培った技術・技能を次世代へ 業務効率化と人材育成の課題に挑む

2022年9月6日

【中国電力ネットワーク】

中国電力ネットワークは、設備の巡視点検を効率化するモービルマッピングシステムを導入した。

災害時に核となり配電設備の復旧に当たる部署も発足させ、技術継承と早期復旧に取り組む。

 人材の高齢化や労働人口の減少が進む中、限られた要員で効率的に業務を進め、スキルを伝承することは、送配電事業においても大きな課題になっている。

中国電力ネットワーク(NW)は、配電業務の効率化と技術・技能の継承につながる二つの取り組みを進めている。①電柱などの配電設備の画像を取得する「モービルマッピングシステム(MMS)」の導入と、②災害復旧の専門家集団「配電広域復旧課」の設置――だ。

MMSは、車両にステレオカメラやGPSなどの機器を搭載し、走行しながら設備などの画像を取得するシステムで、NTTグループが開発した。これを地上から15m程度の高さの電柱全体に対応できるようカスタマイズし、配電設備の巡視点検に活用する。

車両の前方と後方に3次元の画像データを取得できるステレオカメラを2台ずつ設置。さらに進行方向の左側を撮影する単眼カメラ2台、合計6台のカメラを搭載した車両を走らせ、道路左側の電柱や設備の画像を2mおきに撮影する。取得した画像と位置情報をPCに取り込んだ後、画像を確認することで、配電設備の正確な位置や現地の状況が把握できる。メンテナンスが必要な設備の判断を事務所で行えるというわけだ。

MMS導入で効率化に期待 AI活用でさらなる展開も

従来、配電設備の巡視点検は、技術者が現地に出向いて実施してきた。電柱全体や、電線、引き込み線、支線などを目視点検しながら、必要に応じて設備を計測することもある。MMSを活用することで、一日で100本程度の画像を事務所で計測できるとともに、そのエビデンスを画像として保存することも可能になった。例えば、たるみのありそうな電線の地上高など、計測が必要だと判断した設備の始点を画面上で触れると、鉛直方向真下の距離を瞬時に測れる。電線付近の樹木との距離や設備の奥行き、支線の角度なども画面上で簡単に計測が可能だ。

MMSの仕組み。画面上の計測値は実測とほぼ一致する精度の高さだ

配電部の上田明正部長は「設備は問題がなくて当たり前。問題のある数少ない設備を発見するために、歩いて電柱を確認していた。その労力を減らし、改修計画などに専念できるようにしたかった」と導入のきっかけを振り返る。

中国電力NWが管理する電柱は約170万本。8割近くは道路沿いに立っており、MMSで撮影が可能だ。昨年12月に導入し、22年度中に対象電柱の撮影完了を目指しており、今後は2年ごとに更新したいと考えている。

技術者が現場に出向く負担が減る一方で、後進へのノウハウの伝承機会が減るのでは? と聞いてみた。「現在検討中の重要な課題。経験の浅い社員には熟練技術者と一緒に画像の確認作業を行わせて、熟練技術者からノウハウを受け継ぐ機会としたい。短期間に多くの事例を見て、より早く覚えられるため、一定レベルまでの到達は早くなるだろう」。

不具合が発見された場合には、現地に出向く熟練技術者に同行して経験を積んでいく。

今後はAIが、錆による劣化や電線の地上高不足などを画像診断できるよう、さらに開発を進める。老朽化した電柱の立て替え時にも、必要な材料や立て替え位置を自動設計できる機能を追加するなど、さらなる効率化を目指す。

災害対応の専門部署 迅速復旧を目指す

近年、自然災害が激甚化し、災害時のレジリエンス強化の必要性が高まっている。中国電力NWは、社内の復旧体制を強化するため2022年2月、災害復旧の専門家集団「配電広域復旧課」を発足させた。

従来の災害復旧作業は、配電業務を行う社員が、月例訓練などの定期的な訓練を受け、有事の際には業務を調整しながら現場に向かっていた。同課の設置により、災害発生時の供給エリア内外への迅速な復旧応援体制が強化された。

四つの事業所に設置された同課には、計50人が所属。若手からベテラン社員まで幅広い層で構成され、配電社員の技術・技能教育の中心も担う。平時は各拠点を定期的に訪問し、復旧作業の教育・訓練を行い、スキルの向上を図る。自らの災害対応力向上のための自主的な訓練や、自衛隊や海上保安庁などの社外関係機関との連携強化に向けて、災害を想定した合同訓練などにも取り組む。

送配電会社4社で「西地域共同訓練」を実施した

「災害時に真っ先に駆け付ける配電広域復旧課は、常に高い使命感と責任感を持ち、災害時には現場の核となる。専門部署があると、ノウハウの蓄積にもつながる」と、上田部長は期待を寄せる。

業務効率化のために導入したMMSは、災害時にも活用が見込まれる。大規模災害時は、まずMMSで画像データを取得する。被害状況を把握して、被災エリア全体の復旧計画策定の迅速化に活用するなど、レジリエンス向上にも役立つと考えている。

中国電力NWは、引き続きMMSの活用や配電広域復旧課の取り組みで、効率化と技術・技能の継承による人材育成を進め、電力の安定供給に取り組んでいく。

「導入したMMSは活用性が広い」と話す上田部長