【西部ガスホールディングス 加藤社長】人的資本と結合力が軸 現場実装で成長循環へ「伝わる経営」を深める

この数年間で収益性の低い事業の整理や撤退を進め、総合エネルギーや不動産といった四つの事業領域に、成長への投資を集中させる体制を築いた。

人への投資によって組織能力を高め、成長の循環を作り上げようとしている。

【インタビュー: 加藤 卓二/西部ガスホールディングス社長】

かとう・たくじ 1985年西部ガス(現西部ガスホールディングス)入社。2010年
エネルギー企画部部長、18年執行役員、20年常務執行役員、21年取締役常務執行役員などを経て24年4月から現職。

井関 7月28日に熊本県熊本地方で震度7の大規模地震が発生しました。西部ガスの供給エリアでは、地震の規模に対して被害規模が小さく翌日には復旧しました。10年前の教訓が相当生きたのではないでしょうか。

加藤 今回の地震では、震度7という非常に大きな揺れを観測しましたが、お客さまへの供給影響を最小限に抑え、翌日には復旧することができました。過去の大規模災害で得た教訓を踏まえた、設備の耐震化や供給停止方式・基準の見直し、復旧訓練の継続などの成果が大きく表れたと考えています。また、発災直後から現場社員や協力会社が迅速かつ的確に対応してくれたことも重要な要因でした。一方で、自然災害は想定を超える形で発生する可能性があります。今回の対応を改めて検証し、新たな課題を洗い出すことで、さらにレジリエンス(強じん性)の高いエネルギー供給体制の構築に努めていきます。お客さまに安心してガスをご利用いただけるよう、不断の備えを続けていきます。

ROICを成長の手段に 四つの領域へ集中投資

井関 昨年度スタートしたグループ中期経営計画(2025~27年度)では、新たな財務目標にROIC(投下資本利益率)を掲げています。

加藤 当社ではROIC経営を単なる財務規律や過去の投資を評価する指標ではなく、将来の成長につなげるための経営手法として位置付けています。これまでの多角化経営により確かに事業のすそ野は広がりましたが、ポートフォリオの中に低収益な事業が混在することになってしまいました。この数年間で収益性の低い事業については整理、撤退を進め、事業ポートフォリオは着実に筋肉質になってきています。とはいえ、バランスシートには依然として低収益な資産が存在しており、資本効率を一層高める観点から、保有資産を精査し、より収益性の高い分野に厳選して投資を振り向けるべく選別を行っているところです。

井関 それと並行して、経営の根幹として重視されているのが人的資本経営ですね。

加藤 人的資本経営とは循環型成長戦略でなければならないと考えています。福利厚生の充実や賃上げだけすれば良いのではなく、人への投資によって、組織能力やエンゲージメントを高め、他社が容易に模倣することができない競争優位性を生み出さなければなりません。その結果として、資本効率が向上し創出したキャッシュを再び社員の処遇改善や将来の成長投資に振り向けることでさらなる成長の循環を作りだすことができます。

井関 成長に向け重点事業領域として見据えているのは。

加藤 現在、グループの成長領域を四つの柱に整理し経営資源を集中させています。中核である総合エネルギー事業、安定収益を支える不動産事業、成長に挑戦するひびきLNG基地を活用したグローバルエネルギー事業、そして地域のお客さまの暮らしに寄り添う食関連事業とウェルビーイングです。少なくとも私の在任中はこの四つを成長の柱にしていく考えです。その戦略の基盤として①資本コスト経営②サステナビリティ経営③グループネットワーク経営④人的資本経営を位置付けており、これらを一体的に推進することで、持続的な成長と企業価値の向上を目指していきます。

井関 成長のエンジンとなるのがグローバルエネルギー事業ですね。

加藤 大手エネルギー会社のような海外の上流権益獲得を目指すのではなく、ひびきLNG基地を活用した独自の成長を目指しています。LNGの積み替え輸送や、LNGバンカリング、「ガッシングアップ/クールダウン(GUCD)」、LNG船向けサービスなど、基地インフラを活用した収益機会の拡大を目指しており、GUCDは昨年も非常に高い収益を生みました。さらに3号タンクが稼働する29年以降は、需要期と非需要期の需給ギャップを活用したLNG運用が可能になります。ベトナムなど成長市場でのインフラ案件への厳選した出資・参画を進めながら、ひびきLNG基地のポテンシャルを最大限引き出していきます。昨年4月にJERAとひびきLNG基地の戦略的活用で提携し、これを機に入社4年目の優秀な若手社員を出向させました。最先端のグローバルエネルギー事業を現場で学び、将来の事業を担う人材への成長を期待しています。

九州電力と共同開発したひびき発電所

【特集2まとめ ライフライン強靭化】

7月の熊本地震や8月の千葉豪雨など大きな災害が毎年のように日本を襲う。
国は災害が頻発する昨今の状況に危機感を抱き、新たに防災庁を設置して事前防災や災害時における早期復旧の仕組みづくりに注力する。
防災とエネルギーの観点から人材育成に取り組む大学機関や、エネルギー事業者などへの取材を通じて災害対策の最新事情に迫る。

【アウトライン】事前防災でインフラを守る デジタル技術で強靭化へ

【インタビュー】防災庁が担う新たな役割 国全体の防災司司令塔に

【インタビュー】千葉商科大学が防災・エネルギーセンター設立 学生の人材育成に取り組む

【レポート】映像・AIで情報を即時共有 事故防止と対応力を強化する西部ガス

【レポート】高密度観測で地震被害を把握 ガス供給の早期遮断を実現する東京ガスネットワーク

【レポート】関西電力送配電が離島の配電設備を遠隔点検 ドローン導入で保守を効率化

【レポート】コスモ石油が製油所の点検にロボット活用 異常の早期検知で保全高度化

【トピックス】通信インフラ稼働に貢献 LPガスで非常時の電力確保支える伊藤忠エネクスグループ

【トピックス】燃料設備の信頼性が向上 有事と平時に供給力を提供するタツノ

【トピックス】ガスと電力を一体で提案 老健施設の安定運用を支えるI・T・O

【トピックス】予防保全支える新端末を導入 鉄塔の遠隔監視業務を進化させる東電設計

【沖縄電力 横田社長】将来の価値創出に向け 設備投資を着実に進め 強固な基盤を作り上げる

燃料価格高騰や小売り料金規制の見直し、そして脱炭素化への要請など、課題が山積する中で社長に就任した。

設備投資と業務効率の改善を進め、価値創出に向けた基盤を構築する。

【インタビュー:横田 哲/沖縄電力社長】

よこだ・てつ 1991年琉球大工学部電気工学科卒、沖縄電力入社。取締役送配電本部電力流通部長、取締役常務執行役員・IT推進本部長、副社長・経営戦略本部長などを経て2026年4月から現職。

