【緊急特集 まとめ】イランショック 現実化した「ホルムズ封鎖」の脅威

エネルギー輸送の要衝「ホルムズ海峡」の封鎖が現実のものとなった。
原油、ナフサ、LNGなどの供給に大きな支障が出るとともに、国際市場価格が高騰。
石油のホルムズ依存度が9割を超える日本のエネルギー政策は重大な局面を迎えている。
需給ひっ迫への懸念が高まる状況下で、政府は消費を下支えする補助金を復活させた。
1970年代の経験を生かせない的外れぶりに、エネルギー関係者の危機感は強まるばかりだ。

【アウトライン】世界を襲う未曽有の危機 有事でも消費を促す日本の的外れ政策

【レポート】ナフサ高騰で製品不足へ 国主導で緊急対策計画策定を

【レポート】アジア太平洋諸国で供給逼迫 石油緊急事態体制への移行が急務

【インタビュー】自衛隊派遣はあり得るのか!? 備蓄が底つけば「存立危機事態」も

【コラム】イラン核兵器開発の阻止は「核カード」が交渉の切り札に

【記者通信/3月26日】史上最大の危機に史上最低の政策⁉ 燃料油補助でまたも巨額の国費投入

原油価格高騰の激変緩和措置、また物価高対策として、2022年1月27日から25年12月31日まで続いた燃料油(ガソリン、軽油、灯油など)への補助金支給政策が、ホルムズ海峡の実質封鎖に伴う供給ひっ迫下の価格高騰対策として復活した。世界的なエネルギー有事にもかからず、消費支援のために巨額の国費がなし崩し的に投入されようとしている。

補助金の効果か、3月22日に早くも160円台に値下げしたガソリンスタンド(埼玉県川口市)

日本政府は3月19日から、レギュラーガソリンの全国平均価格を1ℓ当たり170円に抑えることを目的に、元売り各社に対する燃料油補助金の支給を再開。財源には約2800億円の基金の残高を活用するとともに、24日には今年度予算の予備費から8000億円を基金に拠出することを閣議決定した。さらに政府は必要に応じて、26年度予算案に計上されている1兆円の予備費からも補助金の支出を検討する構えだ。

加えて、政府は26日、石油の国家備蓄1カ月分の放出を順次開始した。16日に実施した民間備蓄15日分の放出に続く措置で、あわせて過去最大となる45日分を放出する。また、ホルムズ海峡を経由しない原油調達先の多角化を急いでいる。「供給安定化」と「価格低廉化」の同時達成を狙っているわけだが、出口の見通せない補助金政策による財政負担の増大は円安を加速させ、原油調達コストがさらに上昇するという悪循環を招く可能性もある。

ホルムズ封鎖で中東からの石油供給が途絶している現在、日本には250日分の備蓄があるとはいえ、本来は限られた在庫をできる限り長くもたせるため、価格を値上げし、少なくとも一般利用者については消費抑制に向かわせる政策が必要だ。補助金が支給される前の16日時点で、石油情報センターが公表したガソリンの全国平均価格は1ℓ当たり190.8円と前週の161.8円から急激に上昇。ことレジャー目的のマイカー利用者は3月中旬ごろにドライブを控えたり、鉄道やバスといった公共交通機関を利用したりするなど、ガソリン代を節約する行動に出始めた。しかし、19日以降は補助金支給の効果が表れ始め、23日時点の全国平均価格は177.7円で前週から13.1円の値下がり。首都圏などの競争の激しい地域では1ℓ160円程度の看板を掲げるガソリンスタンドもみられている。

【時流潮流/3月24日】イラン戦争で「我が世の春」を謳歌するロシア

米国とイスラエルが開始したイラン戦争は4週間目に入り、長期化する様相が強まっている。米国は、イランの石油積み出し基地であるカーグ島の封鎖や上陸作戦に対応できる強襲揚陸艦部隊を日本の佐世保や、西海岸のサンディエゴから派遣。これらの部隊が中東地域に到着する3月下旬以後、新たな展開が起きる可能性がある。

イランによるホルムズ海峡閉鎖の長期化で、エネルギー市場の混乱も続く。そうした中、「我が世の春」を謳歌している国がロシアだ。この戦争で、多くの恩恵を被っている。

まずは石油・ガス価格の上昇だ。開戦直前まで国際的な原油安に加え、欧米による厳しい経済制裁により、ロシアは大幅な値引きを強いられていた。今年1月の石油・ガス収入は50億ドルにまで落ち込み、今年1~2月の財政赤字は国内総生産(GDP)の1.5%に達した。わずか2カ月で年間予想額の1.6%に近づいたことで、政府は予算縮減策の検討に着手した。ウクライナでの戦争継続にも疑問符がつく事態に追い込まれつつあった。

