【コラム/5月17日】福島事故の真相探索 第6話

2024年5月17日

床上での水中発熱は激しく高温であったから、ペデスタルの壁は崩れた。ジルカロイ・水反応がペデスタル床の水溜まりで起きることは拙著*で述べていたが、ペデスタル壁の損傷については、驚き以外になかった。壁全面に作られた空洞は、ジルカロイ燃焼の発熱が大きな損傷を及ぼすことを証明した刻印である。

再度言うが、ペデスタル床上の水溜まりに起きたジルカロイ燃焼が空洞をつくった原因である。原子炉圧力容器内部で起きた炉心溶融が起こした損傷ではない。

水素爆発を起こした1号機 (提供:東京電力ホールディングス)


常識が通用しない超高温の世界

ジルカロイ燃焼がもたらした熱の温度は、UO2燃料(融点2880℃)が溶融したことから判断して、3000℃に達していたと考えられる。3000℃の輻射熱がどのようなものか、想像すらできないが、ふと考えると、われわれは毎日、表面温度6000℃といわれる太陽の輻射熱の恩恵を受けて生活を営んでいる。輻射熱とはわれわれに取って馴染み深いエネルギーなのだ。

われわれの住む温度20℃(絶対温度300K)の低温の世界と、太陽の温度との差は、絶対温度で300Kと6000Kの違いがあり、20倍もの差がある。だがそれが、輻射熱の違いとなると、差はさらに増大する。ステファン・ボルツマンの法則によれば、輻射熱の大きさは絶対温度の4乗に比例するというから、20の4乗、16万倍の差となる。16万倍の違いは、大きすぎて理解できないから、何を言われてそうですかと信じる以外にない。

幸いなことに、われわれの住む地球は太陽から遠く離れているから、太陽の輻射熱は16万分の1に減少して届いてくれる。その減少した輻射熱の下で、われわれは日向ぼっこをしたり、野菜やお米を育てたりして生きている。時折見舞われる台風や大雨も、太陽の輻射熱が作りだす災害である。われわれは低温世界に住んでいるから、われわれの持つ常識は、300Kという低温世界で見聞きしたことを基に作られた常識である。例えば、水は流れるという常識は、16万倍も大きさが異なる太陽の世界では、水は蒸発して気化しているから通用しない。

UO2が溶融する3000℃の世界の常識も、われわれ低温世界に住む者の常識とは、当然異なっている。われわれの常識は3000℃の世界に対し、どの程度通用するであろうか。

われわれの住む温度20℃(絶対温度300K)世界と、UO2が溶ける3000℃の世界を比較するとは、温度で10倍、輻射熱で1万倍となる。1万倍の差、この差は数字の上では理解できても、感覚的に理解することは難しい。だが、お金の話に例えると、少しは理解できると言う。

僕のような貧乏人は1万円失えば大騒ぎだが、その1万倍の1億円となると、見たこともないので見当も付かない。仮に手に入ったとすれば、使い方も分からぬままに有頂天となり、手の舞い足の踏むところを知らずといった、呆然とした状態に陥るであろう。UO2が溶ける3000℃世界の事柄も同じで、われわれの常識で判断するのが間違いで、手足の舞う呆然の世界が常識となる。1万倍という差は我々の常識では計りえない。

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