【コラム/5月10日】福島事故の真相探索 第5話

2024年5月10日

福島事故を経て分かったこと

ジルカロイ燃焼によって生じる発生水素量は非常に大きい。ペデスタルのような狭い空間では、それによる圧力上昇は想像を超える。このことについては第6話で述べるが、先述のPBF(Power Burst Facility)―PCM(Power Cooling Mismatch)実験に、その具体例が現れている。

実験を終えたPBFは、原子炉を停止して実験ループに水を入れた。 途端にループの内部の圧力が大きく上昇してループへの送水が一時止まり、燃料棒は粉々に壊れて、放射線高のアラーム信号がループから発信された。運転員は驚愕した。ループを冷やすために水を入れたら、燃料棒が溶けて、放射線が出てきた。信じられない、真逆の現象の出来だった。

このPBF―PCM実験は1975年ごろに行われた実験であったので、その当時の知識では,理由が分からなかった。だが、福島事故を経た今は分かる。

ループに冷水を入れたために、高温の燃料被覆管の酸化膜が破れて、爆発的なジルカロイ燃焼が発生したのが原因だ。激しい反応熱によって燃料棒は溶融し、ループに放射能が放散された。ポンプの送水が一時停止したのは、水素ガスの大量発生によってループ圧力が上昇したためだ。ジルカロイ・水反応は化学反応であるから反応時間は短いが、発熱は大きく激しい。高温の燃料棒に冷水を掛けたのが失敗原因で、爆発的なジルカロイ燃焼を招いたのだ。

以上、ジルカロイ・水反応の弱点がもたす事故時の被害については、ほぼお分かりいただけたであろう。

防止策は、高温の燃料棒に冷水を浴びせないことだ。燃料棒を徐冷して、被覆管温度を600℃以下に下げてから冷水を入れれば、酸化膜は破れても、ジルカロイの温度が低くなっているから水と反応しない。反応が起きなければ、炉心溶融は起きず、水素の発生もない。

ジルカロイの弱点は、被覆管温度をゆっくりと下げる徐冷を行った後に、冷水注入を行えば克服できる。これが、事故を防ぐ唯一の方法だ。しっかりと覚えてほしい。

さらに今一つ注意を。徐冷を行って、燃料被覆管が冷えたことを確認したら、時間をおかずに冷却水を入れて原子炉の冷却を確実にすることが必要だ。後ほど述べるが、福島第1の2、3号機は燃料棒の徐冷には成功したのだが、注水が遅れたために、崩壊熱で燃料棒温度が再上昇して、ジルカロイ燃焼が復活する状態に戻った。徐冷確認後の時間をおかぬ冷却、これを忘れてはいけない。

徐冷、確認、注水――。この三項一組の動作がジルカロイ燃焼の防止方法だ。

BWRの燃料集合体と燃料棒の概念図(資源エネルギー庁ウェブより)

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