【特集1まとめ】新生「第7次エネ基」の是非 亡国から興国への脱皮なるか

第6次エネルギー基本計画策定以降、地政学リスクやグリーン政策の弊害の顕在化、
さらにGX・DXに伴い電力需要は減少から急増傾向へ―と情勢は様変わりしている。
難しい連立方程式をどう解くのか。第7次議論に需要・供給両サイドの注目が集まる中、
政府案が示した答えはこれまでのアプローチの刷新、そして単一シナリオからの脱却だった。
第6次と比べバランスの取れた「現実路線」と、エネルギー業界の評価はおおむね前向きだが、エネルギー転換の難しさに直面する現場からはさまざまな声が挙がる。
果たして今回のエネ基は興国へとつながる道しるべとなるのか―。

【特集1】アプローチ刷新で議論百出 複数シナリオ化をどう読むか

【特集1】原子力を巡るブレーキを解除 現実路線に転換で合格点

【特集1】 「移行期」の難しさが随所で噴出 個別4分野の現在地を検証

【特集1】過去との対比で見える「原点回帰」GXビジョン登場で問われる役割

【特集1】産業・エネ政策を一体で最適設計 「日本が勝つ」シナリオに

【大阪ガス 藤原社長】国際情勢に対応し 安定供給とCNに向け国内外の事業に注力

海外ではe―メタン製造の検討やLNG調達先の多様化、国内では電気事業の拡大などに取り組む。

阪神・淡路大震災から30年を迎え、安定供給はもとより、幅広い経営戦略の実現に向けて社員の「個」の育成に力を入れる。

【インタビュー:藤原正隆/大阪ガス社長】

ふじわら・まさたか 1982年京都大学工学部卒、大阪ガス入社。大阪ガスケミカル社長、常務執行役員、副社長執行役員などを経て2021年1月から現職。

志賀 アメリカで第2次トランプ政権が誕生しました。石油や天然ガスについて「掘って、掘って、掘りまくれ!」と国内での生産拡大を訴えるトランプ氏ですが、大阪ガスへの影響をどう見ていますか。

藤原 不確定要素は多いですが、そこまで大きな変化はないように思います。振り返ってみると、バイデン政権は昨年1月、LNG生産の環境への影響を精査する必要があるとして、輸出許可を一時的に停止しました。トランプ政権になれば、こうした政策が取られることはないでしょう。

一方で「掘りまくれ!」と言ったところで、今はインフレで掘削費用が高騰しています。そのような状況下で、値崩れを誘発して赤字リスクが高まるような無制限な採掘は起こり得ないでしょう。われわれが権益を持つ米サビン社のガス田も、ヘンリーハブ価格を見ながら採掘しています。ただ化石燃料に対する過度なバッシングは穏やかになる気がします。

志賀 そうですか。私はパリ協定からの離脱を掲げるトランプ氏の大統領就任で、世界の脱炭素政策に大きな変化が訪れるかと思ったのですが……。

藤原 既に世界は現実路線に変わりつつあります。ロシアのウクライナ侵攻後は、欧州でも天然ガスの重要性が語られるようになりました。ガソリン車製造からの撤退時期を白紙撤回した自動車メーカーもあります。化石燃料の必要性が見直されているのは、トランプ氏の再登場というより、各国が現実路線に軌道修正したというのが要因でしょう。


トールグラス社と協業 米国でe―メタン製造

志賀 e―メタン導入への影響はありませんか。

藤原 何とも言えませんね。バイデン政権で成立したIRA(インフレ抑制法)の支援は期待しています。大統領選でトランプ氏が勝利した激戦州でもIRAの恩恵を受けている州がありますし、議会を通して作られた法律ですので、トランプ政権になっても簡単に廃止はできません。トランプ政権がIRA適用の要件を厳しくする可能性はありますが、まだ政権の骨格が明らかになっていないため、占うことは難しいです。ただ化石燃料を扱うわれわれのような事業者にとって、政策がマイナスに後退することはないのではないかと思っています。

志賀 アメリカで東京ガスや東邦ガスなどと進めていた、キャメロンLNG基地でのe―メタン製造プロジェクトから撤退しました。トールグラス社とのプロジェクトに集中するとのことですが、どういった理由からですか。

藤原 大きな要因はコストが上がっていることです。世界的なインフレに加えてエンジニアの人手も足りず、高コスト構造になっています。こうした中ではトールグラス社との協業に集中した方がよいという判断になりました。

【中部電力 林社長】将来の情勢見据えた経営ビジョンを実現し 政策目標にも貢献へ

昨今の情勢変化を先取りした経営ビジョンの実現に全力投球する。

脱炭素ではグループで複数地点の洋上風力の開発に関わるほか、浜岡原子力発電所の審査過程も一つステップアップした。

電気事業以外では不動産をはじめ、中部エリア内外で強みを生かした事業展開を加速させている。

【インタビュー:林 欣吾/中部電力社長】

はやし・きんご 1984年京都大学法学部卒、中部電力入社。2015年執行役員、16年東京支社長、18年専務執行役員販売カンパニー社長などを経て20年4月から現職。