だが、イラク戦争開戦とホルムズ海峡封鎖という「神風」が吹く。1バレル=65ドル台だった原油価格は、一時、119ドルまで上昇、その後も100ドルをはさんだ取引が続く。ロシアのウラル産原油の値引き幅も一気に縮小した。ロシアの臨時収入は1カ月で30~40億ドルに達するとされる。まさに「棚ぼた」だ。

2点目は、米国による制裁の一時停止だ。トランプ米政権は、原油の流通量を確保しようと、ウクライナ戦争を機に発動していたロシア産原油への制裁措置を解除した。米国民に不人気なガソリン価格上昇をできるだけ抑え込むのが狙いだ。

制裁解除により、ロシア産原油の購入を控えていた中国の石油大手シノペックやペトロチャイナなどが購入再開に興味を示すほか、インドやトルコも購入量を増やしている。

米国は、あろうことか3月19日にはイランへの原油制裁も解除した。イランの戦費調達を容易にする恐れがあるが、原油価格の安定を優先させた。制裁措置の停止はいずれも1カ月が期限だが、戦争と同様に長期化すると予想されている。

三つ目は、ロシアが米国との新たな交渉道具を手にした点だ。昨年、イランと戦略的パートナーシップを結んだロシアは、開戦以後、中東に展開している米軍や周辺諸国の軍の位置座標や情報をイランに提供している。また、イランがウクライナ攻撃用にロシアに供与したシャヘド型ドローンを改造して能力向上を図ったものをイランに「逆輸出」している。

米国は、これらを問題視しているが、ロシアのドミトリエフ特別代表は11日に米南部フロリダであった米露協議の場で「米国がウクライナに実施している情報提供を停止すれば、ロシアもイラン支援をやめる」と、取引を持ちかけた。機を見るに敏、使えるものは何でも使おうというロシアのしたたかさが透けて見える。ロシアに詳しい外交官は「ロシアは『無』から『有』を生み出す天才だ。今回がその典型的な例だ」と取材に答えた。

ウクライナ戦争に「追い風」か 肥料価格上昇も収入増に

報道も含め世界の関心が中東に集まれば、ウクライナ戦争の注目度が落ちることもロシアにとっては追い風になる。米国は、中東諸国を守ることを優先してミサイル迎撃用のパトリオット・ミサイルを中東に手厚く配備する作業を進めており、ウクライナに武器が届かず守りが手薄になっている。ロシアはその隙を突きウクライナに攻勢をかける準備を整えつつある。元手となるのは、石油価格上昇で得た臨時収入だ。さらに、国際的な注目を浴びずに攻勢を仕掛けられるのも大きな利点だ。

このほか、ロシアが主要供給国となっている肥料の価格上昇もロシアの収入増につながる。中東湾岸諸国は肥料の3分の1、尿素の5割を国際市場に供給してきたが、石油や天然ガスと同様。ホルムズ海峡を通航できない状況が続く。

ロシアの「おらが春」はいつまで続くのか。それはトランプ氏の差配にかかっている。

【論考/3月16日】燃料油補助復活が日本を自滅させる、これだけの理由

ホルムズ海峡の事実上封鎖が長期化すれば、実際上、原油価格に上限はなくなる。バレル当たり100ドルや150ドルは平時の価格であり、200ドルでも全く足りない。在庫取り崩しに限界が見えた時点で、無制限の上昇圧力が掛かり始めるのだ。多くの輸入国で石油不足が市場による調整力を超え、政府による制御・統制を余儀なくされよう。それはアジア・太平洋地域で始まり、輸入依存度の高い諸国で最も顕著となる。もちろん、日本も例外ではない。【論考/3月12日】に引き続き、考えてみる。

一般的にバレル当たり100ドルに関しては、それ以上は「超」高値圏という閾値(threshold)として言及されることが多い。3月第2週時点でも、ホルムズ海峡封鎖を前提にしながら、100ドル代前半の予想が主流だ。例えば3月9日付けウォールストリートジャーナル紙が伝えた金融・エネルギー調査関係4社の見通しは、130ドルから150ドルの間に集まる。

しかしこの価格帯は、巨大な供給途絶量の現実に対し、低すぎて全く釣り合わない。例えばロシアによるウクライナ侵略開始後、2022年3月から7月の間、ブレント原油価格はバレル当たり100ドルから130ドルの範囲で推移した。しかしこの間、ロシア原油の輸出は順調に続き、不安はあったものの、実体的な供給ひっ迫は何ら生じていない。

また、11年から13年まで、いわゆる「コモディティー・スーパー・サイクル」と呼ばれた商品価格の上昇期に、ブレント原油は25年実質価格で平均150~160ドルだったが、この時も不測の供給途絶はなく、石油消費も年率平均3%弱の高率で増加していた。実質150ドル前後の価格は、当時の生産費用の上昇に応じて、供給・需要側双方に新規投資・技術革新を促す、市場の自律的反応だった。事実、この価格を拠り所として、10年代後半に米国で「シェール革命」が開花している。

