【東京ガス 笹山取締役代表執行役社長CEO】企業価値向上に向け資本効率を高め成長投資を促進する

2025年3月1日

脱炭素の流れ見極める S+3Eの原則は不変

井関 洋上風力事業では、三菱商事が落札した3海域の事業の再評価を行う方針を発表しました。脱炭素のためのコスト上昇に加え、米トランプ政権の発足がこれまでの脱炭素の流れを変える可能性があります。

笹山 洋上風力に限らず、脱炭素の大きな方向性は変わらないと考えています。ただ、そのスピード感については、安定供給とのバランスを重視した、現実的なトランジション(移行)を重視する流れに変わりつつあります。それは、近年の欧州の動向やわが国における第7次エネルギー基本計画を見ても明らかです。トランプ氏の発言力によってエネルギー政策がこれまでの路線から大きく外れることはないにしても、S+3E(安全性、供給安定性、経済効率性、環境適合性)の原則を堅持しながら進めていくことが重要です。昨年4月に策定したカーボンニュートラル(CN)ロードマップもそうですが、これは当社がこれまで一貫して主張してきたことでもあります。

井関 エネルギーの安定供給の手段として、LNGが再評価されています。

笹山 再エネも重要ですが、間欠性の電源であるため、安定供給を担保するためにはLNGの活用は欠かせません。調整力としても機能しますし、化石燃料の中でCO2排出量が少なく、トランジションの手段として有効です。29年度から順次運転を開始する千葉袖ヶ袖パワーのLNG火力発電所(65万kW級×3軸)は水素対応が可能なプラントを導入することで、将来の脱炭素化も見据えています。

また、最近、欧州の一部では、LNGは脱炭素化に至るまでの「トランジションエネルギー」ではなく、再生可能エネルギーと併用し低炭素化を目指す「ディスティネーションエネルギー」だと位置付けられています。CNが達成された世界においても、LNGは重要な役割を果たせると認識されようとしていると言っていいでしょう。


長契の重要性変わらず 変動に合わせ柔軟に

井関 エネ基では、どのシナリオをたどるかによって将来のLNGの需要が大きく変わることが示されました。ボラティリティが高い中でどのような調達戦略を描きますか。

笹山 安定的な調達のためには、長期契約の重要性は変わりません。ただし、需要の変動で調整が必要な部分については、より短期の契約を組み合わせるなどの柔軟な対応が求められます。 また、市場取引を活用することで需給調整するといった選択肢もあります。調達戦略にはさまざまなオプションがあり、こうした手法を適切に組み合わせながら対応していきます。

井関 不確実性が高い中で、脱炭素に資するインフラ投資を進めなければなりません。

笹山 これは日本だけではなく、東南アジア含めたアジア全体の問題です。現在、石炭を多く消費する国でも、これから国民1人当たりのGDP(国内総生産)が上がるに従って、環境対策が進むことが見込まれます。また、消費する燃料を自国で賄える産ガス国も、枯渇化が進むにつれ、LNGを導入しなければならない局面を迎えます。当社は、火力燃料の転換を支援するLNGtoパワーのプロジェクトをアジア地域で複数手掛けており、こうした取り組みを通じて、アジアの低・脱炭素化に貢献できると考えています。

井関 国の洋上風力公募の第3ラウンドでは、丸紅や関西電力などとともに「山形県遊佐町沖」の事業者として選定されました。浮体式の開発にも力を入れてきましたが、事業化の見通しはいかがでしょうか。

製造した浮体式基礎モックアップ

笹山 浮体式は日本において高いポテンシャルを持ち、成長が期待される分野です。ただし、事業として成立することが前提であり、無理に導入しても持続可能ではありません。そのため、国内での本格導入はまだまだ先のことになるでしょう。一方、海外においては、ポルトガルの浮体式洋上風力発電所「ウインドフロート・アトランティック」を運営するウインドプラス社に出資することでオーシャン・ウインズ社と合意したほか、洋上風力向けの浮体基礎システムを開発・保有するプリンシプル・パワー社(PPI)に20億円超を出資しています。PPIの技術は、欧州でも数少ないバンカブル(融資適格性)な技術と言われています。

バンカブルであることは、電源開発を後押しする重要な要素の一つです。当面は欧州などを中心に事業が成立しやすい地域で展開し、日本への導入を模索していくことになります。国内では、グリーンイノベーション(GI)基金の第一段として、日本の造船所を含めた浮体式のモックアップ製造を進め検証を行っているところです。来るべきビジネスチャンスに備え、着実に準備を進めていきます。

井関 第7次エネ基に関し、エネルギー業界からは評価する声が出ています。

笹山 従来にも増して「S+3E」の重要性が根幹に据えられ、安定供給を含めた重要性が明記された点は評価できると考えています。

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