志賀 昨今、「内外無差別の徹底」がより厳格に求められるようになりました。JERAとの長期契約にはどう影響しますか。

 JERAは全ての小売電気事業者を対象に、2026年度以降の長期卸契約の公募を開始し、電力・ガス取引監視等委員会の求める「内外無差別な卸売」に取り組んでいると認識しています。同年度以降は、中部電力ミライズとJERAの長期卸契約も、この公募に基づく契約に置き換わっていくと捉えています。需給のバランスが維持されている状況下においては、内外無差別により電源の流動化が進むことで、幅広い事業者から調達できる環境につながるでしょう。また、中部エリア外からの電源調達が進むことは、エリア外での販売機会拡大にもつながる可能性があります。今後も安定供給を大前提として市場動向を注視し、臨機応変に調達ポートフォリオを組み替えていく方針です。


利益水準拡大に手応え 洋上風力の開発に全力

志賀 21年に「中部電力グループ経営ビジョン2・0」を策定しました。それから数年経過し、電力経営を取り巻く環境は大きく変わっています。ビジョンの進捗、そして見直しの必要性をどう考えますか。

 経営ビジョン2・0では、30年に連結経常利益2500億円以上を目標に、収益基盤の拡大と同時に、事業構造の変革をうたっています。2500億円以上の半分は国内のエネルギー事業で盤石なものとし、残りの半分はグローバル事業を含む新成長分野から生み出すことを目指します。他方、ビジョン2・0策定以降、電気に対する評価は大きく変化し、需要がシュリンクせず伸びていくマーケットと位置付けられるようになりました。海外情勢では地政学的リスクが顕在化。国内では電気料金のボラティリティが高まり、脱炭素要請も厳しさを増す一方です。しかし、これらの経営環境の変化により、優先順位やスピード感などの見直しはあっても、変わらぬ使命の完遂と、新たな価値の創出が必要だというビジョン2・0の根幹は変わりありません。変化を先取りした内容であると自負しています。

足元の進捗としては、グループを挙げて経営効率化・収支向上施策を実施しており、一時的な利益押し上げ要因を除いても2000億円程度の利益水準を維持する力がついてきたものと捉えています。

志賀 需要家の脱炭素電源へのニーズが拡大しています。先述のビジョンでは、30年頃に「保有・施工・保守を通じた再生可能エネルギーの320万kW以上の拡大に貢献」との目標を掲げています。

 24年度上期末時点の当社グループの持分である設備容量は約103万kWで、進捗率は約32%です。24年は1月に太陽光発電事業者3社を完全子会社化し、3月にウインドファーム豊富、6月に八代バイオマス発電所の営業運転開始や西村水力発電所の開発決定をするなど、着実に歩を進めています。

志賀 再エネの主力として期待される洋上風力では、中電グループは4カ所の計画に関わっています。他方、洋上風力は資材高騰や人材面など多くの問題があることも事実です。

 まず、電力需要が伸びていく中で、将来の安定供給の確保と脱炭素社会の実現を同時に達成するためには多様な電源を選択肢に入れておく必要があります。その中でも再エネは最大限導入するべき電源と認識しており、適地のポテンシャルを考えれば洋上風力の開発が重要です。ただテクノロジーや開発コストの上昇など課題が多くあります。ハードルが高くとも、コストダウンやイノベーションなどあらゆる方策で乗り越えられるよう努力していきます。

志賀 政府公募第一ラウンドで3地点を落札したコンソーシアムには、陸上風力で実績のあるグループ企業のシーテックが名を連ねています。

 コンソーシアムの代表企業は三菱商事ですが、発電事業の技術面、そして地元への説明の仕方などは、やはり電気事業の経験がなければ分からない感覚があるかと思います。これらの面でシーテックのノウハウを生かし、当グループが貢献していけるものと思います。

【東北電力 樋󠄀口社長】電力の安定供給維持へ 自己資本を積み増し財務基盤を回復する

東日本大震災で被災した原子力発電所として初めて、女川原子力発電所2号機が再稼働を果たした。

東北地方の東日本大震災からの復興、そして電力の安定供給とカーボンニュートラルへの貢献に向け、大きな一歩を踏み出した。

【インタビュー:樋󠄀口 康二郎/東北電力社長】

ひぐち・こうじろう 1981年東北大学工学部卒、東北電力入社。2018年取締役常務執行役員発電・販売カンパニー長代理、原子力本部副本部長、19年取締役副社長 副社長執行役員CSR担当などを経て20年4月から現職。

志賀 女川原子力発電所2号機が2024年11月に再稼働しました。これまでを振り返ってどのようなお気持ちですか。

樋口 女川2号機は、10月29日に原子炉を起動し、11月15日に14年ぶりに再稼働しました。ここまでに至る経緯を振り返ると、非常に感慨深いものがあります。当社は、発電再開を単なる「再稼働」ではなく「再出発」と位置付けています。これは、「発電所をゼロから立ち上げた先人たちの姿に学び、地域との絆を強め、東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を反映し新たに生まれ変わる」という決意を込めたものです。また、東北の震災からの復興につながるとともに、電力の安定供給やカーボンニュートラル(CN)への貢献の観点からも大きな意義があると認識しています。