【記者通信/3月11日】福島原発事故から15年 浮上する「廃炉」以外の選択肢

福島第一原発(1F)事故から15年が経過した。原発再稼働や運転期間の延長、建て替えなど、原子力の活用に向けて歯車は回りだした。一方で遅滞を取り戻せずにいるのが1Fの廃炉だ。政府と東京電力は事故直後に示した「2051年までの廃炉完了」という目標を維持している。しかし、この目標を「現実的なものに見直すべきだ」とする意見が目立ち始めている。

東電は現時点で51年目標を変更しない方針だ。その背景には、現場環境の改善がある。処理水の海洋放出は計画通り行われ、作業エリアの大半で一般作業服での作業が可能になった。使用済み燃料プールからの燃料取り出しも進展し、事故直後のような緊急対応の段階は脱した。燃料デブリ取り出しに集中できる時期を迎えつつある。

それでも、51年目標は非現実的だとする声は根強い。事故直後に示された中長期ロードマップでは、21年までにデブリ取り出し開始を予定していた。しかし、4年以上経過した今、推計880tのうち、取り出したのは試験回収での0.9gにすぎない。格納容器内部の状況把握、デブリの性質の解析、遠隔ロボットの技術開発など課題山積で、回収開始から全量取り出しまで68~170年かかるという試算もある。これでは51年どころか22世紀に突入してしまう。

NHKは11日のウェブ版記事「福島第一原発事故15年 2051年までの廃炉 実現の見通し立たず」で〈現在は核燃料デブリの取り出しを終える具体的な時期は示されておらず、政府と東京電力が掲げる2051年までの廃炉の完了を実現できる見通しは立たない状況となっています〉と伝えた。

廃炉か、それとも……

こうした現実を前に、廃炉を巡る議論は「いつ終わるか」だけでなく、「どう終わらせるか」にも広がっている。10日には毎日新聞がウェブ版に「原発事故の跡地利用に『遺構』支持する声 『議論早すぎる』の指摘も」との記事を公開。1Fの一部を原爆ドームのように「遺構」として残すことを提案する大学教授の声などを取り上げた。

朝日新聞も11日の朝刊オピニオン欄で、〈更地にして返してもらえると思っている福島県民も多いでしょうが、国と東京電力は廃炉の最終形をあいまいにしたままで、不誠実です。(中略)現実的で具体的な工程を練り直すべきではないでしょうか〉と、福島県いわき市を拠点に活動する地域活動家のインタビューを掲載した。

被災地である福島への責任として廃炉以外の選択肢を模索することは、これまで世論的にタブー視されてきたが、左派系の有力メディアがそこに目線を向け始めたことは、ある意味で驚きだ。

全量取り出し、石棺化、遺構化──。それぞれ技術的困難性や周辺地域の再利用の制約、放射線量の維持管理などの課題がある。1F処理の方針は東電の再建に直結する話で、高度な政治的判断が必要だ。廃炉にかかる費用はすでに5.2兆円が確定しており、政府が試算した8兆円枠を超えることは不可避とみられている。それだけに「廃炉→更地」化を諦めるのであれば、時期は早いに越したことはない。そう遠くない将来、国民的議論が巻き起こりそうな予感がする。