井関 4月に沖縄電力社長に就任しました。どのような思いで引き受けましたか。

横田 打診があったのは年が明けた頃でした。全く想像もしていなかったことで非常に驚きましたし、即座に返事をすることができず「少し考えさせてください」と伝えるのが精いっぱいでしたね。その後、家族にも相談しながら1週間ほど悩み抜きました。最終的に引き受ける決め手となったのは、当社が直面している課題の性質と、自分自身のキャリアが合致していると思い至ったからです。私は入社当初から送配電部門で鉄塔巡視や設備の更新作業、基幹系統の建設現場での検査といった技術の現場を歩んできました。当社は現在、送配電部門だけでなく、発電側でも老朽化した設備の更新時期を迎えており、設備投資が非常に膨む時期にあります。同時に、脱炭素に向けた取り組みも進めていかなければなりません。さらに、2022年のウクライナ危機で燃料価格が高騰し、当社の財務基盤が大きく毀損してしまっている状況にあります。こうしたバランスを考慮しながら確実に対応していかなければならない重要な局面において、一つひとつ丁寧に課題を解決していくことが今の時期に求められているのではないか、現場で鍛えていただいた私だからこそできる対応があるのではないか―と考え、バトンを受け取る決意をしました。

また、これまでAIやDX(デジタルトランスフォーメーション)の活用による業務効率化、資機材調達の効率化を図る「PXプロジェクト」などにも携わってきました。物価高騰が続く中で適切な資機材調達を行うため、現場と調達部門が一体となった改革に取り組み、成果を上げています。この取り組みを調達分野に留めることなく、全社的な業務効率化へと推し進めていく役割を担っていきたいと考えています。

業務効率改善に成果 4期連続の増配を発表

井関 25年度の業績は減収増益となり、業務効率改善の成果が着実に出ている印象です。

横田 中期経営計画における25年度の連結経常利益120億円という財務目標には届きませんでしたが、厳しい事業環境下で81億円の連結経常利益を確保できたことは一定の成果だと捉えています。目標未達の背景には、想定以上の物価高騰がありました。資機材によっては20%以上値上がりしており、それらが利益を圧迫しました。一方で、株主還元については、財務基盤が着実に回復してきたことを踏まえ、26年度の年間配当予想を前年度から20円増配の1株当たり50円としました。今後も安定供給や成長投資、財務状況とのバランスを図りながら、DOE2・0%以上を維持する方針のもと、安定的かつ持続可能な株主還元に努めていきます。

井関 足元ではイラン情勢などの燃料調達や価格面への影響が懸念されています。

横田 当社はLNGをオーストラリア、石炭をオーストラリアおよびインドネシアから調達しているので、ホルムズ海峡の封鎖などが調達を直接的に脅かすことはありません。とはいえ、価格面での影響は避けられません。石油価格の上昇に連動してさまざまな物価が上がっており、世界的な船舶用燃料のひっ迫などにより、輸送コストへの影響も生じています。特に当社の場合、離島での発電燃料の全てが石油です。石油自体は国内の製油所からしっかり確保できているため調達量の問題はありませんが、価格面での影響を注視している状況です。

井関 新たな中期経営計画がスタートしました。

横田 県内の経済団体などが主導する「GW2050 PROJECTS」において、50年に向けた沖縄の成長戦略として、県内総生産を現在の約4・9兆円から11兆円規模に拡大していくといったビジョンが示されています。当社もこの動きと連動しながら成長していくに当たって、26年から30年までの足元5年間を「未来基盤創造フェーズ」、その後は「価値創出フェーズ」へと移行し、50年のありたい姿の実現を目指します。2段階に分けたのは、送電網の増強や供給力の確保といった成長に必要な設備投資が目白押しだからです。利益を確保しながらしっかりと投資を行い、まずは電気事業における強固な基盤を作らなければ、将来の大きな需要を取り込む「価値創出」を実現することなど、とてもできません。

井関 未来基盤創造フェーズにおける具体的な取り組みは。

横田 主に四つの経営テーマを設定しています。一つ目が、発電・送配電・小売の各部門でサプライチェーン全体を強化し、安定供給と収益力の向上を両立することです。二つ目が、AIやデジタル技術を活用する「AX」によって業務オペレーションの改革を進めること。三つ目が、低炭素化に向けた沖縄エリアの「ジャスト・トランジション」を進めることです。24年に運転を開始した牧港ガスエンジン発電所(浦添市、4万5000kW)に続き、牧港火力発電所では、天然ガスを燃料とする高効率な新規電源(約13万kW)を、32年度中の運転開始を目指しています。そして四つ目が、 沖縄の成長と連動し、まちづくりや新産業の創出などグループの強みを生かした事業領域の拡大を進めることです。

未来基盤創造フェーズを経て価値創出フェーズへ

【電源開発 加藤社長】大間の工事本格再開へ 現実的トランジションで 次代エネルギーを支える

中東情勢を機にエネルギー安全保障の重要性が改めて浮き彫りとなった。
既存電源の活用も含めた現実的なトランジションを模索しつつ、最大の課題・大間原子力を次の段階へ進める。

