【東京ガス 笹山取締役代表執行役社長CEO】企業価値向上に向け資本効率を高め成長投資を促進する

2025年3月1日

e―メタンの社会実装へ 25年度中のFID検討

井関 都市ガス業界として、30年度にe―メタン(合成メタン)1%導入を目標にしています。取り組みは順調ですか。

笹山 目標の実現に向け、25年度中のFID(最終投資決定)を検討しています。米国でのキャメロンLNG基地を活用するプロジェクトは、土地選定など順調に進ちょくしています。ただ、FIDに当たっては、依然として経済性の担保という課題が残っています。値差支援などの国の支援を見定めながら、最終的に投資決定するかどうか見定める必要があります。

井関 トランプ米大統領の政策は、日本のエネルギービジネスにどう影響するでしょうか。

笹山 現時点で直ちに軌道修正するようなことは考えていません。ただ、ガス事業は為替の影響で調達コストが大きく左右されます。トランプ政権は基本的に円高が望ましいとしていますが、現行の政策が続く場合、インフレの影響で円安に振れる可能性もあり、注視していかなければなりません。また、パリ協定離脱のタイミングもまだ分かりません。こうした政策による影響を見極めながら対応していきます。

井関 これからの東京ガスの姿をどのように考えていますか。

笹山 エネルギーを事業の基軸とする姿勢は今後も変わりません。当社は経営理念として「人によりそい、社会をささえ、未来をつむぐエネルギーになる」―を掲げています。この「未来をつむぐエネルギー」とは、将来の変化を見据えたビジネスモデルを組み込み、ソリューションとともに新たなエネルギー供給やサービスを提供する企業であり続けることを意味します。

また、名称は東京ガスですが、現在はエリアの枠を超え、日本全国、海外でも事業を展開しています。今後も、国内外で事業を拡大し、より広いエリアでエネルギーを支える存在となることを目指していきたいですね。

事業分野についても、ガスにこだわることなく再エネや水素、e―メタンなどといった多様なエネルギーを扱い、電力分野でもさまざまなビジネスの幅を広げてきました。次年度は水素製造のための重要な部品である、

高効率で大容量のセルを製造する取り組みをSCREEN社と進めており、今年の秋に量産開始する予定です。欧州や豪州、日本など、水素製造を考えている国から引き合いが来ており、その中の複数のプロジェクトへ供給できるようにしたいと思っています。

これらを単なる商材と見なすのではなく、最適なソリューションと組み合わせることで、お客さまにとって価値のあるサービスを提供していきます。

井関 ありがとうございました。


対談を終えて

社長就任から2年。脱炭素化が最優先課題だったエネ政策・ビジネスに揺り戻しが起きている。安定・安全・安価への原点回帰だ。「LNGはトランジションではなくディスティネーションか」。笹山氏の言葉が重く響く。イグニチャー戦略が実行段階を迎え、利用者目線でのソリューション展開が経営の柱に。そんな中、重要課題に浮上した「企業価値向上」。「S+3E」対応から株主対策まで。26年度からの新中期経営計画の行方に関心が集まる。(聞き手・井関晶)

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