【特集2まとめ】水素国産化へ産官学の挑戦 地域実装と最新技術の現在地

水素サプライチェーンの確立に向け産官学が連携した取り組みが加速している。

東北の福島県では水素や再エネの産業を集積する動きも誕生。

地産地消を実現することで世界に「Fukushima」を発信する。

本格利用を視野に入れ、液化水素調達用の船舶や受け入れ基地整備も進む。

「作る」「運ぶ」「使う」ー。

どれも欠かせないパーツがかみ合うように壮大なビジョンに向けて各社が奔走する。

【アウトライン】福島県で広がる再エネ水素の先導モデル

【インタビュー】福島県が新ビジネスの創出を後押し 企業連携促す支援機関に活力

【インタビュー】最先端の技術実証の結節点 浪江町が世界を視野に研究機関を整備

【レポート】岩谷産業が極める液体水素と冷熱利用技術

【レポート】世界初の商用化供給網の確立に挑む川崎重工

【レポート】既存インフラを活用する東邦ガスのターコイズ技術

【レポート】日揮が福島再エネ使ったグリーンアンモニア製造を実証

【トピックス】三菱化工機の水蒸気改質技術が大手鉄鋼で活躍

【トピックス】充填時間を大幅短縮 タツノ製ディスペンサーが韓国で高評価

【トピックス】川重冷熱が水素式吸収冷温水機で都市ガス並み低NOx化を実現

【トピックス】東京都が水素社会を身近に感じるイベントを開催

【特集1まとめ】原子燃料サイクルの号砲 数々の困難克服し実現なるか

地政学リスクの高まりや脱炭素の要請を背景に、世界で原子力発電の価値が見直されている。

ウランの争奪戦が見込まれる中、資源を再利用できる原子燃料サイクルの意義はこれまで以上に高まった。

国土が限られる日本にとっては、高レベル放射性廃棄物の減容化や有害度の低減も避けて通れない。

こうした課題を解決するサイクルの確立に向け、日本の取り組みは着実に次のステージへと進みつつある。

描く青写真にどこまで近づいているのか。足りないピースは何か──。

六ヶ所再処理工場の竣工が見えてきた今、その真価を問う。

【アウトライン】エネルギー安保確立の“究極の切り札” 聞こえてきたサイクル実現の足音

【インタビュー】「プルサーマルの先駆者」玄海町が示した立地のプライド

【寄稿】批判一辺倒のメディアが抱える問題と本質

【寄稿】燃料供給安定化へ国産化の推進を

【座談会】バックエンドの課題克服へ示すべき国家の覚悟

【インタビュー】次代担う東大生が評価する政策の現状

【時流潮流/3月1日】イラン攻撃でハメネイ師死亡 想定される4つのシナリオ

米国とイスラエルは2月28日朝(現地時間)、イランへの大規模空爆を開始した。首都テヘランでは政府要人の居住地を狙い撃ちにした。米国は28日、最高指導者のハメネイ師の死亡を確認したと発表した。最高指導者を失ったイランは今後どうなるのか。

今年1月末、革命47周年を記念し、ホメイニ師の息子ハッサン師(中央)とホメイニ廟を訪問したハメネイ師=ハメネイ師のX(旧ツイッター)から

●4月で87歳

ハメネイ師は、1979年のイラン・イスラム革命を主導したホメイニ師が89年に亡くなったことを受けて二代目の最高指導者に就任した。イスラム教シーア派の法学者として35年以上に及ぶ治世を続けてきた。4月に87歳を迎えるはずだった。

「米国に死を」をスローガンに掲げる革命政権の指導者らしく、最後まで米国に抵抗する道を選んだ。米国のトランプ政権はイランに核兵器開発にもつながるウラン濃縮を断念するよう重ねて求めてきたが、濃縮は原子力の平和利用の重要な柱として核拡散防止条約(NPT)でも認められている権利だとして要求を突っぱね続けきた。

最近は、米国との対立が激化する現状を、シーア派3代目イマームが7世紀後半にイラク南部のカルバラで、負けるとわかっていた戦いに挑み殉教した故事になぞらえる発言が目立っていた。米国に「ひざまずいて生き延びるのではなく、立ち上がって死ぬ」ことを潔しとした。

最高指導者の死を受けてイランのどうなるのか。様々なシナリオがある。

●シナリオ1:「神権政治」の継続

トランプ氏は28日の開戦時のビデオ演説で「我々の任務が終わったら、あなたたちの政府を掌握してください」とイラン国民に、体制転換を実現するよう促した。だが、現時点で最も可能性が高いのは、イスラム法学者をハメネイ師の後継に据えた「神権政治」継続だ。

ハメネイ師は今年1月末、初代の最高指導者ホメイニ師の息子であるハッサン・ホメイニ師とともに、テヘラン郊外にあるホメイニ廟で祈りを捧げる写真を公開した。革命政権を継続するためハッサン師を後継者にするというサインだとの分析もある。

また、ハメネイ師は昨年、米国とイスラエルとの「12日間戦争」後に、後継者候補3人を選んだとされる。ただ、その名前は公表されていない。突然の死に備えた準備を進めていたのは確実で、粛々と後継者が決まる可能性がある。

●シナリオ2:イラン革命防衛隊の治世に

二つ目は、イラン革命防衛隊(IRGC)が実権を握る可能性だ。IRGCは、イラン革命後に、革命政権を守るために設立された軍隊だ。それまでの正規軍は、王政時代を支えてきた勢力であるため、革命政権は独自の軍隊を作りあげた。ただ、正規軍は現在も残る。軍に徴兵される兵士は、正規軍かIRGCの好きな方に入隊できる。正規軍には都会育ちのリベラル派、IRGCは田舎育ちの保守派が多いとされる。

革命から半世紀近くを経て、IRGCは軍としての機能だけでなく、巨大な企業群を形成した一大勢力となっている。一説には、イランの国内総生産(GDP)の何割かはIRGCの息のかかった活動と言われ、欧米などによる厳しい経済制裁が続く中、闇ビジネスなどの利権を独占している。こうした「利権」を守るためにも、革命政権の継続が必要で、体制内クーデターを起こしてでも、権力を奪取する可能性がある。ハメネイ師の後継者を上手に祭り上げながら、IRGCが院政を敷くなどさまざまなパターンが想定される。

