【特集2】地の利を生かして大転換を図る 発電・熱・原料を先駆的に利用
【川崎市】
水素に取り組む先駆的な自治体の一つが川崎市だ。国の「水素基本戦略」より2年早く、2015年に「川崎水素戦略」を策定。菅元首相が「カーボンニュートラル宣言」を表明した20年には、ブルネイからメチルシクロヘキサンに変換した水素を運び、発電所使用で実証するなど確かな実績を築いてきた。
こうした経験を踏まえ22年、新たに「川崎市カーボンニュートラルコンビナート構想」を策定した。その背景にあるのが川崎ならではの産業構造だ。川崎臨海部には石油・化学コンビナートをはじめ、約2700もの事業所が立地する。製造品出荷額は政令指定都市の中でトップクラス。一方、臨海部立地企業の上位30社が市全体のCO2排出量の7割以上を占めている。臨海部国際戦略本部成長戦略推進部カーボンニュートラル推進担当の江﨑哲弘担当課長は「CO2を限りなくゼロにしつつ、高い産業競争力の維持・強化も図っていく」と話す。
同構想のポイントは、「地の利」を最大限に生かすこと。柱の一つが、コンビナートに近接する川崎港で海外からCO2フリー水素などを受け入れ、カーボンニュートラルエネルギーの供給拠点を作ることだ。川崎臨海部には800万kW以上の火力発電所が集積する。燃料を水素に置き換えるとともに、CO2フリーの電力供給で一般消費者など、脱炭素化も進めていく。
二つ目が、同じく臨海部に立地する素材・化学プラントや廃プラスチック工場などを活用した炭素循環型コンビナートの整備構築だ。将来、水素などへのエネルギー転換が進むと石油に代わる炭素資源が必要になる。そこで、首都圏からの廃プラスチック回収やCO2などの再資源化を進めることで、炭素資源から素材・製品などを製造する体制を構築する。三つ目の柱としては、臨海部の企業間連携・ネットワーク化により、水素をはじめとするカーボンニュートラルなエネルギーの地域最適化を進める方針だ。
企業や自治体との連携強化 協議会設立で93社が加盟
臨海部全体での取り組みにはさまざまな連携が必要だ。こうした中、川崎市は「川崎カーボンニュートラルコンビナート形成推進協議会」を設立。臨海部の企業をはじめ、技術面や資金面で連携が見込まれる企業を含む93社が加盟している。また、京浜工業地帯を構成する東京都や横浜市とは連携協定を結んだ。
商用化を見据えたプロジェクトも動く。川崎市が低未利用地の活用を進める中、市内の扇島におけるJFE東日本製鉄所の高炉休止後の跡地に、日本水素エネルギーが行う「液化水素サプライチェーン商用化実証」の液化水素国内基地の整備が決まった。30年度の商用運転に向けた実証事業の拠点とする。
市が民間企業と連携して実施した調査によると、川崎臨海部の水素需要は年間約42万t、近隣の羽田空港および周辺エリアの水素需要は年間約4~6・6万tと潜在需要がある。水素エネルギーの「商用化」という次なる目標に向け、川崎市の取り組みが注目される。
