巨大顕微鏡「ナノテラス」が稼働開始 先端科学技術で東北復興へ

2024年5月6日

【量子科学技術研究開発機構/光科学イノベーションセンター】

次世代放射光施設「ナノテラス」が4月、稼働を始めた。量子科学技術研究開発機構(量研)と、光科学イノベーションセンター(PhoSIC)が運用し、東北大学青葉山新キャンパス(仙台市)に設置されている。物質の機能や表面の反応などを10億分の1レベルで可視化できる「強力な光を使った巨大な顕微鏡」で、新材料やデバイス開発、生命機能、創薬の研究開発など、幅広い分野での活用が見込まれる。日本の研究開発加速化や国際競争力強化、そして東日本大震災からの復興への寄与が望まれる。

ナノテラス全景。4月に民間利用が始まった
提供:光科学イノベーションセンター

ナノテラスは、太陽光の10億倍以上の明るさの放射光を使い、高精細な分析能力と大量のデータを高速で測定する特徴を持つ。物質を原子レベルで解析する放射光施設は世界に50カ所、日本に9カ所あるが、ナノテラスは世界最高水準の性能を有する。例えば、これまで1日かけて分析していたものが数分で済む可能性があり、より効率的な研究につながる。

ナノテラスが特に能力を発揮するのが波長の長い軟X線領域で、物質表面の機能解析に優れる。大型放射光施設としては、兵庫県佐用町にある「SPring―8」も有名だが、こちらの強みは波長の短い硬X線領域。波長領域、さらに立地地域の面からも両者は補完関係にあり、相乗効果も期待される。


産官学で足掛け10年超 民間利用からスタート

施設整備に向け、当初は東北大学有志が活動してきたが、東日本大震災を機に民間の力を取り入れ、学術界だけでなく産業界にも資する施設とすべく、方針転換した。国に加えて地域や民間資金を活用する「官民地域パートナーシップ」に基づく日本初の大型研究施設となった。枠組みには、量研とPhoSIC、宮城県、仙台市、東北大学、そして東北経済連合会が参画している。

施設の利用には、①課題を申請し審査を経て利用可能となる「共用利用」、②加入金を拠出した民間メンバーが利用できる「コアリション利用」―がある。9日にはコアリション利用ユーザーの受け入れを始めた。コアリション用のビームラインを活用し、民間4社がそれぞれの目的に応じて実験を行った。共用利用については5月にビームラインの立ち上げを行い、ユーザーの受け入れ開始は来年3月を予定する。

ナノテラスの経済効果としては、稼働後10年で約1・9兆円との試算がある。産官学で十数年かけ遂に稼働したナノテラス。東北復興、そして日本の科学技術のさらなる発展を後押しする存在となりそうだ。