【関西電力・森社長】不変の使命を胸に変革を積み重ね、未来を切り拓く

2025年度に中期経営計画の最終年度を迎えた関西電力。
原子力7基体制の確立という経営の土台づくりと、
脱炭素化と事業変革に向けた投資を着実に進めてきた。
次のステージに向けて新たな経営計画の議論を深めているが、
産業の成長を支える安定供給という責務は変わらない。

【インタビュー:森望/関西電力社長】

もり・のぞむ
1988年京都大学大学院工学研究科修士課程修了、関西電力入社。執行役員エネルギー需給本部副本部長、常務執行役員再生可能エネルギー事業本部長、取締役執行役副社長などを経て2022年6月から現職。

井関 まずは2025年度が最終年度だった中期経営計画(21〜25年度)についてうかがいます。ロシアによるウクライナ侵攻や燃料価格の激騰など、エネルギーを取り巻く状況が激変した5年間でしたが、どう振り返りますか。

 おっしゃる通り、現行の中計を策定した21年と現在では、エネルギーを取り巻く状況が全く異なっています。中計で大きなテーマとして掲げていたのは、「原子力7基の再稼動を成し遂げ、それを土台として困難を乗り越えていく」ということです。単なる数値目標ではなく、当社の存立基盤に関わる最重要課題でした。

井関 7基体制を確立したわけですが、経営への貢献度はどうですか。

 極めて大きなインパクトがありましたが、道のりは平坦ではなかったです。これは立地地域をはじめ、福井県の皆さまのご理解のたまものです。また、原子力を動かすための資金調達を含め、財務状況は一時、有利子負債が大きく膨らむなど厳しい局面もありました。それでも、徹底したコスト効率化を全社一丸となって断行し、必要な資金を捻出してきました。7基体制が当社の揺るぎない基盤になっていることは間違いありません。

井関 中計は24年4月に財務目標などをアップデートしていますね。目標は達成できそうでしょうか。

 第2四半期実績は堅調に推移し、昨年4月に公表した通期業績予想も上方修正しました。財務目標達成に向け着実に進捗しています。

GHG削減目標は前進 将来に向け攻めの投資

井関 中計では、成長戦略の柱として「EX(エネルギートランスフォーメーション)」「VX(バリュートランスフォーメーション)」「BX(ビジネストランスフォーメーション)」という三本柱を掲げています。

 三つの柱は、単に中計の期間中だけ取り組めばいい施策ではありません。われわれが向き合うべき本質的な課題を整理したものだと考えています。

 まずEXは、脱炭素化という世界的な潮流の中で、電源をより高効率で低炭素なものへと置き換えていく取り組みです。原子力の安定稼動だけでなく、再生可能エネルギーの新規開発、火力のゼロカーボン化、ゼロカーボン水素の活用、これらを支える最適な電力系統の実現など、その他の電源についても脱炭素化に向けた検討を加速させています。実績として、24年度の温室効果ガスの排出量は13年度比でスコープ1、2が59%削減、スコープ1~3では36%削減となっており、ゼロカーボンに向けた取り組みが前進しています。

井関 VXやBXについてはどうでしょうか。

 VXはお客さまに新しい価値を提供する領域です。最近では、蓄電池ビジネスやモビリティ関連のサービス、あるいは太陽光発電とセットで電気をお届けするようなモデルなど、従来の電気事業の枠を超えた広がりを見せています。周辺領域を含めた新しいサービス提供は、着実に芽が出てきていると感じています。

 そして、これらを支える基盤となるのがBXです。単なるコスト削減にとどまらず、仕事の在り方そのものを進化させる挑戦です。人財の確保はもちろん、AIの活用やDX(デジタルトランスフォーメーション)を駆使し、より付加価値の高い働き方を目指しています。

井関 5年間でEXに1兆500億円、VXに1200億円の投資目標、BXに900億円(25年度単年)のコスト削減目標を掲げていました。手応えはどうですか。

 最終的な精査は年度末になりますが、各分野で具体的な取り組みが着実に進捗していると考えています。将来の成長に向けた攻めの投資を、計画通りの規模で実行できていることは大きな成果だと言えます。

【日本原子力発電 村松社長】原子力専業として期待される役割発揮へ一歩ずつ前進

東日本大震災発生から15年を迎え、原子力活用の必要性が明示される中、各地点で着実に取り組みを進めている。敦賀では設置変更許可の再申請に向けた追加調査が進行中だ。東海第二では防潮堤の審査に真摯に向き合いながら、その他の安全対策工事が完了に近づいている。

【インタビュー:村松 衛/日本原子力発電社長】

むらまつ・まもる
1978年慶応大学経済学部卒、東京電力入社。2008年執行役員企画部長、12年常務執行役経営改革本部長、14年日本原子力発電副社長、15年6月から現職。