インタビュー:加藤 英彰/電源開発社長

かとう・ひであき 1989年神戸大学経済学部卒、電源開発入社。経営企画部長、執行役員、常務執行役員、取締役常務執行役員などを経て4月から現職。

井関 4月に社長に就任されました。故菅野等前社長からどのような思いを託され、経営に臨みますか。

加藤 菅野前社長とは、企画担当役員として日頃から経営課題について共に悩み、経営戦略や計画について議論してきました。そのためか、社長という職責を託される際には特に具体的な指示はなく、ただ「あとを頼む」と言われ「頑張ります」と答えました。当社の事業領域は時間軸が極めて長い設備産業であり、扱う商材は公共性の高い電力です。それにもかかわらず、ますます短期的な意思決定を求められる状況にあり、このジレンマをどう共存させて経営のかじ取りをしていくかが難題です。覚悟はしていたとはいえ、社長を支える立場と全責任を負う立場では重圧が全く違うと実感しています。きちんと課題に向き合い、的確に経営判断していきたいと考えています。

井関 これまでの会社人生で印象に残っていることは。

加藤 新入社員として最初に配属されたのが、松浦火力1号機の建設最終段階の現場で、とても活気のある現場でした。まさに「電源開発」という社名を体現する仕事を入社早々体験できたことが印象深いですね。その後、豪州の炭鉱権益取得、2004年の完全民営化、そしてカーボンニュートラル(CN)に向けた「BLUE MISSION2050」の策定など、会社の重要局面でさまざまな仕事に携わってきました。

井関 事業環境が不透明さを増す中で、どのような会社を目指していきますか。

加藤 当社は、他の電力会社ができないことに取り組むことを目的とする特殊会社として設立されたという経緯があります。だからこそ、さまざまな国・地域でバランスの取れた設備構成と事業ポートフォリオを築くことができました。先行きは不透明ですが、AI社会は電気がなければ成り立ちません。どのようなアセットの持ち方をすれば、発電の価値を最大化できるかは、国や地域によって異なりますので、先進国ではアセットの新陳代謝を追求し、東南アジアではPPA(電力販売契約)付きのガス火力や水力開発に取り組むといった具合に、それぞれの環境にとって最適なアセットを選択することが求められます。

【記者通信】イオンモール熊本爆発事故 マスコミが報じない事実と疑問点 ※アップデート版

7月28日午後4時27分ごろに起きた熊本地震から約1時間20分後の午後5時46分ごろ、熊本県嘉島町にあるイオンモール熊本で爆発事故が発生し、死亡者7人、負傷者5人を出す大惨事となった。施設に供給されているLPガスが原因とみられており、警察、消防、関係機関などが中心となり現地調査が進められている。LPガス関係では、1983年11月22日に「ヤマハレクリエーションつま恋」(静岡県掛川市)の飲食店でコックの閉め忘れによる爆発が起き、客や従業員ら14人が死亡、27人が重軽傷を負った事故がある。今回の事故原因がLPガスとすれば、死傷者の数ではそれに次ぐ規模となる。また爆発自体の規模では過去最大級と見る向きもあり、LPガス関係者に大きな衝撃を与えている。

イオンモール熊本が爆発した瞬間の画像=YouTubeのスクリーンショットより

取材で浮上した事実関係や疑問点 「白ガス管の損傷でガス漏洩?」

エネルギーフォーラムがLPガス関係者や都市ガス関係者などを対象に独自に取材を進めたところ、現時点で次のような事実関係や疑問点が浮上している。

●イオンモール熊本のLPガス供給事業者は、福岡酸素(本社=福岡県東久留米市)。同施設には9.3t級のバルク容器が設置されており、そこからガスが供給されている。同施設の場合、法令上は原則として「液化石油ガス法」の特定供給設備(3t以上10t未満)に該当。保安責任は、ガス供給事業者側(供給設備=バルク貯槽〜メーター)と商業施設側(消費設備=メーター以降の施設内配管・厨房機器など)の双方にある。

●※福岡酸素は8月5日、経産省に次の内容を報告。〈令和8年熊本地震発生により、何らかの要因で建物内のLPガス配管が損傷しガス漏洩が起こり、滞留したLPガスに着火した可能性があるとのことだが、現時点では原因の特定には至っていない。詳細については、現在、調査中〉

●関係者によれば、イオンモール熊本にはLPガス仕様の※ガス空調設備(吸収式冷温水機か)が複数台設定されているとみられ、主に空調用に利用されている模様。ガスエンジンを併設したガスコージェネレーションシステムなのかどうかは、現時点で不明(※経産省が3日明らかにしたところによると、ガスコージェネやガス発電機は設置されていないことが確認された)。イオンモール施設から駐車場を挟んで東側には天然温泉の施設があり、そこに向けて熱供給が行われている可能性もある。

●LPガスは、バルク貯槽からまず※大口径の中圧管で供給され、その後、低圧管に減圧されているとみられる。エネルギー機器のある棟は、バルク貯槽が設置されている場所の近隣にあり、中圧で供給されている可能性がある。店舗が入っている商業施設(主に飲食店)には低圧で供給されている。

●公開されている映像を見る限り、今回の爆発は2階南側中央部付近(ガス空調設備のある棟の隣)で起きている。(※フロアの天井部に敷設されているフードコート向けの低圧管がどこかで破損し、大量のガス漏れが発生した可能性がある)

●ガス業界の関係者によれば、配管からの漏洩に関しては、耐震性に優れる中圧管の損傷は敷設場所的にも考え難い。また、低圧管にしても最近は地震に強い金属製のフレキ管が主流(※ガス業界関係者によると、イオンモール熊本の施設内の低圧管ではフレキ管ではなく、白ガス管=配管用炭素鋼鋼管が使用されていた可能性が高いという。低コストや耐食性などの面から現在でも屋内配管では白ガス管が採用されるケースがある。白ガス管の問題は地震などの大きな衝撃により、ねじ接合部からのガス漏れがフレキ管に比べ発生しやすい傾向があるとされること。また経年劣化も進みやすいという)。

●問題の一つは、地震の揺れで自動的に機能するはずのガス遮断弁がなぜ作動しなかったのかだ。遮断弁はバルク側と飲食店側にそれぞれ設置されているという。関係者によれば、バルク側の遮断弁はI・T・O製で、主に震度5強以上作動型と震度6強以上作動型の2種類がある。嘉島町の震度は6強相当とみられているが、イオンモール熊本の立地する場所は遮断機能が作動するほどの揺れではなかったのではないかとの見方も(※実際、地震直後の避難時の動画などを見ると、陳列物が飛散していない店舗が散見される)。そうなると、遮断弁は作動せず、ガス供給がそのまま続いていた可能性は否定できない。