これまで、審査申請に係る事前協議了解や発電所視察などを通じ、真摯に議論、確認をいただいた宮城県、女川町、石巻市ならびにUPZ(5~30㎞圏内)の自治体の関係者の皆さまをはじめ、監督官庁など国の関係当局の皆さま、立地地域の皆さま、安全対策工事に尽力していただいた皆さまに対し、心から感謝を申し上げます。

志賀 再稼働に向けて、現場の士気をどう高めたのでしょうか。

樋口 私自身、現場に頻繁に足を運び「女川2号機の再稼働は、東日本大震災で被災した沸騰水型軽水炉(BWR)で初の再稼働であり、日本中、世界中から注目されている、歴史に残る一大プロジェクト。しっかり頑張ろう」と鼓舞してきました。9月3日の燃料装荷時には「ようやくここまで来ることができた」と、こみ上げてくるものがありました。地震・津波といった自然現象や重大事故に備えた多種多様な安全対策の強化により、震災前と比較して安全性は確実に向上しました。

今後とも、「安全対策に終わりはない」という確固たる信念の下、原子力発電所のさらなる安全性の向上に向けた取り組みを進めていきます。そして、引き続き安全確保を最優先に安定運転に努めるとともに、当社の取り組みを分かりやすく丁寧にお伝えし、地域の皆さまから信頼され地域に貢献する発電所を目指していきます。

【西部ガスホールディングス 加藤社長】経営合理性の追求とESG経営の徹底を両立 組織の価値観を変える

エネルギー業界が大きな転換点を迎える中、2024年4月に西部ガスホールディングス社長に就任した。

引き続きガスエネルギー事業を中核に据えつつ、ESG経営を徹底することで組織の価値観を変え、脱炭素社会で社員が誇りを持ち続けられる企業としての礎を築く。

【インタビュー:加藤卓二/西部ガスホールディングス社長】

かとう・たくじ 1985年西南学院大学法学部卒、西部ガス(現西部ガスホールディングス)入社。2010年エネルギー企画部部長、16年理事、18年執行役員、20年常務執行役員、21年取締役常務執行役員などを経て24年4月から現職。

志賀 社長就任を打診された際、即承諾したそうですね。

加藤 酒見俊夫会長(現相談役)からの打診に間髪入れず「頑張ります」と答えてしまい、その後に「私のような者で大丈夫でしょうか」と付け足すことになりました。道永幸典社長(現会長)からは、「漫画一コマの間もなく受けたね」とからかわれ、その後、北九州の取引先の間では即答することを「加藤の1秒」と言われていたようです。社長になればさらにいろいろなことにチャレンジできるのですから、私としては「よし来た」でしたね。

志賀 24年4月の就任からこれまでをどう振り返りますか。

加藤 正解が分からない中でのかじ取りだからこそワクワクする反面、経営資源を預かる職責の重みを感じています。同時に、当社グループで働く社員が「自信と誇り、プライドを持って業務に取り組むグループ経営」を実践したいという強い思いもあります。そのためには、経営層が大汗をかいて取り組んでいることを可能な限り感じてもらう必要がある。そこで、私の人となりを含め社長としての考えや方向性を正しく伝えようと、グループ報ウェブサイトに動画配信チャンネル「卓二の部屋」を開設しました。「形式百回は、ありのまま一回に如かず」という気持ちで、さまざまな動画を配信し、経営層とグループ社員の距離を縮めていきたいと考えています。今後は少し業務寄りの内容を増やそうと思案中です。


人的資本経営に注力 社員の誇りを高める

志賀 社長としての抱負は。

加藤 現在の事業環境は、前門の「ガス小売全面自由化」、後門の「脱炭素化」の様相です。そこにウクライナクライシス、電源調達価格の高騰、LNG産出国のトラブルなどが重なり、経験則の無力さを感じています。こうした状況下でも日々現場で働いているグループ社員、そしてその家族が、2050年においても西部ガスグループに勤めていて良かったと誇りを持てる礎を築くことが私の役割です。会社は株主のものですが、社員が幸せを感じながら生きるための源泉でなければなりません。

動画配信などを通じ、社員との距離を縮めている

ESG(環境・社会・ガバナンス)経営の徹底は、そのためのミッションの一つであり、「サステナビリティ経営」「資本コスト経営」「グループネットワーク経営」、そして「人的資本経営」にチャレンジしていきます。特に人的資本経営については、DX(デジタルトランスフォーメーション)化による労働環境の再整備・スマートワーク化やキャリア採用の拡大を進め、ダイバーシティと健康経営、女性活躍推進に取り組みます。文字通り、ワークフォースから西部ガスグループ社員ならではのヒューマンリソースへの転換です。これは、既存組織の価値観や既存制度の文化を変えることになり、一朝一夕に達成できるものではありません。しかし、このパラダイムシフトと脱炭素に向かう経営合理性の追求をパラレルに進めるという、現代ミッションとして挑んでいかなければなりません。何よりも、人材育成とPDCAの徹底、そして新規事業を創出できるマネジメント力を強化する必要があります。