井関 まもなく東日本大震災の発生から15年を迎えます。福島第一原子力発電所の事故からこれまでの歩みを振り返った感想はどうでしょうか。

村松 やはり昨年策定された第7次エネルギー基本計画で原子力の最大限活用が明確に位置付けられたことは、大きな意義があると感じています。2024年末には、福島第一と同じBWR(沸騰水型軽水炉)の女川2号機と島根2号機が再稼働を果たし、3・11以降を振り返っても、この1年余りは特に重要な時期だったと思います。さらに昨年末には、柏崎刈羽6・7号機と泊3号機の再稼働について、それぞれ地元同意を得ました。原子力全体として確かな前進が見られたと受け止めています。一方、基準地震動策定プロセスで発覚した不適切事案は、原子力推進の大前提は安全と信頼性の確保であることを、改めて強く認識させられました。

井関 当初、原子力規制委員会の対応次第では他のプラントへの影響が危惧されましたが。

村松 原子力事業者とメーカーで構成するATENA(原子力エネルギー協議会)からの要請を受け、電力各社は基準地震動に関する審査資料について同様の事案がなかったか速やかに調査を行いました。その結果、規制委の審査ガイドに基づく手法に則って適切に評価されていることなどを確認しています。

原子力産業界の維持 技術と人材の確保を

井関 柏崎刈羽6号機は1月21日に再稼働しましたが、制御棒の引き抜き中に警報が鳴り、一時停止させました。この件はどう受け止めていますか。

村松 規制委の山中伸介委員長は会見で、一旦停止し、安全を確保した上で対応を検討した東京電力の姿勢を評価しています。東電は2月9日の再起動後、3月中旬に営業運転の開始を予定しています。
 再稼働に当たっては、使用前にプラント機器の健全性を確認するため、段階を追って数多くの検査を行います。その後、計画的に中間停止期間を設けるなど、安全を確認しながら慎重に起動させていきます。当社の東海第二も工事段階から検査段階へ徐々に移行しており、今回の事例を踏まえて対応していきます。一方で、原子力を支える産業界の事業再編などによりサプライヤーが縮小することで、設備調達や保守体制への影響が生じる可能性を懸念しています。

井関 こうした実情を、政府や規制委に継続的に訴えていくことが必要ではないでしょうか。

村松 まさにATENAや日本原子力産業協会などが、原子力産業における技術と人材の継続的な確保の重要性を折に触れて訴えており、それに対して政府も支援を進めています。

【エネルギーフォーラム賞】第46回受賞作の決定

「エネルギーフォーラム賞」は、株式会社エネルギーフォーラムが1980年5月、エネルギー論壇の向上に資するため創立25周年の記念事業として創設いたしました。同賞は年間に刊行された邦人によるエネルギー・環境問題に関する著書を関係各界の有識者らによるアンケートによる結果を参考にして、選考委員会が選定し顕彰するものです。

各賞および選考委員は以下のとおりです。

<各賞>

エネルギーフォーラム賞(大賞):大変優れていると評価された著作への賞、賞金30万円

優秀賞:優れていると評価された著作への賞、賞金20万円

普及啓発賞:広く啓蒙に秀でた著作への賞、賞金10万円

特別賞:上記3賞に該当しないが評価された著作への賞、賞金10万円

<エネルギーフォーラム賞選考委員(50音順、敬称略)>

大橋 弘(東京大学副学長)

神津 カンナ(作家、エッセイスト)

田中 伸男(タナカグローバル株式会社CEO)

十市 勉(日本エネルギー経済研究所客員研究員)

山地 憲治(地球環境産業技術研究機構理事長)

【特集2まとめ】家庭用市場の商機拡大 機器拡販と新サービスの最前線

電力の小売り全面自由化から10年近くの月日が経った。


この間、都市ガスも自由化され、電力やガスを販売する総合エネルギー企業を標榜するプレーヤーも登場した。


家庭用エネルギーの商機拡大を目指し、既存のサービスを進化させたり、再エネ、蓄電池、家庭用デマンドレスポンスなど、新しい発想で商材の拡販に乗り出す動きも活発化している。


