そしてその家族が、2050年においても西部ガスグループに勤めていて良かったと誇りを持てる礎を築くことが私の役割です。会社は株主のものですが、社員が幸せを感じながら生きるための源泉でなければなりません。

動画配信などを通じ、社員との距離を縮めている

ESG(環境・社会・ガバナンス)経営の徹底は、そのためのミッションの一つであり、「サステナビリティ経営」「資本コスト経営」「グループネットワーク経営」、そして「人的資本経営」にチャレンジしていきます。特に人的資本経営については、DX(デジタルトランスフォーメーション)化による労働環境の再整備・スマートワーク化やキャリア採用の拡大を進め、ダイバーシティと健康経営、女性活躍推進に取り組みます。文字通り、ワークフォースから西部ガスグループ社員ならではのヒューマンリソースへの転換です。これは、既存組織の価値観や既存制度の文化を変えることになり、一朝一夕に達成できるものではありません。しかし、このパラダイムシフトと脱炭素に向かう経営合理性の追求をパラレルに進めるという、現代ミッションとして挑んでいかなければなりません。何よりも、人材育成とPDCAの徹底、そして新規事業を創出できるマネジメント力を強化する必要があります。