●一方で、バルク貯槽側の遮断弁は正常に作動しており、ガス機器や配管内に残留していたガスが破損個所から漏洩したと見る向きもある。(※イオンモール熊本のガス設備事情に詳しい関係者によると、バルク側にある遮断装置自体は正常に作動し、ガスを遮断していたという。ただ、遮断装置の接合部などで問題が発生していた可能性は否定できず、現時点で調査中)

●※バルク貯槽からのガス供給が遮断されていたとしても、太い中圧管も含めれば遮断装置以降のガス設備内に残留していたガスは相当な量になるとみられる。破損したガス管からLPガスが漏れ続け、空気より重いという性質上、施設南側中央部付近にある空間にLPガスが充満(※空気中の濃度で2.1%〜9.5%)。地震発生から約1時間20分後に何らかの形で着火し、爆発した可能性がある。(※一部報道によると、一般公開されているフロアアップには載っていないが、爆発したとみられる施設南側中央部には、自動販売機のある喫煙所があり、そこにガスが溜まり、自販機の温度調整機能が着火源になった可能性があるという。また、その隣には階段を挟んで従業員の休憩所があったという)

防災拠点の商業施設 大規模リニューアルしたばかり

イオンモール熊本は05年10月10日、「ダイヤモンドシティ・クレア」としてオープンした。16年4月の熊本地震で損傷し、18年7月20日に復旧したのを機に、西側エリアを増床した「ウエストスクエア」が完成。24年10月から25年春にかけて段階的に約40店舗を刷新するリニューアルを実施。26年6月13日に直近の大規模リニューアルが完成し、新装オープンしたばかりだった。東日本大震災の教訓から経産省の推進する「大規模施設のLPガス化政策」の一環として、防災拠点に位置付けられ再整備された商業施設でもある。それが、大爆発したわけだ。

エネルギーフォーラムでは、経産省ガス安全室、イオンモールの両者に取材を依頼したが、いずれも「現在調査中のため答えられない」と回答だった。

いずれにしても、テレビやネット上で公開されている車載カメラなどの映像を見る限り、すさまじい大爆発だったことは間違いない。もし施設からの避難が遅れていた場合、さらに多くの犠牲者が出ていたことは容易に想像がつく。映像を見た多くの国民が「やはりLPガスは危険」と思っても不思議ではないだろう。実際、XなどのSNS上では、今回の事故を巡ってさまざま憶測が飛び交っている。その一方で、大地震などが起きると被災地の避難所や仮設住宅などで、LPガス供給が大きな役割を果たしているのも、歴然とした事実だ。※事故調査委員会を設置したイオンモール側や、経産省などには、同様の事故を二度と繰り返さないためにも、徹底した原因究明が求められる。

※太字がアップデート部分

【特集2まとめ】動き出した柏崎刈羽 発電所と地元経済の今

柏崎刈羽原子力発電所の6号機が今年4月に本格的な運転を再開した。紆余曲折を経て100万kW以上のベースロード電源が動き出した意義は大きい。CO2排出係数の観点や低い発電コストのみならず系統の安定化への寄与が期待される。同時に、今後の地元経済への貢献も求められている。発電所長や商工会議所へのインタビューを通じて地元の今を伝える。

【アウトライン】厳しい安全対策基準をクリア 地元理解得て基幹電源に

【ディスカッション】再稼働の先を見据えて 次世代に描く将来像

【インタビュー】柏崎市民にようやく笑顔戻る 信頼回復に向けた努力を評価

【特集1まとめ】液体燃料の脱石油化 ホルムズ危機で加速するか

米国・イラン戦争の停戦の行方が混とんとする中、
かねてからのバイオ資源争奪戦がさらに激化する可能性がある。
ホルムズショックにより今こそ石油代替燃料の普及は加速するのか。
沖縄での先行導入への動きが始まったE10ガソリン、そして
国際規制強化の行方が注視される船舶燃料を巡る現在地は―。
バイオエタノール一大生産国の米国の最新事情なども踏まえ、
供給面やコストの課題を見据えた次世代燃料導入の現実解を探る。

【アウトライン】外圧受け国内でも高まる導入機運 需給両面で最適な形追求へ

【レポート】新規需要開拓や炭素削減が進展 進化続ける米国の現在地

【寄稿】低炭素化とエネ安保をつなぐ選択肢 エタノールの多様なパスウェイ

【寄稿】安定供給をいかに担保するか 電化難しい分野の現実解

【座談会】重油依存に迫るタイムリミット 船舶燃料の未来予想図とは

【特集2まとめ】分散エネ共生時代 系統と融合する多様な供給網

火力や原子力など大規模電源を核に、

今日の電力供給網は整備されてきた。

だが今、分散型のエネルギーシステムへの注目度が

日に日に高まっている。

建設ラッシュのデータセンターなど、

新たな需要向けの供給源として期待されているのだ。

コージェネや再エネなど多様な分散型を駆使した、

新たな時代の安定供給体制とは―。

従来のシステムと融合していく分散型の今を追う。

【アウトライン】急ピッチのDC向け供給インフラ整備 小回り利く電源が新戦力に

【インタビュー】運用の柔軟性が強みに 熱の脱炭素化が重要課題

【レポート】TGESが大型コージェネを活用 DC向けに早期のエネ供給実現

【レポート】東急不動産が北海道内の再エネのみでDC運用

【トピックス】次世代ITイベントで注目 熱利用産業と一体の電力インフラ整備

【レポート】水素の供給量に合わせた空調運転実現へ 大阪ガスなどが仕様検討進める

【レポート】AIを使った熱供給の運転自動化に挑む丸の内熱供給

【トピックス】広島ガスの2MW級バイオマス発電所が運開

【トピックス】静岡で鈴与のマイクログリッドが稼働

【九州電力 西山社長】包括的なサービスで付加価値を高め 選ばれる企業を目指す

電力需要の増加が予想される九州エリアにおいて、電源の低・脱炭素化と電化の推進でカーボンニュートラルの実現に貢献する。

5月に新エネルギーソリューションブランドを立ち上げ、高い信頼を武器に利益の拡大を図る。

【インタビュー:西山 勝/九州電力社長】

にしやま・まさる 1986年東京大学経済学部卒、九州電力入社。22年常務執行役員コーポレート戦略部門長、23年取締役常務執行役員エネルギーサービス事業統括本部長などを経て25年6月から現職。

