【コラム/4月25日】トランプ相互関税を考える~試される企業の適応力、国民・政府は慌てずに
3、トランプ相互関税の経済的背景
米国経済は、24年堅調に推移(GDP前年比実質2.8%、名目5.3%)した。年ベース消費者物価指数前年比23年4.1%、24年2.9%と低下し、現在2.8%(2025年2月)程度と沈静の気配を見せている。失業率は4%前後にある。経常収支は2023年名目GDP比3.3%の赤字である。貿易収支は、2024年財・サービス△9178億ドル(前年比17%増)、内訳は財△1兆2129億万ドル(前年比14%増)、サービス2951億万ドル(前年比6%増)だった。経済堅調とドル高もあり、財の輸入は増加傾向にある。財の貿易赤字額は名目GDP(29.1兆円)比4.1%に達している。日本も含めて通常の国なら、このような経常収支赤字を継続することは困難である。縮小均衡調整で収支改善をせざるをえない。この継続は、基軸通貨国の特権であるが、貿易赤字額の大きさは問題である。
この赤字に加え、米国の財政状況も気に掛る。米国の財政赤字は、23年名目GDP比7.1%、一般政府債務残高118.7%である。コロナ対策、ウクライナ戦争の影響も大きい。そして気になることもある。the St. Louis Fedの注意喚起例がある。2024年「連邦債務(36兆ドル)GDP120%超え」。この水準は歴史的に見て高い。2次大戦後でもGDP比113%で、20年前は60%(FRB St. Louis)と綴る。連邦債の保有者(海外所有比率8兆ドル)を見ても財政問題の深刻さを伺える。政府効率化省による歳出カットは功を奏するだろうか。
中国との覇権争い、為替を巡る長年の確執、極端な貿易不均衡等を考えれば、相互関税は、米国の外交的・軍事的・政治的な対抗策という面もある(4月9日現在対中関税145%発動)。他に経済的シナリオも強く感じ取れる。高関税は、輸入製品価格上昇、国内製造の価格競争力向上、国内設備投資増、雇用増、経済拡大で財政収支改善を狙っているとも推測できる。ただ貿易で比較優位原則が消えたとも思えない。現実は、製造業の復権に至らず、輸入物価上昇による経済停滞と財政赤字継続が危ぶまれる。
米国経済の健全化(内外均衡)を誘導する方策は、何か。現経済状況を見れば、縮小均衡の道が一般的であろう。貿易赤字解消や財政赤字縮小に必要なことは、関税でなく歳入増・歳出縮小、投資超過状態改善、消費減、輸入減という道筋である。
4、日本経済への影響 縮小均衡調整
今回のトランプ関税は、ショック到来である。輸出関連企業は、お先真っ暗状態・暗中模索となる。企業は、現地価格への転嫁やコスト切り下げによる輸出価格下げ等の努力を余儀なくされる。経済は、輸出減とコスト負担で、当然企業収益悪化・投資調整となる。その影響は、米国向け輸出21.3兆円(24年)に加えて、夫々の地域の米国向け輸出動向・経済状況で日本からの各地域向け輸出(アジア56兆円、カナダ1.7兆円、メキシコ1.8兆円西欧11.9兆円等)に及ぶ。米国向けが関税効果等で輸出が減ずるとすれば、当面1%前後の経済低下が見込まれる。他地域を加えれば、1~2%程度の経済低下はやむを得ない。輸出減、企業収益悪化に伴う投資減等の調整は1~2年継続せざるを得ない。その後、経済回復は、輸出競争力再強化等に向けた企業の合理化、事業転換等の努力次第となる。
また経済低下で資源・エネルギー等の輸入減となるが、それ以上に輸出減が大きいことも考えられるので、貿易・経常収支問題に波及する可能性もある。その対応も考えていく必要がある。