事業者の独自戦略はどこまで浸透しているのか 

家庭用のエネルギー事情を追う。

【アウトライン】小売り全面自由化10年目に迎えた新サービス創成期

【インタビュー】東京都が蓄電池補助政策でDR実証に注力

【レポート】東急パワーサプライが蓄電池「1000台無償」で社会実装

【レポート】エネゲートが再エネ余剰活用でEV向け割安料金

【ディスカッション】エネルギー史に刻むハイブリッド給湯の潜在力を探る

【レポート】エネ事業者の営業最前線 サイサン

【レポート】エネ事業者の営業最前線 静岡ガス

【トピックス】岩谷産業がクラファン活用でカセットガス商材の市場開拓

【トピックス】パーパスが節水・省エネ志向対応の給湯器を拡販中

【大阪ガス 藤原社長 】CN投資を着実に進め 脱炭素に貢献しながら国内外で収益力高める

現中期経営計画の中間地点である2025年度。

海外事業好調の後押しもあり、推移は順調だ。

大規模火力や再エネ、蓄電池、e―メタンなど、カーボンニュートラルに資する投資を進め、将来の収益基盤の強化にも余念がない。

【インタビュー:藤原正隆/大阪ガス社長】

ふじわら・まさたか 1982年京都大学工学部卒、大阪ガス入社。大阪ガスケミカル社長、常務執行役員、副社長執行役員などを経て2021年1月から現職。

井関 2025年はエネルギー・ガス業界にとってさまざまな出来事がありました。振り返っていかがですか。

藤原 25年は日米関税交渉から始まり、年末にかけては日中関係という新たな地政学上のキーワードが浮上した年でした。イスラエル・ガザ問題、ウクライナ・ロシア問題は終息しそうにありませんし、エネルギーに限らず日本経済を取り巻く環境はより厳しさを増したと実感しています。

当社のガス販売量の半分は製造工場向けです。家庭用の販売量を左右するのは気温や他社との競合ですが、日中間の緊張感の高まりが日本の産業界に影響し稼働率が低下すれば、当然、製造工場向けの販売が低迷します。ただでさえ中国は不景気が長引いているにもかかわらず、基礎化学品や鉄などの生産調整を行っていないため、安い製品が世界市場を席巻していることが日本の製造業を直撃しています。ガス販売量にも影響を与えてしまう以上、ガス業界にとってあまり良い話とは言えません。

一方で、22年のロシアによるウクライナ侵攻を契機とする世界的な資源・エネルギー市場の大混乱から3年が経過し、石油、石炭、LNGともに価格が乱高下することなく落ち着きを見せていました。地政学上のリスクが新たな局面を迎えた一方、資源・エネルギー価格や為替は「凪」の状態―25年を総括するとそんな年でした。

井関 大阪ガスにとっては120周年の節目の年でしたね。

藤原 創立120周年、そして大阪・関西万国博覧会が開催されたメモリアルな年でした。日本ガス協会の総意でパビリオンのテーマにe―メタンを据え、未来を担う子供たちを含む約69万人の来場者に向けて発信することができました。e―メタンはアンモニアや水素と比べて出遅れ感が否めませんでしたが、認知度を高める非常に良い機会となりました。


業績見通しを上方修正 北米事業が好調

井関 経営状況についてはどう分析していますか。

藤原 25年度は中期経営計画「Connecting Ambitious Dreams」の中間に当たる年であり、上期の海外事業の好調を反映して通期見通しを上方修正することができました。同時に、DOE(株主資本配当率)を3・0から3・5に、1株当たりの年間配当額を105円から120円に引き上げるなど、思い切った株主還元を決めることができ、滑り出しは好調です。

井関 海外事業好調の要因をお聞かせください。

藤原 北米におけるエネルギービジネスの収益性が高まっているためです。その背景には三つの要因があります。一つが、最近のデータセンター(DC)建設ラッシュに伴い電力需要が旺盛なこと。当社は北米において、天然ガスコンバインドサイクル発電所を複数保有しIPP(独立系発電事業者)ビジネスを展開しています。これまではあまり収益性が高くなかったのですが、PJM(米北東部地域の地域送電機関)市場では、長らく低迷していた容量市場価格が上昇し収益を押し上げています。

姫路天然ガス火力2基の稼働で火力発電容量は計320万kWに

二つ目が、シェールガス開発会社のサビン社が非常に生産量が好調であった上にヘンリーハブ価格が高めに推移したことです。ヘッジをしながら安定的に計画以上の利益を出すことができました。三つ目が、22年に火災事故が発生して以降、生産回復に努めてきたフリーポートLNG基地が、ようやく安定稼働に入ったことがあります。計画以上の稼働により、当社も出資者の一角として利益を獲得できるようになりました。

【東北電力 石山社長】「実行力とスピード」重視 新たな価値を提供し 利益創出に挑み続ける

女川2号機は安定運転を継続し、「財務基盤の早期回復」にも道筋が見えてきた。
想定以上に厳しい事業環境の中、AI、データセンターといったビジネスチャンスを的確に捉え、自社の強みをこれまで以上に生かした事業展開を考え抜く。

【インタビュー:石山一弘/東北電力社長】

いしやま・かずひろ 1985年慶応義塾大学大学院修了、東北電力入社。2018年執行役員、19年常務執行役員、21年取締役常務執行役員、22年取締役副社長 副社長執行役員を経て、25年4月から現職。福島県出身。