井関 中東情勢が緊迫した状況が続いています。当面の電力需給への影響をどのように見ていますか。

西山 電気は価格弾力性がそれほど高くなく、電力需要は「気温」や「経済活動」に大きく左右されます。今夏は酷暑が予想されていますが、九州エリアも安定供給に必要な予備率3%をしっかりと確保しています。注視しているのは、中東情勢に伴う経済活動への影響です。産業用・業務用を中心に需要が下振れすれば、当社の収支に影響します。


燃料価格は上昇傾向も 料金改定は慎重に見極め

井関 2026年度の業績予想には影響をどう織り込んでいますか。

西山 今期の業績予想については、足元で燃料価格や卸電力取引所の価格が高めに推移している状況や、年度末に向けて原油の先物価格が緩やかに下がっていく見通しなどを総合的に踏まえて策定しています。物価や燃料価格のさらなる上昇による費用の増加や経済活動の停滞などによる電力需要減など、中東情勢の緊迫化による影響は未知数であり、小売販売電力量の想定には反映していません。

燃料価格の上昇に関しては、火力発電用燃料の価格変動を毎月の料金で調整する「燃料費調整制度」があるため、単年度の収支では一時的な「期ずれ影響」が出るものの、制度の仕組み上、最終的な収支への影響はニュートラル(中立)との認識です。ただし、燃料価格が高い水準のまま推移した場合、料金に転嫁できない部分が発生する恐れがあります。そのため、引き続き緊張感を持って状況を見極めていきます。

井関 料金改定を視野に入れていますか。

西山 これが一過性の変動であれば、拙速に料金改定へと動くべきではないと考えています。九州エリアは現在、「人」「水」「電気」がそろう地域として企業の進出、引き合いが非常に強いという好循環の中にあります。この勢いを削がないためにも、料金見直しは慎重に判断していきます。

井関 脱炭素化と電力の安定供給の両立に向けた取り組み状況を教えてください。

西山 安全性の確保を大前提に、供給安定性、経済性、環境性の両立を目指す「S+3E」の観点は大変重要です。特に日本の場合はエネルギー資源の大部分を海外に依存しているので、安定供給に軸足を置く必要があります。その中で私たちは中長期的な視点に立ち、安定供給に加え、CNへの取り組みが不可欠だと考えています。

当社では、2050年のCN実現へ、供給側における「電源の低・脱炭素化」と、需要側における「電化の推進」を柱として、事業性と安定供給を前提にサプライチェーン全体でGHG(温室効果ガス)の排出を抑制していきます。お客さまに対しても、排出原単位が低い電力を供給することなどによって、社会全体の排出削減に貢献していく方針です。

井関 半導体工場の誘致やデータセンター(DC)建設などにより、電力需要の増加が見込まれます。

西山 広域機関が公表した26年度の供給計画では、35年度断面における九州エリアの需要は25年度比で3%程度増加するとの想定が示されています。一方で、足元の半導体工場の集積やDCの新規建設に関する報道などを踏まえた当社独自の想定では、将来的に需要が20~30%程度増加すると試算しています。情勢変化によって時間軸が後ろ倒しになるかもしれませんが、拡大トレンドは間違いありません。

これに対する取り組みは着実に進んでいます。今年3月には、西部ガスと共同開発した「ひびきLNG火力発電所」が運転を開始したほか、運転開始から40年以上が経過し高経年化が進む「新小倉発電所」のリプレースについて、第3回長期脱炭素電源オークションで落札し、33年度の運転開始を目指しています。いずれの発電所においても将来的には水素などのカーボンフリー燃料の導入を視野に入れており、引き続き、安定供給と脱炭素を両立する最適な電源ポートフォリオを目指します。

原子力と再エネ、火力で最適な電源ポートフォリオを構築する
提供:ひびきウインドエナジー㈱

【中国電力 中川社長】電源の低炭素化と市場対応力の強化で 経営の安定化に努める

エネルギーを巡る地政学リスクが高まる中、グループ経営ビジョン2040の達成に向け中期経営計画とアクションプランを策定した。

強固な供給基盤と一層の市場対応力強化により、変革期における経営の安定化と成長を目指す。

【インタビュー:中川賢剛/中国電力社長】

なかがわ・けんごう 1985年東京大学工学部卒、中国電力入社。2017年執行役員・経営企画部門部長兼原子力強化プロジェクト担当部長、21年常務執行役員・需給・トレーディング部門長などを経て23年6月から現職。

井関 まずは、2025年度の業績の振り返りから。決算としては減収減益となりましたが、全体をどう評価していますか。

中川 売上高は、エリア内外での需要獲得による小売販売電力量の増加はありましたが、燃料価格が比較的低水準で推移したことによる燃料費調整額の減少などにより減収となりました。経常利益は、昨年1月に島根原子力発電所2号機が営業運転を再開し、年度を通じた安定稼働により、収支面で大きなプラス効果をもたらしましたが、卸・小売事業における他社との競争進展の影響などに加え、送配電事業の利益減、市場金利の上昇等に伴う支払利息の増加などもあり、減益となりました。

井関 26年度の業績見通しについてはいかがですか。中東情勢は極めて不透明で、先を読むことが難しいと思いますが。

中川 おっしゃるとおり、中東情勢を含め先行きは非常に不透明です。26年度は、原子力発電所の定期事業者検査による稼働の減少などに加え、足元で高騰している燃料価格が年間を通じて高止まりする前提のもと、大幅な燃料費調整制度の期ずれ差損などによる減益を見込んでいます。さらに、今後の燃料・資機材調達環境の悪化や国内製造業の生産動向に伴う電力需要の変動など、収支に影響を与えるリスクは多く、リスク管理のさらなる高度化に取り組むとともに、電力需要の獲得、島根原子力発電所の安定稼働、市場の価格変動を捉えた取引による収益獲得や経営全般にわたる効率化を図るなど、引き続き業績の改善に向けて取り組んでいきます。


