【特集2】既存技術の利点を集めた製造装置 再エネの出力変動への追従が可能

2025年3月3日

【三國機械工業】

三國機械工業(東京都墨田区)は、工場やプラントで使用するための産業機械を販売するエンジニアリング商社。現在、同社が水素製造向けに扱うのがAEM(アニオン交換膜)方式水電解装置だ。独Enapter社が2017年に販売を開始したもので、日本では新技術として紹介されているが、すでに世界52カ国、約5000台の導入実績がある。三田逸郎プラント営業部長はその特徴について「AEM水電解方式はアルカリ水電解方式とPEM(固体高分子膜)水電解方式の利点を兼ね備えている。アルカリ水電解方式の弱点である生成水素の純度や再生可能エネルギーの負荷変動に対応する応答性、負荷・間欠運転の制限を克服しながら、PEM水電解方式のようにプラチナやイリジウムといった希少金属触媒を使用しない」と説明する。

希少金属なしで低コスト化 弱点克服する技術を採用

同装置は、99・999%の高純度の水素を3・5MPaGの高圧で生成する。電極反応はアルカリ水電解方式と同じだが、アルカリ水電解では水酸化カリウム(KOH)を約30%含有した水溶液を使うため腐食性が高い。これに対し、AEM水電解方式は約1%の薄い水溶液を利用するため、そうした心配が少ない。また、PEM水電解方式と同じ膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)構造で、高速応答性や広い運転範囲、間欠運転を許容するなどの特性を持ち、再生エネの出力変動にも追従する。

PEM水電解方式の製造プロセスはProton(H)をキャリアとするため酸性環境となり、電極触媒やガス拡散層に希少金属を使う必要がある。これに対してAEM水電解方式は水酸化イオン(OH)をキャリアとした弱アルカリ環境のため貴金属を使う必要がなく、低コストで装置ができる。また陰極から排出される水量が少なく、水の回収プロセスが不要なためシステムを簡素化できる。

Enapter社の装置はAEMスタックを必要な製造規模に合わせて拡張する仕組みを採用している。このため、スタック単体の能力は小さく、2・4kWの電力で毎時0・5N㎥の水素が生成できる。同社ではスタックを一つ載せたシングルコアと複数搭載したマルチコアの二つのモジュールを用意しており、使用環境の規模に応じた装置を構成することが可能。MWクラスで毎時210N㎥以上の大規模水素生成も実現できる。

さらに、一つのスタックに不具合が生じても稼働を継続できるのも大きな強みだ。導入する工場の製造ラインを止める必要がなく、修理・交換は必要な箇所のみ実施して対応可能だ。

カーボンニュートラル実現に向けては、水素製造においても再エネの利用は避けて通れない。しかもコスト低減が求められる。そうした状況に既存技術の良いとこ取りのAEM水電解方式は、今後国内で大きな関心を集めていきそうだ。

MWクラス装置「AEM Nexus 1000」