門倉 社長就任から9カ月、これまでを振り返って手ごたえや課題感などいかがでしょうか。

石山 就任以降、「実行力とスピード」重視の経営に全力で取り組んできました。改めて振り返ると、あっという間の9カ月だったと感じます。
 当面の優先課題として注力してきた財務基盤の早期回復については、着実に進捗してきています。また、2024年12月に、14年ぶりに営業運転を再開した女川原子力発電所2号機が、大きなトラブルなく安定運転を継続できたことは、電力の安定供給やカーボンニュートラルへの貢献の観点から、大きな意義があると考えています。社員や協力企業はもとより、日ごろから当社の事業運営を支えていただいている地域の皆さまのご理解のおかげであり、心より感謝を申し上げます。1月14日からは、再稼働後初となる定期事業者検査を予定していることから、しっかりと対応していきます。
 一方、東通原子力発電所で発生した核物質防護を巡る不適切な取り扱いについては、原子力事業への信頼を損なうものであり、極めて重く受け止めています。再発防止を徹底し、二度とこのようなことが発生しないよう真剣に取り組んでまいります。
 当社を取り巻く事業環境については、電力小売り競争の激化、物価・金利の上昇と円安、米国政策に起因する国内経済の不透明感の高まりなど、想定以上に厳しくなっています。25年度は、一定程度の利益が確保できる見込みではありますが、足元ではフリーキャッシュフローが厳しい状況であることに加え、今後、電力の安定供給をはじめカーボンニュートラルへの対応やDXなどの成長への投資が控えていることを踏まえると、中長期的に稼ぐ道筋をつけることが重要だと考えています。


女川3号機・東通1号機 再稼働に向け着実に対応

女川原子力発電所で実施する地域との対話活動「こんにちは訪問」

門倉 女川2号機の再稼働から1年以上が経過し、女川3号機・東通1号機の再稼働も期待されます。それぞれの現状を教えてください。

石山 女川3号機も東通1号機も重要な電源であり、各プラントの状況に応じて、対応すべきことを一つひとつ着実に進めていきたいと考えています。
 女川3号機については、新規制基準適合性審査申請に向けた準備の一環として、25年1月20日から地質調査を実施しています。また、地質調査以外にも、女川2号機の審査で得られた知見・評価などを踏まえ、安全対策設備の配置計画検討などを実施する必要があります。現時点で申請時期を具体的に申し上げる状況にはありませんが、しっかりと準備を進めていきます。
 東通1号機については、将来にわたって長期に、かつ安全に運転していく観点から、基準津波に対する裕度を高めるため「敷地造成」を計画し、現在その審査に対応しています。また、並行してPRA(確率論的リスク評価)津波対策の検討や安全対策設備の配置検討などのプラント審査準備を進めており、安全対策工事の完了時期の公表については、27年3月頃を目指しています。今回の不適切事案についてはしっかりと反省し、この教訓を生かすことで、再発防止を徹底します。その上で、地域の皆さまからのご理解をいただきながら、できる限り早期の再稼働を目指していきます。

【特集1まとめ】脱炭素の虚実 揺らぐ「気候変動」の世界常識

2050年カーボンニュートラル(CN)の実現が人々を救う―。
気候変動問題・対策を巡る世界の常識が揺らいでいる。
要因の一つが、行き過ぎたCN政策による弊害の顕在化だ。
各地でエネルギー料金が上昇し、再エネ拡大による環境破壊が進む。
主要国が表向きは「50年CN」の必要性を唱える裏側で、
CO2大量排出の軍事活動に注力する現実も鮮明化している。
歴史を振り返れば、「脱~」の取り組みはうまくいった試しがない。
「脱石油」「脱中東」「脱原発」―いずれも現実の壁を越えられないのだ。
「そもそもネットゼロを達成したところで昨今の異常気象は解消されない」
「貴重な資源でもあるCO2をまるで害悪のように扱っていいのか」
そんなCO2悪玉説への懐疑論も再燃する中、「脱炭素」の虚実に迫った

【アウトライン】脱炭素偏重の弊害顕在化で揺り戻し 「適応」が気候変動対策の主軸になるか

【コラム】所詮は「平和な時代」のきれい事!? 軍事活動が優先される世界の国益事情

【インタビュー】実質ゼロ達成でも海の熱膨張止まらず 温暖化前提の未来像が不可欠

【寄稿】IPCC報告書は「自然」を軽視 気候変動への人為的影響は限定的

【寄稿】「1.5℃」厳しく「2℃」が妥当 求められる現実路線への修正

【寄稿】COP30は途上国有利の決着 米国不在で先進国の交渉力低下

【コラム】くらし・産業と切り離せない貴重なCO2 国内の炭酸原料ソース減少が課題