中東情勢の長期化懸念 リスクを慎重に見極め

井関 燃料調達への影響は。

中川 長期契約が多く、直ちに電力供給に支障が生じるような影響は受けていません。それでも中東情勢の混乱が長期化すれば調達価格上昇などの懸念がありますので、しっかりと注視していく必要があります。

井関 ナフサ価格の高騰による産業用電力需要への影響はありますか。

中川 瀬戸内地域は石油化学コンビナートが集積しているため、ナフサ価格高騰の影響を受けているという話を各方面から聞いています。ただ、当社の電力需要の実績を見る限りでは、現時点で極端に大きな需要減といった変化は見られません。決して楽観はできませんが、政府側でもサプライチェーンの目詰まりを解消するためのきめ細かな調整を進めていると聞いており、今後の動向を注視していきます。


経営ビジョン実現へ 5年間の中計を策定

井関 4月に5年間の「Action Plan 2030」を発表しました。ポイントをお聞かせください。

中川 当社グループは昨秋、40年度をターゲットとして新たに「中国電力グループ経営ビジョン2040」を策定しました。このグループ経営ビジョンの実現に向けた実行計画として、26年度から30年度までの5年間を対象とする「中国電力グループ中期経営計画」を策定し、その概要を取りまとめたものが今回のアクションプランとなります。経営ビジョンで示した30年度の経営目標(財務目標・サステナビリティ目標)の達成に向けて、具体的な施策・取り組み内容を一段と深掘り・拡充した点が特徴です。将来の成長に向けた「稼ぐ力」の強化と、PBR(企業価値)向上の蓋然性を高めるための実行計画として、「成長戦略」「財務戦略」「サステナビリティ戦略」の三つの柱で整理しています。

また、この5年間を、経営基盤を回復させるステージから一歩踏み出し、「持続的な成長に向けた変革と基盤づくり」を力強く進める期間と位置付けており、島根3号機の新規稼働および柳井新2号機(LNG火力)の建設や次世代送配電ネットワークの整備など、大型投資をはじめとする将来の成長に必要な取り組みを着実に実行し、グループ経営ビジョンに掲げる30年度の経営目標の達成に向けて取り組んでいきます。

グループ経営ビジョン実現に向けてAction Plan 2030を打ち出した

【論考】米イラン「イスラマバード覚書」 ペルシャ湾は「イランの海」に⁉

米国およびイスラエルが、イランの現体制打倒、あるいは「無条件降伏」という空想的な戦争目的に沿って開始した無謀な戦争の結果、米国はペルシャ湾における覇権を失い、今後ホルムズ海峡・ペルシャ湾はイランの勢力下に置かれることになりそうだ。というのも、6月17日に米・イラン両国首脳によって署名、即時発効した14項目から成る両国間の戦闘終結の覚書(イスラマバード覚書)が、この覇権の交代を事実上認めているためだ。

覚書はその第5項で「ホルムズ海峡における将来の管理および海事サービスを定義する」主体を、事実上、イランと認めている。オマーンとの対話、ペルシャ湾岸諸国との協議、また国際法遵守という制約は加えられているが、この「対話・協議」から米国は除かれている。イランはオマーンおよび湾岸諸国のみを相手に、同項で言及された「ホルムズ海峡沿岸国(すなわちイラン、オマーン)の主権的権利」を根拠に、軍事的優位を背景として自国本位に海峡管理を「定義」し得る。イランはホルムズ海峡の無償航行を当面60日間認めるが、その後はこの「定義」次第となる。

4月末にイラン最高指導者モジタバ・ハメネイ師は、ホルムズ海峡に「新たな管理」を導入すると声明。イラン政権は5月に「ペルシャ湾海峡庁(PGSA)」を、海峡通航を管理する「法的機関・代表当局」として設け、覚書合意成立後も、通航する商船に対してPGSAへの事前申請および、一方的にイラン領海内に設定した航路での通航を要求している(国際海事機関(IMO)が定める従来の分離航路はオマーン領海を通っていたが、今回の開戦後イランは当海域に機雷を敷設し、北側の自国領海通過を商船に強要してきた)。また60日間の無償航行に関して、PGSAは安全・環境等の「サービス」及び関連の「保険」料金の一時免除、と説明しており、将来これらの名目で事実上の通航料を課す意図を隠さない。

5月20日にPGSAが公表した「管轄区域」は、フジャイラ等のUAE沿岸をも含んでいる。直後のIMO会合において、UAE、サウジアラビア、クウェート、カタールおよびバーレーンは共同声明を出し、PGSAという機構自体を拒絶。5月27日に米財務省もPGSAを制裁対象に加えていた。しかし今回の覚書により、イランはその海峡管理を強く正当化できる。海峡航路、「サービス・保険」料その他の通航方式、管轄区域等をめぐりイランと湾岸諸国は鋭く対立するが、米国が航行自由確保に最終的に関与しない以上、湾岸諸国の抵抗も何らかの妥協を探る「条件闘争」に止まろう。既に6月23日にオマーンはイランとの間で「通航管理・サービス」費用に関する共同作業部会の立ち上げを合意している。

【フォーラムレポート】どうなる!? 六ヶ所再処理工場の竣工 計算狂う福井・青森の焦りと覚悟

今年度中の竣工を目指す六ヶ所再処理工場の審査が大詰めを迎えている。

審査の遅れが青森・福井の計算を狂わせる中で両県知事は……。

杉本達治前知事の〝セクハラ辞任〟からはや半年。1月に就任した福井県の石田嵩人知事は4月28日、経済産業省で赤沢亮正大臣と向き合った。緊張した面持ちで用意していた原稿を読み上げ、使用済み燃料対策や地域振興などを要望した。

石田氏はノンキャリアの外交官出身の36歳。1月の県知事選では、一部保守系が支援に回ったとはいえ、自民党の支持候補を被った。出馬表明するまでは国民民主党員だったといい、国政選挙や党一地方選への出馬を模索していた節もある。

「知事選で負けた後に国政選挙を狙っていたのでは。本人もまさか当選するとは思っていなかっただろう」(ベテラン県議)

たとえ勝利を想定していなかったとしても、いま彼が背負うのは4原発が所在する福井県の知事という重責だ。原子力政策上、最重要自治体の一つと言っていい。

ぎこちなさが残る福井県の石田知事

意志感じぬ石田新知事 乾式貯蔵の建設容認は

赤沢氏との面談後のぶら下がりでは、珍しい出来事があった。

県の担当者が記者団に対して、「知事が(面会を)振り返る時間がほしいと言うので5分ほどお待ちください」と告げると、石田氏は記者から見えない位置へ。県職員と想定問答を繰り返したのだろうか。直後の質疑では暗記した文章をそのまま話しているようで、その言葉から「意志」は感じられなかった。

「原子力のレクを受けても、理解こそするが、自分のものになっていない。まだアイドリング状態だ」「みんなで育てていくしかない」(県政関係者)

関西電力が福井県に立地する3原発の使用済み燃料プールの容量はひっ迫している。使用済み燃料が行き場を失えば、原発は運転を停止せざるを得ない。命運を握るのは青森県の六ヶ所再処理工場だ。福井県は長らく使用済み燃料の県外搬出を求めており、関電は28年度に同工場への搬出を開始する方針だ。では、もし竣工に遅れが生じたら、原発は運転停止に追い込まれてしまうのか。

回避策はある。敷地内の乾式貯蔵施設の建設だ。同施設の利点は多岐にわたる。「一義的には中間貯蔵より、使用済み燃料の安全な保管という観点で重要だ」(滝波宏文参議院議員)、「国が運転延長・新増設の方針を示す中で、国全体で使用済み燃料の保管容量を確保する必要がある。その上で大きな意義を持つ」(津島淳衆議院議員)

ただ、県は前知事時代から、建設の認否を判断するのは「日本原燃が原子力規制委員会に対して、再処理工場の設計・工事計画の説明を終了した時」としている。竣工でも、操業開始でもなく、「設計・工事計画の説明終了時」というタイミング設定からは、少しでも早く使用済み燃料の〝逃げ場〟を確保したい思いが透けて見える。「6月議会の前に説明が終わっていてほしい」(冒頭のベテラン県議)

原子力とは共存共栄 宮下知事の姿勢は一貫

一方、原子力政策に揺るぎない「意志」をもって対峙するのが、青森県の宮下宗一郎知事だ。ぎこちなさが残る石田氏とは異なり、いつも会見では余裕しゃくしゃく。記者からの質問もクールにかわす。

宮下氏が市長を務めていたむつ市には、東京電力ホールディングスと日本原子力発電が出資する中間貯蔵施設がある。2024年に操業を開始した。ところが、宮下氏は3月31日、同施設への新規搬入について、「26年度は容認しない」と表明したのだ。再処理工場の26年度中の竣工が「確実に遅れる」とした上で、「なし崩し的に燃料だけが搬入される環境をつくるわけにはいかない」との考えを示した。

今年度には柏崎刈羽原発5、6号機から約60tの使用済み燃料の輸送計画がある。来年度以降も宮下氏の拒否姿勢が続けば、88%という6号機の使用済み燃料プールの貯蔵率は上がり続け、さらなる号機間輸送などの対応を取らざるを得ない。27年度を予定する東海第二、敦賀両原発からの輸送にも黄信号が灯る。

「待った」をかける宮下氏の下で核燃料サイクルは回るのか。不安をよそに、関係者は「原子力との共存共栄が知事のスタンス」と口をそろえる。

「知事は原子力や核燃料サイクルの重要性、エネルギー安全保障上の意義を十分に認識している。今回の判断は審査の終わりが見えず、竣工が延期され続けていることに対する県民の不安や懸念を代弁したものだと受け止めている」(神田潤一衆議院議員)

使用済み燃料の保管で得られる核燃料税は、青森県やむつ市にとって貴重な財源だ。宮下氏がこの重みを理解していないはずがない。一方で、50年という保管期限が守られるのか、竣工の遅れで県内経済はどうなるのか─。県民の思いに向き合うのは知事としての責務だ。

宮下氏に近い若手県議は「原子力規制委員会に対して『そろそろいい加減にしろ』という意味合いもあったのではないか」と推し測る。「知事は常に今後何が起こるのか、相当先まで読んだ上で行動する。今回も早く前に進めてもらわないと、地元から反発が出てくるという意思表示だろう」

下北地域は核燃料サイクルの循環による関連施設の操業が経済を支える。むつ市には施設満杯の使用済み燃料が運び込まれ、六ヶ所村では再処理が行われ、大間町ではウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)を燃料に原発が稼働する。東通村でも原発が動き出す─。再処理工場の竣工は、下北地域が描くグランドデザインの結節点だ。

足踏み状態が続く現状に、原子力推進派からは「左翼団体のようにデモを起こせば、国からカネを引っ張れるんじゃないの」と冗談めいた声すら聞こえてくる。立地地域の思いを蔑ろにしてはならない。

【特集2まとめ】中東危機下の省エネ戦略 家庭・業務・産業の最前線

イラン戦争を機に、エネルギー利用の在り方が問われている。

今回の危機を契機に、さらなる省エネを進める必要がある。

1970年代の危機の時と比べて、技術革新が進展しており、

さまざまなエネルギー設備・製品が生み出されてきた。

さらに今は、2050年カーボンニュートラル実現の流れの中で、

水素など化石資源への依存度を抑える取り組みも進んでいる。

家庭用から産業用まで各分野の取り組みを追った。

【アウトライン】化石資源利用の課題再浮上 依存度減へ業界対応が加速

【インタビュー】3年間で7000億円の予算確保 非化石転換の設備更新を支援

【レポート】東京ガスが行動変容と機器制御によるDRを展開

【レポート】大阪ガスがエネファーム拡販 経済性と環境性を追求

【レポート】ベースロード需要を調整する中部電力の「冷蔵庫DR」

【レポート】伊藤忠エネクスが「テラりんアイ」で家電別電力消費量を可視化

【インタビュー】行動変容促す仕組みで社会全体の需要調整を

【レポート】赤坂熱供給が都心エリアの地冷運用にグリーン水素を活用

【レポート】Kenesが大学病院のエネルギー設備を一元管理で最適制御

【インタビュー】SHK制度改正で未利用エネ活用の進展に期待

【レポート】エレクトロヒートセンターが加熱分野で電化を積極推進

【レポート】CN実現へ水素対応商品を拡充 需要開拓を図る東邦ガス

【レポート】三浦工業が「省エネ診断」で工場の課題を見える化

【インタビュー】「省エネとCN」一石二鳥の水素転換

【インタビュー】東京電力パワーグリッドが変圧設備の絶縁媒体に植物油を適用

【記者通信】スマホ紛失3年間で16台 原子力規制庁の危機管理を問う

原子力規制庁の職員のスマートフォン(スマホ)の紛失が国会で問題になった。日本保守党の代表で、作家の百田尚樹参議院議員が同院の経済産業委員会で質問した原子力規制庁の公用スマホの紛失は、2023年度2件、24年度4件、25年度10件と増え、この3年で16件になった。また規制庁側は、紛失場所は明らかにしないとしている。

政府側の危機感を欠けた答弁に、百田議員は不快感を示した。「危機管理なさすぎに呆れるが、もっと驚くのは、「どこで失くしたか?」と何度聞いても絶対に答えないことだ。人を舐めているのか」と批判した。そのXの閲覧数は19万件をこえた。同意する国民が多いということだろう。百田議員の質問と答弁は、SNSやYouTubeに転載されて拡散している。

電力・原子力関係者は、このやりとりと原子力規制委員会・規制庁に、不快感を抱くだろう。同委は、その創設以来、原子力発電所の厳しい安全対策を事業者に求めてきた。そこでは、設備に加えて、人の安全対策もあった。事業者側は再稼働のために、その厳しい要求を受け入れてきた。ところが、それ規制庁側がスマートフォンさえ管理できていない。自分の管理体制に問題があるのに、他人に管理を要求できるのかという疑問を抱いてしまう。

中国への私用旅行で紛失例も

原子力規制庁(NRA)職員の業務用スマホ紛失事件は、昨年末に中国・上海での一件が明らかになった。原子力規制庁の職員が25年11月3日、私的な旅行中に、上海の空港保安検査時にスマホをなくしたもようだ。手荷物を預けた際とみられる。帰国後に3日経過した11月6日に気づき、空港などに問い合わせたが見つからなかった。

このスマホは防災に使う業務用で、核セキュリティー担当部署の非公表職員名・連絡先、職員名簿などの個人情報・機密情報が登録されていた。国外にあるため、追跡や外部ロックができないという。規制庁は、情報漏えいの可能性を否定できず、規制庁は海外持ち出し禁止を注意喚起した。それを含めて25年に12件もスマホ紛失が起きてしまった。またこれによる処分を、規制庁は公開していない。

報道によると、規制庁は約600台の防災用スマホを職員に業務のために貸与しているが管理が甘すぎる。今年5月にトランプ大統領は財界人を連れて中国を訪問した。そこでは訪問者は全員、スマホを中国国内で所持せず、自分のスマホは電源を入れなかったという。必要な人は、使い捨て携帯を国が支給。宿泊施設は完全に盗聴器調査をし、中国から送られたものは全て中国に捨ててきた。そうした情報セキュリティ対策と中国への不信を、米国は世界の報道陣に公開した。米国の姿勢と対比すると、日本の甘さが際立つ。

【記者通信】国が燃料油補助を見直しへ 「目標価格」から「定額」へ変更か?

エネルギーフォーラムが再三問題を提起してきた燃料油補助事業が、見直されることになりそうだ。関係筋によれば、レギュラーガソリン1ℓ当たり170円をターゲット価格に設定し補助額が変動する現行方式から、一律で定額を補助する方式に切り替わる可能性がある。それによって、利用者に価格変動のシグナルが伝わり、高騰時には節約を促す効果も期待できる。ただ、有識者の間では「補助金を中途半端に残すのではなく、財政事情を踏まえて廃止すべきだ」(市場関係者)とする見方も少なくない。出口戦略をどう描くのかも含め、議論の行方が注目される。

首都圏では相変わらず150円台の値札が目立つ(5月17日、千葉県船橋市内のガソリンスタンド)

萩生田光一幹事長代行は5月18日の会見で、イラン情勢を背景にした現在の燃料油補助について「文字通り激変緩和措置なので、この170円を全く見直しせずにこのまま延々と続けるというのも、かなり無理がある」と指摘。その上で、「新しい原油については、輸送のコストなどを含めてかなり高いものになっている。そういったことを国民に理解していただくことも、必要ではないか」との見解を示した。一方で、原油量に関しては「代替国も含めて7割くらいの供給、そして220日分の備蓄がまだある。そういう意味では量的には心配はないところまで切り抜けた」と述べた。

翌19日、赤沢亮正経済産業相は閣議後会見で、燃料油補助金の問題についてこう言及した。「燃料油価格の激変緩和措置は、ガソリン価格が200円を超える水準に急騰する恐れがあったことを念頭に、国民生活と経済活動を守るために緊急的に、可及的速やかにガソリン価格を引き下げるために講じたもの。与党からは中東情勢、価格動向、政策の持続可能性を勘案しつつ、政府として柔軟に対応すべきとの提言をいただいている。中東情勢が不透明な中、今後の物価動向や経済に与える影響を注視するとともに、経産省として必要な検討を進めていく」

そもそも燃料油の補助金制度は、萩生田氏が経産相を務めていた2022年1月に原油価格高騰に対処するための激変緩和措置としてスタートした。その後、原油高は収束したものの、今度は円安の進展による輸入コスト高が起きたことから、物価高騰対策として継続。昨年12月末、ガソリン暫定税率の廃止に伴って、ようやく終了した。しかし、そのわずか2カ月後に米国・イスラエルとイランの軍事衝突が勃発。ホルムズ海峡が事実上封鎖され、原油価格が再び高騰したことで、3月19日に補助金が再開された格好だ。